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No.26842の一覧
[0] 【完結】Die Geschichte von Seelen der Wolken[デバイス物語 A’s編][イル=ド=ガリア](2011/11/03 00:37)
[1] 閑話その3 実験後の記録[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:10)
[2] 閑話その4 舞台裏の装置二つ[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:11)
[3] 閑話その5 デバイスは管理局と共に在り[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:12)
[4] 閑話その6 嘱託魔導師[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:12)
[5] 序章 前編 それは、小さな願い[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:32)
[6] 序章 後編 闇至り、時満ちる[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:33)
[7] 第一話 始まりは突然にして必然[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:36)
[8] 第二話 魔導師と騎士の戦い[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:36)
[9] 第三話 戦いの嵐、再び[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:37)
[10] 第四話 集団戦[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:38)
[11] 第五話 奇襲、策略、対抗策[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:38)
[12] 第六話 母が遺したもの[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:39)
[13] 第七話 本局の一コマ[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:41)
[14] 第八話 老提督の覚悟[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:42)
[15] 第九話 それぞれの想い[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:42)
[16] 第十話 使い魔と守護獣[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:43)
[17] 第十一話 風の参謀VSアースラ捜査陣[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:44)
[18] 第十二話 地味な戦い[イル=ド=ガリア](2011/03/31 14:55)
[19] 第十三話 それ行け、スーパー銭湯[イル=ド=ガリア](2011/03/31 15:00)
[20] 第十四話 銭湯と戦闘[イル=ド=ガリア](2011/04/01 22:36)
[21] 第十五話 遭遇戦 ~二度目の戦い~[イル=ド=ガリア](2011/04/03 19:13)
[22] 第十六話 主と鍋のために[イル=ド=ガリア](2011/04/09 12:01)
[23] 第十七話 仮面の男出番なし[イル=ド=ガリア](2011/04/06 11:43)
[24] 第十八話 Song To You[イル=ド=ガリア](2011/04/09 12:10)
[25] 第十九話 反省会と特殊訓練[イル=ド=ガリア](2011/04/13 16:11)
[26] 第二十話 今は遠き、夜天の光[イル=ド=ガリア](2011/04/24 17:33)
[27] 第二十一話 最強の騎士[イル=ド=ガリア](2011/05/05 11:43)
[28] 第二十二話 少女達の夢[イル=ド=ガリア](2011/05/08 16:53)
[29] 第二十三話 事件は会議室で起きているんじゃ―――[イル=ド=ガリア](2011/05/09 07:21)
[30] 第二十四話 包囲戦 ~三度目の戦い~[イル=ド=ガリア](2011/05/14 07:47)
[31] 第二十五話 交わらぬ想い[イル=ド=ガリア](2011/05/14 07:46)
[32] 第二十六話 恐怖の再来[イル=ド=ガリア](2011/05/15 18:16)
[33] 第二十七話 老獪なる管制機[イル=ド=ガリア](2011/05/19 13:01)
[34] 第二十八話 夜天の歴史、欲望の影[イル=ド=ガリア](2011/05/22 20:41)
[35] 第二十九話 動き始めた管制機[イル=ド=ガリア](2011/06/12 14:22)
[36] 第三十話 苛酷なる真実[イル=ド=ガリア](2011/06/30 20:49)
[37] 第三十一話 アンタやりたい放題やな(はやて談)[イル=ド=ガリア](2011/06/30 20:53)
[38] 第三十二話 邪悪が滅びる時[イル=ド=ガリア](2011/06/30 20:56)
[39] 第三十三話 疑惑と真実[イル=ド=ガリア](2011/06/26 18:14)
[40] 第三十四話 古い機械[イル=ド=ガリア](2011/06/26 18:14)
[41] 第三十五話 古代ベルカの武人[イル=ド=ガリア](2011/06/30 21:01)
[42] 第三十六話 協力の裏側[イル=ド=ガリア](2011/07/01 15:21)
[43] 第三十七話 紫色の物語[イル=ド=ガリア](2011/07/06 03:33)
[44] 第三十八話 デバイスとは何か 知性とは何か[イル=ド=ガリア](2011/07/08 12:49)
[45] 第三十九話 闇の書出荷ライン[イル=ド=ガリア](2011/07/11 13:49)
[46] 第四十話 二度目の集い ~電脳会議~[イル=ド=ガリア](2011/07/15 22:31)
[47] 第四十一話 クリスマス作戦[イル=ド=ガリア](2011/08/19 01:04)
[48] 第四十二話 作戦開始[イル=ド=ガリア](2011/08/20 15:23)
[76] 幕間  ガレアの断章[イル=ド=ガリア](2011/08/21 10:07)
[80] 幕間  永き夜を超えて ~イクスの章~[イル=ド=ガリア](2011/08/22 02:54)
[81] 第四十三話 魔法の言葉は[イル=ド=ガリア](2011/08/25 22:18)
[82] 第四十四話 因縁 ~闇の書の闇~[イル=ド=ガリア](2011/08/27 10:25)
[83] 第四十五話 母の贈り物[イル=ド=ガリア](2011/08/29 17:33)
[84] 第四十六話 最終局面[イル=ド=ガリア](2011/08/31 13:21)
[85] 第四十七話 揺籃の夢[イル=ド=ガリア](2011/09/03 07:33)
[86] 第四十八話 夜の終わり、旅の終わり――になって欲しくない[イル=ド=ガリア](2012/01/13 17:32)
[87] 第四十九話 夜の終わり、旅の終わり[イル=ド=ガリア](2011/09/07 18:22)
[88] 第五十話 広域次元●●犯 八神一家[イル=ド=ガリア](2011/09/08 21:03)
[89] 第五十一話 明日への翼、過去の機械[イル=ド=ガリア](2011/09/10 12:54)
[90] 最終話  巣立ちの日[イル=ド=ガリア](2011/09/12 20:59)
[91] 鏡合わせの物語  ~彼にとっての最善~[イル=ド=ガリア](2011/09/14 20:02)
[92] エピローグ  100 years later[イル=ド=ガリア](2012/01/13 17:41)
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[26842] 第三十六話 協力の裏側
Name: イル=ド=ガリア◆9d8bc644 ID:97ddd526 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/01 15:21
第三十六話   協力の裏側






