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No.26728の一覧
[0] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ(しんちゃん×真・恋姫無双)魏ルート最終回のみ投稿[MRZ](2011/07/30 04:01)
[1] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第二話[MRZ](2011/04/04 05:24)
[2] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第三話[MRZ](2011/03/30 06:50)
[3] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 幕間 星編[MRZ](2011/04/01 05:58)
[4] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 幕間 稟編[MRZ](2011/04/02 17:58)
[5] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 幕間 風編&第四話序章[MRZ](2011/04/04 05:30)
[6] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第四話[MRZ](2011/04/06 06:22)
[7] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第五話[MRZ](2011/04/08 06:30)
[8] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第六話[MRZ](2011/04/10 07:11)
[9] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 幕間 白蓮編[MRZ](2011/04/13 07:45)
[10] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第七話[MRZ](2011/04/15 18:49)
[11] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 幕間 鈴々編[MRZ](2011/04/17 06:18)
[12] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 幕間 桃香編[MRZ](2011/04/19 07:17)
[13] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 幕間 愛紗編[MRZ](2011/04/21 07:28)
[14] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第八話[MRZ](2011/04/24 09:14)
[15] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第九話[MRZ](2011/05/25 07:22)
[16] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第十話[MRZ](2011/05/01 09:06)
[17] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第十一話[MRZ](2011/05/04 20:48)
[18] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第十二話[MRZ](2011/05/06 19:27)
[19] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第十三話[MRZ](2011/05/08 15:43)
[20] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第十四話[MRZ](2011/05/11 07:40)
[21] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第十五話[MRZ](2011/05/14 07:44)
[22] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第十六話[MRZ](2011/05/17 21:41)
[23] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第十七話[MRZ](2011/05/20 06:42)
[24] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第十八話[MRZ](2011/05/23 04:55)
[25] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第十九話[MRZ](2011/05/25 20:39)
[26] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第二十話[MRZ](2011/06/01 08:50)
[27] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 幕間 ???編[MRZ](2011/06/01 08:50)
[28] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第二十一話(共通ルート終了)[MRZ](2011/06/04 08:09)
[29] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 第一話[MRZ](2011/06/10 05:54)
[30] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 第二話[MRZ](2011/06/10 05:52)
[31] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 第三話[MRZ](2011/06/13 07:06)
[32] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 第四話[MRZ](2011/06/16 06:51)
[33] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 第五話[MRZ](2011/06/19 07:08)
[34] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 幕間 華琳編[MRZ](2011/06/24 07:22)
[35] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 幕間 春蘭&秋蘭編[MRZ](2011/06/24 07:21)
[36] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 第六話[MRZ](2011/06/27 07:09)
[37] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 第七話[MRZ](2011/06/30 06:28)
[38] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 幕間 桂花編[MRZ](2011/07/03 07:30)
[39] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 幕間 季衣&流琉編[MRZ](2011/07/06 06:50)
[40] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 幕間 稟&風編[MRZ](2011/07/08 07:09)
[41] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 第八話[MRZ](2011/07/12 05:35)
[42] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 第九話[MRZ](2011/07/15 07:34)
[43] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 第十話[MRZ](2011/07/18 05:29)
[44] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 第十一話[MRZ](2011/07/20 08:16)
[45] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 第十二話[MRZ](2011/07/21 06:53)
[46] 嵐を呼ぶ園児、曹魏の旗と共に行く 最終回[MRZ](2011/11/06 00:49)
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[26728] 嵐を呼ぶ園児、外史へ立つ 第十四話
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/11 07:40
「じゃ、とんのお姉さんとえんのお姉さんね」

「う、ううむ……」

「姉者、それでいいではないか。桂花はじゅんちゃんだぞ?」

「そうね。春蘭、それが嫌なら貴女は惇ちゃんになるわよ?」

「あー、それちょっと可愛いですよ、春蘭様」

「いいんじゃない? お似合いよ、子供みたいなあんたにはね」

 食堂に響く多くの声。しんのすけと星を招いての夕食。卓に並ぶのは全て曹操と夏侯淵の手作り料理だ。許緒が楽進達も誘ったのだが、三人は恐れ多いと断り、現状の顔ぶれとなっていた。本当はどこかの店にしようと考えていた曹操だったが、自分を満足させる店があまりない事を思い出し、自分が腕を振るう事にしたのだ。

 既にその食事は粗方片付き、今は雑談時間となっていた。だが、しんのすけが夏侯姉妹の呼び方を決めていなかったため、こうして決めている最中だったのだ。星は先程から話題が自分ではなく、しんのすけへ振られている事に若干の不安感を覚えていたが、思ったような内容ではなく、しんのすけと自分の人となりを理解しようとしている内容ばかりだったため、少し安堵していた。

 今は夏侯惇と荀彧が言い合いを始め、それを眺め曹操と夏侯淵は笑みを見せ、しんのすけは許緒から、二人はいつもこうなのだと教えられていた。星はそんな周囲を眺め、いつ話を切り出すかを迷っていた。
 それは、稟と風の事。宿で仕官すると言っていたのなら、仕官先はこの陳留しかない。であれば、曹操が何か知っているはず。だが、それを言い出す事が中々出来ない。星が懸念しているのは、そこから自分が仕官するように仕向けられる可能性だ。

