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No.2650の一覧
[0] 最後の物語へようこそ   【本編完結】[その場の勢い](2019/10/30 22:07)
[1] 最後の物語へようこそ    プロローグ[その場の勢い](2017/11/22 01:15)
[2] 最後の物語へようこそ    第一話 [その場の勢い](2017/11/07 23:32)
[3] 最後の物語へようこそ    第二話 [その場の勢い](2017/11/08 20:18)
[4] 最後の物語へようこそ    第三話 [その場の勢い](2017/11/09 21:45)
[5] 最後の物語へようこそ    第四話 [その場の勢い](2017/11/10 19:08)
[6] 最後の物語へようこそ    第五話 [その場の勢い](2017/11/11 21:12)
[7] 最後の物語へようこそ    第六話 [その場の勢い](2017/11/13 19:49)
[8] 最後の物語へようこそ    第七話[その場の勢い](2017/11/13 19:51)
[9] 最後の物語へようこそ    第八話[その場の勢い](2017/11/15 00:15)
[10] 最後の物語へようこそ    第九話 [その場の勢い](2017/11/21 20:21)
[11] 最後の物語へようこそ    第十話 [その場の勢い](2017/11/21 20:29)
[12] 最後の物語へようこそ    第十一話 [その場の勢い](2017/12/01 19:19)
[13] 最後の物語へようこそ    第十二話 [その場の勢い](2017/12/08 19:06)
[14] 最後の物語へようこそ    第十三話 [その場の勢い](2017/12/15 18:13)
[15] 最後の物語へようこそ    第十四話 [その場の勢い](2017/12/23 19:45)
[16] 最後の物語へようこそ    第十五話 [その場の勢い](2018/01/13 19:09)
[17] 最後の物語へようこそ    第十六話 [その場の勢い](2018/01/20 18:51)
[18] 最後の物語へようこそ    第十七話 [その場の勢い](2018/01/27 18:59)
[19] 最後の物語へようこそ    第十八話 [その場の勢い](2018/02/06 18:57)
[20] 最後の物語へようこそ    第十九話 [その場の勢い](2018/05/29 19:03)
[21] 最後の物語へようこそ    第二十話 [その場の勢い](2018/05/31 19:10)
[22] 最後の物語へようこそ    第二十一話 [その場の勢い](2018/06/01 19:25)
[23] 最後の物語へようこそ    第二十二話 [その場の勢い](2018/06/02 18:27)
[24] 最後の物語へようこそ    第二十三話 [その場の勢い](2018/06/03 18:25)
[25] 最後の物語へようこそ    第二十四話 [その場の勢い](2018/09/25 15:12)
[26] 最後の物語へようこそ    第二十五話 [その場の勢い](2018/09/26 19:51)
[27] 最後の物語へようこそ    第二十六話 [その場の勢い](2018/09/27 18:24)
[28] 最後の物語へようこそ 外伝1[その場の勢い](2019/07/09 20:24)
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[2650] 最後の物語へようこそ    第十六話 
Name: その場の勢い◆0967c580 ID:1179191e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2018/01/20 18:51


オリ設定、独自解釈、ご都合主義が満載となっております。読まれる方は胸焼けにご注意ください。










 ───マカラーニャ寺院 

 普段は物静で厳粛な雰囲気が漂う寺院だが、今はシーモアとユウナの結婚という朗報に明るい雰囲気に包まれていた。楽器と体が一体化した亜人種が祝いの音楽を演奏し、普段は厳つい顔のグアド族もこの時ばかりは柔らかな表情をしている。俺達はそんな彼らを横目に大広間でユウナが出て来るのを待っていたが、そこで一つの異変が起きた。

 先代の族長だったジスカルの名を叫び、一人の女性が控室からよろめきながら出てきたのだ。話を聞けば、原因はユウナの手荷物の中から出てきたジスカルのスフィアとのこと。すぐさま原因のスフィアを再生して内容を確かめる。