新歴65年 12月15日 第97管理外世界 日本 海鳴市  封鎖結界外部 AM11:20


 「解除」

 クイントと対峙する仮面の男、リーゼアリアは既に役立たずとなった強装結界を解除し、残る力を目前のシューティングアーツの使い手へと集中する。

 ゼストに負わされた傷は軽いものではなく、おそらく肋骨が折れている。近接格闘型のロッテがこの傷を受けていれば、既に勝敗は決まっていただろう。


 「ふっ!」

 とはいえ、仮にアリアが万全であったとしても彼女はそう簡単に打倒できる敵ではない。

 そもそも、敵と正面から戦うのはロッテの領分であり、ロッテという強力な前衛がいてこそ後衛のアリアは最大の力を発揮する。彼女の特性はなのはのそれに似ており、距離があれば無類の強さを発揮するが、懐に潜り込まれると弱点をさらけ出す。


 「遅いわよ!」

 繰り出されるリボルバーナックルをぎりぎりで躱すアリアだが、クイントが言うようにその動きは鈍い。ゼストの攻撃で受けた傷が大きく響いている。加えて、フェイトのような高速機動の空戦魔導師とは戦闘経験があっても、ウィングロードを高速で疾走してくる相手とは戦った経験がない。

 これが対等な条件からの模擬戦であれば、アリアはクイントより強いであろうが、今は実戦の場。傷を負わされる方が悪いのであり、悪辣な管制機の策に嵌ってしまったことへの高い代償であった。


 「嘗めるな」

 だからといって、何も対処できずに敗れ去るようでは戦技教導隊のアシスタントなど務まらない。アシスタントとはいっても、彼女を上回る魔法戦の名手など、戦技教導隊にも数人しかいないだろう。

 僅かの応戦でウィングロードの弱点、術者は決められた進路しか取りえないという点を看破し、ほぼノータイムで放たれたチェーンバインドがクイントの腕を、さらにリングバインドが足を捕縛し、彼女を空中に縫い付ける。バインドはアリアの得意とするところであり、反射に近い速度で発動させたのは流石といえる。

 口にすれば容易いが、秒単位で変化する戦況に応じて縦横無尽どころか高さも含めた三次元的に張り巡らされるウィングロードを先読みし、そこをバインドで捕らえることの難易度は非常に高く、まさしくSランクに届く技能が必要とされる妙技。

 「嘗めてるのは、そっちよ!」


 「なっ!」

 しかし、相手が悪すぎた。クイント・ナカジマの戦法は両手のリボルバーナックルと両足のローラーブーツが起点となっており、その二つをバインドで抑えればと、初見の相手は思い込む。

 その判断を嘲笑うよう、全身の力を腕へと収束させたクイントの拳はチェーンバインドを破壊し、自由を取り戻した腕は両足のリングバインドを瞬時に粉砕、再度の疾走を開始する。


