<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.26198の一覧
[0] 男世紀エヴァンゲリオン─それはまぎれもなく奴さ(スペースコブラ×エヴァンゲリオンのクロス)[スラム](2011/03/01 21:27)
[1] とある女[スラム](2011/02/25 07:13)
[2] 登校[スラム](2011/03/02 15:22)
[3] ブラッドレイン[スラム](2011/03/02 15:22)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[26198] 男世紀エヴァンゲリオン─それはまぎれもなく奴さ(スペースコブラ×エヴァンゲリオンのクロス)
Name: スラム◆ebd3e136 ID:fe7c738a 次を表示する
Date: 2011/03/01 21:27
『今朝、手紙が来たんだ。なんて書いてあったと思う?ああ、そうさ、俺の愛しい人が死んだのさ。グズグズしないで急げよ、カバンを引っつかんで駆けつけろ』

                                       サン・ハウス──「デスレター・ブルース」



シャワーのコックを捻ると熱い湯が噴きだした。新鮮な湯の臭い、鼻歌をうたいながら両手の指先で丹念にブロンドの髪を洗う。
自慢のブロンドって奴だ。勢いよく身体を叩く湯飛沫が隆々とした肩から背筋に伝って、臀部へと滴り落ちた。
白い湯気が濛々と立ち込める。熱い湯が肌をピリピリと刺激する感覚はいつ味わってもたまらなく心地良い。
これで傍らに美女でもいれば、もう言う事はなしだ。美女をはべらせて上等なシャンパン片手にジャンジー風呂に身体を横たえる──それこそ男冥利に尽きるって奴さっ!

シェーピングクリームをたっぷりと掌ですくい取り、鏡を見ながら剃刀でヒゲをそり上げる。
鏡に向かってウインク、剃刀を置くとクリームを落とすように顔を洗い、頭を振って巻き毛のロングヘアから滴る湯を飛ばした。
「しかし俺って本当に二枚目だよな、我ながら惚れ惚れしちまうよ」

冗談交じりに自惚れとも受け取れる台詞を吐く。だが、確かに顔はハンサムだ。
綺麗に整った二重瞼にきりっとした端整な卵形の輪郭、秀でた額は大きすぎも小さすぎもせず、意志の強さをうかがわせる眉は筆ですっと横一文字に伸びている。
甘いマスクだが、その癖、やけに精悍な顔立ちだ。まさに色男と呼ぶに相応しい風貌だった。
吊るしたバスタオルを剥ぎ取ると身体を拭いてシャワールームから出た。ガウンを羽織るとテーブルの上に置かれたビシッと冷えた缶ビールを見る。表面に浮かんだ水滴の汗──思わず唾がこみ上げる。

奪うようにビールを引っ掴むとプルタブを開けて飲み干した。食道目掛けてバドワイザーのまろやかな炭酸が流れ込む。喉を鳴らすたびに痺れるような感覚が襲った。髪から落ちた雫が床に跳ねる。
「シンジ君、シャワーどうだった?」
飲み終わったバドワイザーを握りつぶすとゴミ箱に放り投げる。潰れた缶ビールが壁にぶつかった。カツンと音を立てるとストンとゴミ箱の中に真っ逆さまに落ちる。

「ああ、悪くない。なによりビールが美味かった」
テレビの電源を入れた。ブラウン管に光が映る。ソファーのクッションに尻餅をつくように腰を落とすと豪奢な筋肉組織を惜しげもなく女に晒しながら、途中の煙草屋で買った安物葉巻を口に咥えた。
「ミサトっていったな、あんたにゃ感謝してるよ。無一文で電車賃もなくて、あげくはチンピラを叩きのめしたせいで留置場にぶちこまれて行き場のなかった俺を助けてくれたんだからな」

ジッポーライターの鑢を手馴れたように親指で擦った。オレンジ色の火花が飛び散るとジッポーライターの紐に着火する。葉巻の先端を火で炙りながら、葉巻をゆっくりと吸う。
肺に充満する煙、口腔内にへばりつくニコチンとタールの味わい、安物にしては味がよかった。刑事コロンボが吸っていた葉巻と同じ銘柄の奴だ。
「あの、シンジ君……一つ質問なんだけど……あなた本当に中学生なの、それ以前に本当に日本人なの?」

