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No.26454の一覧
[0] PERSONA4 PORTABLE~If the world~ (もしも番長が女だったら?) ペルソナ4再構成[葵鏡](2015/04/15 09:13)
[1] 【習作】PERSONA4 PORTABLE~If the world~[葵鏡](2014/06/27 00:21)
[2] 転校生[葵鏡](2014/07/22 03:57)
[3] マヨナカテレビ[葵鏡](2014/06/27 00:23)
[4] もう一人の自分[葵鏡](2011/04/15 22:00)
[5] ベルベットルーム[葵鏡](2014/06/27 00:24)
[6] 雪子姫の城[葵鏡](2014/06/27 00:25)
[7] 秘めた思い[葵鏡](2011/06/04 08:51)
[8] 秘めた思い 【千枝】[葵鏡](2012/08/06 08:13)
[9] 籠の鳥 【前編】[葵鏡](2011/06/04 08:52)
[10] 籠の鳥 【後編】[葵鏡](2011/06/04 08:54)
[11] コミュニティ[葵鏡](2011/04/16 16:45)
[12] 【幕間】 菜々子の調理道具[葵鏡](2011/05/20 15:14)
[13] ゴールデンウィーク[葵鏡](2011/04/22 15:50)
[14] 迷走[葵鏡](2011/04/29 10:02)
[15] 熱気立つ大浴場[葵鏡](2011/06/14 22:12)
[16] 男らしさ、女らしさ[葵鏡](2011/05/10 18:55)
[17] 林間学校[葵鏡](2011/05/14 17:33)
[18] 虚構と偶像[葵鏡](2011/05/26 16:13)
[19] 特出し劇場丸久座[葵鏡](2011/06/11 01:37)
[20] 覚醒する力と新たな目覚め[葵鏡](2014/07/10 01:05)
[21] 齟齬と違和感  6月22日 お知らせ追加[葵鏡](2011/06/22 09:39)
[22] 思いがけない進展[葵鏡](2011/06/26 09:41)
[23] ボイドクエスト[葵鏡](2011/07/13 02:24)
[24] ひとまずの解決[葵鏡](2011/07/19 20:52)
[25] 探偵の憂鬱[葵鏡](2011/07/31 10:07)
[26] 三人目の転校生[葵鏡](2011/08/14 09:27)
[27] 修学旅行[葵鏡](2011/08/22 09:21)
[28] 【幕間】 お留守番[葵鏡](2011/10/10 07:24)
[29] 意地と誇り[葵鏡](2011/10/30 23:50)
[30] 秘密結社改造ラボ[葵鏡](2011/11/30 13:22)
[31] 最初の一歩[葵鏡](2011/11/30 13:24)
[32] 光明[葵鏡](2011/12/15 06:10)
[33] 父と子と[葵鏡](2012/01/10 17:33)
[34] 菜々子の誕生日[葵鏡](2012/03/04 00:24)
[35] 暗雲[葵鏡](2012/07/16 18:06)
[36] 脅迫状[葵鏡](2012/03/10 07:52)
[37] 文化祭 前編[葵鏡](2012/04/15 20:20)
[38] 文化祭 後編[葵鏡](2012/05/25 20:18)
[39] 陽介の文化祭 前編[葵鏡](2012/11/06 22:14)
[40] 陽介の文化祭 後編[葵鏡](2012/11/06 22:16)
[41] 天城屋旅館にて[葵鏡](2012/05/25 20:16)
[42] 忍び寄る影[葵鏡](2012/06/16 16:22)
[43] 天上楽土[葵鏡](2014/06/27 00:33)
[44] 救済する者、される者[葵鏡](2014/06/27 00:35)
[45] 彼女が去った後で[葵鏡](2014/06/27 00:41)
[46] 想いの在処[葵鏡](2014/06/27 00:41)
[47] 誓いと決意[葵鏡](2014/06/27 00:43)
[48] 繋いだ絆の輝き[葵鏡](2014/06/27 00:49)
[49] 真犯人[葵鏡](2014/06/27 00:52)
[50] 禍津稲羽市[葵鏡](2014/07/28 16:12)
[51] アメノサギリ[葵鏡](2015/01/25 09:33)
[52] 飛翔、再び[葵鏡](2015/04/15 09:11)
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[26454] コミュニティ
Name: 葵鏡◆3c8261a9 ID:f4f8d2eb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/16 16:45
――――戦う事が全てじゃない

