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No.2650の一覧
[0] 最後の物語へようこそ   【本編完結】[その場の勢い](2019/10/30 22:07)
[1] 最後の物語へようこそ    プロローグ[その場の勢い](2017/11/22 01:15)
[2] 最後の物語へようこそ    第一話 [その場の勢い](2017/11/07 23:32)
[3] 最後の物語へようこそ    第二話 [その場の勢い](2017/11/08 20:18)
[4] 最後の物語へようこそ    第三話 [その場の勢い](2017/11/09 21:45)
[5] 最後の物語へようこそ    第四話 [その場の勢い](2017/11/10 19:08)
[6] 最後の物語へようこそ    第五話 [その場の勢い](2017/11/11 21:12)
[7] 最後の物語へようこそ    第六話 [その場の勢い](2017/11/13 19:49)
[8] 最後の物語へようこそ    第七話[その場の勢い](2017/11/13 19:51)
[9] 最後の物語へようこそ    第八話[その場の勢い](2017/11/15 00:15)
[10] 最後の物語へようこそ    第九話 [その場の勢い](2017/11/21 20:21)
[11] 最後の物語へようこそ    第十話 [その場の勢い](2017/11/21 20:29)
[12] 最後の物語へようこそ    第十一話 [その場の勢い](2017/12/01 19:19)
[13] 最後の物語へようこそ    第十二話 [その場の勢い](2017/12/08 19:06)
[14] 最後の物語へようこそ    第十三話 [その場の勢い](2017/12/15 18:13)
[15] 最後の物語へようこそ    第十四話 [その場の勢い](2017/12/23 19:45)
[16] 最後の物語へようこそ    第十五話 [その場の勢い](2018/01/13 19:09)
[17] 最後の物語へようこそ    第十六話 [その場の勢い](2018/01/20 18:51)
[18] 最後の物語へようこそ    第十七話 [その場の勢い](2018/01/27 18:59)
[19] 最後の物語へようこそ    第十八話 [その場の勢い](2018/02/06 18:57)
[20] 最後の物語へようこそ    第十九話 [その場の勢い](2018/05/29 19:03)
[21] 最後の物語へようこそ    第二十話 [その場の勢い](2018/05/31 19:10)
[22] 最後の物語へようこそ    第二十一話 [その場の勢い](2018/06/01 19:25)
[23] 最後の物語へようこそ    第二十二話 [その場の勢い](2018/06/02 18:27)
[24] 最後の物語へようこそ    第二十三話 [その場の勢い](2018/06/03 18:25)
[25] 最後の物語へようこそ    第二十四話 [その場の勢い](2018/09/25 15:12)
[26] 最後の物語へようこそ    第二十五話 [その場の勢い](2018/09/26 19:51)
[27] 最後の物語へようこそ    第二十六話 [その場の勢い](2018/09/27 18:24)
[28] 最後の物語へようこそ 外伝1[その場の勢い](2019/07/09 20:24)
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[2650] 最後の物語へようこそ    第十一話 
Name: その場の勢い◆0967c580 ID:1179191e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/12/01 19:19
 ───幻光河

 幻光河はジョゼ大陸を南北に分断するように流れるスピラで最長の河だ。水は澄み渡り抜群の透明度を誇るため、水底に目を向ければ沈んだ機械文明の残骸がみてとれる。

 ここでは対岸に渡る際は船ではなくシパーフを利用する。シパーフとは見た目はまんま象であり、この地に住むハイペロ族という少数民族が調教して手綱を取る。船がない訳でもないが、この地を訪れる観光客はどうせだからとシパーフを利用することが多い。

 また、川岸には名前の由来となった幻光花という紫色の花が常に咲き乱れている。この花は夜になると幻光虫を集め、淡く発光する性質がある。そのため、夜になると幻光河はまるで星の海となり、見る物を幻想的な世界へ誘う。夜の幻光河はスピラでも屈指の観光名所といってもいいだろう。

(ま、正直に言えばその辺はどうでもいいんだけど………)

 それよりも重要な事があった。なにせ幻光河は仲間の最後の一人、リュックがガードに加わる場所でもある。

 ゲーム時はシパーフでのんびりと河を渡っている最中に、水中に潜んだアルべド族にユウナを攫われてしまう。それをワッカと俺の二人だけで助けに行くのだが、向かった先では水中戦闘用の機械を操縦するリュックとのバトルが待ち構えている。これに勝利してユウナを取り戻して対岸に渡ると、機械の中で地味にダメージを受け、土左衛門一歩手前となった状態で打ち上げられたリュックを発見するのだ。