 『音に聞こえし“アンチェイン・ナックル(繋がれぬ拳)”。なるほど、あれは厄介だ、彼女を捕えるならば手足ではなく、胴体を捕縛すべきであったということ』

 それこそが、古代ベルカの武術にミッドチルダ式の汎用性を組み合わせた独自の戦技、シューティングアーツのクイント・ナカジマ。

 魔導師ランクこそ陸戦AAだが、限定された戦場ならばSランクの空戦魔導師すら凌駕する女丈夫であり、彼女のシューティングアーツは近代ベルカ式の利点を体現した技術であった。

 魔導師ランクだけならばAAAランクのなのはやフェイトの方が上だが、魔導師ランクは純粋な戦闘能力ではなく、魔力や技術に応じた“遂行可能な任務”やその他諸々の基準によって決定される。つまり、魔導師の強さを表す指標とはなってもそれは絶対的なものではない。

 盾の守護獣ザフィーラやアルフもまた、管理局の基準ならばAAランク相当だが、それはデバイスを必要とする任務がこなせないからであり、ユーノ・スクライアのAランクも同等の理由による。

 そして、クイント・ナカジマのデバイスは両手足全てアームドデバイスであり、純粋に殴ることと走るしかできはしない。情報の蓄積や送受信などの機能がほとんどない点ではゼストのベイオウルフ以下であり、捜査官としての仕事の際には管理局支給の汎用デバイスを用いている、それ故に彼女はAAランク。


 『そして、もう一人はさらに上をいく』

 トールが視線を向けた先では、既に勝敗は定まりつつあった。


 「はああっ!」

 「ぐっ!」

 ゼストの一撃は速く、重く、特別なものは何一つとしてないが、その全てが一撃必殺。

 対するロッテも近接格闘が最も得意とするところではあるが、彼女の技能の幅は広く、広域の封鎖結界を張ることも可能としていた。

 無論、それらを上手く組み合わせることで戦機を作り出すことは不可能ではないが、肝心の決め技の面でロッテではゼストに敵わない。つまるところ、相性が悪すぎるのだ。


 <これが地上の”英雄”か、強い、ダメだ勝てない!>

 パワー、スピード、技術、戦闘経験、それら全てがロッテを上回っているのがゼスト・グランガイツ。彼に近接による戦闘を挑んだ時点でロッテの敗北は時間の問題だった。奇策も地の利も無く、同じ土俵で格上に真っ向からぶつかり勝てる道理は無い。

 唯一の糸口はアリアと合流し2対1の持ち込むことだが、その肝腎のアリアはクイント相手に防戦一方、墜とされないようにするのが精一杯な現状では夢想の域の話となっている。


 『烈火の将シグナムや鉄槌の騎士ヴィータであっても、近接での戦技では彼には及びますまい。高町なのはのようなタイプならば勝機もありますが、下手をすれば一撃で墜とされる』

 現に、一撃でやられ続けたなのはである。


 『ならば、勝機を見いだせるのは盾の守護獣であるやもしれませんね。防御を固め、彼の一撃を拳で逸らし続ける持久戦に持ち込めば、あるいは』

 とはいえそれも、接近戦での持久力でゼストを上回ることが絶対条件。

 それを満たせしうる唯一の存在は、盾の守護獣ザフィーラであったが、それですら勝利が可能かもしれないという程度、一対一でゼスト・グランガイツを破るというのはそれほどの難業であった。


 『さて、頃合いですね』

 既にゼストはロッテを完全に追い詰め、クイントもアリアを仕留めにかかった状況に入っている。

 そして、状況の推移を見定めた管制機は次のシーケンスへと移る。

 ゼストとクイントの役割はあくまで“生命の魔導書”を受け渡しにあり、リーゼ姉妹を倒さねばならないわけではない。要は、二人を諦めさせればそれでよいのだ。

 故に―――


 『仮面の男達よ、ここは退かれるがよろしかろう。我々は追いはいたしません。何より、ここで貴女達が目的を達成すれば、貴女達の主は管理局に比類なき汚名を残すこととなりましょう』

 その言葉に、仮面の男達は行動を封じられ、心得ているかのように、ゼストとクイントも行動を停止した。


 「なんだと?」


 『答えは、ミッドチルダ首都防衛隊の彼らがここにいることですよ。どうやら貴女達は勘違いをなさっているようですが、“生命の魔導書”はテスタロッサ家の所有物ではなく、地上本部が運用する公共物。今回は作り手である縁によって臨床使用の優先順位に割り込ませていただいただけで、“生命の魔導書”はあくまで地上本部に属している物です』


