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No.26235の一覧
[0] 麻帆良学園都市の日々・中間考査(GS×ネギま! 2スレ目) 2018/2/22 お知らせあり[スパイク](2018/02/22 23:06)
[1] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「将来」[スパイク](2011/02/26 20:28)
[2] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「自分」[スパイク](2011/04/10 21:35)
[3] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「自我」[スパイク](2011/04/16 20:03)
[4] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「未来」[スパイク](2011/04/24 21:23)
[5] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「目標」[スパイク](2011/06/25 22:29)
[6] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「助言」[スパイク](2011/08/21 18:56)
[7] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「世界」[スパイク](2012/04/01 14:35)
[8] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「再会」[スパイク](2012/04/28 22:00)
[9] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「矜持」[スパイク](2012/11/03 09:15)
[10] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「明日」[スパイク](2012/11/03 09:29)
[11] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY1 雨音」[スパイク](2013/01/13 01:58)
[12] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY1 招待状」[スパイク](2013/01/13 03:45)
[13] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 指揮官」[スパイク](2014/09/07 21:43)
[14] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 その裏で動く」[スパイク](2014/10/05 03:51)
[15] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 対価」[スパイク](2014/10/26 20:32)
[16] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 HOW TO」[スパイク](2014/10/26 20:41)
[17] 朝帆良学園都市の日々・中間考査「DAY2 今できること」[スパイク](2014/11/08 23:15)
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[26235] 麻帆良学園都市の日々・中間考査「将来」
Name: スパイク◆b698d85d ID:a9535731 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/26 20:28
344:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 22:58:55 ID:kdis8t73k
>315 ネットアイドルと言えば“ちう”たん一択で
あのロリ加減と大胆さにクラクラ来た香具師は多いはず

345:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:25:02 ID:s938iglsg
>344 通報しますた

346:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:25:50 ID:lc9237uks
>345 はえーよwww
つかマジレスするとちうたんっていくつよ?

347:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:04:37 ID:s938iglsg
小学生じゃね? ……ハァハァ

348:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:05:12 ID:lc9237uks
>347 通報しますた
見た目的にそれはないとは思うが。中学生か?
ひょっとして最近出てこないのって関係者がタイーホされたからとか言わんよな

349:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:07:55 ID:ow83ugnsh
>348 今からそいつを殴りに行こうか

350:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:08:11 ID:763sugsud
>349 もちつけwww
タイーホは無いだろ。ちうたん「エロ」直球のコスプレはしてなかったし。あくまで「大胆」で、「可愛い」感じの奴
女性ファンも割かし多かったと記憶している。

受験とかじゃね?
つっても、確かに突然ぱったり出て来なくなった気はする
病気とか事故とかじゃないことを祈る

351:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:09:15 ID:yshfsbs7u
親にバレて続けらんなくなったんだよ。今から俺が親父を説得に行く

352:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:10:22 ID:sigs736ds
俺の妹がこんなにry
キモオタばっかり食いつくから醒めたんだよ

353:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:11:19 ID:v928sig83
>353 つ鏡

354:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:12:41 ID:98sfes7wi
うちのクラスにちうたんにそっくりなクラスメイトが居る件

355:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:13:19 ID:p98sgduek
>354 お前いくつだよw
厨房はさっさと寝ろ
もしくはそのクラスメイトの画像うpれカス

356:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:14:59 ID:98sfes7wi
>355 だ が 断 る

357:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:15:11 ID:sbgsfjd8w
お前そのクラスメイトと友達なのか? だったら本人か聞いてくれ
安価キボンヌ

358:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:17:25 ID:98sfes7wi
>357 この流れで安価は無理ぽ
ぶっちゃけ本人じゃないかと思ってる
けど近頃少し様子がおかしいのは確か

359:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:17:44 ID:p98sgduek
うpれカス
うpれカス
うpれカス

360:コスプレ好きの名無しさん:20××/05/25 23:19:25 ID:usfdhgkjsf
>359 お前黙れ
様子おかしいってどういうことだ?
鬱病にかかったとかそう言う奴か? だとしたら普通にどうにかしてやれよ




 かたん、と、キーボードを打つ手が止まった。
 薄暗い部屋の中、ノートパソコンに向かっていた少女は、小さく息を吐き、眼鏡の位置を直す。

「んなもん、私の方が聞きたいっての……」

 その苛立ちを含んだ声は、決して大きなものではなかった。しかし、空調とパソコンの放熱ファンが回る音のみが響くこの静かな部屋の中では、その声は存外に大きく響いたらしい。
 薄暗がりの中、パソコンの光に照らされた彼女の後ろ姿に、眠そうな声が掛けられる。

「ハルナ……? まだ起きてるの? 目、悪くなるよ?」
「あ、ごめん……うるさかった?」
「別に良い――電気付けても良いよ?」
「あんた確かネギ先生の手伝いで今日もバタバタしてたんでしょ? そんな健気なルームメイトの安眠を、妨げるような真似はしませんよ」
「そう……? ごめん、じゃあお休み……あんまり無理しないでね」

 普段ならば、こんな言い方をすれば、いかに開き直った感のあるルームメイトといえど、照れくささのあまり沸騰して噛みついてくるに違いない――が、今はそれ以上に眠いのだろう。あっさりと布団の中から手を振り、眠りの世界へと戻っていく。
 それを視界の端に収めつつ、彼女――早乙女ハルナは、小さく息を吐き、未だ好き勝手な議論が繰り広げられる電子掲示板へと目線を戻した。
 そして彼女は、再び小さな吐息を吐く。
 普通はため息と呼ばれるだろう類のその吐息は、誰も聞く者がいないまま、麻帆良女子寮の一室に溶けて消えた。