(曹操殿は無類の人材好きと聞く。自分が欲しいと思った相手は、何が何でも手に入れようとするとか。私も目をつけられたようだし、下手な事は聞けないな……)

 星はそう判断し、切り出すとしても曹操本人ではなく、軍師をしている荀彧にしようと決めた。曹操本人に言うよりも、仕官の誘いを受ける可能性が低いだろうと思ったからだ。その相手である荀彧は、夏侯惇との毎度の言い争いを終え、しんのすけが差し出したお茶を受け取り飲み干していた。
 それにしんのすけがいい飲みっぷりと褒め、それを聞いた周囲が酒ではないと言いながら笑っている。言われた荀彧は多少照れくさそうだったが、しんのすけの言葉が盛り上げるためのものと理解していたのだろう。それに小さくため息を吐き、言うのなら自分のような者ではなく、大酒飲みにしろと助言していた。

「じゃ、星お姉さんだね」

「ん?」

 急に名前を挙げられたため、星はやや意外そうな表情を見せた。そんな星を曹操達が見つめ、楽しそうに笑みを見せる。

「趙雲、貴女お酒は強い?」

「まぁ、それなりには」

 曹操の問いかけに星は素直に頷いた。別に何か誤魔化す類ではないと判断したからだ。それに夏侯惇が嬉しそうに頷き、杯を差し出した。

「そうか。なら、飲め」

「姉者、もう少し言い方があろう」

「そうですよ、春蘭様。もっと飲みたくなるような言い方しないと」

 夏侯惇の言い方があまりに直球すぎるため、夏侯淵と許緒が揃って苦笑した。そんな二人の言葉に夏侯惇はキョトンとした顔をし、そんなものかと問い返していた。どうも彼女的には、それで飲みたくなるようだ。
 そんな三人を他所に、荀彧はしんのすけから桃香達の事を聞き出していた。先程から、星があまりその事を喋らないようにしていると気付いたためだ。しんのすけはそんな事に気付くはずもなく、荀彧の質問に素直に答えていく。

「で、劉備達とは公孫賛の城で共に過ごしていたのね?」

「うん」

「そう……で、諸葛亮達はその頃からいた?」

「お? 誰?」

「諸葛亮よ。後は鳳統ね。どちらでもいいけど、知らない?」

「う~ん……聞いた事無いぞ。そんな名前の人が桃香ちゃん達と一緒にいたの?」

「そうよ。でも、しんのすけが知らないか。そうなると、あの二人は城を出てから劉備に出会い、すぐに軍師になったのね」

 自分達が桃香達と出会った時期を思い出し、星が話した城を出た時期を擦り合わせ、荀彧はそう結論付けた。そこから分かるのは、桃香の運の良さと諸葛亮と鳳統の頭の巡りの良さだ。きっと、桃香は二人が才能の持ち主だとは知らなかったはず。そう荀彧は断言出来た。
 直接会った際、その人物は把握したのだ。とてもではないが、人の才を見抜く力はなさそうだと。そう、一言で言うのならお人好し。だが、それがただのお人好しではなく、どこまでもそれを貫こうという明確な意思を感じさせたのが意外だったが。

(現実を見ない夢想家と思えば、意外と見てたのよね……)

 黄巾の乱の際、協力する事になったために荀彧も桃香達と話す事はあった。そして初めての打ち合わせの時、乱を起こした者達を出来るだけ助けたいと言い出した際、曹操が余計な混乱や無用の揉め事を起こすと注意した事があった。
 それに、桃香は確かにそうかもしれないと返した。だが……

―――でも、そうやって全てを悪い風に考えていったら何も変わらないと思うんです。まずは信じる事。悪い事を悪いと思って、考えを改めてくれる人はいるって。そういう希望を捨てない事も強さだと、私は思います。

 そう言い切って、桃香は更に曹操へ問いかけたのだ。それは間違っていると言えますかと。さしもの曹操も、その桃香の言い分を絶対に間違っているとは言えなかった。だが、こう反論した。今の状況では、相手へ武器をちらつかせながら助けると言っている事と同義だと。

 それに桃香は迷いもなく頷いた。それしか今の自分は出来ないからと。相手を無防備で助ける事が出来ない。でも、心から出来るだけ助けたいとは思っている。今は無理でも、いつかはそれを可能にするんだと努力し続けよう。偽善でいい。それで少しでも助けられる人がいるのなら。そう桃香は曹操へ語ったのだから。

(珍しく華琳様も楽しそうに笑っていたものね。自らの行いを偽善と言い切った劉備に)

 その歩む道は曹操とは違う。曹操は最初から全てを助けるなど考えていない。自分へ刃向かう者を倒し、従う者を守る。それ以外の括りは曹操にはない。故に桃香の考えとは真っ向から対立するのだ。桃香は自分に従わない者だろうと、悪事をせず平和に暮らすのならそれでいいと言うからだ。

 荀彧はそんな事を考え、視線をしんのすけへ向けた。桃香がそんな風に言えるようになった原因が、しんのすけにあるような気がしたのだ。その要因として、しんのすけから聞いた桃香達との思い出話がある。
 それを聞き、軍師として思った事があるのだ。それ故に、しんのすけはある意味で危険だと勘が告げている。そのしんのすけは既に自分から視線を外し、今は夏侯惇と話をしていた。

