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No.26454の一覧
[0] PERSONA4 PORTABLE~If the world~ (もしも番長が女だったら?) ペルソナ4再構成[葵鏡](2015/04/15 09:13)
[1] 【習作】PERSONA4 PORTABLE~If the world~[葵鏡](2014/06/27 00:21)
[2] 転校生[葵鏡](2014/07/22 03:57)
[3] マヨナカテレビ[葵鏡](2014/06/27 00:23)
[4] もう一人の自分[葵鏡](2011/04/15 22:00)
[5] ベルベットルーム[葵鏡](2014/06/27 00:24)
[6] 雪子姫の城[葵鏡](2014/06/27 00:25)
[7] 秘めた思い[葵鏡](2011/06/04 08:51)
[8] 秘めた思い 【千枝】[葵鏡](2012/08/06 08:13)
[9] 籠の鳥 【前編】[葵鏡](2011/06/04 08:52)
[10] 籠の鳥 【後編】[葵鏡](2011/06/04 08:54)
[11] コミュニティ[葵鏡](2011/04/16 16:45)
[12] 【幕間】 菜々子の調理道具[葵鏡](2011/05/20 15:14)
[13] ゴールデンウィーク[葵鏡](2011/04/22 15:50)
[14] 迷走[葵鏡](2011/04/29 10:02)
[15] 熱気立つ大浴場[葵鏡](2011/06/14 22:12)
[16] 男らしさ、女らしさ[葵鏡](2011/05/10 18:55)
[17] 林間学校[葵鏡](2011/05/14 17:33)
[18] 虚構と偶像[葵鏡](2011/05/26 16:13)
[19] 特出し劇場丸久座[葵鏡](2011/06/11 01:37)
[20] 覚醒する力と新たな目覚め[葵鏡](2014/07/10 01:05)
[21] 齟齬と違和感  6月22日 お知らせ追加[葵鏡](2011/06/22 09:39)
[22] 思いがけない進展[葵鏡](2011/06/26 09:41)
[23] ボイドクエスト[葵鏡](2011/07/13 02:24)
[24] ひとまずの解決[葵鏡](2011/07/19 20:52)
[25] 探偵の憂鬱[葵鏡](2011/07/31 10:07)
[26] 三人目の転校生[葵鏡](2011/08/14 09:27)
[27] 修学旅行[葵鏡](2011/08/22 09:21)
[28] 【幕間】 お留守番[葵鏡](2011/10/10 07:24)
[29] 意地と誇り[葵鏡](2011/10/30 23:50)
[30] 秘密結社改造ラボ[葵鏡](2011/11/30 13:22)
[31] 最初の一歩[葵鏡](2011/11/30 13:24)
[32] 光明[葵鏡](2011/12/15 06:10)
[33] 父と子と[葵鏡](2012/01/10 17:33)
[34] 菜々子の誕生日[葵鏡](2012/03/04 00:24)
[35] 暗雲[葵鏡](2012/07/16 18:06)
[36] 脅迫状[葵鏡](2012/03/10 07:52)
[37] 文化祭 前編[葵鏡](2012/04/15 20:20)
[38] 文化祭 後編[葵鏡](2012/05/25 20:18)
[39] 陽介の文化祭 前編[葵鏡](2012/11/06 22:14)
[40] 陽介の文化祭 後編[葵鏡](2012/11/06 22:16)
[41] 天城屋旅館にて[葵鏡](2012/05/25 20:16)
[42] 忍び寄る影[葵鏡](2012/06/16 16:22)
[43] 天上楽土[葵鏡](2014/06/27 00:33)
[44] 救済する者、される者[葵鏡](2014/06/27 00:35)
[45] 彼女が去った後で[葵鏡](2014/06/27 00:41)
[46] 想いの在処[葵鏡](2014/06/27 00:41)
[47] 誓いと決意[葵鏡](2014/06/27 00:43)
[48] 繋いだ絆の輝き[葵鏡](2014/06/27 00:49)
[49] 真犯人[葵鏡](2014/06/27 00:52)
[50] 禍津稲羽市[葵鏡](2014/07/28 16:12)
[51] アメノサギリ[葵鏡](2015/01/25 09:33)
[52] 飛翔、再び[葵鏡](2015/04/15 09:11)
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[26454] 想いの在処
Name: 葵鏡◆3c8261a9 ID:f4f8d2eb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/06/27 00:41
――――彼女の行く末を見てみたいと思った

