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No.26908の一覧
[0] 【習作】スイートピーの花束を【短編オリジナル】[渦滝](2011/04/02 22:00)
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[26908] 【習作】スイートピーの花束を【短編オリジナル】
Name: 渦滝◆63ed046b ID:d96876b8
Date: 2011/04/02 22:00
前書き。

もれなく皆様はじめまして、渦滝と申します。
SSの投稿という行為そのものから初めてになりますので
色々と至らない点があるかと思いますが、ご了承ください。

また、見て読んで頂けただけでも十分有難く思いますが
感想や叱咤激励等もらえますと尚いっそう喜びますので
よろしくお願いいたします。
では長く語ってもアレですので、以下本文となります。

4/2 22時追記
余りにもタイトルが微妙だと思ったので変えました。
何だか乙女チックになりましたがこれで行こうと思います。
-----------------------------------------------------


いつものように僕らは買い物へ出かけている。
同棲をしてかれこれ三年の僕らにとっては日常の風景で、当たり障りない会話を広げながら
のんびりと馴染みのスーパーへ向かっていた。

「今日は何にする?」
つないだ手を軽く引いて、僕を振り向かせると彼女はそう尋ねた。
「何でもいいけど、出来れば肉かな?」
「お肉ねぇ……安売りしてたらね」
彼女はそう答えたけれど、よっぽど安く無いと買ってはくれない。
だからきっと今日も簡単な鍋になるだろう。
ツミレが入ってればそれでいいか、何て考えながら角を曲がった。

話は変わるけれど、普通男女が歩くときは紳士のたしなみとして
女性を歩道側に歩かせるものだという。
その心得は当然僕にもあったし、昔は……付き合った当初はそうしていた。

だからそう何も考えていなかった、配慮していなかった僕が悪い。
何もかも僕が悪いんだ。

カーブミラーも無く、住宅を囲むブロックベイにより視界の悪いT字路。
前から危ないとは思っていた……子供達にとって。
それは例外なく僕らも当てはまるはずなのに。

音はしていた。しかし反響した音はどこから響く物なのか僕たちの判断を鈍らせ。
何の考えも無く、飛び出す形になった僕たちを……いや、彼女を。
2tを超える鉄の塊に飲み込ませる事となった。



気づけば、49日が過ぎ何もかもが終わっていた。
あの日からの記憶はほとんど無い。
かろうじて全て終わってるというのが分かってるだけで
今何処にいるのかすら分かっていない。

ただ真っ暗な部屋にいた。
徐々に暗闇に目がなれ、自分の部屋だという事だけがかろうじて分かった。
彼女と同棲していたあの部屋じゃない、実家の僕の部屋だ。
カーテンを開いてみると真っ暗だった。
携帯で時間を確認しようと思ったけれど、どこにあるかわからず
電気をつけようとして、携帯が手元にあることに気づいた。
充電器がさしっ放しのそれを開くと、やはりアレから一月と半分以上たっていて
時間はAM3時をすぎた辺りを表示していた。

手探りでドアを開けて、一階へ降りていく。
特に何も考えは無かった。
だいぶ遅い時間なのかリビングからは人の気配が感じられない。
誰かと顔を合わせたい気分でもなかったのでちょうど良かった。
なんとなしに冷蔵庫をあけ、適当に中にあったそのまま食べれる物を食べて
お茶を飲むと一息ついた、瞬間ものすごい吐き気を感じて
トイレへ駆け込み今食べたばかりのものをそのまま流す事になった。

不快感に悩まされ、その場から動きたくなかったが二階から
ドアが開く音が聞こえてきた。
おそらく物音に気づいて父か母か、あるいは両方か降りてきたのだろう
今顔を合わせたくなかった、けれど逃げ場は無い。
とっさに僕は外へ駆け出した。

