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No.26235の一覧
[0] 麻帆良学園都市の日々・中間考査(GS×ネギま! 2スレ目) 2018/2/22 お知らせあり[スパイク](2018/02/22 23:06)
[1] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「将来」[スパイク](2011/02/26 20:28)
[2] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「自分」[スパイク](2011/04/10 21:35)
[3] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「自我」[スパイク](2011/04/16 20:03)
[4] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「未来」[スパイク](2011/04/24 21:23)
[5] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「目標」[スパイク](2011/06/25 22:29)
[6] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「助言」[スパイク](2011/08/21 18:56)
[7] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「世界」[スパイク](2012/04/01 14:35)
[8] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「再会」[スパイク](2012/04/28 22:00)
[9] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「矜持」[スパイク](2012/11/03 09:15)
[10] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「明日」[スパイク](2012/11/03 09:29)
[11] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY1 雨音」[スパイク](2013/01/13 01:58)
[12] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY1 招待状」[スパイク](2013/01/13 03:45)
[13] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 指揮官」[スパイク](2014/09/07 21:43)
[14] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 その裏で動く」[スパイク](2014/10/05 03:51)
[15] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 対価」[スパイク](2014/10/26 20:32)
[16] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 HOW TO」[スパイク](2014/10/26 20:41)
[17] 朝帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 今できること」[スパイク](2014/11/08 23:15)
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[26235] 朝帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 今できること」
Name: スパイク◆55d120f5 ID:a60301a9 前を表示する
Date: 2014/11/08 23:15
『とは言え――時間は有限だ』

 顎に手を当て――零は言う。その仕草は、彼女の“主”であるところのエヴァンジェリンと、よく似ているように見えた。

『坊やは魔法そのものには及第点を与えてヤッテモイイ。しかしソレを活かして戦うとなると相当厳しい。良く御主人とガチで喧嘩して生きてたモンだな』
「……いえ、それはその――自分でもそう思います」

 ネギは俯いて、零から視線を逸らす。
 結果的に手も足も出なかったとは言え、自分はエヴァンジェリンの前に立った。それが今こうして、彼女の作り出した“もの”を相手に講釈を聞けていると言うのは、幸運であると言わざるを得ないのだろう。彼は、そう思う。

『経験が足りネエのを嘆いても始まらネエ――それと、間合いを詰められたら終わりダナ。テメエ自身に近接戦闘能力がマルデねえ上に、本来ソレを埋めるべき従者の能力が、トコトン戦闘向きジャネエ』
「ごめんなさい……」

 申し訳なさそうに、のどかが言う。しかし彼女にも責任はない。“魔法使いの従者”に与えられる専用武器「アーティファクト」。それは従者の特性に合った物が現れるが、どういう物が現れるか自体は、従者にも主にも選ぶことは出来ない。
 対象の心中を読み取ることが出来るのどかのアーティファクト――「いどの絵日記」と名付けられたその不思議なノートは、使い方次第では恐ろしいほどの効果を発揮するアイテムである。
 しかし、こと“戦うことそのもの”においては、絶望的に向いていない。

『魔法使いに二つのタイプがある――聞いた事はアルカ?』
「“魔法使い”と、“魔法剣士”の事ですね?」
『テキスト通りの知識には強いなテメエは。俺の嫌いな優等生タイプだ』
「はっきり“嫌い”とか言わないで欲しいんですが……」

 ネギの抗議を無視して、零は続ける。
 そう――魔法を使って戦う人間は、二つのタイプに分けられる。
 一つは強力な攻撃魔法をひたすらに放ち続け、まるで砲台のごとく敵を攻撃する“魔法使い”タイプである。歴戦の“魔法使いタイプ”は、まさに城砦そのものと言って良いだろう。敵が近づくことさえ許さずに、圧倒的な力でもって全てを押しつぶす。
 もう一つは“魔法剣士”タイプ。一般に“魔法使い”タイプほどの圧倒的な攻撃力は持たないが、しかしそれは力が弱いという事ではない。言ってみれば、魔法使いが周囲にばらまいていた力を全て自分に集中しているだけのことだ。こと戦闘となれば、“魔法剣士タイプ”はまさに無敵の戦士となる。ただの一撃に必殺の力が宿り、しかし魔力に守られた肉体には弱点など存在しない。
 そのどちらが優れているというわけではない。それに魔法使いとしての格が上がるにつれて、その二つの区別は曖昧となる。最終的には、無敵の戦士でありながら広域を一人で殲滅できる――まさしく人間兵器の完成である。

『テメエはそれ以前の問題だ。まず“魔法剣士”は無理だ。テメエの使える魔法にはそれなりの威力がアルが、懐に入られチマウともう何も出来ネエ。さりとて“魔法使い”と言うにも足りネエ。経験がネエから力の使いどころや加減がワカラナイ。肝心の魔法にしてみても、それなりたあイエ、一線級の魔法使いに比べりゃドウイウ事はネエ』

 零の言うことは正しい。
 正しいのだが――得てしてそういう言葉は耳に痛いものである。自分の立ち位置をある程度理解して、以前よりは紳士に人の話を聞けるようになったネギであっても、その容赦ない言葉には気持ちが折れそうになる。

『妥当な線で考えレバ――だ。防御に使えるアーティファクトを持った従者をドッカから見つけて来て――どうにか懐に入られないヨウ、射程距離を保って相手を攻撃する』
「……」
『おい坊やテメエなんて顔してヤガル。耳を塞いでもソレが事実ダロウガ――第一、そう言う正攻法を使うには時間が足りネエ――付け焼き刃でテキスト通り。そんな馬鹿ミテエな小細工が通じる相手でもネエ』

