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No.26235の一覧
[0] 麻帆良学園都市の日々・中間考査(GS×ネギま! 2スレ目) 2018/2/22 お知らせあり[スパイク](2018/02/22 23:06)
[1] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「将来」[スパイク](2011/02/26 20:28)
[2] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「自分」[スパイク](2011/04/10 21:35)
[3] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「自我」[スパイク](2011/04/16 20:03)
[4] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「未来」[スパイク](2011/04/24 21:23)
[5] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「目標」[スパイク](2011/06/25 22:29)
[6] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「助言」[スパイク](2011/08/21 18:56)
[7] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「世界」[スパイク](2012/04/01 14:35)
[8] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「再会」[スパイク](2012/04/28 22:00)
[9] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「矜持」[スパイク](2012/11/03 09:15)
[10] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「明日」[スパイク](2012/11/03 09:29)
[11] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY1 雨音」[スパイク](2013/01/13 01:58)
[12] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY1 招待状」[スパイク](2013/01/13 03:45)
[13] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 指揮官」[スパイク](2014/09/07 21:43)
[14] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 その裏で動く」[スパイク](2014/10/05 03:51)
[15] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 対価」[スパイク](2014/10/26 20:32)
[16] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 HOW TO」[スパイク](2014/10/26 20:41)
[17] 朝帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 今できること」[スパイク](2014/11/08 23:15)
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[26235] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 その裏で動く」
Name: スパイク◆55d120f5 ID:1c2c1e95 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/10/05 03:51
 人は誰しも、今より強くなりたいと思っているものだ。
 だが、結局何をして強くなれたのかと、疑問に思うのも良くある話しである。
 傍目にどう見えていようが、自分自身は決してごまかせない。だから、人はいつだって今より強くなりたいと思っている。
 それが果たして何を意味するのかも、わからないまま。




 病院の食事は味気ない、と、よく言われる。
 考えてみるまでもなく、それは当然のことである。余程健康を気にしているのでなければ、日常の食事で最も優先されるべきは自分の好み、そこに基づいた味である。病院の食事は味は二の次とまでは言わないだろうが、最も優先するのは体力を回復させること。弱った消化器に負担を掛けないよう、また、過剰な塩分や脂が内臓にダメージを与えることが無いように。
 そう言うことから逃げられない以上、恐らくそれを作ったのが一流レストランのシェフか何かだったとしても、結局病院食は「味気ない物」になってしまうだろう。

「ご飯と魚、じゃがいもの味噌汁――素晴らしい組み合わせですね」
「あなたは本当に美味しそうに食べるわねえ……いや、良いことなんだけれどね?」

 その、世間一般には“味気なくて美味しくない”と言われる病院食を猛然と掻き込む白髪の少女に、それを運んできた看護師は、微笑ましいのと呆れたのが混ざったような、生暖かい目線を向ける。

「それだけ喜んでくれたら、栄養士の先生と調理師さんも救われるわ。近頃の特に若い人は、病院食なんて不味くて食べられないとか言って、残すだけならまだしも、勝手に食べ物持ち込もうとするんだから――この間も見舞いの子に、カレーパンと牛乳とか」
「カレーパンと牛乳!? ああ勘弁してくださいよ、退院したら食べたい物がまた一つ……」
「ありすぎて困るわけね」
「幸せな悩みだって本当に思います。だって昔はお米や味噌だってろくに手に入らなくて、お腹がすいてたらもう味なんて気にしていられないけど、闇市の“すいとん”なんか、きっと今は食べられたものじゃないですよ?」
「……まるで見てきたように言うのねえ……おじいさんかおばあさんの体験談? それとも近衛先生かしら」
「あ、ええと……そうです、近衛先生が昔はそうだったって、あはは」

 何かを誤魔化すように少女――相坂さよは、笑う。まさか自分が、実際にその時代を生き延びた“戦災孤児”である事を、目の前の看護師に教える必要もない。第一、信じて貰えるとは思わない。この病院でそれを当然と知っているのは、院長の柳井医師以下、数名のスタッフだけである。

