<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.2650の一覧
[0] 最後の物語へようこそ   【本編完結】[その場の勢い](2019/10/30 22:07)
[1] 最後の物語へようこそ    プロローグ[その場の勢い](2017/11/22 01:15)
[2] 最後の物語へようこそ    第一話 [その場の勢い](2017/11/07 23:32)
[3] 最後の物語へようこそ    第二話 [その場の勢い](2017/11/08 20:18)
[4] 最後の物語へようこそ    第三話 [その場の勢い](2017/11/09 21:45)
[5] 最後の物語へようこそ    第四話 [その場の勢い](2017/11/10 19:08)
[6] 最後の物語へようこそ    第五話 [その場の勢い](2017/11/11 21:12)
[7] 最後の物語へようこそ    第六話 [その場の勢い](2017/11/13 19:49)
[8] 最後の物語へようこそ    第七話[その場の勢い](2017/11/13 19:51)
[9] 最後の物語へようこそ    第八話[その場の勢い](2017/11/15 00:15)
[10] 最後の物語へようこそ    第九話 [その場の勢い](2017/11/21 20:21)
[11] 最後の物語へようこそ    第十話 [その場の勢い](2017/11/21 20:29)
[12] 最後の物語へようこそ    第十一話 [その場の勢い](2017/12/01 19:19)
[13] 最後の物語へようこそ    第十二話 [その場の勢い](2017/12/08 19:06)
[14] 最後の物語へようこそ    第十三話 [その場の勢い](2017/12/15 18:13)
[15] 最後の物語へようこそ    第十四話 [その場の勢い](2017/12/23 19:45)
[16] 最後の物語へようこそ    第十五話 [その場の勢い](2018/01/13 19:09)
[17] 最後の物語へようこそ    第十六話 [その場の勢い](2018/01/20 18:51)
[18] 最後の物語へようこそ    第十七話 [その場の勢い](2018/01/27 18:59)
[19] 最後の物語へようこそ    第十八話 [その場の勢い](2018/02/06 18:57)
[20] 最後の物語へようこそ    第十九話 [その場の勢い](2018/05/29 19:03)
[21] 最後の物語へようこそ    第二十話 [その場の勢い](2018/05/31 19:10)
[22] 最後の物語へようこそ    第二十一話 [その場の勢い](2018/06/01 19:25)
[23] 最後の物語へようこそ    第二十二話 [その場の勢い](2018/06/02 18:27)
[24] 最後の物語へようこそ    第二十三話 [その場の勢い](2018/06/03 18:25)
[25] 最後の物語へようこそ    第二十四話 [その場の勢い](2018/09/25 15:12)
[26] 最後の物語へようこそ    第二十五話 [その場の勢い](2018/09/26 19:51)
[27] 最後の物語へようこそ    第二十六話 [その場の勢い](2018/09/27 18:24)
[28] 最後の物語へようこそ 外伝1[その場の勢い](2019/07/09 20:24)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[2650] 最後の物語へようこそ    第八話
Name: その場の勢い◆0967c580 ID:1179191e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/11/15 00:15
 


 ───ルカ


 スピラ第二の規模を誇る都市。商業活動が盛んであり、広く整備された貿易港には日夜スピラ中からの物資や人が多く集まる。そのためか、ここでは珍しくエボンの教えをあまり感じさせぬ自由な気風があり、旅の途中でここに腰を落ちつかせる人々も少なくない。

 ルカを紹介する上でかかせないのが、何といってもブリッツボールだ。ここにはスピラで唯一のスタジアムがあり、ルカを拠点とするルカ・ゴワーズは大会の優勝候補筆頭でもある。

 娯楽の少ないスピラにおいてはブリッツは数少ないシンの恐怖を紛らわせる手段であるため、シーズン中はとにかく人が大勢集まり、中央広場のカフェやショップにはブリッツフリークスやグッズを買い求める人々でに大変な賑わいを見せている。