 魔法使いは戦士タイプと砲台タイプ――魔法剣士と魔法使いに分けられる。しかし目の前のひよっこはそれ以前に問題である。零はそう言って腕を組み、溜め息を一つ。

『だから、そう言う事を言っても始まらねえ』
「えっ?」

 慌ててネギは顔を上げる。
 零はそんな彼を、疲れたように半眼で睨んだ。

『「え?」ジャネエよ。その年でボケでも始まってんのかテメエは』
「し……しかし、犯人は、それでも僕に戦えって言うんでしょ?」
『だからテメエは何もワカッテねえッツッテんダロ? テメエは無理を承知で“犯人の言うとおり”に、こうして修行してやってンじゃネエか。目的は果たしてる』
「それは、横島さんやエヴァンジェリンさんが言っていた――」
『“見せ金”としてのパフォーマンスか? マアソレもあるが――まさかこの期に及ンデ、そんな楽が出来るとは思ってネエよな?』

 第一パフォーマンスというのなら、この水晶の中に入ってきただけで十分である。さすがにエヴァンジェリンの目を欺いてまで、外部からこの中の様子を窺うことは出来ないだろう。
 ならば、“中で何かただならぬ特訓をしている”――そう思わせる事は十分だ。

『テメエが足掻くだけで犯人としてはそれなりに満足かも知れネエが――その為に骨を折ってる俺は面白くネエ』

 むろん、ネギとのどかは彼女を満足させる為にここにいるわけではない。が、ソレを言う勇気はない。
 城砦の一室――無駄に豪奢な装飾が施されたその部屋の中で、しかし絨毯に直接正座する二人の前で、椅子に足を組んで座り、零は言う。

『大体“魔法戦士”と“魔法使い”にしタッテ、乱暴なカテゴライズに過ぎネエ。そんな単純に物事が分けられるナラ、世の中どれだけハッピーか』
「接近して格闘戦を行うか、遠距離から魔法を撃って戦うか――確かに、魔法を使って戦うって、そんなに単純な事じゃないんでしょうけど」

 魔法使いのことを何も知らないのどかは、首を傾げながら言う。

『そうそう、そこの“魔法使いの常識”でガッチガチに固まった坊やには、チビ女のような門外漢の思考は案外マッチしてるのかもナ。まあ何にしろ――坊や、テメエはレベルが低すぎて、“戦い方”がどうこう言える立場ジャネエ』
「うぐ」
『いちいち落ち込むんじゃネエ鬱陶しい。実際テメエくらいのガキにしてみたら、十分すぎる位だとは思うゼ? ただ悲しくも、今回テメエは、王様から竹竿と百ゴールド貰った状態で、その足で魔王に挑まなきゃナラン』
「それって……あの、勝ち目なんてないですよね?」
『いいや?』

 ロールプレイングゲームに例えればそうなると、零は言う。同居人の影響かそれなりにサブカルチャーにも造詣があるのどかは、その場面を思い浮かべ――呆れたように言う。しかし、零はそんな彼女に、意地悪そうに笑う。

『近頃ならネットからチートデータでも落としてクリャ万事解決だ――マア俺はそう言うのは好きじゃネエが。もっと馬鹿な話、頭に来てコントローラーを放り投げりゃ、ソレでゲームは終了だ。主人公が立ち止まり続けりゃ、魔王は決してそれ以上先に進めネエ――何せそいつは、主人公の勇者に“良くここまで来たな”というのが仕事ダカラナ?』

 つまり、と、彼女は言う。

『今テメエらが出来る事と言えば、そう言うやり方ダ。まさか卑怯だとか言い出す馬鹿ハネエだろうな?』
「そ、そんなことは……でも、さっき零さんが言ったのはあくまでたとえ話でしょう?」
『相手は自分を悪魔って名乗ったンだろう? 悪魔って奴アあながち――まあいい、こいつは希望的観測ッテ奴だし、今のテメエらに油断する隙ナンゾ一ミリたりとも存在シネエ。要は――敵はあまりに強大で、テメエらはあまりに弱く、しかし意地でも勝ちは収めなきゃならねえ――そう言うコトダ』
「……弱音を吐くつもりはありませんが、そんなことが本当に――」
『出来るかな? ジャネエ――やるんだよ。何処ぞのノッポさんも言ってタロウ?』
「ノッポさんはそんなこと言ってませんよ!? 言ってませんからね!?」

 「ケケケ」と、わざとらしい笑い声を上げ――零は腰に手を当て、立ち上がる。

『まあその為に何をヤルかとナリャ――ソレを考えるのが俺の仕事ダカラナ。さしあたり、坊やにはわかりやすい修行を用意してアル。早速今からだ。チビ女は暫くこの部屋で大人しくシテロ――何かあったら叫んでクレや』
「嫌すぎる呼び出し方法ですねそれ……」
『ア、便所はその右のドアな。ちゃんと水洗で紙もアル――紙もアル。ケケケ』
「何で二回言ったんですか!? いや、言わなくて良い――言わなくて良いですからね!?」




