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No.26454の一覧
[0] PERSONA4 PORTABLE~If the world~ (もしも番長が女だったら?) ペルソナ4再構成[葵鏡](2015/04/15 09:13)
[1] 【習作】PERSONA4 PORTABLE~If the world~[葵鏡](2014/06/27 00:21)
[2] 転校生[葵鏡](2014/07/22 03:57)
[3] マヨナカテレビ[葵鏡](2014/06/27 00:23)
[4] もう一人の自分[葵鏡](2011/04/15 22:00)
[5] ベルベットルーム[葵鏡](2014/06/27 00:24)
[6] 雪子姫の城[葵鏡](2014/06/27 00:25)
[7] 秘めた思い[葵鏡](2011/06/04 08:51)
[8] 秘めた思い 【千枝】[葵鏡](2012/08/06 08:13)
[9] 籠の鳥 【前編】[葵鏡](2011/06/04 08:52)
[10] 籠の鳥 【後編】[葵鏡](2011/06/04 08:54)
[11] コミュニティ[葵鏡](2011/04/16 16:45)
[12] 【幕間】 菜々子の調理道具[葵鏡](2011/05/20 15:14)
[13] ゴールデンウィーク[葵鏡](2011/04/22 15:50)
[14] 迷走[葵鏡](2011/04/29 10:02)
[15] 熱気立つ大浴場[葵鏡](2011/06/14 22:12)
[16] 男らしさ、女らしさ[葵鏡](2011/05/10 18:55)
[17] 林間学校[葵鏡](2011/05/14 17:33)
[18] 虚構と偶像[葵鏡](2011/05/26 16:13)
[19] 特出し劇場丸久座[葵鏡](2011/06/11 01:37)
[20] 覚醒する力と新たな目覚め[葵鏡](2014/07/10 01:05)
[21] 齟齬と違和感  6月22日 お知らせ追加[葵鏡](2011/06/22 09:39)
[22] 思いがけない進展[葵鏡](2011/06/26 09:41)
[23] ボイドクエスト[葵鏡](2011/07/13 02:24)
[24] ひとまずの解決[葵鏡](2011/07/19 20:52)
[25] 探偵の憂鬱[葵鏡](2011/07/31 10:07)
[26] 三人目の転校生[葵鏡](2011/08/14 09:27)
[27] 修学旅行[葵鏡](2011/08/22 09:21)
[28] 【幕間】 お留守番[葵鏡](2011/10/10 07:24)
[29] 意地と誇り[葵鏡](2011/10/30 23:50)
[30] 秘密結社改造ラボ[葵鏡](2011/11/30 13:22)
[31] 最初の一歩[葵鏡](2011/11/30 13:24)
[32] 光明[葵鏡](2011/12/15 06:10)
[33] 父と子と[葵鏡](2012/01/10 17:33)
[34] 菜々子の誕生日[葵鏡](2012/03/04 00:24)
[35] 暗雲[葵鏡](2012/07/16 18:06)
[36] 脅迫状[葵鏡](2012/03/10 07:52)
[37] 文化祭 前編[葵鏡](2012/04/15 20:20)
[38] 文化祭 後編[葵鏡](2012/05/25 20:18)
[39] 陽介の文化祭 前編[葵鏡](2012/11/06 22:14)
[40] 陽介の文化祭 後編[葵鏡](2012/11/06 22:16)
[41] 天城屋旅館にて[葵鏡](2012/05/25 20:16)
[42] 忍び寄る影[葵鏡](2012/06/16 16:22)
[43] 天上楽土[葵鏡](2014/06/27 00:33)
[44] 救済する者、される者[葵鏡](2014/06/27 00:35)
[45] 彼女が去った後で[葵鏡](2014/06/27 00:41)
[46] 想いの在処[葵鏡](2014/06/27 00:41)
[47] 誓いと決意[葵鏡](2014/06/27 00:43)
[48] 繋いだ絆の輝き[葵鏡](2014/06/27 00:49)
[49] 真犯人[葵鏡](2014/06/27 00:52)
[50] 禍津稲羽市[葵鏡](2014/07/28 16:12)
[51] アメノサギリ[葵鏡](2015/01/25 09:33)
[52] 飛翔、再び[葵鏡](2015/04/15 09:11)
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[26454] ボイドクエスト
Name: 葵鏡◆3c8261a9 ID:f4f8d2eb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/13 02:24
――――煩わしい日常に、自分の事を認めない連中