   本来ならば、客人に対する直接干渉は禁じられている

             それでも……

     私は、彼女の可能性を見てみたいと望んだのだ




 膨大な熱気が周囲全てを薙ぎ払うかのように広がっていく。
 その現象を起こしたのは、マーガレットが召喚したペルソナ“ジークフリート”による攻撃だ。
 火炎系範囲最上位スキル【メルトダウン】によって薙ぎ払われた周囲の景色が、陽炎で歪んで見える。
 その中に、両腕で顔を庇い攻撃を耐え凌いだ鏡の姿が現れる。
 マーガレットの攻撃はどれも強力で、迂闊に反撃する事が出来ずに、鏡は防戦一方だった。

「そのままだと、いずれ力尽きるわよ。さあ、私を失望させないで頂戴!」

 マーガレットの言葉に、鏡は何とかして反撃の糸口を見付けようと思考をフル回転させる。
 鏡同様、マーガレットも複数のペルソナを使い分け、多種多様な攻撃を仕掛けてくる。
 どうやらその順番には一定の法則があるらしく、鏡は次に来る攻撃に備えてペルソナをトランペッターへと変える。

「コキュートスペイン!!」

 マーガレットの声に合わせて、ペルソナ“ロキ”が氷結系範囲最上位スキル【コキュートスペイン】を使ってくる。
 鏡の頭上に現れた人間大の巨大な氷柱が雨霰と降り注ぐ。
 しかし、その氷柱は鏡に当たる瞬間に霧消し、光の粒子となって鏡に吸収される。
 トランペッターの持つ特性“氷結属性吸収”の効果で、鏡の読みが当たった証拠だ。
 これにより、先ほど受けたダメージが回復され、鏡の身体から火傷の痕が消えていく。

「ゴッドハンド!」

 鏡は次の攻撃に備えて、先ほどのマーガレットと同じ“ジークフリード”に交換して、物理系スキル【ゴッドハンド】で攻撃する。
 見た目は同じだがマーガレットのそれとは違い、鏡の召喚するジークフリードは火炎系のスキルが使えない。
 しかし、鏡はマーガレットが使うペルソナが自身の使うそれと同じ姿をしている事に、何かしらの意味があると考えた。
 ペルソナとは、自分の心の中にある別の姿の具現化だ。
 それは、自身の持つ“可能性”が目に見える姿となって現れたモノであり、ワイルドは無限の可能性を秘めているとイゴールは説明した。

(だとしたら、私にも彼女が使うペルソナと、同じペルソナが使える可能性を秘めているはず)

 マーガレットとの攻防を繰り返しながら、鏡は考えを巡らせていく。
 可能性はあるとしても、問題はペルソナをどうやって具現化するかである。
 本来なら、ベルベットルームでイゴールの手助けを借りる事によって、鏡は様々なペルソナをその身に宿してきた。
 けれどもイゴールが居ない今、鏡自身の力によってそれを為さねばならない。

――それは可能なのか?

 鏡の心に疑問が過ぎる。
 けれども、今の鏡は自身でペルソナを消滅させた事により、マーガレットを相手にするには正直なところ、厳しい状況だ。
 その状況を打ち破るためにも、今ここで鏡は新たなペルソナを、自身の力で具現化させなければならない。
 不完全ながらとは言え、同時にペルソナを召喚する事が出来たのだ。
 鏡は覚悟を決めると、新たなペルソナを誕生させる為に瞳を閉じ意識を集中する。




 気が付くと、そこは見覚えのある風景と似ているようで違う場所だった。

「ここは……何処クマ!?」

 自分は確か病院に居たはずだと考えて、クマは鏡が亡くなった事を思い出した。
 何も出来なかった自分は、何のために存在していたのか?