「なんだよ、これ………」

 重要な点は原作と変わらなかった。自分が近いうちに息子に殺されるであろうこと、そしてシーモアがスピラに大いなる災いをもたらす存在になってしまうだろう、とはっきりと語るジスカルの姿が映し出されている。

「見たまんまだろ。シーモアがジスカルを殺して、これからも何かやばい事をやらかす気だ。それ以外にどんな解釈が?」
「………嘘だろ」

 呆然自失のワッカを横目に、ジスカルのスフィアを仕舞い込む。このスフィアを証拠として扱ってもらえるか分からないが、ないよりはましだろう。トワメルに壊されるのも癪だしな。なんにせよ、これでシーモアの仮面は剥がれ落ちた。

 つまり、これからするべき事は一つだけ。

「行こう」

 一言呟く。たったそれだけの言葉でアーロンとキマリは瞬時に理解してくれたようだ。力強く頷くと、後に付いて来てくれる。次いでリュックに視線を向けると、任せて!とばかりに胸を叩いていた。ルールーは、ほんの少しだけ迷いを見せたが、すぐに覚悟を決めた表情となる。

「あ、お、おい、行くって何処へ………」

 覚悟が決まっていないのはワッカだけ。いや、それ以前にまだ混乱中か。先程リュックがアルべド族だと判明し、まだその整理が付いていない段階でジスカルのスフィアを見てしまった。怒涛の展開に頭が付いて行ってないのだ。そうなるのも無理はないが、今は呆けている暇はない。

「シーモアがやばい奴ってのが分かったんだ。なら俺達が行くべきところ、やるべきことは?」
「そ、それは………だが、相手はエボンの老師だぞ!?」
「………それが?迷ってるならそこで待っててくれて構わない」

 突き放すような言い方になってしまったが、訂正はしない。今は他に気を回せるほど俺も余裕がなかった。腰につけたホルダーからカプセルを数粒取り出し、口に放り込むと控室を後にする。

「ワッカ、行きましょう」
「ルー、お前は………」
「あんたにとって大事なのは教え?それともユウナ?………答えは決まってるわね?」
「………くそっ、ああ、そんなもんユウナに決まってんだろ!だけど、なんでこうも立て続けにっ!」

 ルールーに選択を付きつけられ、ワッカもようやく動き出す。本当に大事な物を見失わないでくれてよかった。後ろから聞こえてくる声に安堵の思いを抱きつつ、大広間を突っ切り制止するグアドの僧兵を振り切って試練の間へと突入する。

「………最初から奴に敵愾心を持っていたのはこういう訳か」

 祈り子の間へと向かう途中、アーロンが小声で話掛けてきた。俺は軽く頷いて返す。

「それから、本来の流れから外れますが、俺はここで奴を完全に仕留めるつもりです」
「いいのか?後の物語に支障が出ると思うが」
「多分大丈夫だと思います。それに、ここで決着を付けておかないと後々パワーアップを重ねてきて最悪は此方が全滅しかねません。まずは生き残ることが先決かと」

 この後のべベルでのイベントがどのようになるのか不透明になってしまうが、後々の生存率を考えればここで仕留めるメリットの方が確実にでかい。

「流れを変えるのはいいとしよう。しかし、バハムートの奴からお前は命のやり取りが殆どない土地から来たと聞いている。そんな状態で奴を躊躇いなく殺せるのか?躊躇いはお前を逆に殺す。なんなら俺が奴を「出来ます」───………ほぅ、言ったな」

