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No.2653の一覧
[0] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ (FF4クロス) <復帰に伴う前書き>[カンブリアン](2010/05/16 11:27)
[1] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第一話[カンブリアン](2010/05/16 14:01)
[2] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第二話[カンブリアン](2010/05/16 11:33)
[3] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第三話[カンブリアン](2010/05/16 11:34)
[4] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第四話[カンブリアン](2010/05/16 11:36)
[5] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第五話[カンブリアン](2010/05/16 11:37)
[6] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第六話[カンブリアン](2010/05/16 11:39)
[7] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第七話[カンブリアン](2010/05/16 11:41)
[8] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第八話[カンブリアン](2010/05/16 11:46)
[9] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第九話[カンブリアン](2010/05/16 11:47)
[10] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第十話[カンブリアン](2010/05/16 11:51)
[11] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第十一話[カンブリアン](2010/05/16 11:54)
[12] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第十二話[カンブリアン](2010/05/16 11:55)
[13] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第十三話[カンブリアン](2010/05/16 11:56)
[14] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第十四話[カンブリアン](2010/05/16 11:58)
[15] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第十五話[カンブリアン](2010/05/17 12:58)
[16] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第一話[カンブリアン](2010/05/16 12:02)
[17] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第二話[カンブリアン](2010/05/16 12:04)
[18] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第三話[カンブリアン](2010/05/16 12:05)
[19] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第四話[カンブリアン](2010/05/16 12:07)
[20] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第五話[カンブリアン](2010/05/16 12:08)
[21] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第六話[カンブリアン](2010/05/16 12:11)
[22] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第七話[カンブリアン](2010/05/16 12:12)
[23] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第八話 前編[カンブリアン](2010/05/16 12:13)
[24] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第八話 後編[カンブリアン](2010/05/16 12:14)
[25] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第九話[カンブリアン](2010/05/16 12:15)
[26] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第十話[カンブリアン](2010/05/16 12:16)
[27] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第十一話[カンブリアン](2010/05/16 12:18)
[28] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第十二話[カンブリアン](2010/05/16 12:19)
[29] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第十三話[カンブリアン](2010/06/02 19:04)
[30] [第二章] ゼロの使い魔 ~試練の竜騎士~ 第十四話<最新話>[カンブリアン](2010/06/02 20:05)
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[2653] ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第二話
Name: カンブリアン◆b99d1cb4 ID:a297c174 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/16 11:33
 ゼロの使い魔 ~孤高の竜騎士~ 第二話







「…………っ」

 目を覚ますと、見覚えのない廊下だった。

「……ああ、そうか」

 一瞬考え、カインは自分の現状を思い出す。

 竜騎士カインは、修行の途中でルイズの魔法によって、このハルケギニアに召喚されてしまったのだった。そして、そのルイズの使い魔として、ここに寝泊まりすることになったと……。

 外を見ると、まだ夜は明けていない。
 試練の山での修行中は、いつも陽が昇る前に起床し、早朝から修行を始める生活を送っていたおかげで、身体が自然に起きるようになっている。

 カインは毛布を脇に置き、外へ向かった。


「すぅ~~……ふぅ~~……」

 深呼吸をし、身体に新鮮な酸素を取り入れ、完全に覚醒させる。そして、カインは日課としている修行の為、城壁の向こうへ跳んで行った。






「……んぅ……」

 ルイズは体が揺さぶれられている感覚に、寝返りを打って抵抗する。だが、揺さぶりは止まない。それどころか、若干強くなっている。徐々に意識が眠りから覚めていく。

「うぅ~~……何よぉ、もう少し寝かせなさいよぉ……」

 目を擦りながら、寝惚け顔で横を見る。

「やっと、起きたな……」

「…………あんた誰?」

 目をシパシパさせながら、そう言うルイズにカインは呆れる。
 そして、溜め息を吐きながら、槍の柄でルイズを小突いた。カインが扱う槍は、柄の両端に刃が付いているので、刃の部分を外さないと危ないのだ。

「んきゃっ!」

 ポコッ! と軽い音が響くと、ルイズは頭を抑える。

「いつまでも寝惚けているんじゃない。さっさと起きろ、朝だぞ」

「~~~~っ、痛いじゃないっ! もっと優しく起こしなさいよッ!」

 頭の痛みで目が覚めたルイズは、涙目でカインに文句を言う。

「文句を言うな。言われた通り起こしてやったんだ」

「そんなの当たり前でしょッ! 私はご主人様なんだから、あんたは起こすのが普通なのよ!」

「使い魔の立場は受け入れたが、召使いになった覚えはない。騒いでないで身支度を整えろ。俺は、廊下にいる」

「えっ!? ち、ちょっと――」

 それだけ言うと、カインは部屋を出て行った。
 ルイズは、カインに使い魔として自分の身支度を手伝わせるつもりだったが、それを言う間もなく出て行ってしまった為、呆然としてしまう。
 そして、次第に思う様にいかない使い魔に腹が立ち始め、顔を赤くして震え出す。

「ううぅぅぅ~~~……!! バカァーーーーーッッ!!」

 ドアに向かって、子供のように大声で叫び、ドアに枕を投げつけるルイズであった。




 着替えが終了したルイズはしばらく膨れていた。しかし、そうしていても時間は過ぎる。

「…………朝食に行くわ」

 未だ不機嫌さを撒き散らし、ルイズはそう言うとドアに向かって歩き出す。カインもそれについて行く。

 そして、廊下に出た時――

「――おはよう、ヴァリエール」

――と、どこか相手を小馬鹿にするような口調の挨拶が飛んできた。

 その途端、ルイズはこれでもかと言う程に顔を顰める。
 声のする方を見ると、褐色の肌に、炎の様に赤く長い髪、そして……抜群のスタイルを持った少女(?)が壁にもたれかかる様に立っていた。

「……朝から嫌なものを見てしまったわ……」

 ぶつぶつと呟くルイズ。背後に暗黒オーラが漂い始める。

「……おはよう、ツェルプストー。それで、何の用? 私は、朝からあんたの顔なんか見ていたくないの。さっさと済ませて」

 渋々挨拶し、その後はトゲだらけの口調で要件を聞くルイズ。
 カインはその様子に、この2人が互いを敵視していることを悟った。と、同時に強く意識し合っている事も感じ取った。