「思い出したクマ……」

 自身の存在を考えていたクマは、唐突に自身がそもそも何者であったのかを思いだした。
 それはうすうす感じていたが、認めたくなかった事実だった。
 そもそも自分は鏡達と一緒に居るべきでない存在だった事実に、クマは意気消沈する。

「ベールベルベル、ベルベットーわーがー、あるじ、長い鼻ー」

 突然聞こえてきた声に、クマが驚いて辺りを見渡す。

「おや? こんな所に人が……人?」

 霧の向こう側から現れたのは、群青色の装束に身を包んだショートカットの女性だった。
 手には大きな辞書のような書物を持ち、クマを興味深そうに眺めている。

「お、おねいさん誰クマ!?」

 見慣れない女性にクマが驚いて訊ねると、女性は改まった態度でクマに自己紹介をする。

「私はエリザベス。しがないエレベーターガールでございます……と言いますか。絶賛、職務放棄中です」

 エリザベスの自己紹介に、クマがジュネスのエレベーターにも美人のお姉さんがいると嬉しいと興奮気味に話す。
 その発言は、クマにとって既にジュネスで陽介と働くことは日常と化しており、クマの本心は皆と共にありたいと願っている証拠だ。
 そんなクマに、エリザベスは『そちらのお名前をうかがっても?』と、クマの名前を訊ねる。

「クマはークマクマ」

「すみません、人間の言葉で言って頂いても宜しいでしょうか?」

 クマの自己紹介に、エリザベスが困惑した様子でそう返すと、クマは“クマ”が自分の名前だと説明する。
 その説明にエリザベスは納得するも、独創的な格好のクマに好奇心が抑えきれなくなり、無意識にクマの身体を触りまくる。
 エリザベスに好き放題にされたクマが抗議の声を上げる。

「ハッ……これは失礼。好奇心がクマを殺す所でございました」

 クマの抗議に我を取り戻したエリザベスが謝罪すると、クマは怯えた様子を見せる。
 エリザベスは改めてクマの事をしげしげと眺めると、実に興味深い存在であるとクマに告げる。

「人ならぬ存在でありながら、定めに抗い、人と共にあろうと望む者……」

 エリザベスの言葉に、クマの身体が強ばる。

「クマは、もう皆と一緒に居る事はできないクマよ……」

「何故でございますか?」

 気落ちした様子で答えるクマに、エリザベスが訝しげに訊ねる。
 クマはエリザベスに鏡達と出会った事、そして出会いの切っ掛けとなった事件のせいで、鏡が命を落とした事を説明する。
 その説明を静かに聞いていたエリザベスは、クマ自身は仲間達と共にありたくないのかと訊ねる。

「本当は、皆と一緒に居たいクマよ! けど……けど、クマは皆と一緒に居てはいけない存在クマよ!!」

 悲しそうに語るクマに、エリザベスは本当にそうなのかと問い掛ける。

「確かに、おクマ様は人とは相容れない存在なのやも知れません。ですが、それは変えられない事実なのでしょうか?」

 エリザベスの指摘にクマは驚いた様子を見せる。
 驚くクマにエリザベスは言葉を続ける。

「人ならぬ存在であろうとも、他者と絆を結ぶ事が出来る。それは、共にいても良いという証になりませんか?」

「それでも、クマのせいでセンセイが命を落とした事実は変わらないクマよ……」

 クマの説明で聞かされた、センセイと呼ばれる少女の存在。
 人ならざるクマと絆を結び、尊敬を集めている人物に、エリザベスは強く興味を引かれる。


 クマの説明から察するに、その少女はおそらく“ワイルド”の素質を持つ人物に違いないだろう。
 それはつまり、ベルベットルームの客人である可能性が高い人物だ。
 先ほどから、強い力のぶつかり合いを感じ取っていたエリザベスは、そちらへと意識を向ける。
 ぶつかり合う力の片方は、エリザベスのよく知る人物のモノだ。


 エリザベスが知る限りにおいて、彼女と対等に渡り合える存在は限られている。
 しかし、相対する力の持ち主は覚えのないモノで、敢えて挙げるなら、以前の客人だった人物に近い力の波形を感じる。
 ひょっとすると、その人物がクマの話すセンセイなのではないかと、エリザベスは推測する。