 通常、街がある程度以上に発展してしまうと、シンが街を破壊しにくるため、スピラでは大きな都市は育たない。だが、ここはブリッツスタジアムや流通の要でもあるため、討伐隊が命がけでシンの進行を逸らしている。そのため、べベルの他に唯一都市と呼べる規模を誇っていられる。

 現在はエボン寺院の最高指導者、マイカ総老師の即位五十周年記念大会が開催中だ。大会にはマイカ総老師が自ら足を運び、試合を観戦するとあって選手には気合が入り、観客も大いに盛り上がっていた。

 特に現在は決勝戦の最中だ。最弱と名高いビサイド・オーラカが番狂わせを起こして決勝に進出したということもあり、興奮のボルテージは青天井で上がり続けている。もし、このまま優勝すれば歴史に残る勝利になることは間違いないだろう。






 俺は選手の控室に一人残り、装備の最終確認を済ませて時が来るのを待っていた。

「………そろそろかな」

 控室の上、スタジアムから割れんばかりのワッカコールが聞こえてくる。スフィアモニターに目を向ければ、二十三年間初戦敗退だったにも関わらず、優勝候補筆頭であるルカ・ゴワーズに2対3という接戦で勝利し、歴史的な快挙をなしとげたビサイド・オーラカの姿が映し出されていた。

「おめでとう、ワッカ」

 その様子を見届けると呟きながら立ち上がり、フラタ二ティーとワッカのブリッツボールを手にして控室を後にする。

 俺は一回戦のアルべド・サイクスとの試合に出たが、決勝戦は辞退していた。というのも、ブリッツは思いのほか体力や気力を消耗するからだ。ザナルカンドにいた時に軽く練習をしていたが、一試合ぶっ通しで出たのは初めてだったし、本番ともなるとやはり疲労度も桁違いだった。ブリッツは水中の格闘技と呼ばれるほど激しいぶつかり合いもある。そこで下手に怪我をしてこの後の魔物の襲撃イベントに懸念を残したくもなかった。

 それに、ぽっとでの俺が参加するよりも、やっぱりワッカの引退試合は元々のチームメンバーで参加したほうが思い出に残る。俺はアルべド・サイクス戦で1ゴール2アシストでそこそこ活躍したし、十分に役目を果たしたとんじゃないかと思う。

 ちなみに、ユウナの誘拐イベントは計画通りに潰した。アルべドとの試合が始まるまで控室に籠り、何かと理由をつけてユウナをそこに留めておいたので、連中が誘拐するチャンスなどありはしなかった。

 階段を昇り、選手の入場口で魔物の襲撃を待つ。

 会場は皆スタンディングオベーションでワッカコールとオーラカコールの嵐が続いている。近年稀に見る大波乱、大接戦だったために、敗れ去ったルカ・ゴワーズのサポーターですらオーラカの健闘を称えていた。

 このまま何事もなく終わるのであれば、言うことなしなのだが………

「恐らくそういう訳には………来たっ!」

 盛り上がる会場に水を差すように魔物が何処からともなく侵入してくる。スフィアプール、観客席、上空、至る所に魔物が姿を現す。先程までの歓声が一瞬にして悲鳴へと変わった。

 魔物襲撃と同時にスフィアプールへと飛び込む。まずは武器を持っていないワッカを助け出さないといけない。

 ワッカの目の前には魚型の魔物サハギンが三体。他の選手を逃がす為にブリッツボールで牽制している。通常であれば苦戦する相手ではないが、公式のブリッツボールでは碌にダメージを与えることはできないようだ。

「ボッガ(ワッカ)!」

 というわけで、アン○○マン新しい顔よ!とばかりにワッカのブリッツボールをロングパス。ワッカは驚いた顔を作りながらも、難なく受け止めると親指を立てる。そして一匹、二匹と次々にサハギンを幻光虫に変えていく。最後の一匹はワッカに気を取られている隙に俺が背後から一撃で仕留めた。

