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No.26454の一覧
[0] PERSONA4 PORTABLE~If the world~ (もしも番長が女だったら?) ペルソナ4再構成[葵鏡](2015/04/15 09:13)
[1] 【習作】PERSONA4 PORTABLE~If the world~[葵鏡](2014/06/27 00:21)
[2] 転校生[葵鏡](2014/07/22 03:57)
[3] マヨナカテレビ[葵鏡](2014/06/27 00:23)
[4] もう一人の自分[葵鏡](2011/04/15 22:00)
[5] ベルベットルーム[葵鏡](2014/06/27 00:24)
[6] 雪子姫の城[葵鏡](2014/06/27 00:25)
[7] 秘めた思い[葵鏡](2011/06/04 08:51)
[8] 秘めた思い 【千枝】[葵鏡](2012/08/06 08:13)
[9] 籠の鳥 【前編】[葵鏡](2011/06/04 08:52)
[10] 籠の鳥 【後編】[葵鏡](2011/06/04 08:54)
[11] コミュニティ[葵鏡](2011/04/16 16:45)
[12] 【幕間】 菜々子の調理道具[葵鏡](2011/05/20 15:14)
[13] ゴールデンウィーク[葵鏡](2011/04/22 15:50)
[14] 迷走[葵鏡](2011/04/29 10:02)
[15] 熱気立つ大浴場[葵鏡](2011/06/14 22:12)
[16] 男らしさ、女らしさ[葵鏡](2011/05/10 18:55)
[17] 林間学校[葵鏡](2011/05/14 17:33)
[18] 虚構と偶像[葵鏡](2011/05/26 16:13)
[19] 特出し劇場丸久座[葵鏡](2011/06/11 01:37)
[20] 覚醒する力と新たな目覚め[葵鏡](2014/07/10 01:05)
[21] 齟齬と違和感  6月22日 お知らせ追加[葵鏡](2011/06/22 09:39)
[22] 思いがけない進展[葵鏡](2011/06/26 09:41)
[23] ボイドクエスト[葵鏡](2011/07/13 02:24)
[24] ひとまずの解決[葵鏡](2011/07/19 20:52)
[25] 探偵の憂鬱[葵鏡](2011/07/31 10:07)
[26] 三人目の転校生[葵鏡](2011/08/14 09:27)
[27] 修学旅行[葵鏡](2011/08/22 09:21)
[28] 【幕間】 お留守番[葵鏡](2011/10/10 07:24)
[29] 意地と誇り[葵鏡](2011/10/30 23:50)
[30] 秘密結社改造ラボ[葵鏡](2011/11/30 13:22)
[31] 最初の一歩[葵鏡](2011/11/30 13:24)
[32] 光明[葵鏡](2011/12/15 06:10)
[33] 父と子と[葵鏡](2012/01/10 17:33)
[34] 菜々子の誕生日[葵鏡](2012/03/04 00:24)
[35] 暗雲[葵鏡](2012/07/16 18:06)
[36] 脅迫状[葵鏡](2012/03/10 07:52)
[37] 文化祭 前編[葵鏡](2012/04/15 20:20)
[38] 文化祭 後編[葵鏡](2012/05/25 20:18)
[39] 陽介の文化祭 前編[葵鏡](2012/11/06 22:14)
[40] 陽介の文化祭 後編[葵鏡](2012/11/06 22:16)
[41] 天城屋旅館にて[葵鏡](2012/05/25 20:16)
[42] 忍び寄る影[葵鏡](2012/06/16 16:22)
[43] 天上楽土[葵鏡](2014/06/27 00:33)
[44] 救済する者、される者[葵鏡](2014/06/27 00:35)
[45] 彼女が去った後で[葵鏡](2014/06/27 00:41)
[46] 想いの在処[葵鏡](2014/06/27 00:41)
[47] 誓いと決意[葵鏡](2014/06/27 00:43)
[48] 繋いだ絆の輝き[葵鏡](2014/06/27 00:49)
[49] 真犯人[葵鏡](2014/06/27 00:52)
[50] 禍津稲羽市[葵鏡](2014/07/28 16:12)
[51] アメノサギリ[葵鏡](2015/01/25 09:33)
[52] 飛翔、再び[葵鏡](2015/04/15 09:11)
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[26454] 虚構と偶像
Name: 葵鏡◆3c8261a9 ID:f4f8d2eb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/26 16:13
――――それは、ほんの気まぐれだった

