院雅除霊事務所でGS試験合格パーティーだが、その前に南部ホールディングスの蛇髪ことメドーサと打ち合わせを行う。
メドーサが蛇髪として来るときは、南部ホールディングスでの不動産関係の持株会社や関係会社の除霊をビジネスライクに進めるが、今回は次回の除霊の話とともに、GS試験合格パーティー用に贈り物として、南部ホールディングスの持株会社であるデパートの商品券をもってきた。
今度の南部ホールディングスからの依頼は、まるで今回GS試験に受かった雪之丞とユリ子ちゃんにあったような少数騒霊タイプがいる場所だ。
まあ、元々、院雅除霊事務所やその分室が除霊を受けるのは土日祝日とその前日の晩だから、急ぎの除霊はまずこないし、きても断るからな。
さらに、依頼元である南部ホールディングスの芦優太郎が失脚されかねない者を受けそうなら、メドーサが後で知らせにくるし。
安心はできないが、今のところ、足元をすくわれるような依頼はきていない。
芦優太郎もといアシュタロスが、まだ、信頼はできないが。
魔族は、時間をかけて人の心の内に入ろうとするタイプもいるからな。
蛇髪が帰ったあとに、いよいよGS試験に合格した二人のためのパーティーを行う。
院雅さんからは、
「伊達雪之丞、加賀美ユリ子。難関であるGS試験を二人して合格おめでとう。これまでも大変だったと思うけれど、今後は、きちんと、師匠になる人と話し合うことが重要よ。特に、伊達!!」
雪之丞は顔をしかめる。
ダテ・ザ・クラッシャーとの異名は、いまだはがれないので、横島自身も頭が痛いところだ。
「それから、加賀美は師匠変更をすること」
「えっ?」
ユリ子ちゃんも聞いていなかったらしく、思わず声を上げた。横島も聞いていないが、ある種の予感はあった。
「私じゃ、加賀美の力量を伸ばすのは、もう力不足だわ。刀剣に関してはもうすでに横島の方に師事しているようなものでしょう? これでいいたいことはわかったわよね?」
ユリ子ちゃんの表情は困惑から、納得したような風になっていく。
「そう。正式な書類は今度の金曜日にでもなるけれど、師匠替えを行うわよ。だから、がんばってね。横島」
「うーん」
横島は、ここでさすがにうなる。
GS見習いをすでに2人(ひのめちゃんに、予定だった雪之丞)を受けもって、さらに1人追加?
他にもGS助手としておキヌちゃんがいる。
そうして反論を繰り出してみる。
「えーと、それだと俺が見るGS見習いが多すぎるのと、院雅さんは、一人も助手とかいなくなりますよね?」
「あー、その話。GS見習いは、美神がそろそろGS資格に達成するでしょ?」
うっ、その通り。横島がだまっていると、不安げに見ているひのめがいる。
「横島は書類の把握と提出が遅すぎるわよ。だから、美神もわかるとおりに、霊障に対応する能力は横島が上でも、書類関係あたりをよくみてあげるようにして、分室を二人で見ていくようにしなさい」
「へーい」「はい」
横島は、仕方がなくと、ひのめは自分が別に横島と離れることになるわけではないんだと安心した。何せ、横島の一番の難敵は書類だから。
「それで、雪之丞は、基本的には神魔出張所に出向いていることが多いだろうけど、氷室とのコンビネーションを組む仕事を多くとるようにするから、その連携をきちんとみるようにね。横島」
「えーと、そうすると分室はふたチームを原則とするんですか?」
横島にとって、予測外の展開でこうした疑問がでるのと同時に、ひのめもちょっと不安そうにする。
「前衛は加賀美、後衛は美神に氷室、中間に横島が中核となるフォーメーションを取ることになるでしょうけど、それは除霊対象によって、雪之丞が入ることによってどう変更するかは自分で考えなさい。これがあなたの今後の課題よ」
「そうですか。分室はわかりました」
そう言って、横島はまわり見渡す雅を、ここまでの院雅さんの説明に不満や、不安を持っている者はいないようだが、疑問が残っている顔つきをしている。
「それで院雅さんは、一人になるようですが、どうするんですか?」
「もう少し、後で話すつもりだったけど、仕方がないわね。六道学院の1年生からGS見習いとして1名来る予定です。すでに顔合わせもしていて、今回のGS試験で二人とも受かったら、GS助手として引き受けるという話になっているわ」
「六道夫人には、自信があったんでしょうかね?」
GS試験会場でのユリ子ちゃんが合格するかどうかの話を頭に思い浮かべながら院雅さんに話してみる。
「そうね。五分五分とみていたんじゃないかしら?」
「今回のGS試験合格が二人ともが五分五分だとー」
雪之丞がいきりたつが、もう一人の試験合格者であるユリ子ちゃんは、
「祖父から言われたのですが、『受けたことは無いが、GS試験は実力だけでなく、運・不運が大きく関係する』と聞いたことがあると言われました。決して油断するんじゃないぞ。まわりからの妨害工作なんかも気をつけてな、って言われていました」
