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No.26235の一覧
[0] 麻帆良学園都市の日々・中間考査(GS×ネギま! 2スレ目) 2018/2/22 お知らせあり[スパイク](2018/02/22 23:06)
[1] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「将来」[スパイク](2011/02/26 20:28)
[2] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「自分」[スパイク](2011/04/10 21:35)
[3] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「自我」[スパイク](2011/04/16 20:03)
[4] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「未来」[スパイク](2011/04/24 21:23)
[5] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「目標」[スパイク](2011/06/25 22:29)
[6] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「助言」[スパイク](2011/08/21 18:56)
[7] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「世界」[スパイク](2012/04/01 14:35)
[8] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「再会」[スパイク](2012/04/28 22:00)
[9] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「矜持」[スパイク](2012/11/03 09:15)
[10] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「明日」[スパイク](2012/11/03 09:29)
[11] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY1 雨音」[スパイク](2013/01/13 01:58)
[12] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY1 招待状」[スパイク](2013/01/13 03:45)
[13] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 指揮官」[スパイク](2014/09/07 21:43)
[14] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 その裏で動く」[スパイク](2014/10/05 03:51)
[15] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 対価」[スパイク](2014/10/26 20:32)
[16] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 HOW TO」[スパイク](2014/10/26 20:41)
[17] 朝帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 今できること」[スパイク](2014/11/08 23:15)
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[26235] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「未来」
Name: スパイク◆b698d85d ID:bd856bc6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/24 21:23
 何かに、苛立っていた。
 何に苛立っていたかはもう、思い出すことが出来ない。自分がどういう人間で、どういう生活をしていたのかさえも、もはや曖昧だ。
 けれど、その瞬間の事だけは良く覚えている。
 “彼”は――何かに、苛立っていた。その苛立ちが、彼の判断を鈍らせた。
 「危ない」と思った瞬間には――もう、彼の乗っていた車は、そのカーブを曲がれるような速度では無かった。
 ブレーキを踏み、ハンドルを回す。けれど、車体は曲がらない。
 その先には、バス停がある。少女が一人――呆然と立ちつくしたまま、こちらを見つめている。
 ほんの一秒もない程の時間だった。けれど、やけに周りの景色がゆっくりと見えて――視界の中で立ちつくす少女と、確かに、目が合った。
 そして訪れる衝撃と、暗転。
 目が覚めたとき――彼は、“彼”では無くなっていた。




 ――××年八月二日。県道四十八号線○○バス停で、近所に住む男性会社員が運転する乗用車が、カーブを曲がりきれずに路肩にあったバス停に突っ込んだ。車はそのまま路肩の用水路に転落し、横転して大破炎上、男性は三〇分後に救急車で近くの病院に搬送されたが、死亡が確認された。
 バス停にはバスを待っていた十三歳の女子中学生がいたが、巻き込まれて意識不明の重体。現場は見通しの良い片側一車線の道路で、警察では車を運転していた男性がスピードを出しすぎて、運転操作を誤ったものとして調査している――

「では君は、このときに車を運転していた男性だと言うのだね?」
「多分――間違いありません」

 午後三時十五分――埼玉県から西へ向かう高速道路の車の中で、唐巣和宏神父は、後部座席に座る少女に問うた。少女――“長谷川千雨”は、その質問に小さく頷く。
 八人が乗ることが出来る古びたミニバンには、運転席に唐巣が座り、後部座席に五人の少女達が乗り込んでいる。すなわち長谷川千雨と早乙女ハルナ――付き添いとして犬塚シロ、神楽坂明日菜、近衛木乃香の三人。
 唐巣の隣の助手席には、シロの同居人である芦名野あげはが乗っている。彼女は単純に、出発した彼らが夜までに戻ってこられるかどうかわからないというので連れ添う事になった。今は初夏の日差しを受けるその場所で、眠気を堪えている。
 彼女がそう言う気の抜けた雰囲気を振りまく後ろ、二列目のシートには、重苦しい空気が満ちている。
 うなだれて、自分の膝を見つめたままシートに座る“千雨”と、彼女の隣で、形容できないほど辛そうな表情で拳を握りしめているハルナである。
 「幽体離脱」が自由に出来るオカルトアイテム「チーズあんシメサババーガー」によって姿を現した、自称・長谷川千雨に取り憑いた幽霊――その“彼”によってもたらされたのは、衝撃的な事実であった。
 彼は昨年の夏――車を運転していて、事故に逢った。
 彼自身はその事故でそのまま帰らぬ人となり、そしてその場でたまたまバスを待っていた“長谷川千雨”もまた、その事故に巻き込まれた。
 そして気がついたとき――彼は、“長谷川千雨”として、目を覚ましたのだという。

 その事実を知らされたとき、早乙女ハルナは最初――その“彼”に怒りを爆発させそうになった。
 何故親友を殺しかけた男が、よりにもよってその“親友”として生きているのか――彼女が怒る気持ちは、至極まっとうなものである。
 “彼”もまた、その怒りを受け止める覚悟であった。
 けれど――出来なかった。中途半端に、“千雨”の襟首を掴んだまま、ハルナはうなだれ――そして、何も出来なかった。
 “彼”に責任がない、とは言わない。元を辿れば、全ては彼が起こした事故のせいである。
 しかし、彼は既にその事故で死亡している。
 彼が千雨を殺した殺人者だというのならともかく、それはただの不幸な事故であった。その事故で彼自身が死んでしまった以上――それ以上彼を責めても意味はない。責めたい気持ちは、ある。けれど、何をどう責めれば良いのか。責めて何が変わるのか。
 残酷ではあるが、その行為に意味はなかった。
 それより何より――“彼”の言葉を否定したのは、ハルナ自身だった。