「何やお前、大口叩いといて、結局支払いは犬塚んトコの兄ちゃんやないか」
「う――うるさいわね! 大体中学生が財布に何万円も入れてうろついてるわけないでしょ!? それに、立て替えて貰っただけで、後でちゃんと私が……」
「あー、気にすんな明日菜ちゃん。言っただろ? 俺は美女と美少女の為には投資を惜しむつもりはねえ。俺も昔と違ってそれほど金には困ってねえしな」
「俺が言うのも何やが普通に気持ち悪いで兄ちゃん……そのアホ面で美少女がどうやとか金がどうやとか――そのうち手が後ろに回っても知らんからな?」
「はっ――てめえに言われるまでもねえぜ似非ヤンキー……取り調べでの弁解には慣れてるつもりだ」
「えらそうに言うことかいな!? 思いっきりアウトやんかそれ!?」

 とはいえその小太郎と一緒に思わず一歩後退ってしまった明日菜を、誰も責めることは出来ないだろう。例え彼の協力に対する“対価”である、現金四万円強をすぐに用意することが出来ず、それを立て替えたのが他ならぬ彼――横島忠夫であったとしても。

「しかし何の因果かは知らぬがお主は――どういう風の吹き回しで御座るか?」

 馬鹿馬鹿しい遣り取りはいつものことと――犬塚シロは腕を組み、小太郎に問う。

「不都合があるわけやないやろ? まあ強いて言うなら――確かに俺とお前らには因縁がある。俺が保護観察喰らってあのオッサンの所に放り込まれて、それだけで完全に信用せえと、そう言うつもりもあらへん。ただ――やっぱり俺は、傭兵の矜持を捨てるつもりも無いっちゅう話や」

 彼の言葉に、シロは視線を明日菜に向ける。亜麻色の髪の少女は、軽く肩をすくめて見せた。シロから見れば、割合馬が合うようにも見える明日菜と小太郎であるが、さすがに彼の思惑までもがわかるはずもない。

「自信満々に語ってるところ悪いが似非ヤンキー」
「どうでもええけど似非ヤンキー言うなや犬塚の兄ちゃん」
「俺だってそいつの兄貴じゃないからその呼び方はやめてくれ」
「左様で御座る。先生は拙者の婚約者」
「寝言は寝てから言ってください馬鹿犬」
「……収拾付かなくなるから今は黙っててくれないか」

 形容しがたい目線を向けてくる小太郎に、横島は言う。

「まあ、あれだ。俺は美少女への投資だったら破産しても一向に構わんが、貴様のようなモテない男の敵の匂いがするガキに甘くしてやる言われはねえ」
「モテない男が何やて? ……兄ちゃん、オノレの両サイドに立っとるんは何や?」
「シロとあげはがどうしたって?」
「……あの、犬上? こういう人なのよ……その事には触れないで頂戴。いくら何でもシロちゃんとあげはちゃんが可哀想で」
「お。おう……」

 いきなり小太郎の両肩を掴んで、涙目で顔を寄せてきた明日菜に、さすがの小太郎の一歩たじろぐ。その時のシロとあげはの表情を、彼女は努めて見ないようにしていたようだった。

「俺は別に女にモテた事はあらへんけどな……彼女がおった事はあったけども、あれはどっちかというと俺にとっちゃ――」
「ああ? お前確か中二だったよな。オイコラ世の中ナメてんのか。あん?」
「鏡ならそこにあるで兄ちゃん。慣れへんツッコミをやらせんでもらえるか」
「まあ明日菜ちゃんに免じてそっちの追求はその辺にしてやる――しかし金額がアレとは言え、そこまで大きく出ておいてお前、何か展望はあんのかよ?」

 いかにも不承不承、と言った風に言う横島に思うところが無いわけではない――小太郎の表情はそう言っていた。しかしこれ以上藪を突いて蛇を出すのも御免だろう。

「いや、“金額がアレ”だからこそ――か? 裏の世界の傭兵ってのは、それこそそんなに甘いモンじゃねえよな? わざわざ明日菜ちゃんを焚きつけて“はした金”をせびる辺り、お前にはお前の考えがあるのかも知れん。まあこんな所でそれを暴露しろと言っても無駄だろうが――どうなんだよ」
「……底抜けのアホかと思うとったら、案外頭の切れる兄ちゃんやな」
「ばーか。現役の商社マンが、中学生にズル賢さで負けてたまるかよ」
「……考えは、ある」

 小太郎は言った。

「相手がそれに乗ってくるか、保証はない。せやけど、今までの相手の出方を見とったら――」
「可能性は高い、か?」
「俺はそう思うとる。それこそ、確証があっての話やない。ただ――」
「そうか。ならお前はお前で好きにやれ」

 横島の言葉に、小さく彼の眉が動いた。彼の両肩を掴んだままだった明日菜も、振り返る。

「横島さん――良いんですか?」
「美神さんやウチのクソ親父に聞いたところによるが、裏の世界の傭兵を雇おうと思ったら、それこそ中学生の小遣いでどうこうなるような代物じゃない。……あの人らが何でそんな相場を知ってるのかは考えない事にしても」

 わざとらしく自分を抱いて身震いすると、横島は息を吐く。

「間接的には裕奈ちゃんへの投資だから、俺はもう何も気にはせん。それに俺だっていい大人だ。ヤンキーに小遣いせびられたくらいでどういう事はねえし、ましてやその程度でそいつを頼ろうとも思わん。だから好きにしたらいい、って言ったんだ」
「……えらく舐められたもんやが――な。まあ、仕事は仕事や。兄ちゃんがそういう風に割り切ってくれとるんなら、話は簡単でええ。ほな――」
「可能なら定期的に経過を報告しろ、それと――」