困惑するミサトの黒い瞳をシンジは薄笑いを浮かべながら覗いた。不安げなミサトの視線がシンジの視線と絡み合う。
シンジはそっと葉巻を灰皿の横に置いた。腰を持ち上げるとミサトの前に立ち、腰の辺りにしなやかな腕を巻きつけた。
「きゃっ、ちょっと何をする気なの、シンジ君っ」
姦しく騒ぐミサトの唇に薔薇の葉のようなシンジの唇が重なった。シンジの唇に漏れたミサトの吐息がかかった。熱い。長い睫に縁取られたミサトの明眸が濡れ光る。形の良い鼻梁が微かに震えていた。
「ダメよ……シンジ君……私達、今日逢ったばかりなのに……」

シンジの生暖かい舌先がミサトの白い歯列を舐めた。互いの舌先が触れ合う。何も喋らないシンジが怖い──ミサトは瞼を軽く閉じた。少年のキスはとても熱く、ブランデーのようにホロ苦い。
葉巻の味がミサトの脳髄を疼かせる。全身が──女心が蕩けだしていく。この少年は何者なのだろう。こんな少年──こんな男は初めてだ。
くびれたウエストを片腕で引き寄せた。シンジのたくましい胸板にミサトの乳房が密着した。服越しにミサトの鼓動が聞こえる。ミサトの心臓はエイトビートを刻みながらシンジの胸板を振動させた。
男と女の出会いに時間など無意味だった。互いの瞳が映った瞬間、ふたりの心は一瞬にして通じ合う。ミサトの首筋から漂うパヒュームの甘い香りがシンジの鼻腔粘膜をくすぐった。

ミサトの柔らかな胸のふくらみがシンジのブレストを優しく跳ね返す。腰に回していたシンジの掌が徐々にせり上がって行った。背筋の中心を二つの指先で撫でつけながら、ミサトの身体を確かめる。
掌を下へと落としていくとミサトの眼尻が切れ上がった。筋肉質だがその上に薄く脂肪がついた丸みのあるヒップをたっぷりと両手で撫で回すシンジ──頬にミサトの平手が飛んできた。
乾いた音がホテルの室内に響いた。思いがけないような鋭い痛みがシンジの頬を襲う。シンジはわざと大げさに仰け反ってみせた。
「いてっ」
シンジが怯んだ隙にミサトはなんとかシンジから身体を離すと深呼吸をして息を整える。あやうく相手に身体を許してしまうところだった。打たれた頬を撫でながらシンジが消えた葉巻に火をつける。
「ちょっと強引だったかな、悪かったよ、今度どっかで酒でも奢るから機嫌を直してくれないか、仔猫ちゃん」

「信じられないわ……いきなり人の唇を奪うなんて……でも……」
「でも?」
シンジがニヤけた笑みを浮かべながらミサトに聞き返す。
「凄いキスだったわ……あんなの初めてよ……まるで骨まで蕩けてしまいそうだったわ……まだ、腰がジンジンしてるし……でもちょっとだけ、葉巻臭かったわね」
ミサトがシンジに向かってにこやかに微笑み返した。嫌で平手打ちを食らわせたわけではない。これが任務中でなければ、恐らくは少年に抱かれていただろう。

「そういえば、シンジ君、お父さんの手紙は読んだかしら?」
「手紙?そんなもんは知らねえな。俺は家にはほとんど帰らないからな。しかし、なんだって今更手紙なんかよこすんだ。金でも貸してほしいってんなら、生憎と俺も持ってねえや」
あっけらかんとした態度でそっけない返事をするとガウンを脱いで服を着替える。真っ赤な生地の服は伸縮性に富んでいて、シンジの身体にぴったりとフィットした。

「ねえ、シンジ君……その服どこで買ったの?」
突然、ブラウン管からニュース速報が流れ出した。
『本日12時30分、東海地方を中心とした関東中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は速やかに指定のシェルターへ避難してください、繰り返します……』

