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No.26454の一覧
[0] PERSONA4 PORTABLE~If the world~ (もしも番長が女だったら?) ペルソナ4再構成[葵鏡](2015/04/15 09:13)
[1] 【習作】PERSONA4 PORTABLE~If the world~[葵鏡](2014/06/27 00:21)
[2] 転校生[葵鏡](2014/07/22 03:57)
[3] マヨナカテレビ[葵鏡](2014/06/27 00:23)
[4] もう一人の自分[葵鏡](2011/04/15 22:00)
[5] ベルベットルーム[葵鏡](2014/06/27 00:24)
[6] 雪子姫の城[葵鏡](2014/06/27 00:25)
[7] 秘めた思い[葵鏡](2011/06/04 08:51)
[8] 秘めた思い 【千枝】[葵鏡](2012/08/06 08:13)
[9] 籠の鳥 【前編】[葵鏡](2011/06/04 08:52)
[10] 籠の鳥 【後編】[葵鏡](2011/06/04 08:54)
[11] コミュニティ[葵鏡](2011/04/16 16:45)
[12] 【幕間】 菜々子の調理道具[葵鏡](2011/05/20 15:14)
[13] ゴールデンウィーク[葵鏡](2011/04/22 15:50)
[14] 迷走[葵鏡](2011/04/29 10:02)
[15] 熱気立つ大浴場[葵鏡](2011/06/14 22:12)
[16] 男らしさ、女らしさ[葵鏡](2011/05/10 18:55)
[17] 林間学校[葵鏡](2011/05/14 17:33)
[18] 虚構と偶像[葵鏡](2011/05/26 16:13)
[19] 特出し劇場丸久座[葵鏡](2011/06/11 01:37)
[20] 覚醒する力と新たな目覚め[葵鏡](2014/07/10 01:05)
[21] 齟齬と違和感  6月22日 お知らせ追加[葵鏡](2011/06/22 09:39)
[22] 思いがけない進展[葵鏡](2011/06/26 09:41)
[23] ボイドクエスト[葵鏡](2011/07/13 02:24)
[24] ひとまずの解決[葵鏡](2011/07/19 20:52)
[25] 探偵の憂鬱[葵鏡](2011/07/31 10:07)
[26] 三人目の転校生[葵鏡](2011/08/14 09:27)
[27] 修学旅行[葵鏡](2011/08/22 09:21)
[28] 【幕間】 お留守番[葵鏡](2011/10/10 07:24)
[29] 意地と誇り[葵鏡](2011/10/30 23:50)
[30] 秘密結社改造ラボ[葵鏡](2011/11/30 13:22)
[31] 最初の一歩[葵鏡](2011/11/30 13:24)
[32] 光明[葵鏡](2011/12/15 06:10)
[33] 父と子と[葵鏡](2012/01/10 17:33)
[34] 菜々子の誕生日[葵鏡](2012/03/04 00:24)
[35] 暗雲[葵鏡](2012/07/16 18:06)
[36] 脅迫状[葵鏡](2012/03/10 07:52)
[37] 文化祭 前編[葵鏡](2012/04/15 20:20)
[38] 文化祭 後編[葵鏡](2012/05/25 20:18)
[39] 陽介の文化祭 前編[葵鏡](2012/11/06 22:14)
[40] 陽介の文化祭 後編[葵鏡](2012/11/06 22:16)
[41] 天城屋旅館にて[葵鏡](2012/05/25 20:16)
[42] 忍び寄る影[葵鏡](2012/06/16 16:22)
[43] 天上楽土[葵鏡](2014/06/27 00:33)
[44] 救済する者、される者[葵鏡](2014/06/27 00:35)
[45] 彼女が去った後で[葵鏡](2014/06/27 00:41)
[46] 想いの在処[葵鏡](2014/06/27 00:41)
[47] 誓いと決意[葵鏡](2014/06/27 00:43)
[48] 繋いだ絆の輝き[葵鏡](2014/06/27 00:49)
[49] 真犯人[葵鏡](2014/06/27 00:52)
[50] 禍津稲羽市[葵鏡](2014/07/28 16:12)
[51] アメノサギリ[葵鏡](2015/01/25 09:33)
[52] 飛翔、再び[葵鏡](2015/04/15 09:11)
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[26454] 真犯人
Name: 葵鏡◆3c8261a9 ID:f4f8d2eb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/06/27 00:52
――――全てがつまらないと思った