 「―――!」

 だからこそ、ゼスト・グランガイツとクイント・ナカジマがこの第97管理外世界で戦うことが出来る。

 “生命の魔導書”を犯罪者から守ることに関してならば、二人は管理外世界での戦闘を許可されているのだ。

 無論、事前の根回しと手続きは必須となるが、それこそ時の庭園の管制機の最も得意とするところ。

 レジアス、クロノ、リンディ、レティは当然として、他ならぬギル・グレアムの権限を利用して地上本部の二人を第97管理外世界へと招きよせた。

 守護騎士への対処として封鎖を実行している現状だからこそ、“アースラへの協力”という名目一つで地上本部の魔導師が戦うことが可能となる。その相手が彼の使い魔であるロッテとアリアであったことはまさしく皮肉でしかなかったが。

 つまり、ギル・グレアムが“闇の書事件”に関する情報を外に漏らさぬよう張った社会的措置が、完全に逆手に取られたのである。


 『お分かりでしょう、海の提督の使い魔が、地上本部の陸士を襲撃し、“生命の魔導書”を奪った。この事実が知れ渡れば、海と陸の致命的な対立へと発展する。ギル・グレアムは、まさしく時空管理局の歴史に名を残すことでしょう、組織間に致命的な亀裂を生じさせた史上最悪の愚か者として』

 そして最早、自身が全てを把握していることすらトールは隠さない。それ以前に、事情を全てゼストとクイントに話しているのだから当然だが。


 『故にここは退かれるがよろしい。地上本部のお二方も全てを知った上で協力してくださっておりますから、ご心配には及びません。なお、口封じは考えるだけ無駄というものです、私に知られた時点で口を封じるには、時の庭園の全ての機械とそこから情報が伝わりうる全てのデバイスを破壊しなくてはなりません』

 こうして、二人は詰まされた。

 彼女らが次元犯罪者であれば違ったであろうが、管理局員として闇の書を封じるつもりであるがゆえに、トールの網からは逃れられない。

 組織というものを利用し、相手を行動不能に追い込むことは彼の基本的な手法であり、立場的な束縛が強い人間ほどよくかかる。

 それ故に、ジェイル・スカリエッティという広域次元犯罪者は厄介極まりないのだが。


 『細かい話は後ほど時の庭園にて、もしこの提案が受け入れられないのであれば、リーゼロッテが時の庭園に入る度に中隊長機が追いかけまわすように設定いたします。危害は加えませ「受けよう」んのでご安心を』

 即答だった、シークタイム0秒。

 まさしく反射行動のみが成せる領域で、仮面の男は応じていた。


 「………こちらも、異存はない」

 諦めの境地でアリアも了承する。というか、ここで拒否すればこの場で“サゾドマ虫”が降臨しそうな雰囲気であり、強装結界はゼストによって破られている。

 この状況で“サゾドマ虫”が降臨すれば、今度こそロッテが再起不能になるかもしれず、アリアとしても選択の余地はなかった。







新歴65年 12月15日 第97管理外世界 日本 海鳴市  AM11:30


 『改めて、協力に感謝いたします。ゼスト・グランガイツ一尉、クイント・ナカジマ准尉』


 「礼には及ばん、俺はレジアスの依頼に答えただけだ」


 「隊長、そこは普通は命令って言うと思いますけど。それにしてもさっきの交渉、海と陸の対立に発展しかねない超極秘事項でのやり取りだったはずなのに、最後のカードが虫ってのはどうなのかしら?」


 『ただの虫ではありません、管理世界で認識されるうち最も醜悪で有名な“サゾドマ虫”です。それに、事前に仕込んだトラウマがあればこそのものですよ』

 ゼストとクイントは時の庭園において“生命の魔導書”を受け渡す予定だったが、そこで驚愕の話を聞かされ、こうして悪巧みに協力することとなった。

 ちなみに、トールが二人に状況を説明した際には通信回線を開いてレジアスも参加しており、この作戦が地上本部の意思に基づくものであることを確認した上での実行だった。

 さらに、トールが持っていたそれは“生命の魔導書”ではなくダミー、本物はゼストがそのまま持っており、彼はクイント共にハラオウン家とは別のトランスポーターから海鳴へと降り立った。アレックスやランディが仕事している場所もそうだが、時の庭園から海鳴へ降りるルートは複数存在しているのである。


 『ええ、構いません。これらの件でギル・グレアム提督に対して“貸し”を作り、同時にリンディ・ハラオウンやレティ・ロウランとも繋がりを持つことが、レジアス・ゲイズ中将の協力への対価であれば』