「関羽と趙雲は互角だと?」

「そうだぞ。とんのお姉さんはどれぐらい強いの?」

 許緒から桃香達と曹操達が共にいた事を知っているしんのすけは、夏侯惇からも話を聞こうとした。当然ながら、根っからの武人である彼女が話すのは、同じ武人である愛紗や鈴々。
 そこで夏侯惇が星はどれぐらい強いのかと思い、尋ねた事に対するしんのすけの答えが愛紗と互角。それに意外そうな表情を返す夏侯惇。

 そこへ返されたしんのすけからの問いかけ。それは夏侯惇の誇りを刺激した。愛紗とは手合わせをした事はない。それでも、遠目で見た限りかなりの強さだと感じた相手だったのだ。それと星が同じとなれば、自分の強さを示す簡単な手段は一つ。
 それをどこかで悟ったのか、星は夏侯惇へ機先を制して告げた。自分は文醜に遅れを取ったと。それに周囲が驚きを見せる。文醜を知る曹操達は星の言った事の意味に。一方、文醜を知らない許緒は、星が躊躇いもなく自分が負けたと告げた事に。

「ちょ、趙雲? それは本当か?」

「ええ。いや、私もまだまだ未熟でした」

「……ふむ、嘘ではないようだな。しかし、お前と関羽は同等としんのすけは言っているが?」

 星の表情に少しも悔しさがない事に疑問を感じながらも、夏侯淵はそう判断した。だが、ならば余計にしんのすけの言葉が浮いてしまう。愛紗の強さを知っている彼女としては、星が互角ならば文醜に負けるはずはないと考えたからだ。
 星はそんな夏侯淵の言葉に何かを思いつき、苦笑しながら答えた。愛紗と手合わせしたと言っても明確な決まりもなく、ただ鍛錬の一環としてやっていただけ。故に、どこかで加減されていたのかもしれない。それで互角でも実戦ではどうかまでは分からないと。

 それに夏侯淵だけでなく曹操や夏侯惇も納得しつつ、どこか疑問符を浮かべた。一応理屈は通っている。だが、何故か腑に落ちないと感じたのだ。星はそんな三人の反応を見て、夏侯惇への評価を改めていた。
 頭の巡りは悪いかと思ったが、戦関連になるとそうではないらしいと。良くも悪くも武人なのだろうと思い、星は一人納得した。星が自分を低く見られるように言い出したのは、無論曹操の興味を薄れさせるためだ。

(猪々子殿に負けたとなれば、袁家を良く知る曹操殿だ。さぞ正確に私の力量を見誤ってくれるかもしれん。それが確認出来れば、稟と風の事も安心して聞けるのだが……)

 しかし、星の目論見を曹操はどこかで見破っているのだろう。微かに楽しそうな笑みを浮かべ、夏侯惇へ視線を向けた。それに気付き、夏侯惇は不思議そうに曹操へ視線を向ける。

「春蘭、趙雲はああ言っているけど、一度手合わせしてみたら? しんのすけは趙雲は強いと言っているのだし、貴女の力をしんのすけに見せて、本当の強さを教えてあげるのもいいと思うのだけど」

「曹操殿、それはつまり私に夏侯惇殿と戦えと?」

「あら、嫌なの? 貴女も武人なら強い相手と手合わせしたいと思うでしょ?」

「趙雲、私は一向に構わんぞ。文醜に負けたらしいが、私はお前がそんな奴には見えんしな」

 曹操は雰囲気から、夏侯惇は感覚的に、それぞれ星の実力を感じ取っていた。周囲もそれに同調するかのような視線を向けている。夏侯淵は微笑を浮かべ夏侯惇を見つめているし、荀彧はどこか疑うように星を見つめ、許緒は素直に興味を持って。
 それでも、どこか頷くのを躊躇う星。それに曹操が何かを思いつき、視線を荀彧へ向けた。それに頷き、彼女はしんのすけへある言葉を告げる。それが星を頷かせる決め手となる。

「しんのすけ、趙雲は春蘭に負けると思う?」

「お? 誰が相手でも星お姉さんは負けないぞ?」

 しんのすけの中では、星はアクション仮面でもあるのだ。故に、負けは無い。しんのすけの思う敗北とは、ヒーロー達が見せなかった姿。つまり諦める事を言うのだから。しかし、それを周囲が知るはずはない。星は、しんのすけが迷いもなく断言した事に内心で嬉しく思いながら、表情は仕方ないとばかりにため息を吐いた。
 そこまで言われ受けない訳にはいかないと。きっとしんのすけは気にしないだろうが、これで受けずに逃げれば、しんのすけの言葉が嘘になってしまう。星はそう考え、一度目を閉じた。

(お前はどこまで私に苦難を与えるのだ? だが、純粋に信じてくれるその想い……応えねば武人ではないか)

 そう思い、誰にも気付かれないように、小さく星は呟く。

―――私は、決して負けない……か。

 そう噛み締めるように呟き、星はゆっくりと目を開く。その表情に曹操達は息を呑んだ。先程まで試合を渋っていた者のそれではなかったのだ。それだけではない。その眼光は静かに、だが激しく輝いていた。

「では夏侯惇殿、一手お相手願えますかな?」

「う、うむ。なら、明日の朝中庭でどうだ?」

「承知した」

 夏侯惇が僅かに気圧される程の眼力。それに曹操は、自分の目が間違っていなかったと確信していた。そして、同時にしんのすけがどれ程星の中で大きな存在になっているかも。
 それは、星を手に入れようとするならば、しんのすけを手に入れなければならないと曹操に思わせた。そこまで考え、曹操は何故星がそこまでしんのすけに入れ込むのかを疑問に思う。

(最初は本当に麗羽の縁者かと思ったけどそうではなさそうだし、趙雲の縁者でもなさそうね。ふむ、旅を共にしている理由……それは一体……?)