          知り合いから聞いた噂話……

        雨の日の真夜中に映る、不思議な映像

   そこに、自分でない自分が映るとは思わなかったけど




 りせの記者会見が報道された翌日。
 稲羽警察署では異例の通達が行われていた。

「中央通り商店街の交通整理、ですか?」

「マスコミが久慈川りせの個人情報をバラしたおかげで、昨日の夜中から違法駐車をするバカ共が出ているらしい」

 困惑気味に訊ねる足立に、遼太郎が呆れたように説明する。
 今のところは深刻な問題にまでは発展してはいないが、近日中には問題になるだろうと見ている。

「確かに、あの辺は道幅に余裕がないし、駐車場もありませんよね」

「そう言う事だ。交通課も人が足りている訳じゃないからな」

 稲羽署は規模が小さいため、慢性的な人手不足に悩まされている。
 山野真由美の事件もあり、どこも余裕がない状態だ。
 ここに来て、現役アイドルを見に来る野次馬に対応しないとならないため、人の手が確実に足りなくなってくる。
 問題ばかりが増える一方で、遼太郎達の気苦労は絶えない。

「それにな……この間、白鐘の奴が気になる事を言っていたしな」

「直斗君がですか?」

 以前、鏡に話を聞きに来た直斗を送る途中、直斗は遼太郎にある共通点を指摘した。
 それは、山野真由美の事件から続く奇妙な共通点だ。

 小西早紀、天城雪子、巽完二。

 最初の二人は山野真由美の事件の関係者としての面が注目されたが、完二についてはその限りではない。
 しかし、失踪直前に全員がマスコミによって報道されていたという共通点を直斗は遼太郎に指摘した。
 犯人は山野真由美の事件関係者だから狙ったのではなく、マスコミに報道されたから狙ったのだとしたら?
 それが事実なら、捜査の前提条件から変わってくる。

「それって、被害者の周辺を捜査しても犯人に繋がる手掛かりが掴めないって事ですか!?」

「そう言う事だ。もっとも、上の方はその事を認めたくないようだがな」

 直斗の指摘を認めようとしない思惑を思い、遼太郎がウンザリした様子で足立に答える。
 上の連中が直斗の意見を認めようとしない理由。
 それは、子供に指摘された事が正しかったと認める事による面子の心配だ。
 下らない事だと遼太郎は思う。


 事件を早期に解決したいのなら、面子を気にしている場合では無いというのに。
 直斗も直斗で馬鹿正直に意見を述べるために、上の方からは煙たがられるという悪循環だ。
 もっとも、子供である直斗にその辺を考慮しろと言う方が無理な相談だ。
 警察側が大人の対応をすれば良いのだが、どちらも子供じみているとしか言いようがない。

「確かに、直斗君も意固地になっている所がありますからねぇ……子供だから仕方がないのかも知れませんが」

 遼太郎の説明に、足立が納得した様子でそう話す。

「そのくせ、困ったときだけ泣きつくんだから、白鐘からしたら一言でも言いたくなるだろうよ」

 人の事は言えないが、不器用な生き方しかできない直斗の事が気に掛かる。
 鏡と同じ年頃なのかも知れないが、あの年であんな生き方をしていたら、いつか壊れてしまうのではないか?
 そんな心配に遼太郎は駆られる。

(それに、白鐘が最後に言った言葉が気に掛かる……)