父のであろうサンダルをつっかけ何処へ行くか当てのないまま適当に走り出す。
夜の空気は冷たく、気持ちよかった。
あのまま家でじっとしてるよりはましだろう。
けれど気分の悪さが全てなくなったわけではなく、とりあえず近くの公園のベンチに腰を下ろした。

先ほど戻したせいか、やたらと喉が渇く。
ポケットを探ってみると一万円札が一枚入っているのが見つかった。
なんで持っているのか、思い出そうとして止めた。

自販機で万札は使えないので、仕方なく近所のコンビニで買うことにした。
店に入ると、店員はやる気なさげに「らっしゃせー」と言い
チラリと僕の方を見てさっと顔をそらした。

不思議に思ってコンビニの窓をチラリと見ると
うっすらと浮浪者の姿が浮かびあがっていた。
ヒゲも髪も伸び放題な上に、髪は変な癖がついていてところどころがはねている。
体からも余り良い臭いはしてないのかもしれない。

いまさら自分がどんな風に見られようがいいや、という気持ちはあったけれど
さすがに誰かに迷惑を掛けるのは好ましくなかったのでさっさと適当なスポーツドリンクを
手にとって会計を済ませると店を出た。

公園に戻り一息つく。
「これからどうしよう……」
誰に言うでもなく呟いてみた。
案の定誰からも答えはなく、一口スポーツドリンクを口に含む。

何もしていない間に段々と夜が明けていった。
アレが七月半ばだったからまだ八月の下旬ぐらいだろう。
朝は早い、時間で言えば五時過ぎぐらいか。
確認しようと思ってポケットを探ると携帯は出てこない、
そういえば自分の部屋においてきたままだった。

何となく気持ち的には落ち着いてきた。
家に帰ろうか、そう思って立ち上がったのに僕は全然別の方向へ歩き出していた。

向かって、着いたのは駅だ。
僕が離れている間にリフォームされたのか、全体的に綺麗になって
エレベーターも付け足されている。

駅に入ると何も考えず500円玉をいれて、一番高い値段のキップをかった。
といっても300円とちょっとぐらいだけれど。

出来るだけ一目を避けれるよう出発を待っている電車の最後尾にのった。
その甲斐もなく始発の電車は進むにつれ満員になり、乗客には不快な思いをさせてしまっただろう。
朝から申し訳ないとは思うが、仕方ない。

そうして終着点、そこからは歩く事にした。
最中に、朝早くからあいていた花屋で花束を買った。
店主と思しき人はとても愛想良く対応してくれた。
異臭を花が消してくれたのかもしれない。
一時間ほど歩いた頃漸く見慣れた景色が見えてきた。


一ヶ月と半月ほどでは何も変わらず、けれど焦らずに慎重に歩いていく。
自分のメンタルがどこまで持ってくれるかがわからない。

正直既にドキドキしている。
遠めに見えるボロボロの元は白かったであろうけれど今は黄ばんだり、黒ずんだりしてしまってるアパート。
僕はそれに一瞬目を取られかけたが、意識まで奪われそうになりすぐに目をそらした。
これから多分もっと嫌な者を見る事になりそうなんだ、今倒れるわけにはいかない。

本当は自分が何処に向かおうとしているか何て駅についた時点で分かっていて淀みなく足は動き、辿り着いた場所は少しだけ変わっていた。
無かったはずのカーブミラーが設置されていて、怒りと悲しみと悔しさとがない交ぜになったどうしようもない感情が浮かび、それを思いっきり蹴りつけた。

金属の反響音がする中、しゃがんで蹴りつけた足の痛みに耐えて。
そして僕はゆっくりと背けていた顔を上げて"その場所"を見た。
何の変哲もない場所だった。枯れた花束が一つ添えられているだけのブロック塀。
だけど僕にとってそれは耐え難い現実を直視することになって
やはり止めておくべきだったかな、と思った。

だって立ち上がろうと思ったのに膝どころか全身から力が抜けて
何かにすがろうと思っても滲みぼやけた視界はそれすら許してくれないまま
地面に両手を下ろす羽目になったのだから。