 その後はユウナ、ルールー、リュックの女性陣だけで何やら話し合い、リュックをガードとして迎え入れる流れとなる。

はずなのだが───

「………あれ?」
「どうかしたか?」
「あ、いや、なんでもない」

 一つ問題が発生中だ。その問題はというと、

「ほら、そろそろ着くから忘れ物がないか確認しときなさい。特にワッカ」
「俺だけ名指しかよ。ヘイヘイ、分かりましたよっと」
「私は大丈夫。忘れ物はないよ」

 現在俺達はシパーフに乗って渡河中なのだが、まだアルべド族に襲われてないのに対岸に到着してしまいそうなのだ。シパーフの移動速度はかなり遅いが、この分ならあと五分ほどで河を渡り切ってしまう。ちらっと水中を覗いてみるが、それらしき影は一つも見えなかった。これではもう襲撃はないだろう。

 一体どうしたのだろうか?ゲームとは違ってここでは襲う気はないのか?いや、単純にまだ来ていないだけ?それとも………様々な可能性が頭に浮かんでは消えるが、ふと一つの可能性が浮かんでくる。

(………まさか、あの後シンにやられちまったのか?)

 そんな最悪の可能性が。いや、そんな馬鹿な、と頭では否定しつつも可能性は完全には否定できないでいた。

 よくよく考えれば、あの時は数メートルを越す高波が容赦なく甲板に打ち付けていたのだ。俺がリュックを助け出した後、結局海に放り出されてしまってもなんら不思議はない。

 もっとも、単に荒れ狂う海に放り出されただけならなんとかなる可能性は高い。なにせリュックは並みのブリッツ選手を凌駕するほど水中での活動に慣れている。機械文明期の遺産は海に沈んでいることが多いので、回収するにはどうしても潜らなければならないために自然とそうなったからだ。だから海に投げ出されても多少の事であれば何とかなると思う。

 ただ、問題は近くにシンがいたことだ。一般的にシンに近づき過ぎた人間はシンの毒気にやられてしまう。毒といっても一般的な毒とは違い、シンの毒気とはその身に纏う高密度の幻光虫そのものを指す。幻光虫は人体を構成する一部でもあるが、あまりに高密度すぎるそれと接触することは体に害をもたらすので毒気と呼ばれている。症状としては軽い混乱程度ですぐに回復する場合もあるが、酷い時には記憶障害や精神喪失状態に陥ってしまうこともある。

 もしも、その毒気にやられた状態でシンのコケラに取り囲まれたら?

(………いや、ないない。あり得ない。襲ってこないのはちょっと機械がトラブってるだけに違いない)

 そう自分に言い聞かせる。だが、最悪の可能性は脳裏から消えることはなかった。







「ついた~よ~」

 結局、襲撃はなかった。

 無情にもハイペロ族特有の間延びした声で目的地到着の知らせが入る。俺は胸の内に燻る不安を押し殺して、何食わぬ顔でシパーフを降りた。

(リュックは大丈夫………きっと大丈夫だ)

 もう一度自分に言い聞かせつつ、次にリュックと合流できそうなポイントは何処だろうかと考える。

 ここからグアド族の本拠地であるグアドサラムまではすぐだ。ここで合流できないとなると次に合流できる機会はかなり先になるだろう。

 グアド族が目を光らせているグアドサラムでは活動しないはずだし、雷が大の苦手なリュックはその先の雷平原には近づきもしないはず。と、なると次に合流できる可能性があるのは………最短でも雷平原の先にあるマカラーニャの森か?あそこは隠れる場所が多くあるため、召喚士を攫うのに都合のいい場所でもある。故にアルべド族が潜んでいる可能性は非常に高い。希望があるとすればそこら辺だろう。

 そこで合流できればいいのだが………………考えたくもないが、最悪の可能性も考慮しておくべきか。仮にリュックが既に死んでしまっている場合はどうなる?

