「おもしろい……」
砂煙が舞い、崩れた壁の中からマッスル神の笑みをこらえたくぐもった声が聞こえてくる。
当然、まどかもこの程度で殺れたとは思っていないため驚きはない。
「こんなにも血が騒ぐのは久しぶり……、いや初めてだろうな」
マッスル神の独白。
ゆっくりと起き上がり、歩みよる中で彼の脳裏には過去の戦いが思い起こされている。
過去、最も血が騒いだ戦いは“奴”との戦いだった。
互いの勝利がチームの勝利を賭けた死闘。
だが、それはある意味では純粋な戦いとは言えなかった。
立っていた土俵が違う。
肉体と肉体での勝負ではありえなかった。
ゆえに、不満足な部分もあった。
しかし、今は違う。
互いの体躯に違いはあれど、純然たる肉体のみでの戦い。
小細工の入る余地のない肉体の競い合い。
それが血が騒がぬわけがない。
「はははははは!!!」
高笑うマッスル神。
「さあ、続きといこうか」
「うん!」
まどかは真正面からマッスル神の視線を受け入れ、構えなおす。
もう小細工など必要ない。
必要なのは互いの持てる肉体への信念と信仰。
「うおおおおお!!」
「やあああああ!!」
マッスル神とまどかの掛け声が重なる。
奇しくも二人のファーストアタックは右拳を固めたストレート。
二人の拳は互いの頬に突き刺さるが、吹き飛ぶこともなく次の攻撃へと移行する。
見た目からして、純然たるリーチの差があったが、まどかは持ち前の身軽さと小さな体躯を利用し、飛ぶようにして拳を叩きつける。
マッスル神はリーチの長さを利用して近づけないようにして拳を振るうが、身軽さゆえに避けられるならば自分が食らう瞬間にあわせればいいと戦闘経験から答えを導くことでカウンターを併用した戦闘スタイルへと変える。
「うおおおおお!」
「はあああああ!」
どごん、どごんと、肉を穿ち、破壊する音が鳴り響き、血と汗が飛び散り、壮絶さを増す。
一撃、一撃がぶつかり合い、衝撃波を作り出すほどのそれは空恐ろしいものがあった。
ちなみに、マミのスカートはめくれっぱなしである。
気絶しているさやかとほむらのスカートもめくれっぱなしであるが、すごくどうでもよかった。
二人の戦いはその場からほとんど動くことなく行われている。
互いの意地にかけて一歩も引かない戦い。
互いに刻まれていく傷。
マッスル神も、まどかも二人とも傷だらけであり、さやかあたりの常識を持った者が見れば卒倒しているほどに酷い。
まどかはなまじ少女の姿のため痛々しさが半端なものではない。
裏を返せば、その程度の傷しか負ってないのだ。
二人の両の拳に秘められたパワーは一撃一撃がビルを軽々と倒壊させるほどのものなのだ。
それを百にとどくほど打ち合い、そのほとんどを身に受けておきながら原型をとどめておける二人が規格外すぎるのである。
「これだ。
俺はこれを求めていた」
「私はこんなのは求めていなかったけどねっ!!」
マッスル神の軽口の前にも手は一切休めない。
「そこまでの力を持っておきながらどうして戦いを求めない?」
マッスル神には不思議だった。
己に匹敵する力というのは世界すら左右しかねない力をもっているのと同義だというのに、初めからこの少女は戦いというものをどこか忌避していたように見えた。
それが彼にとっては不可解であった。
「あなたと一緒にしないで!!
私はただ普通に生きて、普通に友達と楽しい日常を暮らしたかっただけなんだからっ!!」
今まで以上の力を拳に込めてマッスル神の顔面に叩きつけ、頭部を揺らす。
「私はもう無理して誰かを助けようなんて思わない!
非日常なんてものは求めない!
そんなものより大切なことを友達が!!
ほむらちゃんが教えてくれたから!!」
右、左、右、左と、秒間数十発もの打撃を隙だらけになったマッスル神の腹部へと叩き込む。
「もう私は迷わない!
揺るがない!
だから、絶対に負けてなんてやらないんだから!!」
魂の咆哮。
「どんな姿になろうと私は私!!
鹿目まどかなんだってほむらちゃんが教えてくれたんだから!!」
完全に己の殻を破ったまどかの魂のこもった渾身の一撃が突き刺さり、マッスル神は初めてひざを突いた。
「見事だ。
その信念、尊敬に値する」
ふっと、遠き日の思い出を回想し、マッスル神は笑う。
「ならば、今度は俺が何を求めたのかを教えてやろう。
お前のように選ばなかった者の、力だけを求めた者の末路を見せてやるよ」
ゆらりと再び立ち上がり、マッスル神はまどかを見下ろす。
見せてみろ。
お前が正しいのならば乗り越えて見せろ。
マッスル神の目は語る。
「……120%」
マッスル神の、力を求め続けた男の信念と狂気はついに限界を突破させた。
「さらに上限あった―――――!?」
『ねえマミ、なんか今のどっかのゴールキーパーが吹っ飛んだみたいな言い方だったね』
「キュウベエなんで知ってるの!?」
すごくどうでもいい外野である。
「ねえ……、もしかしなくても私って忘れられてない?」
マッスル神に吹っ飛ばされ、どこかの壁に突き刺さった仁美さんのライフポイントは真っ赤に点滅していていろいろピンチであった。
あとがき
仁美哀れ。
次回は限界を超えた戦いですw(まだ上あんのかよw
エピローグ入れて、あと二回で完結です。
20回というキリのいいところで終わりですおw
今回は調整回のため短い。スマン。