「おクマ様。あなたが先ほど話された、センセイなる人物と思わしき存在を見付けたのですが、これから会いに行ってみませんか?」

 突然の提案にクマは驚くも、すぐさまエリザベスにその場所へと案内して欲しいとクマが頼み込む。
 許して貰えるとは思っていないが、せめて鏡に謝りたい。その思いがクマの心を占める。
 クマの言葉に頷くと、エリザベスは手にした書物を開く。
 その直後、空中に青く光る魔法陣が浮かび上がる。

「それでは、参りましょうか」

 そう言ってエリザベスはクマの手を掴むと、そのまま無造作にクマを魔法陣へと投げ入れる。
 手荒な扱いに悲鳴を上げながら魔法陣に吸い込まれたクマに続き、エリザベス自身も魔法陣へと飛び込む。
 移動に際した時間はごく僅かだった。

「間もなく、到着いたします」

 エリザベスが告げると同時に、眩い光が二人を包む。
 光が消えると同時に到着した場所は、迷宮のような場所だった。

「イタタ……酷い目に遭ったクマよ……って、ここは何処クマ?」

「ここは深層モナド。力の強いシャドウ共が徘徊する場所でございます」

 手荒な扱いに顔をしかめるクマの疑問に、エリザベスが答える。
 到着した場所が予想した場所であった事に、エリザベスは先ほどの推測を確信へと変える。
 激しい力のぶつかり合いは、深層モナドの最上階から感じられた。
 それと同時に、先ほど感じた力がワイルドの力である事を確信したエリザベスは、クマに目的地が最上階である事を告げる。

「おクマ様。この深層モナドを徘徊するシャドウ達は、おクマ様の手には負えぬ相手ばかり。決して、私の傍から離れませんように」

 エリザベスはクマにそう忠告すると、最上階へと向けて移動を開始する。




 目の前で起こる出来事に、クマは驚愕と共にエリザベスに対して畏怖の念を抱いていた。
 エリザベスの忠告通り、この場所に現れるシャドウ達はどれも自身より遥に強力な力の持ち主ばかりだった。
 にも関わらず、それらのシャドウ達をエリザベスは事も無げに撃破して先へと進んでいく。

「ドロー、ペルソナカード」

 その声と共に、エリザベスの背後に多数の棺を背負った漆黒の異形が姿を現す。
 死そのものを司る“死の神タナトス”は、背の棺を翼のように広げてシャドウの群れに飛び込むと、手にした剣を無造作に振り払う。
 ただそれだけの事で、数多のシャドウは瞬時に葬り去られ、黒い霧となって消えていく。


 その光景はもはや戦闘と呼べるモノではなく、一方的な虐殺だった。
 そのタナトスを御するエリザベスもまた、途方もない力の持ち主だった。
 何気なく振るわれる拳打は容易くシャドウを砕き、手にする書物を軽く払うと、シャドウが一瞬で切り刻まれる。


 あまりの現実味の無さに、クマは夢を見ているのではないのかと疑いたくなる。
 しかし、シャドウ達から発される存在感や力強さは、紛う事なき現実である事をクマに告げる。
 無人の野を歩くように、エリザベスは先へと進む。
 上へと続く階段を何度も上り、現れるシャドウも強力な個体ばかりが現れるようになる。
 それでも、エリザベスの足を止める事が出来た個体は一体もなく、タナトスかエリザベス自身によって瞬時に倒されていく。

「この階段を上がれば、目的地でございます」

 エリザベスの言葉に、クマが眼前に見える階段の先へと視線を向ける。
 ここまで近付くと、この先でぶつかり合っている力の凄さに肌が粟立ってくる。
 クマが知っている鏡の力量を超える力のぶつかり合い。
 この先で行われている戦いの凄まじさに、クマは鏡が無事であるか心配する。

「申し訳ありませんが、これより先はおクマ様だけで進んでいただきますよう、お願い致します」

「どうしてクマか?」

 クマの疑問にエリザベスは、自分がこの先に進むと色々と不都合が生じる事を伝える。
 主に、クマ達の身の安全に関してといわれると、流石のクマも付いてきて欲しいとは言い出せない。
 何でも、この先にいる人物と出会えば、高確率でエリザベスとの戦闘に突入するのだとか。


 これまで見てきたエリザベスの強さを考えると、確かにその戦いに巻き込まれたら自分達は無事では済まないだろう。
 更にエリザベスは、この先にいる人物は今の自分よりも強いとクマに説明する。