 水中にいる魔物を全滅させるとプールから上がる。

「っ、ぷはー!いや、助かったぜ。公式ボールじゃあ碌にダメージが通らなかったからよ。やっぱりこの改造ボールじゃないと無理だな」
「どういたしまして。それより上に行こう」
「ああ、これだけの魔物が入り込んだのか気になるが………今はユウナを探しつつ魔物の駆除が先決だな」

 スフィアプールから出ると休む暇もことなく、階段を掛け上げっていく。先程まで試合をして疲れ切っているだろうに、疲労を感じさせない俊敏な動きだ。伊達にユウナのガードをやっている訳じゃないってことか。少しばかり感心しつつ後姿を追いかける。

「………こいつぁまじでえらい事態だな」

 階段を上がり、スタジアムを見渡すとそこかしこで魔物が暴れているのが目に入る。会場内の警備員も頑張って魔物を倒してはいるが、如何せん数が多い。俺達も手近な魔物を倒してはいるが、一匹、二匹倒しただけでは焼け石に水だ。やっぱりこいつらを一掃するには個人の力では厳しい。召喚獣の中でも一際強力な力を持つアニマの力が必要だろう。

 その召喚獣を持つ者は今のところただ一人。会場の特別席に一瞬目線を送る。そこには極めて特徴的な髪形をした一人の男───シーモア・グアドの姿があった。

 ───シーモア・グアド
 エボン寺院に四人いる老師の一人にしてグアド族の族長も兼任する人物。本人は召喚士としての立場もあり、その実力は凡百の召喚士が束で掛かろうと歯が立たない程に高い。理知的で物腰柔らかく人当たりもいいため、多くの人から熱狂的な支持を得ているスピラ有数の実力者だ。

 そこだけ見えれば大層な好人物のように見えるが、それは表面的な物にすぎない。一皮剥けば、そこにはどす黒い感情を隠し持つ。

 先代グアド族長とヒトとの間に生まれた混血児である彼は、幼少の頃に混血を嫌う一族の風習により母共々離島へと島流しにされた過去を持つ。今でこそ混血がヒトとグアド族との友好の懸け橋であるなどと言われているが、幼少時の彼にとってその血は呪われた物に過ぎなかった。

 元々は活発で無邪気だった彼は、迫害と最愛の母の死と引き換えにアニマという強大な力───究極召喚を得るが、それが切っ掛けで歪んだ思想を持つこととなる。孤独と絶望。究極召喚の意味。シンという厄災の正体。それらを知ってしまった時、彼は死こそがスピラに残された最後の希望であるという結論に到った。そして、いつしかスピラに救い(死)をもたらすため、自身がシンに成り代わるという妄執に憑りつかれることとなる。

 それがシーモア・グアドという男の本質だ。

 幼少時より迫害され、愛する母を失い、絶望しか残っていない状況では思想が歪むのも無理はないと思う。シーモアの背景を知り、少しも同情したことがないとは言わない。

 だが、港でも遠目に見たが、やはりシーモアのことは好きになれそうにもなかった。というか一方的で悪いが、ゲームをやっていた頃から大が付くほど嫌いだ。なぜなら、こいつはティーダの目の前でユウナの唇を奪った奴だからな。ゲームをしていた当時は怒りのあまりコントローラーをぶん投げた記憶がある。

 この世界では、まだユウナに手を出してはいないとはいえ、将来べベルで起きるであろうイベントを思い出すと腸が煮えくり返りそうになる。今後どうなるのか分からないが、あのイベントは何があろうと絶対に阻止してやるつもりだ。

(って、今はそれよりも目の前のことに集中しないと)

 当時のことを思い出すと腸が煮えくり返って仕方がないが、一度頭を振り、目の前の魔物に集中する。

 目の前の魔物共も侮っていい相手ではないのだ。空を飛んでいる大型の鳥類系の魔物や、まんま恐竜のような魔物がうようよしているのだ。油断すればここでお陀仏になってもおかしくはない。