 まずビーカネル島での道案内にリュックは欠かせない。マカラーニャの森の先にあるマカラーニャ寺院では、再びシンと出会いビーカネル島という場所に飛ばされることになる。そこにはアルべド族のホームがあり、島の面積の多くが不毛の砂漠地帯となっている。大陸から離れた小島なので、土地勘のある者は当然リュックのみ。右も左もわからない砂漠にいきなり放り出されて無事で済むか?いや無理だ。案内人がいないと恐らく詰む。

 運よくアルべド族のホームの近くに飛ばされればいいが、遠くに飛ばされてしまったら彷徨い果ててミイラになってしまってもおかしくはない。その後も族長であるシドとの橋渡しやエボン寺院での機械の操作など、その力が必要となる場面は多い。やはり、リュックの存在は必要不可欠だ。

 無論、心配の理由はシナリオを進める上で重要だから、ってだけじゃない。行動を共にした時間はほんの数時間程度だが、その程度の時間でも俺はかなりの親近感を抱いていた。

 ゲームでのリュックを知っているからというのも理由の一つだが、あの明るい性格はスピラに一人で放り出された俺にとって凄く有り難いものだった。頼れる人もおらず、見知らぬ土地に一人で放り出される恐怖。いくら覚悟を決めていても、やはり怖いものは怖い。そんな時にリュックの明るい性格は俺にとって救いとなった。まあ、最初に拳を打ち込まれたことはあれだけど、そんなことはどうでもいいと思える程度には好感を持っている。

 今後のシナリオについても心配だが、とにかくリュックには無事でいて欲しいと思う。

「ティーダ!」

 ───もっとも、その心配もすぐに消え去るのだが。

「………え?この声………ぐっ!?」

 背後から聞き覚えのある声。振り返ろうとすると、背中に大きな衝撃を受けた。思わず前のめりに倒れそうになるが、そこは鍛えぬいた足腰でどうにか踏ん張る。なんとか顔面からのダイブは免れた。そして、首を回して背中に張り付いている人物に目を向ける。そこにいたのは、予想通りの人物。

「………リュック?」
「うん!無事でよかったーっ!」

 それはこっちのセリフだ、と言いたかったが声には出さずに飲み込む。とにかく、俺の心配がただの杞憂に終わったようでよかった。元気そうな様子に安堵の溜息をつく。

 リュックは満面の笑みを浮かべて俺との再会を喜んでくれたが、あ、と何かを思い出したようですぐに険しい表情となった。

「あたしを助ける為にあんな無茶して!もしかしたら死んじゃったかもって、本当に心配したんだからね!?」

 俺からすればあそこで船から落ちるのは予定通りだったので問題ないが、確かにリュックから見れば無茶以外の何物でもない。誰かが自分の身代わりで死んでしまったとしたら、そりゃ気が気じゃないだろう。

「何時まで経っても海から上がってこないし、シンがどっか行ったのを見計らって海中を探しまわっても見つからなかったし………でも、とにかく無事でよかったぁ~」

 リュックは再開できた喜び、無茶したことへの怒りと不安、そして最後はふにゃりと安堵の表情へと目まぐるしく表情を変える。俺はそのリュックらしい様子に苦笑しながら謝る。

「なんか随分と心配かけたみたいで悪かったよ。でも、あの時は咄嗟の事で他にいい方法も思い浮かばなくてさ」
「だけど私の代わりに落ちるなんて………ううん、今更過ぎたことを言ってもしょうがないかな?それより………コホン、あの時はあたしを助けてくれてありがとうございました!」
「どういたしまして。まあ、俺も遺跡では助けて貰ったしな。お互いさまってことで」

 仮定の話しだが、リュック達があの遺跡に来てくれなかったら今頃はどうなっていたことやら。念のために数日分の携帯食は用意していたが、あの遺跡───アニマの祈り子様が眠るバージ=エボン寺院はかなりの辺境に位置するため、食料が尽きる前に人の住む島まで辿り着けたかは定かではない。下手をすれば何も始まらない内にこの世からリタイヤしていてもおかしくはなかった。それを考えればお互いに命を助けられたってことでいいだろう。

 それよりも、こうしてリュックと合流できたのはいいのだが、またしてもちょっとした問題が発生しつつある。

「う~ん、全然割りに合ってないと思うけどねー。でも、ティーダがそう言ってくれるんだったらそういう事でいいかな?」
「ああ、そうしてくれ。というかそれよりもだな」
「なに?どうかした?」
「いつまで背中に引っ付いているんだ?そろそろ離れて欲しんだけど………」

 実はまだリュックが背中に張り付いたままだったり。表面上はなんでもないように会話を続けていたが、内心では割とテンパってたりする。なにせリュックのような可愛い女の子に抱き着かれて、何とも思わない思春期男子などいる訳がないからな。一周回って逆に落ち着き始めているが、女の子特有の甘い香りというか、柔らかい感触に意識を向けないように必死なのだ。