「いつもおかわりしようと思うんですけど――もうちょっとで体重も四十キロまで戻りそうだし。柳井先生、体重が四十キロ越えたら退院の日取りも考えられそうだって」
「まだちょっと消化器が弱ってるのかしら――食べると気持ち悪くなるとか?」
「いえ、単純に昔からそれほど量が食べられなくて……すぐお腹が膨れるんです」
「……そいつは幸せね!?」
「な、何で怒ってるんですか?」

 看護師と馬鹿げた遣り取りをしていると――ふと、病室の扉がノックされる。先の看護師に目配せしてから「どうぞ」とさよが言うと、入ってきたのは無精髭を生やした、中年の眼鏡を掛けた男だった。

「高畑……先生?」
「やあ、相坂君。元気そうで何よりだ――失礼、僕は高畑と申しまして、去年までのこの子の担任をしていた者です」

 そう言って高畑は、看護師にことわりを入れる。看護師はそれに応えて一礼し、食事が終わった頃にまた来ると言い残して、部屋から出て行った。

「あ……ごめんなさい、私、こんな」
「いや、食事時というのを承知で来たんだ。学園長先生に頼まれてね」
「……近衛先生に?」
「学園長先生本人でなくて残念だろうが、そこは勘弁して貰いたい。彼は今、君一人のために行動できるような状況じゃないからね」

 箸を握る手に、自然と力が籠もってしまう。目の前の男が何を言いたいのかはわからないが――しかし、何かただごとではない事が起こっている。それくらいは、彼女にも感じ取れた。

「――言いにくいことだが、落ち着いて聞いてくれ。君のクラス――三年A組の生徒が、昨日、何者かに誘拐された」
「――!!」

 彼女の赤みがかった瞳が、目一杯見開かれる。
 言葉は、出なかった。ただ病室で寝ていただけの自分が、その事実に対して――紡ぐ言葉など、今ここで見つかる筈もない。

「だから学園長先生を含めて麻帆良の先生方や警察の方々が、一生懸命動いてくださっている。誘拐された子は危険な状態にあるが、それでも一応無事である事は犯人から知らされている。この事実を君に伝えるべきかは迷ったが――」
「いえ」

 さよは、首を横に振る。

「教えていただいて、ありがとうございます」

 自分はまだ、あのクラスの仲間である――などとは、胸を張って言えないけれど。
 あまつさえ、その事実を知って何かが出来る――などとも思わないけれど。
 それでもその事実を知らないで居た方が良かったかと言えば、それは間違いなく“否”である。

「……横島忠夫という人を、覚えているかい?」

 唐突に、高畑は言った。さよは、頷く。自分を長い眠りから目覚めさせてくれた恩人であり――クラスメイトである犬塚シロの保護者でもある。自分で自分の事を馬鹿でスケベな男だと吹聴する明るい青年で、軽くない障害を負っているらしいが、それを感じさせる事はない。
 その彼が、一体どうしたというのか?

「実は、その彼の“つて”で、この誘拐事件の捜査に、国際警察のオカルト専門家が協力してくれることになった。僕らは今、彼の指示に従って動いている」
「オカルト専門家……あ、あのっ……もしかして犯人はその――“魔法使い”なんですか?」
「……」
「いえ、その、無理に――応えて欲しいワケじゃ」
「それはまだわからない。“魔法使い”などと言う言葉で表せるものなのかどうかも」

 言いよどんださよに、高畑は首を横に振った。
 どうやら目の前の彼が、つまりは“魔法使い”であるらしいと――その事は、近右衛門の話から知っている。そして恐らく彼の方も、自分の経歴を知っているに違いない。自分が――相坂さよと言う少女が、“魔法使い”に因縁のある過去を持っていると。
 むろん、それを理由に――今更近右衛門や高畑、麻帆良の“魔法先生”達を責めようとは思わないけれど。

「犯人からの要求らしいものはまだない。だが――“要求”と言えるのかどうか、犯人は名指しで、僕らに告げてきたことがある」
「……」
「さすがにそれを君に教える訳にはいかないが――どうやら犯人は、僕らのことをよく知っている。何故なら僕を含めて、その“要求”に関わりのある人間に、犯人は脅迫状を送りつけてきた」
「脅迫状、ですか?」
「ああ」