       他者との関わりもまた大切な事

     “絆”は目に見えないものであるけれど

   人が生きていく上で必要なモノなのだから……




 雪子を救出してから二日後。
 千枝の話だと、明日には学校に出てくる事が出来るらしい。
 その事を鏡達に伝えている時の千枝は本当に嬉しそうな表情で語っていて、鏡達もつい嬉しくなる。


 千枝は今日も学校が終わってから雪子の所へ顔を出すそうだ。
 陽介もジュネスでバイトと言う名の家事手伝いだとかで、放課後は急いで帰っていった。


 転校してきて初めて迎える一人の放課後。
 鏡は運動部の部活募集が始まっていた事を思いだし、折角だからと見学に向かう。
 体育館では女子バレー部が、グラウンドでは女子テニス部がそれぞれ部活動を行っているようだ。
 両方を見学してみて、活気があるように見えたテニス部へと鏡は入部する事に決める。
 入部手続きのため、近くにいた部員に声を掛けてみる。

「ん? ひょっとして、入部希望の人?」

 そう言って、鏡を珍しそうに見ている少し気の強そうな女生徒に、鏡は入部の意志を伝える。
 鏡の言葉に女生徒は嬉しそうになると、一年の部員を呼んでファイルを持ってこさせる。

「じゃ、この用紙にクラスと氏名を書いて……へぇ、神楽さんって言うんだ。噂の転校生が入部してくれて嬉しいよ」

「……噂?」

 訝しげな表情を見せる鏡に女生徒は、転校初日にモロキンに噛みついた怖いもの知らずの転校生の噂を話す。
 どうやら鏡が思っている以上に、転校初日の出来事は学校中に知れ渡っているようだ。

「実をいうと、私も気になっていたんだ。あのモロキンを言い負かした転校生が。あ、私は同じ二年の五十嵐紫( いがらし ゆかり )。よろしくね」

 自分ばかりが話していた事に気付いた紫が自己紹介をする。
 その屈託のない様子がどことなく千枝に似ていて、鏡の表情が綻ぶ。
 今日は入部初日という事で軽く流す程度の運動だったが、鏡の身体能力の高さに紫が目を丸くする。

「ね、神楽さんって本当にテニスをするのは、今日が初めてなの?」

「そうだけど?」

 紫の質問に不思議そうな表情で鏡が答える。その言葉に、いつの間にか集まってきていた他の部員達から歓声が沸き起こる。
 所々で聞こえてくる声の中に『これで今年は月高に勝てる!』などといった奇妙な単語が混ざっていた。

「はいはい、皆。嬉しいの解るけど、落ち着こうね!」

 紫が手を叩きながら他の部員達を静めていく。状況の飲み込めない鏡に紫は苦笑を浮かべると、騒ぎの理由を鏡に説明する。
 何でも二年ほど前から“月光館学園高等部”の女子テニス部と、対校試合を毎年行っているらしい。
 接戦するほど両校の実力は拮抗しているそうなのだが、去年は惜しくも敗れたらしい。
 そのため、今年は雪辱を果たすべく部員一同やる気を出しているのだそうだ。

「部長! これで今年は月高のウザイ顧問を黙らせる事が出来ますね!!」

「部長?」

「あ、神楽さんにまだ言ってなかったか。うちの学校は三年でなく二年が部長を務める事になってて、私が今年の部長なの」

 下級生と思わしき部員から部長と呼ばれた紫が、不思議そうに自分を見る鏡にそう説明する。

「向こうの子達は皆、良い子なんだけど、顧問の“叶”ってのが嫌なヤツでね。ろくにテニスの事を知らないくせに、好き勝手言ってくるんだよ」

 先方の顧問はどうやら部活動より勝ち負けにしか拘ってないらしく、去年は皆の前で暴言を吐いたらしい。
 その暴言を受け、こちらの顧問である生物担当の“柏木”教師がおかしなやる気を出したらしく『打倒! 月高!』が今年のスローガンらしい。
 実際に見た事がない下級生達も、上級生達から何度も聞かされているのか、叶という顧問に対する認識は一致しているようだ。
 紫が言うには柏木も叶と同じく部活動には関心が無い方だが、負けるのが我慢ならない性格らしい。