 麻帆良学園本校女子中等部三年A組に在籍する早乙女ハルナは、色物揃いと評されるそのクラスの中にあっては普通の少女であった。
 怪しげな漫画やアニメが大好きで、つまりは“オタク”気質なところがあり、時折そう言うものに対する興味が昂じて前が見えなくなることがあるが――持ち前の明るい性格に救われてか、周囲の友人達は皆、そんな彼女を柔らかな苦笑と共に見守っている。
 ――時折そう形容できる程度を越えているのは、まあ、ご愛敬と言うべきだろう。しかしそれでも、その程度の事は十分“普通”の範疇に収まるだろう。こと、あのクラスに関して言えば特に。
 そんな彼女はその日、一人で麻帆良の中心街に買い物に出かけていた。
 とんでもない事になってしまった修学旅行から半月ばかり。安堵と疲労からだろう、お祭り騒ぎが日常である我らが三年A組にも静かな日々が続いていた――と言うのも、ここ数日までの話であり、持ち前のバイタリティからか、彼女らは既に元の元気を取り戻しつつある。
 そしてこの早乙女ハルナはと言えば、旅行の直後から、既にかの事件の事を引きずってはいなかった。
 一時はフェイトと名乗る謎の少年によって石にされてしまったというのに、何ともはや剛気である、と言うことも出来よう。もっとも、クラスメイトの朝倉和美らと違い、ほとんど訳がわからないまま最初に石化の魔法を受けてしまった彼女は、恐怖と、なにより現実感を感じる暇が無かっただけかも知れないが。
 とはいえ――休日のセンター街を一人で歩く彼女に、全く心にのしかかるものが無いかと言えばそうではない。どれだけ脳天気に見えても微妙な年頃の少女である。悩み事の一つや二つ、無いはずはない。
 しかし果たして、彼女の悩み事とは、先の事件のような非日常的なものではなく、もっと現実的なものではあるのだが。

「はあ――」

 知らず、物憂げなため息が喉からこぼれた。彼女が持つ手提げ袋の中で、荷物が硬い音を立てる。
 その荷物というのは、画材である。
 彼女の漫画好きはクラスメイトの皆が知るところであるが、彼女自身が創作活動にも手を付けている。今日麻帆良のセンター街に足を運んだのは、それらを制作するための画材を補充する為であった。
 漫画を描くことは彼女の趣味であり、大げさな言い方をすれば“生き甲斐”でもある。
 しかし、近頃その事実が、彼女の心を悩ませているのも事実であった。いつもならそこはかとなく心躍る趣味のためのその買い物も、今は逆に心に重い。
 大概自分が漫画を描く時にアシスタントとして徴収する連中――ルームメイトの宮崎のどかや、友人の綾瀬夕映は、そんなことを聞けば何と言うだろうか。怒るか呆れるか――あるいは心配されるだろうか。
 詮もない事を考えながら、ハルナは麻帆良の街を歩く。

「あれ?」

 そんな彼女がふと、見覚えのある姿を見かけたのは、麻帆良の中心街から寮へ戻ろうと、市電の駅がある麻帆良駅前のターミナルに足を踏み入れた時のことだった。

「お前……いつまでそうやってふて腐れてるつもりだよ」
「別にふて腐れてなんかない」
「全く久しぶりに会ったってのに、友人に対して冷たい奴だな。俺がお前に何かしたか?」
「僕はお前みたいな友人を持った覚えはない」
「さすがにそれは酷くね?」
「やかましい。何でお前は本当に――久々に会った早々に世の中の格差って奴を思い知らされなきゃならんのか」
「……さっき声かけてきた女の子の事言ってんのか? いや、あれはお前――まあいいや、どうせお前に言ったって聞く耳持ちゃしねーんだから……」
「あん?」
「いや何でも」

 二人組の青年だった。二人ともかなり背が高く、整った中性的な顔をしているので、傍目に見れば割合絵になる。
 ただし、レザージャケットを纏った黒髪の青年――ハルナにとっても見覚えのある彼が、どんよりとした負のオーラを背負っていなければ、の話であるが。

「大体お前――それこそこれから女の子とデートしようって時に、くだらないことでウジウジしてんじゃねーよ。だからタマモちゃんにキモいって言われんだよ」
「別にあの人に好かれようなんて思ってないよ。それにデートって……僕と楓さんはそう言うんじゃなくて」
「じゃあどう言うんだよ。あんま変に遠慮すんのも相手に失礼だぞ」
「大体彼女はまだ中学生だぞ?」
「俺らだってまだ十八じゃねーかよ。結局は四つしか違わないんだ。もうお前ら付き合っちゃえば良いんだよ。俺に突っかかる癖に何に躊躇ってんのか知らねーけどさ」
「お前みたいな人生勝ち組的な奴にはわかんねーよ」
「……お前そのうち夜道で刺されても知らんからな?」
「何で僕が刺されなきゃなんないんだよ」
「うっせ。このままだと俺の方が馬鹿みたいじゃねーか。もういいよ、近寄んなバーカ」
「こっちの台詞だこのバカ、バーカ!」