――ごめんなさい――“俺”は――“俺”は、長谷川千雨さんじゃないんです――

 事故の昏睡から回復したとき、“千雨”は――安堵の涙を流すハルナや、彼女の両親を前に、そう言った。
 自分は何者かわからない――けれど、“長谷川千雨”という少女でないことだけは確かである。“彼”は確かに、そう言った。
 その言葉を全く信じようとしなかったのは、ハルナの方だ。
 彼女は、千雨が事故のショックでおかしくなっているとしか考えなかった。
 あんたは“長谷川千雨”以外の何者でもない。ふざけたことを言うな――ハルナは、“彼”にそう言った。
 自分たちがどれだけ心配したと思っているのだ、と、言った。
 そんな自分たちにそんなふざけた事は、二度と言うなと――彼女は、そう言ったのだ。
 彼女だけでなく、他の誰もが、“彼”の言葉を聞こうとしなかった。
 祝福の言葉と花束で、千雨の退院を出迎え、麻帆良に連れ帰り――友人としての日々を、再開させた。

 千雨が漫画研究部と手芸部を辞めた事を、ただ心配して見つめていた。
 事故の後――あの時ベッドの上で見せたような表情を時折見せる彼女に、それを良くない傾向だとお節介を焼いた。
 何が――何が、“長谷川千雨”の親友だ。
 結局自分は、都合の良い事しか見ようとしていなかっただけではないか。事情が事情であるとは言え――目の前の“親友”が、本当に彼女であるかさえも、結局自分にはわからなかったのだ。
ハルナは膝の上に置かれた拳を、強く強く握りしめる。

 先程唐巣神父に改めて伝えられた事故の詳細は、“彼”が持っていた新聞の切り抜きによるものだった。
 “彼”の記憶は、曖昧だった。
 事故の衝撃がそうさせるのだろうと、唐巣神父はそう言った。おまけに、“長谷川千雨”の肉体の方は、全くの健康体を取り戻している。
 魂はまた、肉体にも影響を受ける。
 たとえば記憶は、脳と魂、両方に刻まれる。最新の心霊学の研究では、一度脳に蓄積された記憶が、その都度その都度魂にも刻まれるのではないかと言われている。
 幽霊が、脳を含めた肉体の全てを失いながらも、その人間の外見や記憶を備えている理由が、そこにあるのではないか――むろんハルナにはまるで意味がわからないし想像さえ出来ないが、ともかく“そういうもの”であるらしい。
 だから“彼”は、長谷川千雨の肉体に影響を受け続けた。
 知らないはずの彼女の記憶、自分のものでない筈の彼女の肉体。それらが全て、自分のものだとして魂に“認識”されようとする。
 彼が確固たる自我を持って千雨に取り憑いたと言うのならともかく、彼は気がついたときにはいつの間にか、彼女の体に収まっていたのである。自分が誰であるのか――それを、思い出せないままに。

「何度も、自分は“長谷川千雨”なんじゃないかって――ただおかしくなった彼女の意識が作り出した幻なんじゃないかって、そう思いました」

 “彼”はそう言った。
 けれど、そのたびに――事故の瞬間の記憶が、頭を過ぎった。
 あの時見た少女の姿が、鮮烈に思い出された。
 それだけが――“彼”の自我を支えていた。

「……辛かっただろう」

 唐巣神父は、優しく“彼”に言った。
 自分以外の全てが、自分のことを、自分ではない人間として見ている。
 ――否、それだけならまだ良い。
 自分でさえも、自分が“自分”であると思うことが出来ない。
 記憶が、心が、肉体が――“自分”を構成する全てのものが、“彼”を、彼の思う“自分”ではなく、“長谷川千雨”なのだと、責め立てる。
 その責めに屈していれば、どうなっていたのだろうか。
 きっと彼の魂は“彼”ではなくなり――“彼”でも、“長谷川千雨”でもない何者かになっていたのではないだろうか。
 彼はそれに耐え続けたのだ。
 今ならばハルナにとて――それが、どれほど辛いことであったのかはわかる。
 けれど――今の今まで、それを信じることの出来なかった彼女には、何も言うことが出来ない。だから、彼女はじっと下を向いて、拳を握りしめる。

「いえ――もっと早くにこうしていれば――専門家の方に相談していれば。結果としてみんなを騙すような事には、ならなかったと思います」
「それでも、勇気のある決断だ。君は既に死んだ人間だという。ならば、長谷川さんに体を返すと言うことは、本当の意味での君の死を意味する。そのような決断など、中々出来るものではない」

人は皆、死ぬのが怖い。
 オカルトという新たな学問の発達が、死後の世界に光を当てて尚――人間は、死を恐れ続けている。
 そして、“彼”が千雨に肉体を返すと言うことは、彼自身は今度こそ本当に“死ぬ”ということになる。それがわかっていて、それでも彼は、決断した。

「今の君には陳腐な言葉になるだろう。だが、敢えて言わせてくれたまえ。その決断を下した君を――神はきっと祝福してくださる」

 唐巣の言葉を最後に、車内には沈黙が満ちる。
 県境を示す看板が、車窓の外を流れていった。目的地までは――あと一時間と言ったところだろうか。




 そこは、高速道路の出口からほど近い、片田舎の道だった。千雨の実家は、ここから更にバスに乗って向かう、近隣の住宅街にあるらしい。
 田んぼの中を貫く、広くも狭くもない道。丁度そのカーブの場所に、そのバス停はあった。事故のせいで立て替えられたのだろう。真新しい木材と金属の支柱で作られた簡素な待合所が、古びたバス停の目印の脇に建っていた。
 安全な場所に駐めた車から降りた瞬間――唐巣とシロ、それにあげはの顔つきが変わった。