「うん?あの人は………」

 魔物を間引きしていると隣からから怪訝そうな声が聞こえてくる。

 ワッカの目線の先に視線をやると、一人の男の後ろ姿が目に入った。男性は赤を基調とした流しのような服を着ており、腰には酒瓶が釣り下げられている。そして、その手には鉄塊の如き大剣が握られ、魔物を目の前にしても動揺の一欠けらも見受けられない。

 この特徴で俺が知っている人物はただ一人。

「「アーロン(さん)!」」

 ワッカも同じ結論に至ったようで同時に叫ぶ。その声を合図に恐竜型の馬ほどの大きさの魔物がアーロン目がけて突進を開始する。口から見える鋭利な牙や爪は下手な防具など気休めにもならない鋭さを有しており、巨体から繰り出される体当たりはまともに喰らえば全身の骨がバラバラになることは必至だ。

 だがアーロン、つまり伝説のガードと謳われる男にとっては、この程度では何の脅威にもならない。自然体のまま魔物が間合いに入ったその瞬間───

 一閃

 常人では持つことすら敵わない大剣をまるで小枝の如く片手で振るう。ただそれでけの動きだった。結果、その場には幻光虫が舞い散り、魔物の姿は消え去ってしまった。

「………すげぇ」

 思わず口から声が漏れ出た。ザナルカンドにいた頃から頼りになる人ではあったが、やはり戦闘になると段違いだ。この人の近くにいれば何も心配はいらない。そういった安心感がある。

「アーロンさん!どうしてここに?」

 憧れの伝説的ガードの登場に少し浮ついた声で話しかけるワッカ。対するアーロンはそんなワッカに何も答えずに、中空に目を向ける。俺とワッカも釣られて空を見上げれば、

「………え?うおっ!?」

 そこには像ほどの巨体を持つ怪鳥が舌なめずりをして此方を見下ろしていた。完全に捕食者の目をしており、俺達は獲物としてしか見ていない。

「………『飛んでる敵はワッカさんに任せなさい!』だったよな?よし、ワッカ後は任せた」
「い、いやぁ、確かに言ったけどよ………ちっとは手伝ってくれよ、あれを一人で倒すのは結構しんどそうだぜ」

 ちょっと前に言ったセリフを再現すると、たらりと冷汗を流すワッカ。

 まあ、任せたと言うのは冗談としても、剣だと飛んでる敵には攻撃手段が極端に限られてしまう。俺に出来ることと言えば、相手の攻撃の瞬間にカウンターを叩き込むこと位か。だが、あるいはアーロンであれば飛んでる敵への対処法の一つでも持っているのかもしれない。

「アーロン、あんたならあいつを落とせるか?」

 そう思って声をかける。だが、帰ってきた返答はイエスでもノーでもなかった。

「………その必要はない」
「え?それはどういう」

 そう言ったっきり魔物が襲い掛かろうとしているにも関わらず、大剣を背負いなおして戦闘態勢を解いてしまう。

「見ろ、お出ましだ」

 その言葉と同時、虚空より錨が降ってきた。錨は地面を突き破り、異形の化物を異次元より引き上げる。

 化物の名はアニマ。シーモアが持つ究極召喚獣だ。

 形だけでいえば人間のそれに酷似しているが、十メートルはあろうかという巨体を誇る。その姿はあばら骨が浮き出ており、両腕も干からびてまるでミイラを彷彿とさせる姿をしていた。顔は覆面のような物で覆われているが、露出している左目からはある種の狂気を感じさせる。

 胸の前で組んだ腕は太い帯で固定され、その体躯も鎖で幾重にも拘束されている様は、まるで途方もない力が暴走するのを押さえつけているかのようであった。

 そして、アニマは左目に力を貯めるとその力を解き放つ。

「………これがアニマの力」

 ほんの一瞬左目に力を貯めると、次の瞬間には魔物が幻光虫へと変わっていた。

 ただ力を込めた左目で相手を見るだけ。たったそれだけの動作で、魔物を容易く葬り去る。弱い魔物も強い魔物も、大きい魔物も小さい魔物も、アニマの前では全て塵に等しい。会場にいた百にも届こうかと言う魔物は、瞬く間にその姿を幻光虫に変えた。