 ――訂正、二人ともが、まるで小学生のような遣り取りをしていなければ、と言った方が良いだろうか。彼女は一瞬、この二人に声を掛けていいものだろうかと悩みはしたが、彼女が乗るべき市電の乗り場は、この馬鹿げた二人が立っている向こう側にある。京都の一件で黒髪の青年は、彼女にとって恩人と言えなくもないわけで――他人の振りをして脇を通り抜けるのもどうかと思った彼女は、結局かの青年に声を掛けた。
 ――だが仮に、この場で他人の振りをしたところで、誰も彼女を攻めは責めはすまい。

「あの――」
「うわまた言ってる側から逆ナンっすか。さすが真友君、そこに痺れる憧れる。大学でハーレム作ってる男は違いますな」
「見ず知らずの人の前であること無いこと言うんじゃねえ!!」
「……ええと……藪守さん、でしたよね?」
「え? 僕? この無邪気な顔して女を毒牙に掛ける犯罪者予備軍じゃなくて?」
「ちょっと待てよお前」
「――たまたま通りかかったら姿が見えたもので――お邪魔でしたか?」

 さすがのハルナも顔を引きつらせつつ応える。普段ならそれなり以上の美青年の二人組であれば、脳内の妄想が駄々漏れになりそうなところではあるが――さすがに彼らの一部始終を見ていれば、そう言う気にはなれない。

(あるいはそれはそれでアリなのかも知れないけど。気心の知れない仲――うん、中々良いかも知れない。結局お耽美系って、リアリティないモンだかんね)

 ――結局、自分の立ち位置がまだまだ未熟なせいなのだろうと――彼女のルームメイト辺りが聞けば、慌てて訂正しそうな解答を己の中に導き出す。むろん、それを表に出すことはないけれども――

「ならどっちが受けかしら」
「は?」
「い、いえっ……こっちの話です」

 ぽろりとこぼれ出た何かを、ハルナは首を左右に振ることで誤魔化した。
 果たして、最初は怪訝そうな顔をしていた黒髪の青年――藪守ケイは、そこで自分に声を掛けてきた少女の顔を思い出したらしい。

「あ……あーあー、えっと、確かシロさんのクラスメイトの」
「はい、早乙女ハルナです。修学旅行の時は……その、お世話になりました」
「いや、こっちも仕事だったし――結局大した事は何も出来なかったし……」

 言葉尻だけを捉えれば普通の謙遜であるが、その時彼の顔に浮かんでいたものと言えば、作家の卵であるとは言え、まだ人生の経験値が浅いハルナには、到底形容出来ないものだった。反射的に、その話題にこれ以上触れるのは良くないのだろうと考える。自分の理解の範疇外であったこともあって、彼女は話題をすり替える事にした。

「きょっ……今日は、どうしたんですか? また、麻帆良でお仕事ですか?」

 『美神さんやめてください僕はにーちゃんじゃないから死にます』などとわけのわからない事をぶつぶつ呟いていたケイは、どうにかその一言で我に返ったのだろう。
 どんよりと曇っていた瞳に光が戻り、俯き気味になっていた顔が持ち上げられる。

「あ、いや、今日はオフで――なんて言ったら良いんだろう」
「素直にデートって言えよ」
「違うっつってんだろこの犯罪者予備軍が!」
「デートですか? 楓ちんと?」
「ちょっ――何であっさり!?」
「いや、何でって言われても」

 近頃忍んでいない忍者もどきから、何やら妙な空気が発散されているのはクラスの皆が知るところであるし――その上、修学旅行のあの夜に実況中継された“クチビル争奪云々”の事は、今更言うまでもないだろう。
 ただ、ケイはあの出来事が三年A組に実況中継されていた事実を知らない。
 果たしてそれは知らない方が幸せなことなのだろうか。

「いやあの早乙女さん。こいつの言うことは無視して良いから。デートなんて勘違いして浮かれてたらそのうち痛い目を見るって言うか楓さんにも悪いって言うか」
「こちらの方は?」
「ちょっとその辺りの事スルーしないでくれると助かるんですが――こいつ? えーと、犯罪者予備軍?」
「いい加減怒るぞてめえ」
「……こいつは真友康則っつって――まあ、昔からの腐れ縁」
「……どうも、紹介に預かりました真友です。よろしく」
「あ、は、はい、よろしく」

 少し色素の薄い綺麗な髪に、洒落た眼鏡がよく似合う中性的な顔。ケイよりいくらか身長は低いが、それでもすらりとした長身に、タイトジーンズを履いた長い脚。
 嫌味のない――と言うよりも、ケイとの先ほどの遣り取りが、逆に取っつきにくさを打ち消す要因になった。好青年であり、それを鼻に掛けている様子もない――そんな彼に軽く頭を下げられて、ハルナは自分の頬が熱くなるのを感じた。

「まーたフラグ建築かこの野郎」
「自己紹介しただけじゃねえかよ。大体そう言うことはお前にだけは言われたくねえ。お前自分が影で“フラグ回収率ゼロパーセント男”とか言われてんの知らんだろ」
「喧嘩売ってんのかお前? 立てたフラグがゼロなら回収ゼロなのは当たり前だろうがもう死ねこのバカ」
「お前の頭がいい加減どっかイカレてんのには、付き合って長いから今まで黙ってきたけどな、いい加減俺もキレても良いんじゃないかと思うんだ」
「マジで喧嘩売ってんのか?」
「そりゃこっちの台詞だ。脳みその中身が幸せなのは結構だが、そりゃ自分一人で勝手にやってやがれ」
「ああ? さっきから聞いてりゃ訳のわからないことをグチャグチャと――」