「……何か、あるの?」

 恐る恐る明日菜は、周囲を見渡す。田植えが終わりつつある田んぼと、新緑が目にまぶしい山の緑――何処から見ても、のどかな片田舎の風景である。
 しかしふと――木乃香が、明日菜の袖を掴んだ。

「……木乃香?」
「……ウチ……何や、気持ち悪い。何か……目には、見えてへんのに、何かがあるのが――わかる」

 驚いた顔で、明日菜は彼女を見た。
 そう言えば彼女は、京都の事件の時にはそれが原因で誘拐されたほどの、オカルトの才能を持っているという。彼女自身はオカルト関係の馬鹿記事が大好きなただの少女でしかないが――潜在的に、本能に感じる何かは、明日菜よりも鋭いのかも知れない。

「な、何か――あるの?」

 恐る恐る、明日菜はその“何か”が見えているらしい彼らに問うた。
 その問いに答えたのは、唐巣だった。いや、その言葉は、彼女の問いかけに応えたものではない。
 彼はただ小さく――押し殺すように呟いたのだ。

「……神よ……」




「……長谷川殿」

 シロが、言った。

「――長谷川殿!」

 彼女はそう広くない道路を渡り、その“少女”が立っているのだろう場所に向かう。
 ハルナから見れば、彼女は何もない場所に向かっているようにしか見えない。何も知らなければ、何とも奇妙な光景に見えただろう。
 だが、今の自分は、その光景を奇妙だとか、滑稽だとか言うことは出来ない。
 “長谷川千雨”――本来そう呼ばれる筈の少女は、彼女のすぐ後ろで、もはや蒼白な顔でそちらの方を見ていたからだ。

「見えるの?」
「……」

 彼女は――いや“彼”は、ハルナの問いには言葉を返さない。
 その代わり――壊れた人形のような動きで、一度だけ頷いた。
 彼女には、“霊感”などは無いはずだ。ならばハルナと同じで、シロや唐巣らに見えているものが、見えるはずはない。
 それでもそれが見えるというのは、どういう事なのだろうか。あの怪しげなオカルトアイテムによって、“霊体”が半分はみ出したままになっているとでも言うのか。
 それとも――そこにいるという“彼女”はまた、“彼”と同じ存在であるから――だから、“彼”にはそれがわかるのだろうか。
 ハルナは歯を食いしばる。
 もどかしい――その“彼女”を見ることさえ出来ない自分には、本当に何も出来ることがない。
 目の前に、自分の親友であると思う、そんな相手がいるというのに。
 道の向こう側で、何もない空間に向かって何かを問いかける――そんなシロの姿を見やりつつ、ハルナは――
 ふと、彼女の頭に何かが過ぎった。
 彼女は急いで車に戻ると、先程まで“千雨”が座っていた席の足下を探る。
 紙包みに包まれたそれは――まだそこにあった。

「ハルナさん、何を――」

 彼女の行動に気がついたあげはが振り返る。振り返って、驚いた表情を浮かべる。
 無理もない。自分でも馬鹿げた行動をしている――とは、思う。しかしこのまま、自分には全く分からない場所で全てが終わるのは、我慢が出来なかった。
 紙包みをめくり、“千雨”が囓った跡のある「それ」に――ハルナは息を止めて、思い切りかぶりついた。
 脳みそが頭から引き抜かれたような感覚だった。少なくともハルナはそう思った。
 幸か不幸か、形容しがたいその味が舌に感じられたのは、ほんの一瞬であった。次の瞬間には、同じく形容しがたい感覚と共に、彼女は自分の体から“何か”が引き抜かれたような奇妙な感覚を覚え――気がついた時には、足下に“自分”が倒れているのを見た。
 それに、半透明の、影のような煙のような、そんな姿をした、自分の体が見えた。

「無茶なことをする人です。そんなことをしなくても、一応方法が無いわけではなかったのですが」

 不快緑色の光沢を持つ、不思議な色の頭髪――そんな頭の少女が、ポーチに手を入れたまま、呆れたようにこちらを見ていた。
 芦名野あげは――犬塚シロと同じく、横島忠夫の家で下宿をしている小学生。
 今の自分が見えていると言うことは、彼女もまた“霊能力者”であるのだろう。
 彼女の言葉から察するに、これ以外にも何かしら方法はあったらしい。ハンバーガーに齧り付いたまま、白目を剥いて地面に倒れている“自分”を見れば、一抹の後悔が過ぎるが――今は些細なことである。

「ちょっ――パル!? 木乃香っ! パルが!」
「千雨ちゃんのアレ食べたんか!? 何でまた――」

 明日菜と木乃香が、驚いた表情で彼女の方を見る。明日菜は突然の事に慌てふためくが、木乃香は何かに気がついたようだった。

「まさか」
「そのまさか、だろうね――それに進んで齧り付いた人間を、私は初めて見たよ」

 唐巣神父が、脱力したハルナの体を抱え上げて、車のシートに横たえる。

「え? え? ちょ、ちょっと、パルは大丈夫なんですか?」
「毒ではないから問題はないよ。それに――本来の効果は、既に発揮している」
「“幽体”を体から引き抜く――でしたっけ? それじゃ、“パルの幽霊”がもう、ここら辺にいるわけ?」
「君の隣だよ」
「ひい!?」