 互いに問題を抱えた顧問を持つ者の連帯感もあって、月高の女子テニス部の皆とは仲が良いそうだ。
 交流会は夏休みに入った最初の週に行われ、今年は七月最後の週末に行われるとの事。

「私達も頑張るけど、神楽さんにも期待するよ」

「あ、出来れば名前の方で呼んで。そっちの方が慣れてるから」

「そう? じゃ、私も紫って呼んで」

     我は汝……、汝は我……

   汝、新たなる絆を見出したり……


   絆は即ち、まことを知る一歩なり


  汝、“剛毅”のペルソナを生み出せし時

   我ら、更なる力の祝福を与えん……

 鏡の脳裏に声が響くと共に、心の中を暖かいモノが満たしていく。
 今日の部活動を終えた鏡は、紫と一緒に帰宅する。
 丸久豆腐店に買い出しに行く事を紫に話した所、商店街の近くに住んでいるので途中まで一緒に帰ろうという話になったのが理由だ。

「へぇ、鏡がいつもご飯の用意をしているんだ。面倒じゃないの?」

「そうでも無いよ。従妹の菜々子ちゃんが手伝ってくれるから、逆に楽しいし」

「家の弟も、鏡の従妹の子みたいに可愛げがあればなぁ……」

 鏡からの話を聞いて、心底羨ましそうに紫が話す。
 紫には菜々子と同い年の弟が居るらしく、いつも生意気な事ばかりを言って困っているのだとか。
 互いの事を話しながら、丸久豆腐店に到着した二人は一緒に店内へと入る。

「あら、紫ちゃん、いらっしゃい。そちらのお嬢さんも、また来てくれて嬉しいよ」

「こんにちは、今日は友達の付き添いで来ちゃった」

「こんにちは。この間、こちらでいただいた豆腐が美味しかったので、また買いに来ました」

 鏡の言葉に老婆は『そうかい、そうかい』と表情を綻ばしている。
 今日は豆腐ハンバーグを作る予定なので、木綿豆腐を三丁ほど購入する。

「鏡ちゃんも紫ちゃんも、また来ておくれね」

 老婆に見送られ、丸久豆腐店を後にした鏡達は商店街北側へと移動する。
 総菜大学前の道を進めば紫の自宅があるらしく、鏡もその道を通って帰るからだ。

「げっ、姉ちゃんだ」

 総菜大学の前を歩いていた男の子が鏡達見るなり、そう零す。
 その声を耳ざとく聞きつけた紫は男の子の側まで一気に近づくと、男の子の耳たぶを摘み上げる。

「痛いっ! 姉ちゃん、痛い、痛いって!!」

「武、今あんた私を見て『げっ』って言ったわよね? どういうつもりかなぁ?」

 男の子の耳たぶを摘み上げて低い声でそう話す紫は、その実、目が笑っている。
 おそらくこういう遣り取りはいつもの事なのだろう。
 鏡の予測通り、男の子がすぐに根を上げ紫に謝ると、満足そうな表情で男の子の耳たぶを放す。

「鏡、これがさっき話した弟の( たける )。武、こっちは姉ちゃんの友達の鏡ね」

「武君、私は神楽鏡。よろしくね」

 鏡はしゃがんで武と目線を合わせると自己紹介をする。

「五十嵐武、よ、よろしく」

 鏡の行動にしどろもどろになりながらも武は鏡に答える。
 その様子に紫は『いっちょ前に照れてんじゃ無いわよ』と、武をからかう。
 からかわれた武は顔を赤くして紫に抗議するが、形勢は不利なので機嫌を損ねてどこかへ行ってしまった。