 果たしてそれが原因なのか、突然目を細めてにらみ合いを始める二人に、当然ハルナはついて行けない。この二人は真剣に仲が悪いのだろうか? それとも、気心が知れているが故に遠慮が無いだけなのか?
 彼女としては後者だと思いたいが、言葉に込められた殺気のせいですんなり納得できない。
 “オタク”などと言うイメージからは縁遠い、明るく飄々とした彼女ではあるが、さすがにこういうときにどういう行動を取ったものかまではわからない。おろおろしながら二人の青年の間に視線を彷徨わせ――

「早乙女」

 誰かに名前を呼ばれて、ハルナは振り返った。

「――ちうっち」

 そこに立っていたのは、ボーイッシュな格好の少女だった。
 いや――そういう風に彼女を形容するのは、少しばかり適当でないかも知れない。何と言ったら良いのだろうか、とにかく頭の先からつま先まで、彼女は少年の様な出で立ちだった。
 年頃の少女が、活発なイメージでボーイッシュな格好をすることはままあるだろう。時折犬塚シロが見せる、己の師匠を模した格好などが良い例だ。しかしそんな彼女でもそれはあくまでファッションである。自分なりのアレンジを加え、女性らしさを醸し出している。
 そう――詰まるところ“ボーイッシュな格好”というのは、逆説的に女らしさを強調する格好でもある。
 ――のであるが、彼女の場合は違った。
 野暮ったいだとか、地味だとか――そう言えば言い過ぎかも知れない。コーディネートとしては、センスが悪いわけでもない。
 ただそれは、彼女に“合わない”。
 つり目がちではあるが可愛らしい顔立ちと、それなりに女性らしいスタイルを持つ少女に、その服装は似合っていない。何というか、“らしくない”。
 ハルナは一瞬、自分の眉が、自分の意識とは無意識に動くのを感じた。

「どうかしたか? その人達は?」
「え、いや、この人達は――」
「……そこのオニーサン方、私の友人に何か用ですか」

 ハルナの答えを聞くより先に、少女――長谷川千雨は、ぶっきらぼうに言った。
 その目は鋭く細められ――ケイと真友を睨み付けている。

「……なあ真友、ひょっとして僕ら、出来れば勘弁して欲しい類の誤解されてる?」
「そうだろうな――全くお前のせいで」
「何でそうなる!? 元はと言えば――」
「これ以上話をこじれさせたくないなら、ちょっと黙ってろ――ああ、ごめん。早乙女さんは、こいつと仕事で知り合ったらしくて、ちょっと挨拶をね」

 そっぽを向いてぶつくさ言っているケイを尻目に、真友はにこやかに少女に言う。
 そこではたと我に返ったハルナも、慌ててその言葉に乗っかる事にした。

「そ、そうなの! ほら、京都の事件の時――ちうっちも覚えてるでしょ? ほら、旅館で朝倉が――」
「ああ――ごめん、私興味無かったからさ、さっさと寝ちゃってて」

 その言葉で何か納得したのか、千雨が纏っていた冷たい空気がかき消える。
 彼女は帽子を脱ぎ――一つ咳払いをしてから、青年二人に対して丁寧に頭を下げる。

「すいません、私、この娘の友達で、長谷川千雨と言います。知らなかったこととは言え、クラスメイトがお世話になった方に、失礼しました」
「あ、ああ……うん、別に何にも気にしてないから、そんな、頭、上げてよ」

 ケイがそう言うと、千雨は頭を上げ、帽子を被り直す。

「早乙女も、勘違いして悪かった。邪魔になってもアレだから、私もう行くから」
「あ、待ってよちうっち! 私も――私、この人達とここで会ったのはたまたまなんだ」
「――そうなのか?」

 ポケットに片手を突っ込み、踵を返した千雨は、ハルナの言葉に足を止め、振り返る。

「うん――ここ最近、ちうっちと一緒に出かけることなかったし、午後は二人でどっかブラつかない? 女二人ってのが、ちょっと色気のない話だけどさ」

 千雨の顔は、半分ほどが帽子のつばに隠されて、ハルナからはよく伺えない。ただ、自分がここで彼女を誘う事は、別に不自然ではないはずだ。一人で出かけた街角で、知り合いと出会った――ただ、それだけのことの筈である。
 しかし果たして、千雨は一呼吸置いてから、首を横に振った。

「悪いけど私、ちょっと用事があるんだ。遊びに行くのは、また今度な」

 振り返った彼女の表情は、自然なものだった。
 申し訳なさそうな――しかし“軽い”表情。こちらの“軽い”誘いに、相手もまた、それほど申し訳ないと思うでもなく、軽く返す。
 その、筈なのに。自分の中に淀みのように広がっていくこの感情は何なのだろうと、ハルナは思う。

「あ、うん――あの、ちうっち」
「うん?」
「私、今度さ――ううん、ちょっと、ちうっちに相談があって。出来たら――」

 言いかけた彼女の言葉は、しかし横合いからの声に遮られる。

「あ、真友君もう来てたんだ。ごめんごめん――そこでばったりこの娘と会ってさ」
「ケイ殿――ごめんなさい、待った?」

 長身の二人の女性であった。明るい金髪のパンツルックの女性と、黒髪をポニーテールにした、ワンピースの女性――先にこの場にいた青年二人は、彼女たちに対して否定の言葉を返す。その際に、またしても小学生が口げんかをするような遣り取りに流れかけたのは、もはやご愛敬と言うべきだろう。
 しかし青年らの影にいたハルナはと言えば、そうはいかない。友人に対して何かを言いかけたのを飲み込んでしまったのに加えて――彼女は今、自分がどういう顔をしているのかにも気がついていないだろう。