 気味の悪いものを相手にしたように飛び退る明日菜の態度には、思うところが無いわけではない。が、幽体が見えていないらしい彼女が飛び退った方向は、丁度“ハルナ”が立ってた場所であったのだが。
 だから今、彼女と明日菜は、半ば重なり合うような状態になっている。

「ああ、気のせいかしら、何だかゾクゾク寒気がするような――」
『……あげはちゃん、こいつわざとやってんの?』
「いえまあ……それが一般人の反応と言うものでしょうし……」
「唐巣神父――ハルナのやりかたは、正しいんですか?」

 木乃香の問いに、唐巣は苦笑しながら頷いた。ハルナとしても、藁にも縋る思いであったが、その“やり方”はともかくとして、結果は間違っていないようである。
 ふと顔を上げた彼女の目には――その場所に立つ少女の姿が、見えた。

「普通の人間には、ただの霊魂は中々見えない。だが、“幽霊”に幽霊が見えない道理はない。慧眼と言うべきだろうね。――普段我々が目にしているのは、実は目から入ってきた光が脳で処理された光景だ」
「赤ん坊には、音や光が大人の何倍にも感じられると言います。僅かな光や細かな反響にも、赤ん坊は反応すると。しかし成長するにつれて、人はそれらの過剰な情報を“不必要なもの”として切り捨てる能力を身につけます」
「そう、パピ――あげは君の言うとおり。人の目は“幽霊”を捉えられる。しかし、脳がそれを“イレギュラーな視覚のバグ”として捉えてしまうから、結果として幽霊は見えない。見えないはずなのに写真に写ったり、視界の端に何かを感じたりするのは、それが原因だ――心霊医学では、一応そう言う見解が出ている。まあ……そのフィルターを意図的に外す事を、我々は“霊視”と呼ぶわけだが――むろん、肉体のない“霊体”には――」

 明日菜と木乃香に説明をしてくれているのだろう唐巣とあげはの声は、ハルナには聞こえない。それこそ――理屈など、今の彼女にはどうでも良いことだった。
 “それ”が見えてしまった、今の彼女には。
 新しくなったバス停――その片隅に立つ、小柄な少女。
 白いワンピースを身に纏ったその少女の瞳はうつろで、何処も見ていなかった。
 小柄で華奢なその少女の体は、作りかけのジグソーパズルのように、あちらこちらが欠けていた。
 だからその少女は――明らかに、生きた人間ではあり得なかった。
 そしてその彼女の、一部が欠けたその顔は――青い顔で、彼らの後ろに立ちつくす少女と、同じ顔をしていた。




『ちうっち!』

 思わず、ハルナは駆け出していた。
 ふわふわと頼りなく漂う脚は、地面を蹴っているという感覚はない。しかし、「そこに行きたい」と強く思った瞬間、彼女の「体」は、既に動き出していた。

『ちうっち――ちうっち!』

 たまらず、目の前の少女を抱きしめる。
 感覚がない筈の腕に、確かに感じられた彼女は――とても、冷たかった。
 彼女は、抱きしめられても何も反応しない。顔の右側が大きく欠けて、その内側はがらんどうで、何もない。何も知らずにただ目の前の彼女を見れば、ハルナはきっと、それを壊れた人形だと思っただろう。
 残された左の瞳は――何も見ていない。ハルナのこともまた、映していない。

『ちうっち――しっかりして! ね、私のこと、わからないの!?』

 少女は――“千雨”は、何も言わない。ハルナの言葉に、応えない。
 どれだけ叫んでも、どれだけ強く抱きしめても――彼女はただ、そこに立ちつくすだけ。本当に壊れた人形のように、ただただそこに、立っているだけ。
 悔しさと、無力感がハルナの胸に溢れる。胸の内側が熱くなる。今の自分は“幽霊”だというのに――涙が、こぼれそうになる。どうしてだろう? 唐巣らの言うことが正しいなら、今の自分は、視覚を通してものを見ているわけではないはずなのに――その視界が、熱くゆがむ。

『……ごめん――私、ちうっちの事、何も見てあげてなかった』

 欠けた体を抱きすくめ、ハルナは言う。

『あの人の言うこと、全然聞こうとしなかった。自分に都合の良い物差しでしか、私、友達のことを見ていなかった』

 頬を、熱い滴が伝う。
 涙と言えるのかどうかすらわからないそれは、地面にしたたり落ちることなく、儚い煌めきとなって、虚空に消えていく。

『ちうっちが――ずっとこんなところで苦しんでたのに。あの人が、どうしたらいいのかもわからずに、それでもちうっちを何とかしてあげたくて、頑張ってたのに。もう私――偉そうに、ちうっちの親友だなんて言えないよね』
「自分を責めるのはそのくらいにしておくで御座るよ、早乙女殿」

 ごく自然に、ハルナの肩に手が置かれた。
 いや、今の彼女は、物理的に何かに干渉出来る程の存在感を持っていない。だからその手の持ち主は、目で見えた輪郭に、手を“添わせた”だけなのだろうが――不思議とハルナには、その手のぬくもりが感じられた気がした。

「ハルナ殿は、何で御座るか? 拙者らのようなゴースト・スイーパーではなく、霊能力すら持たない普通の中学生では御座らぬか。霊能力者など元々、人が信じられぬ事を相手にする身の上。常識はずれで胡散臭くて――されど、だからこそ「ゴースト・スイーパー」という職業が成り立つ」