「へ?………あ、あはは、ごめんねー。まさかこんなところで再開できるなんて思ってなくてさ。つい勢い余っちゃって」

 リュックは一瞬キョトンとするも、すぐに今の状態を思い出したようで背中から離れた。ようやく背中から離れた感触に安心したような、若干惜しいことをしたような気になる。

「………あの、そろそろいいかな?その子は?」

 俺が少しばかり複雑な気持ちを抱えていると、前を行くユウナ達は此方を凝視していた。っと、いい加減にリュックを紹介しなくちゃな。

「この子はリュック。なんつーか、ちょっと前に世話になってさ」
「むしろ逆だと思うけど………ま、いいか。ども、初めまして!リュックでーす!」

 人見知りとは無縁の底抜けに明るい挨拶をするリュック。その様子に警戒心の薄いワッカやユウナは元より、ほんの少し警戒心を見せていたキマリやルールー、そしてアーロンまでも毒気を抜かれたようだ。

「えと、初めまして。召喚士のユウナです」
「もち知ってるよ。ユウナね!あ、ちなみに敬語はいらないからさ、代わりにあたしも敬語はなしでいい?」
「うん。それじゃあ、私も敬語はなしで話すね」
「やたっ、ありがとう」
「そんじゃ、俺にも敬語は使わないでいいぞ。俺の名前はワッカだ。よろしくなリュック」
「私はルールーよ。右に同じく敬語はいらないわ」
「キマリ」
「………アーロンだ」
「ワッカ、ルールー、キマリ、アーロンね。よろしく!」

 それぞれ手短に自己紹介を済ませる。

「………ん?」

 と、ワッカが何やらニヤニヤしながら此方を見ているのに気が付く。………断言しよう、あれは絶対碌な事を考えてない顔だ。

「なんだよワッカ。そんな気持ち悪い顔して」
「おいっ、気持ち悪いって!?………まあ、いいけどよ。それよかあれだ、お前等は付き合ってんのか?」
「………はい?」

 予想外の質問に反応が遅れた。このトサカ男は何を言っているんだろうか?

「………え、ティーダとリュックは恋人同士………なの?」

 見ろ、ワッカがいきなりアホな事聞くからリュックやユウナは目を丸くして驚いてるじゃないか。ちなみに、アーロンとキマリは我関せずと言った感じだが、ルールーは何やら呆れてる様子だった。

「いや、さっきの様子を見たらそう思うじゃねえか。まるっきし生き別れた恋人同士の再会って感じだったぜ?なあ、ユウナ?」
「えと………確かにそう見えなくもなかったけど」
「ほらな、やっぱりそう思うだろ」
「はぁ、このお馬鹿。例えそう見えたとしても、何でもかんでも口に出すんじゃないわよ。あんたはもう少しデリカシーってものを持ちなさい」
「いや、馬鹿ってなんだよ」

 ワッカはともかくとして、ルールーとユウナにもそう見えていたのか?先程の様子を客観的に思い浮かべてみる………………あー、確かに傍から見ればそう捉えてもおかしくはない構図だ。

 とはいえ、勿論付き合っているはずもないので、俺は否定しようとした。だが、その瞬間リュックの表情が変わったのに気が付く。驚きの顔から一転、どこか小悪魔的な笑みに。

 ………何か知らんがやばい。脳裏で危険を知らせるアラートが鳴り響いている。俺は本能に従ってすぐさま否定しようとした。が、一歩遅かった。

「ほほう、ワッカは中々勘が鋭いね。ふふふ、秘密にしておきたかったけど、ばれちゃったら仕方がないね。そうだよ、実はあたし達付き合ってまーす!」
「ふぁっ!?ちょ、おまっ!?」
「おー、やっぱりな!」
「そうなんだ………」

 こいつ、なんつーことを!俺は慌てて否定する。

「違うから!付き合ってないからな!?事実無根だ!」
「ティーダったら、そんなに照れなくてもいいじゃん。ばれちゃったらもう仕方ないよ」
「はは、そうだぞ、照れるな照れるな。可愛い彼女じゃねーか」
「………ほう、この短期間でとはな。中々に手が早い」
「キマリに恋愛は分からない。だが、否定はしない」
「アーロンにキマリまで!?いや、つーか照れるもクソもねーから!そもそも告白した記憶もされた記憶もねーのに、何時の間に付き合ったことになってるんだよ!?」

 勘違全開のワッカとそれに巻き込まれてリュックの冗談を真に受けるユウナ。先程まで我関せずだったのに、さりげなく流れに乗るアーロンとキマリ。ルールーは何となく察しがついていそうだが、巻き込まれるのはごめんだとばかりに額を抑えるのみ。

 そして、この流れを作った張本人はというと、しなを作りながら上目遣いで此方を見上げて純情そうな乙女を演出していた。

(こ、この野郎。完全に悪ノリしやがって………!)