「最後に、おクマ様に一つお訊ねしたい事が……」

 鏡の事が心配で今すぐにでも先へと進もうとするクマに、エリザベスが問い掛ける。

「自分にとって大切な人が、永劫という名の牢獄に囚われたとしたら、おクマ様はどうされますか?」

「そんなの決まっているクマ。ヨースケ達と一緒に、センセイを助け出しに行くクマ!」

 エリザベスの質問に、クマが即答する。
 クマの答えにエリザベスは微笑んで『ありがとうございます』と、クマにお礼を述べる。

「それでは私はこの辺りで。帰りは、この先にいる私の姉に頼めば大丈夫ですから」

 そう言って、エリザベスはクマに一礼すると手にする書物を開いて先ほどと同じように魔法陣を宙に展開する。

「また会えるクマか?」

「縁があれば、また何処かでお会いする事もありましょう」

 そう言い残し、エリザベスは魔法陣へ飛び込み、去っていく。
 それを見送ったクマは階段へと視線を向け、意を決して階段を上っていく。




 新たなペルソナを誕生させるために、意識を集中した鏡の隙を見逃すほど、マーガレットは甘い相手ではなかった。
 手にしたペルソナ全書を開き、マーガレットは新たなペルソナを召喚する。
 現れたのは、若武者の姿をしたペルソナ“ヨシツネ”だ。
 ヨシツネは両手に持つ小太刀を構えると、鏡に向かって襲い掛かる。


 鏡は閉じていた瞳を開くと、素早く右手を左右へと振る。
 その軌跡をなぞるようにアルカナが描かれたタロットカードが現れる。
 現れたタロットカードのアルカナは【法王】、【塔】、【皇帝】、【隠者】、【愚者】の五枚。
 カードが現れる度に、鏡の心に絆を結んだ相手の声が聞こえてくる。

『お前が居てくれて、忘れていた大事なモノを思い出すことが出来た』

 法王を司る、叔父の遼太郎。

『僕は結局、何一つ守る事が出来ていなかったんだね……』

 塔を司る、鏡から事実を聞かされ、力なく項垂れていた生田目太郎。

『これも全部、姐さんのおかげっス。ほんと、感謝しても仕切れねえっス!』

 皇帝を司る、後輩の真っ直ぐで不器用な完二。

『コーン!』

 隠者を司る、妙に人間っぽいキツネ。

『んじゃ約束だ、俺ら全員の約束。“一人では行かないこと”……危険だからな』

 そして、仲間達との絆である愚者。

「これは……!?」

 驚くマーガレットの眼前で、鏡の足下に巨大なタロットの絵柄が浮かび上がる。
 タロットが五芒星を描き、青く輝く魔法陣が現れると、その中から異形が姿を現す。
 現れた異形は、マーガレットが召喚したペルソナと同じ“ヨシツネ”だった。


 二体のヨシツネは、共に手にした小太刀を素早く振り払い、八つの斬線をぶつけ合う。
 一瞬で八回の斬撃を繰り出す物理系スキル【八艘飛び】の赤い斬線が、互いの斬撃を打ち消し合う。
 ぶつかり合った斬撃の衝撃波が二人を後方へと押し退け、間合いが開く。

「見事よ、鏡。新しい力を使えるようになったわね」

 マーガレットが鏡に称賛の言葉を贈る。
 衝撃波が巻き起こした砂塵が晴れ、マーガレットの視界に鏡の姿が見える。
 新たな力に覚醒した影響か、鏡の瞳が金色の輝きを放つ。
 今の鏡は瞳の色が変わったせいか、マーガレットとよく似た雰囲気を身に纏っている。

「人の身で、力を司る者である私と同じ領域に立つ……素晴らしいわ。あなたの可能性を、もっと見せて頂戴!」

 マーガレットはそう叫ぶと、新たにペルソナ全書からペルソナを召喚する。
 現れたのは三対・六枚の翼を持った麗人の異形ペルソナ“ルシフェル”で、頭上に金色に輝く球体を作り出す。
 それは【メギドラオン】を上回る威力を持つ、万能系最上位スキルの一つである【明けの明星】の作り出す破壊の光だ。