「紫、流石にからかい過ぎじゃないの?」

「大丈夫、あれくらいで参るようなヤワな弟じゃないわよ」

 鏡の言葉に紫は自信を持って答える。あれも一つのコミュニケーションの取り方なんだなと気付いた鏡は、苦笑気味になる。
 紫と別れ、鏡はそのまま真っ直ぐに堂島家に戻る。帰宅すると菜々子がいつものように笑顔で鏡を出迎えてくれる。
 今日の献立は豆腐ハンバーグにオムライス、そして野菜スープだ。

 鏡が器用にオムライスを卵でとじる様子を菜々子が目を丸くして見ている。
 流石に、菜々子が降るにはフライパンが大きすぎるので、こういった作業は鏡が行っている。
 とはいえ、やりたそうな視線を菜々子が向けているので、だいだら.の親父に相談してみようかと鏡は考える。
 親父の主旨に反するかも知れないが、相談する価値はあると思う。


 いつものように菜々子と過ごし、互いに今日あった事を話し合う。
 鏡がテニス部に入った事を聞いた菜々子は、我が事のように喜んでくれた。
 話し足りないのか、菜々子が今日は鏡と一緒に寝たいと言ってきたので、鏡は久しぶりに菜々子と一緒に眠る事にする。
 最近になって、菜々子も自分の友達の事を鏡に話すようになってきて、菜々子の話しからその様子が思い浮かべるようになってきた。
 楽しそうに語る姿を見て、鏡は嬉しくなる。出会った当初に比べて、菜々子の表情が生き生きとしているからだ。


 話疲れて眠ってしまった菜々子の寝顔を見て、鏡は表情を綻ばす。
 一人っ子だった鏡にとって、菜々子の存在は本当の妹にも等しいほど大切な存在になっている。
 稲羽市で起こっているテレビを使った連続殺人未遂は、本当の意味ではまだ解決していない。
 犯人を捕まえない限り、今後もテレビの中に放り込まれる被害者が出てくる可能性がまだ残っているのだ。
 その被害者に菜々子がならないとも限らない。目の前で穏やかに眠る少女の平穏を守るためにも早く犯人を見つけ出さないと。
 鏡は改めてそう思い、眠りに付くのであった。





 翌日。
 いつものように途中まで菜々子と一緒に登校した鏡が学校に到着すると、雪子が校門前で立っていた。

「あ、お、おはよ」

「身体の方はもう大丈夫?」

「う、うん……今日から学校、来るから……よ、宜しくね。なんか、みんなに、すごく迷惑かけちゃったよね。ごめんね……」

「雪子のせいじゃないでしょ。それと『ごめん』じゃ、無いと思うよ?」

「そうか、“ありがとう”だよね」

 鏡の言葉に雪子の表情が明るくなる。雪子と教室へ向かう中、女将である母親が職場復帰をしたと雪子が話す。
 仲居さん達もすごく協力してくれて、以前よりも上手く回っているそうだ。
 その様子を見て、雪子は今まで自分一人が頑張らないと駄目だと無理をしていたと感じたらしい。
 肩の荷が下りたのか、今では自分の事を冷静に考えられるようになったと雪子は語る。

「で、でも、なんか恥ずかしいな……」

 向こうの世界で、鏡達に自分自身でさえ見たくないと思った事を見られた事を思い出し、雪子が顔を赤らめる。
 そんな雪子に、鏡は気にする事はないと話す。誰にでも見たくない姿や見せたくない姿はあるのだからと。

「雪子ー!」

 雪子と話しながら歩いていると、後ろから千枝の呼び声が聞こえてくる。二人は足を止め、千枝が追いつくのを待つ。
 鏡達に追いついた千枝は、嬉しそうな表情で雪子が復帰した事を喜んでおり、雪子も久しぶりの千枝との会話を楽しんでいる。
 三人が教室に着くと、先に来ていた陽介が三人に気付き、軽く手を挙げている。

「三人ともおはようさん。天城も無事に出てこれて良かったな」

「花村君も、あの時はありがとう」

「気にすんなって。それよりも放課後、これまでの事を皆で話し合いたいんだが、良いか?」

 雪子が復帰してきたので、陽介が三人に提案する。
 もちろん、三人に異存は無いので放課後、校舎屋上で話し合う事を取り決める。
 予鈴が鳴り、鏡達はそれぞれ自分の席へと戻り、一限目の準備を始める。




