ジジジ、とまだ大気が小さく放電している。ベルキュロスが急降下して爆音と共に大地に着地、あわせて全身を使った放電現象は一瞬ではあったがベルキュロスの半径数メートルを覆うほどの巨大なもので、本来ならば電流が通らないはずの土の大地すら、放電現象によって小さく波打っていた。数ある放電現象の中でも一、二を争うほど威力が高く、このときに運悪く足を地面につけていたハンターはそのまま全身を電流が走りぬけて一撃で感電死する。よほど電気に耐性のある防具をつけていればまた結果は違うだろうが、それでも凶悪な攻撃であることに変わりは無い。 この技の餌食となったハンターは数知れない。実際、ベルキュロスが確認された当初はこの急降下放電で帰らぬ人となったハンター、もしくは戦闘不能に追いやられたハンターが後を絶たなかったくらいだ。一瞬のうちに広範囲の敵を殲滅するという非常に厄介極まりない攻撃方法だが、瞬間的に大量の放電を広範囲に行うために放電時間は極端に短い。よって着地する寸前に大地から足を離せば比較的安全に回避することが可能なのだ。 ……もっとも、足を離すタイミングを間違ってしまえばそのままあの世まで昇天してしまうのであるが。 生死が一瞬で決まる判断を迫られるだけにハンターには緊張が強いられる。誰とも無く辺りを見回し、倒れている人がいないか確認するが……この攻撃でやられたハンターはいないようだ。皆一様に武器を構え、ベルキュロスと対峙している。「狙われる理由がちっともわかりませんわ。最初に攻撃したのはわたくしではありませんのに……浮気性のある殿方は嫌われましてよ?」 巻き上げられた砂埃を切り払い、にこやかな笑みをたたえた紅い髪の女性――凛が太刀を斜(はす)に構える。先程の急降下放電を受けてなお、その笑みは崩れることは無い。太刀を構えてはいるが、まるで散歩をしているかのようにその体には力が一切入っていない。 全身紅い毛並みで覆われたベルキュロスがハンター達を睨みつけるように威嚇し、体を回転させる。そして、その体が凛のほうを向いて停止する。「……あら、今度はわたくしがお相手なのかしら?」 ――WooooooOOOOOOOOOO!!!!!!!! ――WooooooOOOOOOOOOO!!!!!!!! 口から吐き出される黄色のブレス……いや、光線といってもいいだろう。ジジ、と放電する音を響かせながら凛に迫る。速度も射程も申し分ないが攻撃が直線的なため、彼女はベルキュロスが口をあけた瞬間に軸をずらして必要最小限の動きでこれをかわす。ブレスが通り過ぎるたびに紅い髪がさらさらと踊る姿は、まるで舞を舞っているようにも見える。(まぁもっとも、私にばかり気をとられていては他の方々に攻撃してくれといっているようなものですけど) 攻撃を避けながら、凛はなんとはなしに周りを見渡す。すると、ジェイルがすでにガンランスを振るい始めているところだった。「誰もいかねぇか……なら、丁度いいな――!!」 左手に抱えた巨大な砲身を左から右へ横に、大きく振るう。ガンランスの先端にある刃が光線を吐き出しているベルキュロスの左わき腹を横一文字に切り裂き、紅い傷をつける。普通なら傷口から血を噴き出すであろうその傷口からは血は一滴も出ていない。氷属性をもつガンランスのトライファイア。その凍てついた刀身は切り裂いた傷口を瞬時に凍らせてしまうのだ。そして――「派手に――ぶっとびやがりゃぁああああああ!!!」 右から左にガンランスをなぎ払う。それにあわせていくつも生まれた大輪の紅い華と共に、ベルキュロスの側面が大きく爆ぜた。『蒼空の歌姫 第31幕』 ~峡谷での攻防~ 先程ジェイルが行ったのは『連撃砲』。ガンランスに装填してある弾丸をなぎ払いと共に全弾打ちつくすというド派手なものだ。