 高畑は、頷いた。

「君は学園長先生に繋がりが深い人間だ。当然――犯人が君のことを知っている可能性はある。状況からして君が狙われる可能性は低いだろうが――それでも、用心はするべき“程度だ”と、横島君の知り合いの刑事さんからは、忠告を受けていてね」

 言いながら彼は、スーツのポケットから何かを取り出した。
 それは、お守り袋のようだった。紫色の小さな巾着のようなもので、模様はなく、簡素な作り。中には何か、丸いビー玉のようなものが入っているのだろう事が、手触りからわかった。

「それはオカルト技術で作られたお守りだそうだ。持っていれば最低限、身の安全は保証される」

 さよは受け取ったその袋に目を落とす。指先に感じる、硬い感触を、握りしめる。自分の腕は、もうそこまで動く。

「近衛先生――大丈夫、かな」

 小さく呟いたその言葉に――高畑は、応えなかった。




「ほんで中学生は、部活も返上でガキのお守りかいな――やっとられんでホンマ」
「愚痴っては居るけど、お前は帰宅部じゃないか、犬上」
「保護者やっとるオッサンの強権でな――無理矢理自警団やらされとる。これでも勤労青年やっちゅうに」
「ボランティアだけどな、あれ」

 午前十時――その日の中等部以下の生徒には、全校集会の後自宅待機が命じられた。果たして初等部は集団下校であり、中等部はその引率である。
 果たして小学生の少年少女に聞き分けを持てなどと言っても詮なきこと。たとえ今以て何が起こっていようが、降って湧いた休日にはしゃぐなと言う方が無理なのである。
 だからとりあえず自宅なり寮なりに押し込めば、後は両親か管理者の仕事ではあるが。それまでの引率を押しつけられた中学生の苦労はいかばかりのものか。自分自身が少し前まであの中に居たのが信じられない程である。
 そしてそんな中、改造制服を着た一人の小柄な少年――犬上小太郎も、いかにも疲れたと言わんばかりの表情で道を歩いていた。

「大体帰宅部言うなら、お前もそうやないか、日向(ひゅうが)」
「何を言う。俺は天文部という立派な部活動に所属している」
「部員がオノレだけの部活なんぞ、部活言えるもんかいな」

 隣を歩くのは、小太郎よりもかなり背が高く、しかしほっそりとした少年である。こちらは学校指定のカッターシャツとスラックスをきちんと身につけている。隣を歩く小太郎が、改造ズボンに上は派手なTシャツという出で立ちであるから、普通の格好の彼が妙に真面目に見えてしまうのは仕方ない。

「まあ、こういう事があったんじゃ仕方がない。実力テストも近いんだ、大人しく家で勉強でもするさ。犬上は中間の結果、どうだったんだ?」
「お前は目の前の不良少年が勉強出来るように見えてか」
「不良少年ねえ――」
「おお、何やお前馬鹿にしとるんか。喧嘩売っとんなら、いつでも買うで?」
「まさか、それこそ時間の無駄って奴だろう。俺は無駄な事はしない主義でな」
「……――なら俺とつるんどるのはええんかいな」
「ん?」

 溜め息混じりに、小太郎は長身の友人を振り返る。

「お前、頭ええんやろが。いい加減こっちが呆れるくらいにまあ――頭の出来がええんやったら、俺みたいなのと付き合っとったらどう言われるかくらいわかるやろが」
「お前――俺は男と付き合う趣味は無いぞ?」
「奇遇やな俺もや――真面目に喧嘩売っとるんか?」

 肩をすくめ、日向と呼ばれた少年は笑う。その表情は、小太郎にとって気に入らない。明るく快活で、授業態度も真面目な目の前の彼が、いかにもわかりやすい不良の自分とつるんでいて、周りからどう思われているか――近頃、彼の周りには友人の姿は少ない。

「不良――なあ」
「何や」
「別に――お前の言う不良って奴は、チンピラに絡まれた同級生を助けたりするほど気まぐれを起こすのかと思ってな」
「……せやからあれは、単なるイライラのはけ口っちゅうか……ああもう、ハッキリ言うたるわ、あれを恩に思とるんやったら、単なる勘違いや」
「よしわかった。俺も友達とこういう話しはしたくない。はいはい、もうやめ」
「お前は何を言うとるんや……?」
「俺はともかくとして、お前の方こそこっちに来てからずっと一人じゃないか」
「転校生なんぞそう言うモンやろ。大阪と違うてこっちには知り合いかて……」
「……すまん、俺……この間お前の携帯、偶然触っちまった」
「……」
「……」