        何もない田舎町での、変化のない退屈な日常

 そんな中で見付けた、退屈な日常を打ち壊せるかも知れない特別なモノ

   何かが変わるかも知れないと、その時は本当に信じていたのだ




 鏡の退院を翌日に控え、有休を取った遼太郎は、提出する書類をまとめていた。
 生田目が逮捕された事による騒動は収まりつつあり、ようやく護送の目処も立った事で取れた有休だ。
 それでも性分なのか、万が一の事を考えて遼太郎は多めの書類の処理を行っている。

「堂島さん、鏡ちゃんの退院って明日ですよね? そろそろ切り上げても良いんじゃないですか?」

 今日のノルマを済ませた足立が、帰り支度をしながら遼太郎に話し掛ける。

「あぁ、後これだけを済ませたら俺も上がるつもりだ。足立の方はもう上がりか?」

 遼太郎の言葉に足立は、明日は生田目の護送があるので今日は早めに休むつもりだと答える。

「すまんな。本来なら俺も護送を手伝うべきなんだが……」

「気にしないで下さいよ。明日は鏡ちゃんの退院なんですから、そっちを優先して下さいよ」

「あぁ、その言葉に甘えさせて貰うよ」

「それじゃ、堂島さん。お先に」

 そう言って署を後にしようとする足立を遼太郎が呼び止める。

「……なぁ、足立。お前、最近なにか悩み事を抱えていないか?」

 突然の質問に足立が呆気に取られた様子を見せるが、それもほんの僅かな間だった。

「嫌だなぁ、堂島さん。突然どうしたんですか? 悩み事なんてありませんよ」

「そうか? 最近のお前の様子を見ていると、どこか心ここに在らずって感じだったんだがな」

「……まぁ、悩み事というか、気掛かりはありますよ。今回の生田目の件が、ちゃんと立証できるのか、とか」

 遼太郎の指摘に足立は表情を改めると、そう答えて生田目の犯行が立証可能であるかどうかの不安要素を挙げる。
 生田目の取り調べはまだ行われていないため、足立の心配ももっともな事だ。

「悪いな、呼び止めたりして」

「いいですよ、気にしてませんから。それじゃ改めて、お先に」

 そう言って署を後にする足立を見送った遼太郎は、残りの書類を片付ける作業に戻る。




 署から出た足立は携帯電話を取り出すと、今の時刻を確認する。

「……この時間だと、今から行けばジュネスのタイムセールには間に合いそうだな」

 そう呟くと、足立は少し急いでジュネスへと向かう。
 ジュネスへ到着すると、丁度タイムセールが始まったばかりで商品が多く残っていた。

「あれ、足立さんじゃないですか。仕事帰りですか?」

 商品に割引シールを貼っていた陽介が、足立に気付き声を掛ける。
 その近くの総菜コーナーでは、クマが年配の女性客に今日のお薦めを聞かれており、にこやかに対応している。

「あぁ、陽介君か。そうだよ。ところで、今日のお薦めの弁当は何かな?」

 訊ねる足立に陽介は、ビフテキ弁当と稲羽マスの焼き魚弁当の二つを挙げると、足立は少し考える素振りを見せてから、ビフテキ弁当を手に取る。

「お、そっちを選びますか。それじゃ、いつもご贔屓にしてくれている足立さんへサービスです」

 そう言って、陽介はポケットから半額シールを取り出すと、足立が手にするビフテキ弁当に貼り付ける。

「良いのかい、陽介君? これ、まだ半額になる商品じゃないでしょ」

「良いんですよ。明日、姉御が退院する前祝いも兼ねてって事で、ここは一つ」

 陽介の言葉に足立は表情を綻ばせると、『そう言うことなら、遠慮なく』と言って、買い物カゴの中へと弁当を入れる。
 浮いた分の費用で、足立は缶ビールと総菜コーナーで野菜サラダを買い物カゴに入れると、陽介に挨拶をしてからレジへと向かう。
 以前は総菜弁当と缶ビール、酒のつまみ位しか購入しなかったのだが、鏡に注意されてから時々は野菜も摂るようになっていた。
 我ながら『らしくない』とは思うのだが、不思議と嫌な気がしないのは、彼女達の影響なのかも知れない。