  自分達は何も出来ないクセに、人の事を陰で馬鹿にして……

         あんな奴等とは違う事を

      ハッキリと連中に知らしめてやるんだ




 マヨナカテレビに映像が映った翌日。
 鏡達はジュネスのフードコートに集まって、先日の事を話し合っていた。
 りせとクマは向こう側に誰か居ないかを確認しに行っているため、今はこの場には居ない。

「いきなり顔までハッキリ映っていたから、気になって千枝に電話したの」

 そう言って話を切り出した雪子が言うには、昨日テレビに映った人物が“犯人”なのではないかという疑問。
 その事は、先日の陽介との電話で鏡達も感じていた疑問だ。
 直斗から聞いた話では、容疑者は“高校生の少年”で、諸岡の件で足がつき指名手配中らしい。
 そして、昨日のテレビでの自身を捕まえてみろという挑発と取れる発言。
 鏡達の話について行けない完二に、陽介は例え話を聞かせる。


 何かの切っ掛けで“向こう側”へと入れる力を得た少年。
 その少年は、何かの動機から命を奪う目的で人を次々とテレビに放り込んでいく。
 別の世界という、警察には証明できない手段による犯行ならば、足がつかないだろうとの判断からだ。
 ところが、最初の時より以降は誰も命を落とす事がなくなる。
 仕方なく諸岡の時だけは、直接手を下すと指名手配をされる結果になり、少年には逃げ場が無い。

「あ……もしかして、逃げ込むために自分から“あっち”へ行ったって事スか?」

 陽介の例えを聞いて、ようやく完二にも状況が飲み込めたようだ。
 感心した完二は『先輩、意外と頭いっスね!』と、褒めているのか貶しているのか解らない感想を述べる。

「テレビに映った人を狙った理由はよく分からないけれど、諸岡先生にだけは、本当に恨みがあったのかも」

 そう言って、雪子が足のつく覚悟までして殺害を実行した事を理由に挙げる。
 テレビが全く関係してなかった理由も、それならば一応の説明が付く。
 しかし、そう言った雪子自身も今ひとつ自信がある訳では無さそうだ。

「けどさ、自分から向こう側へ行って帰ってこれるのかな?」

 雪子達の話を聞いていた千枝がそんな疑問を零す。
 向こう側から戻ってくるには、クマの力が必要だ。
 現在、そのクマはこちら側で生活しているため、自分達が向こう側へと出向かない限り戻ってくる事は不可能と言っても良い。

「ま、追いつめられた結果ヤケを起こして、向こう側に行った可能性が高いよな」

 千枝の疑問に陽介がそう答える。
 それに、雪子や完二はともかく、“芸能人であるりせ”が死んでいない事は犯人も知っているはずだ。
 少なくとも、向こう側から“出てくる”方法があると思って入った可能性もある。

「彼が一連の事件、全ての犯人だったとしたらね」

 それまで陽介達の話を聞いていた鏡が、陽介達とは違った考えを話す。

「姉御、そりゃ、どういう……」

 陽介が鏡に訊ねようとしたところで、向こう側から戻ってきたりせが鏡達の元へと駆け寄ってくる。
 りせが戻ってきた事で、陽介は鏡への質問を後にして向こう側の様子をりせに訊ねる。
 誰かが中に居ることだけは間違いないそうだが、情報が少なすぎて居場所が特定できないとりせは説明する。
 クマはまだ、向こう側で捜しているそうだ。