 遼太郎は足立には話さなかった直斗の一言を思い出す。
 自宅まで送っていく車内で直斗が遼太郎に話した気がかりな内容。

『神楽さんは僕と同じく事件の被害者は皆、失踪前にテレビで報道されていると言う共通点に気付いていると思いますよ』

 直斗は鏡の事を、油断のならない人物だと遼太郎に話した。
 気のせいだと思いたいが、これまでに失踪した人物全てに鏡は関わりがある。
 事件に関与する理由も動機も無いので、偶然だと思うが刑事という職業柄、偶然という要素は排除していかなければならない。
 そうして考えると、遼太郎の刑事の勘が違和感を訴えてくる。

(全く、刑事というのは因果な商売だな。世話になっている鏡を疑わないとならないなんてな……)

 刑事という仕事に誇りを持ってはいるが、身内にも疑惑の目を向けなければならない事に僅かばかりのやりきれなさを感じる。
 遼太郎は、自身の取り越し苦労で済めばいいと願わずには居られなかった。




 何やら学校中が騒がしい。
 クラスメイト達がそわそわしている様子に、登校してきた鏡は内心で首を傾げていた。

「そう言えば、鏡は昨日のニュースは見た? "久慈川りせ・電撃休業"ってやつ」

 先に登校して陽介達と話していた千枝が鏡に訊ねてくる。
 どうやら人気が急上昇している最中での休業宣言に、疑問を感じているようだ。
 千枝の疑問に陽介が『アイドルは色々と大変なんだろうよ』と答えるが、微妙に普段と様子が違う。
 どうやら陽介はりせのファンらしく、それが微妙な態度になって現れているようだ。

「けど、昨日のニュースでりせちゃんの個人情報が暴露されたから、犯人に狙われる可能性があると思うよ」

「姉御、りせは別に昨日今日テレビに出た訳じゃないじゃん。考えすぎなんじゃねーの?」

 鏡の言葉に陽介がそう答えるが、これまでの状況から可能性が高い事を指摘する。
 そもそも、山野真由美も昨日今日テレビに出た訳ではないのだ。
 報道された事が犯行の動機だとしたら、無視する事は出来ない。
 取り敢えずは、雨の日にテレビを確認してりせが映るかどうかを確認するより他がない。
 誰も映らない事が一番なのだが、犯人が捕まっていない以上は安心は出来ない。

 鏡は、帰りにでもりせの様子を見に行った方が良いのかも知れないと内心で思った。
 りせの事を陽介達に話そうかとも思ったが、まだ犯人に狙われたとは限らない。
 先日のニュースで見た疲れた表情のりせの姿も、陽介達に話す事を躊躇わせた理由なのかも知れない。
 テレビで見た疲れた様子のりせと、先日の明るい様子のりせ。どちらも同じ"りせ"なのに、雰囲気が正反対だ。
 その事が、鏡の心に気掛かりとして残された。




 いつものようにジュネスへと買い物に来た鏡は、店の前で見知った人の姿を見付けた。
 その人物は周りに対して気を配っているような様子で、見ようによっては不審者のようにも見える。

「こんにちは、りせちゃんも買い物?」

 鏡の声に、その人物は目に見えて驚いてみせる。
 不審者のような様子を見せていたりせは、声を掛けてきた相手が鏡だと知って、安堵の表情を浮かべる。

「先輩じゃないですか、驚いて損しちゃった」

 そう言ったりせは先ほどとは違い、リラックスした様子で鏡に話し掛ける。
 そんなりせに、鏡は先ほどのりせの様子が不審者のようだった事を指摘する。
 鏡の指摘にりせは軽くショックを受けたようだが、すぐに気を取り直すとジュネスを見に来た事を鏡に話す。