前方広範囲に爆炎を撒き散らすことでまとまったダメージを与えられ、大きなモンスターでも広範囲にわたって砲撃を浴びせられる反面、誰かが近くにいると巻き込んでしまう危険性があるので乱戦では使いにくいというデメリットもある。使いどころさえ間違わなければ、強力な技だ。「っとと……危ねぇ危ねぇ。やっぱりこいつを使うとよたっちまうよなぁ。まぁでも……やっぱりクエストに行ったら一回はやらねぇと落ち着かねぇしな」 連撃砲の衝撃で三歩ほど後退しつつ、ジェイルは満足そうに呟く。ベルキュロスが体を回転させ、怒りの瞳を今度はジェイルに向ける。その動きは先のダメージをまったく感じていないかのように俊敏だ。ゴゥ、と翼をはためかせて体をわずかに浮かした状態にする。「おーおー、おっかねぇ。さてと、俺ぁそろそろ退散しますよ、っと」 そそくさとガンランスを背中に担きなおすと、ジェイルはベルキュロスの元から離れる。「でもいいのかい――あんまり俺ばっか見つめてると……嫉妬深いオンナに横からから刺されるぞ??」「…………………………だぁれが嫉妬深いって??」「おや、聞こえていたか。こりゃ失礼」「ったく、勝手なこと言ってくれちゃって……困るじゃないか――ネェ!!」 ジェイルと入れ違いに走り出しているのはアージェ。ジェイルから見て右手――先程爆炎をぶつけたベルキュロスの左わき腹に向かって、ランスを構えながら突撃していた。 駆ければ駆けるほどその速度は増していき――「ウゥゥラアアアァァァ!!」 右足をダン、と踏み抜いて十分に速度と威力が乗っているランスを尻尾の付け根に――突き刺す!! ――!!?!?!?!!?!??? 刀身の半ばまで埋もれたランス。突然の異物の進入に、ベルキュロスが空中でもがき苦しむ。 「まだまだァ!!」 血がべっとりとついたランスを体から引きずり出すと、今度は腹に食い込ませる。「もう一丁!!」 空を切り裂き、今度は副尾の付け根を突き刺す。 ――GooooooOOOO!!?!!??!???? 度重なる激痛の連鎖にベルキュロスが体をよじらせ、翼をはためかせる。痛みから逃れると共に体中を小さく放電させ、そのエネルギーが残された左の鉤爪に収束される。 ――OOooooOOOOooOOOOOOO!!!!!!! 「!!」 黄色い電撃をまとった鉤爪が、前方をなぎ払う。バチバチバチと大気中に放電の余波を残しながら、凄まじいスピードでアージェに迫る!!咄嗟に盾を構えて防御するが、鞭のようにしなるその勢いまでは殺しきれなかった。ガチンという大きな衝撃がアージェを襲う。数歩たたらをふみ、ズザーっと足で大地をこすって衝撃を逃がす。構えていた盾をおろすと、ベルキュロスとの距離は三メートル近くまで離されていた。(チ――相変わらずジンジンくるね、この攻撃は。しっかし、距離が離れちまったネェ……普通のモンスターならこの距離は安全なんだが、ことコイツに限っては長い鉤爪があるから逆効果だ。正直、この距離が一番イヤんだよねェ……って、オヤ??) アージェの眼には、緑色の太刀を構えている一人の男性。右手を刀身にそえ、切っ先は相手を見据えたままに左手を大きく後ろに持っていく。 重心を低くして構え、力をためているその姿はまるで、引き絞られた弓のよう。(ったく、今日のオトコ共はずっこい奴らばかりだねェ……オイシイところをみんな持っていかれちまうよ) 心の中で毒づいてはいるが、口元には笑みが浮かんでいる。ナイスフォローじゃないのさ、と一言付け加えて。「気刃――【嵐らん】!!」 ――刺突、一閃。 渦巻いた氣が刃の前で荒れ狂い、突き刺した緑色の刃レス・イーブが相手を切り刻む。「辻斬り御免――【発】!!」 氣を足元に纏わせ、弾くように駆け出す。飛んでいるベルキュロスの足元まで一気に近づき、刃に纏わせた氣が紅い色を帯びて刀身を包み込む。「【閃】!! 