 現存する唯一の究極召喚だけあって、その力はまさしく圧倒的だ。

「すっげー、流石シーモア様だぜ」

 特別席から見えるシーモアの姿にワッカが賞賛の声と視線を送っている。内情を知っている俺からすれば何とも言えない気持ちになるが、エボンの教えを信じ切っているワッカからすればシーモアのマッチポンプだとは考えもしないだろう。

「ティーダ、話がある。付いて来い」

 シーモアに対する賞賛の声が次々と上がる中、アーロンはそれだけ言うと踵を返してスタジアムを後にする。俺は一応ワッカに断りを入れてからアーロンの後を追いかけた。

 この後に何が待ち受けているのかも知らずに。









 ───ルカ三番ポート


「ここの辺でいいか」
「………で、今更現れて話ってなんだよ。こっちはあんたの所為で逃げ遅れて大変な目に合ったんだ」

 表面上はぶっきらぼうな感じに、内心は戦々恐々としながらティーダの振りをする。確かゲームでは胸倉を掴んで喚き散らしていたはずだが、いざアーロンを目の前にするとそこまでは出来なかった。

 対するアーロンは無言。鷹の目を思わせる鋭い視線で俺を真っすぐ見据えるのみ。

「………」
「な、なんだよ、何とか言えよっ」

 場の重圧に負けて虚勢を張るが、この男にそのようなものそよ風も同然だ。アーロンはそんな俺を一瞥すると、徐に切り出した。

「『ファイナルファンタジーⅩ』───知っているな?」
「………………………あ?」

 その単語を聞いた瞬間、俺は呆然と立ち尽くす。あまりに予想外の事態に頭が真っ白に染まってしまっている。

「………アーロン………あんた、今なんて言った?」
「ファイナルファンタジーⅩ───そう言ったんだ。この世界での出来事は、お前たちの世界ではそう呼ばれていたらしいな」
「………………」

 なぜアーロンがその言葉を知っている?どこから、誰から聞いた?真っ白になった頭でただひたすら同じ考えがループする。俺が本物のティーダでないことは見破られているかもしれないと思っていたが、ファイナルファンタジーの存在まで知っているとは完全に予想外もいいところだ。

「ああ、それから俺の前ではもう演技はしなくていい」

 アーロンは、続けて言う。

「体は確かにティーダの物。だが、精神のみ違っていることは把握している。だから演技は不要だ」
「………そうですか」

 一周回って逆に冷静になるとはこのことか。先程まで混乱状態だったが、自分でも驚くほどに一瞬で平静を取り戻せた。

 少し状況を整理する。

 情報源は分からないが、アーロンはファイナルファンタジーⅩの存在を知っている。そして、俺が本物のティーダではないことも。

 ………もう演技は無駄か。一つため息を付いて演技をやめる。

「………何時から知ってたのですか?」
「最初からだ」
「最初からって………」

 これでは俺はとんだ道化だ。いや、そもそも幼少の頃よりティーダを見守ってきたアーロンの目を誤魔化そうなどと甘い考えだったか。

 しかし、そうなると疑問が次々浮かび上がる。

「どうして黙ってたんです?なぜ糾弾しないんですか?そして、ファイナルファンタジーの存在をどこで知ったのですか?」

 意図したわけではないが、今の俺はティーダの体を乗っ取った形となっている。ティーダの精神が消滅してしまったのか、俺の中にまだ眠っているのか分からないが、友人の息子に寄生しているようなもの。罵倒なり、糾弾なりされても仕方がないはずだ。