 気まずい沈黙が、二人の少年の間に流れる。
 小太郎は大阪に居る間、表向きただの不良中学生だった。だがその境遇と自身の性格のせいで、恐れられる事はあったが、仲間と“つるむ”と言う事が出来たかと言えば――彼は舌打ちをして、大股で歩き始める。

「おい、待てよ。悪かったって」
「そこで謝るなや腹立つ――お前、寮は向こうやろが!」
「せっかくだしお前の家で勉強でもと」
「……月詠の姉ちゃん目当てかいな?」
「まさかそんな! ……なあ、犬上。俺たちは友達だよな?」
「あのなあ日向――ええか、この際その言葉は否定せんわ。俺は、今この瞬間、友達であるお前の事を思うて真剣に言うたる――あの女だけは、やめとけや?」
「犬上――ひょっとして、俺たちはライバルか?」
「その勘違いだけは勘弁や! 俺はたとえ世界中で月詠の姉ちゃんしか女がおらへんかったとしても、あの女だけは勘弁や! ええか日向、お前はあの女の見た目に騙されとるだけや! 頼むから目ぇ覚ましてくれや!?」
「騙されるとは犬上――あの人がそんなことをするわけが無いじゃないか。いいか、彼女はな――ん?」

 日向少年は胸元に手を当てて、大仰に何かを語り始めるところだったが――何かに気がついて、足を止めた。

「何や?」
「あれ、何やってんだ? こんな時に、掃除?」
「あん?」

 彼が顎で指した先には、一人の少女の姿があった。何故か大きな箒を両手で持ち、落ち着かない様子であたりを見回している。年の頃は自分たちと同じくらいだろうか。
 だが果たして、小太郎は彼女を見て小さく舌打ちした。

「……犬上?」
「ああ……何でも。あいつなら知った顔や……何やその目は」
「いいや、別に、何でも」
「お前が思とるような夢のある話は一切無いで。関わり合いになると面倒やし、さっさと行くで」
「え? いいのか?」
「ええ、ええ。どうせまたぞろ――」

「ここで何をしているのです。中学生には自宅待機の指示が出ているはずですが?」

 冷たい声が、少年達の背後から投げかけられた。




「あ、いや――自分たちはその、帰り道の途中で」

 日向少年は、彼らに投げかけられた声の主に、戸惑いながらも応える。
 彼らに声を掛けたのは、長身の少女だった。どこか西欧の血が混ざっているのだろう、日本人離れした美貌に、すらりと長い手足。金色の長い髪。身に纏っているのが、何処かの学校の制服でなかったら、恐らくもっと年上に見えたに違いない。
 萎縮――と言うのではないが、ごく普通の中学生でしかない日向少年が気後れしてしまうのは仕方がないだろう。

「なら、早く帰りなさい。今麻帆良で何が起こっているか、知らないわけではないでしょう?」

 だから、だろうか。日向少年は気がつかない。目の前の長身の少女が放った言葉が、何処か妙な物であったことに。

「あれはええんか」

 小太郎が背後を指さす。そこには先程の少女の姿がある。しかしこちらに近寄ろうとして――明らかに、踏みとどまった様子だ。

「……愛衣は麻帆良自警団の一員です。私たちには」
「それなら俺も自警団やで。なあ、その辺の事は、よう知っとる筈やけどな、姉ちゃん」
「お、おい――犬上!」
「そうとも――俺は今この麻帆良で、何が起きとるか、よう理解しとるつもりやで?その上で言わせてもらうが、こんな今やからこそ、姉ちゃんらのような“か弱い女学生”は、家に籠もっとるのが賢いんちゃうか?」
「あなた――」
「犬上! よせって――! す、すいません、こいつ何か虫の居所が悪いみたいで。俺からよく言って聞かせますんで」