何とか僕は脚に出来る限り力を入れゆっくりとその場に腰を下ろしてうずくまろうとした。
けれど顔を膝に埋めようとしたとき、ガサッと手元で紙のなる音がしてそれは防がれた。

あぁ、そうだ僕はこれを……。

目元をぬぐい、傍にあった電柱を支えに何とか立つと壁伝いに移動して
こけそうになりながら反対側の、枯れた花束が落ちている向かいへ行った。

壁に手を掛けながらゆっくりと又しゃがむと枯れた花束をそっと持ち上げ
僕の持っていたのと交換した。
顔を上げる。前には何の変哲もない壁しか映っちゃいない。

「何を、言えばいいんだろうね?
僕はそもそも何をしにここに来たんだろう?
分かってたはずなのに、君はもうここにいないんだって。
何もかも終わったんだって。
どうせ意味のない行動をするならもっと別の何かがあるはずなのに。
ねぇ、僕はどうするべきなんだろう?教えてほしい。
僕はいつも自分で決める事が出来なくて、君に怒られてばかりだった。
今もそうだ、君は今怒ってる?それとも変わらないって笑ってる?」
……………
「ごめん……ごめんな……何も、何もできなくて……」
先ほど堪えたモノが溢れ出たのか気づくと涙が出て、止まらなくなった。
「君……を……守れ……なくて助ける……事も……。
君が……った後も……きっと、僕は……さよ……ならすら……。
ずっと……ずっとこんな……時間が……経つまで……これ……なくて……ごめん」

そうして僕は何もない壁に、誰もいない場所へ言葉を伝えた。

枯れた花束を持ち立ち上がる、足元はまだ少しおぼつかなかったけれど
そろそろ出勤時間になって人も増えそうだいつまでもこうしてはいられない。

ゆっくりと歩き始めた。
歩いて、歩いて、自然と僕は今度こそ何の自覚もなく
いつもの帰り道を辿ってしまっていた。
見えるのはぼろいアパート。さび付いて今にも抜けそうな階段。
カンカンと音を鳴らして登っていく。

二階に四つあるうちの上って一番右奥の部屋が僕らの家だった。
強い風が吹いて、手元の枯れた花束から花びらを奪い、
力の抜けた手から花束すらも奪っていった。
それを目で見送って再び歩き出した。

いつもそう、夕方に僕は部活を終え一人で帰ってきて、
彼女が夕飯を作って待っていてくれる。
あの日はたまたま休みで、珍しく一緒に買い物へ出たんだったっけ。
そんな事を思い出しながら僕は、僕らの玄関の前に立った。
今はもう誰もいない部屋を見て僕は耐えられるんだろうか?
一瞬そんな事が思い浮かんで躊躇したけれど、僕はドアノブを……まわした。
彼女が「お帰り」そういって迎えてくれるあの日を思い出しながら。

きしんだ音を立ててドアは開いた。
僕たちのことが連絡されず、あの時開けっ放しで出かけてしまっていたままなのか。
「え……?」
何故か、入ってすぐのキッチンには火に掛けられた鍋がある。
誰かが勝手に住み着いてる?
いや、でもどこか……見覚えのある……彼女が好きな熊があしらわれたあの鍋……
余計な、いや余計ではない大事な想いが思い出されそうになり、僕はゆっくり
ドアを閉めようとした。その瞬間だった。

「あれ?おかえり」

ビクンッと体が震えた。
そんなまさか……?
閉めようとしたドアをまた軋ませながら開けていくとそこには
「どうしたの?何かあった?」
彼女の、姿があった。

無我夢中で僕は彼女を強く強く抱きしめた。
二度と離れないよう、離さないよう強く。

「きゃっ!?ちょ、ちょっと本当にどうしたの?」

彼女は戸惑っているようだがそんなの関係ない。
沢山の違和感を感じながらも僕は彼女が生きていた、その事だけ考え
もう一度ぬくもりを感じられた事がただただ嬉しくて言葉にできず黙って抱きしめていた。

「もぅ、お鍋ふいちゃうから。ね?とりあえずカバン下ろそうよ、上着も脱いでさ」

カバン?上着?何を言って……。
気づくと、僕の肩にはずっしりとした重さを持つカバンが背負われていた。
ゆっくり彼女から離れる。
服もシャツにジーパンだけだったはずなのに
出かけるときいつも羽織っている薄手のパーカーを上に着ていた。
これは……?