「そういや、さっきは途中だったが、アイツが一連の事件全ての犯人だったらって、どういう意味だ?」

 陽介が鏡に、先ほど聞きそびれた質問をする。
 その質問に鏡は、幾つかの疑問点を挙げる。

 彼が犯人だとして、誰にも目撃された様子がない事。
 雪子達を攫ってから、短時間で向こう側へと送った方法。

「一番の疑問は、彼が不意打ちにしても、完二君を攫えるとは思えない事ね」

 もっとも、雪子達も攫えるようには思えないと、鏡は陽介達に説明する。
 鏡の説明を聞いた陽介も、先日見たテレビでの少年の様子に鏡の疑問ももっともだと納得する。
 少なくとも、腕っ節で完二に敵うようには到底見えない。

「そういや、あの白鐘ってヤツと話していた時に、『その可能性を考慮に』とかって言ったよな?」

 陽介の確認に鏡は直斗も自分と同じように、現在指名手配されている少年は模倣犯の可能性を考慮に入れている事を話す。
 テレビに入れる事を断念したのではなく、元々そのような手段がある事を知らないだけなのではないか?
 殺意はあったかも知れないが、自身が掴まるリスクを冒してまで殺害するとは考えられない。

「とはいえ、向こう側に居る彼から話を聞いてみない事には、本当の事は分からないのだけどね」

 現時点では推測の域を出ていないが、そう考えた方が辻褄が合うと鏡は話す。
 少年から事実を聞き出さない限り、何も分からない事には変わらない。
 現時点では、少年の名前すら分かっていない状況だ。
 向こう側での捜索はクマに任せ、鏡達は少年が誰なのかを確かめるべく手分けして情報を集める事にする。

「ったく、これまで通り簡単にはいかないか、流石に……」

 暑さに辟易した様子で、陽介が呟く。
 これまでと違い、情報を集める事は困難だった。
 雪子や完二、りせの時と違って、互いに面識がある相手でない事が主な原因だ。
 予想はしていたが、それ以上の状況に鏡達は悩まされる事となる。
 この日は特に情報らしい情報を得る事が出来なかったが、翌日以降も情報集めを続ける事にして、それぞれ帰宅する。


 いつものように、ジュネスへと買い出しに向かう鏡の携帯電話に、メールの着信音が鳴る。
 差出人は遼太郎からで、今日は稲羽署に泊まり込みになるそうだ。
 そのため、着替えを取りに足立を連れていったん戻って来るそうなので、足立の分の晩ご飯も用意してくれとの事。
 メールを確認し終えた鏡は、ピリ辛風に味付けした豚の生姜焼きをメインに、茄子とオクラの澄まし汁を作ることに決める。
 暑さで食欲が低下している可能性もあるので、食欲が出るように梅干しの炊き込みご飯も献立に加える。


 必要な食材を購入した鏡は帰宅すると、いつものように菜々子に手伝ってもらい準備を進めていく。
 ある程度の準備が出来ると、菜々子に遼太郎の着替えを用意してもらい、その間に自分は料理の仕上げに取り掛かる。
 料理が出来上がる頃になって、足立を連れた遼太郎が帰宅する。

「急な頼みをしてすまないな」

「大丈夫ですよ、手間は変わらないですから」

 そう言って謝る遼太郎に鏡は笑顔で答えると、二人に手を洗ってくるように伝える。
 それほど時間に余裕がない遼太郎達は、鏡の言葉に従い手を洗いに行く。

「暑さで食欲が落ちていたけど、これだと幾らでも食べられますね!」

 炎天下の中での捜査に疲れ気味だった足立がそう言って、嬉しそうに出された料理を平らげていく。
 遼太郎も口には出さないが、少し疲れた様子を見せている辺り、捜査は難航しているのだろう。

「その様子だと、捜査は難航しているようですね。忙しいとは思いますけれど、ちゃんと食事は摂って下さいね?」

「そうなんだよ。容疑者が商店街でバイトしてたって情報を掴んだから、そっちも調べているんだけど、手掛かりが無くてね……」

「足立っ、要らん事を話すなっていつも言っているだろう!」

 鏡の言葉に口を滑らした足立を遼太郎が叱責する。
 遼太郎の言葉に、自分がまた余計な事を言った事に気付いた足立はバツの悪そうな表情になる。

「……鏡、すまんが今コイツが言った事は忘れてくれ」

 疲れた様子で話す遼太郎に、鏡は内心では申し訳なく思いつつも頷いてみせる。
 食事を摂り終え菜々子から着替えを手渡された遼太郎は、後の事を鏡に任せ、足立を連れて稲羽署へと戻る。