 ちらりと――彼は、自分の傍らに立つ少女を見上げた。

「シロ。こいつと一緒に動け」
「え?」
「あ?」

 小太郎は“すとん”と顎を落とし――シロは、さすがに驚いたように目を丸くする。まさか横島からそんな指示が来るとは、当然彼女は思っていなかった。
 そんな状態で、何とかシロより先に再起動を果たしたらしい小太郎が、首を横に振りながら言う。

「首輪のつもりかいな?」
「俺にはそう言う趣味はねえよ」
「“拙者に”と言うことなら、やぶさかでは御座らんが」
「お前最近本当に遠慮無くなってきたな、俺でも引くわ」

 冗談はさておき、と、シロは言う。
 小太郎に対して監視をする意味が、彼女にはわからない。確かに彼は京都の一件では敵対したが、それは彼の特殊な信念がそうさせた物であって、彼個人にこちらに対する敵意があるわけではない。それをシロは理解している。
 それに最悪――彼が誘拐犯の一味だったとしても、こちらの行動を妨害してくる以上の事は出来ないはずだと、彼女は思う。今の麻帆良は厳戒態勢が敷かれている。下手な真似など出来はしない。

「と言うより――俺には現状、そう言うしかしてやれん」
「と――申されると?」
「裕奈ちゃんの為に何かがしたくてたまらないのは、何も明日菜ちゃんや木乃香ちゃんだけじゃねえ――そう言う話だ」
「――!」

 横島は、彼にしては固い調子でシロに告げる。
 現状――彼らが動けることと言えば何か。既に警察関係者と魔法関係者の間に、無理矢理パイプをねじ込んだ所で、彼の出来る事は全てだったと言える。そのうえ犯人の本来の“要求”であるところのネギに関しては、本来彼は門外漢の筈だったが――それに関して、エヴァンジェリンは破格の働きをしてくれたと言っても良い。つまり、これ以上は何かをしようとしても、彼とて明日菜や木乃香と言った、ただの中学生と何も変わらないのである。

「俺が“できる”のはその辺りまでの話だし、実際に捜査に首を突っ込んだって、ピートの邪魔にしかなりゃしねえ。ましてや俺は魔法使いじゃねえからな。“修行”に関してネギにアドバイスが出来るわけでもねえし、それはシロも同じだろ?」
「……」
「何だかんだで、俺が何年お前と一緒に居ると思っている」
「この先の話であれば――死が二人を分かつまでと」
「そう言う話をしてるんじゃねーし、お前の場合何か手を打って置かんと俺が地獄に堕ちてもついて来そうなんだが」
「愚問で御座るな」

 いやいやそう言う話じゃない、と、横島は手を振る。

「お前が裕奈ちゃんの為に何かしたいなら、俺からじゃこれ以上の指示は出せん。で――その上でそこのガキに何か考えがあるって言うなら、お前もそれに乗っかれ。おいガキ――コイツは頭はアレだが腕は立つ。邪魔になるか?」
「いきなりそないな事言われてもな……」
「お前と同じで犬神系の妖怪だぞ?」
「それは知っとるが――……まあ、ほんなら多少は役に立って貰おか? せやけど報酬は出んで?」
「拙者はお主とは違う。学友を助け出すのに己の利益を考える気はない――強いて言うなれば、明石殿が無事に戻ってくる事のみが報酬で御座る」

 別に、小太郎の事を侮蔑しての発言ではない。彼としても、今の自分から敵意を感じることもないだろう――そう、シロは思う。しかし――

「ヨコシマの事なら心配は要りません。私が付いていますから」
「だから心配なので御座るが?」




『それで――お主は拙者に何か恨みがあってか?』
「アホ抜かせ。もともと俺一人でやろうとしとったことに、首突っ込んで来たのはお前らの方やろ?」
「私も何て言うか……慣れちゃったのかなあ、こういうのに。いや、この間和美と一緒にドッグフード食べたのがまずかったのかしら?」
「も……もふもふ、もふもふやぁ……あ、あかん、あかんて……ウチにはせっちゃんの羽が。ああでも……シロちゃん肉球触らせてもろてもええ?」

 それから一時間後――エヴァンジェリン邸の前にて。
 傘を差した小柄な少年の隣に佇むのは、白銀の毛皮を持つ精悍な一頭の犬――もとい、狼。何を隠そう、これが犬塚シロである。彼女は誇り高き人狼の一族であり、その姿を自在に、人間と狼とに変えることが出来る。実は同じような“オカルト技術”は、小太郎も使えるのだと言うが。
 果たして友人が目の前で狼に姿を変える所を目の当たりにした明日菜と木乃香は、そう冷静でも居られない――筈だったが。
 明日菜はネギがやって来てからこちら、非日常が続いたせいか、自分でも不思議な程に驚きを感じなかったし、木乃香はと言えば――狼の姿になったシロを見て、何やら両の手のひらを開いたり閉じたりしている。
 小太郎が、彼女に対して出した指示はシンプルだった。“少し外を回るから、付いてこい”――ただし、狼の姿で、という条件付きで。

「何ならお前らも来てもええで? 多少目立つくらいが丁度ええ――ただし俺が線引きを判断したら、警察かそこの兄ちゃんの所に逃げ込めや」
「……まあ、そう言うことならついていくけど。横島さんの代わりにあんたがシロちゃんに変なことしないか見張ってないといけないし」
「今更お前に友好的になってくれとは言わんが、いざという時に足だけは引っ張ってくれるなや?」
『こ、木乃香殿――申し訳ないがこの姿の時には、腹はその、腹側はデリケートで』
「固いこと言わんといてえなあ、うわあ、スベスベやのにふあふあや……指がふわあって」
「もう一回だけ言う。足だけは、引っ張ってくれるなや!?」