 心を見透かされそうな強い視線。だが、目線は合わせたまま深く頷いて見せる。

「覚悟は決めました。手もあります。だから………俺がシーモアを殺ります」

 シーモアに対する作戦はアーロンよりも俺の方が適任だ。まあ、作戦などと言えないシンプルなものだが、それ故に覚悟さえあれば俺にも出来る。

「………いいだろう。そこまで言うのであればやってみせろ。必要ならば何でも言え、盾にでも何でもなってやる」
「はい!」

 アーロンの全面的な協力は本当にありがたい。おかげで精神的にも少し余裕を持つことが出来た。適度な緊張は必要だが、あまり気負いすぎても体が硬くなるだけだ。

 試練の間を駆け足で進む。既に試練は突破されているので面倒な手順を踏むことなく、真っ直ぐ一本道。すぐにシーモアがいるであろう部屋の一歩手前に到着する。

「各員覚悟を決めておけ。これから先は十中八九碌な事にはならんだろうからな」

 アーロンの言葉にワッカが表情を引き攣らせるが、他のメンバーは既に覚悟を決めていたのか動揺は少ない。

「………開けるぞ」

 軽く乱れた呼吸を整えると扉をゆっくり開く。



















「これはこれは皆さん………そのように怖い顔をなされて如何なさいましたか?」

 扉を開けた先。そこは祈り子の間に通じる大広間となっていた。バスケットコートが四、五面は入るであろう広さがあり、天井は遥か高く広大な空間となっている。

 そこに二人のグアドガードを引き連れたシーモアが静かに佇んでいた。いつもの聖人面した仮面を被り、微笑を浮かべている。ユウナの姿は見えない。今はさらに奥の祈り子の間で祈りを捧げているのだろう。

 俺は一歩前に出てスフィアを掲げる。

「さっきこいつ見させてもらった」
「それは?」
「ジスカルが残したスフィアだ。あんたに殺されるだろうって証言が記録されている」
「………ほぅ、そのような物があったとは知りませんでした。ふむ、なるほど、だからここに」

シーモアの視線は掲げられたスフィアに向けられるが、すぐに興味を失ったように視線を外す。そして、薄気味悪く笑うと今までの聖人の如きイメージとはかけ離れた言葉を放つ。

「………誤魔化しても無駄のようですね。ええ、父は確かに私が殺しました。───で、それが何か?」

 完全に開き直ったそのセリフに、背後で息を飲む気配がした。

 しかし、やっぱりというかこの程度では動揺は見受けられない。まあ、老師としての権力があればどうにでもなる程度に過ぎないからな。ジスカルのスフィアも大した痛手にもならないのだろう。

 そんなやりとりをしていると、シーモアの背後にある祈り子の間の扉が開く。中からは少し疲れた様子のユウナが出てくるが、俺達を見るや否や疲れた表情は一変した。

「ど、どうしてここに………っ!?」

 シーモアの横を通り過ぎて一直線にこちらに駆け寄って来る。

「これを」
「ぁ………そっか、見ちゃったんだね。だから………」

 俺の手にあるスフィアを見てユウナは瞬時に事態を把握したようだ。

「その様子ではユウナ殿も既にご存知のようで」
「………はい」
「しかし、それならばなぜ私のもとへ?」
「私は………」

 一方でシーモアも今のやり取りで察したようだ。そして、同時に疑問を抱く。知っていてなぜ自分のもとに来たのかと。

ユウナは一度目を閉じると手にした杖を握りしめる。そして、再び瞼を開けた時、その瞳には並々ならぬ意思が秘められていた。

「私は、貴方を止めに来ました」

 振り返り、シーモアと対峙する。

「なるほど、結婚の話を持ち出したのもそういう訳ですか」
「………はい」
「ユウナ殿、それはあまりに愚かで無謀な選択かと………ですが、一度だけ。これが最後の慈悲です」

 肯定するユウナに対してシーモアの笑みが濃くなる。そして、一歩前に出ると手を差し出した。

 それは言った通り最後の慈悲なのだろう。この手を取らなければ待ち受けるのは敵対する道のみ。アニマと言う強大な力、エボン老師という権力、これらを行使するシーモアに立ち向かうのは、確かにあまりに無謀な行為だ。普通に考えれば、敵対するなど考えたくもない。

 だが、ユウナがシーモアの手を取ることはない。一歩後ろに下がり明確に拒絶する。

「………残念です。では、ガード諸共その命を捨てて頂きましょう」

 その言葉と共に俺、キマリ、アーロンがユウナの前に出る。シーモアの前にはグアドガードが戦闘態勢で構え、お互いに睨み合う。一気に高まる緊張。肌を刺すようなピリピリした空気が流れる。