 戸締まりをして、いつものように菜々子と入浴をすませて寝かし付けた鏡は、陽介達にメールを送信する。
 メールには少年の事は一切書かず、『調べ事の目処が付いたので、明日いつもの場所で』とだけ書き込む。
 これは、事件について関わっているという証拠を残さないための配慮だ。
 遼太郎に同意した手前、あからさまに少年の事を書く訳にはいかない。
 もっとも、これが詭弁である事を鏡自身も重々理解はしているのだが……




 翌日になって、ジュネスのフードコートに集まった陽介達に、鏡は足立から得た情報を話す。
 鏡の説明に、陽介は何とも言えない困惑した表情を見せる。

「なぁ、姉御。情報が手に入ったのは良いんだが、足立って刑事、そんなんで大丈夫なのか?」

 陽介の懸念に対して、鏡自身も大丈夫だと断言できる自信は持てなかった。
 遼太郎が側に居れば大丈夫だとは思うのだが、彼個人だと口を滑らす確率が高いと思われる。
 とはいえ、足立の失言で必要な情報を入手できたのだから、文句を言えば罰が当たるだろう。
 取り敢えず、足立の事は脇に置いて、少年がバイトをしていたという商店街の店を探さなくてはならない。


 丸久豆腐店と巽屋は除外して、残りの店舗である“四目内堂書店”、“だいだら.”、“四六商店”、“愛屋”、“総菜大学”。
 ガソリンスタンドも春先には募集をしていたようだが、すぐに募集を締め切っていたそうなので、これも除外して良いだろう。
 聞き込みに向いていない完二と、今も向こう側を探っているクマを除いた残りで、それぞれの店舗に聞き込みへ向かう事にする。


 鏡が向かった先は“総菜大学”で、都合良く他の客の姿は無い。
 暇そうにしている店員に、鏡は以前に学生がバイトをしていなかったかを訊ねてみる。
 店員は鏡の質問に表情を変えると、声をひそめて雇っていたが、すぐに根を上げて辞めてしまったと鏡に話す。
 暗い性格で挨拶も出来ないし、全く話そうともしなかったらしい。


 以前バイトをしていた子が、中学の同級生だと話していたそうなので、その子から聞いた方が良いとも言われた。
 なんでも、その辺りで時々見掛けるそうで、金髪にしているから目立つだろうと教えられた。
 聞き込みを終え、陽介達と合流した鏡は先ほど聞いた話を皆に伝える。

「この辺をうろついている金髪の少年か……」

 鏡の話を聞いた陽介がそう呟く。
 時々という事なので、今から捜して見つかる可能性は低いように思われる。

「ね、彼の事なんじゃないかな?」

 どうやって金髪の少年を見付けるか思案していると、千枝がそう言って指を差す。
 千枝が指さした方を見ると、確かに金髪の少年がこちらに向かって歩いている。
 鏡達は金髪の少年を呼び止めると、総菜大学での事を話す。

「なに、アンタら例の“やらかした少年”の写真が見たいの?」

 鏡達の話を聞いた金髪の少年は、ニヤニヤと底意地の悪そうな表情を見せると、得意気に一枚の写真を取り出す。
 その写真には一人の制服姿の少年が写っており、その姿は間違いなくマヨナカテレビに映っていた少年だった。
 少年の名前だろうか? 写真の下には、“久保美津雄”と書かれている。

「コイツ、退学にさせられた腹いせにやっちまったって話だぜ」

 そう言って、金髪の少年は写真の少年と同じ高校に通っている友達から聞いた話だといって色々な事を話してくれた。
 中学の時から変わらず、思い込みが激しく自己中心的な所がある事。
 人付き合いが悪く、協調性に欠ける事。
 ひとしきり少年の事を話した後で、『いつかはやるんじゃないかと思っていた』と、愉快そうに言い残して金髪の少年は去っていった。
 鏡達はひとまず向こう側に移動して、これまでの情報を纏める事にする。

