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No.26454の一覧
[0] PERSONA4 PORTABLE~If the world~ (もしも番長が女だったら?) ペルソナ4再構成[葵鏡](2015/04/15 09:13)
[1] 【習作】PERSONA4 PORTABLE~If the world~[葵鏡](2014/06/27 00:21)
[2] 転校生[葵鏡](2014/07/22 03:57)
[3] マヨナカテレビ[葵鏡](2014/06/27 00:23)
[4] もう一人の自分[葵鏡](2011/04/15 22:00)
[5] ベルベットルーム[葵鏡](2014/06/27 00:24)
[6] 雪子姫の城[葵鏡](2014/06/27 00:25)
[7] 秘めた思い[葵鏡](2011/06/04 08:51)
[8] 秘めた思い 【千枝】[葵鏡](2012/08/06 08:13)
[9] 籠の鳥 【前編】[葵鏡](2011/06/04 08:52)
[10] 籠の鳥 【後編】[葵鏡](2011/06/04 08:54)
[11] コミュニティ[葵鏡](2011/04/16 16:45)
[12] 【幕間】 菜々子の調理道具[葵鏡](2011/05/20 15:14)
[13] ゴールデンウィーク[葵鏡](2011/04/22 15:50)
[14] 迷走[葵鏡](2011/04/29 10:02)
[15] 熱気立つ大浴場[葵鏡](2011/06/14 22:12)
[16] 男らしさ、女らしさ[葵鏡](2011/05/10 18:55)
[17] 林間学校[葵鏡](2011/05/14 17:33)
[18] 虚構と偶像[葵鏡](2011/05/26 16:13)
[19] 特出し劇場丸久座[葵鏡](2011/06/11 01:37)
[20] 覚醒する力と新たな目覚め[葵鏡](2014/07/10 01:05)
[21] 齟齬と違和感  6月22日 お知らせ追加[葵鏡](2011/06/22 09:39)
[22] 思いがけない進展[葵鏡](2011/06/26 09:41)
[23] ボイドクエスト[葵鏡](2011/07/13 02:24)
[24] ひとまずの解決[葵鏡](2011/07/19 20:52)
[25] 探偵の憂鬱[葵鏡](2011/07/31 10:07)
[26] 三人目の転校生[葵鏡](2011/08/14 09:27)
[27] 修学旅行[葵鏡](2011/08/22 09:21)
[28] 【幕間】 お留守番[葵鏡](2011/10/10 07:24)
[29] 意地と誇り[葵鏡](2011/10/30 23:50)
[30] 秘密結社改造ラボ[葵鏡](2011/11/30 13:22)
[31] 最初の一歩[葵鏡](2011/11/30 13:24)
[32] 光明[葵鏡](2011/12/15 06:10)
[33] 父と子と[葵鏡](2012/01/10 17:33)
[34] 菜々子の誕生日[葵鏡](2012/03/04 00:24)
[35] 暗雲[葵鏡](2012/07/16 18:06)
[36] 脅迫状[葵鏡](2012/03/10 07:52)
[37] 文化祭 前編[葵鏡](2012/04/15 20:20)
[38] 文化祭 後編[葵鏡](2012/05/25 20:18)
[39] 陽介の文化祭 前編[葵鏡](2012/11/06 22:14)
[40] 陽介の文化祭 後編[葵鏡](2012/11/06 22:16)
[41] 天城屋旅館にて[葵鏡](2012/05/25 20:16)
[42] 忍び寄る影[葵鏡](2012/06/16 16:22)
[43] 天上楽土[葵鏡](2014/06/27 00:33)
[44] 救済する者、される者[葵鏡](2014/06/27 00:35)
[45] 彼女が去った後で[葵鏡](2014/06/27 00:41)
[46] 想いの在処[葵鏡](2014/06/27 00:41)
[47] 誓いと決意[葵鏡](2014/06/27 00:43)
[48] 繋いだ絆の輝き[葵鏡](2014/06/27 00:49)
[49] 真犯人[葵鏡](2014/06/27 00:52)
[50] 禍津稲羽市[葵鏡](2014/07/28 16:12)
[51] アメノサギリ[葵鏡](2015/01/25 09:33)
[52] 飛翔、再び[葵鏡](2015/04/15 09:11)
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[26454] 菜々子の誕生日
Name: 葵鏡◆3c8261a9 ID:f4f8d2eb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/04 00:24
――――自身の弱さを認める事が出来た今こそ

 ちゃんと向き合い、伝えなければならないと思う

         例えそれが

   あの子を悲しませる結果になろうとも……





 遼太郎に秘密を打ち明けて数日が経った。
 最初の事件から調べ直しているため、新しい情報はまだ入ってこないが、遼太郎の協力を取り付けたのは大きい。
 新たな情報が入るまで、鏡達もこれといった動きは起こさず、地力を上げるために向こう側で修行を行うくらいしかない状況だ。

「そう言えば、そろそろ菜々子ちゃんの誕生日だよね」

 向こう側から戻ってきたところで、千枝がそう呟く。
 菜々子自身は誕生日を祝ってもらえるだけで嬉しいと言っていたが、やはりプレゼントを贈ってあげたいと思う。
 その思いは皆が共通しており、何を贈ろうかと皆で相談する。

「姉御、菜々子ちゃんが好きなモノとかって何か心当たりはないか?」

 陽介の質問に鏡は菜々子が好きなモノを思い返してみる。
 菜々子は嫌いなモノが少ないので、何を贈っても喜んでくれそうだが、ここ最近で何か気に入ったモノは無かっただろうか?