「――か、楓ちん?」
「……はっ!? は、ハルナ、殿っ!?」

 呆然と喉からこぼれた言葉に、あちらも気がついたのだろう。ワンピースの女性は、その細めの目を目一杯に開いて驚愕する。

「そ、それに――長谷川殿!? なっ……なんで、ここに!?」
「何でって――ここ、普通に駅前だし、私らが居たって何も不思議は――いや、ごめん、それ言うならこっちも同じなんだけど――なんつーか……うん、ごめん、いつものイメージと全然違うもんだから」
「はうっ!? い、いえっ――この格好は、折角だからと、その、千道さんがっ……! せ、拙者、女の子らしい格好など、その、あまり持ってないでござるから!」
「おお……その恥ずかしがってる仕草に不覚にも萌えた!? 誰も似合ってないなんて言ってないから、ね、藪守さん?」
「何で僕に振るの!?」
「はあ?! 何でって、ここで気の利いた言葉の一つも掛けてやるのが男ってモンでしょ!?」

 何故かケイの襟首を掴んで振り回す勢いのハルナと、彼女の剣幕に目を白黒させるケイ。楓はと言えば、恥ずかしいのか、その長身を小さく縮こめようと無駄な努力を試みる――そんな騒がしい様子に、金髪の女性――タマモはため息をついて、頭を掻いた。

「……タイミングを間違えたかしら?」
「いや、この状況を予測できてたら、タマモちゃんはノストラダムスを名乗って良いと思う」
「それも凄く微妙だと思うけど」

 苦笑混じりの真友の言葉に、タマモの顔にもまた、柔らかな苦笑が浮かぶ。

「お待たせ、真友君」
「今来たところだから――とは言わないけど。そんなに待ってないから気にしなくて良いよ。ケイの奴がまたアレんなってちょっとウンザリしてたけど」
「うわ……あいつもう最悪」
「いつもの事だから気にしてないけどね。でもどうして埼玉まで来て遊ぼうって? まあ……何となくわかるけど」
「あー、うん。多分それで正解。ケイの“彼女”がね……この間の仕事で、私あの娘に借りがあんのよ。中学生に迷惑賃だとか払うわけにもいかないし――そういう意味合い込めて、“みんなで遊ぼう”を名目に、おねーさんが一肌脱ごうかってね」
「タマモちゃんが? 似合わねー……」
「ほっときなさいよ――ん?」

 ぐったりとしゃがみ込もうとするケイの後ろ襟をひっ捕まえ、その場から逃げ出そうとする楓の腕を掴み――ハルナのヒートアップは続く。日頃から自重しろと友人によく言われる彼女ではあるが――年頃の女子中学生として、この場面で自重することに何の意味があるだろうか?
 自分の中で折り合いをつけた彼女は、もはや遠慮などしない、鼻息荒く、友人の方にも同意を取ろうとする。

「もう何このラブ臭発散しまくる萌えキャラ共は!? ね、ね、ちうっちもそう思うでしょ――ちうっち?」

 しかし、周りを見回してみて――彼女は、自分の友人の姿がないことに気がつく。

「帽子の娘だったら、用事があるから先に失礼しますってさ」

 苦笑混じりのタマモにそう言われ――ハルナの手から、力が抜けた。




「しかし、あの楓ちんにオトコがねー。私はてっきり、あんたの事、頭に脳みその代わりに何か別の体組織が詰まってるんじゃないかと思ってたんだけど。ほら、どっかの中華娘みたくさ」
「……それはもしかしなくても拙者をバカにしているのでござるか?」
「そう思うなら普段の行動を顧みなさいな」
「……そう言われると、反論が出来ないでござるが」

 週が明けて月曜日、麻帆良学園本校女子中等部、三年A組。
 昼休みになって、ハルナは珍しい相手と昼食を共にしていた。つまり休日に遭遇した級友、長瀬楓である。大概彼女と昼食をとっている鳴滝姉妹はと言えば、学生食堂の方で何かイベントがあるとかでそちらに行ってしまい、ここには居ない。
 ――楓にしてみれば、孤立無援であることに気がつく前にそちらに行くべきだったのかも知れないが、今更何を言っても後の祭りである。実に都合が良い、と、ハルナは思う。

「……ケイ殿と拙者は、まだそういう関係ではござらん」
「楓ちんならそう言うと思ったけどね、でも、“まだ”って事は、満更でもないんでしょ?」
「それは――……そっ……そうなので、ござるが」

 頬を染めて俯く忍者娘に、この娘はこんなに可愛かっただろうか――などと考えつつ、ハルナは弁当のおかずを頬張った。

「拙者とケイ殿は――友達で、ござる。正直、そこに女としての気持ちが全くないかと言えば、嘘になるでござるが……それでも、拙者の勝手でケイ殿をそういう風に言うのは、ケイ殿に対して失礼でござるよ」
「えー……あれはどう見たってあっちも満更じゃないと思うよ?」
「それに拙者はまだ中学生で、あちらは高校を卒業して――」
「柿崎の彼氏って確か大学生だったと思うけど」
「う」
「世間体とか気にしてんの? 楓ちんらしくもない。私らだってもういい加減子供じゃないんだし、相手が年上って言ってもさ、五歳も違わないんだよ?」
「う、う……せ、拙者とケイ殿の事は、ハルナ殿には関係ないでござろう? 拙者もケイ殿も、ハルナ殿を満足させるために居るわけではござらんし」