 その手の主――シロは、慰めるような口調で、ハルナに言う。

「拙者や、唐巣神父でさえも、一息に解答にまではたどり着けなんだ。なのに、オカルトの知識の欠片すら持たぬハルナ殿を、誰が責められようか?」
『でも、だって――だって、私は』

 彼女は何かを言いかけて――そこで、言いよどんだ。
 ここでシロに反論したところで、今更何の意味もない。結局どういう言葉を並べても、自分が許されたいだけなのだと、ハルナは気がつく。自分の身勝手さを悔いて――しかしそれが千雨の助けになる筈もない。
 自分は、彼女に許されたいのだ。親友を語るのが馬鹿らしい程に、相手の何も見ていなかった事を。

「だからと言って自己嫌悪に陥ったところで、長谷川殿は喜ばぬ」
『……わかってる――でも私――最低だ』
「今の拙者には、早乙女殿に掛けられる言葉は見つからぬ。ただ――」
『いい。今は私のことはどうだって――それより、ちうっちは? ちうっちは、助かるの?』

 ハルナの言葉に、シロは僅かに表情を歪めた。

「……今この状態の長谷川殿を、肉体に戻したところで――恐らく、意味はない」
『じゃあ、どうすればいいの? どうしたら、ちうっちを助けてあげられるの?』
「……」
『ねえ、教えて? シロちゃん……その道のプロなんでしょ? だったら、わかるよね? どうすればいいの? ねえ――教えてよ?』
「早乙女殿――申し上げにくいが」
「魂の欠損は、肉体のそれと違って、自分の意思とは無関係に治癒するわけではない」

 シロの言葉を遮ったのは、いつの間にか近くまで来ていた唐巣神父だった。その表情は帽子と丸眼鏡に隠されて、よくわからない。ただ、彼がいつも口元に浮かべているような柔和な笑みは、そこにはなかった。

「魂が受けたダメージは、本人自身の“治そう”とする意思と、その意思によって魂の根源から引き出される力――“霊力”によってのみ治す事が出来る。外部から手助けは出来るにしても、結局は自分自身がどうにかして霊力を上げ、それでもって治すしかない」
『……どういうことですか?』

 ハルナは彼に問うた。
 唐巣は、暫くの沈黙のあとで、彼女に言う。

「……自分の意思でどうにかして霊力を上げられる状態に、彼女が見えるかい?」
『――!』

 体のあちこちが欠け落ち――何も見えずにただ佇む、千雨。
 今の彼女に意識があるとは思えない。当然――そんな彼女が「霊力」とやらを絞り出せるとは、到底思えない。
 それは、すなわち――

「俺の――せいだ」

 唐巣の脇で、“長谷川千雨”の姿をした“彼”が――頭を抱えて、膝をついた。

「俺が――俺がもっと早く決断していたら。もしかしたら――」
「我々は君を責めることは出来ない。そうすることに意味はない」

 唐巣は、そんな彼の背中に優しく手を置いた。

「本来なら、事故の結末は、二人の人間が犠牲になっていたのかも知れない。その責任は確かに、君にあるのかも知れない。だが、今ここで君にその責を問うのは我々のすることではない」
「でも――でもっ! 俺は、俺は結局、彼女を死なせてしまった! 何で――どうして、こんなっ――!」
「仕方ない、で済ませられる問題ではないだろう。だが君には、どうすることもできなかった」
「何で、何でのうのうと俺が生きてるんだ――あの時ちゃんと、俺が死んでいれば良かったんだ! そうすれば、そうすれば――」

 地面に拳を叩きつけ、泣き喚く彼の姿を見下ろして――ハルナはぼんやりと、以前テレビで見た交通事故のドキュメンタリーを思い出した。
 その時は、ただ悲惨な出来事は、世の中にどうしたってあるものだと、それくらいのことしか感じなかった。
 あの時テレビの中で涙を流していた人たちは、どれだけ悲しんだのだろうか?
 図らずも人の命を奪ってしまった人たちは、どれだけ悔やんだのだろうか?
 “彼”を許そうとは、思わない。
 けれど、責めることも自分には出来そうにない。
 ましてや――“千雨”自身がどう考えているのかなど、今となっては――

「いくら悔やんだとて、現実は変わらぬよ」

 その言葉に、ハルナは肩を跳ね上げた。
 しかし果たして、そう言ったシロは、彼女の事を見てはいなかった。

「お主がいくら悔やんでも、時間は巻き戻せぬ。拙者には軽々しく口を出す権利は無いが――その言葉は、いただけぬ。今ここで拙者がお主の首を斬り落とせば、長谷川殿が喜ぶとでもお思いか?」
「そう言うことが言いたい訳じゃ――」
「ならば何が言いたいので御座るか? 現実から、逃げるでない」

 自分とて、最初に事故を起こした“彼”に憤りはある――と、シロははっきり言った。

「だが、それは既に起きてしまった事。お主に罪を償う意思があるのなら、軽はずみに命を捨てるような事は、申されるな」
「だからと言って、俺がこの娘として生きていればいいってわけでもないだろう! 俺がどれだけ悔やんだってもう遅いって、そんなことはもうわかってるよ! けど、けどな――これだけは言わせて貰う! 俺がこうやってただ生き続けていたって、それはこの娘への冒涜じゃないのか!? この娘が生きる筈だった人生を俺が代わりに生きて、それがこの娘に対して何になる!? 馬鹿にしてるだけだろ! 周りがどう言おうが、そんなの関係あるか! 何故って――『俺ならそう思う』からだよ! 俺とこの娘の立場が逆なら、間違いなく、俺はそう思うだろうって、わかるんだよ!!」
「……」