 ただならぬ雰囲気に、はっとして日向は二人の間に割って入る。相当に勇気を振り絞ったのだろう、彼の声は半分裏返っていた。

「……まあ、姉ちゃんの言う通りや。俺ら中学生は大人しゅうに家に籠もっとるさかい――好きにやったらええわ」
「犬上!」
「行くで、日向。今外は物騒言うし――こんな連中とおっても、時間の無駄や」
「いや、お前ちょっとおかしいぞ? この人達も自警団のメンバーなんだろ? お前の仲間なんじゃないのか?」
「反吐が出るわ。少なくとも、俺の知っとる“自警団”っちゅうんは、自殺志願者の事や無いからな」
「……お前……何を言って――?」
「……待ちなさい」

 金髪の少女の手が伸びる。その細く白い手が、小太郎の肩を掴んだ。

「ああ、すいません! あのこいつ、見た目通り遅れてきた中二病に罹ってるっていうか」

 その援護射撃自体が無駄だとわかっているだろうが、どうにか日向が二人を引き離そうとする。
 だが、小太郎は友人の声など聞こえていないとばかりに、金髪の少女を睨む。

「離さんかい、痛いやろが」
「私は――そう、あなたにそう言われたら、何も言い返せないわ、でも」
「オノレの耳は飾りかいな。俺はあんたらに絡む気はない。好きにせえ言うとる――何や文句があるんかいな。睨む相手が違うんちゃうか、ああ?」
「でも――でも、あなたにだって、そう言うときがあるでしょう? あなたがあそこにいたのは結果論で、もしあの時、私が」
「……あかんわ、日向、この姉ちゃんどっかおかしい――家で試験勉強でもしとるんが千倍マシやな。今度の試験範囲、ちょいと俺に教えてくれや」

 乱暴に少女の手を振り払い、小太郎は言う。
 手を振り払われた少女は――ただ黙って、俯いた。その拳はきつく握りしめられ、日向少年でなくとも、彼女が“普通だ”とは思えないだろう。だが、小太郎が言うところの“おかしい”と――彼がここまで、彼女を敵視する理由もわからない。
 ややあって、はあ、と――小太郎は、わざとらしく大きなため息をついた。

「今度の誘拐事件、犯人は身代金目的やろかな?」
「……?」
「仮に犯人が、明日までに一億円用意せえと――そう言うたら、あんたはそれを払うか?」
「それは、きっと――でも、犯人からの要求はまだ無いって、先生方が」

 少女の声に、ぴくりと、小太郎の眉が動く。

「ただのたとえ話や。つまりそう言うことがあったとしたら――あんたは、人質の命を一億で買うた事になる」
「それは――そうかも、知れない。でも、そう言う言い方は――」
「……少なくとも“そこ”に噛みついとる間は、あんたはその程度やろな」

 今度は、小太郎は振り返らなかった。日向は少し考えたようだったが――ややあって、金髪の少女に小さく頭を下げ、友人の後を追う。

「おい――お前、一体どうしたって言うんだよ!?」
「どうもこうも無いわ。あの姉ちゃんとはどうにも馬が合わん――お前かてそう言う相手はおるやろ?」
「あれはどう見たってそういう感じじゃなかったぞ? お前、あの人達と何かあったんだろ?」
「……まあ、俺が素直や無い、言うのも――認めるけどな」

 不意に、小太郎はポケットから携帯電話を取り出す。手慣れた様子で電話帳を呼び出して耳に当て――

「……俺や。例の話しやけど気が変わったわ。今から――……あん? 誰やお前。ああ――って、何でお前があの子供先生の電話に出るんや?」




『埼玉県警麻帆良署と、麻帆良学園の“魔法先生”とは話が付きました――指揮権は僕と、近衛近右衛門学園長に集約できます』
「おお――汚れ役ご苦労さん。針のむしろの座り具合はどうだった?」
『わかっててそれを聞きますか横島さん――まあ、それも僕の仕事なんですけどね』
「警察なんてそう言うモンだろ。美神さんへの覗きで一週間留置所に入れられた事は決して忘れん」
『完全に自業自得じゃないですか』
「すまんがそっちはもう暫く針のむしろに座っててくれ。なんならそこに代役で西条あたりを据えてもいいんじゃないか」
『さっきも言いましたが、僕の仕事は“こういうこと”です。西条主任管理官の手を煩わせるようなことはしませんよ。それより――』
「ああ、うん――俺もこういうことは得意じゃないし、気乗りはしない。ただ他に誰も出来る奴が居ない以上、仕方ねえだろ」
『しかし』
「忘れたかピート、俺は美女と美少女の為なら命さえ惜しくねえ。これでこの事件が片付いたとなれば、裕奈ちゃんからの俺への評価はうなぎ登りだ」
『……そうかも、知れませんね――今夜あたりおキヌさんが枕元に立っても知りませんが』
「おいちょっと待て最後に怖いことをさらりと言うんじゃ――おい、おい!? くそ……切りやがった」