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アルピーヌ・ルノー・A310・レプリカの車体が振動でぐらついた。N2爆撃の歓迎を受けるふたり──ガードレールがドアを激しく擦り上げ、火花が飛び取る。ブルーの塗装に白い傷が走った。
ドライバーズシートの後ろにミサトを追いやるとシンジがハンドルを握り締める。ペダルを爪先でぐっと踏み入れて、シンジはアクセルを吹かすとルノーを発進させた。
「くそったれっ、今日は厄日だぜっ」
ミサトがシンジに声をかけた。

「ちょっと、シンジ君どういうつもりなのっ」
「舌噛むから黙ってろっ、指で道順を合図してくれっ」
乱暴にハンドルを切りながら飛来するくそったれた破片をスレスレで避ける。小粒の飛び石がフロントガラスにぶち当たっては蜘蛛の巣のようなヒビを入れた。やっとトンネルに差し掛かった。
歯抜けババアの口のように広がった暗いトンネルを突っ走りながらカートレインに飛び乗ろうとした瞬間、ルノーのガソリンタンクに千切れた鉄骨が突き刺さった。タンクから大量のガソリンが漏れ出す。

トンネルの半ばまで走ったところでついにガソリンが切れた。ドアを開けると車を出て、ふたりで徒歩で移動する。ルノーが使い物にならなくなってしまったことに落胆するミサトの肩を叩いてシンジは慰めた。
汗だくになったミサトに肩を貸し、シンジが口笛を吹く。トンネル内にふたりの足音がコツコツと響いた。明かりが見え始める。
「お、やっとついたか。しかし、喉がカラカラだぜ、全く。それに汗でベタベタ、これじゃあさっき飲んだビールもシャワーも台無しだ」
ぶつくさと文句を言いながら、どこか本物よりも本物らしい、だからこそ嘘くさい人工の森林を眺めながらシンジがピラミッド型の建物へと近づいていく。ミサトが慌ててシンジの後を追った。
「ちょっとシンジ君っ、君はIDカードを持ってないから入れないわよっ」

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「やっと来たようだぞ、ユイが作り上げたもう一人の人造人間がな。まさかエヴァンゲリオン以外にもユイが兵器を作り上げていたとは驚きだったよ」
モニターの画面越しに映るシンジを眺めながら、初老の男が丸いレイバンのサングラスをかけた顎鬚の男に話しかける。それに応じるかのようにサングラスの男が口を開いた。
「……常人を遥かに凌ぐ身体能力と頭脳、そして回復能力……ユイはどんな過酷な状況でも生き延びる超人を作ろうとしていた……その唯一の完成品こそがシンジ、いや、コードネーム<コブラ>だ……」
ゲンドウは何の感情の起伏もない表情を浮かべながら、モニターを一瞥した。底光りするような冷ややかなガラス球の眼が動く。瞬き一つせずにゲンドウはユイの忘れ形見を見つめていた。
「しかし、馬鹿に陽気で二枚目な奴だな。人造兵器ってよりも銀幕のスクリーンで女を口説く俳優だな。もしかしたら地獄の死神という奴は陰気な顔なんてしてないで、みんなこうやって、ニヤけた笑いを浮かべているのかもしれないぞ」

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ミサトはネルフの通路を見渡した。隣にいるシンジが短くなった葉巻を指先で弾き飛ばす。使徒が現れたのだ。急がなければならない。気づかない内に早まる足取り──エレベーターはどこだ。
肌に纏わりついてくるような重苦しい空気──空気は一瞬でシンジの陽気な笑い声にかき消された。こんな時に笑うなどどういった神経をしているのだろうとミサトはシンジを横目で眺めた。

「何を深刻ぶっちゃってるんだか、こんな時こそ笑うべきでしょ、ほら、笑って、リラックス、リラックス)
両方の人差し指を唇の端っこに引っ掛けると、三日月状に唇を広げてシンジは笑いながら舌を出した。くだらないと思いつつも何故かシンジの行動に釣られてミサトもクスクスと忍び笑いを漏らす。
「そうそう、美人は笑ってるときの顔が一番素敵だよ」