「別にあなたに用なんかないわ。あたしが用があるのは、そっちの彼よ」

 ルイズが『ツェルプストー』と呼んだ少女は、ルイズからカインに視線を移す。

「へぇ~、本当に人間を召喚したのねぇ~……あら? でも良く見てみると、なかなかいい男じゃない♪」

 自分を値踏みするかのように見てくる少女の視線に、カインは内心不快感を募らせるが、表情は変えなかった。

「あなた、お名前は?」

「……人に聞く前に、自分から名乗るのが礼儀ではないか、お嬢さん?」

 クールに切り返すカインを見て、少女は「ふふっ」と余裕のある笑みを浮かべる。

「失礼。あたしはキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ」

「……カイン・ハイウインドだ」

「あら~、素敵なお名前ね♪」

 手短に自己紹介をする。カインは、こういう女があまり好きではない。あまり関わり合いになりたくない、というのが本音だった。
 しかし、キュルケの方はどうにも違うらしい。カインの事務的でクールな対応にも、何やら楽しげで妖艶な笑みを浮かべている。流石のカインも、背中に冷や汗が浮かぶのを感じた。

「――ちょっとっ! なに人の使い魔に色目使ってるのよっ?!」

 それまで置いてけぼりにされていたルイズが、我慢の限界とばかりに声を荒げる。

「……野暮ねぇ。まあいいわ。あ、そうだ! ついでだから、あたしの使い魔を紹介するわ、フレイム~」

 キュルケが後ろに向かって声を掛けると、のそのそと真っ赤なトカゲが現れた。

「…………」

 ルイズは、それを見ても驚きはしなかったが、どこかその眼には羨望の色が見える。それを察したかの様にキュルケは再びニヤリと笑い、歩いてきたトカゲに傍にしゃがむ。

「私の使い魔の“フレイム”よ。見て? この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈の『火蜥蜴サラマンダー』よ? ブランドものよー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」

 フレイムと呼ばれた『火蜥蜴サラマンダー』は、キュルケに撫でられて気持よさそうに目を細くする。
 それと逆に、ルイズはどんどん不機嫌になってゆく。拳を握り締め、ワナワナと震えだす始末だ。

「素敵でしょ。あたしの属性ぴったり」

「あんた『火』属性だもんね」

「ええ。『微熱』のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなの。あなたと違ってね?」


 そんなやり取りが繰り広げられる中、カインは初めて見る『火蜥蜴サラマンダー』という生き物を観察していた。目は鋭いが、野生の獣のように警戒心や敵愾心でギラついてはいない。どこか人懐こい感じだ。キュルケによく懐いている。

 そこらの一般人ならば、その外観に驚き怯えるかもしれないが、カインは過去にフレイムの十倍はあろうかという『レッドドラゴン』と戦った経験さえある。
 今さら、こんな小さな(と言っても十分デカイが)トカゲ程度に動揺はしない。

「……ルイズ。時間はいいのか?」

 今にもキュルケに噛みつきそうな雰囲気を纏っているルイズに、カインは声を掛ける。

「~~~っっ、わかってるわよッ!!」

 ルイズは肩をいからせ、ズンズンと音がする様に大股で廊下を歩いて行く。
 不機嫌もここに極まれり……。カインはその様子を見て、溜め息を吐く。

「ふぅ……それでは、失礼する」

 カインはキュルケに一言掛けてから、ルイズの後を追う。

 その場に残される形となったキュルケは、非常に愉快そうに笑っていた……。



「くぅ~~~~~、何なのよあの女! 自分が火竜山脈の『火蜥蜴サラマンダー』を召喚したからって~!! しかも、わざわざ人に見せつける為にわざわざ待ち伏せまでして~~ッッ!!」

 女子寮から出るや否や、溜めこんできた怒りを発散するように誰にともなく叫び、地団駄を踏み始める。相当我慢していたらしい……。

「随分、あのキュルケとかいった娘が気に入らないらしいな?」

 カインの問い掛けに、すさまじい形相で「ギュルン!」と振り返るルイズ。その顔に、思わずカインも引いてしまう。

「――当たり前よ! あの女、キュルケはトリステインの人間じゃないの! 隣国ゲルマニアの貴族よ! 私はゲルマニアが大嫌いなの! 私の実家があるヴァリエールの領地はね、ゲルマニアとの国境沿いにあって、戦争になるといっつも先頭切ってゲルマニアと戦ってきたわ! そして、国境の向こうの地名はツェルプストー! キュルケの生まれた土地よ! だから、戦争の度に殺し合ってるのよ! お互い殺し殺された一族の数は、もう数えきれないわ!!」

 突然、ルイズは矢継ぎ早に自分とキュルケ、双方の実家の確執、更には帝政ゲルマニアとの確執の歴史さえ語り始めた。

 そもそも帝政ゲルマニアとは、トリステインの北東にあるトリステインの十倍ほどもある広大な国土を誇る大国である。割りと若い国で、魔法より冶金などの技術に優れており、ゲルマニア製の刀剣や防具などは他国で高い評価を受けている。
 また、社会風習や政治制度もハルケギニアの他の国とは一線を画しており、金があればメイジではない平民であっても領地を買い取って貴族になることができる。

 一方、トリステイン王国はハッキリ言って小国、しかも古い考えを尊ぶ風潮が強く、平民が貴族になる事は非常に稀だ。

――そう言った国の在り方や考え方の相違から、お互いを快く思っていないらしい。

 まあ、それだけならば、カインも普通に納得したのだろうが……。

「――それだけじゃないわ! ヴァリエール家はツェルプストーに、堪え難い辱めを受け続けてきたの!」

「堪え難い辱め――?」

 ここが本題とばかりに、声をより大きく、より怨念を込めて言い放つルイズに、カインは尋ねる。

「そう! ヴァリエールのご先祖様たちは、ツェルプストーの一族に、自分の奥さんや恋人を寝取られ続けてきたのよ!!」

――カクン……

 カインは思わず倒れそうになってしまった。どんな壮絶な確執かと思いきや、いきなり低レベルな話になった。
 しかし、ルイズは先ほどの国同士の確執のことよりも、激しい怒りを込めて語り始める――。

「――私のひいひいひいお爺ちゃんは、キュルケのひいひいひいお爺さんのツェルプストーに恋人を奪われたし、ひいひいお爺さんは、キュルケのひいひいお爺さんに婚約者を奪われたわ! ひいお爺さんのサフラン・ド・ヴァリエールなんか、あの女のひいお爺さんのマクシミリ・フォン・ツェルプストーに奥さんを取られたのよ!!! いえ、弟のデゥーディッセ男爵だったかしら……って、もうそんな些細な事はどうでもいいわ!!」