 「うわ、黒」


 「政治とはそういうものだろう、俺には真似できん」

 その辺りに関して、ゼストはレジアスを信頼している。

 半年程前までは黒い噂も聞いており、戦闘機人などの違法研究に関わっているのではないかなどとすら囁かれていたが、それは杞憂に終わった。


 デバイス・ソルジャー計画


 地上本部にほとんど死蔵状態となっている低ランク魔導師のリンカーコアを核にした魔法人形によって、戦力というよりむしろ労働力の確保を目的とする。

 “臓器”扱いであるリンカーコアを利用するという点で多少の問題も考えられるが、それらは全て過去の管理局員から提供されたものであり、保存期間が長引けば徐々に痛んでしまうことも事実。その前に“彼ら”を管理局のためにもう一度働かせてやりたいというレジアスの意思は、地上本部の幹部と共有するものであった。

 ゼストも既にその計画についてはレジアスから直接聞いており、先に逝った”彼ら”の遺志を果たさせようとする親友の計画に、一も二も無く賛意を示した。それゆえに生命工学を推進している研究グループとの折衝役も兼ねて“時の庭園”が外部から協力していることも知っていた。彼がなのはとフェイトの模擬戦を引き受けたのは、その面での恩返し的な要素もあったかもしれない。


 「そう、ですね、それは確かに」

 そして、別の方面からではあるが、クイント・ナカジマもまた“時の庭園”と関わりがあった。

 生命工学の権威達が、法律方面の権威達と組んで、ある活動を推し進めようとしている。

 “汎人類活動”

 生命操作技術によって生まれた命、通常とは異なる過程を経て誕生した子らを法によって保護し、通常の人間と同じ権利と義務を与えようとする運動であり、最初の提案者は“プレシア・テスタロッサ”とされている。

 その凡例として高ランク魔導師の定義があり、人権的には当然普通の人間と変わるところのない彼らだが、リンカーコア治療の面から見れば最早“別生物”と呼べる側面もあり、その治療にはかなりの額も必要となる。

 現在提案されているのは、そういった治療面で特殊な施設などが必要となる魔導師を“ホモ・マギウス(仮称)”と定義し、法の下での権利と義務では“ホモ・サピエンス”と等しつつ、医療面では補助金などの助成を行うこと。

 同様に、人工臓器やペースメーカーなどの人工物の補助が必要であり、治療に多額の経費がかかるケースなどを“ホモ・エレクトロニクス(仮称)”、遺伝子障害による奇形などでは“ホモ・クロニクス(仮称)”と定義、一般的な法の下では“ホモ・サピエンス”と等しくし、経済的な支援を行い、同時に社会的な差別を禁じる。

 病気の患者に対する社会的な偏見というものは先進国家が抱える問題の一つであり、幾度となく討論されてきた議題。そこに、クローンや戦闘機人といった問題を関わらせ、あえて言うならば“誤魔化して”しまおうという試みであった。

 この定義では、戦闘機人は義手や人工臓器を装着した人々と同様の“ホモ・エレクトロニクス(仮称)”、人造魔導師は遺伝疾患などの人々と同様の“ホモ・クロニクス(仮称)”とされる。医療的な見解から何か不具合が生じるかもしれないという点で、そちらに分類する方が妥当であると、クラスター分析されつつある。

 『政治以外でも、色々な要素はございます。人気取りのために恵まれぬ子供達への援助を行う財界の要人は数多くおりますが、こちらとて相応に利用されていただいております』


 「例の提案は、“時の庭園”から始まったものと聞いたけど、つまり貴方が仕掛け人ってことか」


 『然り、我が主は忙しい方でしたので、私とアスガルドがこちらの手続き、根回しを進めて参りました。実現にはこれから8年はかかりましょうが、そう遠いことでもないでしょう』

 フェイト・テスタロッサが普通に生きられるために必要な社会的処置。

 事情はどうあれ、彼女がクローン体である事実は揺るがず、社会的な偏見、迫害にあう可能性は低くない。

 ならば、そのような偏見、迫害を禁じる法を制定する。並びにそれを助長する社会的土壌を育むことが対応策として挙げられる。

 そう結論したが故に、フェイトが生まれてから半年が経つ頃には管制機トールとアスガルドは“表だって”準備を開始したのである。

 この問題に関しては、社会的に注目されねば意味がない。


 「ええ、そうなれば……」

 クイント・ナカジマも、その会員。

 一管理局員に過ぎない彼女に出来ることは少ないが、知人友人に働きかけて署名を募る程度は出来る。草の根運動のようなものだが、とりあえず地上部隊には徐々に関心が高まってもいる。