「あ、そう言えば……」

「何か思いついた?」

 雪子の質問に、同じテニス部の紫から、以前もらったマンガを菜々子に見せたところ、気に入っていた事を話す。
 それは確か……

「魔女探偵ラブリーンっていうマンガなんだけど」

「あ、それ知ってる。アニメにもなってる奴だよね?」

 りせの言葉に、直斗がキャラクターグッズが幾つか販売されている事を挙げると、陽介がおもちゃ売り場に幾つか商品がある事を伝える。
 取り敢えず、どんなモノがあるのか見てみようという事になり、鏡達はおもちゃ売り場へと移動する。


 おもちゃ売り場には陽介の言うとおり、いくつものラブリーン関連の商品が売られている。
 おもちゃではないが、ラブリーンの描かれた傘なども売っているようだ。

「何これ、高ッ!? 八千円もするの!?」

 値札を見た千枝が驚きの声を上げる。
 確かに、キャラクターのイラストが入っただけの傘にしてはかなりの高額だ。

「千枝、傘に小道具も付いた金額みたいだよ。ほら、サンプルが置いてある」

 そう言って、雪子が隣の棚に飾られているシルクハットを被り、モノクルを付けた犬をかたどった虫眼鏡を手に取ってみせる。
 手元のスイッチを押すことによって、記録されている劇中の台詞が流れる仕組みのようだ。

『蜂の巣にされたいか!』

 試しにスイッチを押したところ、渋い声で物騒な台詞が飛び出す。

「おいおい、これって子供向けのおもちゃだよな? 何でこんな物騒な台詞が飛び出すんだ?」

 陽介が呆れた表情で呟く。
 完二も同様に呆れた様子を見せているが、雪子は逆に気に入ったのか、スイッチを押して嬉しそうな様子で台詞を楽しんでいる。

「それだけでないようですね。傘に付いている方だけ劇中と同じく伸ばす事が出来るようですよ」

 説明書きを読んだ直斗がそう言うと、雪子から虫眼鏡を渡してもらい広い場所で横に振ると、虫眼鏡の持ち手が瞬時に伸びる。

『我が輩を太陽に翳すのだ!』

「へぇ、良くできていますね。ちゃんと音声も再現されるんだ……」

 雪子同様、直斗も感心した様子で虫眼鏡を元の状態へと戻す。
 どうやら単体で売られている商品とは異なり、内蔵されている音声やギミックの種類が豊富なため高額になっているのだろう。
 これは傘の値段と言うよりも、付属の虫眼鏡の単価と考えた方が良さそうだ。

「……直斗、お前やけに詳しいな」

「えっ? いや、そこにある説明を読んだだけですよ」

 完二の指摘に直斗が視線を泳がせる。

「さては直斗……お前、実は見てるんだろ? 意外と子供っぽいよな」

「えっ? 結構面白いよ、ラブリーン」

 直斗の様子を見て陽介がからかうと、意外な事に雪子が反論を返した。

「天城さん? まさか、毎週見ている口なんじゃ……」

「家の手伝いがあるから、録画して見てるけど、それがどうかしたの?」

 唖然とした様子で問い掛ける陽介に、不思議そうな表情で雪子が答える。

「そういや以前、雪子に進められて見た事があるけれど、ありゃ確かに雪子好みだわ……」

 雪子の答えに唖然とした様子を見せる陽介や完二とは違い、千枝がしみじみと呟く。

「だって、あの番組、主人公の魔法で毎回トラブルが起きるんだよ」

 そう言うと、雪子は内容を思い出したのか笑いを必死に堪えている。
 どうやら雪子の笑いのツボを刺激する番組のようだが、何処か外れた雪子の感性に千枝が呆れた様子を見せている。

「僕としては、突拍子もない謎の解明が不思議でつい……」

「なんだ。結局、直斗も見てるんじゃない」

 雪子の言葉を継いだ直斗に、りせが突っ込みを入れる。
 りせの指摘に直斗は顔を赤くすると、しどろもどろになる。
 普段の理路騒然とした様子しか見せない直斗の意外な一面に、鏡は表情を綻ばせる。

「あ、こっちにはラブリーン変身セットなんて物があるよ」

 他の商品を見ていた千枝が鏡達に声を掛ける。
 一種のコスプレ商品といった物で、これを着て虫眼鏡を持てばラブリーンになれるといった主旨の商品だ。
 他にはフェザーマンの変身セットと言う、類似商品も置かれている。

「なんつうか、最近のおもちゃは凝った物が多いんだな……」

 感心と呆れ半々といった様子で、陽介が他の商品を手にとって呟く。
 細かいギミックや凝った造形など、おもちゃと一言で片付けられないほど良くできている。
 その分、値段もそれなりにするのは仕方がないとしても、子供のおもちゃと侮れない出来映えだ。