潜月――【閃】!!」 上段から太刀を右に大きく回し、袈裟懸けに一閃。さらにスライドさせるように左に動き、唐竹一閃。「【閃】!! 潜月・返し――【閃】!!」 今度は左に大きく回し、袈裟懸け一閃。次は体を右にスライドさせ、唐竹一閃。 「【閃】!! 【閃】!! ハァァァァ――セイヤァ!! 浮月うげつ――【閃】!!」 猛攻はまだ続く。逆袈裟のニ連撃を続けざまに繰り出した後、大きく振りかぶって上段からの唐竹一閃!! その勢いを殺すことなく、今度は下から上に斬り上げる!!「おいおいおいおい、なに一人で楽しんでんだよ……!! オレも混ぜろよ……!!」 ジェイルが兜の下からギラついた瞳を隠そうともせず、ガンランスを大きく振りかぶる。手元のレバーを操作すると半月状に取り付けられたレールがスライドしてガンランスの砲身が中ほどから折れ、薬莢が排出される。再びレバーを操作すると手元側に取り付けられたベルト状の弾丸がカラカラと動き、弾倉に装填されてジャコンという音と共に砲身が元に戻る。「んぬぅ……ふぅんっ!! オラァ、オラァ!! オオオォォラァァァア!!」 ガンランスの刃を地面にこすり付けるように走り出し、そのまま大きく振りかぶってベルキュロスの胴体に突き刺す。ザクリザクリと素早く二回突き刺した後、大きな掛け声と共に零距離で砲撃を浴びせる。 ――Woooooooo!!!!!!!! WooOOOOOOO!!!!! WooOOOOOOOOOOOOO!!!!! 体中を出入りする刃と爆風ををものともせず、お返しとばかりにベルキュロスが全身を大きく羽ばたかせて放電するが――「甘ェ!!」 盾を構えて走り出し、荒々しくガツン!! と横なぎに叩きつけてそれを阻む!! 空中で体勢を崩したベルキュロスを睨みつつ、重心を落として低く構える。たっぷり一秒ほど力をため――「邪魔ァ!!!」 大蛇ノ鉾が唸りを上げ、風を切り裂いて、天を衝く!! ――!!?!?!???!!??? 渾身の上段突きがベルキュロスの右翼を貫いた。空中でバランスをさらに崩し、翼を何度もはためかせながらそのまま後退する。「まったく、よってたかって……子供の遊びではありませんのに……」 ここぞとばかりにベルキュロスに猛攻をかけ続ける三人。その様子を凛は後ろで眺めながら、ため息と共に言葉を吐き出す。「……わたくしの剣は基本的に『待ち』ですから、このような『攻め』の時にはあまり役に立ちませんわね。それに――」 ――みなさん、そろそろ引き際ですわよ。 その言葉は、ベルキュロスの猛々しい叫びと全身を駆け抜ける放電現象にかき消された。そのまま滑空し、ジェイルに向かって突進する!!「――!!」 盾を構えようとするが、その判断は少しだけ遅かった。僅かに間に合わずに帯電した翼がジェイルの鎧に触れると――「!!?!?!??!?」 ジェイルが突然おかしな痙攣を起こし、何かに締め付けられるように動きを止める。「ジェイ殿!!」 龍二がジェイルに気を取られたその隙に滑空しているベルキュロスはジェイルと龍二を追い越し、着地すると同時に副尾から放電を行う。着地の衝撃で巻き上げられた砂埃が龍二の顔面を叩き付ける。思わず袖で顔を覆うが――砂埃に意識を向けるあまり足元の注意が散漫になってしまったことに気がつかなかった。足元からミミズが這い上がるような感触がしたと気づいたときには、既に遅すぎた。 全身を駆け抜ける電流。 先程の放電現象によって発生した雷球が地面を駆け抜け、龍二の足元に触れたのだ。 全身の血液が沸騰するような嫌な感覚を味わいながら、ジェイルと龍二は後方に吹き飛んだ。体中を駆け抜けた電流が筋繊維にデタラメな信号を流して通常の電気信号を上書きし、『反射』として体が跳ねたのだ。 ――GyaooooOOO!!!!!!!!!!! AAAAooooOOOOO!!!!!!!!!! 