(……本当にらしくない。彼女達は俺なんかとはまるで違うのに)

 足立は自身の滑稽さを自嘲すると、自分と未来に希望を持つ彼女達は違うのだと、改めて自覚する。
 ちょっとした失敗で辺鄙な田舎町に飛ばされた自分と、皆の中心で輝いている彼女。
 あまりにも違う境遇に、世界は不条理なのだと痛感する。
 そんな事を思った足立は、暗雲たる気分のまま帰宅する。


 何もない、殺風景な自宅に帰り着いた足立は電子レンジでビフテキ弁当を温めると、野菜サラダに付属のドレッシングをかけて遅い晩ご飯を摂ることにする。
 買い置きしてあった酒のつまみも取り出すと、缶ビールのプルタブを開けて一気に半分ほどを飲み干す。
 独りきりの食事。以前は気にもならなかった事なのに、最近では妙に虚しさを感じるようになった。
 遼太郎に連れられ、堂島家に初めてお邪魔した春先。
 あの日食べたカレーは、今まで食べたカレーの中で一番美味しかった。


 両親の都合で、独り親戚の家にやって来た少女。
 慣れない環境に浮いているのではないかと思ったが、思惑に反して実の家族のように、あの場に溶け込んでいた。
 遼太郎の一人娘である菜々子とのやりとりは、実の姉妹と言ってもいいほど自然で違和感がなく楽しそうだった。
 自分には縁の無かったその光景に、当時の足立は理由が解らない複雑な気分になった。
 その後もクラスメイト達に囲まれ、中心的な存在となっていた鏡の存在が意識の片隅から離れなかった。

(俺には無いモノを持つあの子と一体、何が違ったんだろうな……)

 そんな埒も無い事を考えながら、足立は独りの食事を続ける。




――翌日

 あいにくの雨模様の中、遼太郎達と病院で合流する約束していた陽介達が急ぎ足で病院へと向かう。

「折角の姉御が退院だってのに、天気もちょっとは気を利かせろってんだ」

「花村、気持ちは解らんでもないけど、愚痴ってもしょうがないでしょ」

 ぼやく陽介を千枝が宥めていると、雪子が『あれ、堂島さんと菜々子ちゃんじゃない?』と、病院前を指差す。
 雪子の言うとおり、病院前に立っているのは先に到着していた遼太郎と菜々子で、陽介達に気付いたのか、菜々子が嬉しそうに手を振っている。

「すんません、遅れました!」

「いや、雨でバスが遅れたんだろう? 約束の時間には充分に間に合っているから、気にする事はない」

 謝る陽介に遼太郎はそう答えると、鏡の病室に向かおうと皆に声を掛ける。
 遼太郎に促され、鏡を迎えに病室へと移動する事にする。

「お前達は先に鏡の病室へと向かってくれ。俺は受付で退院の手続きを済ませてくる」

「堂島さん、ちょっと話があるんですが、後で良いですか?」

 遼太郎の言葉に、陽介が直斗と雪子に目線で合図を送ると、遼太郎にそう話し掛ける。
 その様子にただならぬモノを感じた遼太郎が頷くと、千枝とクマが先に鏡の所に行こうと菜々子に声を掛ける。
 二人の言葉に頷いた菜々子の手を取り、千枝達が鏡の病室へと向かうのを見送ると、遼太郎は陽介達に視線を向ける。