 そして、ファイナルファンタジーという存在をどこで誰から教えられたのか………

「………お前があいつの体を使っていることに思うところがない訳じゃない。だが意図した訳でなく、むしろ被害者であるお前を責めるほど俺も狭量ではない」
「え?俺が……被害者ですか?」

 どういうことだ?俺が被害者?アーロンから帰ってきた答えにさらに疑問が深まる。

 だが、その疑問は次の言葉で吹き飛んだ。

「あいつ───バハムートの奴がティーダを依代としてお前を召喚した。そう聞いている」
「な………っ!?」

 思わず目を見開く。俺を召喚?別世界の存在だった俺を一体どうやって?いや、この際どうやって俺を召喚したのかその方法はどうでもいい。実際にこうしてここに俺がいる以上方法はあったのだろう。だが───

「………何故………バハムートが俺を召喚したんでしょうか?」

 何故俺をこの世界に召喚したのか、その理由だけでも知りたい。

「一つ言っておくが、俺も全てを知っている訳ではない。むしろ知らないことの方が圧倒的に多い」

 そう前置きして話を続ける。

「ファイナルファンタジーⅩという言葉はバハムートの奴から聞いた。詳しいことは濁されたが、この世界の出来事がお前の世界のゲームと酷似していると言っていた。そして、シンの呪縛からスピラを解放するにはティーダではなく───お前自身の存在が必要であるということ」

 馬鹿な、と思う。
 この世界の存在であるバハムートが向うのゲームを何故知っているんだ。それに、俺の存在が鍵となる?ありえない。ティーダなら分かるが、俺自身とこの世界にはなんの関わり合いもないはずだ。

「今からおよそ一年ほど前。バハムートの奴は何の説明もなしにティーダを依代とした召喚を強行した。ティーダの精神は眠りに付いただけで消滅したわけじゃないそうだが、問い詰める俺に対して、奴は謝りながらも絶対に必要な事だと、その一点張りだ。そして、挙句の果てに奴は頼み事をしてきた。召喚した奴には何も告げず、今迄と変わらずに見守りスピラに導いて欲しいと」

 ふざけた話だ、アーロンはそう吐き捨てる。

「ティーダの体を勝手に依代とした上、随分と勝手なことを言ってくれると思っていた。感情に任せて断ること出来たが………結局は引き受けた。そうしたところで事態がどうこうなる訳じゃない。それに奴のスピラを想う気持ちは本物だ。嘘を付く必要もない以上、それは本当に必要なことだったのだろう」

 アーロンは一拍置いてから続けた。

「………俺は真実が知りたい。スピラのザナルカンドに辿り着き、そこでシンの正体を、究極召喚の意味をユウナレスカから聞いたはずだった。だが、まだその奥には得体の知れない何かが潜んでいる。バハムートの思惑がどうであれ、俺は今度こそ真実を見極めるつもりだ」
「………………」

 アーロンからもたらされた情報を前に言葉が出ない。

「最後にバハムートの奴から伝言を預かっている。『聖べベル宮祈り子の間、そこで全てを話す』だそうだ」
「べベルで全てを………ですか」
「奴の秘密主義は今に始まったことじゃない。問い詰めはしたものの、俺が聞けたのはその程度だった」

 聖べベル宮の祈り子の間。そこでバハムートの口からどんな事実が飛び出るのか分からない。だが、ことの真相を知るためにはそこに辿り着かなければいけない。

 ティーダを依代とした召喚、バハムートの思惑、俺自身がスピラを解放する要だということ。それらがどのような事実を紡ぎ出すのか………

「真実を知るにはお前の協力がいる。俺もお前に力を貸す。だからお前も力を貸してくれ」
「………はい、こちらこそお願いします。俺も真実が知りたい」

 差し出されたアーロンの手を握る。
 アーロンという味方が出来たのは頼もしいが、心に残る一抹の不安は消えそうになかった。







拙い作品ですが、読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字等々あればお手数ですが、お知らせください。
また、その他にも何かあれば感想でお願いします。



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.043817043304443