 “きゃんきゃん”と喚く木乃香とシロに、額に血管を浮かべる勢いで小太郎は言い――肺の中身が全て抜けてしまえとばかりの溜め息と共に、踵を返した。慌ててシロは、ソレを追う。

『犬上、これから何処へ?』
「せやな――ちょいと街を回る。まずは学園の方、学園長に脅迫状が届けられたっちゅう場所、そのものに行ければええんやけど――さすがに俺らが警察をどかす事も出来んやろし、まあそのあたりで“うろうろ”や」
『……?』
「何を――言う顔しとるな。今ここで全部言うのも面倒やし――すぐにわかると思うで? お前のところの兄ちゃんが、さっき何処ぞに電話しよったからな」
『先生が? 先生は、お主が何をしようとしているか知っていると?』
「ああ見えて結構切れそうやしなあ」
『ああ先生、時折見せるその凛々しいお顔が、もう堪らぬで御座るよ』
「……お前もう黙っとれや。何かだんだんわかってきたで、お前の扱い」

 果たして「そのうちわかる」とだけ口にして、小太郎は歩き出す。仕方なくシロはその後を付いていく。毛皮に触れる霧雨のような雨滴が、今は心地よく感じられる。

「……!? ちょ、ちょおっとシロちゃんストップっ!」
『明日菜殿?』
「ど、どないしたん明日菜、そない血相変えて?」
「何や明日菜。怖じ気づいた――っちゅうわけや……っ? お、おい、何を!?」
「いいから犬上あんたは向こう向いてろ! シロちゃん、駄目! そのカッコ、絶対、駄目!」

 小太郎の首を押さえ、シロの方に向き直り――霧雨に濡れるのも構わず、傘を放り投げた明日菜は、彼女の方を指さした。

『……拙者の姿に、何か問題が?』
「ああもう、言わなきゃわかんない!? 犬上あんた耳塞いでそっちに行って!」

 何で俺が、と、ブツブツ言いながらも小太郎は言われたとおりにする。こういう時の明日菜に逆らっても詮ない事であると思っているのだろう。むろん、今はまだ彼女の多少の我が儘程度、彼にとって影響が無いからかも知れないが。

「明日菜、シロちゃんこんなかわええやん。何かあかんの?」
『この姿の時は可愛いよりは凛々しいとでも言って欲しいで御座るが。ああ、先生は別で』
「暢気な事言ってないでよ――あのさ、シロちゃん今――裸じゃん!?」

 腰に手を当て――高らかに、明日菜は言う。
 その場の空気が、凍り付いた。確かにシロには、そう感じられた。

『あ、あの……明日菜、殿?』
「よう考えてみたらその通りやん!? う、ウチ今シロちゃんのお腹触っとったで? い、犬のお腹言うたら――アレやんか!?」
『木乃香殿まで!? いやさ、拙者確かにデリケートとか言ったで御座るが、そーゆー意味では――あと拙者は狼でござ――』
「尻尾! シロちゃんそれだけは駄目尻尾振ったら絶対駄目! だ、大事なところ、全部見えちゃうからっ!!」
『明日菜殿やめてくだされ往来で! 大丈夫! 大丈夫で御座るからっ!!』

 そもそも、人狼が人間の姿から狼の姿になる――あるいはその逆を行うとき、実際に体がどういうことになっているのかは、よくわからない。骨格も内蔵の位置もまるで違うだろう。ならば人間の姿の時のそれらの配置がそのまま移動なり、変形なりしてそうなっているのかと言われれば――それもわからない。ただ、狼の姿では狼の姿として機能するとしか、言いようがない。その辺りは実際“オカルト技術”であり、概念的な説明は難しい。
 そして人間の時に身につけていた服がどうなるのか。一見して消えてしまったように見えるが当然消えてしまったわけではなく。果たしてどうなっているのか――シロ自身にも説明は付かないのであるが――とりあえず、明日菜の言う“見えてはいけない物”が露出するような事はないと、彼女は自分の尊厳の為に述べておく。もしかするとそれがあるいは、“服”の名残なのかも知れない。

「……おおい、横島の兄ちゃん――おたくの所の馬鹿犬、返品してもええやろか……」

 ぎゃあぎゃあとわめき続ける女子中学生三人――と形容してもいいものか――を引き連れて、傭兵・犬上小太郎――彼の麻帆良での初仕事は、幕を開ける




 同日午前十一時――麻帆良学園本校女子寮。
 中学生以下に自宅待機命令が出ている現状ではあるが、そのロビーにはほとんど人がいなかった。とりあえずは安全な自室で、気心の知れたルームメイトと一緒に過ごすほうが、あるいは気が楽なのかも知れない。
 だからそのロビーのソファに一人腰かけ、難しい顔で据えられた大画面のテレビに流れるニュース映像を眺める長身の少女――龍宮真名の姿は、ことさらに目立つ。先に述べたとおりロビーにはほとんど人がいないから、その姿に気を留める人間がいれば、の話であるが。
 ややあって彼女はやおら顔をしかめると――ソファの背もたれを支えに体を仰け反らせるようにして、背後に声を掛けた。