――放課後

 雪子がカップ麺を持って遅れてやってくる。

「お待たせ。千枝はおそばの方だよね」

 雪子が手に持っているのは“赤いきつね”と“緑のたぬき”で有名なカップ麺だ。
 カップ麺から漂う香りに、千枝は嬉しそうな表情を見せる。

「部活前のこの一杯の為に生きてるね、うん。これ、あとどんくらい待ち?」

「全然、まだよ」

 千枝の言葉に雪子が若干呆れ気味で答える。

「で、なんだっけ……あ、雪子に事情を聞くんだったよね」

「なぁ、天城さ、ヤな事ムリに思い出さす気は無いんだけど……改めて、聞かせて欲しいんだ」

 本来の目的を思い出した千枝の言葉を引き継いで、陽介が雪子に訊ねる。
 攫われた時の事は何も覚えていないのかと。
 陽介の言葉に雪子は表情を曇らせて、時間が経つ程よく分からなくなってきたと話す。
 ただ、玄関のチャイムが鳴って、誰かに呼ばれたような気がすると説明する。
 もっとも、その後に気付いた時には古城の中だったそうだ。
 申し訳なさそうに話す雪子に、千枝が『謝らなくて良い』と雪子を慰める。

「けど、やっぱその来客ってのが犯人?」

「どうだろうな……もしそうなら相当大胆だぜ。玄関からピンポーンなんてさ」

「警察の方でも目撃者を捜しているはずだけど、今のところ、該当者は見つかって無いようね」

 千枝と陽介の言葉に鏡がそう付け加える。
 犯人はかなり用心深いのだろう、すぐに身元が割れるような姿では出歩かないだろうからと、陽介は推測する。


 陽介の推測に、千枝が犯人の目的は何なのだろうかと疑問を述べる。
 流石に理由は犯人しか分からないが、一つだけハッキリした事がある。
 人が次々と“向こう”に行っているのは偶然でなく、こちら側に居る誰かが攫ってテレビに放り込んでいるのだ。
 これは間違いなく“殺人”だ。

「あ、そうだ、言ってなかったな」

 そう言って陽介は千枝と雪子に、鏡と二人で犯人を挙げる事にした事を伝える。
 正直な所、この事件を警察が解決するには無理があるが、自分達には“力”があるので大丈夫だと語る。

「とはいえ、犯人を見つけて証拠を掴んだら、警察に通報するのが一番だけどね」

 事態を軽く考えている節のある陽介に鏡が釘を刺す。特殊な“力”を持っているとはいえ、自分達は一介の学生に過ぎない。
 犯人を逮捕するには、警察の力がどうしても必要なのだ。

「あたしもやるからね! あんな場所に、人を放り込むなんてさ。も、絶対ブチのめす!」

 千枝の言葉に少し考える素振りを見せた雪子は、鏡に視線を向けると自分も手伝うと申し出る。
 どうしてこのような事が起きているのかを知りたい。
 自分が誰かに殺したいほど憎まれているのだとしたら、それを知らないといけない。もう、自分から逃げたくはないからと。

「おっし! じゃあ、全員で協力して、犯人を見つけてやろーぜ!」

 雪子の言葉に陽介が力強く宣言する。

      我は汝……、汝は我……

      汝、絆の力を深めたり……


  絆を深めるは即ち、まことを知る一歩なり


   汝、“愚者”のペルソナを生み出せし時

     我ら、更なる力の祝福を与えん

 鏡の脳裏に声が響き、心を力が満たしていく。

「でも、そうやって犯人捜す? 今んとこ、手掛かり無しだよね」

「狙われたの、私で三人目だけど、これで終わりなのかな? もし、次に狙われる人の見当が付くなら、先回りできない?」

「先回りか……なるほどな、いいかも。じゃあ、今までの被害者の共通点を挙げてみようぜ」

 陽介はそう言うと、被害者の名前を挙げていく。

 一人目、女子アナの“山野真由美”
 二人目、先輩である“小西早紀”
 三人目、クラスメイトの“天城雪子”