 レジアスが進めるデバイス・ソルジャー計画の倫理的な面を考える上で、そちらの主張がおおいに参考になるからである。


 「ヒトと機械の境界線を明確に意識させることで、迫害・偏見を拡散させる。お前の狙いはそこか」


 『然り、レジアス・ゲイズ中将はその面で最初期の協力者ですね。時の庭園はフェイトのために人造魔導師や戦闘機人を“ヒト”として定義させる必要があり、彼にとってはデバイス・ソルジャーが“機械”である方が都合が良い。その面において、闇の書の守護騎士、ヴォルケンリッターにも期待しているのですよ』

 “汎人類宣言”に則れば、ヴォルケンリッターはストレージデバイス“闇の書”に帰属する人間であるため、“ホモ・エレクトロニクス(仮称)”に分類される。

 実例があり、その境界線が明確になるほど、デバイス・ソルジャーを機械として問題なく運用することが可能となる。人間の臓器が搭載されているという問題を、別の側面から解決しようという試みであった。


 「裏には色々黒そうだけど、それを必要としている子達はたくさんいるわ」


 『ええ、別に黒くとも、皆が協力し合えるのであれば、何も問題はありません。今回の件も、裏事情を知らない子供達から見れば、大人達が八神はやてを助けるために協力してくれているように見える。重要なのはそれだけです』

 利用しあう関係であろうと、協力は協力。

 そこにどんな思惑があろうとも、八神はやてを救うために地上本部の人々が協力してくれたという事実は揺るがない。

 そしてそれは、より大きなうねりとして社会へと浸透していく。


 『まあ、唯一計算違いがあったとすれば、メガーヌ・アルピーノ准尉が来られなかったことですね。双子の片割れには蟲に対するトラウマを植え付けておきましたから、彼女が相手になれば戦わずに勝利できるはずだったのですが』


 「今は休職中だ、先月出産したばかりでな」


 「女の子よ、名前はルーテシア。うちの子達とはちょっと離れてるけど、友達になってくれると嬉しいわね」


 『ご息女は、御元気ですか』


 「ええ、ギンガもスバルもね。上は7歳で下は5歳になるわ」

 クイント・ナカジマが、“汎人類宣言”に関わるきっかけとなった子供達。

 地道な活動ではあっても、子供達が将来を決める頃には、差別が偏見がないよう、ナカジマ夫妻は頑張り続ける。


 『なるほど、子持ちの方に負担を強いてしまいましたね、申し訳ありません。とはいえ、メガーヌ・アルピーノ准尉が出産後という以上、詮無いことかもしれませんが』

 多忙な首都防衛隊から短期間とはいえ管理外世界に出張できる人数は、二人が限界。戦力的にゼストが必須とするなら、クイントかメガーヌだが、別にどちらでも大差はない。メガーヌもAAランクではあったが、それは召喚士のランク付けが難しいのが理由であり、クイントと同じく戦場を限定すればSランクを打倒しうる。

 今回はメガーヌの出産時期と重なったためクイントとなったが、どっちでも問題はなかったのだ。


 「それでトール、例のおいしいシュークリームを売ってる喫茶店ってどっちかしら?」


 「待て、お前はここへ何しに来た、ナカジマ」

 真面目な話から一転。


 「護送、兼、観光です。娘達が日本土産をかなり楽しみにしてるんですよ」


 「まあ構わんが、ほどほどにしておけ」

 実際、いきなり管理外世界までの出張が決まったようなものなので、無理をさせている自覚はあるゼスト。彼が独身を貫くのは家族がいる者達に対して代わりになれるためであった。

 7歳と5歳の娘がいる彼女を出張の後も働かせるつもりはなく、護送の任が終われば数日くらいはのんびりさせてやりたいとは思っていた。当然、彼はそのまま次の仕事に向かうが。


 『それでは、まずは任務を果たすと致しましょう。それからクイント・ナカジマ准尉、シュークリームが評判の店の名前は翠屋と申します。代金についてはこちらで負担いたしますのでどうぞ遠慮なく』


 「ほんと、いいの?」


 「………止めた方がよいと思うが」

 クイント・ナカジマが保有する鋼鉄の胃袋、そしてその血を引く二人の娘がそれを余すことなく受け継いだ事実を知るため、一応は助言するゼスト。


 『いえ、全くもって問題はありません。なにせ翠屋は高町なのはの実家ですから』


 「高町の実家か」


 「この前隊長と模擬選してボコボコにされたって子よね、貴方が仕えてるテスタロッサちゃんの親友の」


 『然り、年齢は共に9歳。貴女の上の娘からは2年年長、下の娘からは4年年長、ということになりますね』


 「まだまだちっちゃいのに隊長に挑むなんて、ものすごい子達だわ」


 「その上、何度気絶しても治療してすぐに立ち向かってきたな、あれほどの負けず嫌いはなかなかいないぞ」


 『諦めの悪さに関してならば、大人顔負けであることは保証いたします。もっとも、もう少し肩の力を抜くべきというか、落ち着くべきとは考えますが』


 「子育ての悩みは、尽きることなし、ってね」


 『左様でございますね、近いうちに、母親たちを集めた大井戸端会議でも開催いたしましょう。管理局には労働組合らしきものはありませんから、やがてはそれに近い組織に成長するやもしれません』