――語っている内に怒りで興奮してきてしまったのか、呼吸がどんどん荒くなっていく。

 が、カインはそれに反比例してどんどん冷めていく。もはや、何も言う気になれないほどに、呆れていた。

「――とにかくッ! あのキュルケの実家、フォン・ツェルプストー家は、ヴァリエールの領地を治める貴族にとって不倶戴天の敵だってこと!! だから、あの女に気を許しちゃダメよ! あの女にだけは絶ッ対にダメッッ!!」

「ああ、わかったわかった……」

 つまりはそれが言いたかったのだろう。黙って聞いていただけなのに、カインは非常に消耗していた。

「はぁ……何だか疲れたわ……。早く朝食に行きましょう……」

 自分で興奮して、勝手に消耗してだるそうに歩いて行くルイズの背中を見ながら、カインは自分の先行きを考えてしまい、大きな溜め息を吐いてしまうのだった。




「おい、見ろよ。『ゼロ』のルイズだ……」

「昨日召喚したっていう騎士も一緒だぞ……」

 アルヴィーズの食堂と呼ばれる魔法学院に設けられた大食堂に、ルイズとカインが入った途端、周囲がざわつき始める。
 ルイズはどこか、努めて無視している感じで歩みを進める。一方カインは、視線だけで周囲を見渡し、この大食堂に感心していた。

 そして、ルイズの席らしい場所に辿りつき、ルイズが席に着く。

「ルイズ、俺はどこに座ればいい?」

「そこよ」

 ルイズは自分の脇を指差す。その指の指し示す方向には、床に置かれたパンとスープ……。カインはそこから導き出される嫌な予感に顔を顰める。

「まさか……床で食え、と?」

「し、仕方ないでしょ! 本当なら使い魔は外で食べる所を、あんたは私の厚意で――」

「――外で食った方がマシだ……」

 短くそう言うと、カインは床のスープとパンを持ち、外へ向かって歩いていく。

 ルイズのあまりに理不尽な扱いに、滅多な事では腹を立てないカインも流石にわずかながら怒りを覚えた。顔の半分を隠してしまう形の兜の内側で、カインは眉間に皺を刻んでいた。

「え、あ! ちょっと……!?」

 声を掛けたルイズの方に向き直ることなく、カインは外に出て行った。途端、周囲からは失笑が聞こえ始める。
 その笑いに、ルイズは顔を赤くして俯き、膝の上で拳を握り締める。

(…………何よっ、使い魔のくせに、私に恥をかかせて……! それは、床に食事を置いたのは、ちょっと悪かったと思うけど…………でも、なにも出ていくことないじゃない……!!)

 カインを責めたり、自分の非を認めてみたり、やっぱりカインへの文句を考えたり……。
 ルイズが一人で眉を吊り上げたり、萎んでみたり、ぶつぶつと何かを口ずさんだり……その様子があまりに不気味だった為、周囲からは笑いが消え、代わりにひそひそ話が飛び交う。

――結局、ルイズは一人百面相をしていた事に、朝食が終わる頃になっても気付かなかったという……。




 一方、その頃……

「はぁ、まったく……あれがこの世界の貴族とはな」

 ルイズの態度に腹を立て、外に出たカインは手早く食事を済ませていた。
 と言うよりも、ルイズが用意したカイン用の食事は、パン一個と具の少ないスープだけという、まともな食事ではなかった為、カインがどれだけ行儀よく食べても、すぐに済んでしまったのだ。

「――おや? カイン君じゃないか」

 味気ない食事を終え、空を見上げていると、突然横から声が掛かる。

「コルベール殿か……」

 そちらに顔を向けると、昨日と同じ恰好のコルベールが立っていた。

「ああ、コルベールと呼び捨ててくれて構わないよ。それより、どうしたのかね? この時間ならば、ミス・ヴァリエールと食堂で朝食を摂っている頃だろう?」

「……もう、済んだ」

 カインは脇に置いた食器を指差す。コルベールも状況を察した様で、苦笑いを浮かべる。

「う~む、ミス・ヴァリエールにも困ったものだな……。おお、そうだ! 厨房に行ってみるといい。コック長のマルトー氏に訳を話せば、賄いを分けてもらえるだろう」

「本当か? それは助かる。ルイズが用意した食事では、流石に足りなかったところだ」

 カインは食器を返す手間も省けると、立ち上がり厨房へ向かおうとして、ある事を思い出し、コルベールに声を掛けた。

「そうだ、コルベール。実は、頼みたいことがあるんだが……」

「――うん? 何かね?」


 ……。

 …………。

 ………………。


「――という訳なんだが、頼めるだろうか?」

「なるほど、そういう事なら喜んで引き受けよう! まかせてくれ」

「ありがたい。では、後ほど」

 挨拶を交わすと、カインはコルベールと別れ、厨房に向かった。




 厨房では、貴族の子息子女達への料理の配膳が終わり、手の空いたコック達が休憩をとっていた。

「やれやれ、やっと休憩か。ったく、こっちが必死こいて働いてるってのに! 貴族のガキ共は良い御身分だぜ」

 コック長のマルトーは、ハッキリと貴族への不満を口にする。周囲のコックやメイド達も、うんうんと頷いている。

「コック長っ、ダメですよ、滅多なこと言っちゃっ! 貴族の方々に聞かれたら大変な事になります!」

 その中の若いコックがマルトーを諌める。

――実はマルトーは大の貴族嫌い。常日頃から、横暴な貴族達への不満を募らせながら、ここで働いていた。

「それが気に喰わねぇんだよ! 俺達平民は、貴族の気まぐれで職を失う事だってある――ふざけやがって! てめえらに、俺達みてえな料理が作れるもんなら作ってみろってんだ!」

 無論、マルトーとて、今現在の世界の理は理解している。貴族達の前でこんなことは言えば、自分はただでは済まないのも知っている。
 自分だけならばまだ許容出来る。しかし、その累は往々にして周囲の仲間達にも及んでしまう危険性がある。

