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No.26628の一覧
[0] ヴィレッジハンター[xyz](2011/03/21 21:03)
[1] 名も無き男[xyz](2011/04/03 16:20)
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[26628] ヴィレッジハンター
Name: xyz◆3bba7425 ID:71705bb6 次を表示する
Date: 2011/03/21 21:03


 
                  『 村 狩 人 』




村外れに建てられたボロ小屋の壁に書かれた依頼の中から、引き受けた仕事を確実に遂行する凄腕?の仕事人の噂は、
二つ隣の村まで知れ渡る程度には有名であったが、依頼だけで食べていけるほどの仕事は集まっていなかった。
そもそも『村狩人』に依頼しなければならないような、村の揉め事や雑用の数は多寡が知れており、
日々の生活の糧を確実に得るために『村狩人』は、同じ村の幼馴染が切り盛りする小さな食堂での賃仕事に追われていた。


「それじゃ、ハイネは今日も依頼が無いみたいだし、暇なんだよね?
 隣村に大豆を買い付けに行って貰いたいと思ってたから、丁度良かったわ」

「おいおい、馬鹿を言っちゃ困るぜ?俺は闇に生き、闇へと消える
 裏の世界を疾駆する『村狩人』だ。子供のお使いは余所にってぇえー!?」

「次に、口答えしたら、このナイフがアンタの右目をぶち抜くからね?」


顔の横に突き刺さったナイフを投擲した幼馴染のリリカの目が笑っていないのを見て取ったハイネは、
二本目のナイフをカウンターの前で弄ぶ恐ろしいナイフ使いの『依頼』を快く引き受けることにする。
『村狩人』はプロの仕事人である。依頼を選好みするような素人とは違うのだ。
少女から大豆の買付代の入った小袋を受け取った彼は、活動拠点の店をそそくさと出て、目的地へと向かう。
『仕事はスピーディーに』、これはプロが仕事を請負う上での初歩の鉄則である。




「畜生、リリカの野郎の人使いの荒さは相変わらずだな
 それに何かとナイフで脅してくるのも気にいらねぇー」


隣村に続く細い街道を歩きながら、ハイネは理不尽な依頼人への不満を漏らす。
ただ、依頼人が気に入らないからと言って断るような事はしない。プロは『仕事に私情は挟まない』ものだからだ。
もっとも、まだまだ駆け出しのハイネは依頼人に対する不満黙って耐える事は出来ず、
彼女の居ない場所で愚痴を度々溢して、ガス抜きを良くしていた。


「相変わらず二人は仲が良い。ふふ、聞いている私の方が恥ずかしくなってくるよ」

「おいおい、レイア?俺の話をどう解釈したら、俺達が仲良いなんて事になるんだ?」

「さて、何でだろうね?」


ハイネのいつもの愚痴を、普段通りに聞き流すのは、
行商人の護衛をするなど、傭兵稼業生業にしているレイアだった。
隣村までの街道には、それほど強くは無いが、ポツポツとモンスターも出るし、
盗賊と言った厄介な存在も居ない事は無いので、お使いをさせる際に、リリカは必ず大切な幼馴染に護衛を雇っていた。

いっそのこと、レイアに小麦の買付を頼めば無駄を省けるのだが、
『施しは受けない』と妙なプライドを持っている男に小遣いや生活費を与えるために、
定期的にお使い仕事を作ってやっていたのだ。
そのへんの事情を言われずとも察しているレイアは、リリカの頼みをいつも破格の護衛料で請負ってやっていた。
駄目な男に尽くす素直になれない少女の事を、美しい女傭兵は好ましく思っていたのだ。






「さて、私も買いたい物は全て揃えたし、君も仕事の方は無事に済ませたようだが
 今からクラバ村に戻ろうとすると、途中で夜になる。今日は此処で宿を取るとしよう」

「そうだな。プロは常に安全策を取って、無用な危険は冒さないって言うからな」


背中の背負った荷袋に大豆を一杯詰め込んだハイネは、レイアの提案に頷いて、ロルジ村で一番の安宿へと足を向ける。
お使いに来た際は、その宿にいつも宿泊し、彼等は旅の疲れを癒していた。



壊れかけた扉を押し開けて安宿に入ると、いつもと変わらずに無愛想な宿屋の親父がカウンターで肩肘をついている。
商売っ気のない相変わらずの親父に苦笑いを零しながら、レイアは親父に二部屋分の宿代を払う。
カネを受け取った親父は、錆ついた鍵を二本渡すと、さっさとカウンター奥の部屋へと籠もってしまう。
どうやら、六部屋だけの客室しか持たない宿屋の空き室は、残り二つだけであったらしい。