 そりゃまあそうだろうけど、と言って、ハルナは笑う。
 とは言え自分は微妙な年頃の小娘で、確かに自分は日頃ラブ臭がどうだとか、人一倍そういうものに敏感な方ではあるけれど、誰でも気になる話題ではあるだろう。
 そうでなければ、芸能界の交際事情がどうだとかに、ああまでマスコミや一般大衆が騒ぎ立てる筈はない。

「結局私も恋に恋するお年頃って事でさ、羨ましいのと自分の参考にしたいのと、後単純な興味本位と――そう言うのに興味があることは悪くはないと思うんだけど」
「ハルナ殿の場合、多少なりとも人より興味を“持ちすぎ”であるとは思うが」
「ま、そりゃ否定しないッスけどね――もうエッチした?」

 その一言に、楓はお茶を吹き出して咳き込む。
 その様子を、たまたまその瞬間に教室に戻ってきた龍宮真名が見て、目を丸くしている。そう言えばかつて、楓は彼女と、もう一人那波千鶴と並んで、このクラスに於いて年齢詐称疑惑が出るほどの大人びた少女であった。
 それがここ最近、彼女に対してもはや“年齢詐称”などと言う声は聞かれない。

「いくら何でももう少しオブラートに包むでござるよハルナ殿!?」
「あはは、じょーだんじょーだん。楓ちんがそんなムキになってんのに、そこまで進んでるわけないよね――柿崎の方はどうなんだろ?」
「……拙者も興味がないわけではござらんが――さすがに聞くのははばかられる」
「まーね。後で朝倉に聞いてみよう」
「彼女がどう答えても、非常に微妙な気がするのは拙者だけでござろうか」

 楓は疲れたようにため息をついて、あさっての方に視線を遣った。
 そう言う仕草を見ていると、やはり彼女はどれだけ見た目が大人びていようが、やはり自分と同じ、大人と子供の間にいる少女なのだと、ハルナは思う。

「いい加減拙者ばかり恥を掻いている気がするでござるが」
「気のせいだよ。つか、仕方ないじゃん。私彼氏とか居ないし」
「意中の男性も居ないのでござるか?」
「あのね楓ちん。ここ、女子校。楓ちんや柿崎がどういう経緯で彼氏作ったのか知らないけど、普通そんな恵まれた奴なんてそうそういないのよ」
「……あれは恵まれたと言っても良いのでござろうかなあ」

 遠い目になりつつ、楓は呟く。その言葉にハルナは眉を動かし、その言葉尻を捉える。

「結果的に恵まれてんじゃん。今更藪守さんと出会わない方が良かったとは言わせないよ」
「それはもちろんそうでござるけれど」
「この際馴れ初めとか、おねーさんに話してご覧なさい」
「絶対にごめんでござる」

 悪かったのは自分の方であったとは言え――と、ぶつぶつ呟く楓を、ハルナは満足そうに見遣った。今ここで彼女を虐めたところで、これ以上は悪趣味になだけだ。彼女とて、それくらいの良識は持ち合わせているつもりであった。

「そう言えば」
「何でござるか」
「そう睨まないでよ。ふと思ったんだけど――楓ちんは、中学卒業したらどうすんの?」
「何でござるか藪から棒に」
「だって、藪守さん東京で仕事してんでしょ? もうこの際、東京の高校に行くつもりなのかな、って」
「拙者恋愛の為に進路を決めるほど軽い女ではござらん。が――ケイ殿と出会ったお陰で、ゴースト・スイーパーという仕事に興味が出てきたのでござるよ。以前は、自分には関係のない事だと考えていたけれども――」
「ぶっちゃけこれ以上ないほど楓ちんに合ってそうだね。でなきゃ京都のシネマ村にでも就職するとかさ」

 ひらひらと手を振りつつハルナは笑い――ふと、思い出したように言う。

「あ、そしたらアレだ。シロちゃんが前に通ってた学校。六道女学院。霊能科で有名なんでしょ?」

 何せ日本最高難度を誇る国家試験に於いて、毎年合格者の三割を輩出する――などと言われる超名門校である。楓がその道を目指すと言うのなら、当然耳には入れている筈だ。
 だが――その名前を聞いた瞬間、楓の顔色が変わった。

「……」
「……ど、どったの?」
「その話は――既に、犬塚殿に一度相談したことが。盛大にからかわれはしたが、親身に応えて貰ったでござる」
「……だったら何でそんな顔してんのさ」
「――ハルナ殿は、このクラスで拙者が何と呼ばれているかご存じか」
「あー……成績的な問題ね……シロちゃんああ見えて頭良いもんねえ」
「普通科ほど難易度は高く無いとの話ではあったが――正直拙者の成績では、とても手が出せるような学校ではなく」

 どんよりと影を背負って俯く級友に、ハルナは何と声を掛けて良いのかわからない。彼女自身、程良く勉強が嫌いな普通の女子中学生である。まさかここで教師のようなえらそうな事を言ってやれる筈もない。

「ま、まあ、まだ一年近くあるわけだし? 中二の期末試験、ネギ先生の特訓で、あんたら最下位脱出したんでしょ? 頑張りなよ!」
「……」
「つか、漠然とでも今から将来の事が見えてるって、私には結構羨ましいわよ? 目標が定まってたら頑張れる事もあるだろうし――見事合格してみなよ。どうせ向こうでも一人暮らしか何かだろうし、藪守さんと毎日イチャつけるわよ?」
「そこでケイ殿の事を引っ張り出すなでござるよ」