 だから、例え不満を覚えても、正面から貴族達に文句を言う事ができない。
 だから、こうした身内だけの時に吐き出して、爆発しないようにしているのだ。


「――すまない。コック長のマルトー殿は、いるか?」

 自分が名指しで呼び出されるのを聞いて「また貴族のボンボンが料理に文句でも付けたか?」と、顔を顰めながら厨房の入り口に向かう。

 と、そこには竜の兜をかぶった青年が立っていた――。



「――すまない。コック長のマルトー殿は、いるか?」

 厨房の奥からやってきたカインは奥に向かって、声を掛けた。すると、奥から恰幅の良い中年の男がやってきた。

「マルトーはオレだが……おめえ、もしかして、シエスタが話してたカインって奴か?」

「確かに、俺はカイン・ハイウインドだが」

「やっぱりそうか! で、俺に何の用だい?」

「実は……」

――カインは、ルイズが用意した朝食では足りず、コルベールに紹介されてマルトーを頼ってきた旨を伝えた。

「そういう事か。よしっ、こっちに来な。今朝の賄いがまだ残ってたはずだ」

 マルトーは、カインを厨房の奥へ連れて行った。

 そこでマルトーによって振る舞われた料理は、ライ麦パン、シチュー(先程とは違い具沢山)、サラダというバランスの取れたメニューだった。


「――馳走になった」

――カインはそれらを、ガッつくことなく行儀よく完食した。

「おう、お粗末さん」

 カインが食べ終わった食器を、別のコックが水をはった桶に入れ、手早く洗う。

「さっき飲んだスープもそうだったが、実に美味かった。大した腕前だな」

「あったりまえよ! こちとら手間暇かけて作ってるんだ。手抜きなんざ、一切無しの真剣勝負! 厨房は俺達の戦場だからな! はっはっはっはっ!!」

 カインの言葉に気を良くしたマルトーは、腕に力こぶを作って豪快に笑う。
 マルトーのその笑い方に、故郷バロンにいた飛空艇技師のオヤジを思い出した。全然似ていないはずなのに、その笑い方には通じるものがあった。

「そう言やぁ、シエスタから聞いたが、おめえ貴族じゃねえんだって?」

「ああ、代々竜騎士の家系だが、貴族ではない」

「へぇ~! そいつは凄え! シエスタの言ってた通りだ!」

 またマルトーは豪快に笑いだす。今度は、豪快な中にも喜色が混ざっている。恐らく、貴族ではなくとも竜騎士になれたという所に、希望に似たものを感じたのだろう。トリステインでは、まず魔法の使えない平民が騎士に――それもエリート中のエリートたる竜騎士になるなど、絶対にあり得ない事だ。

――しかし、カインは竜騎士だと言う。同じ平民でありながら、エリートになれたという。希望を感じずにはいられなかったのだ。

 他のコック達も、そんなカインを尊敬の眼差しで見つめている。

「あんちゃん、何か困った事があったら遠慮なく言ってくれ! 俺達に出来ることなら、何でも力になるぜ!」

 そう言って、背中をバシバシ叩くマルトーに苦笑しながらも、その言葉は嬉しく感じていた。

「――ごほっ……では、早速頼んでもいいだろうか?」

「おう! 何でも言ってくれ!」

「これから食事の時は、ここの賄いを分けてもらえないだろうか?」

「それくらいお安い御用だ! あんちゃんなら、いつでも大歓迎だぜ!」

「ありがたい、感謝する、マルトー殿」

 自分の願いを快く承諾してくれたマルトーに、カインは頭を下げて感謝する。

「“マルトー殿”なんて止してくれよ、背中が痒くなっちまう。“マルトー”で良いぜ」

 そう照れくさそうにそういうマルトーに、カインはふと笑みを浮かべ、改めて言いなおす。

「では……感謝する、マルトー」

 マルトーと握手を交わし、カインは彼をはじめとするコック達と少しの間談笑し、厨房を後にした。




 厨房でマルトーら、コックたちと友好を深めた後、カインは学院の庭で槍を用いた演武で腹ごなしをしていた。

「――やっと見つけたわよっ!」

 演武を止めて振り向くと、眉を吊り上げたルイズ肩で息をしていた。

「……そっちも朝食が済んだようだな」

「そんなことはいいのよ! それより、さっきのアレどういうつもりよっ?! ご主人様をほったらかしにして……、私がどれだけ恥をかいたと思ってんのよっ!!」

――さっきのアレ、とは朝食時にカインが外に出て行った件の事だ。

「ああ、その事か……」

「「ああ、その事か……」じゃないわよッ!! あんたねぇ、少しは私の立場ってものを考えなさいよっ!」

「――ルイズ。俺はオスマン老の前で言ったはずだ。『俺の誇りを汚すような真似をしたら、ただではおかん』と」

「――っ!? そ、それはそうだけど……」

 予想外のカインの迫力に、ルイズは最初の勢いを萎ませてしまう。

「そして今朝、こうも言った。『召使いになった覚えはない』とな。あんな家畜のような扱いをされて、人が納得するとでも思っているのか? 傲慢も大概にしておかんと、その内痛い目を見るぞ」

「え、あ……、うぅ……」

 出鼻を挫かれた形となったルイズは、しゅんと項垂れる。

 振り返ってみれば、確かにあの扱いは、酷過ぎたかもしれない。カインが怒るのも無理はなかった。
 今更ながらに、ルイズは己の行いを反省する。

「……わ、悪かったわよ……」

「……わかればいい」

 物言いは素直ではないが、自分の行いをちゃんと反省できるのは美徳だ。カインも、それ以上責めるのは止めることにした。

「ああ、それで、俺の食事の話なんだが……」

「な、なによっ?」

 まだ立ち直りきっていないところに、再び話が戻ってきたことで、ルイズは僅かに動揺する。

「コック長のマルトーと話をして、厨房の賄いを分けてもらう事にした。今後、俺の食事は用意しなくていい」

「え、あ、そ、そう……」

――考えてみれば、カインは自分の無理に付き合ってくれている。

 そのつもりがなかったとはいえ、カインをここに召喚して、故郷から引き離してしまったのは自分だ。
 しかし、彼はその事で自分を責めるようなことはしないし、自分の進級の為に『使い魔』という立場を受け入れてもくれた。

 それに比べて、カインの人として当たり前の態度に腹を立てていた自分の、なんと幼稚なことか……。

「……そんな顔をするな」

「……え?」

 カインはそう言うと、ルイズの頭にポンと手を置く。

「もう済んだ事だ。気にすることはない」

「き、気になんかしてないわっ、してないもんっ!」

 カインの手を振り払い、顔を背けるルイズの頬は朱に染まっていた。それを見て、カインはルイズに分からないように笑った、いや、微笑んだ……。


「ところで、この後の予定はどうなっているんだ?」

「当然、授業に出るわよ。今日は錬金の授業だったかしら……」

「もしやそれは、俺も行かねばならないのか?」

「別に、あなたは生徒じゃないから、出なきゃいけないわけじゃないけど……」

「ならば、授業とやらの間、別行動をとって構わないか?」

 カインは、先程コルベールにあって頼んだことを伝えた。



 遡ること三十分ほど前――

「そうだ、コルベール。実は、頼みたいことがあるんだが……」

「――うん? 何かね?」

「俺に、この世界の文字や常識を教えてくれないか?」

 カインは、この先もしばらくはこの国――この世界で過ごさなければならない事実から、この世界の事を知らなければと考えていた。

 先日、オスマンに見せてもらった書に書かれていた文字は全く読めなかった。
 この先の事を考えれば、この世界の一般教養を身に付けておく必要がある。そこで、自分の事を知っているコルベールにそういった事の教授を依頼しようと思っていたのだ。