「何か、久しぶりに帰ってきたら商店街が寂しくなってて、皆がジュネスのせいだって噂してたから、気になって来たんです」

 そう言って、りせは悪戯が見つかった子供のような仕草を見せる。
 その仕草が年相応の可愛らしいものに見えたので、鏡は表情を綻ばす。

「先輩こそ、ジュネスにお買い物ですか?」

 りせの質問に鏡は、晩ご飯の食材を買いによく来ている事を説明すると、りせが尊敬の眼差しを向けてくる。
 その様子が千枝や雪子が見せた様子に似ていたので料理が苦手なのかと訊ねてみる。
 鏡の質問にりせは、苦手じゃないが辛い味付けが好みなので、何でも辛くしてしまうと正直に答える。

「好みは仕方がないけれど、何でも辛くしたんじゃ食材の味を殺しちゃうよ?」

 そう言って、鏡は豆腐料理を例えに辛さしか味を感じないのなら、違う種類の豆腐をちゃんと味わえるか訊ねる。
 鏡の質問にりせは、辛さが勝ると豆腐の微妙な味の違いは確かに分からなくなると納得する。

「先輩って不思議。私のおばあちゃんと同じように、豆腐で例え話をしてくれるなんて」

 そう言って、りせは祖母に言われた言葉を思い出す。
 その言葉に鏡は『そうなんだ?』と答えるだけで、何と言われたのか詮索してくる様子もない。
 そんな所も祖母に似ていて、りせは鏡に対して親近感が沸いてきた。

「ね、先輩。昨日、私の休業のニュースは見た?」

 りせの唐突な質問に鏡は頷く。

「先輩もおばあちゃんと同じで、詮索しないんだね。どうして?」

「気にはなるけど、りせちゃんのプライベートだからね。私に聞いて欲しいのなら聞くけれど、無理に訊ねる気はないよ」

 その言葉にりせは驚いた表情を見せると、それはすぐに嬉しそうな表情へと変わる。

「先輩、お買い物に私も一緒に行っても良いですか?」

 突然の申し出に驚くも、断る理由も無いので鏡はりせと一緒に買い物に行く事にする。
 鏡からの許可を貰ったりせは喜んで、鏡の腕に自分の腕を絡めて甘えたような仕草を見せる。
 りせの行動に鏡は驚くも、嬉しそうな様子にりせの好きにさせておく。
 嫌がる素振りを見せない鏡に、りせは少し残念そうな表情を見せる。

「ちょっと残念。先輩が男の子だったら絶対、私が恋人に立候補したんだけどなぁ」

 りせの言葉に鏡は、自分が男の子でりせと恋人同士になっていた可能性の世界があるかも知れないねと、笑って答える。
 その言葉に不思議そうな表情を見せるりせに、鏡は"平行世界"という概念を説明する。

「あ、それ知ってる。漫画とかで見たけど、そうか……私が先輩の彼女になっている世界もあるかも知れないんだね」

 りせは嬉しそうに話すと、買い物が終わるまで終始上機嫌で楽しそうに過ごしていた。
 鏡はりせと一緒に買い物を済ませると、そのまま家まで送る事にした。

「先輩は事情が違うけれど、他の人は誰も私の事に気付かなかったな……」

 帰る道すがら、りせがそんな事を呟く。

「テレビの中の私は作られた私だから、本当の私には誰も気付いてくれない」

「直接の関わりが無ければ、他の人の事には感心が無いのかも知れないね」

 寂しそうに話すりせに鏡がそう答える。
 その言葉にりせは「そうかも知れないね」と呟くと、鏡の腕を取る。

「先輩はアイドルの私を知らないから、きっと先輩の目に映る私は、本当の私なんだと思う」

 りせは不安な様子で鏡に訊ねる。自分の姿が鏡の目にはどう映っているのかを。

「私には、今のりせちゃんが寂しい思いを我慢している女の子に見えるよ」

 鏡の言葉にりせは、今の自分が寂しいと感じているのかと他人事のように感じられた。
 事務所の言う通りに自分を作り、虚構で塗り固められた偶像の自分。
 いつの頃からか、自分自身までを欺き続けて、どれが本当の自分なのか分からなくなった。


 隣を歩くアイドルの自分を知らない彼女()には、本当の自分の姿しか映らないだろう。
 今のりせに一番欲しかった存在。鏡との出会いはりせにとって得難い出会いとなった。