「けど、姐さん。この変身セット、生地があまり良くないから、買うくらいなら俺が作るっスよ?」

 展示されている衣装を手に取った完二が鏡に話し掛ける。
 素人目には良く出来ているように見えても、完二の目から見ると仕立てが甘く見えるようだ。

「え? 完二、服とか作れるの!?」

 完二の言葉にりせが驚きの声を上げる。
 以前、巽屋で巾着袋を作っている姿を見ている鏡達はそうでもないが、りせからすると意外に見えたのだろう。

「どうせ意外だと思ったんだろうけどよ、見た目で人を判断すんのは良くねえぞ」

 驚くりせに対して完二は怒る素振りは見せず、逆にりせを窘める。
 それは、以前の完二だと見られない姿だ。
 鏡に指摘された事を完二なりに受け入れた結果なのだろう。


 林間学校以来、幾人かの女生徒が完二に話し掛けてくるようになった事も、完二にとって良い方向に影響したと思われる。
 社交的、とまではいかないが、それなりに上手くやっている事を、鏡は下級生の女生徒達から聞いて知っているのだ。
 林間学校以降、完二と上手く話すにはどうすれば良いのかを、下級生達からの相談に乗っていたのがその理由だ。

「以前、菜々子ちゃんと一緒に巾着袋の作り方を教わったのだけど、教えるのも凄く上手だったよ」

「や……ありゃ、姐さんや菜々子ちゃんの筋が良かっただけっスよ」

 鏡の褒め言葉に完二が慌てて訂正する。
 褒められる事に慣れていないせいか、完二は褒められると照れて挙動が怪しくなる事が多い。
 強面な見た目のせいで損をしている事の一つでもある。
 それでも、最近は親しい相手の前ではそれほどの挙動不審にならなくなっては来ているのだ。
 これも場数を踏んで慣れていくしか無いだろう。
 もっとも、一部の女生徒の間では、こういった完二の姿を『可愛い』と受け取っているようなので、どちらが良いか一概には言えない所だが。

「それじゃ、衣装の作成をお願いしても良いかな? 布代とかは出すから」

「いや、これは俺からのプレゼントって事で俺に任せて欲しいっスよ。ただ、出来れば服のサイズを教えて貰えたら助かるっス」

 鏡の申し出に完二はそう答える。

「だったら、ちょっと場所を移動しても良いかな? 菜々子ちゃんの服のサイズだったら、採寸して貰ったばかりだから」

 鏡はそう言うと皆の同意を得てから場所を移動する。

「鏡、採寸って以前、菜々子ちゃんの服を買いに行ったお店?」

 思い当たる節があったので、千枝が鏡に問い掛ける。
 千枝の問い掛けに鏡は頷くと、数日前に菜々子が新商品の広告撮影をした事を話す。
 その時に衣装の寸法直しのために菜々子の採寸をしたので、そちらで教えてもらった方が良いだろうと説明する。

「あら、いらっしゃい。今日はどうしたの?」

 鏡に気付いた瑞紀がそう言って店の中からやって来た。

「こんにちは、瑞紀さん。実は瑞紀さんにお願いがありまして」

 そう言って、鏡は瑞紀に菜々子の誕生日プレゼントの件を説明し、衣装を作るために採寸した菜々子のサイズを教えて欲しいとお願いする。
 鏡の説明に瑞紀は快く了承するとスタッフルームへと戻っていく。
 暫くして、大きめの封筒を持った瑞紀が戻ってきた。

「このままじゃ使えないけれど、メモと一緒に型紙も入れておいたから、少しは作業が楽になると思うわよ」

 そう言って手渡された封筒の中身を確認すると、確かにいくつもの型紙が入っていた。
 型紙が幾つもある理由を瑞紀に訊ねてみたところ、今度また菜々子にモデルの依頼をする機会があった時の為だそうだ。

「あ、そうそう。鏡ちゃん、広告が完成したから郵送しようと思っていたのだけど、今持って帰る?」

 その言葉に鏡は頷き、出来上がった広告を見せてもらう事にする。
 瑞紀から手渡された広告を、鏡は陽介達にも見せる。

「わ、菜々子ちゃん可愛い! これ、この前に菜々子ちゃんが着ていたヤツだよね?」

 出来上がった広告を見て、りせが感嘆の声を上げる。
 りせの言葉に雪子も『本当だ』と呟くと、瑞紀から貰った物だと鏡が説明する。
 鏡達のやりとりで、菜々子が渡した服を着てくれている事を知った瑞紀が嬉しそうな様子を見せている。
 やはり、服は大事に保管されるよりも着てもらった方が嬉しいのだろう。
 帰りに今度新しいのが出来たら、菜々子にモデルをお願いするから宜しくねと言われて鏡達は店を後にする。

「菜々子ちゃん、随分と気に入られたみたいだね」

 雪子の言葉に鏡は頷くと、遼太郎にモデルの件を伝えなくてはと話す。
 一端フードコートへと移動した鏡達は、軽く腹ごなしをしながら菜々子への誕生日プレゼントについて相談し合う。