 そう考え、曹操は久々に面白くなってきたとばかりに笑う。星と夏侯惇の試合。しんのすけと星の関係。鏡を求める訳。どれも自分の好奇心を満たすには十分だ。そう思い、曹操は酒を軽く煽って窓へ視線を向ける。明日は楽しい一日になりそうだと呟きながら……



 翌日、城の中庭には曹操を始めとする主だった者達が揃っていた。楽進達三人もそこにはいる。李典が簡易的に作った観客席に座り、夏侯淵と許緒は何かを話しているし、荀彧は曹操と共に特別製の観客席に座り、隣で侍女のような事をしている。
 楽進は于禁と李典と星の実力がどれ程かを話し合い、予想を言い合っていた。しかし、李典が周囲に賭けを持ちかけようとして楽進の目が鋭くなる。それに李典が軽く怯み、于禁が楽進を宥めていた。

 そんな者達から少し離れ、しんのすけは星と夏侯惇の二人と話をしていた。

「星お姉さんも、とんのお姉さんもお怪我しないようにね」

「ああ。心配するな、しんのすけ」

「そうだぞ。趙雲はともかく、私は決して怪我などせん。まぁ、その気持ちは嬉しく受け取っておくがな」

 しんのすけの子供らしい言葉に二人は笑みを返す。そんな二人の返事にしんのすけは頷いて、ふと何かを思い出したように表情を変えて、夏侯惇へ視線を向けた。

「あ、とんのお姉さんに一つお願いがあるんだ」

「ん? 私にか?」

 星ではなく自分が指名されるとは思わなかったのか、夏侯惇はどこか意外そうにしんのすけを見つめた。

「星お姉さんが勝っても怒らないでね」

「何かと思えばそんな事か。ああ、いいぞ。私も武人だ。そうなった時は、潔く負けを認める」

「ほう……では、負けを認めてもらうとしますかな?」

「言っていろ。華琳様の前なら私は無敵だ!」

 そう言って夏侯惇は星から距離を取るために歩き出す。しんのすけはそれを見て試合が始まると理解し、星へ頑張ってと告げて観客席へと歩き出す。その背中を見送り、星は笑みを浮かべる。
 そして、それを消して夏侯惇へ視線を戻す。先程夏侯惇が告げた宣言。それに対し、星も返す言葉がある。だが、それは今言うべきではない。そう思い、星は槍を握り締める。あの文醜との試合を思い出し、星は一人頷く。もう、何事にも動じないと。

 一方、しんのすけは曹操に呼び止められ、許緒達の座っているのとは違う観客席にいた。曹操が少し聞きたい事があるし、ここの方が眺めもいいと言ったためだ。だが、そこは曹操と荀彧の分しか場所が無かったため、しんのすけは意外な場所に座っていた。
 それは、曹操の膝の上。荀彧は最初それを自分が代わると言ったのだが、しんのすけは子供とは言え、それなりに重い。それを膝に乗せ続けるのは文官の彼女には辛いと曹操は告げ、自分の膝に乗せたのだ。それにしんのすけは曹操を心配し地面でいいと返したのだが、それには荀彧も呆れた。

―――ったく、子供がそんな事心配すんじゃないわよ。

―――気にしないでいいわ。貴方くらい平気よ。

 二人にそう言われたため、しんのすけは嬉しそうに頷いて現状に至る。

「ねぇしんのすけ、貴方は趙雲が勝つと思っているの?」

「勝つかはわからないけど、負けないって事はわかるぞ」

「あのね、負けないなら勝つしかないじゃない」

 しんのすけの言葉に荀彧は呆れるように言葉を返す。だが、それにしんのすけは不思議顔。それを見て、曹操は何かを理解したのか意外な表情を見せた後、小さく微笑む。それに荀彧が気付き、疑問符を浮かべた。曹操の笑みの理由が今一つ理解出来なかったのだ。
 そんな彼女の心境を察したのだろう。曹操は笑みを浮かべたまま、しんのすけの考えを説明した。しんのすけの負けは自分達が考える勝ち負けとは違う感覚なのだと。

「しんのすけの考える負け。それは、相手に屈する事よ。どれだけ惨めになろうとも、負けたと思わない限り負けない。そういう事でしょ?」

「おー、もうちゃんってエ……スゴイね」

 危なくエスパーと言いそうになり、思い留まるしんのすけ。その間の思案を見て、曹操は言いたい言葉が出てこなかったのだろうと思い、少し苦笑。

「成程……にしても、あんた本当に子供?」

「あれ? 五歳って大人だっけ?」

「歳の事言ってんじゃないわよ! はぁ~、いいわ。あんたはやっぱ子供よ」

 しんのすけの考え方が子供らしからぬ気がした荀彧だったが、その対人対応は未熟な事を痛感し、呆れるようにそう言い切った。それに曹操は苦笑するものの、しんのすけの考え方には共感出来るものがあった。
 相手を完全に負けさせる事は難しい。圧倒的な力で叩こうと負けを認めない者は認めない。或いは、どれだけ絶望的になろうと諦めず抗う者達もいる。それが良い意味でならばいい。しかし、曹操は知っている。それを悪い意味でしている存在を。