「どうした、何か気になる事でもあったのか?」

「実は俺達、山野アナの件について色々と考えていたんですが、堂島さんに確認しないと判断が出来ない状況になって……」

 遼太郎の質問に陽介はそう答えると、山野真由美の事件についての不審な点を挙げていく。
 事件当初、警察は初動の聞き込みに異例の人員を動員したにも関わらず、不審者の目撃証言が出なかった。
 山野真由美には熱狂的なファンが居たのに、だ。

「事件の本質とその事を踏まえると、山野アナは天城屋旅館内で犯行に遭ったとみて間違いないでしょう」

 陽介の説明を直斗が引き継ぐ。
 運送業者としてテレビを持ち運んでいた生田目と違い、事件当時は雨が降り続いており、天城屋旅館から外出したとは考えにくい。
 その上、天城屋旅館のロビーには、人が通れるほどの大画面テレビが設置されており、直斗の推論を裏付けている。

「そして、ここからが本題なんですが……事件当日、身辺警護と言って稲羽署から人手が来てるんです」

 言い辛そうに話す直斗の様子に、遼太郎は三人が何を聞きたいのかを理解した。

「お前達の様子からして、身辺警護に来たのは……足立か?」

 遼太郎の確認に、雪子が山野真由美が宿泊中、マスコミが天城屋旅館にまで押しかけてきたらしい。
 その時、足立が身辺警護にやって来てマスコミを追い返したそうだ。

「……はい、その事が確認したいのです。稲羽署は、本当に山野アナの身辺警護に足立刑事を派遣したのですか?」

 遼太郎の事を気遣っているのだろう。
 雪子の説明を継いで気まずそうに話す直斗の言葉を聞き、遼太郎は自身の仮説が間違ってなかった事に苦い思いを噛み締める。

「確かに、警察関係者ならば不審者だとは思われないだろうし、鏡宛の脅迫状も、気付かれずに投函できるだろう」

「生田目氏の時と同じく、目撃されても不審者だとは思われないですし、警察関係者なら、不利な証拠を揉み消す事も出来ます」

 直斗の説明に遼太郎が頷く。
 遼太郎自身、間違いであって欲しいと思った仮説だが、直斗達の話から間違いではないと痛感する。
 通常の事件と違い、この事件は相手をテレビの中に落としさえすれば、助け出されない限り完全犯罪が成立してしまうのだ。

「確かに、犯人は向こう側へ落とせば、直接手を下す必要がないからな。しかも、死亡推定時刻は当てにはならない」

 山野真由美の死亡原因は未だに判明しておらず、死亡推定時刻もあやふやで、鑑識の面々が揃って頭を抱えたほどだ。

「それに、思い返してみれば、俺達に内部情報をわざと漏らしていた節もあったし」

 そう言って陽介は、普段のヘタレな姿から、うっかりミスで口を滑らせていただけだと、思っていた事を話す。
 そんな陽介に遼太郎は、ああ見えて本庁ではエリートだった事を伝えると、陽介だけでなく雪子や直斗も驚いた表情を見せる。

「堂島さんの話が本当なら、僕達はまんまと足立さんの手の上で踊らされた事になりますね」

 僅かに悔しさの滲み出た表情で直斗がそう話すと、陽介が『借りは後で返せばいい』と宥める。

「その事はひとまず置いておいて、山野真由美の身辺警護の指示は出てなかったはずだ」

 当時の事を思いだし、遼太郎が三人に話す。 
 身内の、それも自分の相棒だった足立が真犯人である可能性が高くなった事に、遼太郎が苦悩の表情を浮かべる。

「堂島さん、心情的に辛いと思いますが、足立さんは今どちらに?」

「足立なら、生田目の護送の為、こっちにもう来ているはずだ」

 遼太郎の言葉に直斗達は互いの顔を見合わせると、足立に確認するため、同行して貰えないか願い出る。
 直斗達だけに任せる訳にもいかないし、何より自分自身が確認する必要があると考えていた遼太郎は、その申し出を受ける事にする。
 取り敢えずは鏡の退院手続きを先に済ませる必要があるため、遼太郎は受付で手続きを済ませる事にする。
 幸い、他の利用者がいなかった事もあり、手続きはものの数分で終える事が出来た。
 手続きを済ませた遼太郎達は、足立に会いに行く前に鏡達と合流するべく鏡の病室へと向かう。