「さっきからウロウロと鬱陶しい――冬眠に失敗した熊か何かかお前は」

 そこで彼女の背後の通路を歩いていた人物――“ほとんど”人が居ないロビーで、そのほとんどに該当しない少女が足を止める。彼女のルームメイト、桜咲刹那である。

「近衛がネギ先生と一緒に出て行ったのがそんなに不安か。全くお前はあれだな、子離れできない過保護な母親でもあるまいし」
「――しかし、だな!」
「この状況で、ネギ先生自身に何が出来るとも思えん。仮にエヴァンジェリンが気まぐれで何かアクションを起こしたとしても、それが近衛に何の関係が?」

 当初教員寮の空きがない故の間に合わせ――そうであった筈の、ネギの木乃香と明日菜の部屋への間借りは、今も続いている。部屋の主である二人は、それなりにネギに情が移っているからそうしているのだろう。明日菜あたりはきっと否定するだろうが。

「今のところ私の所には大した情報が来ていないから何とも言えんが――仮にお前の心配するような、魔法関係の云々だったとしたらどうだ。近衛も先の一件で自分の立ち位置は理解した筈だ。安易に首を突っ込むような真似はしないだろう」

 あるいは以前ならわからなかった、と、真名は言う。しかし今の彼女は、魔法世界の何たるかと――何故自分の周りであんな事が起きたのか、それを理解している。
 仮にネギが何かをしようと目論んで居ても軽々しく手を出すことは出来ないだろう。彼女は魔法使いではないし、魔法使いと“仮契約”すらしていないのだ。

「まあ、そういうお前の気持ちがわからないでもない――ああ、あくまで一般的な友人として、な。生憎と私はお前のように、近衛に友人以上の感情は抱いていない」
「どういう意味や!? う、ウチかて、このちゃんは大事な友達やと思うとるけど、そっ……と、とにかく変なことは考えとらん!!」
「冗談だ。だからそうムキになるな――人が少ないと言っても気でも触れたと思われるぞ」
「……誰のせいでそうなったと」

 口を尖らせながら、刹那は真名の隣に乱暴に腰掛ける。この少女も随分変わったものだと、真名でなくともそう思うだろう。むろん彼女はそんなことは口に出さないし、第一それは歓迎されるべき変化である。

「しかし少し前に、部屋に戻ったときにお前が近衛に抱きつかれて痙攣していた事があっただろう……いや、勘違いするな? 私はお前達のプライベートに口を挟むつもりはない。挟むような立場でもないが――念のためお前や近衛の家族は」
「勘違いしとんのはどっちや!? あ、あれはっ……せやからあれはウチの――!! ともかく変な気を回さんでもらえるやろか!?」
「そうムキになって言い返すから余計に疑惑が深まるんだ。それはともかく、気になるならどうしてお前はそうしている」
「……何が言いたい」
「近衛に連絡を入れて一緒に行動すればいい」
「私はもう、おじょ……このちゃんの護衛じゃない。そう言う立ち位置なら絶交や! と、このちゃんに言われてしまったし」
「誰もそんなこと心配するものか。見ればわかる――睨むな。悪い事じゃないだろう?」

 肩をすくめた真名に、刹那は首を横に振る。

「ともかく私はもうそういう役目じゃない――このちゃんがネギ先生と一緒にいるからって、それをやめろとは言えないし……」
「だから気になるなら、いっそお前も一緒に出たらどうだと言って居るんだ」
「だ、だって、このちゃんから私には何の連絡もなかったし! こっちから連絡を入れるのもその――どうかなって思うし、何て連絡したらいいのか……」
「……おい、お前は私にツッコミでもやらせたいのか? 好きな子に電話するのに緊張している男子中学生かお前は――近衛は寮生だし携帯くらい持ってる。実家に電話して『私は木乃香さんの友達の桜咲と言うものですが』とか言う必要はないぞ」

 反論は許さん、と、褐色の少女は心底疲れたという顔で言った。

「私も自分の事を普通の中学生とは口が裂けても言えないが――お前のルームメイトとして、中学生なりに相談には乗ってやっても良いが?」
「……私のことは、今はどうでもいい。明石さんの事を考えたらこんな馬鹿を言い続けるのも不謹慎だ。ああ、そう言う意味ではネギ先生とこのちゃんには、自重して欲しいと思うけれど」
「ならそういう風に直接言え。出がけに神楽坂が、犬塚の保護者が相談に乗ってくれると言っていた――そう、ゴースト・スイーパーの彼だ。まだ詳細はわかっていないが、彼の繋がりで――どうやら、魔法先生を丸ごと警察側に引き込んだらしい」
「……何だって?」
「そう、少なくとも魔法関係者ならそういう反応をするだろうな。何があったのかは詳しくは知らん。だが――そういうわけだから、ネギ先生も近衛も神楽坂も、無茶はせんだろうと言ったんだ」

 “魔法の世界”を知るものの常識で語れば、あり得ないことだ。犯人が魔法使いならば、魔法使いが事態の解決に当たって然るべき――当然、魔法使いであるネギもそれは同じ。だから彼の側で行動を共にすると言うのは、相応のリスクがある。だから刹那はこうも落ち着かない様子だったのだろう。

「だが事情が変わった。国際警察のオカルトGメンも出張ってきているそうだ。例えネギ先生が何を考えていようが、まだ十歳の子供が、そう簡単に“捜査”に首を突っ込ませて貰えるとは思えん」
「……」
「ま、私としてはどちらでもいい。どうせ私に依頼は来ていないからな。麻帆良の魔法先生が何を考えていようと私には知らぬ話――お前だって似たようなものだろう? どういう風の吹き回しかは知らんが、現状では危険と言える事はない――“できない”と言うべきだろうか?」