体を反転させ、ベルキュロスが向き直る。 ――OOOOOOOooooooooooOOO!!!!!!!!!!!!! ――OOOOOOOooooooooooOOO!!!!!!!!!!!!! ――OOOOOOOooooooooooOOO!!!!!!!!!!!!! 口から三連続で光線を出し、直線状にいるハンター達を薙ぎ払う。今度はベルキュロスが攻勢に出る番になった。先程まで自分を痛めつけたハンターを睥睨すると、健在である片方の目がギラリと剣呑な光を帯びる。 ――OOOooaaaaaaaAAAAA!!!!!!!!!!! 左足を後ろに、右足を前に出し、体の動きを反転させて左翼を地面にたたきつける!! その動作で鉤爪がしなり、三メートル以上ある互いの距離を一瞬で埋める!! 一度目はアージェに。 二度目は凛に。 三度目はまたもやアージェに。 中距離にいながらにして相手に致命的なダメージを与える鉤爪攻撃。攻撃範囲は狭いものの、そのリーチと速度は凄まじいものがある。アージェは盾を素早く突き出して身を守り、凛は持ち前の体術でするするとかわしていく。 ――OOOOOOOooooooooooOOO!!!!!!!!!!!!! 再びベルキュロスが空を舞う。怒りに呼応して今まで真っ赤だった毛並みが黄色とオレンジの毛並みに戻るが、まだ反撃の糸口はつかめていない。電撃を纏わせながら爪のついた足を突き出し、ハンター達に襲い掛かる。その余波で地面に小さな放電現象が起こり、ハンター達の動きを阻害する。四度にわたって繰り返されたその攻撃によってハンター達は完全に防戦一方になってしまった。 どうにか立ち上がった龍二とジェイは大きく弧を描きながら走り、ベルキュロスの行動を観察している。アージェもランスを構えて歩いてはいるが、行動は変わらない。先程の凄まじい猛攻に参加していない凛だけが、必要最小限の動きで攻撃をかわしながらのんびりと散歩をするようにベルキュロスに近づいていた。それを見て相手は大きく旋回し、鉤爪を地面に叩きつける。それは凛の足元一メートル手前のところに突き刺さり、動かなくなった。鉤爪がアンカーの役割を果たし、ベルキュロスを地面につなぎとめたのだ。「ふぅ……まったく……この暴れん坊にもホントに、困ったものですわね」 その行動に凛の動きが――止まった。チャキ、と太刀を下段に構え、その体勢で待つ。「まったく、ほんとに……」 にこやかな笑みが、少しずつ、少しずつ、薄れていく。 地面とベルキュロスをつなぐ一本の線――伸びきった鉤爪が一気に弛緩し、ベルキュロスが急降下する!! ――ooOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!!! 風を切り裂き、電撃を纏わせた巨体が凛に迫る!! ゴォォと唸りをあげて襲い掛かる一頭の竜、その足先についた凶暴な爪が相手の命を刈り取りにかかる!! 巨体が迫る風圧に紅い髪がサラサラと舞う。普通の人間であれば恐怖で押しつぶされるくらいのプレッシャーを感じながらも、彼女は微動だにしない。その口元にたたえられた笑みは、そこにはもう無かった。「ホントに―― ――困った奴だ」 凛の顔つきが変わる。 構えた両手に力が入る。 声が冷徹さを帯び、口調が変わる。 気持ちを切り替えるようにゆっくりと瞬き一回。 次に開いた瞳に――笑みは浮かんでいなかった。 無機質なまでの氷の瞳。その目は恐ろしいまでに鋭く、刃のように、相手を見据える。 全身から発せられるのは青色の氣。静謐な感情から生み出される、海の如く冷徹な氣。そして、静かなる青き炎の氣。「対の先――【崩月ほうづき】」 虚空一閃。 必中にして必殺。 その斬撃は、虚空に浮かぶ三日月。 刹那の間に下段から上段へと袈裟懸けに薙ぐ一撃。 