 三人に共通するのは、いずれも女性である事。
 その事実に千枝は憤慨する。

「後、これは? “二人目以降の被害者も、一人目に関係している”」

「あ、そっか、雪子も小西先輩も、山野アナと接点があった……」

 二人の言葉に雪子が、“山野アナの事件と関わりのあった女の人”が狙われる条件なのかと話す。
 今の状況だと、そう考えるのが筋だと思われると陽介は言う。


 そして次にもし、誰かが居なくなるとすると“マヨナカテレビ”に映る可能性が高い事。
 一番重要なのは、当人が居なくなる前に映る事だ。

「まるで、これから“誘拐します”って予告をしてるようね」

「あれが何なのかは分かんないけど、今は当てにするしかないな」

 鏡の言葉を引き継いで陽介がそう話す。
 今の時点で、次を予測する手掛かりは“マヨナカテレビ”しか無さそうだ。
 鏡達は天気予報を確認して、雨の夜に忘れずにテレビを確認する事で意見を一致させる。

「ところでソレ、もう出来てんじゃね?」

 陽介がカップ麺に視線を向けて千枝達に話す。
 言われて気付いた二人が蓋を剥がし、カップ麺を食べ始める。

「な、先生、ヒトクチ! 取り敢えず、ヒトクチ味見!」

「陽介、流石にそれはどうかと思うんだけど?」

 千枝にねだる陽介に鏡が半眼になって突っ込む。

「だってよ、姉御、あんな美味そうな香りがしたら食べたくなるじゃねえかっ」

「……間接キスがしたいのなら止めないけど?」

 鏡のその一言で、陽介と千枝が硬直する。

「あぁ……流石にそれは拙いよな……うん。里中、悪い、今のは聞かなかった事にしてくれ」

「う……うん」

 陽介の言葉に千枝が歯切れの悪い返事を返す。
 気のせいか、どことなく顔が赤くなっているようにも見える。

「取り敢えず、クマから雪子の眼鏡を貰いに、ジュネスへ移動した方が良さそうね」

 千枝達が食べ終わるのを待って、鏡達はジュネスへと移動する。
 小腹が空いたという陽介の言葉に、フードコートで軽く何かを食べてからクマに会いに行く事にする。
 ついでだからと、先ほどの話の続きをしようという事になった。

「でさ、さっきの話だけど、結局、犯人ってどんなヤツなんだろ?」

「山野アナだけ見れば、動機は恨みっぽいよな。不倫相手の奥さんとかさ」

 しかし、実際の所は柊みすずにはアリバイがあり、そもそも不倫の情報をリークしたのは柊みすず本人だ。
 千枝からの指摘に陽介は驚くと、二件目となる早紀の件を挙げる。早紀は一件目の死体発見者で、犯人が同じなら口封じの可能性がある。
 陽介もその可能性を考慮しているのだが、犯人はテレビに入れただけで警察に捕まるほどの証拠があるとは思えない。
 それに、早紀はここ一年の記憶を失っているので、証拠があったとしても今ではもう真相は闇の中だ。
 そうやって皆で考え込んでいると、鏡の耳に聞き慣れた声が聞こえてきた。

「しっかし、田舎は退屈そうだと思ってたら、信じられない事ばっかだなぁ……おっと、新メニュー発見伝」

「……足立さん?」

「鏡、知り合い?」

 足立も鏡の声に気付いたのか、鏡達の側へとやってくる。

「あれ、堂島さんトコの鏡ちゃん……? あはは……えっと、そうだ、ちょうど良かった、うん」

 気まずそうな表情になった足立が、今日は定時で遼太郎が上がれそうなので、菜々子にも伝えて欲しいと言ってくる。

「……足立さん、叔父さんにはサボっていた事は言いませんから、そんなに挙動不審にならないで下さい」

「あ、あはははは……鏡ちゃん、厳しいなぁ。ども、足立です。堂島さんの部下……ていうか相棒ね」

 鏡の指摘に苦笑いを浮かべた足立は、陽介達に気付いて自己紹介をする。

「お仕事、大変そーっすね?」

「え、ああ、世間は面白がってるみたいだけど、僕らはそういう訳にもいかないからね」

 陽介の言葉に、困った表情で足立が答える。
 そんな足立に千枝が、事件はやはり恨みによるものなのかと訊ねる。
 千枝の指摘に足立はその辺も踏まえて捜査はしているが、今のところは有力な情報は得られていないと話す。
 その上、遺体の第一発見者である早紀が誘拐された事や記憶を無くしてしまった事も陽介達に吐露する。