「マヨナカテレビに映ってたの、アイツで間違いないな」

「あの子……ウチの店に来たことある……偵察してたって事?」

 陽介の言葉に、りせが先ほどの少年について思い出した事を話す。
 豆腐を売っていたりせに、“暴走族、困るでしょ?”と話し掛けてきて、延々と悪口を言っていたそうだ。
 りせの話で、先ほど聞いた話の通りの思い込みが激しい人物である事が伺える。
 あしらい方は慣れていたが、色々と疲れていたので無視していたのが原因で自分は攫われたのかなと、りせは呟く。

「あ……? や、オレ、ゾクじゃねえっつの! ハァ……あのクソ番組のトバッチリかよ……」

 ウンザリとした表情で完二がそう話す。
 久保が犯人だとすると、間違いなく自分は特番のトバッチリで狙われた事になる。
 それが切っ掛けで鏡達と知り合えた訳だが、釈然としないものを感じるが……

「思い出した、アイツだ!」

 何やら考え込んでいた千枝が突然そう叫ぶ。

「鏡が転校してきた日、いきなり告ってきたじゃん!」

 千枝の言葉に、陽介も当時の事を思い出す。
 確か、下校時の校門前でいきなり“雪子”と呼びつけてきた少年だ。
 あんな僅かな事なのに、良く覚えていたなと感心する陽介に、千枝は話し掛けてきたのは初めてだが、雪子の周りによく居たと話す。
 振られた腹いせに雪子を攫ったのかと憤慨する千枝に、振ってないけどと雪子が困惑気味に答える。

「こんだけ動機が揃ったんじゃ、姉御の推測は外れっぽいよな」

 陽介の言う通り、これだけ動機が揃うと全ての事件の犯人である可能性が高くなってくる。
 しかし、鏡は未だに久保が真犯人である事に疑問を感じずにはいられない。
 総菜大学での仕事に、すぐに根を上げて辞めるような人物が不意打ちとは言え、完二を攫う事が出来るとは到底思えないのだ。
 その事を話すと、確かに完二をどうこう出来るとは思えないが、動機が揃っている分、後は本人に直接聞くしかないと陽介は答える。

「方角、分かるか?」

 陽介の問い掛けに、りせはヒミコを召喚すると改めて久保の居場所を探し出す。

「居た……見付けたよ!」

 りせの案内で訪れた場所は、レトロなゲームを思わせる場所だった。


        → GAME START 


          CONTINUE


 入り口と思わしき場所の上部に、ゲームのスタート画面と思わしき文字が浮かんでいる。
 唖然とする千枝に、陽介は捕まえてみろと言ってたくらいだから、ゲーム感覚なんだろうとウンザリした様子で話す。

「鏡……私、知りたい。何であんな事をしたのか」

 雪子が鏡にそう言って、自分が狙われた理由を知るために探索組に加えて欲しいと願い出る。
 同じ理由で完二も探索組に加え、最後の一人は前線に加わったクマだ。
 準備を済ませた鏡達は、久保を見つけ出すために探索へと乗り出す。




 中へと入ると、ドット画のような古城を思わせる内装に、いかにもゲームといった印象を感じる。
 探索へと乗り出そうとした鏡達の眼前にまたしても文字が浮かび上がる。
 その文字は、“ぼうけんをはじめる”と“ぼうけんをやめる”と書かれており、カーソルが勝手に動き“ぼうけんをはじめる”を選択する。
 続いて、“なまえをいれてください”と文字が現れ、これも勝手に“ミツオ”と入力される。

『えっ!? 何これ? ゲーム開始って事!? 何かムカつくー!』

 一連の流れにりせが癇癪を起こす。
 確かに、人を馬鹿にしたような状況に鏡も内心では、あまりいい気がしていない。
 これが自分達を怒らせる事で判断力を鈍らせるための罠だとしたら、油断は出来ない。
 どこかに罠が仕掛けられている可能性もあるので、冷静に行動するように心がける。