 だからとりあえず、近衛木乃香本人と連絡を取る位したらどうなのだ、と、真名は言う。少なくとも友人であるならば、それは決して不自然な行動ではない。
 ややあって、刹那が大きく息を吸い――ポケットから携帯電話を取り出したのを見て、やれやれと彼女は嘆息する。

「そういうわけだから――そこの馬鹿ブルーも、いたずらに騒ぎを大きくするのはどうかと思うぞ?」
「!?」

 弾かれたように、刹那が顔を上げる。
 するとロビーに据えられた自動販売機の影から――ばつが悪そうに、真名と同じくらい背の高い少女が顔を出す。

「気づかれていたでござるか……拙者もまだ修行が足りないでござる」
「いや、そもそもここは寮のロビーでな? そんなところで忍者ごっこをする意味がわからんのだが」
「せ、拙者はその、忍者では」
「あのな楓。私だって今が大変な事態だと言うのはわかっている。要らないボケで無駄な体力を使わせようとしないでくれ」
「……」

 その長瀬楓の言葉をぴしゃりと遮り、真名は言う。有無を言わさず黙らされた楓は、黙って彼女の隣――彼女を挟んで刹那とは反対側に腰を下ろした。これでもう一人、某中国人留学生が居れば“三年A組武道四天王”が勢揃いである。“魔法使い”という裏の世界の事を知っていると言う意味では、全員が。

「よくまああの双子の所から抜け出してきたな」
「実家に連絡したい事があると言って――さすがにいつもの元気は無かったでござるから」
「その実、どうなんだ?」
「……」

 携帯電話を握ったまま俯いた楓に、真名は言う。

「藪守さんのところか」
「……その」
「楓、気持ちはわからなくもないが」
「わかっている――わかっているで、ござる」

 楓は目を閉じ、首を横に振る。
 ここで彼に助けを乞うても、その彼を困らせるだけ――というのはわかっているのだ。
 ケイは確かにゴースト・スイーパーかも知れないが、あくまで美神令子除霊事務所の見習いである。オカルトGメンでさえ手を焼く事件を彼一人がどうこう出来る筈もなく、第一彼の独断で本来の職場を空けるわけにもいかないだろう。

「消極的かも知れない。少しでも何か出来そうな事があって、しかし手をこまねいて見ているだけ――それがもどかしいのはわかる。だが、誘拐事件というのはお前達が思う以上にデリケートだ」

 真名は言う。仮に――あくまで仮に、楓や刹那に、誘拐犯をねじ伏せるだけの腕っ節やらがあったところで、事件が解決するわけではない。ではどうすればいいのか、その辺りのことを、彼女たちは知る筈もない。

「私だって――ここでこうして詮もない事を言い合うしか出来ない自分に、思うところが無いわけじゃない」
「……」
「だがだからこそ逆に――今は動けるような時じゃ無いとも思うんだ。あるいはいずれ、お前達の協力が必要になる場面があるかも知れない。気休めではなくな」

 彼女の小さな呟きに――楓と刹那は、はたと、顔を見合わせる。




「ねっ……ネギ先生!? 大丈夫ですか?! 生きてますか!?」
「あ……はい、のどかさん……何とか。時にのどかさん、人間、ダメージを受けすぎるとちょっと気持ちよくなってくるんですね――知りませんでした」
「ネギ先生駄目です! そっちは、そっちは足突っ込んだらいけない方に突っ込んでますから?!」

 “別荘”の時間で初日の夜が更けようかという頃――ネギが“特訓”をしている部屋に案内されたのどかは、そこで干からびたような状態で倒れ伏すネギを目の当たりにして、思わず駆け寄って彼を抱き起こした。

『大した事はシテネエが』
「この現状でその言葉に信憑性があるとでも!?」
『あろうが無かろうガ、テメエらにはそれに従うしかネエだろ?』

 相変わらず意地が悪そうな笑みを浮かべ、零は言う。

『マア大した事じゃない――三十キロのウェイトを付けて、目隠しと耳栓をして――周囲から襲いかかってくる敵を倒すだけの簡単な訓練ダ』
「殺す気で掛かってますよねえ、それ!?」
『馬鹿言うな。俺は家庭教師ダト言ったダロウ? 殺しやしねーヨ』

 まあ、ネギ達の実力があまりに足りなければ結果としてそうなるかも知れないが……と、物騒なことを彼女は呟く。

『俺も加減はシテルしな。テメエらも、まあこれくらいはヤレルと信じてルさ。もしこの程度でも無理だッツウんなら――悪魔になぶり殺しにされるクライなら、ひと思いに俺が楽にシテヤルよ――とは言え、さすがにソレは遠慮シテエだろ?』
「当たり前です!」
『ケケケ、そうなるな。で、チビ女――テメエの方はまさかサボっちゃイネエだろな?』
「……もちろんです。ただ――あれがどんな意味があるのか」
『ソレを教えたラ特訓にナラねえ。まあ自力で気がつく分には問題ネエから、頑張って回答にたどり着いてミロ。なに、残り時間がヤバくなったら教えてやるよ』

 そう言って零はしゃがみ込み――のどかに抱き起こされたネギと、視線を合わせる。

『ケケケ、お疲れさん――今日の特訓はおしまいだ』
「……えっ?」
『これ以上は何をヤッタってマイナスにしかなりゃシネエ。超回復っつって聞いたことネエか? 訓練の目的って奴はソレだ。根性だけで何処までもヤレルッツウのは、大昔のスポ根漫画くらいで十分だ』