さすがユリ子ちゃんの爺様だ。
GSじゃないのに、本質を理解しているようだ。
「せっかくの料理が冷えてしまうわ。GS試験合格祝いのパーティーをまずは始めましょう。けれど、今後の方針も『話していくから、そうしない?』
院雅さんから断定調ではなく、疑問形で投げかけられるのは久々だ。
皆もだまってうなずいた。
「それじゃぁ、伊達に加賀美、GS試験合格おめでとう!!」
「「「合格おめでとう」」」
こうしてGS試験合格パーティーが始まったが、合格パーティーとは名ばかりの院雅さんへの質問が集中が始まった。
「新しいGS見習いってどの娘が来るんですか?」
「岸田亜由美っていう娘よ。知っているかしら?」
六道学院に通っている、ひのめちゃん、ユリ子ちゃん、おキヌちゃんが考え込んでいる。
俺も何か聞いたことが感覚はあるような気はするのだが、一緒に仕事をするほどのレベルではなかったのであろうか、覚えていない。
「その様子だと、その一年生の娘を知らないようね」
残念なように、六道学院組は互いに顔を合わせている。
院雅さんは、
「そうね。実力はほどほどにありそうだけど、目立つタイプの娘じゃないわね。私と同じく、符術が主体で、しかも西洋系なのよね」
「符術?」
「そう、無敵の盾(イージス)理論を主体としているのだけど、攻撃力の不足と霊的に直接的な防御力が貧弱そうだから、基礎からあげていかないといけないでしょうね」
そういえば、無敵の盾(イージス)理論だけど、あくまで補助としてしか活躍していなかたったGSがいたなとおもいだした。
「無敵の盾(イージス)理論というと、相手の霊力を吸い取るタイプですか?」
「そうね」
「対魔族には、向かないと思いますが」
「対魔族を念頭に置いているGSは非常に少ないのよ。もう少し頭を普通に切り替えた方が良いわよ」
いかん。一般のGSのレベルとかけ離れてきているのを認識がずれてきていたようだ。
「了解っす」
こうして、院雅除霊事務所と、分室のすみわけの方向性はなんとなく見えてきたが、ここで、重要なことを確認する
「六道夫人が、何気なくもらしちゃったのですが、冥子ちゃんとの共同除霊が増えるとか?」
「あら、そんなこと言ってたの? 横島は大丈夫よ」
「俺は大丈夫?」
「そう、今までと同じくらいのペースで受けるつもり」
「そうですか……」
今までのペースでも心理的には結構負担なんだけどなと思ったところで、院雅さんから爆弾発言が飛び出す。
「増える分は、美神が担当することになる予定だから」
「……えー!!」
この日一番の大声がひのめちゃんから飛び出した。
確かに、冥子ちゃんが除霊で周りが壊滅的なダメージが発生するというイメージは今でもあるし、実際に少ないながらもいまだに発生する。
最近。そのまわりを破壊しているのは、鬼頭が一緒の時ばかりだということで、カオスのおっちゃんか、マリアの経験不足からくる計算ミスが遠因なんだろうけどな。
俺から、ひのめちゃんにかける言葉は、
「十二神将にダメージを与えれば、無事に帰れるよ」
ひのめちゃんは顔をひきつらせながら
「ええ」
と答えていた。院雅さんからは他にも、
「今年の一年生の海の除霊実習参加は無し。二年生の山の除霊実習は、依頼があるかもしれないけれえど、横島は不参加ね」
「不参加でOKなんですか?」
横島は内心は安心しながらも問い返す。
「そうよ。その頃にはGSになっているだろう美神がいるし、GS見習いの加賀美、そしてGS助手の氷室がいるのよ。これ以上は、必要ないでしょう?」
確かに昨年のような海の除霊でもなければ、この3人がいれば大抵のクラスAの除霊は問題なさそうだ。
こうして、質疑応答で進んだ、パーティーだったが、最後に雪之丞が、
「そういえば、こういうのが好きそうなヒャクメはどうした?」
まだ、あの事件は解決しないのかなと思いながら、院雅さんからの返答を待っていると、
「そうね。韋駄天の事件を美神令子事務所と一緒におおこなっているみたいだけど、まだ、未解決みたいね」
俺は八の字のTシャツを連想しながら、げんなりした。
「韋駄天も元は鬼だし、ヒャクメも元はといえば鬼の一族だし、鬼の対立ですませたいのでしょうね」
小竜姫さまと、メドーサの竜族同士の対立という関係にもっていきたいのか。
こうしてGS試験合格パーティーは進んで、お開きとなったが、最後におキヌちゃんからは
「近畿銀一さんかのサインはもらえないんですか?」
神通棍の謎だけでなく、単なるファン心理の話も忘れていた横島はダメージを負って、部屋に戻って倒れこむように眠りについた。
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岸田亜由美って名前はエリアルからきてもらいました。
2013.06.15:初出