 「あ、それいいかも」

 これが後の、“時空管理局井戸端婦人会デバイスネットワーク”の始まりである。

 地上本部から徐々に広がり、初代会長は管理局で皆が働く古代ベルカの大家族にあって、皆を支える女性が務めたとかなんとか。


 『それともう一つ、貴女のローラーブーツは自作のものでしょうか』


 「これ? ええそうよ、リボルバーナックルは発注品だけど、こっちはちょっと特殊だし」


 『ですが、先程の戦闘において不具合が見受けられました。簡単に言えば、デバイスが悲鳴をあげております』

 機械を管制するトールは、当然ながら機械の不具合を見抜くことに長けている。

 人間を知るには膨大なデータが必要になるが、機械が相手ならば遠目であっても十分理解できる。


 「それは分かってるんだけどね~、実際故障も多いし、全力疾走やったら半々くらいの確率で壊れちゃうけど、これをしっかりしたデバイスにしようとしたら、かなり予算かかるし」


 『地上部隊では、そこまで経費で落とす余裕はない、ということですか』


 「俺達首都防衛隊はこれでも優遇されている方だ。一般の地上部隊はさらに悪い条件で頑張ってくれている、贅沢を言うわけにはいかん」


 『なるほど、ではではならば、こういう手はいかがでございましょう』

 そして明かされる、悪だくみ。

 早い話、今回の“闇の書事件”の対策用に確保されている予備費の中から余った分を地上本部に回し、局員のデバイス費に充ててしまおうという計画である。一応の名目は、協力してくれた地上本部の経費だとかそんな感じで。


 「………違法ではないのか?」


 『ギル・グレアム提督の承認があれば問題ありません。それに、こういったものは基本使ってしまった者勝ちですから、クイント・ナカジマのデバイスを取りあえず作ってしまえば、後はなし崩し的にどうとでもなります』


 「レジアスめ、最初からそのつもりでナカジマを連れて行けと言ったな」

 親友の言葉の裏の意味を理解したゼスト。犯罪というわけではないが、“あの野郎”といった感じの気分にはなってしまう。

 ちなみにそれは、クロノがトールに対して感じているものとほぼ同じであったそうな。


 『そういうこともあるでしょうが、そうでないこともあるでしょう』


 「つまり、防衛長官と貴方が全部仕組んだ、本局の予算を奪っちゃいましょう大作戦?」


 『いえ、違います。純粋な善意に基づく八神はやてという少女を救おうという崇高な試みであり、その協力に対する本局からの謝礼があるだけのこと、まあ、ギル・グレアム提督の承認がなければ絵に描いた餅ですが』


 「レジアスが絵に描いた餅で満足する男ではない、いざとなれば餅を作らせる、そういう奴だぞ」


 『その時は、テスタロッサ家で餅を作るしかありませんが、やはり最善は本局からの融資でしょう。頑張って予算を無駄遣いしなければ、その分だけ来年度の予算が削られるのが役所というものですから、どうしても余った予算は使ってしまいます』


 「その余った分だけでも地上に回してもらえれば、ってね」


 『然り、つまりはそういうことです。事件の規模などを総合的に考えれば予算と人員が十分とはいえないのは本局も同様ですが、地上に比べ節約の心がけが足りないのは事実ですから、その辺りも溝が出来る一因なのやもしれません』

 そして当然、その余った予備費のいくらかは高官達の懐か、その知人達の下へ流れる。

 規模が違うだけで、人間の組織である以上は地上部隊でも行われていることだが、汚職高官の一人がいなくなるだけで懸命に働く局員が100人救われる。

 つまり、小物を潰しても得られる額は小さいが、大物を潰せば得られる額は大きい。機械が効率的に考えるならば、どちらを狙うかは考えるまでもない。

 その点について“考えさせている”のはレジアス・ゲイズであり、見返りに“ブリュンヒルト”の発射権限やその他の協力などを行う。

 レジアス・ゲイズと時の庭園は古くから協力関係にあり、その辺りは阿吽の呼吸であった。


 『地上本部にとっては消えてもらいたい本局高官の汚職に関する証拠は揃っていますが、問題はレジアス・ゲイズ中将からでは海と陸の対立になりかねないこと。かといって、これらの情報を得るための経緯を踏まえれば、そう簡単に本局の人間に協力を仰ぐわけにもいかない』