 楓はぐったりと、まるで骨が抜かれてしまったかのように机に突っ伏し――ややあって、力のない動きで顔を上げた。

「そう言うハルナ殿は? やはり、高等部に進学するのでござるか? それとも――」
「……」

 その問いに、一瞬ハルナは言葉に詰まる。
 自分には、目指したいものがある。大げさに言えば、将来の夢という奴が。
 恐らく、そう言う意味で言えば、目の前の楓よりも明確なビジョンが。
 だが――多くの若者が悩むのと同じに、彼女もまた、あっさりと目の前の道を歩くことは出来そうになかった。

「んー……私はね……」

 自然に視線が、ある方向に向かう。
 その先に存在している、一つの机――その席の主は、今、この場所には居なかった。




「早乙女殿と長谷川殿は、喧嘩でもしているので御座ろうか?」
「え? いや、そう言う話は聞いたこと無いけど――何で?」

 埼玉県麻帆良市郊外、横島邸。
 その日の放課後、中間テストに向けて学習する少女達の姿が、そこにはあった。
 新学期以来何となくつるむようになった犬塚シロ、朝倉和美、雪広あやかの三人に加え、あやかに引っ張ってこられた神楽坂明日菜と、彼女のルームメイトの近衛木乃香。そして更に彼女に引っ張ってこられた桜咲刹那の六人である。
 和美とあやかは、この横島邸の奇妙な居心地の良さがすっかり気に入ってしまったらしく、時折こうして放課後のひとときを、シロの自宅でもあるこの家で過ごしている。今日も今日とて、皆で集まって試験勉強をしようと言う段になって、真っ先に候補に挙がったのがこの場所であった。
 彼女らがそういう風にしている事に対して、家主である横島忠夫がどのように考えているのかは――まあ、今更言うほどのことでもないだろう。
 ただ最近、玄関の門扉に頭を打ち付けて倒れているのを回収せねばならない頻度が上がった――と、ため息混じりにもう一人の同居人、芦名野あげはが語っていたという事実がある。

「先週の土曜日に、修学旅行で迷惑を掛けたとか何とか――そう言う話にかこつけて、うちのバカ狐が長瀬殿を呼び出したので御座るが」
「バカ狐――ああ、千道さんの事やな?」

 そう言ったのは木乃香だ。彼女は、机に広げられたワークブックを覗き込んだまま固まった親友の頭に顎を乗せ、彼女にもたれかかるようにシロの方を見る。
 クッションか抱き枕のようにされた刹那は、それでも動かない。彼女もまた、馬鹿レンジャーと言われる面々に肉薄する成績である事を、ここに付け加えておく。

「犬塚さん、あまり年上の人を馬鹿にするものではありませんよ? ――どうしてあの方が狐なのでしょうか?」

 あやかは窘めるように言ったあと、素朴な疑問をシロにぶつける。
 彼女に関して言えばまさか本当の事を言うわけにもいかず、シロは曖昧に言葉を濁した。

「かこつけて、って――ひょっとして長瀬さんと藪守さんのこと?」

 顔を上げて、明日菜が言う。彼女の手元のワークブックもまた、文字が書き加えられた形跡すらないが――刹那と違い、彼女はもう無我の境地にあるのだろう。もっとも、それは決して褒められた事ではないが。

「ああ、何かその気持ちわかるわ――最近楓見てるとさ、こう何というか――無性に首筋の辺りを掻きむしりたくなるって言うか、リア充死んでしまえこの野郎って言うか」
「本音はもう少し心に秘めるべきやと思うんよ、和美」
「仕方ないじゃないの! 最近もう、見舞いに行くたびにさよちゃんのあの勝ち誇った顔が! あああもう、腹立つぅ!」
「まあまあ、気持ちはわかるけど堪えて貰えんやろか――そのうちあの娘、ウチのおばあちゃんになるんやから」
「……木乃香はそれでいいわけ? まあ、あんたが良いならもうあたし、何も言わないけど――だったらあの娘のドヤ顔はり倒してきてよ」

 拳を突き上げて喚く和美を、シロは苦笑しつつ宥めてやる。
 “麻帆良のパパラッチ”の異名を持つ情報通である彼女に、今聞きたいのはそれとは関係のない事である。

「ごめん、ちょっとエキサイトした。んで、何?」
「早乙女殿と長谷川殿の話で御座る」
「あ、そーね……別に喧嘩したとかそう言う話、聞いたこと無いよ? んー……強いて言うなら千雨ちゃん、ウチのクラスがアク強すぎるとかって孤立しがちなところあるけど――別にそれを気に病んでる風はないし、そう言う意味ではエヴァちゃんの方がよっぽど問題だったしね」
「左様で御座るか――いや、その日の夜に、タマモとケイ殿が帰り際にウチに寄った際に、気になった――ような事を言っておったので」

 シロの問いに、和美と明日菜は首を傾げる。

「このちゃん……太陽の温度は五百度くらいやろか」
「せっちゃん――今までウチの話聞いてはったん? 馬鹿なん? 死ぬん?」

 いい加減一杯一杯であるらしい木乃香と刹那を意識の外に追いやり、シロは続けた。

「いや、話を聞くだけでは、長谷川殿には何やら用事があったようなので、別段気になると言うほどでは御座らぬが――タマモは何か気になったと言うておった。あの馬鹿は普段おちゃらけているようで、割合見るところは見ておる故に――非常に納得行かぬが」
「あー、千道さんってそう言うところあるよね。色々突っ込みどころはあるけどさ、正直私、ああいう大人の女の人に憧れるわ」
「明日菜殿、人生を棒に振るのが嫌ならば、もう少しマシな大人に憧れる事をお勧めいたす」
「シロちゃんもあの人には遠慮が無いわねー。あの人ってシロちゃんの何?」
「何と言われても――まあ、仲間で御座るよ。昔の、拙者のバイト先の」