(朝廷がそうなのよね。どう考えてももう死に体。それでも、権威にしがみ付き無様に生き恥を晒し続けながらも負けを認めない。厄介なものだわ……)

 そんな事を考え、曹操は意識を切り替える。試合が始まったからだ。視線の先では、夏侯惇の斬撃を星がかわしながら槍を振るっている。その様子に、夏侯淵達は感心したような眼差しを星へ向けていた。
 星が文醜に負けたという事を既に知っている夏侯淵達。だが、それならば目の前で繰り広げられる光景は何なのだろうか。曹操軍で一番の武を持つ夏侯惇相手に、一歩も引かぬ戦いをしている星。それが意味する事は、ただ一つ。

(((趙雲の話は嘘か、或いは何か事情があって文醜に負けた……)))

 文醜を知る曹操、夏侯淵、荀彧は揃ってそう判断した。特に、かつて袁紹の元に居た荀彧は強くそう思った。一方、星と直接戦っている夏侯惇はそんな事さえ忘れているようで……

「やるな、趙雲っ!」

「まだ未熟な身ではありますが、褒めて頂けるとは光栄ですな」

 夏侯惇の斬撃を槍で払い、即座に突きを返す星。それを上体の動きだけでかわす夏侯惇。そこから蹴りを放ち、槍を上に叩き上げる。しかし、そこから星も夏侯惇の蹴り足を蹴る事で、相手の体勢を崩し反撃を鈍らせる。
 そこから互いに、もう一度距離を取り構える二人。その表情は笑みだ。そう、星も夏侯惇も理解していた。目の前の相手は自分と全力で戦える存在だと。それがどういう事かを考え、両者は同じ表情を浮かべる。

 そして、再び動き出す。夏侯惇は七星餓狼という剣を使う。だが、その長さは星の持つ龍牙に負けていない。間合いがあまり大差ないのなら後は使う者の力量次第とばかりに、星の速度に夏侯惇は負けずついていく。一進一退の攻防。攻め手と守り手が瞬く間に入れ代わるそんな光景。
 それを見つめ、周囲も徐々に熱くなっていく。故に、観客席から声援が出るのは当然と言えた。それが、夏侯惇を応援するものばかりになるのも当然。ここは曹操の城なのだから。

「春蘭様、頑張ってくださーい!」

「そこやー!」

「いけいけなのー!」

 許緒の言葉に続くように声を張り上げる李典と于禁。

「強い……春蘭様相手に趙雲殿は少しも負けていない」

「うむ、姉者相手に五分とはな。この大陸にまだあのような者が埋もれていたとは……」

 楽進と夏侯淵は星の実力に感心し、その挙動を見逃さないようにしていた。

「ちょっと春蘭! いつまで時間かけてるのよ! さっさと終わらせなさいよっ!」

 荀彧は応援と言うよりは苦情だったが、その根底には夏侯惇の武への信頼がある。それを感じ取り曹操は小さく笑うも、視線を試合ではなく膝の上のしんのすけへ向けた。しんのすけは、一度として声を出さずに試合を見つめていたのだ。
 それが曹操には意外だった。てっきりしんのすけも、他の者達と同じで星に声援を送ると思っていたからだ。曹操がそんな事を思い、しんのすけにそれを問いかけようとした瞬間だった。しんのすけは小さく頷くと拳を握り締め、息を吸い込んで叫んだ。

「星お姉さんもとんのお姉さんも負けるな~っ!」

 その言葉に込められた意味を知る曹操と荀彧、それとあの試合で心構えを固めた星以外がその声に揃って戸惑いを見せた。

「「「「「は?」」」」」

「どういう意味だ、それはっ!?」

 中でも夏侯惇は思わず視線をしんのすけへ向けた。星だけの応援であれば何とも思わなかった。だが、自分にまで負けるなとはどういう意味か理解出来なかったのだ。彼女の失態はそこ。声が聞こえてしまったが故に考えてしまった。
 夏侯惇が視線を動かしたその瞬間、しんのすけ以外が呆気に取られた。試合の最中にそんな事をすればどうなるか。それを誰もが理解していたからだ。

 星はそんな夏侯惇に情けも何もかけず槍を動かす。あの文醜との戦いで決めた心構え。何が起きても動じない事。それが星を動揺させる事なく、しんのすけの言葉と夏侯惇の突然の行動にも対処させた。
 星の動きに気付き、夏侯惇が動こうとした時にはもう勝負はついていた。夏侯惇の喉元に突きつけられる槍先。しかし、星はどこか驚いていた。