「……足立さん、守秘義務」

「あっと、また喋りすぎ? い、今の内緒ね……まあ、犯人は警察が必ず捕まえるから。それじゃ!」

 冷めた目で指摘する鏡の視線に居たたまれなくなった足立は、逃げるように去っていく。
 その様子に、千枝が確かにあれでは警察には任せてられないなと話す。
 陽介の食事も終わったので、鏡達はクマに会いに向こう側へと移動する。




 自分の意志で初めて訪れたテレビの中の様子に、雪子が驚きの声を上げる。
 あの時はよく分からず周りをじっくり観察する心のゆとりも無かったので、あの時とはまた違った印象を受ける。
 鏡達が来た事に気付いたクマが、可愛らしい足音を立てて鏡達に近づいてきた。

「あの時のクマさん……夢じゃなかったんだ」

「ユキチャン元気? クマね、ユキチャンとの約束守って、いいクマにしてた」

「そっか、えらいえらい」

「ま、まあ、このクマきちの為にも、犯人を見つけようって事になってさ」

 若干引き気味の陽介の説明に、雪子はクマに自分も手伝う事になった事を伝える。
 鏡はクマに雪子の分の眼鏡が有るかを訊ねたところ、ちゃんと用意しているとクマは答える。
 雪子がクマから手渡された眼鏡はツーブリッジのナイロールタイプで、赤いフレームが雪子のイメージに合っている。
 手渡された眼鏡を掛けると、周りの霧が全くないクリアな視界が広がる。

「ところでさ、なんでそんなに眼鏡を持ってるワケ?」

「……クマの手作りなんだと」

 ふとした疑問をクマに聞いた千枝に陽介が答え、その説明に初めてその事実を知った陽介と似たような反応を千枝が返す。
 クマはこの世界に長く住んでいるため、快適に過ごす工夫は怠らないのだという。
 そして、クマの場合は眼がレンズで出来ているためクマ自身には眼鏡が必要ないとの事。

「ていうか、その手で良くこれだけのモンが作れるよな」

「失敬な! クマは、凄く器用クマよ! 見るクマ! 指先がこんなに動いてる!」

 そう言って、陽介にクマは自分の指先を見せつけるが、手の先端は微妙に動いていてサッパリ分からない。

「分からんわ!」

 あまりの微妙さに、陽介がクマを突き飛ばす。その衝撃でクマから落ちた物を雪子が拾い上げる。
 クマはそれを“ちょっぴり失敗した眼鏡”というが、思いの外、雪子の琴線に触れたのか、雪子が嬉しそうにその眼鏡に付け替える。

「ちょ、ちょっと雪子?」

「あはは、どう?」

 反応に困る千枝に、雪子が嬉しそうに聞いてくる。
 それは、パーティグッズで使われる鼻付き眼鏡だった。
 レンズは渦巻き状態になっており、どう見ても使い物になるようには見えない。
 とはいえ、雪子には好評で気に入ったのかと訊ねるクマに、鼻ガードが付いているので、これが良いと雪子はクマに言う。

「おやめなさい!」

「クマったなー、それ、本物のレンズ入ってないクマよ。こんな事なら、ちゃんと用意しておけば良かったクマ」

 千枝とクマの言葉に、雪子は心底残念そうな声を上げてその眼鏡を外す。
 そして、外した眼鏡を次は千枝の番だと言って手渡す。眼鏡を受け取った千枝は仕方がないなとばかりに眼鏡を取り替える。