 「だからこそ、ギル・グレアム提督か。彼が公明正大な人物であることは陸にも伝わっている」


 『然り、ならばこそ彼の言葉には重みがある。リンディ・ハラオウン艦長やレティ・ロウラン提督のみでは同盟者として少々弱い、ことは対等でなければなりません』


 「いやー、ものすっごいヤバい会話ね、これ。いいの? 一介の捜査官が聞いちゃって」


 『貴方方なればこそ、伝えております。信頼に値する人格者であると共に、同盟者たる理由がある。もっとも、それぞれで異なりはしますが』

 ゼスト・グランガイツは、レジアス・ゲイズが目指す理想を共有するが故に。

 クイント・ナカジマは、戦闘機人として娘達のために。

 多少黒い部分はあるが、彼らの悪だくみを拒否する理由もなければ、告発する理由もない。


 『貴女の夫にも、伝えていただければ幸いです』


 「伝えちゃっていいことなのかしら?」


 『夫婦たるもの、秘密は少ないに越したことはありません。当然、プライベート的なものは別としますが、この件に関しては問題ありません、何しろ焦点は貴女達の娘に関する事柄です』


 「りょーかい、要は夫婦そろって貴方に利用されろ、ってことね」


 『然り、貴女のご息女がフェイトの良き友となってくだされば、なおありがたく存じます』

 互いに利用し合う関係であっても、それが人間性を排除した冷たいものである必要もまた、ない。

 そも、機械から見れば人間関係は全て互いに利用し合う関係である。


 「じゃあ、その手始めにおいしいシュークリームを献上しなさい」


 『了解いたしました』


 「ほどほどにな」

 ここは管理外世界、彼らが地上本部に所属することを知る人間はおらず、だからこそ歩きながら自然に話せる。

 これより会談する古代ベルカの騎士達が、地上本部との繋がりを強く持つようになるのはこの時の邂逅を起因とするかどうかは断言しきれないが、要素ではあったろう。


 『それでは、参りましょうか』



 経過報告

 ヴォルケンリッターとの会談は成功裏に終了し、地上本部より八神家へ“生命の魔道書”を貸与。並びに、烈火の将シグナムから時空管理局への協力の言質を取る。

 その場に居合わせた管理局の正規局員がゼスト・グランガイツとクイント・ナカジマしかいなかったため、彼らは本局への報告義務を負うことになり、つまり、彼らの協力の成果が正規書類として残されたことを確認。

 よって、地上本部所属の“ブリュンヒルト”が“闇の書の闇撃滅作戦”において使用されることとなれば、人員と設備の両方が提供されたこととなり、闇の書事件は管理外世界において次元航行部隊と地上本部が協力して解決した初の事例となる。

 ジュエルシードにまつわる案件では合同演習であったため、次元航行部隊と地上本部の距離が僅かながら縮まったことは衆目が認めること間違いなく、ギル・グレアム、リンディ・ハラオウン、レティ・ロウラン、そしてレジアス・ゲイズの連名の弾劾書は大きな効力を発揮すると予想。

 本局に巣くい、地上本部を蔑視する者達を奈落へ突き落す準備は整いつつある。

 無論それらはギル・グレアム提督の協力、並びに闇の書事件が無事解決すればの仮定でしかないが、フェイト・テスタロッサが望む結果を導くため、時の庭園は総力を挙げて闇の書の闇を駆逐すべく機能することを明記。

 彼への協力要請については成功確率97.88%、しかし、彼の協力があってなお、闇の書事件を解決可能かどうかは未知数、闇の書の管制人格並びに無限書庫のユーノ・スクライアからの情報に左右される。

 その他の案件については未確定要素が多いため、闇の書事件が終了した際にまとめて報告予定。


 以上、時の庭園の管制機トールより、地上本部防衛長官レジアス・ゲイズへ




あとがき
 闇の書事件が始まってからずっと裏方に徹していたトールですが、実は裏でこんなことをやっていました。フェイトの人生は長いですから、大局的に見れば闇の書事件もそのものだけではなく、事後処理はかなり大きな意味を持ち、八神はやてとヴォルケンリッターが罪人とロストロギアの一部として社会的に認識されるか、それとも一個人として認められるかは、クローンであるフェイトの人生においても見過ごせない事柄であり、家族的な部分はハラオウン家に、精神的な支えはなのはに任せ、トールはそちら側で暗躍します。
なお、(仮称)がつくところは(仮称)までが名前です。いい名称が思いつかなかったので暫定的に適当につけました。なにかいいアイデアがあったら教えてください。


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