「……やりますな」

「ふんっ! ……これが精一杯だったがな」

 星の視線の先には、自分を斬り上げようとする夏侯惇の剣があった。そう、星が夏侯惇をし止めようと一歩踏み込めば、その剣が体を襲う。つまり、これが実戦であれば、夏侯惇は星に命を絶たれているが、最低でも星へ痛手を負わせる事が出来ただろう。更に、上手くすれば相討ちにさえもっていけるかもしれない。
 あの瞬間、そんな動きを夏侯惇はやってのけたのだ。それに星は感心したという訳だが、それは最後の悪あがきと理解している夏侯惇はどこか不機嫌だった。曹操の前なら無敵と言ったにも関らず、何とか引き分けにもっていくのが精一杯だったのだから。

 そんな事を考え、苛立つ夏侯惇へ星は声を掛けた。

「夏侯惇殿……」

「何だ!」

 不機嫌な声を返す夏侯惇。勝ち誇られるとでも思ったのだろう。だが、そんな思惑をどこか外すように星は不敵に笑って告げる。

―――私はしんのすけの前なら負けませんぞ?

 それが、試合前に自分が言った言葉に対するものだと気付き、夏侯惇は怒りを覚えた―――のだが、すぐに何かに気付きそれを鎮めた。それに星は意外そうな表情を浮かべた。これで必ず怒るだろうと踏んでいたのだ。それをネタにからかおうとも思っていたのだから。
 そんな星へ夏侯惇は視線を向け、その心情を読み取ったのだろう。呆れたようにこう言った。

―――お前にとってのしんのすけが私にとっての華琳様なら、その言葉に怒る事などない。その気持ちは誰よりも分かるからな。

 そういう事だ。そう言って夏侯惇は曹操の前へと歩いていく。その背中を見つめ、星は呆気に取られる。しかし、すぐに立ち直り楽しそうに笑った。その言葉は、どこか愛紗も言いそうなものに思えたからだ。どこにも忠義者はいるのだなと、そう思い星は笑みを浮かべる。
 視線の先では、曹操から最後の余所見を指摘され反省する夏侯惇の姿がある。しんのすけは、そんな夏侯惇へ何かを言って怒鳴られていた。だが、荀彧がしんのすけに賛同しているようなので、きっと正論を言ったのだろう。そう思い、星もそちらへと歩き出す。

「春蘭、何を言われても動じないでいなさい」

「はい……」

「もー、しっかりしてよね」

「申し訳ありません……って、お前が言うなっ!」

「でもしんのすけの言う通りでしょ。あんな事、試合中に普通しないわよ」

 そこから始まるいつもの言い合い。それを聞きながら苦笑する許緒や夏侯淵。楽進は、しんのすけの言った言葉の意味が気になっているようで、先程から考え込んでいる。李典と于禁は賭けなくて良かったと言って安堵の息を吐いていた。
 曹操はそのやり取りを聞きながら、視線をしんのすけへ向けた。既に膝から下りて星の傍で何かを話しているしんのすけ。その表情はどこか嬉しそうだ。それに曹操はふと思った事があった。

「趙雲、ちょっといいかしら」

「何ですかな?」

「しんのすけは貴女の何なの?」

 その問いかけに星は躊躇う事無く答えた。夏侯惇にとっての曹操だと。それにさしもの曹操も呆気に取られ、やがておかしくて仕方ないとばかりに笑い出した。周囲も星の答えが面白かったのか笑い出し、星はそれに不敵な笑みを返すのみ。
 しんのすけは、そんな周囲に不思議そうに思うものの、それに呼応するようにいつもの高笑いを上げた。その様子にまた違う笑いが起き、こうして星と夏侯惇の試合は終わりを告げた……



 その日の夜、曹操の部屋に荀彧は呼び出された。

「お話とは何ですか、華琳様」

「桂花、趙雲を手に入れるにはどうしたらいいかしら?」

 そんな曹操の突然の言葉にも、荀彧は驚く事もなく答えた。

「今は諦めるしかないかと思います」

「どうして?」

「趙雲の目的はおそらく主君探し。であれば、全ての諸侯を見ない内は納得しないでしょう」

「……そう。つまり、全ての可能性を潰さないと私に心から従わないという事ね」

「御意」

 曹操はその答えに納得したように頷いた。自分の考えと同じだったからだ。星は自分が仕えるに相応しい者を探している。だからこそ、あちこちを旅している。そう、話を聞く限りは思っていたのだ。
 しかし、曹操にはもう一つ聞いてみたい事がある。なので、荀彧へ次の質問をぶつけた。

「では、しんのすけはどう?」

「それは……止めた方がよろしいかと」

 その問いかけに荀彧はそう返した。曹操としては、そんな彼女の反応が面白い。自分とは違う考え方だったからだ。故に聞いてみようと思い、無言で先を促した。

「しんのすけは子供です。ですが、趙雲はしんのすけをこう例えました。春蘭にとっての華琳様だと。つまり、しんのすけを主君かそれに近しいような存在を考えています。季衣達はあれを冗談か何かと取ったでしょうが、私はあれが真実と考えています」

「その根拠は?」

「二人の現状です。この時勢に子供を連れて旅をする。趙雲の目的からだとしても、どこか腑に落ちません。親類でもない子供を連れて行く必要性がありませんし」

「でも、しんのすけを主君のように考えていれば納得出来る……」

「はい。それに、しんのすけの異常性には、華琳様も気付いていらっしゃるかと」

 その荀彧の言葉に曹操は頷いた。名前の響きの珍しさ。更には、許緒の話では真名もないとの事。それらが示す事は、少なくてもしんのすけはこの大陸の者ではないという事。それだけでも妙なのだ。
 何よりも、曹操が感じた異常性。それは、その考え方。子供らしかならぬ部分が時折見えるのだ。それをおそらく荀彧も感じたのだろう。しかし、曹操はしんのすけを得るのはそこまで難しいとは思っていなかった。