 彼の言葉に、シロは口をつぐんだ。
 彼女とて自分と変わらない――シロの言葉が、ハルナの中で実感を持った瞬間だった。
 犬塚シロは、結局今この場では、自分と同じ――何も出来ない傍観者に過ぎない。“彼”や千雨に、何かを与えてやれるわけではない。
 シロの言わんとした事は、それとは違うのかも知れない。けれど、“彼”に反論されて言葉を無くした彼女の瞳の奥に――ハルナは、自分と同じ、弱々しい光を見た気がした。

「――どうすればいいかは、君が決めることだ。だがもはや――結果として、彼女の命は君の中に受け継がれた事になる。君はそれを真摯に受け止め、罪を償い――そして、自分の生き方を決めなければならない」

 厳しいことだが、と、唐巣は言った。

「そうするほかに、君に出来ることは何もないのだ」




 犬塚シロの右腕から、わき上がるように白銀の燐光が伸びる。霊視能力のない明日菜や木乃香にも、それはハッキリと見える。それほどまでに高密度に練り上げられた、魂の力――“霊力”の顕現。
 業界では“霊波刀”と呼ばれるその霊能力を扱えるのは、霊能力者の中でもほんの一握りの人間だけだ。もしくは、彼女のような――

「私から、せめて祈らせてもらおう」

 唐巣は、懐から聖書を取り出すと、朗々と祈りの言葉を紡ぐ。
 優しく、そして力強い声が、辺りの空気を震わせる。

 本来、体から切り離されて剥き出しにされた霊体は、脆いものである。簡単なきっかけがあれば変容して悪霊となるし、その悪霊に取り込まれてしまう事も多々ある。
 だが、幸いにして、このバス停のすぐ側には、小さな地蔵が奉られた祠があった。
 その場所が持つ僅かな神域――結界が、このバス停の周囲にまで及んでいたのである。だから、ここに無防備のまま立ちつくしていた千雨の霊体は、悪霊となることもなく、悪霊に取り込まれることもなく、ただこの場所に居続けた。
 そう――結果として、霊体の損傷を治す事も出来ず、ただただ朽ち果てていくに任せて。
 これ以上、彼女を放置する事は出来ない。
 だが、もはやこうなってしまった彼女を蘇らせる事は難しい。唐巣は一瞬、あげはのポーチに目をやったが、彼女は無言で、首を横に振った。

「……“これ”は、あなた方が思う程万能ではありません。今の私には、それがわかります。もしも――もしも、これがあなたの思うような代物であったら、きっと……」

 そこまで言って、あげはは小さく息を吐き、首を横に振った。
 その言葉の意味は、麻帆良の少女達にも“彼”にもわからないものである。ただ、シロと唐巣が、その言葉に対して何か思うことがある。それだけは、二人の表情から見て取ることが出来た。
 ともかく――千雨をこのままにしても、ただ朽ちていくだけである。
 ならばいっそ、ここで“成仏”させてやるくらいしか、今の彼らが彼女にしてやれる事はない。
 “介錯”の役割は、シロが引き受けた。
 明日菜や木乃香、ハルナ、そして“彼”には、むろんそんなことは出来ない。しかし、間違っても進んで引き受けたい役回りではないだろう。

『……シロちゃん』
「……申し訳ない。拙者――力業でしか、霊を浄化する事は出来ぬ。級友に、刃を向けるなど――見ていて、愉快なものではなかろうが。気分が悪いならば――」
『大丈夫。ほら――今の私、ユーレイだし』

 そう言って、ハルナはその場で一回転してみせる。
 それが強がりであることは、誰の目にも明らかだった。彼女の姿が見えない筈の明日菜や木乃香でさえも、泣き出しそうな表情で、シロの方を見つめている。

「何か――長谷川殿にかけてやる言葉は御座らぬか?」
『でも、ちうっちは』
「拙者はそれが愚かな行為とは思わぬ。本人がそこにいないからと言って、墓に手を合わせて祈りを捧げる事を、誰も愚かで無駄な行為だとは言わぬ」
『……私自身を納得させるため?』
「いえ――納得など、出来るはずも無かろう。ただ、思いの丈を口に出すだけでも、何か……」

 シロはそこで、視線を“彼”に向けた。

「……お主は何か、長谷川殿にかけてやる言葉は御座らぬか?」
「――今の俺は、正直、もう、何をしたらいいかわからない。けどいつか、いつになるのか分からないけれど、必ず罪を償う道を見つけて――そうしたら、彼女に何かを伝えられると思う」
「……結構」

 シロは両脚を軽く開いて立ち、霊波刀を水平に持ち上げる。
 誰かが息を呑むのが、聞こえた気がした。
 彼女の視線を受けて、ハルナは小さく頷き――そして、言った。

『……変に堅苦しい事とか――慰めるようなこととか。私からちうっちに言っても仕方ないから、そう言うのは無しにしとくね』

 だから――と、彼女は大きく息を吸い、千雨を正面から見据えて、言う。

『――コスプレアイドル“ちう”たんに朗報! 「僕と魔法少女の方程式」二期放映開始決定!!』

『だあああっ!』と、全員がその場に崩れ落ちる。そして――

『マジかよオイ――漲ってきたぞ!! “ドリーンたん”新作コスチューム希望ッ!!』

「「ちょっと待てぇええぇええっぇ!?」」

 突如として奇声じみた台詞を吐いた千雨に、その場にいた全員の声――いや、全員の心が一つになった。




『……あれ? なんで私こんなところに――げっ!? な、何で私がもう一人!? ど、ドッペルゲンガーとかって奴かこれ!?』
『ちうっち、あんたいっそ一回成仏しなよマジで』

