カァー、とカラスが鳴く頃――ちなみに某オヤシロ様が「シュークリーム!」と叫んで猟奇事件が起こるわけではないのでご安心を――夕焼けで染まる教室内で帰り支度をしている俺とドラえもん。箒は寮の部屋に届いた荷物を整理するために先に帰っている。
今日一日が終わり、さっさと家に帰って晩飯の用意をしないといけない。そうだな、今日は折角の入学初日だし、ちょいと豪勢に振舞うか。冷蔵庫の中に何が残っていたのか思い出す。んー、あまり材料がないな。仕方ない、帰りにスーパーに寄るか。
「ドラえもん、帰りにスーパーに寄るけどいいか?」
「うん、いいよ。ボクも帰り道にどら焼きを買っていこうかなと思ってたしね」
はは、ドラえもんらしいな。どら焼きか……俺も買おうかな。あそこの和菓子屋のどら焼きは安くて美味いのが実にいい。おばちゃん、いつもありがとう。
「それじゃ暗くならないうちにいこっか」
「そうだな。鞄も持ったことだし、行くか「あ、織斑くん、ドラえもん」……山田先生?」
呼ばれて顔を上げると、其処に大きなメロンがあった。じゃなく、副担任の山田先生がいた。今日一日の終わりを告げる素晴らしい胸の提供をありがとうございました。
富竹☆フラッシュ! バッチリと脳内保存させてもらいました!
「やれやれ……相変わらずスケベ心丸出しだね、きみは」
「うおい!?」
呆れて苦笑しているドラえもん。仕方ないだろ、15歳の健全な思春期真っ最中の男の子なんだよ。
「お、織斑くん!」
「あ、はい」
顔を赤くする山田先生は人差し指を立てて、こう言った。
「え、えっちなことはいけません!」
……織斑一夏、山田先生の≪まほらさんボイス≫で精神ダメージ9999を喰らった。
ぐふっ(吐血)……へんじがない。ただのしかばねのようだ(by ドラえもん
『学園生活は出逢いと波乱万丈の幕開け!~おわり~の巻』
あ、危なかった。あと少しで俺の魂(メモリー)がメモリーブレイクされるところだった。恐るべし、山田先生マキシマムドライブ――こいつは風都のライダーも真っ青の一撃必殺技だ。
「こほん。えっとですね、織斑くんとドラえもんの寮の部屋が決まりました」
へ? 確か一週間位は自宅から通学する話だと聞いたが変更になったのか。
ドラえもんを見ると≪?マーク≫が頭上で咲きまくっている。顎の下に丸い手を置いて首を傾げているところを見ると、どうやらドラえもんも知らないようだ。
「たしかボクと一夏くんの部屋はまだ決まってないと聞いたのですが?」
「それが、お二人の事情が事情なもので急遽決まったのです。それで部屋割りを一時的に無理やり変更して……うぅ、おかげで書類が増えて大変でしたよ。あ、そういえばその辺りのことを政府から何か聞いてませんか?」
政府か。あのニュースの後、毎日家に押しかけては質問やらインタビューやら、終いには「素晴らしい! 君の無限の可能性を秘めた欲望にハッピバースディ!」とテンションが異様に高いおっさんから無駄に手作りが凝ったケーキを貰ったけ。結構美味しかったな、あのケーキ。今度会ったら作り方を教えてもらおっと。
「いや、聞いていないというか、二度と来るな変質者というか……」
いや、あまりにもしつこいもんで……ドラえもんが出したドンブラ粉(改)で、ちょっと退場してもらった。沈んでいったけど大丈夫。日本各地に散らばるだけだから。
だ、だってな……腕に不気味な人形を乗せる眼鏡をかけた学者(なのか?)に「これは実に興味深い。私が開発したバースの実験体になるにはいい素材だ」と不気味なことを言うんだぞ。怖すぎや、あれ。
「そういうことなので、政府側から寮に入ることを優先的にしたみたいです。一ヶ月もすればお二人の相部屋を用意することが出来るので、しばらくは他の人との相部屋で我慢してください」
「それはいいのですが、他の人と一緒にってことは……じょ、女子と一緒なのですか?」
「え、ええ、そうなりますね……えっちなことをしてはいけませんよ?」
近い近い! 先生、耳元で囁かれたら息が当たります!