「取り敢えず、これは叔父さんにも相談しないと駄目かもね」

 ある程度のプレゼントは絞れたが、虫眼鏡とセットの傘は金額が金額なので、遼太郎にも相談した方が良いと判断した鏡がそう呟く。

「だったら、いっその事、俺ら全員でお金を出し合って購入すれば良いんじゃないか?」

 鏡の呟きに陽介が提案する。
 個別に渡すプレゼントとは別に、皆でまとめてプレゼントを贈ったら駄目という訳じゃ無いからと言うのが陽介の言い分だ。
 陽介の言葉に鏡は少し考える素振りを見せる。

「それも悪くはないのだけど、叔父さんから個別のプレゼントを貰えたら、菜々子ちゃんが喜ぶんじゃないかなって思ったの」

 その説明に、陽介達は刑事という職業柄、菜々子にあまり構ってあげられない遼太郎の事を思う。
 不器用ながらも菜々子を大切にしている遼太郎が、今回の事を切っ掛けに、菜々子との距離を縮める事が出来れば。
 陽介達も鏡と同じ思いを抱く。
 父親である遼太郎個人からのプレゼントの方が、菜々子もきっと喜ぶだろう。
 鏡が居るとはいえ、菜々子は独りで留守番をする事が多い。
 そんな菜々子の事を遼太郎や鏡だけでなく、陽介達も大切だと思っているのだ。

「そっか。じゃ、堂島さんの返事待ちで、俺達もそれぞれ何か見繕うって方向で良いか?」

 陽介の提案に皆が頷くと、鏡は陽介に我が儘を言って済まないと謝る。
 しかし、陽介は鏡の言葉に『菜々子ちゃんが一番喜んでくれる事が大事だからさ』と笑って答える。
 千枝達も笑って『鏡は気を遣いすぎ』と、自分達も陽介と同じ意見である事を伝える。

「皆、ありがとう」

 千枝達の言葉に、鏡は笑みを浮かべてお礼を述べる。

      我は汝……、汝は我……

      汝、絆の力を深めたり……


  絆を深めるは即ち、まことを知る一歩なり


   汝、“愚者”のペルソナを生み出せし時

     我ら、更なる力の祝福を与えん

 何度も聞いた言葉と、その度に心を満たしていく力。
 陽介達個人との間に結ばれた絆もそうだが、こうして深まっていく絆の力が、鏡自身のペルソナの力へと繋がっていく。


 以前、イゴールが言っていた言葉を思い出す。
 ワイルドの力は空っぽに過ぎないが、無限の力を秘めている。
 その言葉が示す通り、他者との絆によって器が満たされ力を付けていっている。
 このまま絆を強めていき、器が満ちた時。
 自身のペルソナ能力はどのような変貌を遂げるのか?


 今さらながらに、鏡は自身のペルソナ能力の事について、深く考えてなかった事に気付く。
 事件を追い掛けていた事で、そこまで気が回らなかった部分もあるが、そのまま放置という訳にもいかない。
 今度、イゴール達に聞いてみようと鏡は決める。

「じゃ、クマのヤツには俺から言っておくから」

 そう言って、朝からバイトでここには居ないクマに、陽介が菜々子への誕生日プレゼントの事を連絡しておくと話す。
 ある程度の事は決まったので、後は遼太郎からの返事待ちという事で今日の所は解散する事にする。
 鏡はいつものように食材を買って帰る為、食品売り場へと移動する。
 衣装を作ると決めた完二も、生地の見繕いがあるからと急いで帰宅し、陽介はこれからバイトという事で鏡と共に食品売り場へと向かう。
 千枝と雪子はりせと直斗を伴って、菜々子に渡す個人的なプレゼントをもう少し見て回るそうだ。


 陽介の薦めで秋鮭ときのこの炊き込みご飯を作る事に決める。
 使用する秋鮭の切り身は陽介が薦めるだけあって、身もしまって弾力があり色つやも良い。
 鏡はその中から皮と身が離れていない物を選び、一緒に炊き込むきのこ類も良い物を選んでいく。
 おかずは出汁巻き卵にほうれん草のお浸し、豆腐とワカメの味噌汁の予定だ。
 豆腐はいつものように、丸久豆腐店に寄って購入する事にする。

「鏡ちゃん、いらっしゃい。りせと一緒じゃ無かったのかい?」

「今晩は、シズおばあちゃん。りせちゃんは千枝達と一緒に、菜々子ちゃんへの誕生日プレゼントを見て回っていますよ」

 出迎えてくれたシズの質問に答えた鏡は、木綿豆腐と絹ごし豆腐を購入する。

「鏡ちゃん、これを持ってお行き」

 買い物を済ませた鏡にシズはそう言うと、普段は売っていない豆乳を鏡に手渡す。
 驚く鏡にシズは『ちょっと早いけれど、菜々子ちゃんへの誕生日プレゼントだよ』と笑顔で説明する。
 りせが手伝ってくれるようになって、常連客にしか販売していない豆乳を手渡された鏡は、お礼を述べると店を後にする。




 帰宅した鏡を菜々子がいつものように笑顔で出迎える。
 鏡は菜々子に、シズから誕生日プレゼントに豆乳を貰ってきた事を伝えると、今度シチューかグラタンでも作ろうかと提案する。
 菜々子は鏡の提案に『シチューが良い!』とリクエストすると、誕生日会の時に作る事を約束する。
 手を洗い鏡は菜々子と晩ご飯の支度に取り掛かる。
 秋鮭は丁寧に骨を取り除き、一口大のそぎ切りにしておき、しめじは根本を切り落とし、まいたけと共に小房に分ける。
 えのきだけは根本を切り落として三等分にし、青ネギを小口切りにする。