 霊力とは、魂の力。
 魂を震わせる力というのは、人によって異なるものである。

 犬塚シロは、己の思い人の力の源が「煩悩」であることを、この場で言うつもりは、死んでも、ない。
 そしてその思い人の上司が――かつて千雨と同じような状態から、彼の吐いた暴言――「このシリコン胸」ただの一言で復活した事実を、彼女が知らないのは、きっと幸せなことなのだろう。
 彼女の隣で、「おお神よ……」と、天を仰ぐ壮年の男にとっても、また同様に。




『何というかもの凄く思うところはあるんですが……良かったことに代わりはないだろうから。ほんと、ヨカッタデス』

 復活した“千雨”に体をあけ渡した“彼”は、引きつった笑みを浮かべながら、彼女に向かって頭を下げた。

「あ、い、いえ……こちらこそ、ほんとうに、ありがとう」

 千雨はと言えば、彼女もまた、今更ながら何か思うことがあるのか、頭を掻きつつ、彼に向かって礼を言う。

『礼を言われるような事はないよ。元々は、俺の起こした事故が原因なんだ』
「でも――事故だろ? 今更私はあんたを責めるつもりはないし――あんたが私として生活してた事に関しちゃ、尚更だよ。そうしなきゃ、私は本当に死んでたわけだから」

 霊体の無い体は、ただの肉の塊である。たとえ助かる可能性が残されていたとしても、結局人間は、魂を抜きにしては生きられない。
 千雨がその辺りのことをどの程度理解しているのかは定かではないが、少なくとも、彼女が“彼”を恨んでいる様子は無かった。

『けど――』
「うっさい。グダグダ言ってると告発するぞ? あんた、私の体に入ってたって事は、私の言えること言えないこと、全部知っちゃったって事だろ? はっ……近頃の世間は、ロリコンには厳しいって言うぜ?」
『ちょ――人を犯罪者みたく言うなよ!? こちとら、その体に入ってた時は、“これが自分”なんだってガンガンに責められてたんだぞ!? そんな馬鹿げた事を考える余地があるわけ――』
「冗談だよ、冗談。まあ、何て言うか――私はもう、あんたの事は許そうって思う。だから――あんたも、あんまり気に病むなよ」

 何とも気だるげにそう言った千雨に、“彼”は何を思ったのか。
 驚いたような表情を浮かべた跡――果たして“彼”は言った。

『お前――凄いな』
「でしょ? ちうっちってば、そう言うトコナチュラルに凄いんだよね」

 それに応えたのは、千雨ではなくハルナだった。胸を張ってそう言った彼女に、千雨は照れくさくなったのか、軽く肘打ちをする。

『生きてるうちに出会ってたら――そのうち告ってたかもな』
「でしょでしょ? 私もちうっちが男だったら、絶対告ってる。この際私が男でも可」
「……ちょっと待てそこの変態共――何でお前らが意気投合してんだよ!?」
「何でって……ああ、私この人と、「ちうたん親衛隊」でも作ろうかと」
「いきなりすぎんだろ!? 意味わかんねーよ!?」

 ひとしきり穏やかな時間が流れた後で、いまだハルナに噛みつく千雨を背後に、“彼”は唐巣に頭を下げた。

『……色々と有り難う御座いました』
「いや――私は本当に何もしていない。結局は君の言うとおり、彼女が“凄かった”だけの話じゃないか」
『……本当に、そうですね』

 ハルナにチョーク・スリーパーを掛ける千雨を見て、“彼”は目を細める。
 その彼に、唐巣は言った。

「君はこれからどうするつもりだね? 目的が果たされた幽霊は――普通は、成仏できるものなのだが」
『そう……なんですか?』
「あるいはこの世に未練が残っているのかい?」
『未練――いえ、俺はもう、生きていた頃の事はほとんど何も思い出せないし……そんな俺が、未練と言われても』

 ふむ、と、彼は顎に手をやった。
 むろん、この場で強制的に彼を成仏させてもいい。彼自身やシロ、あげはにはそれが可能である。些か乱暴な方法になるかも知れないが、それは仕方ないことだろう。
 ただ何となく――無機質に彼を祓ってしまう事に抵抗を感じるのは、単なる感傷ゆえだろうか。

「まあ、幽霊が演歌歌手としてデビュー出来る世の中です。成仏できない何かがあるのなら、それを探してみるのもまた一興ではありませんか? 何でしたら、そう言ったことに詳しい人を紹介できますが」

 そう言って携帯電話を開くあげはに、彼は思案するような態度を見せる。
 当然と言えば、当然だ。突然「祓われるか成仏できるのを待つか選べ」と言われて、即答できる人間などそうそう居ない。
 ふとそんな彼に気づいたのか、千雨が言う。

「……あんた、世の中に未練でもあんの?」
『いや――自分ではそうは思わないんだけれど。案外ネチっこい性格なのかもな』
「だったら、私と一緒にちうっちのファンクラブを……」
「それ学校で言ったらお前、本気でブチ殺すぞ」