なんて高度テクニックなんだ。俺の秘孔を正確についてくるとは……これが噂の北斗≪性≫拳伝承者の実力なのか。恐るべし中国四千年の歴史、いつか海を渡って教えを乞いたい。
「し、しませんよ!」
「どうだろうね? 一夏くん、ちゃんと相手の同意を得てからやらないとダメだぞ」
「素晴らしい助言をありがとう。……っんなわけないだろ! ドラえもん、お前は俺の事を普段どう見てるんだ!?」
「んー、エロ魔人?」
「ぜ、絶望した! 親友の一言に絶望した! OK、DORAEMON。表に出ようか?」
「だが断る」
「岸○露伴!?」
互いの頬を引っ張り合いながら喧嘩をする俺達。こうやって喧嘩をするのも久しぶりだなと思っていると、阿修羅が降臨した。
「お前達は何をしてるんだ」
「「げっ!? ケンシロウ!!」」
ひでぶっ!? 脳天に岩山両斬波を喰らい――織斑一夏、ドラえもん、ダブルノックダウン。
「誰が胸に北斗七星の傷跡がある救世主だ。喧嘩をしている暇があるならさっさと部屋に行け」
「いてて。それはいいけど、一旦家に帰って荷物を纏めてこないと」
「問題ない。大丈夫だ」
ぱちんっ
神の指パッチン。それと同時に机の上にボストンバッグが二つ現れる。ど、どこから出たんだ。
「お、織斑先生。これ今どこから……」
「企業秘密だ、ドラえもん」
「さ、さいですか」
なんつうスキルだ、千冬姉。無駄に格好いいから惚れるてまうぞ。
まだ残っていた女子たちが「流石、千冬お姉さま!」と騒いでいる始末だ。
「その中にお前たちの必要最低限の荷物を入れておいた。着替えと携帯充電器だけあれば充分だろ。週末まではそれで我慢しろ。あと織斑、秘蔵の本は入れていないから安心しろ。実家に帰ってから堪能しておけ」
「有難くもない心遣いありがとございます」
乙、俺の精神はもう無理ぽ。滝の如く涙を流していた俺にドラえもんが同情した顔で肩をぽんと叩く。うぅ、その優しさが身に染みるぜ。
「えと、これが織斑くん達の部屋の鍵です。あと夕食は六時から七時の間、寮の一年生食堂で取ってください。各部屋にはシャワーがついてますが、大浴場もあります」
お、風呂があるのか。シャワーよりも風呂好きな俺にとっては喜ばしいことだ。
ドラえもんも風呂好きだったな、そういえば。あとで一緒に行くか。
「なんですが……織斑くん達は使うことができません」
「え? なんで?」
「お前は馬鹿か? 同年代の女だらけの浴場で男二人(いやドラえもんはロボットか。まあ性別は男だからいいか)が入ったらどうなると思う?」
ああ、なるほど。確かにそれはまずい。下手したら変態紳士と不名誉な二つ名がついてしまう。
「女子と一緒に入りたいのですか! い、いけませんそんな淫らなことを……」
「いや入りませんから!」
「え……ま、まさかソッチ系の方なんですか!! 駄目です! そんな人の道を外した行為をしては! ここは先生である私が一肌脱ぐしか……ああ、そんな、先生と生徒と二人っきりでそんなことを……もう、もう私……我慢できません!」
「駄目だ、この先生。早くなんとかしないと……」
「一夏くん、ショックガン使う?」
気絶させろと仰るか、この猫型ロボットは。
「漫才はその辺にしておけ。お前達はさっさと各自の部屋へ、寄り道しないで真っ直ぐ帰れ」
「了解」
「はーい」
あしらうように手を振る千冬姉に別れを告げて、俺達は寮へと向かった。
後ろから『メキャ』「アー!」と聞こえたけど、気にしない。気にしたら負けだ、うん。……山田先生、明日無事に会えることを祈っています。南無三~
~おまけ~
「1025号室……ここか」
「ボクはこの隣の部屋だね。一夏くん、部屋に入った瞬間にひと騒動を起こさないでよ」
「HAHA、何を言うかね君は? そんなことがある訳がないだろ」
「過去の前例があるから説得力がないよ。それじゃ、また後でね」
「おう」
「へ~、結構広いな。しかし相方の姿が見えんが、どっかに行ってるのか?」
『ガチャ』
「すまない。先にシャワーを使わせてもらった」
「へ?」
「ん? 何を呆けている? あ、あまりじろじろ見るな……恥ずかしいだろ」
「あ、あの、箒さん?」
「なんだ?」
「……なして貴女がここにおられるのですか? あとバスタオル一枚だけというシチュエーションはかなり美味しい俺得ですハイ」
「ここが私の部屋だからだ。そしてお前の部屋でもあるが、何か問題でもあるのか?」
「いえ、何も問題ありません。あ、一つだけありました」
「ん?」
「なぜ俺の腕を組んでいるのですか? 気のせいか、柔らかな桃源郷が当たってるのですが……」
「…………同じ部屋者同士だ。よろしくな、一夏(顔を赤くして上目遣い)」
「イエッサー!」
「今、一夏くんの声が聞こえたような?」
「どうしたの、どらっちー?」
「うーん、気のせいかな? あ、のほほんさん。どら焼きを持ってきたんだけど、一緒に食べる?」
「おお~! いいね~! うん、いただくよ!」
~つづく……燃え尽きたぜ、とっつぁん~