「ふぅ……とりあえず、話はご飯できてからでいい?すぐ用意できるから、ね?」
「う、うん。ごめん」
「いいよ」
何が起こっているのか、理解する時間が欲しかった。
パーカーをハンガーにかけ、カバンを部屋の隅に降ろして
いつも通り、僕は小さなちゃぶ台の定位置に座る。
うつぶせに、ちゃぶ台へ突っ伏して目を閉じた。
考えよう、今どうなってる?
軽く頬をつねってみる、痛い。夢じゃない。
懐を探ると携帯が見つかった、今日の日付は……
「七月……八日?」
この日は確か……
明日が土曜日で……僕の部活も久しぶりに休みで……だから買い物を一緒に……。
時間が……時間が戻っ―――
「ごめん、鍋置けないからちょっと起き上がってくれる?」
「あ、あぁごめん」
どんっと重たそうな音を立てて鍋が置かれ僕の思考は中断された。
といっても二人分なのでたいした量じゃない。
僕は二人分食べるので実質三人分だけれど。
食器などが運ばれてきて、彼女も座った。
「で、どうしたの?話は食べながらでいい?それとも終わってからにしようか?」
相変わらず僕には勿体無いくらい良く出来た彼女で
僕が悩まないよう選択肢をあらかじめ全部出してくれる。
「いや、その、大したことじゃないから食べながらでいいよ」
「本当に?そういっていつも自分の中で解決したり溜め込んだりしちゃうんだから。
いつもいってるけど、何かあるならちゃんと話してよ?」
「うん、ありがとう」
「うん……」
僕がそういって笑みを向けると、とりあえずといったように納得してくれた。
「で?」
しまった、言い訳を考えてなかった。
「あー……部活でちょっと上手くいかなくて……その、凹んでた」
しどろもどろに答えると彼女はあきれたような目で僕を見て
「……だからさ」
怒りそうだったので必死で訂正を入れる。
「ほ、本当なんだ!何かこうスランプなのかな?やる事なすこと全部失敗で……」
僕が怪しさ満点に必死に言い訳したかいがあったのか、徐々に優しい目に戻っていった。
「そう……それにしてはちょっと大げさだった気がするけど、本当に
凹んで辛かった、それだけなんだよね?」
僕の顔を覗き込んで確認してくる。
「うん」
「そっか……ならいいけど。そういう日もあるよ。ありきたりな言葉で悪いけどさ。
さっきのですっきりした?もう大丈夫?」
「うん、ごめん。心配かけて」
「いいけどさ、本気で心配したんだから。うそだったら怒るよ?」
「分かってるよ」
軽く微笑んでそう答えた。
僕だってもしこの彼女が、今の状況が嘘だったら怒る。
いや感謝するのか?どうなんだろう?わからない……。

ただ夢でも虚構でもなんでもいい、この時間が長く続いてくれれば。

結局その日は何事もなく"いつも通り"の夜だった。
布団の中で考える。

僕は時間を戻った。これは夢でもなんでもない、現実に起こったことだ。
どうやってなんて何でもいい、神様の気まぐれが起こったそれでいい。
問題は理由だ、何のために戻った?簡単だ単純だ当たり前だ。
彼女を、助けるため。

僕は運命というものは決まっていて過去は変えられないのだと思っている。
それは昔読んだ小説や見た映画の影響もあるのだろうけれど
自分でもいろいろと考えた結果そう思っていた。