「お姉ちゃん。木綿豆腐と絹ごし豆腐、両方使うの?」

「絹ごし豆腐は別のに使うから、木綿豆腐の方でお願いね」

 味噌汁を任された菜々子の質問に鏡はそう答えると、絹ごし豆腐を別の場所へと置き作業へと戻る。
 炊飯器に研いだ米と水を入れ、醤油と酒をそれぞれ大さじ一杯ずつ入れ、具を取り除いた松茸のお吸い物を香り付けに入れる。
 それらを混ぜた後に表面を平らにした上に秋鮭ときのこ、青ネギを乗せて炊き始める。


 菜々子が味噌汁を作っている間に、鏡は先にほうれん草のお浸しを作り始める。
 作り置きしてあるカツオ出汁と薄口醤油、みりんで浸し地を作ってから、ほうれん草を下ゆでし、色が悪くならないように冷水で冷ます。
 完全に冷めたところで軽く絞りまな板にのせ、食べやすい大きさに切ってからきつく絞ってバットに並べていく。
 並べ終えたところで浸し地を注ぎ入れ、菜箸で軽くほぐして味が染み込みやすくしてから冷蔵庫に入れる。


 ご飯が炊き上がるのとお浸しが出来る少し前に、味噌汁作り終えた菜々子が出汁巻き卵を作る。
 分量を量った薄口醤油、砂糖、カツオ出汁を卵と一緒に入れ、白身を切るように軽く混ぜる。
 卵焼き用のフライパンを熱し、やや多めにサラダ油を敷き、溶いた卵の大半を一気に流し込み、大きく混ぜる。
 半熟状態になったところで一度寄せ、卵焼きの形に整えて一度ひっくり返す。
 そこに残った卵を注いで、薄く衣状にして半熟状態の卵を巻いていく。


 菜々子が出汁巻き卵を仕上げている間に、鏡は炊き上がったご飯の秋鮭をほぐし、ご飯全体を軽く混ぜてから茶碗によそっていく。
 その後に冷蔵庫からほうれん草のお浸しを取り出し器に盛りつけてから残りの浸し地を掛ける。
 出汁巻き卵を切り分け、器に盛りつけた菜々子はおみそ汁を椀によそってそれぞれをちゃぶ台へと運ぶ。


 晩ご飯が出来上がったところで遼太郎が帰宅し、いつものように『いただきます』と唱和してから食事を摂る。

「そう言えばお姉ちゃん、あの絹ごし豆腐は何に使うの?」

 菜々子がふと疑問に思った事を鏡に訊ねる。
 鏡は菜々子に微笑むと、『後のお楽しみ』と答えてはぐらかす。
 食事を摂り終え、菜々子と食器を洗い終わった鏡は絹ごし豆腐の他に、メープルシロップ、レモン、片栗粉、グラノーラ取り出す。

「叔父さん、コーヒーを使わしてもらいますね」

「ん? 構わんが、コーヒーを飲むのなら淹れるのは俺の仕事だぞ?」

「いえ、飲むのではなくてグラノーラを浸してふやかすんです」

 遼太郎にそう答えた鏡は許可をもらい濃いめのブラックと少量の砂糖を加えた物の二つを作り、その中にグラノーラを浸す。
 コーヒーに浸してグラノーラがふやけるのを待つ間に、絹ごし豆腐とメープルシロップ、片栗粉、搾ったレモン果汁を小鍋に入れる。
 メープルシロップとレモン果汁はそれぞれ大さじ一で、片栗粉は小さじ三分の二。


 小鍋に入れた絹ごし豆腐をフォークで崩しながら混ぜ、ある程度に形が崩れたところで小鍋を火に掛け温めていく。
 木べらで練りながら加熱していき、軽く沸騰してきたところで火を止める。

「お姉ちゃん、これは?」

「豆腐で作ったティラミスだよ。お風呂から上がる頃には出来ると思うから、後で一緒に食べようね」

 不思議そうに訊ねる菜々子に鏡がそう答えると、瞳を輝かせた菜々子が嬉しそうに笑みを浮かべる。
 そんな菜々子に鏡は『作り方は簡単だから、今度は菜々子ちゃんも一緒に作ろうね』と、菜々子と約束を交わす。


 コーヒーでふやけたグラノーラの状態を確認した鏡は、ガラスコップに絹ごし豆腐、グラノーラの順で交互に入れていく。
 甘いのがそれほど好みでない遼太郎の分は濃いめのブラックコーヒーでふやかしたグラノーラだ。
 菜々子と自分の分と一目で分かるように、遼太郎の分は大きめの器に入れて作りあげる。
 容器に入れ終わり、粗熱が取れたところでラップをして冷蔵庫に入れる。


 出来上がるまだの間、鏡は菜々子と一緒にお風呂へと入る。
 いつものように菜々子からその日にあった出来事を聞きながら、ゆっくりと身体を温める。
 お風呂から上がると、湯冷めをしないように菜々子の髪を乾かしてから、自身の髪も乾かす。
 冷蔵庫に入れておいたティラミスの出来具合を確認し、頃合いだと判断するとココアパウダーを振り掛けて最後の仕上げを施す。