――その旨を伝えると、コルベールは笑顔で快諾した。

「なるほど、そういう事なら喜んで引き受けよう! まかせてくれ」

「ありがたい。では、後ほど」

 そう言って、カインはコルベールと別れた――。



「――という訳なんだ」

「なるほど。いいわ、授業が終わったら私はアルヴィーズの食堂にいるから、迎えに来なさい」

「わかった」

 ルイズは、カインの別行動を許可すると「授業があるから」と言ってその場を後にした。それを見送ると、カインもコルベールから聞いておいた、場所に向かった。





――カインと別れて、教室にやってきたルイズ。周りには他の生徒達も着席し、授業の開始に備えている。

 少しして、初老の若干ふくよかな女性が入って来ると、生徒達は静まる。

「皆さん、おはようございます。無事に春の使い魔召喚の儀を終えたようで、このシュヴルーズ、皆さんの進級を心から嬉しく思います」

 このシュヴルーズと名乗った女性は、今年からトリステイン魔法学院に赴任してきた新任教師である。系統は『土』、二つ名を『赤土』という。
 彼女は生徒達の傍にいる様々な使い魔達を見渡し、優しげな微笑みを湛えている。

 そんな中――

「『ゼロ』のルイズ! おまえ、結局使い魔には逃げられたままか~?」

 小太りの少年が、あからさまにルイズをからかう様に声を掛ける。すると、周囲からも笑いが沸き起こった。

「誰の使い魔が逃げたのよっ、『かぜっぴき』のマリコルヌっ!」

「『かぜっぴき』だと? 俺は『風上』のマリコルヌだっ! 風邪なんか引いてないぞ!」

「あんたのガラガラ声は、まるで風邪でもひいてるみたいじゃないっ! うがいでもして来たらど……っ?!」

 次第にヒートアップして騒ぎ出す、ルイズとマリコルヌという少年。だが、シュヴルーズが杖を振ると、二人は糸の切れた人形のように、すとんと席に落ちた。

「ミスタ・グランドプレ、ミス・ヴァリエール。みっともない口論はおやめなさい。お友達を『ゼロ』だの『かぜっぴき』だの呼んではいけません。わかりましたか?」

「ミセス・シュヴルーズ。僕の『かぜっぴき』はただの中傷ですが、ルイズの『ゼロ』は事実です」

 周囲からクスクス笑いが漏れる。
 シュヴルーズは、厳しい顔で教室を見回し、再度杖を振る。すると、未だクスクスと笑っている生徒達の口が、赤土の粘土で塞がれた。

「あなたたちは、そのままで授業をお受けなさい」

 くすくす笑いが静まるのを見て、シュヴルーズもようやく授業を再開した――。

 先ずはおさらいとして、ハルケギニアの魔法の四代系統の話から始まり、本題の土系統の講義が始まる。
 ハルケギニアの魔法は、基本的に四つの属性――『火』『水』『風』『土』に分けられ、これらを一般に四大系統と言う。それに失われた系統『虚無』を合わせて、全部で五つの系統が存在する。

――そして、『土』系統魔法の話に移っていった。

「今から皆さんには『土』系統魔法の基本である『錬金』の魔法を覚えてもらいます。一年生のときにできるようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度おさらいすることに致しましょう。では、実際に私が錬金を実演してみましょう」

 そう言ってシュヴルーズは懐から、数個の石ころを教卓の上に置き、杖を振った。
 すると、石ころは金色の物体に変化した。

「そ、それってゴールドですか!?」

 生徒達が驚き、ざわつくなか、机から身を乗り出してキュルケが訪ねる。

「いいえ、真鍮です」

「なぁ~んだ……」

 シュヴルーズの答えに、がっかりした様子で椅子に座り直すキュルケ。

「ゴールドを錬金出来るのは、“スクウェア”クラスの土のメイジです。私はただの……“トライアングル”メイジですから……」

 “スクウェア”“トライアングル”とは、メイジのレベルを示す言葉である。
 系統を足せる数によって呼び方が変わり、一系統しか使えない者は“ドット”、二系統を足せる者を“ライン”、三系統ならば“トライアングル”、四系統が“スクウェア”となる。

「さて、それでは今度は皆さんの中から、誰かに実際に錬金を行ってもらいましょう」

 シュヴルーズは真鍮をしまい、新しい石ころを取り出して、生徒達を見渡す。

――そして、その視線がルイズに止まった。

「では、ミス・ヴァリエール」

『――っ!!??』

――瞬間、教室内の空気が凍り付く。生徒達は、オロオロしはじめ、困った表情で互いに顔を見合わせる。

「あ、あの~、先生ぇ……」

「何か?」

「その……やめておいた方が……」

――うんっ、うんっ!

 控えめに手を挙げた生徒の提案に、教室中の生徒達が一糸乱れず必死に頷く。

「危険です! ルイズがやるぐらいならアタシが――」

「――ッ!」

――カチン

 慌てて立ち上がったキュルケの言葉に、ルイズの中でスイッチが入った。

「――やりますっ! やらせて下さいッ!!」

 ルイズの言葉で、周囲の生徒達から悲鳴が上がる。皆、一様に脅え、机に身を隠す。
 そんな中、ルイズは席を立ち、教卓に歩いて行く。

――そして、ついに教卓の前に立った。

「――ルイズ! やめて!!」

「黙って、気が散るから」

 キュルケが生徒を代表するようにルイズに懇願したが、もはや手遅れとばかりに、自分も机に身を隠す。
 そんな様子に不思議そうに眉を顰めながらも、歩いてきたルイズに錬金のアドバイスをするシュヴルーズ。

「良いですか、ミス・ヴァリエール? 錬金した金属を強く思い浮かべるのです」

「はい……」

 真剣な表情でゆっくりと杖を振り上げるルイズを見て、生徒達は更に怯え出す。

 そして、ルイズが石ころを金属に錬金しようと、詠唱をはじめ杖を振り下ろした――その時!