 現れるシャドウもどことなくゲームを思わせる見た目だが、見た目に反してこれまでのシャドウより強く簡単には倒せない。
 それぞれの弱点属性にも違いがあるが、状況に合わせて的確に相手の弱点を突くように、鏡は行動を指示していく。
 現れるシャドウ達を退けながら探索を続けていく鏡達。
 ようやく見付けた階段で上の階へと移動すると、どこからともなく聞き覚えのある声が聞こえてくる。

『わあっはっはっはっ! くさった ミカンの ぶんざいで ワシに はむかうとは いい どきょうだ!』

 諸岡を思わせる声が途絶えると、“ミツオは いしきを うしなった……”という文字が現れる。

『えっ!? ウソ……どういうこと?』

 状況からすると返り討ちに遭ったと思わしき内容に、りせが戸惑いの声を上げる。
 りせが戸惑うのももっともで、状況通りだとゲームオーバーになっている筈なのだ。
 しかし、状況は解らなくとも先へと進むしかないので、気を取り直して鏡達は先へと進む。

『おはよう。ゆうべは よく ねむってた みたいね。パトカーの おとが あんなに すごかったのに きづかないで ねてるんだから』

 再び聞こえてきた声は女性の声で、おそらく久保の母親と思われる。
 話の内容からすると、山野アナか諸岡の事件のどちらかだろう。
 これまでは自身の心の内を伝えようとしていたのに対して、ココでは久保自身の思いは伝わってこない。
 まるで、自身に対して感心がなく、他人の事ばかりを気にしているように思える。

『何だか狭いフロアだね』

 りせの言う通り、三階はすぐに行き止まりになる十字路で、先ほど上がってきた階段以外は全て行き止まりである。
 しかし、この場所がゲームをモチーフにしている事を考えると、通路の先に隠し扉があっても不思議ではない。
 周囲を警戒しつつも鏡達は行き止まりを調べに移動する。

『あれ、さっきと場所が変わってる……』

 左手側の行き止まりに到着すると同時に、鏡達の身体に浮遊感が感じられた。
 浮遊感が消えると、りせの言う先ほどとは似ているが違う場所へと移動したようだ。
 その証拠に、通路の中央にはシャドウが現れており、ゆったりと浮遊している。
 通路が狭い上に、どの場所へ繋がっているのかが解らないため、鏡達はシャドウに先制攻撃を仕掛けていく。


 相手は黒蛇の姿をしたシャドウで、以前に戦った白蛇の姿をしたシャドウを思い出させる。
 白蛇の姿をしたシャドウは火炎属性が弱点だったので、試しに鏡はペルソナをカハクへ変更すると、【アギラオ】で攻撃してみる。
 ダメージは与えているようだが、どうやら弱点では無さそうだ。

「ペルクマァー! そいやっ!!」

 クマが召喚したキントキドウジが放つ【ブフーラ】が黒蛇のシャドウに命中した直後、黒蛇のシャドウは地面に墜落する。
 どうやらこのシャドウは氷結系が弱点のようで、クマは残りのシャドウも次々に墜落させていく。

「今がチャンス! いっせいの攻撃クマ!」

 クマの号令に合わせて、鏡達がシャドウへと一斉攻撃を仕掛ける。
 これが決め手となり、シャドウ達は全て消滅する。
 他にシャドウが居ないかを確認してから、改めて探索を再開する。


 どうやら、先に進むと元には戻れない一方通行の仕組みになっているらしく、似たような形の通路が複数存在しているようだ。
 移動した先に必ずシャドウがいる訳ではないが、戦闘を強いられ徐々に消耗させられるのは、心理的に負担になる。
 戻る分の余力も残しておかなければならないので、無理をして先に進み続ける訳にもいかない。
 幸い、りせが皆の体調を把握しているので最悪の事態になる事は無いと思うが、気が抜けない状態が続く。


 途中の小部屋で宝箱の鍵を回収した鏡達は、ようやく上へと続く階段を発見する。
 階段を上ると、またしても宙に文字が浮かび上がる。

 じょしアナが あらわれた!

 どうする?

 鏡達の目の前で、文字は現れては消えていく。
 入り口での時と同じく、鏡達の意志とは無関係に選択されていく。
 選ばれた選択肢は“たたかう”で、“じょしアナ”を倒したミツオがレベルアップした事を告げる文字が現れる。

 たのしさが 4 アップした!