「思ったほど甘くなくて食べやすいな。知らずに食べたら、これが豆腐から出来ているとは思えないな」

「お姉ちゃん、美味しいよ!」

 豆腐ティラミスを食べた二人がそれぞれ感想を述べる。
 なめらかな舌触りと、クリームチーズや生クリームに勝るとも劣らないまろやかな味に二人からの評判は良さそうだ。
 多様な調理が出来る鏡に遼太郎が、作り方をよく知っていたなと感心すると、鏡は以前に読んだ雑誌に書いてあった事を話す。
 元々は母親の手解きで覚え始めた事だが、鏡の性に合っていたのだろう。
 今ではかなりの数のレパートリーになり、今なおその種類を増やしている。

「叔父さん。菜々子ちゃんの誕生日プレゼントの件で、お話があるのですが」

 デザートを食べ終えた後で使った食器を洗い、菜々子と歯磨きを済ませた鏡は、菜々子を寝かし付けた後で遼太郎に声を掛ける。
 遼太郎に今日の出来事を話し、特典付きのラブリーンの傘を菜々子への誕生日プレゼントにどうかと薦めてみる。

「お前には本当に気を遣わせてばかりだな……」

 鏡の申し出に遼太郎はそう言葉を零すと、財布から一万円札を取り出して鏡に手渡す。

「本当なら俺が買いに行くべきなんだが……すまんが、お前達の分と一緒に買ってきてくれ。あぁ、それと釣りは取っておけ」

 遼太郎の言葉に鏡はそう言うわけにはいかないと答えると、遼太郎はだったら誕生日会に使う食費に使ってくれと言い換える。
 その言葉から、どうあってもお釣りを受け取る気がない事を察した鏡は、有難く使わせてもらう事にする。
 鏡は遼太郎に『お休みなさい』と挨拶をすると自室へと戻り、陽介達にメールを送信する。
 メールは遼太郎がお金を出してくれて、特典付きの傘を購入する事を知らせる簡素な内容だ。


 メールを送信して少しすると、皆から了承の返事が返ってくる。
 内容を確認していると、携帯電話から着信音が鳴り響き、ディスプレイで相手を確認すると陽介からだった。
 鏡は携帯電話を通話状態にすると陽介にどうかしたのかと訊ねる。

『なぁ、姉御。小西先輩も、菜々子ちゃんの誕生日会に誘っても良いか?』

「それは構わないけれど、私の方から声を掛けた方が良い?」

『いや、俺が言い出したから、俺の方から小西先輩に話を通すわ』

 鏡の確認に、陽介はそう答える。
 陽介と早紀は、ジュネスと中央通り商店街が上手く共存できないかを模索しており、鏡もその手伝いをしている。
 その事もあって最近では、陽介も早紀とよく話すようになっている。
 菜々子も早紀に懐いている事もあり、早紀を招待する事も考えていた鏡は、早紀への対応を陽介に一任する事にする。
 その事を陽介に伝え通話を終えた鏡は、布団に入ると菜々子の誕生日会に作る料理の内容とケーキの事を考える。


 誕生日会の主役は菜々子なので、料理を菜々子に手伝って貰うわけにはいかない。
 その事を踏まえると、料理は帰宅してから作るとして、ケーキの方は学校の家庭科室を借りて作った方が良さそうだ。
 しかし、独りで全てを準備するには、少々厳しい状況なので雪子達に手伝って貰うことも視野に入れる。
 ケーキは本来ならば、オーソドックスな苺のケーキにしたいところなのだが、今の時期だと輸入物か割高の物しか手に入らない。
 他の果物も考えてはみたが、今の時期だと林檎以外は缶詰くらいしか無いので、チョコレート系のケーキにしようと考える。


 料理の方は菜々子との約束通り、シズから貰った豆乳シチューと千枝が肉好きなので、肉料理も献立に加える。
 雪子は千枝と違い、あまり肉を好まないので野菜を使った献立も加え、量が取れるようにパスタ料理をメインに献立を立てる。
 方向性が決まったところで鏡は眠りにつく。
 菜々子の誕生日会が楽しくなる事を願いながら。




 宿題を終えた早紀が一息ついていると、携帯電話から着信を告げる飛び出し音が鳴り響く。
 ディスプレイを確認すると相手は陽介からだったので、早紀は携帯電話を操作して通話状態にする。

「花ちゃん?」

『夜分にすんません。先輩、今時間、良いですか?』

「うん、構わないけれど、何?」

 早紀の質問に、陽介は菜々子の誕生日会が近々あるので、良かったら参加しないかという誘いだった。
 菜々子は早紀にとっても可愛い妹のような存在なので、その日は予定を開けておくと陽介に答える。