 上目遣いのリュックが可愛いというのは認める。だが、俺にしか見えない角度で二ヤリと悪戯心満載で笑う様子を見せられるとそんな事言ってられない。気が付けばあっと言う間にリュックのペースとなっていた。鏡を見てないのに自分がどんな表情を作っているのか手に取る様に分かる。絶対に頬の筋肉を引き攣らせているだろう。

 だが、何時までも俺がやられっぱなしだと思うなよ。そろそろ反撃に出てやる。口では勝てそうにないから主に物理的に。まずは中指を折り曲げて親指で抑える。そして背景にゴゴゴと描写できるほど限界まで力を溜め込んで中指を解放する!

「それでね、あたし達の馴初めは───「ていっ!」いっ!?いったーーい!!うぅ、おでこが割れちゃうかと思った………もう、一体なにするのさ!」
「おう、それはこっちのセリフだ。いい加減に遊んでないで誤解とけや、この悪戯娘が」
「えー、まだイジリたりな「………あ?」わ、分かったから!だからもうさっきのはダメだって!」

 俺は少々やさぐれながら、もう一発デコピンの準備をしてみせる。すると流石にこれ以上はまずいと思ったのか、リュックは慌てて皆の誤解を解く。

「なんだ、違うのか。面白そうなネタを見つけたと思ったんだがな」
「悪趣味よワッカ」
「あの、それじゃあ、ティーダとリュックは恋人って訳じゃないんだよね?」
「うん、付き合ってるわけじゃないよ。さっきのはちょっとした冗談だから」
「そっか………そうなんだ」
「そうそう。さっきのはリュックが悪ノリした結果だからな?くれぐれも真に受けないように。まったく、本当に勘弁してくれよリュック」
「えへへ、ごめんってば。ついつい絶好のタイミングだったからさー」

 リュックは謝りながらも、てへぺろと舌を出す。こいつ………もう一発さっきより強力なのをお見舞いしてやろうか?内心そう思ったのだが、悪寒を感じ取ったのか、リュックはすぐさま俺から距離を取りつつユウナの背後に隠れる。ち、逃げ足の速い。一先ず追加のお仕置きは保留にする。あくまで保留だ。

「って、そうだ、ティーダで遊んでる場合じゃなかった。えーとさ、あたしはユウナに話があって来たんだけど、ちょっと向うでお話ししたいんだけどいいかな?」
「おい、ちょい待ち。俺で、ってどういう意味だ?」

 何やら聞き捨てならない単語を耳にしたので半眼ジト目でリュックを睨む。

「あ、あはは、ちょっと間違っちゃっただけ。言葉の綾ってやつだから気にしない気にしない。それよりもユウナはいい?」
「話って?えーと、私は構わないけど………」
「あん?話ならここですればいいじゃないか」
「あー………そうなんだけどね。うーんと………」

 先程までと違って随分と歯切れが悪いリュックに、ワッカはどうかしたか?と首を傾げている。まあ、話とは十中八九ガードに加わりたいという事だろうと察しは付く。

 何の理由もなくガードになれるわけがないので、リュックは自分の出自をユウナに打ち明けるつもりだろう。ユウナの母はアルべド族であり、その母の兄がリュックの父親である。つまり、リュックとユウナは従姉妹の関係である。故にその繋がりでガードに加わろうという魂胆だ。ユウナなら血の繋がりがあるリュックを無下にはしない。

 そして、皆と離れて話したいのは、自身がアルべド族であると打ち明けた時の一悶着を懸念しているのだろう。

 なにせ召喚士とガードといえば大概の連中はエボンの教えにどっぷりと浸かっているからな。教義に反しまくっているアルべド族がガードとして加入したいと言えば、反対されること必至だ。ルールーやキマリなんかは比較的寛容だが、少なくともワッカは確実に拒絶反応を起こす。ユウナの誘拐イベントを潰したので原作よりはアルべド嫌いが進行してないが、それでもその根は深い。………ここは一つ助け舟を出しておくか。