 むなしさが 1 アップした!

『そんな……殺したのもゲーム感覚だったって事?』

 震える声でりせがそう呟く。
 これが事実なら、自分達もゲーム感覚で誘拐されて殺され掛けた事になる。
 そんな理不尽な理由に、りせは絶対に許さないと怒りを顕わにする。

「りせちゃん、気持ちは解るけど、感情的になって周りが見えなくなるのは駄目だからね?」

『あっ、そうだね。私がしっかりしてないと、先輩達が安心して先に進めないよね』

 鏡の指摘に、りせはすぐに気持ちを切り替える。
 この切り替えの早さが、芸能界を渡り歩いてきたりせの強みだろう。
 気を取り直したりせのナビゲーションに従い、鏡達は探索を続ける。

『チガウ……』

 六階に上がってきたところで、今度は抑揚のない虚ろな声が聞こえてくる。

『チガウ……チガウ……チガ……チ……チガ……チガガ……チガガウ……チガウウ……チガ……ガガガガガガガガガガガガガ』

 虚ろな声は徐々に支離滅裂な音の羅列となり、最後は絶叫となってそのまま途絶える。

『えっ!? こ、今度は何? 壊れた……の?』

 これまでとの違いに、りせが不安な様子で話す。
 鏡も今まで見てきた様子と違う事に戸惑いが隠せない。
 罪の意識に苛まれたとも受け取れるが、何かが引っ掛かる。
 奇妙な違和感を覚えるも、それがどこかがハッキリしないので、考えるのは後にして探索を続ける事にする。


 探索を続けていて気が付いた事だが、扉の前にある壁に掛けられたレリーフで、扉の先がどうなっているのかが判断できる。
 蝋燭のレリーフならその扉の先は通路で、盾のレリーフは行き止まりの小部屋。
 剣のレリーフは階段のある部屋を示しているので、蝋燭と剣のレリーフを目印に先へと進む。

『扉の向こうに何か居るよ! 準備はいい?』

 レリーフのない扉の前で、鏡達にりせからの警告が入る。
 これまでからすると明らかに異質な扉に、鏡達は気を引き締めて中へと進む。
 扉の先で鏡達を待ち構えていたのは、黒い手の姿をしたシャドウで、鏡達の姿を確認すると先制攻撃を仕掛けてきた。
 先手を取ったシャドウが指を鳴らすと、どこからともなく白い手の姿をしたシャドウが現れる。
 鏡はペルソナをカハクからティターニアに変更すると、他の皆が使えない疾風属性の攻撃スキル【マハガル】で様子を見る事にする。

『弱点にヒット! 先輩、その調子!』

 黒い手の姿をしたシャドウにはあまり効果は無かったが、白い手の姿をしたシャドウは弱点属性だったようだ。
 鏡は再び【マハガル】で攻撃を仕掛けると、白い手のシャドウはその攻撃で気絶状態となった。
 気絶しているチャンスを逃さないように、鏡は皆に白い手のシャドウから倒すように指示を出す。
 鏡の指示に従い、完二が【ジオンガ】でクマが【ブフーラ】でそれぞれ攻撃を仕掛ける。
 二人の攻撃で白い手のシャドウが消滅すると、雪子が黒い手のシャドウへと【アギラオ】で攻撃を仕掛ける。


 メンバー中、魔法の力が一番強い雪子の攻撃を受けても、黒い手のシャドウは全く怯んだ様子を見せない。
 それどころか、黒い手のシャドウは再び指を鳴らすと、白い手のシャドウを召喚する。

『こいつ何!? 敵が増えたよ!』

 どうやら、このシャドウは自分だけだと仲間を呼ぶ性質を持っているようだ。
 鏡は再び【マハガル】で白い手のシャドウを気絶させると、黒い手のシャドウへと攻撃を集中させるように指示を変更する。
 白い手のシャドウを倒すだけなら、威力の高い【ガルーラ】で攻撃するべきだが、何度も召喚されたらこちらが疲弊してしまう。
 そのため、敢えて威力の弱い攻撃で足止めをして、その間に黒い手のシャドウを倒す算段だ。