今にも穴が開きそうな音を立てる階段の床板、ギギッギと音を立てる扉の奥にある固いベッド、
粗末なテーブルと小さな椅子が二つだけが置かれたボロ部屋…
駆けだしの『村狩人』が泊れる部屋は、とても粗末な物だったが、ハイネはそれに文句を言う気は無かった。

いつか、自分は『町狩人』になり、やがては憧れの『都市狩人』へとなった暁には豪勢な宿に泊まる事になるのだ。
それまでの下積み時代が多少貧しくても、辛いこととは全く思わない。
夢の実現を疑わない限り、若者は幸せで居られるのだ。
そして、それは成功した老人がどれだけカネを積んでも、決して手に入れる事の出来ない若者だけの特権であろう。





「ネバネーバにドロリンが五匹ずつか、遭遇した数は往復で考えたら少し多いくらいか?」

「そうだね。君もそれなりに腕をあげているようで感心したよ
 この分なら、私が護衛に付かなくても良い日も、直ぐに来そうだ」

「そうか?そう言って貰えると嬉しいぜ。真面目に訓練した成果だな
 まぁ、レイアと一緒に隣村に行けなくなっちまうのは、惜しいけど」

「おやおや、そういう事は、心配して村の入り口で待っている娘には
 聞こえない所で言うように気を付けてくれよ。君は少し迂闊だからね」


褒められたと思ったら、直ぐに窘められて、ほんの少し不貞腐れた顔をする少年に苦笑いする女傭兵は、
彼を置き去りにするような速さでクラバ村の入り口に向かって走り出す。

クソったれな戦場を何度も経験してきた彼女に取って、
ハイネやリリカ達と暮らす村での生活は、とても大切な物になりつつあった。











「そろそろ村一番の『村狩人』に対する依頼が集まってそうだな
 ちょっと小屋の方まで行ってくるわ。昼までには戻って来るよ」


「なーにが、村一番よ!こんなちっちゃい村には
 アンタ以外に『村狩人』が居ないだけでしょっ!」

「うっせ、とにかく村一番なのは本当なんだからいいだろ!」

「はいはい。分かったから、どうせ依頼なんて無いだろうし
 ちゃんとお昼までには帰って来てよね。ご飯用意しといてあげるから」


自分の言葉に生返事をしながら、村の外れにあるボロ小屋で依頼が無いか、
確認するために飛び出すハイネを見送ったリリカは、何度目か分からない溜息を吐く。
幼い頃からお調子者だった男の子は、少年になっても相変わらずで、
荒唐無稽としか思えない夢に向かって無謀な挑戦をし続けているのが、彼女の頭痛の種であった。

辺鄙な村で『村狩人』ゴッコを自分の目の届く場所でしている内はまだ良いが、
もっと大きな町へ出て、自分の実力を試すなどと、身の程知らずの事を言い出さないか、気が気ではなかった。
少女の理想としては、両親が残してくれた小さな店を二人で何とか切り盛りして、
裕福では無くとも暖かい家庭を築いていくという現実的な未来図があったのだが、
その未来図を共に描いて行く筈の相手に、その気が全く見えないのが辛い所であろう。




「はぁ…、なんで男の子って、危ないことばっかりしたがるんだろ?」

「さて、どうしてだろうね。少年を虜にする『夢』というモノは
 オンナが理解しがたいモノと、昔から決まっているらしいからね」


「レイアさん、そんな他人行儀なこと言わないで、ハイネの馬鹿を説得するの
 手伝って下さいよ~。レイアさんが才能無いってバッサリ切り捨ててくれれば
 分不相応で荒唐無稽な誇大妄想の『夢』を、きっと諦めてくれると思うんです!」

「やれやれ、君の心配症なトコロも相変わらずだね。妹の様に思っている
 君の頼みとあれば、私も出来得る限り力になりたいとは思うが、難しそうだね
 彼は自分で決めた『夢』を簡単に諦める男じゃない。君が一番知っているだろう?」



「はぁ~、あいつの馬鹿だけど、妙に頑固な所はちっちゃい頃から変って無いんですよね」

「そういうトコを含めて、君はハイネのことを慕っているのだろう?」

「それは…、そうなんですけど」



ハイネが店を出た後に、リリカの店に朝食を取るため訪れたレイアは、かわいい妹分の愚痴を楽しそう聞いてやる。
口では文句を言う少女が、心の底から幼馴染のハイネを心配し、慕っているのを知っているため、
彼女の不平不満は、レイアにとっては大変微笑ましいノロケ話のような物だったのだ。