「でも桂花、それならしんのすけを手に入れる事は趙雲を手に入れるのと同義ではなくて?」

「確かに普通ならそうでしょう。しかし、あの二人はどこか異質な関係と思われます」

 荀彧は語った。しんのすけと星の関係は主従のようで対等。であれば、どちらかが従わないのなら片方もそれに追従するだろう。つまり、しんのすけを引き止めようとも、星を引き止められないのならそれは不可能。
 そして、逆もまた然り。星が主君を見つけようとも、それをしんのすけが認めなければ仕える事はないだろうと。そこまで言って、荀彧はこう締め括った。

「華琳様がどうしてもあの二人を欲しいと言うのでしたら、今は善意で協力する方が良いかと思います。下手に仕官の誘いをするより、二人にはその方が有効です」

「……成程。趙雲はともかく、しんのすけは単純だものね。確かに今は恩を売る方がいいか……」

「ですが華琳様、一つだけご忠告を」

 曹操の思案を遮るように荀彧は声を発した。それに曹操は不思議そうな表情を返す。何か他に注意するような事があっただろうかと。曹操がそれを尋ねる前に、荀彧はこう言い切った。

―――趙雲はともかく、しんのすけは華琳様の敵かもしれません。

 その言葉には、明確な警戒心が込められていた。その理由を詳しく曹操は聞き出す事にする。そこで荀彧は語るのだ。しんのすけから聞いた桃香達の話を。
 あの思い出話から彼女が感じた事。そう、桃香の思想にしんのすけが与えた影響力だ。それを聞き、曹操がむしろ余計に興味を覚えるとは思わずに……



 それから数日後、しんのすけと星は陳留を後にする事になった。星は一度たりとも仕官の誘いを受けなかった事を疑問に思いながら、ならばと稟と風の事を尋ねる事が出来た。しかし、帰ってきた答えは、二人が仕官したという報告はないとのもの。
 それに星は愕然となったが、それを隠し調べてくれた事に感謝を告げた。鏡の情報も特になく、星は収穫なしと思いやや不満そうだったが、連絡に使っていた商人と出会い、もし稟と風に会った時のための伝言を預ける事は出来た。それに、しんのすけは許緒や楽進達といった友人を得た。そう思う事にし、無駄ではなかったと考えるようにした。

「では、夏侯惇殿、夏侯淵殿、お体にお気をつけて」

「うむ、また顔を出せ。お前との再戦を楽しみにしているぞ」

「お前も達者でな、趙雲。それと今度は、姉者と凪だけではなく、真桜や沙和も相手をしてやってくれ」

「そうですな。特に李典殿は私と同じ槍使いですし……昨夜のメンマ餃子をまた作って頂ける事で手を打ちましょう」

 この数日で何度か手合わせをし、互いを認め合い始めた星と夏侯惇。夏侯淵は、夏侯惇との繋がりで星を気に入り、最後の日にはメンマ餃子なる物を作り、最後の夕食に華を添えた。
 夏侯淵が星の最後の言葉に頷きながら笑い、夏侯惇はそれに食い意地の張った奴だと返す。そんな雰囲気でも、三人が武人として笑顔を向け合っている横では、しんのすけは許緒達と別れの挨拶を交わしていた。

「しんちゃん、また遊びにおいでよ。今度はもっと色んな遊びを教えて」

「うん、いいよ」

「しんのすけ、趙雲殿をあまり困らせないようにな。それと、今度は趙雲殿を手こずらせるという動きを見せてくれ」

「元気でね、しんちゃん。今度来た時は、もっと安全な街になってるのー」

「しんのすけ、あのからくり話はおもろかったわ。今度はじっくり聞かせてな」

「がくちゃんもうっちゃんもりっちゃんもお元気でね。オラ、みんなの事忘れないぞ」

 許緒とはあれからも数回共に遊ぶ事があった。鈴々との思い出のあっち向いてホイなどは、やはり盛り上がったのだ。楽進とは星絡みで接する事が多かった。早朝鍛錬にも何度か参加し、しんのすけの動きを見て感心した楽進。だが、星からもっと速く動く事もあると教えられ、それを見たくてしょうがなかったのだ。
 まぁ、それを星は敢えてしんのすけへやるなと告げていた。楽進の性格を考え、再会した際の楽しみにしようと思ったのだろう。

 于禁は一度休みにしんのすけと共に街へ出かけた。その際、二人は盗みの現場に遭遇したのだ。その際ふと漏らした警邏の愚痴に、しんのすけが告げた言葉が警備隊の効率化への道を作り出していた。おまわりさんはいないのとの言葉がそれ。
 それを詳しく聞き、交番などの要素を知った于禁はその日の内に楽進や李典と相談。三人で草案を作り、荀彧へ提出して指摘を受け、更に練った物が昨日曹操に提出されたのだから。