 軽口を叩くハルナを睨み付け――彼女は何かをひらめいた様子で、唐突に言った。

「よしあんた、私の専属マネージャーになれよ」
『……は?』
「仕方なかったとは言え随分ブランク出来ちまったし――そもそも、私がここに来てたのって、親にこの道に進むべきか相談するためだったんだよな。でもまあ、ここまで来たら何か吹っ切れた気がするし――やること他にないなら、手伝ってくれよ」
『いや、しかしだな――』
「私は結構、あんた以外に適任はいないって思うけどな? だってあんた、私のこと何でも知ってるじゃん。それこそ――下着の色からトイレの回数まで、な? そんな奴が他にいるか?」
『居てたまるか!? もう少し言葉は選べよお前!』

 彼の言葉を軽く無視し――千雨は笑顔で、「で、どうなんだ」と、選択を迫る。
 “彼”が白旗を揚げたのは――その暫く後だった。




987:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:15:08 ID:i8sjg73si
ち う た ん 復 活 キ タ コ レ !

988:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:16:08 ID:lsfdi39t0
ソースキボンヌ

989:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:16:08 ID:mmsdje728
>987kwsk

990:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:16:09 ID:op20dkg8t
>987kwsk

991:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:16:09 ID:kkjgi38vu
詳細sk規模ン

992:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:18:59 ID:lwosgirl9
>988-991
 スタンドが発動してるw
>991
 とりあえず落ち着けw
 日本語でおk

とりあえず拾ってきた。これか?
www.○○○○video.jp.watch/sm××××……

993:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:21:10 ID:logsh98u6
>992 はえーよwwwww
    どんだけ普段から張り付いてんだw

GJ

994:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:28:10 ID:yhfsi37nh
>992 素晴らしい

やっぱりちうたんにはただのレイヤーとは違う何かがある件。
つか、やっぱり全員見入ってたのな。時間が……

995:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:30:44 ID:xh8264ujg
>992 最高だ……他に言葉がない

996:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:33:11 ID:g82ds9ivb
割と気持ち悪いこと言ってる自覚はあるが、
ちうたんは明らかに普通のレイヤーとは違うよな。
俺は基本的に媚びたアイドルとか大っ嫌いなんだよ。むしろああいうビッチどもとちうたんを、同じ「アイドル」って括りで纏めて欲しくないくらいだ。
長々失礼。

997:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:34:26 ID:p28gs75bj
>996 禿同
昨今のアイドルはちうたんを見習うべき

あと私女だけどちうたんになら掘られてもいい。

998:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:36:11 ID:juedk98yr
1000なら明日から本気出す
>997 姐さん落ち着けよ。意味がわからんw

999:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:38:39 ID:cbfsutksj
1000ならちうたんは俺の嫁。

1000:コスプレ好きの名無しさん:20××/06/04 21:38:58 ID98sfes7wi
1000ならちうたんは永遠に不滅




「おっけ! 私ってばグッジョブ!」

 薄暗い部屋の中で、早乙女ハルナはパソコンのディスプレイに向かい、手を打ち鳴らして何かを喜んだ。
 はたと何かに気がつき――後ろを振り返る。
 暗闇の中で、ベッドの布団にくるまったルームメイトは、身じろぎもしない。
 今ので目が覚めなかったのは幸いであるが、むしろその事に一抹の不安を覚えつつも、彼女は小さく息を吐き、キーボードを叩いていた指を、音を立ててほぐす。

「そんんじゃま――ささやかだけど、ここに我々の第一歩を記すとしますか」

 そしてハルナの細い指は、まるで別の生き物のように、再びキーボードの上を滑る。
 果たしてその後には――画面には、新たな文字列が生まれていた。

【コスプレ】新生ちうたんの門出を祝うスレ【アイドル】

「そして投稿――と。さて、一癖も二癖もあるネットアイドルが芸能界を騒がせる事になるのは、その暫くあとであった――なんてね」

 眼鏡のブリッジを人差し指で軽く持ち上げ、彼女は形容しがたい笑みを浮かべて見せた。少なくとも背後のルームメイトやクラスメイトの前では自重した方が良いだろう、そんな笑みを。
 そんな彼女のノートパソコンの脇には、一枚のプリントが広げられている。
 少し前に彼女らに配布された、進路希望調査のアンケート用紙である。既に集められて、担任であるネギらの資料となっている筈のものであるが――ハルナは無理を言って、それを書き直させてもらうことにした。
 果たして、その第一希望の欄に記されるのは――










前回補足
千雨とザジが同室>
寮の部屋割は、原作を見てわかる範囲の部分は原作準拠、
それ以外の部分は勝手に組ませていただきました。
(資料集などに記載されているが、原作に出てこない部分は、筆者の想像ですべて補います)

千雨は当初一人浮いていたのですが、
感想掲示板で「コスプレ娘はザジと同室」という指摘があったような気がしたので、
そちらを採用しました。

ご了承くださいませ。

>「僕と魔法少女の方程式」
一応適当なものではなく、前スレ47
「麻帆良学園都市の休日・猫と忍者の後日談」にて、
ケイと楓が見に行った映画の原作、という設定です。

ここのオリジナル版に投下してやろうかと思うくらい、
無駄にプロットを組みましたが……時間がないので今は断念。

>幽霊や霊体に関する解釈
GS原作を参考に、ほぼ独自解釈。
「欠けた幽体」
「暴言で復活」等は、
アシュタロス編の美神さんをほぼそのままモチーフにしてみました。

大幅に書き方を変えて、とりあえず一つの「章」が一区切り。
引き続き、ご意見ご感想お待ちしています。
一言でもかまいませんので、是非にどうぞ。


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