「鏡、倒れちゃ駄目よ」

 マーガレットの声に合わせ、ルシフェルの頭上で輝く光が特大の大きさに膨張する。

『センセイ! 負けちゃダメクマ!!』

 突然の声に、マーガレットの意識が声の主へと僅かに逸れる。

「クマ!?」

 鏡もマーガレットと同じように声の主へと視線を向け、居るはずのないクマの姿に驚きの声を上げる。
 驚く二人に構わず、クマは鏡に声援の声を送る。

    我は汝……、汝は我……

   汝、ついに真実の絆を得たり


    真実の絆……それは即ち

       真実の目なり

    今こそ、汝には見ゆるべし

  “星”の究極の力、“ルシフェル”の

    我が、内に目覚めんことを……

 鏡の脳裏に聞き慣れた声が聞こえてくる。
 クマからの深い信頼が、鏡の闘志を燃え上がらせる。


 鏡が再び手を振ると、新たなタロットカードが宙に現れる。
 現れたアルカナは、【法王】のカードが二枚と【塔】のカード。
 浮かび上がった魔法陣から現れたペルソナは、マーガレットが召喚したのと同じ“ルシフェル”だった。
 鏡の召喚したルシフェルは、明けの明星を相殺するべく同じ明けの明星をぶつける。
 先ほどとは比較にならない衝撃波が、周囲を薙ぎ払うように発生する。
 マーガレットは衝撃波に吹き飛ばされないように、身を低くして素早く次の攻撃を思考する。
 それよりも早く、衝撃波が巻き起こした砂塵を突き抜けてきた鏡がマーガレットに肉薄する。

「ヨシツネッ!!」

 鏡が召喚したヨシツネが、ゼロ距離で八艘飛びをマーガレットに打ち込む。
 流石のマーガレットも不意を突かれた上に、ゼロ距離からの八艘飛びを受け、その場に崩れ落ちる。

「……見事だったわ、鏡」

 肩で息をする鏡に、マーガレットがそう言って鏡を称える。
 マーガレットはペルソナ全書を開くと、右半身が男神で左半身が女神の姿をしたペルソナ“アルダー”を召喚する。
 アルダーから発せられた癒しの光で、マーガレットと鏡の傷が完治する。

「センセイ、無事クマか!?」

 衝撃波で吹き飛ばされたクマが駆け寄り、鏡の無事を確認する。

「大丈夫だけど、それよりもどうしてクマがここに?」

 戸惑った様子で鏡がクマに訊ねる。
 鏡の質問に、クマがこれまでの経緯を説明する。
 クマの説明を鏡と共に聞いていたマーガレットは、クマをここに連れてきたのがエリザベスだと知り、驚きの表情を浮かべる。

「……そう、あの子が」

 クマの説明を聞き終えたマーガレットが感慨深げに呟く。
 その様子に鏡がマーガレットにエリザベスの事を訊ねると、マーガレットは以前エリザベスが自身に語った“おとぎ話”を話す。
 それは、世界の果てに自らを封印のくびきにして、世界を自滅へと誘う事を身を挺して防いでいる、孤独な魂の物語。
 エリザベスはその魂を救い出すのだと言って、ベルベットルームを去ったらしい。