「ちょっと意外。てっきり、鏡ちゃんから連絡が来るかと思ったけど」

『あぁ、俺の方から先輩に連絡するって言ったから』

「そうなんだ? わざわざありがとうね、花ちゃん」

 陽介の言葉に早紀はお礼を述べると、陽介は『大した事はしていないと』照れたように答える。
 通話を終え、菜々子が魔女探偵ラブリーンが好きだと聞いた早紀は劇中でラブリーンが付けているリボンを作ろうと考える。
 丁度、原作コミックは早紀も所持しているので資料には困らない。
 早紀は本棚からコミックを取り出すと、リボンの柄などを選び必要になるリボンの寸法などを決めていく。




 菜々子の誕生日、当日。
 家庭科室を使う許可を取った鏡は昼休みと放課後を利用して、菜々子のバースデーケーキを仕上げる。
 意外な事に、鏡のケーキ作りを手伝ったのは完二だった。
 元々、手先が器用な完二は料理も出来るらしく、鏡の指示に従い手際よく作業をこなしていく。
 千枝達も下準備の段階で鏡の手伝いを行い、今は菜々子の誕生日プレゼントを取りに先に帰っている。

「姐さん、晩メシの支度もあるんスよね? ケーキは出来上がったら俺が持っていきますから、先に戻ってくれて良いッスよ」

 ケーキを作り終えた鏡は完二の言葉に甘え、先に帰宅する事にする。

「お帰り、お姉ちゃん!」

「ただいま、菜々子ちゃん。今日は菜々子ちゃんが主役だから、ご飯が出来るまでテレビでも見ていてね」

 嬉しそうに出迎えてくれた菜々子にそう言って、鏡は手を洗い晩ご飯の支度を始める。
 材料は先に買い置きをしていた分と、前もって用意しておく事で調理の時間を短縮する。
 下拵えをしておいた材料を入れ、シチューを煮込む間にパスタを茹でる。
 コンロを両方使っているので、その間に唐揚げを作る為の下拵えを行う。


 調味料を入れたボールに鶏肉を入れ、良く馴染ませる。
 鶏肉に調味料が馴染んだところで、オーブンシートを敷いた天板に重ならないように鶏肉を並べて行く。
 並べ終えた鶏肉の上にオーブンシートを乗せてレンジに掛け、一度取り出しひっくり返した後にもう一度再加熱する。
 出来上がった唐揚げは綺麗なキツネ色に仕上がっており、出来上がった分の一つを菜々子に味見して貰う。

「おいしい! おいしいよ、お姉ちゃん!」

 冷ましながら食べた唐揚げの味に、菜々子が嬉しそうに答える。
 菜々子の評価に鏡は笑顔を見せると、調理の続きに戻る。
 パスタは一種類だけだと味気ないので、ショートパスタにトマトやほうれん草を練り込んだ変わり種のパスタも用意する。
 それに合わせて、パスタソースもミートソースとクリームソースの二種類を用意する。

『今晩は!』

 料理の支度が出来た頃になって、陽介達が到着する。
 陽介に誘われた早紀も一緒に来ており、菜々子が早紀の参加に屈託のない笑顔を見せる。
 早紀もそんな菜々子に笑みを返すと、誕生日会に誘ってくれてありがとうとお礼を述べる。
 その言葉に菜々子は早紀が来てくれて嬉しいと喜んでいる。

「ただいま……って、流石に多いな」

 陽介達の到着より少し遅れて、遼太郎が帰宅する。
 流石の人数に普段使っているちゃぶ台だけでは小さいので、もう一つ出してきたテーブルにも料理が並べられている。

「これ、鏡が用意したんだよね?」

 並べられた料理の数々に千枝が唖然と鏡に訊ねる。
 鏡は前もって下準備をしていた事を説明すると、冷めない内に食べようと皆に座るように勧める。
 かなりの量があり、食べきれるのかと思われたが、完二や陽介ら食べ盛りの男子が居たためその心配は杞憂に終わる。
 肉好きの千枝はやはりというか、唐揚げが気に入ったらしく満面の笑みを浮かべて唐揚げを頬張り、雪子に窘められる。
 その雪子は変わり種のパスタを気に入ったようで、クリームソースを掛けてそれらを食べ、りせも同じくパスタに手を伸ばす。
 早紀は菜々子の分のパスタを取り分け、その後で自身も同じパスタを取り分けている。
 クマは全部をそれぞれ自分の器に取り分けて食べる事に専念しており、隙あらば陽介や完二の器からも取ろうと狙っている。
 その度に陽介や完二は自分の取り分を横取りされないようにクマと熾烈な争いを繰り広げている。

『菜々子ちゃん、お誕生日おめでとう!』

 ご飯を食べ終え、鏡と完二が作ったバースデーケーキに立てられたロウソクを吹き消した菜々子を、皆が祝福する。
 ケーキを切り分ける前にそれぞれが用意したプレゼントを菜々子に手渡し、菜々子が嬉しそうにお礼を返す。
 陽介とクマからはお菓子の詰め合わせが贈られ、千枝と雪子、りせの三人でラブリーンの絵本セット。
 完二が実家で染めた生地を使って作り上げたラブリーンの衣装と帽子が贈られる。
 流石に帽子だけは自作できなかったので、母親の伝手を頼りに作ってもらったらしい。
 早紀からはラブリーンが劇中で付けているお手製のリボンのセットが、鏡からはラブリーンに登場する魔女犬のぬいぐるみが贈られた。