「私、先輩と出会えて良かった」

     我は汝……、汝は我……

   汝、新たなる絆を見出したり……


   絆は即ち、まことを知る一歩なり


  汝、"恋愛"のペルソナを生み出せし時

   我ら、更なる力の祝福を与えん……

 いつもの声が鏡の脳裏に響く。
 鏡はりせの言葉に、自分もりせと友達になれて嬉しいと伝える。
 その言葉にりせは驚いた表情を見せると、同世代の友達が出来た事が嬉しいと話す。
 何でも、芸能界には同世代の友達よりも遙かに年上の知り合いの方が多いのだそうだ。

「それじゃ、先輩。送ってくれてありがとう。今度はお豆腐を買いに来てくださいね」

 丸久豆腐店に到着すると、りせがそうお礼を述べて店の中へと入っていく。
 りせと別れた鏡はそのまま堂島家へと帰宅する。
 嬉しそうに鏡を出迎えてくれる菜々子を見て、りせの事をもう一人の妹のように思っていた事に気付く。
 機会があれば、菜々子をりせと引き合わせてあげたいと、鏡は漠然と考えた。




――翌日

 一日中、天気予報の通り雨になったため、陽介達と話し合いテレビの確認を行う事にする。
 テレビに映し出された人影は、水着を着たりせのように見える。
 これまでとは違い、膝に手を当て前屈みな姿勢で何故か胸や太ももばかりが映し出されている。
 画面が消えると同時に、携帯電話の着信音が鳴り、鏡は通話ボタンを押して電話に出る。

「もしもし姉御! 今の見たか!? 今のどう見ても"久慈川りせ"だろ!」

 興奮気味に話す陽介を落ち着かせて、鏡もそう見えた事を伝える。
 同意する鏡の言葉に陽介は、明日"丸久豆腐店"に様子を見に行こうと提案する。


 朝から学校ではりせの噂で持ち切りになっていた。
 放課後になって、鏡達の教室に来た完二を交えてこれからの事を話し合う。

「丸久さん、すごい人だかりだって」

 天城屋旅館に勤めている従業員から聞いた話として雪子がそう話す。
 その言葉に、先日映った人物が本当にりせなのか半信半疑な千枝が疑問を述べる。

「間違いねえって!」

 陽介はそう言うと、テレビに映った人物の体つきを根拠に力説する。

「……なんで、あたし見んのよ」

 力説しながら千枝を上から下まで見た陽介に千枝が不機嫌そうに話す。
 千枝の指摘に慌てた陽介が、唐突に完二に同意を求める。
 もっとも、完二は芸能人とかには興味が無いようで、鏡達がりせに会いに行くのなら暇だから着いていくと気乗りしない様子だ。
 千枝と雪子は用事があるため、何かあったら携帯電話に連絡するように頼んで帰宅する。

「じゃ、俺らも行くか。言っとっけど、俺らは野次馬じゃなくて捜査だ、捜査」

 どこか言い訳じみた様子で陽介が力説する。
 大義名分を掲げる陽介に多少呆れながらも、りせの事が気になるので特に何も言わずに移動する事にする。





 商店街は普段の様子とは違い、車の行き来が多く人も多い。
 丸久豆腐店の前には、りせを一目見ようと集まった野次馬達が人垣を作っている。
 その場に車で乗り入れようとする者が居るせいか、丸久豆腐店の前では誘導棒を手に交通整理をする足立の姿があった。