また、少し年下のハイネやリリカに人生の先輩として、年長者面出来るのも彼女には楽しかった。
これまでに幾度となく、死線を乗り越えて来た女傭兵であったとしても、彼女は未だ年少の身で、
戦地では一番年下のため、実力を正当に評価される事無く、下端扱いされることが殆どであった。
後輩相手に偉そうに先輩風を吹かせるのも、この村に来て初めて味わう経験であった。


共に両親を亡くした少年少女と交流していく内に、
戦いに疲れた戦士は、自然と彼等の教師役を担うようになっていた。







「えっと、『畑の用水の枠板が外れたので直して欲しい』に
 『お人形のメルナを探して下さい』か、碌な依頼がないな」


村外れのボロ小屋に書かれた自分への依頼を見つめながら、少年は不満を漏らす。
レイアの指導を受けながら、低級モンスターが相手なら、十分勝負が出来る程度には成長したというのに、
舞い込む依頼は昔と変わらず、子供のお使いレベルのものばかりだったのだ。

もっとも、親を早くに無くした自分が、ここまで大きくなれたのは、幼馴染のリリカの両親の援助や、
ここで簡単な子供でも出来る仕事を与えてくれた村人達の好意の御蔭だと、ハイネも分かってはいたので、
大した仕事でなくとも、自分で請け負える仕事であれば、村人からの『依頼』を断る事は無かった。


その妙に義理堅い姿勢が、村人達から高く評価され、少年は一目置かれるようになっていたのだが、
『調子に乗り易い少年を増長させるような真似は慎むべし』と、
村の年寄衆が戒めの意味で、その事実を本人に伝わらないようにしたため、
ハイネはその評価を知らず、未だに自分が一人前の男として認められていないと考え、
持つ必要の無い憤りを抱えることになっていたのだ。



「おぅ!助かったよ。一人で直そうとしたら日が暮れちまってただろうな」

「ったく、ちゃんと小まめに補修しないから、ちょっと大雨で苦労することになんだよ」

「いやいや、面目ねぇ。ハイネの坊やの言う通りだ」

「はぁ、田吾作のオヤジには、ガキ扱いされるし
 朝はちびっ子の人形探しで村を走り回る始末…」


キッチリ『依頼』をこなしたハイネだったが、つまらない雑用の連続と肉体作業が堪えたのか、
依頼人の農夫のオヤジの前でワザとらしく、何度も何度も盛大な溜息を繰り返していた。

そんなハイネの姿に吹き出しそうになるのを堪えながら、
中年の農夫は少しばかり若者を喜ばしてやろうかと、要らぬ親切心を出してしまう。

彼は、はぐれ飛竜の幼生が騎士団に手傷を負わされ、
クラバ村から少し離れたルーヴェンの森に逃げ込んだらしいという話を、冒険に飢えた少年に与えてしまったのだ。

無論、その迂闊さに男も直ぐに気付いたのだが、少年の行動の早さは想像以上の物で、
無謀な行動を制止する間もなく、ハイネは村で唯一の冒険者ギルドに向かって駆けだしていた。


手負いで幼生とはいえ、上級モンスターの下位に位置する飛竜を狩れば、一気に自分の名は上がり、『都市狩人』への道が一気に開ける!
高まる期待と鼓動に突き動かされながら、村の中心へとハイネは駆ける。





「どうした坊主?息切らしてウチに駆けこんで来るなんて、嬢ちゃんと喧嘩でもしたか?」

「うっさいぞ禿げオヤジ!!ごちゃごちゃ言ってないで、俺の剣をさっさと出してくれ!」

「分かった分かった。ネバネバかドロドロリの退治でも頼まれたか?
 それとも、今日は強敵のトビッチ相手に空中戦でも繰り広げるか?」


豪快に笑いながら剣の状態を素早く確認し、ハイネに投げてよこした厳つい禿げ頭の男、ガルゴは、
ギルドのマスターであるだけでなく、ハイネの体術の師匠でもあった。
一昔前まではマッスルボディを活かし、『町狩人』として大活躍だったらしいが、
股関節を痛めた以後は、引退し、ハイネのような駆け出しの世話を焼きながら、ギルドのマスターを務めるようになっていたのだ。