 午前十時過ぎ、麻帆良市郊外、横島邸。
 口をへの字にしながら電話を切った横島に、呆れたような視線が突き刺さる。果たしてその視線を送ってきたのは、アイスブルーの冷涼な瞳。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルその人である。

「お前は本当に――いちいち馬鹿を挟まんと会話も出来んのか」
「シリアスなんざ十分も続けたらぶっ倒れる自信があるぜ」
「えらそうに言うことか! 大体貴様――」
「先生、エヴァンジェリン殿――平常心を保って居られるのは結構で御座るが、今は時間が惜しい」

 そのままくだらない掛け合いに移行しそうだった所を、紫陽花柄の着物を身に纏った、銀髪の少女が止める――犬塚シロが。

「よし――そんじゃまあ、状況を整理する。ホントに俺ってこういうの苦手なんだけどな……」

 頭を掻きながら、横島は言った。

「とりあえず麻帆良の警察と、“魔法先生”方が動いてくれている。懸念してた魔法の云々も、まあピートをねじ込めたし、学園長が居れば問題はねーだろ」

 果たしてその場所――横島邸の居間には、ネギ、明日菜、木乃香の三人と、エヴァンジェリン、茶々丸の主従、そして“横島家”のシロとあげは――そしてネギの“従者”であるところの、宮崎のどかが居る。エヴァンジェリンと茶々丸に関しては、横島の友人であるピートを介入させるために必要だったわけであるし、ネギ達に関しては――

「ただ――厄介なことに、“ここで俺たちが動かない”“警察と魔法先生にお任せする”というもっともな方法は、どうやら許されない」

 彼は言った。
 脅迫状が送られてきたのは三カ所――横島邸、麻帆良寮の明日菜と木乃香の部屋、そして、たまたま近右衛門と高畑が詰めていた、麻帆良学園の宿直室である。
 これは、偶然ではあるまい。犯人は“彼らが何者であるか”を理解したうえで、脅迫状を渡してきた。ならば犯人は、“彼らに何らかのアクションを求めている”と考えるのが自然である。
 そしてそのアクションとは、間違っても「事態を警察に丸投げして自宅で待機」というようなものではないだろう。

「一つ気になるのですが――」

 ふと、今まで黙っていたあげはが言った。彼女は夕べ、横島邸に送りつけられた脅迫状の封筒を発見した張本人である。中には学園長や明日菜・木乃香の部屋に送りつけられたのと同じ文面の手紙と、同じく捕らわれた裕奈の写真が入っていた。

「ネギ先生の所に脅迫状が送られたのはわかります。この犯人が、ネギ先生に因縁のある人物だった――と言うのも、何ら不自然ではない」

 果たしてネギ・スプリングフィールドのネームバリューとはそれほどのものである。結果的に何もアクションが起きなかったとは言え、彼が修学旅行の引率で京都に行くと言う話しが出ただけで、関西呪術協会という大きな組織が騒ぐ程なのだ。そうでなくとも、魔法の世界に於いて彼の名を、そして英雄“ナギ・スプリングフィールド”の名を知らぬ者はいない。
 犯人の真意がどこにあるにせよ、ネギにちょっかいを出してくる事自体――意図が読めなくとも、納得は出来てしまう。

「学園長先生の所に脅迫状が送られるのもわかります。麻帆良と言う組織は、彼を抜きにしては語れない。では――ヨコシマは?」
「私とそこの坊やとの喧嘩――そして京都での一件。それを通じてここは、坊やにとって繋がりの深い場所となっている。脅迫状の文面が他の二件と同じだった事を考えても――それほど深い理由があるとは思えないな」