「足立さん、交通課の応援ですか?」

「鏡ちゃんか。いやぁ……野次馬が次々車で押しかけて、商店街の真ん中で止まろうとするからさぁ。人手不足で駆り出されちゃって……」

 鏡にそう答えた足立は疲れ果てた様子だ。
 何でも交代しているとは言え、朝からずっとらしく流石に疲れているようだ。
 そんな足立に鏡は労いの言葉を掛ける。

「はい、失礼、ちょっと道空けて……おーい、足立!」

 そう言って、人垣から遼太郎が外へと出てくる。

「誘導の方はどうなった……って、鏡か? こんな所で何してる」

 鏡達に気付いた遼太郎が探るような視線を向けてくる。

「今日のおかずに豆腐を買いに来たのですけれど、凄い人だかりですね」

「あぁ、そうか。家で食ってる豆腐はこの店のだったな……また、間の悪い時に買いに来たもんだな」

 鏡の答えに、遼太郎が呆れたように話す。

「見ての通り、こんな状況だ。面倒事に巻き込まれないよう気をつけるんだぞ?」

 鏡は遼太郎の忠告に素直に頷くと、今日は定時で上がれるのかを確認する。
 遼太郎は少し遅くなるかも知れないので、その時には連絡を入れると答え、足立と共に交代のため引き上げていった。
 鏡達は遼太郎達が引き上げた後で、どうやって人垣を抜けて店内に移動するかを考える。

「んだよ、婆さんだけで"りせちー"居ねえじゃん……」

 人垣の中の誰が言ったのか、その言葉を切っ掛けに野次馬達がそれぞれ帰って行く。
 野次馬達が居なくなったところで、あからさまに陽介が落胆する。

「陽介、目的を間違えてない? 人垣も無くなったし、行くよ」

 呆れた様子で鏡はそう言うと、店内へと移動する。

「こんにちは、シズおばあちゃん。大変だったね」

「鏡ちゃん、いらっしゃい。本当、テレビのせいで商店街の皆様に迷惑を掛けてしまったよ……」

 鏡の言葉に、シズが申し訳なさそうに話す。

「おばあちゃん、私のせいでごめんね。店番変わるから休んで……って、先輩! 来てくれたんだ!」

 そう言って、店の奥から出てきたりせが鏡に気付くと嬉しそうな表情で鏡の側へとやってくる。
 りせの祖母は鏡達しか店内に居ないので、後の事をりせに任せて店の奥へと休みに行く。
 鏡に対して親しげな様子を見せるりせに、陽介達は呆気に取られた様子を見せる。

「姉御、りせちーと知り合いなのか?」

「少し前にね。話して無くてごめんね」

 唖然とする陽介に鏡は謝ると、りせに今日は災難だったねと話し掛ける。
 その言葉に、りせは自分の事より祖母や商店街に迷惑を掛けた事の方が申し訳ないと、気落ちした様子で話す。
 実際の所は個人情報を暴露したマスコミが悪いのだが、それでもりせにとっては気になるのだろう。

「仲良くしてるところ悪いけどさ、"真夜中に映るテレビ"の事って知ってる? 深夜番組とかじゃなくて……」

「……昨日の夜のやつ? "マヨナカテレビ"だっけ」

 鏡達のやりとりに割り込んだ陽介の言葉にりせが答える。
 りせの言葉からすると自身も実際に昨日のテレビを見ていたようで、その事実に陽介は驚く。
 知り合いから噂を聞いた事があったらしく、たまたま噂を試してみたそうだ。

「でも、昨日映ってたの、私じゃないから。あの髪型で水着撮った事ない。それに、胸が」

 その言葉に怪訝そうな表情を見せる陽介へ、りせはテレビに映っていた人物ほど胸がないと表情をひそめて話す。

「あー、言われてみれば……」

「……陽介、それはちょっと酷いんじゃない?」

 呆れたように指摘する鏡の言葉に、陽介が慌ててりせに謝る。
 りせは鏡達にマヨナカテレビに映っているのは何なのかを訊ねる。

「詳しくは私達も解らないけれど、テレビで報道された後であのテレビに映ると、誘拐される可能性があるの」

「嘘、じゃないよね。先輩は嘘をつくような人じゃないから……私の事を心配してくれたんだ?」

 鏡に心配された事が嬉しかったのか、そう言ってりせは表情を綻ばせる。
 そんなりせに鏡は、警察の方でもその可能性を考えているかも知れないからと話す。
 その上で、今日交通整理に来ていた堂島と言う刑事が自身の叔父で、りせに対して後で警告しに来るかも知れないと話す。