 確かに特訓と言えば、がむしゃらに体を鍛えれば良いという物ではない。ひたすら鍛錬を続けて休みも無し。果たして強くなれるかと言えば、その前に体を壊してしまうだけだろう。
 結局トレーニングというのは、負荷と休息を繰り返す事で成り立つのである。
 ただ――頭ではそれを理解出来ていても、焦りという物はある。時間は潤沢とは言えないのだ。極端な話、今日は百回素振りをした――それが百一回だったら、また結果は違ったのでは無いだろうか? そんな風に考えてしまうのだ。

『もちろんその辺りのさじ加減は俺がヤル――信用ナラねえカ?』
「いえ……そんなことは」

 首を振りながら立ち上がるネギに、零は言う。

『信用とかじゃ無く――納得出来ネエか。顔にそう書いてアル』
「……」
『安心シロ――特訓ッツウのはな、何も殴り合いヲシタリ、トレーニングしたりと、ソレだけを指しテルワケジャネエ。肉体的な特訓は一旦休憩だが――特訓自体に、休む暇があると思うナヨ?』
「肉体的ではない特訓、ですか?」
『言ったダロ、お前らとにかく甘ェってな。実際ガキなんだからしょうがない――ナンテ相手は待ってクレねえんダ』

 ではこれからは、つまり精神的なものを鍛える特訓が始まるのか。
 魔法使いの特訓と言えば、即ち戦い方の事であると――それしかわからないネギには、一体彼女が何を考えているのかさえわからない。得体の知れない不安に、喉が鳴る。

『さて坊や、テメエは今から体を休めて――しかしその鬱陶しい程ピュアな性格トハおさらばしてモラウ』
「はあ……そう言われても、何をすればいいんですか?」
『とりあえずは風呂ダ。坊やの相手をしてた木偶人形共が用意してくれテル』
「は、はい。あ、でも、それじゃのどかさんから」
『いかにも英国紳士ッツウ気障ッぷりだな坊や』

 ケケケ、と、またわざとらしい笑い。
 実際、零の魔法か何かで、ジャングルを裸で歩いてきたときの汚れは消えている――しかし、そう言う状態になったと言う事実が消えたわけではない。さっぱりしたいのはのどかも同じだろうと――当然の選択として、ネギはのどかに先に入浴するように促す。
 ――が、

『ケケケ――だがその気障ったらしさ、すぐにメッキを剥いでやる――風呂は全員一緒だ。拒否は許さネエ』
「……えっ? ……えっ?」
『何だお前ホント馬鹿ミテエなツラしやがって……今からここにいる三人で風呂入るぞっつったンダヨ』
「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください! だって」
『だって、何だよ。今更ダロ? テメエらが数時間前にドウイウ醜態晒したか、まさか忘れたワケジャネエよなあ?』
「だからってそれはどうかと思いますよ!? た、確かに僕はその、は、恥ずかしいとか、そういう……極限状態ではくだらないと、そう言えるかも知れない事を考えて、結果のどかさんを危険に――いやでもそれはですね!? 大体――」

 今の状況で、よもや異性に慣れることが自分にとって必要とは思えない。仮にこの先、ネギが女性関係で身を持ち崩すだとか――そう言う馬鹿げた可能性があったとして、その為に何らかの対策が必要だったとしても、まさか今その対策をしても意味がないだろう。
 だがネギの言葉を、零は鼻で笑う。

『言い訳を並べ立てるンジャネエよ。結局テメエ“恥ずかしいから嫌です”って言ってるだけジャネエか。なんつーかテメエのそのウブさ加減つうのか童貞臭ッツウのか、もう見ててイライラするレベルなんだよ』
「そ、そんなのネギ先生は子供なんだから当たり前です! 十歳児相手に無茶苦茶言わないでください!」

 胸の前で拳を握り――顔を赤くして、のどかが反論する。零はそんな彼女に手を振りつつ、唇の端を持ち上げてみせる。

『それじゃチビ女よ。テメエ、“お姉さん”としてはどうなんだヨ? そう言うのは嫌ナノか?』
「えっ」
『……』
「……」
『――さてそこのムッツリスケベのお姉さんの許可も取れたコトダし、さっぱりするとしようぜ?』
「いや、違っ……! 違いますからねネギ先生! 私、そう言うんじゃ無いですからね?! 勘違いしないでくださいね!?」
「お、落ち着いてくださいのどかさん、僕は別にそんなことは……」
『良いからさっさと行くぞムッツリ主従』
「「勝手に偏見にまみれたキャラ付けをしないでいただけますか!?」」

 ただの三か月――まだ幼いネギにとってみても、あまりに短いその特訓の期間は、まさに今始まったばかりである。










 ……なんか近頃過疎ってる気がする……まあ原作終わってだいぶ経つから仕方ないといえば仕方ないけれど。
 とりあえずこのまま記事が上がりっぱなしだと、更新かけても気づかれない(記事数も結構伸びてきてるし)ように思うので、タイトルに更新情報入れることにする。

 ネギの「戦闘訓練」は、例によって上山道郎先生の「怪奇警察サイポリス」で、主人公がやっていたのを参考に。そういえば意図はしてなかったけど、彼もまた「三か月で十倍強くなれ」とか無茶振りされてたなあ……しかも「できなかったら殺す」というおまけつきで。
 その辺の話は機会があればご一読ください。ほかにも参考にさせてもらった部分があったり。この話でなく、ちょっと前にね。


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