――ズガーーーンッ!!!





――時間はルイズが授業を受け始めた頃に遡る……。


 学院内のとある一室――カインはその部屋に足を踏み入れた。およそ30メイルという高さまでそびえ立ち、隙間なく書物が詰め込まれた本棚が並ぶ図書館である。

「……」

 入口にある受付にいた眼鏡をかけた司書が、一瞬読んでいた本から顔を上げ、カインに目を向ける。
 すると、本を置き、立ち上がろうとした。そこへ――

「――おお、カイン君! 待っていたよ」

――入口に程近い場所に座っていたコルベールがカインに気づき、声をかけた。

 それを見ると、若い女性の司書は再び椅子に座り直し、閉じた本を開き読み始める。
 ここには、秘伝書や魔法薬のレシピ等の貴重な文献もあり、盗難などを防止する目的で本来一般平民は入る事ができない。しかしカインの場合、教員であるコルベールの知り合いだと認識された為、何も言われなかったようだ。

「では、早速始めるとしよう」

「ああ、無理を言ってすまない」

「謝ることなどないよ。人に勉学を教えるのは、私の本分だ」

 そう言って笑ってみせるコルベールに、カインはもう一度だけ「すまない」と軽く詫びを入れ、コルベールの隣の椅子に腰掛ける。コルベールは脇に積んであった本の一冊を開く。

――『コルベールのハルケギニア一般教養講座』開講。


 ハルケギニアと元の世界の文字形態は、結構似ていた。例えば、文字は形が微妙に異なるが数はほとんど同じ。しかし、読み方が大分異なる。

「アー、ベー、セー」

 コルベールは、文字の読み方を一つずつ丁寧に教える。そして、一通り文字の読み方が済んだところで、次に簡単な単語を指差し、その意味を教えた。

――そこでカインは不思議な感覚を覚えた。

 コルベールが単語を指差し、その読みを発音して意味を説いているはずなのだが……、その単語さえ翻訳されて聞こえてしまうのだ。
 例えば「『春』は春」「『四月』は四月」「『わたし』はわたし」というような具合である。

 その調子でコルベールに少しずつ言葉の意味を教わる度に、今までただの読めない文字の羅列にしか見えなかった文章が、一瞬見ただけで、その意味が理解できるようになっていった。それがきっかけとなったのか、その後のカインの習得は早かった――。

 一時間もすれば、大抵の文章はすらすらと読めるようになり、コルベールも驚いたほどだ。

「う~む……、どういうことだろう?」

「む? 間違っていたか?」

「いや、そうではない。そうではないのだが……」

 コルベールは、今しがたカインが読み上げた文章を指差した。

「この文章、君は“取り返しのつかない事をしてしまった”と読んだ。しかし、実際ここには“皿の上のミルクをこぼしてしまった”と書いてあるんだ」

 そう言われ、カインはもう一度文章を見直してみるが、やはり先程読んだ通りにしか読めない。

「……先程から、気になっていたんだ。これまでも何度か、カイン君は書かれている文章とは微妙に違う読み方をしていた。しかし、それは間違ってはいない。むしろよく要約されて、意味を的確に捉えて表現している。まるで文章全体を言葉のように捉えているかのようだ。確かに、獣などを使い魔とした時、人語を話せるようになることもある。だが、それだけでは先程のような要約は説明がつかない……」

 コルベールは顎に手を当て、カインを見ながら考え込んでいる。

「ふむ……確かに妙だな。それを聞いて考えてみたんだが、どうやら俺は、正確には文章を“読んで”はいないようだ。コルベールに読みを教わったことがきっかけだと思うが……、文章の意味が直接わかると言うか……それが当たり前のように、そう見えてしまうんだ」

「ふむ……、確かにカイン君は別世界から来たのだから、言語は異なるはず……。しかし、我々と普通に会話が出来ている。つまり、聞いた言葉が頭の中で我々の言語に翻訳されている……。……そうか! 書かれた文章の場合は、その内容が一旦頭の中でカイン君の知る言語に翻訳され、言葉にする時に再びこちらの言語になる事で、微妙に文体が変化するのか!」

――こちらの世界での例として、古代ルーン語を現代の言葉に翻訳して、それを再び古代ルーン語に再変換すると、最初の文章と違った表現になることがある、とコルベールは語った。

 自分なりに納得のいく仮説が出来た事に満足したのか、コルベールはうんうんと頷いている。カインもコルベールの仮説を聞いて納得したが、また別の疑問が沸いてきた。

 それは、言葉が通じている事もそうだが、文章を瞬時に翻訳して読むことのできる現象の“原因”だ。

 それを考えていた時――

――ズガーーンッ!!

「――ッ! なんだッ!?」

 遠くで爆発音が鳴り、図書館全体が僅かに振動した。カインは咄嗟に警戒するが、コルベールは苦笑いを浮かべる。

「ああ……心配いらない。たぶん、ミス・ヴァリールだ……」

 ルイズの名前が出た事で、カインは疑問符を浮かべてコルベールに振り返る。
 コルベールは、苦笑しながらその訳を語った――。

――ルイズは何故か、どんな魔法を使おうとしても爆発し、それで一年の頃は、度々魔法の実演で教室を破壊してきた。

 それ故に、魔法成功率ゼロからとって、彼女が皮肉と侮蔑を込めて『ゼロ』のルイズという二つ名が付けられたらしい……。

「度々耳にする『ゼロ』のルイズというのは、そういう事だった訳か……」

「ああ。しかし、彼女はそれを何とかしようと日々努力を重ねている。自分の家名を汚さぬようにと、勉強を続けている。その証拠に、座学に於いて彼女は非常に優秀だ」

 そう語るコルベールに、カインも頷く。

――カインにも経験があった。実力が伸び悩み、偉大な竜騎士である父リチャード・ハイウインドと比べられ、悔しい思いをしていた時期が……。

 しかし、カインはその悔しさをバネに修行を重ね、その甲斐あって、亡き父の後を継ぎ竜騎士団団長の地位に就いたのだ。

 努力はいつの日か実を結ぶ――カインはそう信じている。だからこそ、ルイズの姿勢には好感が持てた。

「……そろそろお暇しよう。ありがとう、コルベール。おかげで色々と知る事ができた」

「この先も何か困った事があった時は、いつでも頼ってくれ。出来うる限り、力を貸そう」

 握手を交わし、カインは図書館を後にした。




 ルイズの様子を見に、教室へ向かおうと一旦庭に出た時だった――。

「うん、大丈夫……」

 誰かの話し声が聞こえ、その方に目を向けると、6メイル近くあるドラゴンの頭を撫でている少女がいた。

「ほう……」

 自分が見てきた“ソレ”よりも小さく、穏やかな目をしているが、それでもドラゴンとあそこまで仲睦まじくしている少女に、カインは感嘆の声を漏らす。

「――!」

 少し間を置いて、少女がカインに気付く。カインは、僅かに思案したが、少女に歩み寄った。

「そのドラゴンは、君の使い魔、なのか?」

「……」

 少女は無言で頷く。一方ドラゴンの方は、カインに興味津々の様子だ。じーっとカインを見つめている。

「……シルフィード」

「うん?」

「この子の名前」

 紹介され、シルフィードというらしいドラゴンが「きゅいきゅい♪」と嬉しそうに鳴く。そして、カインの方に鼻先を寄せ、カインがそれを撫でてやると、また嬉しそうに目を細める。