「シンジ君って不思議ね。あなたといると不安が嘘みたいに吹き飛ぶわ。でも……いまだけはお尻を触るのは止めてくれない?」
いつのまにかミサトの臀部にさりげなくタッチしていたシンジが、掌を素早く引っ込めると尻を撫でていた自分の右手に向かって怒鳴った。指で手の甲をパシパシ叩いて叱りつける。
「こらっ、勝手にミサトの尻を触るなんてスケベな奴だなっ、こいつめっ、いや、悪かった、君の可愛いヒップちゃんについつい俺の右手が見惚れちゃったようでね。
でも、君のヒップもいけないんだぜ。なんてったって形が良過ぎるもんな、俺がちゃんと右手を叱っておくから今回は大目にみてやってくれよ」

おちゃらけながら悪びれる事もなく、無邪気にウインクするシンジにすっかり呆れてしまう。もはや、怒る気にもなれない。軽佻浮薄という言葉がこれほど似合う相手もいないだろう。
それでいて、どこか憎めない。顔はハンサムなのに仕草は三枚目、そんなシンジの愛嬌にミサトは母性本能をくすぐられた。エメラルドグリーンの瞳がミサトを見下ろす。

「と、とにかく急ぎましょう」
慌ててシンジから顔を背けると丁度、目的の場所へと続くエレベーターを発見する。足早にエレベーターへと向かっていくとミサトはエレベーターのボタンを指先で強めに押した。
ゆっくりとドアが開いた。ふたりで乗り込むとエレベーターが下降していく。シンジが二本目の葉巻を火をつけた。ジッポーライターの蓋を閉じる。ジッポーの蝶番とカムがカチャッと音を鳴らした。

エレベーター内にくゆる紫煙──葉巻を口の端で挟みながら、ジッポーライターをポケットに滑らせる。嫌味なくらい様になった。
「しかし、殺風景な場所だな、もっと目の保養になるもんはないのかね」
暢気な口調でシンジがぼやく。
「目の保養って例えばどんな?」
ミサトが聞き返す。予想していた通りの言葉が帰ってきた。
「そうだな、まあ、多くは望まない。なんてったて俺は欲がないからな。例えば、裸になった美女とか、股を開いた美女とか、お尻を振って俺を誘ってくれる美女ってとこかな。君のようにチャーミングなね」

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その光景はエレベーター内でめまぐるしく展開し、赤木リツコの脳天目掛けて衝撃を振り下ろした。開かれたエレベーターのドア──熱い抱擁を交わし、互いの唇を求め合うかのごとく激しく貪るふたりの男女の姿。
確固とした猛々しい男の背中に必死ですがりつき、ミサトが喉から低い呻き声を発する。男はそんなミサトの腰回りにそっと優しげに手を添えていた。
揺りかごのように身体を揺らしながら、ふたりは蜜のような甘い愛を交わしていた。

男が唇を離すと金糸の如く輝く一筋の唾液が粘つくように糸を引く。時間にして数十秒──リツコにはそれが数時間にも感じられた。
「ちょ、ちょっとっ、何をしてるのよっ、ミサトっ!」
リツコの大声にミサトが我に返って振り向く。ミサトのおぼろげな双眸がリツコの前でたゆたっていた。
「へへ、ちょっと激しすぎたかな。ところでここはどこなんだい、俺は親父に呼ばれてきたんだけどね」

資料の写真で見た顔──間違いない。シンジ──コブラだ。リツコの毛穴から珠の汗が滲み出た。得体の知れないプレッシャーがかかる。本当にこの少年は超人なのだろうか。
どう見ても好色な女たらしにしか見えなかった。彼を使徒と戦わせるくらいなら、チンパンジーをエヴァンゲリオンに搭乗させたほうがまだマシなのではないのか──そんな不安が脳裏に走る。
「ははは、まあ、良い物見れたと思えばいいじゃねえか」
そんなリツコの肩をポンポンと叩くとシンジはとぼけたようにスキップをしながらエレベーターを横切っていった。