 そんな中でユウナは静かに、されど力強く宣言する。

「シーモア老師、ここにいるガードの皆は私の大切な仲間です。その大切な仲間に死ねと仰るのであれば、私も全力で戦います。例え───どのような結果になったとしても」
「よろしい。ならば覚悟を決めなさい。せめてもの慈悲に苦しませずに異界に送って差し上げよう」

 そして、決戦の火蓋は切って落とされた。















「私と敵対することが如何に無謀か知るがいい。出でよ───」
「させるかっつーの!」

 初っ端からアニマを召喚しようとするシーモアに先んじて動く。腰につけたホルダーに手を突っ込み、とある物体を取り出すとピンを抜いて上空に放り投げる。

 その場にいる全員の視線が放り投げられた物体に注がれた。これが何なのか分かるのは恐らくリュックのみ。初見ならばまず目で追ってしまう筒状の物体が弧を描くように空中を舞う。

 三秒後、物体は目も眩むほどの光を発しながら弾けた。物体の名を閃光手榴弾。この世界では殆どみかけないであろう非致死性の武器だ。

 本当は殺傷能力の高い手榴弾を直でぶっぱしてやろうかと思ったんだが、生憎と夢のザナルカンドでは攻撃能力の高い兵器の類は一切置かれてなかった。多分街を再現する時に戦争で使われた兵器の類は無意識の内に排除されたのだと思う。そんな中でなんとかこいつだけ見つけることができた。殺傷能力はないが、隙を作るのにはこれで十分。

 ちなみに、リュックに手榴弾があるかと聞いたが、今はその手の武器は持ってないらしい。アルべド族だと勘付かれないように俺達と合流する直前に仲間に預けてしまったとのこと。まあ、元々あればいいなくらいの感じだったので、それほど求めている訳じゃなかったが。

「………くっ、こんな子供騙しで」

 シーモアの呻き声が聞こえると同時、背後からも微かな悲鳴が聞こえてくる。内心でごめん、と謝りながらもすぐさま次の一手を打つ。

「ヘイスト!」

 魔法の発動とともに神経の伝達速度が加速し、肉体の反応速度が引き上げられる。それに伴って相対的に周囲がコマ送りの様に遅くなっていった。傍から見れば、まるで俺一人だけ早送りで再生されているかのような光景が見れるだろう。そんな中で俺はただひたすら一直線に駆ける。途中で目を抑える二人のグアドガードとすれ違うが、一切手を出すことなく完全に無視。

 狙うはシーモアの左胸、心臓のみ。

 そう、作戦は極めて単純だ。先手と一撃必殺。基本となるのはこれだけ。しかし、決まれば確実に勝てる。

 シーモアは召喚獣の中でも一際強いアニマを使いこなす。また召喚獣だけでなく、四大の魔法もルールーに匹敵するレベルで扱う強敵だ。また、引き連れているグアドガードは直接的な戦力としては微妙だが、シェルやプロテスなどの補助魔法でシーモアを強化してくる。アニマを召喚し、各種補助魔法を受け、万全の状態となったシーモアとまともに戦り合うなどあまりに馬鹿らしい。

 だからこそ、シンプルに速攻だ。アニマを召喚される前に心臓に風穴を開けてやる。

 閃光の炸裂から一秒にも満たない僅かな時間。十数メートルあった距離を瞬く間に潰すと、間合いの一歩手前でフラタ二ティーを持つ手を最大限に引き絞る。そして、最後の一歩を踏み込む瞬間、引き絞った手を全力で突き出す。

(………今更迷うな、このまま殺れ!)