相手の動きをあらかじめ知ってそれに負けぬように動作を起こし、同時に仕掛けながらも一瞬早く打ち込んで勝つ『対の先』。 あらゆる攻撃を紙一重のところで見切り、反撃の一手を常に残す『捌き』の体術を得意とする彼女が繰り出す、芸術的なまでのカウンターアタック。 彼女が通り抜けた後に一瞬遅れてベルキュロスの体に巨大な袈裟懸けの傷痕が生まれるが、血しぶきは僅かなものだった。トライファイアと同じく氷属性の太刀――天狼刀【須佐之男】が傷口を瞬時に凍らせたのだ。 ――!!?!?!?!!?!?!? 凍った傷口からおかしな放電が発せられ、バチバチと音が響く。自分の意思とは無関係に放電を繰り返す傷口部分に悶えながらもベルキュロスは未だに羽根を動かし、空中に静止したままだった。数回羽ばたいた後、体を大きく上昇させる。この場を離脱するように、ベルキュロスは飛び立っていった。その光景を黙って見つめ続ける凛。あの無機質な冷たい瞳は、もうしていなかった。 完全にベルキュロスの姿が見えなくなるとようやくフゥ、と一息ついて太刀を背中に担ぎなおす。「おいおいおいおい――あのお嬢ちゃん、何気にすげぇじゃねぇか」 その光景に思わずジェイルが動きを止めて呟いた。そんなことを知ってか知らずか、彼女はゆるゆると歩きながらジェイルに近づいてゆく。「もう体は大丈夫なんですの?」「ああ、なんとかな。ビリビリしたあとなんかヌメっとした感触がした。あちこち血管が切れたようだが、まぁなんとかなるだろ。ベルキュロスとやりあうときはこういう傷の一つや二つ、覚悟している」「そうですの……なら、問題ありませんわね。私の判断で一度逃がしましたが、よろしかったかしら?」「あぁ、いいんじゃねぇの? 一度俺達も、武器の手入れをする必要があるだろうしな。それに、あちらさんも体制を整えなけりゃいかんだろうさ」 そういい、ジェイルは指をさす。その先には、自分の体を確認するように動かしている龍二とそれを見つめるアージェの姿があった。「全く、ナニやってんだい……気を取られてあんな攻撃を食らうなんてさ。不用意に近づきすぎるから、そういうことになるんだよ」「いやはやまったく、仰るとおり。面目次第も無いでござる。拙者としたことが、少々興奮してしまったようでござる」 小言を言うアージェに、しゅんとうなだれる龍二。もっとも、本人もダメージを受けたのは自業自得だと分かっているようなのでアージェも強くは言わなかった。不意にアージェが近づくと、龍二の体を近くで注意深く観察する。その後に体をぺたぺたと触ったり、腕を揉んでみたり、背中の筋肉を触ってみたり……触診のようなものをしているようだった。「ふむ……まだ体のあちこちが小刻みに震えているね。痺れが取れないのかい?」「そのようでござる。今しばらく時間をもらえれば、徐々に痺れも取れてくるであろう。今回は凛殿に感謝しなければいかんですなぁ」「まったくだね。オンナに助けられるとは、アンタもまだまだだね」「いやはやまったく、その通りでござる。精進が必要でござる」「さ・て・と。んじゃぁ今後の展開を話し合いつつ、武器の手入れでもするかねェ。結構がっつり突き刺したし」 踵を返してアージェは歩き出し、二人に近づいていった。(しかし――さっきの一撃は正直驚いたね……今思い出しても背筋が寒くなる。あそこまで見事なカウンターをベルキュロス相手に決めるたァね……あの師匠クソジジイですら、実践であそこまでの一撃を放ったことは無ェし、アタシも見たことが無い。人間相手ならまず間違いなく即死モノだ。しかも、振るう太刀の速度はウチのピサロよりも同等……いや、おそらく上だね。まだ顔つきに余裕が感じられる。こりゃ、思わぬ収穫があるかもしれないねェ) くつくつ、とアージェが嗤う。その瞳には、紅い髪の太刀使いが映し出されていた。