「叔父さんに、先輩達の事を知られたら困るの?」

 鏡の説明に鏡達が独自で調べている事を察したりせが鏡に訊ねる。

「本当は、叔父さん達に任せるのが一番なのだけどね。友達が巻き込まれたから、少しでも自分達に出来る事をやりたいの」

「解った、先輩達の事は話さないでおくね」

 りせに対して警戒するように伝えることが出来た鏡は、今晩のおかずにと生湯葉と絹ごし豆腐と油揚げを買っていく。
 鏡の購入した内容に興味を引かれたりせが、献立は何にするのかを訊ねてくる。
 今日の献立は、生ハムと青シソの生湯葉巻きと冷ややっこに味噌汁の予定だと答える。
 薬味は菜々子が食べられるか次第でワサビか梅肉にするつもりだ。
 それを聞いたりせも、機会があったら同じメニューを作ってみようかなと思案顔だ。

「それじゃ先輩、また来てくださいね」

 そう言って名残惜しそうなりせに別れを告げて丸久豆腐店を後にする。
 その際に警告してくれたお礼だと、陽介と完二にも豆腐を一丁ずつ持たせてくれた。

「にしても、姉御がりせと知り合いだったとはね……」

 巽屋の近くまで移動した所で陽介がそう零す。
 そんな陽介に鏡はりせとの出会いの経緯と、りせが騒がしくされるのを好まないと思ったので話さなかった事を謝罪する。

「先輩の言う通りッスね。こんな風に騒がしくされたんじゃ、確かに良い気はしねえな」

「それよりも、当人に出会う前はりせの事を全く知らなかった姉御に驚きだよ」

 鏡の説明に納得する完二とは対照的に、鏡が知り合うまでアイドル"久慈川りせ"を知らなかった事に驚いている。

「ま、それは置いておいて。今晩も雨のようだから、テレビのチェックを忘れないようにな」

 陽介の言葉に鏡達が頷く。
 鏡と陽介は完二に別れを告げ、それぞれ帰宅する。
 帰宅した鏡は、菜々子にワサビと梅肉を食べる事が出来るかを確認して、菜々子の分は梅肉を薬味にする事にする。
 菜々子は初めて見た生湯葉に興味深そうな視線を向けていたが、出来上がった生ハム巻きを見て手巻き寿司のようだと話す。


 鏡が帰宅して菜々子と晩ご飯を作っていた時と同じ頃。
 遼太郎が足立を伴って再び、丸久豆腐店に訪れていた。

「……ひとまず騒ぎは収まったみたいなんで、自分ら、取り敢えずこれで。今後も騒がしいようなら、署まで連絡下さい」

 豆腐を購入した足立がりせにそう話す。
 その言葉に頷くりせに、遼太郎が断りを入れて幾つか質問を行う。
 山野真由美の事件の他に、報道されてはいないが奇妙な事件が続いているため、身の回りに不審者を見なかったか?
 この質問に対して、普段からマスコミ達に騒がれているりせはいつも通りだと答える。
 その答えに遼太郎は、りせの立場だと聞くだけ無駄な質問だったと考える。


 引き続き、休業した理由や学校はどこに通うのかを訊ねると、不機嫌そうな様子を見せたがそれぞれの質問にりせは答える。
 休業の理由は疲れたからで、学校は近いから八十神高校の予定だと。

「脅かすつもりは無いんだが……貴女には、これまでの被害者と幾つか共通点がある。だから、その……」

 言い辛そうにする遼太郎にりせは、自分が狙われる可能性があるのですねと訊ねる。
 その言葉に足立は驚いたような表情を見せるが、さっきの遼太郎の話しぶりからそう考えるの妥当だとりせは話す。
 遼太郎は落ち着いて受け答えをするりせに違和感を覚えたが、身辺には注意して何かあったら連絡をしてくれとりせに話す。