「ほら、ワッカ。さっきもルールーにデリカシーないって言われたばっかりだろう。あまり詮索するもんじゃないと思うぞ。ここは二人で、いや、女性陣で話し合ったら?」
「あ、そうそう!女子だけで話し合いでーす。だから男子は待っててください!んじゃ、ユウナにルールーちょっと向うに行こう」
「うん」
「私も?まあ、いいけど。ちょっと行ってくるわね」
「んんー?何か知らんが分かった」

 どこか釈然としない様子を見せるが、そこまで気にすることもないと思ったのか、暇つぶしにブリッツボールの点検を始めるワッカ。

(ふぅ………何とかなったか)

 心の中で呟きながら近くの岩に腰かける。なんか果てしなく疲れてた。戦闘をした訳でもないのに気力やら体力やらがガリガリ削れた気がする。
 正直、ゲームの時のように機械で襲ってきてくれた方がまだ楽だったかもしれない。

「………おい」
「なんですか?」
「あのリュックとやらはアルべド族だな?」

 女性陣を待っている間、アーロンが小声で話しかけてきた。俺はその問いに小さく頷く。

「この流れからしてあの娘がガードに加わるだろうと予想するが、それはファイナルファンタジーの正規の流れか?」
「出会い方に少し差異がありましたが、今のところは大まかな流れは一緒です。リュックはここで仲間になり、今後の流れに必要な人材となります」

 それを聞くと、そうか、と言ったきり黙り込む。アーロンはアルべド族にそこまで拒否感を持っていなかったはずだが、何か問題でもあるのか?

「なに、奴等は召喚士を誘拐していると聞いたのでな。内部からの手引きを懸念していただけだ。旅の邪魔にならなければ否はない」

 ああ、そっちの心配か。それなら大丈夫だろう。リュックもユウナが犠牲になる究極召喚には反対の立場だが、強引な手は使わないはず。むしろアニキ達が襲ってきたときには、自分はユウナのガードだと言ってアニキと対峙することになるくらいだし。

 そうこうしている内に女性陣の話も一段落したのか、ユウナが遠慮がちにアーロンへと話しかける。

「アーロンさん、あの、ちょっとお話が───」
「構わん」
「え?」

 既に用件は分かり切っているので、ユウナに先んじてアーロンは答えた。

「その娘をガードに望むのであれば構わん。ユウナの好きにしろ」
「は、はい。ありがとうございます」
「おー、おっちゃんってば話が分かるねー!ありがとう!」
「おいおい、リュック。伝説のガードに向っておっちゃんって………」

 初対面で伝説のガードをおっちゃん呼ばわりするなんて………と戦慄するワッカ。ちなみに、おっちゃん呼ばわりされた当の本人は気にもしてないようだ。

「ま、まあ、それは置いておくとして、リュックがガードになぁ」
「ワッカさんは反対?」
「いや、ユウナが連れて行きたいっていうなら構わないが………うーん、なんて言うかな」

 ワッカの懸念は分かる。リュックは見た目は普通の女の子だしな。ユウナがガードに望んだとはいえ、これから先に待ち受けている厳しい戦いに付いてこれるのか心配なのだろう。何も知らなければ渋る気持ちも分からないではない。

 だが、リュックに関してはいらぬ心配だ。戦闘に関して全く問題ない。というか、俺よりも数段戦闘に慣れているだろう。また、それにプラスして咄嗟の判断力にも優れる。そう伝えるとワッカは少し驚いたようだ。

「お前よりも動きがいいのか?マジで?」
「ああ、マジだよ。最低でも足手纏いになることはないと思う」
「そうそう、ティーダの言う通りだよ。あたしってばかなり役に立つよー」
「うーん、なら大丈夫か?それにリュックがいると賑やかになっていいかもしれないしな………よっし!そういうことなら歓迎するぜリュック!」
「了解。それじゃあ、改めてこれからよろしくお願いしまーす!」

 取りあえず、何とかなったか。その能天気なまでに明るい声を聞きながら、俺はほっと胸を撫で下ろした。





















FFⅩ─Ⅲが出るって本当なんでしょうかね?なんかネットの記事を漁ってるとなくはないような気もしますが………


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