「菜々子、これはお父さんから」

 最後に遼太郎が包装紙に包まれたプレゼントを菜々子に手渡す。
 菜々子は遼太郎からのプレゼントに一際目を輝かせると、開けても良いかと訊ねる。
 その言葉に遼太郎が頷くと、菜々子は包装紙を丁寧に剥がして中身を取り出す。

「これ! ラブリーンの傘とステッキだ!」

 中から出てきた傘と虫眼鏡に菜々子が嬉しそうな声を上げる。
 鏡の薦めで、先に貰った完二お手製の衣装に着替え、早紀から貰ったリボンを付けた菜々子が戻ってくる。
 着替えて戻ってきた菜々子を皆が可愛いと口々に褒め、その言葉に菜々子が照れながらもお礼を述べる。
 完二が着心地を確認すると、菜々子は動きやすくて着心地が良いと、満面の笑みを浮かべて完二にありがとうと答える。 
 その言葉に完二は満足げに頷き、何かあったら手直しをするからと菜々子に答える。

「それじゃ、姉御。俺達そろそろ帰るわ」

 楽しい時間は過ぎ、雨脚も強くなってきたので、本降りになる前に陽介達は帰る事にする。
 陽介達を見送り、鏡は使った食器の後片付けを始める。
 後片付けは菜々子も手伝い、それが終わった後でいつものように二人でお風呂に入る。

「上がったか。菜々子、お前に話さなきゃならん事がある。お母さんの事だ」

 お風呂から上がって来た菜々子に遼太郎がそう声を掛ける。

「叔父さん、私は部屋に戻りますね」

「いや。鏡も一緒に聞いてくれ。お前も大切な家族だからな」

 遼太郎に気を遣い自室へ戻ろうとする鏡を、そう言って遼太郎が呼び止める。
 鏡は遼太郎の言葉に頷くと、菜々子と一緒に遼太郎の前に座る。

「……菜々子。お母さんな、事故に遭ったとお前には話したが、本当はひき逃げにあって殺されたんだ」

 遼太郎は辛そうな表情で菜々子にそう話を切り出す。
 その言葉に菜々子が表情を強ばらせると、鏡が菜々子の手を握り安心させるように頷き掛ける。

「それからずっと、お父さんは犯人を捕まえるため仕事にかまけて、お前には寂しい思いをさせちまったな……」

 亡き妻の事を大切にするあまり、生きている菜々子の事を蔑ろをしていた事を、遼太郎は菜々子に謝る。
 本当は無駄な努力をしているんじゃないかと思いつつも、どうしても諦める事が出来なかった。
 最愛の妻を奪われた事による、行き場の無い気持ちを犯人逮捕に向けていた事。
 だからといって、菜々子に寂しい思いをさせていい理由にはならない。

「その事に鏡が気付かせてくれた。お前が居なかったら、俺は今でも菜々子に寂しい思いをさせていたんだろうな」

 そう言って、遼太郎が鏡に改めてお礼を述べる。

「二人とも、俺はこれからも千里を、お母さんを轢いた犯人を追う。けどな、それはもう何かから逃げるためじゃない」

 遼太郎はそう言うと、自分は刑事で菜々子や鏡が居るこの街が、自分の居場所だと言葉を続ける。
 だからこそ、ここを守ってこれからも刑事として、父親として生きていくと二人に宣言する。

     我は汝……、汝は我……

   汝、ついに真実の絆を得たり


    真実の絆……それは即ち

        真実の目なり

    今こそ、汝には見ゆるべし

  “法王”の究極の力、“コウリュウ”の

    我が、内に目覚めんことを……

 これまでとは違う声が鏡の脳裏に響く。
 遼太郎との間に結ばれた絆は強固な物となり、寄せられた信頼が鏡に伝わってくる。

「鏡、今日は菜々子と一緒に眠ってやってくれないか?」

 遼太郎はそう言って菜々子の頭を優しく撫でると、今まで本当の事を話さなくて済まなかったと菜々子に謝る。
 菜々子は遼太郎の言葉に首を振ると、お母さんが居なくなって、自分だけでなくお父さんも寂しかったんだねと呟く。
 その言葉は遼太郎を非難するのではなく、自分と同じ気持ちを抱えていた遼太郎を気遣う思いで満ちていた。
 幼いながらも、辛い思いを正面から受け止めた菜々子を遼太郎は愛おしく思い、またそれを誇りに思う。

「今日はもう遅い。二人とも、遅くまで付き合わせて悪かったな」

「ううん。ちゃんと話してくれて菜々子、嬉しかったよ」

「私も、一緒に話を聞かせてくれてありがとうございました。それじゃ叔父さん、お休みなさい」

「おやすみ、お父さん」

「あぁ、二人ともお休み」

 挨拶をして二階へと上がる二人を見送った遼太郎は、一つ溜息をつくと天井を見上げる。

「……なぁ、千里。これで良かったんだよな? 俺達の娘は、あんなにも強くシッカリした娘に育ってくれているぞ……」

 そう呟いた遼太郎の目尻に、涙が一筋零れる。
 遼太郎は改めて決意する。
 大切な家族を守るため、今もなお潜んでいる真犯人を捕まえて、この街に本当の平和を取り戻す事を。




2012年02月07日 初投稿
2012年03月04日 加筆修正


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