「そう言えばクマ、別れ際に聞かれたクマ」

 そう言って、クマはエリザベスから受けた質問の事を鏡達に話す。

「そう……あの子がそんな事を。あの子もきっと……今の私と同じ事に気付いたんだわ」

 そう呟き、マーガレットはエリザベスと同じく一つの答えを得た。
 自身が何者かを捜し続ける限り“何者でもない”という事を。

「あなたを助けるつもりが、私が救われるなんて……ありがとう、鏡。これは敬意の証よ、受け取って頂戴」

 そう言って、マーガレットが鏡に手渡した物は、精緻な細工が施された“螺鈿細工のしおり”だった。

「鏡、いまのあなたなら、どんな障害も越えていけるわ。この先、限界を感じ、壁を越えられないと思ったら、それは甘えよ」

 マーガレットは鏡にそう言うと、挫けそうになったら、今日の勝利を思い出しなさいと告げる。

    我は汝……、汝は我……

   汝、ついに真実の絆を得たり


    真実の絆……それは即ち

       真実の目なり

    今こそ、汝には見ゆるべし

   “女帝”の究極の力、“イシス”の

    我が、内に目覚めんことを……

 直後、鏡の脳裏に再び声が響く。

「センセイ。クマ、センセイに話さないといけない事があるクマ」

 思い詰めた様子で、クマが鏡に話し掛ける。
 クマが鏡に語ったのは、自分の正体が自我を持ったシャドウであったという事実。
 人に好かれたくて今の姿になり、人と共にあるために自分自身でシャドウである事を忘れていた事。
 そして、鏡が命を落としたのは自分のせいであり、もう自分は皆とは共にいられない事を鏡に告げる。

「クマ、菜々子ちゃんとの約束を破るの?」

「それは……クマのせいでセンセイを死なせてしまったから、ナナちゃんに合わせる顔がないクマよ……」

 鏡の指摘に力なくクマが反論する。

「私もマーガレットさんに聞かされて驚いたけど、厳密にはまだ、私は死んではいないのよ」

 鏡から聞かされた事実にクマが驚く。
 そんなクマに鏡は『でなければ、ここに居る私は幽霊になっちゃうでしょ?』と、戯けた様子で話す。
 鏡に言われて、確かにその通りだと気付いたクマが涙ぐみながら鏡の無事を喜ぶ。

「だからクマ、私と一緒に皆の元に戻りましょう」

「でも、クマはシャドウクマよ……皆と一緒に居ちゃ行けない存在クマよ……」

「いいえ、あなたはもうシャドウでは無いわ」

 鏡の言葉に、自身の成り立ちを挙げ反論するクマの言葉をマーガレットが否定する。
 たとえ元はシャドウだったとしても、自我を持ちペルソナを扱う事が出来るクマは、すでに一つの個人であるとマーガレットが指摘する。
 その言葉に鏡も同意し、これまでも一緒に過ごせてきたのだから、これからも一緒に生きていく事が出来るとクマを説得する。

「クマは、皆と一緒に居ても良いクマか……?」

 クマの言葉に鏡が頷くと、さっきのクマの声援で自分が力付けられたと話し、クマにしか出来ない事があるはずだと断言する。
 その言葉に元はシャドウの自分でも出来る事があるのだと理解し、シャドウだから皆と居られないと思い込むのは駄目だとクマは気付く。

――その瞬間

 クマの身体から青い光の粒子が溢れ出し、クマのペルソナが現れる。
 現れたキントキドウジからも青く輝く光の粒子が噴き出し、その姿を変える。
 ヒョロリとした手足は太くなり、両手には黄金の爪が生えており、抱えていたミサイルは尻尾のように揺らめいている。
 クマの心の成長が、キントキドウジを新たな姿“カムイ”へと転生させる。

「これは……!?」

 驚くクマに、マーガレットが心の成長がもたらした可能性だと告げる。
 ペルソナは心の力。心の力が強くなれば、それに応じてペルソナもその姿を変える事があると、マーガレットが説明する。
 シャドウは基本、成長する事がない。
 この事実は、クマがもうシャドウとは違う存在だという、紛れもない証明となる。

「それに、まだクマとの約束は果たしていないわ」

 自身がシャドウとは違う存在になった事実に喜ぶクマに、鏡がそう話す。
 雪子達をテレビに入れたのは間違いなく生田目だが、一番最初の山野アナは、別の誰かの犯行だと鏡がクマに伝える。
 事件解決の為にはクマの協力が必要なのだと鏡はクマに話し、その言葉にクマはまだ、自分にはやり残した事があるのだと理解する。

「クマ、皆の元に帰らなきゃ」

 鏡の言葉にクマがそう呟くと、マーガレットが手にしたペルソナ全書を開く。
 エリザベスの時と同様、宙に青く輝く転送用の魔法陣が浮かび上がる。
 このゲートを通れば、テレビの中の広場に出るとマーガレットが伝える。
 鏡は別の手段で戻さないと駄目だそうで、クマはゲートを使い先に戻るようにと、マーガレットが伝える。