「う……ぷぷっ! あはは、あははっはっはっはっは!」

 眼鏡を取り替えた千枝を見て、雪子が笑いの壺に嵌ったのか突然、お腹を抱えて笑い出す。

「あ、天城さん……?」

「千枝、雪子って笑い上戸?」

「うん、雪子の大爆笑……あたしの前以外では無いと思っていたのに……」

 唖然とする陽介。雪子を指さして鏡が千枝に確認を取ると、呆れたように千枝が肯定する。
 その間も雪子は笑い続けている。

「こんな眼鏡じゃ、捜査になんねーっしょ!? てゆーか、どう考えたって鼻はウケ狙いじゃん!」

 千枝の指摘に、クマは皆が自分を置いていくので、暇すぎてこんな事になるのだと憤慨する。

「ま、まあでも、天城が元気出たみたいで良かったよ、うん……」

 何とも微妙な表情で陽介がそうフォローするも、雪子は笑い続けて苦しそうだ。
 鏡は千枝に取り敢えず鼻眼鏡を外して、元の眼鏡に換えるように勧める。
 その指示に従った千枝が元の眼鏡に交換しても雪子は笑いが収まらず、それからしばらくの間ずっと笑い続ける事になった。


 雪子にもシャドウとの実戦を経験させようと陽介が提案するが、雪子の装備が無い為だいだら.へと向かう。
 ついでだからと、この間の雪子救出の際に入手した素材も持ち込む事となった。
 持ち込んだ素材で防具が幾つか作れるそうなので、防具は後日改めて購入する事として、今回は“能扇”を購入すだけに留める。

「親父さん、一つ相談が有るのですが」

「何でぇ、言ってみな」

 折角なので、鏡は菜々子用の調理器具が作れないか、親父に相談してみる。

「なるほどなぁ、何て感心する嬢ちゃんだ。よし、分かった。ちょうど良い素材が残っているから、作ってやろう!」

「ありがとうございます」

 鏡の説明を聞いた親父は、子供ながらに手伝いをしたいという菜々子の気持ちを汲んで快く引き受ける。
 必要な要素は“軽くて丈夫”そして“子供が使って安全な物”である。ある意味、矛盾する課題に親父のやる気が漲ってくる。
 今から作業に取り掛かり、明日には仕上げておくからと親父が言うので、鏡達はだいだら.を後にする。

「それにしても、本当に菜々子ちゃんは良い子だねぇ」

 先ほどの話を聞いた千枝が、感心した様子で鏡に話し掛ける。
 食べる事が専門の千枝からすると、小学生で家事の手伝いをする菜々子はそれだけで尊敬の対象になる。
 雪子も千枝の意見に同意らしく、まだ会った事のない菜々子に会うのが楽しみだと話す。

「そうだな、今度みんなで菜々子ちゃんと一緒に遊ぶってのも悪くないな」

 陽介の提案に皆が頷く。クマに会わせるのが一番、菜々子の喜びそうな事だと思われるが、流石にテレビの中へは連れて行けない。
 ジュネスが好きだと菜々子は言っているので、皆の都合が合えばジュネスのフードコートで何か食べるのも良いだろう。

「それじゃ、私はこれで。また明日ね」

 そう言って、雪子は天城屋旅館行きのバスに乗って帰って行った。
 千枝もこのまま帰宅するそうなので、今日の所はここで解散する事となった。


 今日の献立は冷蔵庫に入っている鶏肉と卵で親子丼でも作ろうかと鏡は考える。
 一緒に味噌汁も作ろうと思い、鏡は丸久豆腐店に今日も寄って帰る事にした。
 昨日に引き続き豆腐を買いに来た鏡に店のおばあちゃんは『おまけよ』といって、嬉しそうにがんもどきをサービスしてくれた。
 鏡は貰ったがんもどきで、甘めの味付けをした煮物を献立に加える事にする。


 菜々子用の調理道具の目処も立ったし、これで菜々子が喜んでくれたら良いなと思い、鏡は帰路につく。
 遼太郎も今日は定時に帰ってくるそうなので、賑やかな晩ご飯になりそうだと、鏡は表情を綻ばせるのであった。




2011年04月16日 初投稿


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