「タバサ」

「それは、君の名前か?」

「……」

 少女は頷く。

「カイン・ハイウインドだ」

 カインが自分の名を名乗ったところで、会話は止まった。しかし、カインはタバサを見てすぐに気が付く。

――彼女は、その容姿に似合わぬ程に場数を踏んでいる。自らの戦士の勘がそう告げていた。

 何故こんな少女が……と不思議にも思ったが、雰囲気から尋ねるべきではないことも察したので、口には出さない。
 それに……カインには、少女が意図してそういう雰囲気を放っているようにも感じられた。

「……」

 何を思ったか、タバサは持っていた杖でどこかを指し示す。
 何かと思い、カインがその先を見ると、彼女の杖は塔の最上階を指していた。

「あそこ」

「む? 何がだ?」

「あなたの探しもの」

 カインはタバサが言わんとしている事を察した。そして同時に、自分の目的を瞬時に見抜いた彼女の眼力に驚く。――が、今はルイズの事だ。

「……感謝する。ありがとう、タバサ」

「いい」

 タバサとシルフィードと別れ、カインは彼女に教えてもらった場所に向かう。

 タバサは、そのカインの後ろ姿を彼が見えなくなるまで眺めていた。




 タバサが指示した場所――それは、カインも訪れた事があるこの学院の最高責任者の執務室。そのドアの前まで来たが、カインはドアを叩こうとはせず、壁に寄りかかっている。

――ガチャッ……

「…………」

 しばらくして中から、ルイズが無表情で出てきた。

「――っ!?」

 ルイズは壁に寄りかかるカインに気付くと、一瞬驚いて目を見開いたが、すぐにムスッとした表情に変わり、そのまま階段を降りていく。カインもその後に続く。

「……何よ……?」

「何も言っていない」

「……言わなくたって分かるわよ。どうせミスタ・コルベールから聞いて知ってるんでしょ? 私の事……」

「ああ、聞いた」

 言い淀む事もなく、カインは即答する。

「――っ、どうせあんたも私を嗤うんでしょ? 嗤いたければ嗤いなさいよ! 魔法学院に入学してから、魔法の成功率ゼロ! 付いた二つ名が『ゼロ』のルイズだものね!!」

 ルイズは被害妄想から自嘲気味に騒ぎ出す。しかし、その顔は非常に悔しそうであり、悲しそうである。カインは表情を変えず、ただルイズの“悲鳴”を聞いていた。

「――嗤わんさ」

「同情ならいらないわよ……!」

「――違う。ただ、意欲を持って努力する者を嗤うような恥知らずな真似をしたくないだけだ」

「――っ!?」

 ルイズはそれを聞いてバッと後ろを振り返る。カインはそのまま歩みを進め、すれ違いざまにルイズの頭をくしゃりと撫でた。
 一瞬硬直したルイズだったが、直ぐに頭から湯気を噴出し赤面する。

「な、なな、何すんのよっ! つ、使い魔の分際でっ……使い魔の、くせに……」

 言葉が尻すぼみに小さくなっていく。最後にはゴニョゴニョと何を言っているのか聞き取れないほどの呟きに変わった。

「ふっ、それだけ憎まれ口が叩けるなら、大丈夫だな。その負けん気で、この先も努力を続けるといい」

「――っ! ふ、ふんっ! 言われなくてもそうするわよっ!!」

 そう言い捨てると、ルイズはカインを再び追い越し、急ぎ足で階段を降りて行く。カインもその後を追った。




 正午――カインがマルトーに用意してもらった賄いを平らげ、ルイズを迎えに行こうとしていた時のこと。

「――なあ、ギーシュ! お前、今は誰と付き合っているんだよ!」

 ふとそちらに視線を向けると、数人の男子が集まって何か話をしている。
 その話の中心にいるのは、金髪の癖っ毛に、フリルのついたシャツを着て、しかも薔薇をシャツのポケットに挿している、見るからに気障な男子のようだ。

「付き合う? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませ為に咲くのだからね」

「…………」

 呆れた事を平然と言い放つギーシュという少年を、カインは冷やかな目で見る。
 あの少年の言葉――要は、不特定多数の女子と付き合う事で自分の欲求を満たしていることへの言い訳だ。
 カインは見るに堪えかね、視線を逸らすと、今度は黒髪のメイドが見えた。

――シエスタだ。

 彼女は、デザートらしいケーキを乗せたトレイを持って、先程の男子達の元に歩いて行く。


 シエスタは、ギーシュ達にケーキを配ると一礼してその場を去ろうとした。が、ふとギーシュのポケットからガラスの小瓶が落ちたことに気付いた。

「あの……落とされましたよ?」

 しかし、ギーシュは振り向かない。シエスタは、聞こえなかったのかと思い、その小瓶を差し出してもう一度ギーシュに話しかける。

「あの……ミスタ? ポケットから、こちらの小瓶を落とされましたよ……?」

 すると、ギーシュは顔を顰めてシエスタに振り向き口を開いた。

「……それは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」

 シエスタは、少し怯えながらも首を傾げる。

――ギーシュは「知らない」と言うが、確かに彼のポケットから落ちるのを見た。彼の物でないはずはない。

 そんなシエスタの困惑を余所に、他の男子達が小瓶を見て騒ぎ出す。

「――おお? その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないか?」

「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分の為だけに調合している香水だぞ!」

「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは……、つまりお前は今、モンモランシーと付き合っている。そうだな?」

「――違う。いいかい? 彼女の名誉の為に言っておくが……」

 ギーシュが周りの男子達に言い訳をしようとした時、近くのテーブルに座っていた茶色のマントを羽織った栗色髪の少女が立ち上がり、ギーシュの方に向かってコツコツと歩いてきた。

「ギーシュさま……」

 そして……、ギーシュの傍まで来るとボロボロと泣き始める。

「やはり、ミス・モンモランシーと……」

 怒りか、悔しさか、悲しさか……少女は肩を震わせる。

「彼らは誤解しているんだ、ケティ。いいかい? 僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」

――パチーーンッ!!