 白い手のシャドウが気絶から復活する度に【マハガル】で気絶させ、僅かでも黒い手のシャドウへとダメージを与えていく。
 鏡以外は皆、黒いシャドウへと攻撃を集中させ、相手の攻撃で受けたダメージはクマと鏡が回復させていく。
 本来なら、魔法の威力の高い雪子が回復すれば良いのだが、今回は火力の主軸なので攻撃に専念してもらう。
 一撃の威力は低くとも、ダメージは確実に蓄積されていく。


 鏡達の度重なる攻撃に、黒い手のシャドウから動きの精細さが無くなっていく。
 この機を逃さず、鏡も威力の高い攻撃スキルで黒い手のシャドウへと攻撃を仕掛ける。

「これで、お仕舞いよ!」

 黒い手のシャドウが攻撃をミスして転倒した隙を逃さず、雪子の号令の元、総攻撃を仕掛ける。
 この攻撃で、ようやく全てのシャドウ達を倒す事が出来たものの、鏡達の消耗も激しい戦いだった。
 体力には余裕はあるが、精神力が枯渇寸前の所まで消耗していて、これ以上の探索続行に支障をきたすレベルだ。

『ふぅ……お疲れ様! 先輩、大丈夫? あまり無理はしないでね』

 りせの労いの言葉を聞きながら、取り敢えずこの先に何かがないかを確認するために鏡達は先へと進む。
 先へと進んだ先には青い宝箱が置かれており、中から“くらやみのたま”と言う名の漆黒の球体を入手した。
 何に使う物かは解らないが、あんな番人を用意してまで守っていた物だ。重要な役割があるに違いない。
 取り敢えず、上へと上がってからカエレールで戻る事にする。

『わあっはっはっはっ! くさった ミカンの ぶんざいで ワシに はむかうとは いい どきょうだ!』

 八階に上がると、再び諸岡の声が聞こえてきた。


 諸岡が あらわれた!

 どうする?


 何故か諸岡の名前だけが漢字で現れている。
 鏡がその事に違和感を覚えていると、これまでとは違う選択肢が宙に現れる。


 →ころす

  にげる


 現れた選択肢に驚く鏡の前で、現れたテキストは勝手に先へと続いていく。


 ミツオの こうげき!

 諸岡を 殺した。


 ミツオは レベルアップした!


 ちゅうもくどが 16 アップした!

 わだいせいが 17 アップした!

 かっこよさが 3 アップした!


『なに、これ……! 注目とか、話題とか……信じらんない! 格好いいとか、何よそれ!』

 憤慨するりせとは対照的に、鏡は先ほどのテキストだけがこれまでとは違い、明確に害意を表していた事が引っ掛かった。
 これまでは一度も漢字が使われなかったのに対し、ココでのテキストだけが他とは区別されている。
 それだけ、この事については明確な意志を感じ取る事が出来る。
 改めて、この少年が関わっているのは諸岡殺しのみだと思えてくる。
 とはいえ、雪子達の事件にも関与している可能性も否定できないので、本人から話を聞くほか無い事には変わりがない。
 これまでの様子から、まともに話が通じる状態であるかは疑問が残るところではあるが……


 それはともかく、鏡達の消耗も激しいので、りせ達と合流して“カエレール”で戻る事にする。
 狐に回復してもらう手もあるが、流石に今回の消耗分を回復させるには資金が心許なさ過ぎる。
 少年の身柄を確保する事が目的ではあるが、鏡達自身の安全を蔑ろにしてまで優先すべき事でもない。


 今日の所はいったん戻り体調を万全の状態にしてから、改めて少年の身柄を確保するべきだ。
 こちら側の世界で行動できるのは自分達だけだ。
 その自分達が倒れるような事だけはあってはならない。
 逸る気持ちを抑えて、鏡達は元の世界へと戻る。
 少年の居場所までどれだけなのかは解らないが、少なくとも向こう側の世界から少年が自力で戻れない事だけが幸いだ。
 今は身体を休めて、次こそは少年の身柄を確保するのだと、鏡達は気持ちを一つにする。




2011年07月13日 初投稿


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