拙作は東方projectの二次創作です。
※以下の点に御注意を※
・主人公はオリキャラかつ女性、一応TSではないのであしからず。
・主人公含めオリキャラが何人か登場します。
・二次設定の使用。
・本編は原作以前からのスタートであり、多分に独自解釈が含まれます。
ある日の晩の事であった。
何も特別な事なんてない、いつも通りの一日である。
わりと頻繁に催される博麗神社の宴会に、いつも通り参加し、いつも通り名酒に下鼓を打つ、ただそれだけの事であった。
どこからともなく宴会の報を聞きつけ、方々から集まってきた人妖は、神社の境内が手狭に感じる程の大所帯になる。
すっかり出来上がって突然踊りだす者もいれば、ふらりと現れてはむせ返るほどに強い酒を勝手に盃の中へ流し込んでくる輩もいたりと、皆宴会の楽しみ方はそれぞれだ。
そのうち喧騒を聞きつけた者も集まってくるだろう。
騒ぎは雪だるまが転がるように大きくなり、最後には祭りと錯覚するほどになる。毎度毎度、後片付けを任される巫女殿には本当に頭が下がる思いだ。
「やぁ、ちゃんと飲んでるぅ?」
突然、声と共に背中に重みと衝撃を感じた。
思いのほか大きな打撃に、軽く呼吸が詰まる。激しく波打つ盃の中身を庇いながら、首と目だけで後ろを見た。
可愛らしい少女の顔と、そこから生えた捻じれた角がチラリと見える。
「萃香、君の体当たりはかなり痛いぞ、私だって女なんだ」
「んー、ごめんごめん」
謝罪に誠意は感じられない。
私が苦笑していると、萃香は首のあたりにぶら下がったまま器用に酒をあおった。
遠くの方では、憮然とした表情で罵り合いを交えながら飲み比べをしている蓬莱人の二人組やら、新聞の内容で論争を始める烏天狗達もいる。本当にここにいる面子は多種多様で見て飽きない。
「みんな楽しそうだな」
「そう見えるって事は、自分が楽しめてないって事じゃないの?」
「訂正、みんなも楽しそうで何よりだ」
笑みがこぼれた。
萃香は私の拘束を解き、正面へ回る。ちょうど向かい合うような形で、私の方へ自前の瓢箪を向けた。
「ま、遠慮せずに一献」
「どうも」
お互いに盃を一気にあおり、笑いあう。
「何か楽しそうな話ある?」
「さてね、最近は動く用事もなかったから特には」
目をつぶりながら、喉に残る余韻に心を向けた。
流石は鬼の酒と言ったところか。
強い酒精が特徴でありながら、どこか奥深い味わい。辛さがありながら甘さがある、不思議とずっと飲んでいたくなるような酒だ。
飲みこむ事すら勿体なく感じる。
名酒の味に心打たれながら、何か肴になるような話題は無いかと記憶を遡ってみる。はたして顔をきらめかせる萃香を満足させられるような話が出来るだろうか。
少し不安になりながら口を開こうとすると、私と萃香の間に誰かの影が入って来た。
「こんばんは、楽しんでいらっしゃる?」
「おや、紫女史」
影の主は金髪の美女、妖怪の賢者と名高い八雲紫であった。
彼女は優雅な仕草で腰かけると、私と萃香に見惚れるような笑顔を向けてくる。
「これから面白い話をしてくれるんだって」
「あら、楽しみ」
今度は萃香が悪戯っぽい笑顔を向け、紫女史は胡散臭い笑みを向けてくる。
随分とハードルを引きあげてくれるじゃあないか。
そんなにレパートリーは豊富じゃないと言っていただろうに。
また苦笑していると、今度は白黒の魔法使いが割り込んできた。
「何だ? どんな話を聞かせてくれるんだ?」
活発な瞳をさらに輝かせ、勢いよく私に迫ってくる。
例のごとく彼女もいい具合い酒が回って来ているようだ。酔っ払い特有の火照った顔が、普段は薄い彼女の色気を醸し出していた。
「ワインの肴くらいにはなるかしらね?」
「ささ、どうぞどうぞ、面白ければ明日の一面記事は決定ですよ」
気がつけば私の周りには少なくない人だかりができ始めている。
吸血鬼やら、烏天狗やら、皆思い思いの事を言ってはやし立て、もう収拾がつかなくなってきた。
「萃香……」
「面白い話するならみんなでした方が楽しいんじゃない?」
下手人はやはりこのちっこい鬼か。
こんな事に能力を使うとは、良くも悪くも幻想郷の鬼らしい。
私は不満気な視線を彼女に向けると、大きく溜め息をついた。
「いいだろういいだろう、面白いかどうかは皆の判断に任せるとして、少し長めの昔話をしてやろうじゃないか」
私は少しだけあきれ顔で、だが周りに集まった少女達はやんやとはやし立てる。
しばし喧騒が収まるのを待って、私は昔の記憶を掘り起こした。