 覚悟を決めたとはいえ、やはり殺人に対する葛藤は俺の中で一瞬だけ生まれた。だが、それを心の中で塗りつぶす。シーモアを仕留めそこなったがため、誰かが死んでしまったら悔やんでも悔やみきれない。

 幸いなことに勢いに乗った体は止まることなく、そのまま動いてくれた。踏み込みと同時に繰り出した突きは、タイミングもほぼ完璧。目を抑えているシーモアには防ぎようもなく、渾身の力を込めた突きがシーモアの心臓を貫く

 ───はずだった。

「………え?」

 手から伝わって来る感触に思わず声が漏れた。

 シーモアが身に纏っているのは、かなりゆったりした着流しのような服のみ。普通であればこんな薄っぺらい布では防御力など皆無に等しい。だが、攻撃が接触した瞬間の異質な感触。それは、まるで分厚い鎧に刃を突き立てたかのようだった。

 事実、フラタ二ティーがシーモアの心臓を貫くことはなく、布きれ一枚貫通していなかった。刃は心臓に届かず、その役割を果たすことなく沈黙する。

 ただ衝撃だけは伝わったようで奴の体を弾き飛ばす。迷いは一瞬。ならば今度は首を狙おうと追撃の体勢に入る。が、

「───出ろ、アニマ」

 飛ばされながらも放たれたその言葉。それが耳に届いた瞬間、濃厚な死の気配を感じ取る。追撃は中止。本能に従い、なりふり構わずその場から離れる。

(くそっ!)

 果たしてその選択は正解だった。俺の真上から巨大な錨が落下してくる。少しでも回避が遅れていたら俺は地面に落とされたトマトになっていただろう。そして、錨は地面を突き破ると異次元より一匹の化け物を引き上げた。

「■■■■■■■■■■■■!!」

 耳を劈く様な獣染みた咆哮。ただその場にいるだけで物理的な圧迫感すら感じさせる化け物───その名をアニマ。

 ただでさえ人知を超えた存在の召喚獣。その中でも最強の一角たるアニマの放つ強大な気配。それを直で感じてしまい思わず足が竦みそうになるが、ここで足を止めれば死あるのみ。止まりそうになる足を叱咤し、どうにか後退する。

「………すみません、しくじりました」

 ヘイストを解除して小声でアーロンに謝罪する。作戦は無残にも失敗。任せろと言っておいてこの様だ。合わせる顔がない。

「いや、気にすることはない。召喚前に倒す案は悪くなかった。無論、先の一撃もな。普通であれば確実に殺せていたはずだ。しかし………」

 油断なく大剣を構えて見つめる先には、立ち上がるシーモアの姿があった。血は流れてないようだが、左胸を抑えてよろめきながら立ち上がる様を見るにダメージが皆無という事もなさそうだ。

「ぐ、ごほっ………確かティーダ殿と言いましたね………今のは肝が冷えましたよ」

 ただ、そのダメージも駆け寄ったグアドガードのポーションで直ぐに消えてしまう程度の物だったが。殺せなかったとしても折角負わせたダメージなので回復を阻止したいところだが、アニマの睨みが効いている今は邪魔する手立てがない。さらにはダメ押しでグアドガードからシェルとプロテスの補助まで許してしまった。

「ふぅ………加速魔法の使い手とはこれまた珍しい。流石ユウナ殿のガードの一員。アーロン殿といい実に強力な札が揃っている」
「そいつはどうも。お褒めに預かり光栄ですってか?そのまま死んでくれたらよかったのに」
「グアド族長にしてエボンの老師たる私の装備を甘く見ないことです。あるいは最初から首を狙っていれば、決着が付いていたでしょうがね」
「あっそ、それなら次は確実に首を飛ばすだけだ」

 強がってみるが、今ので決めきれなったのは痛い誤算だ。

「ふふ、加速魔法は確かに厄介ですが、肉体にかかる負荷は甚大だ。そうそう連続して使うことは出来ない。違いますか?」
「………よくご存知で」

 ヘイストはFFⅩで登場する補助魔法の中でも最も重要と言って過言ではない。この魔法の有無で難易度が大きく変わるほどに。だが、それはあくまでゲーム内の話しだ。肉体を伴ったこの世界では、その負荷が半端な物ではなかった。