もっとも、平和なクラバでは、大した仕事も無く、お使い仕事の仲介や護衛の斡旋が大半であった。



「今回は、そんな小物相手なんかじゃねーよ!相手はあの『飛竜の幼生』さ!
 オヤジのトコにも情報は入ってるんだろ?飛竜の幼生が近くに逃げて来たって」

「ハイネ…、剣を返せ。あれは子供が相手を出来るヤツじゃない
 追手の騎士団が到着するまで待つんだ。遊びとは訳が違うんだぞ!」

「そんな事は俺だって分かってるよ。でも、相手は手負いの幼生だろ?
 やばくなったら逃げる位なら出来るって!俺も馬鹿じゃないからさ…」

「馬鹿野郎っ!!舐めたコトほざいてねーで、俺は剣を返せっていってるんだ!!」



自分の忠告を全く聞こうとしない馬鹿弟子に激怒したガルゴは、
禿げ頭を真っ赤にして茹でダコ状態になりながら、怒鳴り声をハイネに浴びせ掛ける。
『町狩人』として様々な地を旅した彼は、飛竜の人智を超えた力の恐ろしさを良く知っていたのだ。
素人に毛の生えた程度の力量しか持たない小僧が相手をしようものなら、最悪な結果しか生まれないと分かっていたのだ。

この小さな村で、飛竜の相手がなんとか務まるレベルの人間は精々一人でも居れば運が良い方なのだ。


「ったく、テメェが馬鹿を言いだすから、お前には教えるなと口止めしといたのに
 どこの馬鹿が漏らしやがったんだ。いいか!ルーヴェンの森には近づくんじゃない!」

「ちっ、やっぱり俺だけに情報を隠してやがったんだな
 分かったよ。半人前がベテランの制止を無視するのは拙いからな」

「いや、オレ達の方も悪かった。ちゃんと話せば分かってくれるのに
 オマエを見くびり過ぎていたらしい。これからは、必要な情報は伝える」

「いいよ。現にさっきまで俺もガキ見たいに騒いでたしな。師匠から見れば
 まだまだ青二才のひよっ子だよ。まぁ、これからはヤバイ情報はちゃんと
 伝えて欲しいけどね。何も知らずに現場に行って遭遇なんて勘弁だからな」

「違いねぇ。これからは、『村狩人』のハイネにはギルドとして情報を伝える」



予想外に物分かりの良い様子に、ガルゴは少年の成長を感じて喜ぶと共に、
一人前の判断の出来る男を見くびった非礼を素直に詫びた。
自分に非が有れば、弟子であっても頭を下げるのを躊躇わない。
少し単純で粗野なところのある男だったが、ガルゴが気持ちいの男であった。

ハイネも自分のことをきちんと認めてくれた師匠に、情報を隠した非をクドクドと言う気も無かったので、
さらりと謝罪を受け入れ、この話を終わりにしようとしたのだが…






             「ガルゴ!!頼む!助けてくれ!!」



血相を変えて飛び込んできた男によって、その話は直ぐに再開することとなる。
彼の娘が夕暮れになっても戻って来ず、方々を探して目撃証言を集めた結果、
クルの実を拾いにルーヴェンの森に入ったらしいという、最悪な情報を得たのだ。


父親は泣きそうな顔をしながら、娘を森から助け出してくれるようにガルゴに頼むが、今回の件は、単純な迷子では無い。
素人集団の村人で山狩りをしながら捜索などすれば、手負いで気の立っている飛竜に何人喰い殺されるか分からない。

幾ら子供とは言え、不注意で遭難した者のために多くの人を死の危険に晒す決断を下すことは出来ない。


ある意味残酷で、至極真っ当なガルゴの言葉に、父親は愛する娘の名を繰り返し呟きながら、床に崩れ落ちる。
どうすることも出来ない無力感にギルド全体が包まれる中、村で唯一の『村狩人』が立つ。




「偶然と言うか、必然と言うのか、オジサンの娘は俺の依頼人なんだよね
 ここで飛竜に喰われちまったら、人形探しの報酬が回収できなくなっちまうな」


急に喋り出したハイネにギルド中の人間の視線が集まる。
ガルゴは、何かを言い掛けて押し黙った。代案を用意できない時点で、彼には言葉を発する資格はなかったのだ。


「まぁ、飛竜がヤバイ相手だってのは、師匠から聞いて分かったから
 なんとかソイツに見つからないように、ミアちゃんを森から連れ出すさ」

「いいのか?冗談抜きで死ぬかも知れんのだぞ?例え戻って来なくても
 追手の騎士団が来るまで、救援も捜索隊も森の中に入ることはないぞ?」

「わーってるよ。まぁ、無理めだったら、捜索を切り上げて一人で逃げ戻るさ
 オジサン、それでもいいなら行ってやるぜ?報酬の方は成功報酬にしといてやるよ」



ハイネの言葉に藁にでも縋り付きたい父親は何度もお礼を言いながら頷く。
ゼロの絶望から、限りなくゼロに近い希望を与えてくれた『村狩人』の命がけの好意に心の底から感謝したのだ。


たった一人の捜索隊、ハイネはルーヴェンの森に『命懸けの仕事』をこなす為に入る。
そこで、少年は夢と現実の狭間を知り、『村狩人』として、大きな一歩を踏み出すことになる。







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