 遠い目をしつつ、シロは応え――何かを振り払うように頭を振る。
 当然その行為の意味は、目の前の友人達にはわかるまいが、わからない方が良い。

「では、あのお二方には別段変わったところは無いので御座るな?」
「うん――あ、でも――去年の夏から、千雨ちゃんちょっと変わった気はするかな、そう言えば」
「あ、ひょっとして、アレ? 夏休みにあの娘が事故って入院してた奴」
「事故?」

 瞳を細めるシロに、和美は説明してやった。
 昨年の夏休み、長谷川千雨は、帰省中に交通事故に遭い、二学期の半ば程まで入院生活を余儀なくされたという。
 バス停でバスを待っていた彼女の所に、カーブでスピードを出しすぎた車が突っ込むと言う不運な事故で、車にはねとばされた彼女は全治二ヶ月の重傷――一時期は意識不明の重体であった。

「あれから暫く、あの娘ちょっと落ち込んでてさ。無理もない話だとは思うけど――」
「あ、そうそう。掛け持ちで入ってた手芸部と漫画研究会も辞めちゃったんだよね。ああ、うん、その時漫研のアレでハルナが凄く心配してて――うん、そう言うことは確かに、あったけれども」
「相手の車の運転手はどうなったのでござるか?」
「どうなったって言ってたっけ? 死んじゃったんだっけ?」
「相当酷いことになったと聞きましたが、詳しくは――何せ、話題が話題ですし、本人に聞けるような話でもありませんし」

 ふむ、と、シロは顎に手を当てる。
 それだけ大きな事故にあったのだから、それ以来人生観が変わる、というのはままあることだろう。以前の千雨の人となりをシロは知らないが、今の彼女がとりたてて“おかしい”とまでは思わない。
 ならば――一体何が、タマモとケイの霊感に触れたというのだろうか?

「シロちゃんはどう思うの? やっぱり――あの娘がどっかおかしいって思うの?」
「拙者は今の長谷川殿が、特におかしいとは思わぬ。どちらかといえば――」

 言いかけた言葉を、シロは慌てて飲み込んだ。長谷川千雨が“変わっている”というのなら、もはや変人の程度を超越した人物が、我らが三年A組にどれだけいるというのだろうか。

「……何考えてるか大体わかるけどさ、シロちゃんそれって自分を棚上げしてるよ」
「拙者の何処が変人というので御座るか」
「あんた本気で言ってる?」

 着物の胸元を押さえて堂々と言うシロに、和美の呆れた視線が突き刺さる。

「でも霊能力者の直感って奴が、もの凄く侮れないものだってのは――さよちゃんの事件の時によくわかったし」
「私は未だにオカルトの事はよくわかんないけどね……そしたら和美はアレ? 読んだら寿命が縮むオカルト新聞とか作るの?」
「何でそうなんのよ。てか、古いわよ明日菜。あんたいくつよ」
「高畑先生が昔の漫画持ってたのよ。もう、小さい頃はアレが怖くて怖くてね、余りの怖さに押し入れの中に放り込んだら、後日ボロボロになって出てきたことがあって。叱られるのが怖くてまた――ああ、やっぱり怖いわ、あの漫画」
「それは怖さのベクトルが間違っていると思いますが」
「せっちゃんは会話に聞き耳立てとらんと、さっさと次の問題を解きや」

 果たして勉強会というには、少しばかり騒がしい会話が始まり――そんな時、廊下で電話が鳴ったので、シロは着物の裾を押さえて立ち上がる。
 皆に一言断ってから廊下に出て、電話の元に向かう。そこで電話のディスプレイに表示された着信を見て、おや、と、彼女は思った。
 相手は、彼女らの近しい知り合いである。だから、電話を掛けてくる可能性がゼロではないのだが――しかし今、一体何の用事なのだろうと、それが予想出来ないのも確かである。
 とはいえ、逡巡する必要もない。彼女は、受話器を取った。

「はい――横島です」
『ああ、シロちゃんかい』

 優しそうな中年男性の声が、受話器の向こう側から響く。

「ご無沙汰しております、唐巣神父――本日は、如何なされました?」
『ああ、うん――どう言ったものだろうか。そこには誰か他に人がいるかい?』
「この場、で、御座りますか? ……一応拙者の他には誰もおりませぬが、言いにくい話で? 申し訳御座らぬが、先生は今、所用で家を空けておりまして」
『いや……彼の耳にも入れておいて方が良いかも知れないが、彼に用があるというわけではない。むしろ、私が聞きたかったのはシロちゃん、君に対してだ』
「拙者に?」

 シロは首を傾げる。はて、一体彼が自分に用とは、何事であるのだろうか。
 彼とは近しい知り合いであるけれども、己の師匠に比べてみれば、自分と彼の接点は薄い――少なくとも、電話で名指しされるような用件は思いつかない。
 そんなことを何となく考えていた彼女は、次の唐巣の声で、思わず目を見開いた。

『シロちゃん、君の知り合いに――“長谷川千雨”という女の子はいないかな?』










「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」

友人の情報で知って、ネタに使用しました。

個人的な感想。
「俺の妹」全然かわいくねえ……
むしろ「俺」がいい人過ぎて萌えた!!

ちなみに作者、リアルに妹がいます。


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