 通常の行動速度を倍以上に引き上げる加速魔法ヘイスト。オリンピック選手ですら軽く凌ぐ肉体性能を持つティーダならば数秒は持つが、それ以上は厳しい。短く連続して使うのもまた同様。その場合も日に三回か四回までが限界といったところだ。それ以上は肉体が悲鳴を上げてしまう。

 確かに強力な魔法に違いない。だが、明らかに短期決戦用であり、対人向き。膨大な体力を持つ魔物が相手では使い勝手がいいとは決して言えなかった。だからこそ対人戦の少ないスピラでは徐々に廃れていき、今では使い手はかなり希少となっっていった。

「加速魔法の使い手を相手に油断はしません。さらにはアニマも召喚した今、もはや貴方に勝ち目はない」

 言ってくれる。だが、現状を客観的に見れば確かにそう見える。なら本当に使いたく無かったけど最後の切り札を使うまで。準備に少し時間がかかる上に、終わった後に暫く地獄を見る羽目になるが、これ以上の札はない。もっとも、

「アニマ、やれ」

 アニマの攻撃を避けながら発動するのは中々骨が折れそうだ。攻撃モーションに全力で意識を集中させる。

「■■■■■■■■■■■■!!」

 咆哮を上げて左目に力を貯めるアニマ。二秒とかからず力を貯めると力を解放。高密度に圧縮された膨大な魔力が襲い掛かって来る

「………っ!」

 力が解放される一瞬前、俺はその場から全力で離脱。パンッと乾いたような音がしたと思えば、先程までいた場所が空間ごと弾けていた。

(くそっ、本気で洒落になんねぇなあ!)

 ゾッとする。あの場にそのままいたらどうなっていたのかは、火を見るより明らかだ。

 祈り子様達は俺に何かをさせたがっているので、手加減してくれるかもしれないとちょっとだけ期待していたのだが、甘かったようだ。今の攻撃は完全に殺しにきている。

 アニマの祈り子様はシーモアのお袋さんなので他の祈り子様とスタンスが違うのか、それとも使役されているので加減できないのかは分からない。だが、楽観的な予想は完全に捨てたほうがよさそうだ。

 その後も執拗に俺を狙って来る攻撃を全力で躱す。最初の一撃で仕留めきれなかった所為でシーモアを警戒させてしまい、完全に狙われている。ちょっとでも動きを止めれば待っているのは死だ。

「………ぇ?」
「かかりましたね」

 まずい、フェイントか。アニマは魔力を貯めた後、すぐさまそれを解放せずに攻撃のタイミングをずらしていた。今までは力が貯まったら即攻撃する流れを繰り返していたので、間抜けにも簡単に引っかかってしまった。これは本気でまずい。

 アニマの目線は俺が横っ飛びした着地地点に向けられている。ヘイストを発動させても地面に足が付いていない状態では意味がない。

 俺に出来ることと言えば着地と同時にヘイストを発動させ、全力でその場から逃げることくらいか。それでも無傷で凌ぐことはまず無理だろう。死ななければ御の字と思った方がよさそうだ。即死でなければ口に含んだカプセルポーションを即座に噛み砕いて回復できるし、何とか耐えるしかない。

「“鉄壁”」

 しかし、着地の寸前。赤い壁が間に割って入り、アニマの攻撃をその身で受け止めた。

「───なっ!?だ、大丈夫ですか!?」

 壁の正体はアーロン。俺の身代わりとなって攻撃を受け止めてくれたため、俺はかすり傷一つ負っていない。

「………そう騒ぐな。盾にでも何でもなってやると言ったはずだ」

 対するアーロンは至る所に怪我を負っており、全身から出血している。だが、体幹に揺らぎはなく、どっしりと構える様はボロボロにも関わらず、頼もしさすら感じさせてくれる。

「流石はアーロン殿。高等防御術『鉄壁』ですか。アニマの攻撃すら受け止めるとは、伝説のガードの名に偽りはないようで」
「ふん、貴様に言われてもな」

 アーロンが使用したのは特殊アビリティの鉄壁と呼ばれるものだ。味方が受けるダメージを自分で受け止めるアビリティ『かばう』の上位互換。かばうの効果にプラスして相手から受けるダメージを半減させるというまさしくガード向きの技である。使える者は殆どいないが、使いこなせればこれ以上ないほどの防御術となる