けれど今は違う、こんな非科学的なことが起こったんだ。
運命は変えられるのかもしれない。あるいは今僕は別の世界にいるのかもしれない。
可能性を考えればきりがないか……。

今はやるべきことを考えよう。でもそれはシンプルだ。
明日の予定はとっくに決まっている。
だから多分彼女は当たり前のように僕を早く起こし
出かける準備をして、家を出て、そしてあの事故現場を通る。

だから僕は事故を避ければいいだけ、簡単な事だ。
とても簡単で分かりきった事なのに緊張して結局僕はほとんど眠れなかった。


そして朝、僕が覚えている通りの行動を彼女はとって僕たちはでかけることになった。
ここまではやっぱり完璧だ。僕は本当に過去に戻ってきた。

「今日はなんにする?」
彼女は僕の手を引いて意識を向けさせるとそういった
「な、何でもいいけどお肉があるといいかな?」
確か僕はそういったはずだ。
「お肉ねぇ……安売りしてたらね」
そう、そうだ彼女はこう返してきた。
そしてT字路に差し掛かる。カーブミラーはない。

音はしていた、よくよく聞けば僕たちの進行方向から来るとわかっていたのに。
一度でも彼女の死ぬ未来を許してしまった自分を責めたい気持ちになったけれど
今はそんな場合じゃない。

「車、来てるよ」
「え?前?」
瞬間、何を焦っているのかギリギリの狭さの中トラックが走り抜けていく。
僕はそれを見て安心して、

でもそれは間違いだった。

やはり狭い場所でスピードを出しすぎていたのか、角で曲がろうとしたトラックは
甲高いスリップ音とともに通り過ぎる直前目の前で横転した。

咄嗟に彼女を庇った瞬間、頭に衝撃を感じ僕は意識を失った。


気づけば、僕はベッドに寝ていた。
白い天井。
横を見ると、驚いた顔をした母がいた。
そして話を聞いた。

あれからもう二ヶ月近くがたっていて
僕はトラックから外れ飛んできたタイヤが頭に掠め、その衝撃で昏睡状態になっていたらしい
ただ直撃を間逃れたおかげで生き残った。
そして僕の頭を掠めたタイヤはそのまま飛んでいき、奥にあった電柱をたたき折った。
おれた反動で電柱はスウィングし、そのまま僕の反対側にいた彼女を……。

母は彼女の結末までを語りにくそうにしたけれど強引に聞いた結果がこうだ。
いづらそうにした母は、購買で飲み物を買ってくるといって病室をでていった。
今しかない。僕は飛び起きた……けれどフラついて上手く歩けない。
仕方なくベッドに座りなおし手や足をよくもむ。
部活をしていたおかげかすぐに感覚は直ってきて歩けるようになった。
けれど母が戻ってきてしまった。
しかしトイレに行きたいだけだ、と言い訳したら少し心配されたものの
一人で行かせてくれた。

母には悪いがもちろん僕はトイレに行く気なんて全くない。
僕の予想通り、ここは僕の家から徒歩でいけるほどの近さの大病院だった。
だからする事は前と変わらない。
何がトリガーだったのかはわからないので出来るだけ前回と同じ行動を取った。
違いといえば前回は匂いなどで避けられてたが、今回は病人服なので異様な目で見られたぐらいで、花屋でも前回と同じく愛想良く対応してもらえた。

そして再びあのT字路へ。
やはり枯れた花束が添えられていた。
僕はそれを新しい今買ったものと取り替える。
そして何もない、誰もいない場所へ向け話しかける。
「どうして駄目だったんだろう?やっぱり無理なのかな……?」
しばらくどうするべきか悩み壁を見つめる。
「そういえば……昔君から借りた本に書いてあったな……。
あれは、確か……例えば過去に戻ってヒトラーを殺しても
結局別の国が同じ事をする……だったか。
なら少し違うけど、もしかしたらいけるかもしれない」