 エヴァンジェリンは言った。

「とはいえ貴様らは魔法使いにとっては異質の存在――それがわざわざ麻帆良に来ているのだ。もともと目立って無いとは言えないだろう。あわよくば、坊やにかこつけてその内情を知りたいと――その程度の事は考えているのかも知れない」
「……ヨコシマ」
「まあ、それを今考えても仕方ねえ……って事か」

 横島は疲れたように息を吐く。その仕草に、シロとあげはは何か言いたげだったが、結局その場では無言だった。

「ともかく、ネギ」
「はいっ!」
「あ……いや、俺はお前に指図が出来るような立場にいねーし、そもそもそういうの期待するだけ無駄だから……あんまり気負うな」
「……」

 そこでムキになって噛みつかないだけ、彼は成長したと言っても良いのだろうか。
 横島は続ける。

「ある程度こっちの動きは、向こうに筒抜けだと思った方が良いだろうな。実際、犯人の姿は見当も付かない。修学旅行の時よりも、状況は悪い」
「ふん――では、どうする?」
「とりあえず、ネギに“努力”してもらう」
「……ど、努力……ですか?」
「ああ。脅迫状はネギを名指しで来てた。裕奈ちゃんを取り戻したいなら、ネギに何とかしてみろと。犯人がネギを煽って何がしたいのかイマイチわからんが――少なくとも今は、その言葉に乗るしかない」
「しかしその言葉に乗ると言っても――具体的に何を?」

 不安げに言ったのはのどかだ。横島はそんな彼女を安心させんと――何かを言おうとしたようだったが、同居人の冷たい目線に耐えかねたのだろう、両手を挙げる。

「もちろん、相手の要求に乗ってるように見せかけて、その実自分の有利になるように」
『しかし言うは易し、行うは難し、ですぜ?』
「お、いたのか小動物」
『最初っから兄貴の肩に居たでしょうがッ!?』
「いや、モノローグにも出て来なかったかし、もういい加減イギリスかどっかに帰ったのかと……」
『わけのわかんねえことをさも当然のように言わんでくださいよ! いくら何でも傷付きますよ!?』

 冗談だよ、と、横島は手をひらひらと振る。

「まさか奴さんが、この作戦会議まで覗き見してるとは思わん」
「何故そう言い切れる?」
「もしそうなら、俺たちにはガチで打つ手がねえ」

 だからとりあえず、“そう”考えるしかないと、彼は言う。
 それを聞いたエヴァンジェリンが、呆れたようにため息をついた。

「俺やネギはただの人間だ。多少妙ちくりんな特技があろうが、大概の事をやろうと思えば出来ちまうエヴァちゃんとは違う」
「……」
「ただ、それがまるっきりの希望的観測だとも言わん。もし俺たちが最初っから奴さんの釈迦の手のひら状態だとするなら、どうだ? 俺なら、こういうまだるっこしいことはしねえよ。向こうがネギに何の魅力を感じてるのか知らんが――もっと好き放題をするね。ネギ自身を狙って直接的に」
「しかし、それはあくまであなたの仮定でしょう?」
「ああ。だが仮に違っていたとしても、俺たちの行動が全て筒抜けじゃない――それは確かだろうぜ? そうでなきゃ、そもそも俺たちはこうやって雁首揃えて作戦会議は出来ねえだろうよ。相手がこっちの全部をコントロールできるようなとんでもねえ奴なら、尚更な」

 のどかの問いにそう答え――エヴァちゃんあたりならわからないか、と、彼は続ける。

「そう――脅迫状と言い、裕奈ちゃんのけしからん写真と言い――間違いなく犯人はこの状況を“楽しんで”る」
「……」

 誰かの喉が、鳴った気がした。

「明日菜ちゃんに木乃香ちゃん。たとえば君らはこれから新しくテレビゲームを始めようかって時に、攻略本や攻略サイトをみっちり用意してから臨むか?」

 話を振られた少女二人は顔を見合わせ――ややあって、首を横に振る。
 当然だ。大概の人間は、ゲームをプレイするのにそんな馬鹿げた事はしない。最初から何が起こるかわかっていて、それに対してどう対処すればいいのか――それがわかっていて、“何のため”のゲームだと言うのだろうか。