「それじゃ、センセイ。先に戻るクマね」

 そう言って、クマは魔法陣をくぐり戻っていく。
 それを見送った鏡にマーガレットが声を掛ける。

「鏡、あなたの新しい力は使い方一つで強力な切り札になる反面、身体に掛かる負担はこれまでの比じゃないから、多用は控えなさい」

 マーガレットの指摘通り、二回使っただけで、普段の何倍もの疲労を鏡は感じていた。
 使い続けていく内に徐々に慣れるとの事だが、それまでは確かに多用は禁物だろう。

「それから、あなたの力の源は他者との絆よ。決して、全てを一人で解決しようとは思わないで」

 その言葉には、鏡を気遣うマーガレットの心情が伺える。
 鏡自身も先ほどクマに言った通り、マーガレットと戦っていた間、絆を結んだ皆の声に力付けられていた事を思う。
 ペルソナは心の強さに左右され、心の強さは他者との絆の深さが大きく影響する。
 自分は一人ではない。その事を鏡は再認識すると共に、人は独りでは生きていけないのだと実感する。

「マーガレットさん、色々とありがとうございました」

 大切な事に気付かせてくれたマーガレットに鏡は礼を述べる。
 そんな鏡にマーガレットは微笑みを返すと、魂を元の世界に戻すので、瞳を閉じて心を落ち着けるように告げる。

「それじゃ、今度はベルベットルームで会いましょう」

 その言葉を最後に、鏡の意識が眠りに落ちるような感覚で遠退いていく。
 鏡が元の世界に戻るのを見送ったマーガレットは、先ほどクマから聞かされた話を思い出していた。

(本当はあの子を連れ戻そうと思っていたけれど、自らの願いのために出て行ったあの子を連れ戻すのは、間違いのようね……)

 妹がそこまで想いを寄せる人物に、マーガレットは強く興味を引かれる。
 エリザベスの叶えたい願いは途方もない事だが、幸い自分達“住人”にとっては時の束縛は緩やかだ。
 例え、一つの時代では時が足りなくとも、エリザベスは必ずやり遂げる事だろう。
 そんな事を思いながら、マーガレットは本来の職務に戻るため、深層モナドを後にする。




 鏡が意識を取り戻すと、病院の白い天上が目に映った。

「センセイ! 気が付いたクマね!!」

 その声に、鏡が視線を声のした方へと向けると、目に涙を浮かべたクマが嬉しそうな表情で鏡を見ていた。

「……ク、マ?」

 掠れた声で鏡がクマを呼ぶと、クマは担当の医師を呼んでくるからと言って病室を後にする。
 一人残された鏡が身体を動かそうとすると、まるで自分の身体では無いかのような感覚に鏡が眉をひそめる。


 暫くしてクマが連れてきた担当の医師からの説明によると、心肺停止状態から蘇生してから三日間ずっと眠っていたそうだ。
 どおりで身体が上手く動かないはずだと納得する鏡に、担当の医師が鏡の身体の状態を説明していく。
 原因不明の状態で心肺停止してからの蘇生なので、今暫くは経過を見る必要があるそうだ。

「それから、全体的に筋力も低下しているので、リハビリの必要もありますね」

 医師の説明にどれくらいの時間が掛かりそうかを訊ねると、様子を見てからと前置きして一週間くらいは掛かるだろうと説明される。
 取り敢えず、今は安静にしておく事と医師は鏡に話すと、鏡が意識を取り戻した事を遼太郎に連絡するからと言って病室を後にする。

「ヨースケ達にはクマから連絡しておくクマね」

 また後で来るクマと言って、ヨースケ達に連絡するためクマが病室から出て行く。
 それを見送り、鏡は天上を見上げると、自分が眠っていた間の事を聞いた上で、今後の事を皆と相談しなければと考える。
 未だ身体に残る疲労感に鏡は瞳を閉じると、再び眠りにつくのであった。




――次回予告――


 少女が無事蘇生した事を喜ぶ仲間達
 自身が眠っていた事を聞かされた少女は今後の事を思う

 事件は未だ終わらず、真犯人は未だ影すら見せず……

――けれども、彼らは諦める事なく真実を求める

 それぞれが心に誓いを抱いて


 次回、PERSONA4 PORTABLE~If the world~

     誓いと決意

――その想いは、新たな力となって――




2012年09月19日 初投稿
2014年06月27日 誤字修正


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