 鏡の病室へと到着すると、意外な事に中から足立の声が聞こえてきた。

『あれ、堂島さんは一緒じゃなかったの?』

『堂島さんなら、先輩の退院手続きをしてから来るって言ってましたよ』

 足立とりせのやりとりを聞きながら遼太郎達が鏡の病室に入ると、その事に気付いた足立が遼太郎に声を掛けてくる。

「おっ、噂をすれば。堂島さん、生田目の護送が終了しましたんで、その事を伝えに来ました」

「そうか、お疲れさん。菜々子、スマンがお父さん達はちょっと用事があるから、先にロビーへと行っててくれないか?」

 足立の報告を聞いた遼太郎がそう言うと、菜々子が不思議そうな表情を浮かべる。

「お父さん達もすぐにくる?」

「あぁ、すぐに行くからジュースでも飲んで待っててくれ」

「クマ、お前は菜々子ちゃんと一緒に付いていてやってくれ。それと、これはジュース代な。二人で好きなのを選ぶと良い」

「解ったクマ。ナナチャン、クマと一緒に行こうクマ」

 心配そうに訊ねる菜々子の手を取り、陽介からジュース代を受け取ったクマがロビーへと移動する。
 二人を見送り、遼太郎達が改めて足立の方へと向き直る。

「……? 堂島さん、どうかしたんですか?」

 先ほどまでとは違う遼太郎の雰囲気に、足立が怪訝そうな様子で訊ねる。
 遼太郎だけでなく菜々子と先に来ていた千枝達も、足立が病室に来てから様子が変わった事もあり、鏡も何かあったのかと疑問に思う。

「……実はな、足立。春先の山野真由美の事件について、少し気掛かりな点が出てきたんだ」

 遼太郎の言葉に、鏡と足立の表情が変わる。

「足立、お前……事件当日、天城屋旅館へ山野真由美の身辺警護に行ったらしいな。その時、何か変わった事は無かったのか?」

 探るような視線を向けて話し掛けてくる遼太郎に、足立が引きつった笑みを浮かべる。

「えっと……どうでしたっけ。不倫報道された事で、少々過敏になってたと思いますが、特に変わった様子は無かったかと……」

「なるほどな……ところで、どうしてその事を報告しなかった? 署から身辺警護の指示は出てなかった筈だよな」

 遼太郎の追及に、足立の顔に冷や汗が流れる。

「指示は出てませんでしたけど、報道でテレビ局が押しかけるんじゃないかと思って、独断で行動しました。報告しなかったのは、特に気になる点がなかったので、失念していました。すみません……」

 しどろもどろになりながらも足立がそう答えると、遼太郎はさらに足立を追及していく。

「山野真由美の死体が上がった日、署に生田目が通報の電話をかけてきた筈なんだが……お前、確か『変な番組に、殺された山野アナが出てた』って言ったよな。アレは生田目からの通報じゃ無かったのか?」

 その言葉に、足立の表情が徐々に強ばっていく。
 事情を知らない鏡も、遼太郎の言葉に現状を把握するだけで精一杯なのか、黙って様子を見ている。

「それと、久保が自首してきた時に対応したのはお前だったよな。本当に久保をすぐに帰したのか?」

「久保が……自首していた、だって……!?」

 続けて告げられた遼太郎の言葉に、その事を知らなかった陽介達も驚いた表情を見せる。

「い……いやだなぁ、堂島さん。まるで、僕が犯人みたいな言い方じゃないですか」

 引きつった笑みを浮かべ、冷や汗を流しながら答える足立に、遼太郎は『俺も違うと信じたいのだがな』と、状況証拠が足立が真犯人である事を示していると辛そうに説明する。

「足立、頼むから本当の事を話してくれ。そして、もしお前が真犯人だとしたら、潔く自首してくれ」

 辛そうに話す遼太郎からの視線に耐えきれず、足立が視線を泳がせると、いつの間にか病室の入り口前に完二と千枝が位置取っており、足立が逃亡できないように行動していた。

「……そ、そんな事ありませんよ。僕が、犯人だなんて……そんな」

 しどろもどろに答える足立の視線は落ち着き無く彷徨っており、顔色も悪くなってきている。

「そうか、そう言うのなら足立、そこにあるテレビの画面を触ってくれないか?」

 遼太郎がそう言って、病室に備え付けられるテレビを指差す。
 その言葉に足立はゴクリと生唾を飲み込むと、明らかに先ほどまでとは違って緊張した様子を見せており、顔色も蒼白といった方が良いほど青ざめてきている。