 李典とは昼食を共にした際にしたからくり話。しんのすけは簡単な仕掛けのからくりを見せてもらった際、カンタムロボのおもちゃの話を聞かせたのだ。その時は、しんのすけの思いついた話として李典は捉えた。バネを使って腕が飛ぶ仕掛けやボタンを押すと作動する点等、李典の発明家精神を大いに刺激する内容だったのだ。

 そんな風に二人と別れを惜しむ夏侯惇達を見て、曹操と荀彧は笑みを浮かべていた。無論、その質は同じではなかったが。曹操は夏侯惇達の様子に微笑み、荀彧はまるで仲間を見送るぐらいの雰囲気にやや呆れていた。
 それでも、彼女もどこか寂しそうだったので、あまり人の事は言えないだろう。しんのすけと星はそれぞれに別れの言葉を告げ、最後に曹操の前に歩き出て声を掛けた。

「曹操殿、荀彧殿、お世話になりましたな」

「もうちゃん、お部屋貸してくれてありがと。じゅんちゃんは……何となくありがと。オラ、楽しかったぞ」

「ちょっと! 何となくって何よ!」

 しんのすけの言葉に怒る荀彧。それを横目で見て微笑む曹操。そして、怒りが収まったのを見て、二人へ返事を返す。

「別に礼を言われる事ではないわ。それに、楽しませたつもりは無かったわよ。しんのすけも趙雲も達者でね」

「趙雲、あんた達がこれからどこへ行くか知らないけど、少ししんのすけの言葉遣いに気をつけさせなさい。相手によっては酷い目に遭うわよ」

 曹操は二人の言葉に苦笑した。心からそう思っていたからだ。世話したのは自分がしたかったからなのだ。楽しんだとすれば、それはしんのすけが自分でそう思っただけなのだから。
 一方、荀彧は星にしんのすけを心配して忠告した。数日とはいえ、しんのすけの利発さに感心していたので、彼女個人としてはその行く末をどこか若干楽しみにしていたのだ。まぁ、曹操の軍師としては少々複雑な心境ではあったが。

 荀彧の言葉に星はしっかりと頷き、しんのすけは少し嬉しそうに頷いた。荀彧の言葉が心配してのものだと気付いたのだろう。そんなやり取りを終えた二人へ、曹操はこう告げた。もし恩義に感じたのなら、いつか返しに来いと。それに星は苦笑し、しんのすけは分かったと声を返した。
 そして、最後にこう星へ言った。

―――一度洛陽に行ってみなさい。貴女としんのすけは今の都を見た事がないでしょ?

 その言葉に星はふむと呟き、目的地を与えてくれた事に感謝して、シロを連れてしんのすけと共に城を去った。

 こうして、しんのすけと星は次の目的地へ向かう。それは、大陸の首都である洛陽。そこでは、どんな出会いが待つのだろうか。そんな事を思いながら、しんのすけは歩く。
 目当ての二人に会えなかった事だけが不満ではあるが、しんのすけも星もその無事を疑ってはいない。いつか会えると、そう信じているからだ。

「次はみやこですかぁ。一番大きい街ってホント?」

「そうだ。些か不安もあるが、私も楽しみにするか。如何なるメンマがあるのだろうか……」

「クゥ~ン」

 青空の下を歩きながら笑みを浮かべるしんのすけ達。次に訪れる先が都と聞き、期待に胸を膨らませるしんのすけ。星はそんな様子に笑みを見せながら、好物のメンマに思いを馳せる。シロはそんな星にやや呆れるように声を出し、項垂れながら歩く。
 三者三様の表情を見せながら彼らは行く。ここで得た縁と思い出を胸に次の街へと……



「それにしても、趙雲が捜している者達の情報も無かったとはね」

 二人が去った後、執務室で仕事しながら曹操はふと呟いた。それを聞き、荀彧も頷いた。星から聞いた名前の者達はいなかったのだ。黄巾の乱の最中やその後に仕官した者の中から、文官として採用した者限定で捜したのだが、該当する者が見つからなかったのだから。

「はい、戯志才と程立と言う者はいなかったものですから。ただ……」

「ただ?」

 荀彧の言葉に不思議そうな表情を浮かべ、曹操は続きを尋ねた。それに荀彧はため息混じりに告げた。似た名前の者が一人だけいたと。ただ、同時に仕官した者の名前が余りにも違うので、その者も別人だと判断したのだと。

 星は一つ思い違いをしていた。稟と風が仕官するなら仕方なくしたのだろうと考え、稟の名前を正しく伝えなかったのだ。そう、偽名を使っているだろうと。更にそこにある出来事も加わり、再会は果たせなかったのだから。
 そんな荀彧の報告を聞いて、曹操は興味を抱いたのかその者達の名を尋ねる。それに荀彧は調べた際見た記述を思い出し、告げた。その名は……

―――郭嘉と程昱です。

こうして運命はすれ違う。
再会の日は遠く、しんのすけ達は二人の近くに来ていた事を知らないまま、また離れていく。
絆が再び絡み合うのはいつの日か。それは、誰にも分からない……




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これにて魏軍との出会いは終了です。本格的に絡むとしたら、結構楽しそうな場所です。春蘭とか桂花とか凪とか……書くのは大変でしょうが

次回は洛陽。ですが、当然彼女はまだいません。代わりに会えるのは……


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