 ギーシュが言い終える前に、ケティと呼ばれた少女が、彼の頬を思いきり引っ叩いた。

「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」

 そう言って、涙を零しながら踵を返してケティは走り去った。
 すると、今度は少し遠くの席から、見事なカールが施された金髪の少女が立ち上がる。ケティとは違い、厳めしい顔でカツカツとギーシュの傍までやってきた。

 それに気付いたギーシュは、慌てて彼女が何かを言う前に、言い訳を始める。

「モンモランシー、誤解だ。彼女とはただいっしょに、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」

 平静を装っているが、その額には冷や汗が伝っている。

「やっぱり、あの一年生に手を出していたのね?」

「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りで歪ませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」

 モンモランシーと呼ばれた少女は、テーブルに置かれていたワインの壜を掴むと、無言で中身をどぼどぼとギーシュの頭から掛けた。

「うそつき!」

 そして一言怒鳴りつけると、その場を早足で去って行った。

――僅かに沈黙がその場を支配する。

 ギーシュはハンカチを取り出し、ゆっくりと自分の顔を拭った。そして、首を振りながら芝居がかった仕草で言う。

「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」

 呆れた事に、自分には非がないかのような事を平然と口にするギーシュ。何を思ったか、彼はその場を動けずにオロオロしていたシエスタに視線を向ける。

「メイド君、君が軽率に瓶なんかを拾い上げるおかげで、二人のレディの名誉が傷ついたじゃないか。どうしてくれるんだね?」

「え……も、申し訳ありませんっ!」

 余りにも理不尽な言い草にも関わらず、シエスタは必死で頭を下げた。そこへ――

「――頭を下げる必要などない」

「――え……?」



――普段カインは、余程のことがなければ腹を立てたりはしない。そのカインの精神をもってしても、もはや我慢の限界だった。

 事の一部始終を見ていたが、シエスタに落ち度など皆無だ。
 しかし、目の前のギーシュというらしい小僧は、自分の責任をシエスタに転嫁して訳のわからない難癖をつけている――言いがかりも甚だしい。そして、シエスタがそれに泣きそうな表情で必死に頭を下げているのだ。こんな理不尽な事は無い。

「あの少女二人の名誉とやらを傷つけたのは、他の誰でもない貴様だろうが、小僧。それを、親切にも小瓶を拾い上げたシエスタが悪いだと? 勘違いも大概にしておけ」

 カインの迫力に押されながらも、ギーシュはまた言い訳を口にする。

「い、いいかね? 僕は彼女が香水の瓶を拾った時に、知らないフリをしたんだ。話を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」

「――笑わせるな。それは何処の世界の屁理屈だ? 第一、貴様が彼女達を傷つけた事実に変わりはない」

 周りの男子達も「そうだそうだ!」とカインの意見に賛同する声が上がる。
 ギーシュも「ぐむむ」と口を噤んだ。だが、シエスタの一言でそれが一変する――。

「――か、カインさん! 貴族の方々に逆らったら……」

「――ん?!」

 ギーシュがシエスタの言葉を耳聡く捉えた。

「『貴族の方々に逆らったら……』? もしや……君は、貴族ではないのか?」

「――あっ!!?」

 シエスタは思わず、手で口を塞ぐ。――が、カインは臆した様子もなく言い放つ。

「ああ、俺は貴族ではない。加えて、魔法も使えん」

「――カインさん……っ!?」

 自らメイジでない事をあっさり白状してしまうカインを見て、シエスタは顔を青くする。
 逆に、ギーシュは口元を歪めて笑いだす。

「ふ、ふふふ……なるほど。そういえば思い出したが、君は確か『ゼロ』のルイズが呼びだした人間だったな。そうか、平民だったわけか。ならば、貴族の機転など分かるはずもないな」

 カインが貴族でもメイジでもないと知るや否や、ギーシュの態度が一転する。明らかに安堵し、強気になっている。

「くだらん。人の心が分からんボンクラに言われる筋合いはない」

「……どうやら、君は貴族に対する礼を知らないようだな」

 カインの言葉に、ギーシュの目が光る。

「礼は知っている。単に、貴様のような馬鹿には尽くす必要がないだけだ」

「……よかろう。君に礼儀を教えてやろう。ちょうどいい腹ごなしだ」

 ギーシュは立ち上がる。

「ふっ、面白い。ご教授願うとしようか、おぼっちゃま?」

「――ふっ、ふふ……いいだろう。だが、貴族の食卓を平民の血で汚すわけにはいかない。ヴェストリの広場でやるとしよう……。君も覚悟が出来たら、来たまえ」

 カインの挑発で、顔を赤くしたギーシュは背中を震わせながら歩いて行った。その後を、同じテーブルに座っていたギーシュの友人たちがわくわくした顔で追って行く。だが一人はテーブルに残った。――どうやら、見張りのつもりらしい。

「――か、カインさんッ!」

 声に振り返ると、シエスタが縋りつかんばかりに近寄り、ぶるぶると震えている。

「こ、殺されちゃいます……貴族の方を本気で怒らせたら――」

――ぽふっ

 カインはシエスタが言い終わる前に、彼女の頭に手を置く。

「え……?」

 シエスタは、突然の事に困惑する。

「心配はいらん……」

 それだけ言い残し、カインはギーシュの後を追おうと、一人残った男子に歩み寄ろうとする。
 が、そこに一人の少女が駆けてきた――。

「――あんた! 何やってんのよ!? 見てたわよ!」

「……ルイズか」

「『……ルイズか』じゃないわよ! 何勝手に決闘の……っ?!」

――思わずルイズは息を飲んだ。兜の形状で目元は分からないが、それでも分かる程にカインの顔にはすさまじい迫力があったからだ。

「ヴェストリの広場とやらは、何処だ?」

 テーブルに残っていた男子も、カインの迫力を感じ取ったのか、顔を引き攣らせて立ち上がる。

「……こ、こっちだ」

 呆然とするルイズとシエスタを残し、カインはギーシュが待つヴェストリの広場へ向かって行った……。






続く……かも





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