「なんで、テレビ画面を……?」

「信じられん事だが、真犯人ならテレビの中に入る事が出来るんだ。お前が真犯人でなかったら、そんな事は出来い筈だ」

 足立の質問に苦渋の表情を浮かべるも、刑事としての責任感から追及の手を休めず真実を明らかにする為に足立へと迫る。

「……くっ!」

 遼太郎から視線を背けた足立は、表情を苦渋に歪めるとテレビ画面に手を近づけて画面へと触れる。
 足立が触れた場所に波紋が広がると、そのまま足立の腕がテレビ画面へと飲み込まれていく。

「足立!? お前、やっぱり!!」

 驚く遼太郎が硬直した隙を見逃さず、足立はそのままテレビ画面に腕を突き入れると、テレビの中へと逃亡しようとする。
 その事に気付いた陽介と直斗が阻止しようとするも、寸前で取り逃がしてしまう。

「…………足立さん……」

 信じられない光景に、鏡は唖然と呟く。
 事情を知らない鏡以外は予想していたとは言え、足立が真犯人であった事実に驚いている。

「……足立……どうしてだ……どうして?」

 そう呟いて、遼太郎は足立が消えたテレビ画面に触れる。
 足立が真犯人であったという事実に、一番のショックを受けたのは相棒であった遼太郎だろう。
 様子がおかしい事に気づいていたにもかかわらず、何も出来なかった自分の不甲斐なさに怒りすら覚える。
 しかし、今は感情に身を任せる時ではなく、真犯人である足立を止める時なのだ。
 遼太郎は自分の気持ちを落ち着けると、鏡へと向き直る。

「鏡……病み上がりのお前に頼むのは酷な事だと理解している。けれど、頼む、足立を……止めてくれ」

 本当は自分自身で足立を止めたいのだろう。
 能力を失ってしまった事を歯痒く思いながらも、遼太郎は鏡に足立の事を頼むと頭を下げる。

「頭を上げてください、叔父さん。私達が足立さんを連れて帰りますから……」

 鏡自身も驚きから抜け出せてはいないが、遼太郎の思いに応えるためにそう約束する。


 病室からロビーへと移動すると、菜々子と一緒に待っていたクマが鏡達に気付いて手を振ってくる。

「お姉ちゃん!」

 クマに遅れて鏡に気付いた菜々子がそう言って、鏡の元へと駆けてくる。

「お姉ちゃん、用事はもう終わったの?」

「ごめんね、菜々子ちゃん。お姉ちゃん達、これから足立さんを助けに行かなくちゃいけないの」

 申し訳なさそうに話す鏡の様子から、向こう側での事を思い出したのだろう。
 不安げに鏡を見上げると、菜々子は鏡の袖をぎゅっと掴む。

「お姉ちゃん、ちゃんと帰ってきてくれるよね?」

「うん、約束する。菜々子ちゃんを心配にさせて、ごめんね」

 謝る鏡に菜々子は首を振ると、無事に足立を助けて帰ってくるのを待ってると返す。
 なんでも、鏡が意識不明の時に落ち込んでいた菜々子を励ましてくれたのだそうだ。
 遼太郎もその話は初耳だったのか、驚いた表情を見せる。