「しかし、いつまで続きますかね」

 攻撃力を半減させてなおアニマの攻撃は強力だ。高い体力を持つアーロンとていつまでも受けきれるものではない。

「何を勘違いしている?俺がいつまでもサンドバックでいるとでも思ったか?ユウナ、俺のことは気にせずともいい。やれ」
「───はい。遅くなってごめん、ティーダ。ここからは私も戦う」
「ユウナ?いや、でも」

 後方に目を向ければ残りのメンバーに守られ、そして幾重にも連なる召喚陣に囲まれたユウナの姿があった。召喚の前兆。確かに召喚獣には召喚獣で対抗するしかないのは分かる。しかし

「その陣は………愚かな。最弱と言われる召喚獣で私のアニマに挑むとは」

 シーモアの言う通り、見覚えがあるその召喚陣はビサイドで初めて見た物と同じものだ。つまり、今から呼び出そうとしているのはヴァルファーレでまず間違いない。通常なら頼もしい戦力だが、アニマと比べるとどうしても格下でしかない。

 しかし、ユウナの表情に迷いはなく、召喚を実行する。

「愚かかどうか、その目で確かめてください───お願い、力を貸して」

 ここより遥か遠く、ビサイド島の祈り子に祈りを捧げる。敵を倒す力を、皆を守れる力を、と。

 精神の高次元領域を通した祈りは距離に関係なく即座に祈り子のもとに届き、ユウナの思いに答えた。召喚陣に集められた膨大な量の幻光虫。その影響で召喚陣は目も眩むほどの光を放ち、血肉無き召喚獣に仮初の肉体を与える。幻に過ぎなかった羽ばたきは、やがて現実のものへと変わる。軽やかな飛翔音とともに幻想だった存在がユウナの傍らに舞い降りた。

 召喚獣 ヴァルファーレ

 ユウナが最初に手にした召喚獣であり、シーモアの言う通り召喚獣の中では最弱と呼ばれる存在だ。しかし、完全に具象化したヴァルファーレを見てシーモアの顔から嘲笑の色が消え失せていた。

「馬鹿な、これほどの力どうやって………」

 内心で俺も同じ思いを抱いている。通常の召喚と手順は一緒。だが、その結果に明確な差があったのだ。

 実体化したヴァルファーレはアニマと同等の、いや、それを上回る圧力を秘めていた。

 幾種もの獣の特徴を携えたその体躯からは、収まりきらぬ魔力が迸り、既に臨界状態なのが見て取れる。事実、溢れ出る魔力が時折放電にも似た現象を引き起こしていた。

 また、本来は格上であるはずのアニマを前にして臆する気配は皆無。その身に宿す力の解放を、今か今かと待ちわびてる様子さえあった。今の姿を見て誰が最弱の召喚獣と言えようか。召喚獣の中でも最強の一角たるアニマがどこか小さく見えるほどである。

 本来あり得ないほどの力を見せつけるヴァルファーレ。当然、それには絡繰りがあった。

「………まさかマスター召喚?私でさえも取得していない召喚術の秘奥をその若さで?」

 マスター召喚。それはゲーム内ではオーバードライブ技という簡単に言えば必殺技を放てる状態で召喚獣を呼び出すこと。それはこの現実となった世界では相当難しい召喚術のようだ。シーモアの唖然とした呟きがそれを裏付けていた。

 鋭角な嘴を優しく撫でられ、ヴァルファーレはふわりと浮かび上がる。そして、聖なる獣を従えたユウナはシーモアを見据えて宣告した。


「シーモア老師────お覚悟を」







































あかん、どうにも巧い事戦闘シーンが書けずにオリ主、ユウナ、アーロン、シーモア以外が空気状態になってしまった。多分次回もこんな感じになりそうな予感が………




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