さて……これだけ考えてもし戻れなかったらどうしよう。
と少し不安になったものの問題はなかった。
僕たちの家の扉を開けると、キッチンには火に掛けられた鍋。
そして……
「あれ?お帰り」
彼女の、声。

今回僕は落ち着いて行動した。
ぎこちなかったかもしれないけれど笑顔で彼女に対応できた。
ただ、抱きしめさせては貰った。

もう再度……そう誓いながら。

夜、僕は彼女とたっぷり会話した。
「今日はいつもより良くしゃべるね」彼女が眠たげにそう言うほど。

翌朝、僕たちは出かけた。
自分でも驚くほど心臓がバクバクいっていて手汗が止まらなかったから手は繋がなかった。
彼女はそれをあっさり受け入れてくれた。

道中、必死で言うべき言葉を捜したけれど、まとまらないうちにT字路が見えてきた。
僕たちは並んで歩く、止まらずに。
やがて差し掛かった見通しの聞かない曲がり角。
「なぁ」
あぁ、そういえば君がくれた本に書いてあったな
「何?」
花言葉の本。
「僕の好きな花って知ってたっけ?」
何だか格好付けすぎる気はするけど
「ううん、聞いたこと無いよ」
偶には、いいよな。
「そっか。スイートピーって花」
「何か似合わないね、でも―――」
彼女が何か言おうとしたのを遮って僕は言う
「添えてくれな。約束だよ」
そういって彼女の袖を後ろに引くとそのまま僕たちは前と後ろに別れていく。
目前に迫ったトラック。
それを無視して振り返ると、彼女が僕を見ていた。
その表情が、何故か微笑んでるように見えた。



視界がぶれる、あぁ死ぬ時ってこうなるんだ。
のんびり乱れる視界を見ていたら段々と僕が見えてきた。
トラックに轢かれ掛けてる僕。
自分を第三者の視点で見る現象……なんていうんだっけ?
にしても走馬灯じゃなくて自分の死に姿を見せられるなんて、残酷だな。
……あれ?
段々と視界が戻ってきた……
あれ?なんでだよ?
おかしいだろ?
何で……
何で―――僕と彼女の位置が変わってるんだよ!?

鈍い音がした。

気づくと、僕は地面にしりもちを着いていた。
何で?どうして……?
わけが分からず立ち上がろうとした時、僕のポケットから何かが零れ落ちた。
拾い上げると綺麗に折りたたまれた小さなメモ用紙が一枚。
そして開くと、綺麗な文字でこう書かれていた。
「ごめんなさい、ありがとう。
スイートピー、添えてね」

あ……彼女も……彼女も繰り返し……て……?
「あ、あぁぁぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
その場にうずくまり、赤子のように吐くほどに泣いて、僕は意識が遠のくのを感じた。
あぁ、また僕は忘れようとしているのか……。

気がつくと僕は白い天井を見つめていた。
全身に広がる喪失感と苦い感情、けれど流れない涙。
あらゆる気力が湧き上がらなかった。
ただ、生きる意味も目標も何もかも失った今僕は生きなければならなくなって
目を瞑ると、まぶたの裏に微笑む彼女の姿が見えた。



その日のうちに僕は退院して、彼女の葬式と通夜に参加した。

全てが終わり、49日が立つ前に
僕はまだ真新しいカーブミラーのあるT字路へ来ていた。
枯れた花束と、僕の持ってきた花束―――スイートピーの花束を交換するために。

帰り道、工事の音のするほうに脚を向けると
僕たちの住んでいたアパートが取り壊されている所だった。
元々数ヵ月後には取り壊される予定だったけれど、僕たちが出て行ったので
予定が早められたらしい。

一輪だけ不恰好だから抜いたスイートピーを
アパートの影の草むらにそっと添えて僕は立ち去る。
ドクダミが咲き乱れる中に置かれたそれはとても綺麗だった……。


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