「最後に、これは私的な質問なんだが、うちの姪がここでよく豆腐を買っているんだが、知っているかな?」

 そう言って、遼太郎は鏡の身体的特徴を挙げてりせに訊ねる。
 その質問にりせは鏡とは面識があるが、知り合うまでは"久慈川りせ"を知らなかった事を話す。

「アイドルじゃない自分しか知らない先輩は、私にとっては貴重な存在です」

 最後にそう言って、りせはテレビで見せるような笑顔を遼太郎達に向ける。
 その表情に見とれる足立を連れ、遼太郎は丸久豆腐店を後にする。

「それにしても以外でしたね。鏡ちゃんがアイドル"久慈川りせ"を知らないなんて」

 店から少し離れたところで足立がそう話す。
 遼太郎も意外に思ったが、鏡はあまりテレビを見るような性格をしてない事に気付く。
 どちらかというと娘の菜々子が見たい番組を一緒に見るくらいで、自分で何かの番組を見ている姿を見た事がない。
 もっとも、仕事の関係で長く共にいる訳ではないのだが。

「何か引っ掛かるんだよな……」

 具体的にどこがとは言えないが、先ほどのりせとのやりとりに、遼太郎の刑事の勘が警鐘を鳴らす。

「彼女が落ち着いているからですか? マスコミ相手にしてるんだし、自分達にも冷静に対応出来ても不思議じゃないですよ」

「だと思うんだがなぁ……」

 気のせいだと話す足立に、遼太郎は釈然としないものを感じつつもそう答える。
 早紀から連続して一時行方不明になった事件が三件。
 学校関係者の捜査も思わしくなく、何も出てきてはいない。
 その状況に県警が介入してくる事を危惧する足立へ、遼太郎がそんな心配の暇があるなら捜査を続けろと釘を刺す。



 遼太郎が帰宅したのは、定時上がりよりも少し遅くなった時間だが、三人で一緒に晩ご飯を食べることが出来た。

「……鏡。お前、久慈川りせと話していて、何か気になる事は無かったか?」

 食事中、遼太郎がそんな質問を鏡に向けてくる。
 その質問にりせと知り合って日が浅いので、よく解らないが疲れている様子が気にはなったと答える。
 逆に鏡から気になる事でもあったのかを訊ねられた遼太郎は、今日の商店街での様子で心配に思ったからと言葉を濁す。

「お父さん達、りせちゃんに会ったの!?」

 二人のやりとりに、菜々子が驚いて訊ねてくる。

「今度、一緒にりせちゃんに会いに行こうね」

「うんっ! 絶対だよ!!」

 そんな菜々子に鏡がそう約束すると、凄く嬉しそうな様子で菜々子が鏡に念を押す。


――その日の深夜

 またしてもマヨナカテレビに人影が映る。
 以前と同じく水着姿で胸や腰が強調された内容だが、今回は表情が鮮明に映っていた。
 その人物はやはり"りせ"だが、本人からは否定されている。
 そうなると、今映っているりせは抑圧されたもう一人のりせの可能性があるが、当人はまだこちら側に居るはずだ。
 画面が消えると同時に、陽介から携帯電話に連絡が入る。

「映ってたの、"久慈川りせ"で当たりだったな! けど、これまでと同じく当人じゃ無いようだな。本人が否定してたし」

 陽介の言葉に鏡は同意するも、ハッキリとテレビに映ってしまった事に対する対策を明日、皆で話し合う事にする。
 今日の遼太郎達の様子で、警察の方でも動いている可能性があるから注意が必要だと念を押す。

「そうだな、俺達が疑われて動きが取れなくなったらマズイからな。それじゃ姉御、また明日な!」

 そう言って、陽介は電話を切り、鏡も明日に備えて早めに休む事にする。
 今度こそ犯人を見つけ出すのだと決意して。




2011年05月25日 初投稿
2011年05月26日 本文修正


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