「それじゃ、叔父さん。すみませんが私の荷物をお願いします」

「あぁ、解った。荷物を置いてきたら、菜々子とジュネスで待っている。無理はするなよ?」

 鏡から荷物を受け取りそう答えると、遼太郎は菜々子を連れて病院を後にする。
 それを見送った鏡は表情を改めると、陽介達へと向き直る。

「それじゃ、みんな。行こうか」

 鏡の言葉に皆が頷く。

    我は汝……、汝は我……

   汝、ついに真実の絆を得たり


    真実の絆……それは即ち

       真実の目なり

    今こそ、汝には見ゆるべし

  “愚者”の究極の力、“ロキ”の

    我が、内に目覚めんことを……

 鏡の脳裏にいつもの声が響く。
 その直後、新たな力が鏡の中に芽生える。

     我は汝……、汝は我……

   汝、新たなる絆を見出したり……


   絆は即ち、まことを知る一歩なり


 汝、“審判”のペルソナを生み出せし時

  我ら、更なる力の祝福を与えん……

 病み上がりで、未だ本調子ではない鏡の身体に力が満ちていく。

「姉御、今までみたいに姉御一人に負担は掛けないから、もっと俺達を頼ってくれ」

「そうだよ、鏡はまだ病み上がりなんだから、あたし達に任せてよ!」

 陽介と千枝がそう言うと、雪子と完二も自分達にも頼ってくれと声を上げる。

「……みんな、ありがとう」

「お姉ちゃん、私もこれまで以上に皆をバックアップするからね!」

「そうです。この間のような事には絶対にさせませんから」

「センセイ! クマも頑張るクマよっ!!」

 皆の言葉に鏡は『頼りにしているから』と、自身も以前のような無茶はしない事を誓う。
 気持ちを新たに、鏡達はジュネスへと向かう。

「……えっ……何、これ?」

 病院から外へと出ると、さっきまで降っていた雨は止んでおり、かわりに濃い霧が辺りを包んでいた。
 それはまるで、“向こう側”の霧のように視界が悪く伸ばした手の先がぼやけるほどだ。

「まるで、向こう側の霧みたい……」

 雪子の言葉に、完二が懐から眼鏡を取り出して掛けてみる。

「っ!? ちょっ、先輩達! 眼鏡、眼鏡!!」

 慌てる完二の言葉に鏡達は不思議そうな表情をしつつも、言われたとおりに眼鏡を取り出して掛けてみる。

「そんな!?」

 眼鏡を掛けた途端、辺りの景色がハッキリと見えるようになり、その事実に皆が驚く。
 皆の持つ眼鏡は本来、向こう側の霧を見通すための物で現実世界の霧を見通す事は出来ないはずだ。

「……あっちの霧が、こっちに漏れてるのかな?」

 何気ない千枝の一言に、皆が驚きの表情を浮かべると、一斉に千枝の方を向く。
 皆の反応に驚いた千枝は、ただの思いつきで言っただけだからと、焦った様子を見せる。

「テレビの中の霧が漏れてる? そんな事が……」

 不可解な現象に、直斗が思案顔になる。

「取り敢えず急ごうぜ。ひょっとしたら、向こう側で何かがあったのかも知んねぇ」

 陽介の提案に皆が頷くと、急いでジュネスへと移動する。




 家電コーナーから向こう側へと移動した鏡達は、今まで以上に視界の悪くなっているテレビの中に驚きを隠せない。
 まるで、こちら側の霧が濃くなり過ぎたために、現実世界へと霧が溢れ出してしまったかのようだ。