「相手がネギを煽って何がしてーのか……その辺はよくわからん。が、やり口からするなら、こういうところは“フェア”に行くはずだ」
「……先生」
「……というのをだな、ピートを通じて西条のクソ野郎の所に状況を伝えてみたら、言葉尻ごとの俺への暴言と共にそういう解答が返ってきた」
「ああ……」

 シロとあげはが、同時に眉間を指で押さえる。
 西条というのが、他の面には何者かなどわからないだろうが――彼らのリアクションを見るだけで、その答としては十分だろう。

「ああ、西条っつうのはピートの上司な。オカルトGメン東京支部の主任管理官――まあ実質のトップだ」
「国際警察の――ですか?」
「ついでにとんでもねえ女たらしでな。おまけに腹が立つことに仕事が出来てツラが良くて話しが上手いモンで――……よしちょっとあの野郎ブチ殺してくる」
「いや、そういうのもういいですから」

 顔の前で手を振りつつ、明日菜が横島を止める。

「こいつの馬鹿は放っておくにしても――ふん、ある程度筋は通る。状況から見れば納得も出来る。むろん、納得できると言うだけで、何か確証があるわけではない」

 だが、それ以上は神ならぬ人間にわかるはずもない。エヴァンジェリンはそう言って、形の良い顎を指で押さえる。

「ならば結論として――そこの坊やには“頑張って”もらわんといかん」
「えっ」
「ふん――貴様一人で明石裕奈の奪還などとても期待は出来ん。だが、“そうすること”を目指してもらわんと――犯人はそれをご所望だと言うことだ。そうして無駄なあがきをする貴様を見るのが楽しみだと。中々いい趣味の持ち主じゃないか」
「……」
「せやけど、頑張る言うても、具体的にどうするんや?」

 俯いたネギを気にしつつ、遠慮気味に言ったのは木乃香である。その彼女に、エヴァンジェリンは薄い胸を張る。

「相手が明石裕奈を奪い返しに来いと言うのなら――実際はともかく、それが出来るかも知れないと、そう思わせる程度にはなってもらわんとな」
「でも――脅迫状の期日は週末だったわよ? 今日が火曜日で――たった数日で、何が出来るって言うの?」
「そのあたりのことは心配するな、神楽坂明日菜」

 明日菜のもっともな問いに、エヴァンジェリンは鼻を鳴らす。

「幸いにも、おあつらえ向きなものがうちにある」




「う、うわあ……」

 そこには、一つの“世界”が広がっていた。
 水っぽい熱帯の青空には入道雲がわき上がり、目の前には何処までも広がっていそうな大海原が広がっている。背後を振り返れば、これまた広大なジャングル――湿気に霞んで見える遙かに遠くには、万年雪を頂いた壮麗な山脈が見えている。
 そしてそのジャングルの中に、現実感を失わせる程の巨大で、美しい城が建っていた。

「ここ――本当に、あの水晶玉の中の世界なんですね」

 麻帆良学園女子中等部の制服の上から、“図書館探検部”の装備を身につけた少女が、呆然と呟く。
 彼女は既に、魔法という非日常の世界に足を踏み入れた筈だった。
 けれど、どれだけこれは“そういうもの”だと自分に言い聞かせたとしても――目の前の景色に頭の処理が付いていかない。隣でその城を見上げる愛おしい少年とともに、ただただ立ちつくすしかない。
 ただただ、そうして言葉を失うしかない二人の背後で、

『――ケケケ』

 蠢く影が、あった。












高音ファン・愛衣ファンの方々ごめんなさい。

一応言い訳しときますと、よくアンチでは「頭の固い魔法使いのテンプレ」として槍玉にあげられる二人ですが、
個人的にはそんなに嫌いじゃない。

ただ……小太郎をメインにしてこういう話に持っていくと、なんというかどうしても「そういう」役割が必要で。

……ごめんなさい真っ先に適任に浮かんでしまいました。
ファンの皆様申し訳ない。
これも「中年はかっこよく書きたい」というこの手が! 手が!
結局は誰かが貧乏くじ引かなきゃならなかったんでしょうが……ここでオリキャラ使うとどうも弱いし。

一応ああいうテンプレにならないように、それなりの考えはあります。
安心はできないかもしれませんが。


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