『……何、これ? こっちの世界、また広くなってる』

 カンゼオンから送られてくる情報に、りせが唖然とした様子でそう呟く。

『感じる……すごく大きな力がこの世界を広げ、霧を深くしているのを』

「りせちゃん、足立さんの居場所は分かる?」

『もうちょっと待って、お姉ちゃん。霧が深くて、まだハッキリと感じ取る事が出来ないの』

 りせが意識を集中するのに合わせ、カンゼオンを中心に光の波紋が広がっていく。

『……ッ!? 見付けた!』

 索敵を開始して暫く後、ようやく足立の居場所を見付けたりせが皆を案内する。
 りせに案内されてやって来て場所は、鏡と陽介に見覚えのある場所だった。

「なぁ、姉御。この場所って……」

「山野アナの声が聞こえた場所だね」

「二人とも、この場所を知ってんの?」

 二人のやりとりを聞いた千枝がそう訊ねると、鏡が当時の事を説明する。

「そういやココで、姉御に俺のシャドウをぶっ飛ばされたんだよな……」

 当時の事を思い出して、陽介が感慨深げに呟く。

「え? 花村の先輩のシャドウを、姐さんがぶっ飛ばしたんスか?」

「以前、里中には話したと思うけど、俺が自分のシャドウを否定する前に、姉御がペルソナを使って問答無用でぶっ飛ばしたんだよ」

 そう言って、陽介が当時の事を呆れた様子で説明すると、完二が何ともいえない表情で『マジスか……?』と呟く。
 完二も似たような状況で自身のシャドウをペルソナに変えたが、改めて鏡に対して畏敬の念を抱く。

「当時の話はその位にして、足立さんの所に行きましょう」

「っと、そうだったな。悪ぃ、姉御」

 鏡の指摘に陽介は謝ると、足立が居るであろう薄気味の悪い部屋へと移動する。
 前もって鏡から説明を受けていたとは言え、壁中に貼られた顔を切り裂かれたポスターや、部屋の梁に掛けられたロープの先に結わえられたスカーフの輪とその下に置かれたイスに、鏡と陽介以外の面々の気が滅入ってくる。

『こんな所まで追ってきたんだ……君達、よっぽど暇なんだねぇ……』

 そんな部屋の窓際に立つ足立が、やって来た鏡達を一瞥して呆れたように呟く。
 普段の情けない姿とは違い、今の足立は全てが煩わしいといった様子で、ひどく虚ろに見える。

「本当に足立さんが真犯人なんですか?」

『今更そんな事を聞いてどうするんだい、鏡ちゃん。僕がここに居る時点で、答えはもう解っているでしょ?』

 鏡の問い掛けに足立が億劫そうに答える。
 その態度が勘に障ったのか、完二が足立に殴りかかろうと一歩踏み出した直後、りせが目の前にいる足立は偽物で、本当の足立は別の場所にいる事を告げる。

『へぇ、そんな事まで解っちゃうんだ。スゴイ、スゴイ』

 あからさまに鏡達を挑発するように、緩慢な拍手をしながら足立がりせを褒める。

『けど、残念だったね。僕を捕まえたところで、こっちの世界が現実になって、人は皆シャドウへと生まれ変わるんだ』

「何、ワケの解らない事を言ってやがる!!」

『信じる信じないは君達の自由だけど、無駄な努力には変わりないよ。それでも、僕を捕まえるつもりかい?』

 激昂する陽介へ哀れみの視線を向けた足立がそう告げると、鏡は『そのつもりです』と答える。
 その答えに足立は溜息を吐くと、鏡達に『それじゃ、ゲームをしよう』と提案する。


 この先に居る足立の元まで辿り着き、足立を捕まえる事が出来れば鏡達の勝ち。
 足立を捕まえる事が出来ず、こっちの世界に現実世界が飲み込まれたら自分の勝ち。
 そう告げた足立が鏡達の目の前で窓の方へと向き直ると、空間が歪んで真っ暗な孔が出来上がる。

『それじゃ、僕は向こうで待ってるからね』

 鏡達に背を向けた足立はそう言い残すと、孔の中へと移動する。

「ちょっ、待てコラ!!」

 足立の姿が見えなくなった事で我に返った千枝が、後を追い掛けて孔の中へと飛び込む。

「千枝!」

 独りで先へと進んだ千枝を追い掛けて、鏡達も孔の中へと飛び込む。
 事件を解決する、その為に。




――次回予告――


 真犯人を追って飛び込んだ先
 そこは荒廃した稲羽市だった

 これまでと違い、統率されたシャドウ達

――真犯人の裏に潜む、見えない存在

 互いの意地がぶつかり合った先にある答え


 次回、PERSONA4 PORTABLE~If the world~、

     禍津稲羽市

――その先にある真実――




2013年07月23日 初投稿
2014年06月27日 誤字修正


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