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

血を溜めた巨大な貯水池──シンジの頭に最初に浮かんだのはそんな言葉だった。ダンテ神曲に描かれた地獄編の一節が自然とシンジの唇をつく。
「地獄の川の一、第一の園の血の河にありて、自殺者の森の下を過ぎてここに流れ下れるなり……か。なるほど、薄々とは感じていたがどうやらここは天国とは程遠い場所らしい」
「ダンテね、見かけによらず、教養がお有りのようね、シンジ君……いいえ、コードネーム<コブラ>」

両手を組みながら、リツコは濃いルージュで艶やかに濡れた唇に皮肉めいた微笑を浮かばせた。白衣をはためかせながらシンジに近づいていく。
「ついてきて、コブラ。あなたに見せたいものがあるの」
「見せたいもの?そいつはなんだ、あんたのその大きなオッパイかい?」
軽口を叩きながらリツコと肩を並べて奥のほうへと進む。真っ暗なやたら広いフロアに通されるとシンジはほおっと驚くように声を上げて顎をしゃくった。
「なんだ、このデカブツは」

「驚いたわ。まさかこんな暗がりでも見えるなんて。これは汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオンよ」
フロアの照明が突然、発光した。エヴァンゲリオンの全貌が光の下へ晒される。シンジは相変わらず減らず口を叩きながら葉巻を吹かし続けた。
「人造人間ねえ、つまりは俺とこいつは兄弟ってわけだ。よう、元気にしてたか、兄弟。しかし、まあデカイなあ。何を食えばそんなにでかくなるんだよ」
まるで巨大なプラモデルでも眺めるようなシンジの態度にミサトが思わず頭を抱えそうになる。つまらなそうに瞼をこするシンジにかける言葉などミサトは持っていなかった。

「久しぶりだな、コブラ」
強化ガラスに覆われた管制室から聞き覚えのある声が届いた。
通路を渡り歩く靴音が紫色の巨大な人造人間の頭上の辺りで止まる。
傲岸不遜を地で行くような胸糞の悪い視線がシンジ──コブラの背中へと突き刺さる。コブラは振り返らず、片手を上げて返事をするだけだった。
「その声はゲンドウの親父か。すまないな、手ぶらできちまったよ、今度なにか土産を持って来よう。サングラスがいいか。三角の形の奴とか、その趣味の悪いサングラスよりゃマシな奴を選んでやるよ」
「相変わらずだな。コブラよ。かまわん、俺と貴様の仲だ。それよりもコブラ、エヴァに乗れ」

「それで、俺がこのデカブツに乗りこみゃ、何が貰えるんだ。あいにくとシルベスター・スタローンのブロマイド写真なら間に合ってるぜ」
「何がほしい?」
コブラが葉巻を唾ごとぺっと吐き捨てた。葉巻の先端が跳ね上がって火の粉が飛び散る。首を捻ってコブラはゲンドウを見返した。
ゲンドウはコブラの燃え上がるような獣の瞳に打ち震えた。恐怖からではない。心の底から湧き上がる歓喜のために打ち震えた。現代に生まれし、殺戮の申し子、戦いのホモ・サケル(聖者)よ。
美しきユイの忘れ形見よ。漲る闘争本能からお前は逃れられない。それがお前の宿命だ。コブラよ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「もしも貴様がエヴァンゲリオンに乗らないというのであれば、代わりの者を乗せるだけだ」
弾丸の如くゲンドウのハートを射抜くコブラの鋭い視線──ゲンドウは生唾を飲み込んだ。天性の殺し屋め、生まれついての血に飢えた野獣、ナチュラル・ボーン・キラーとはお前のためにある言葉だ。コブラ。
だが、ゲンドウは動揺を決しておくびにもださず、淡々とした口調でコブラに語りかける。そんなゲンドウの言葉を軽く受け流すとコブラはいつも通りの調子に戻っていた。

「おいおい、親父、お前の耳は飾り物か。もしかしたらそのサングラスも老眼鏡か何かなのかね。誰も乗らないとはいってないぜ。ただ、俺はタダじゃ嫌だって言ってるのさ」
サングラスのブリッジを中指で押しながら、ゲンドウはコブラに尋ねた。
「それじゃあ、何がほしい。言ってみろ」

「そうだな、当面の小遣いとして一千万ほど貰おうか。なんせカラッケツなもんでな、ポケットにゃ一円玉すら転がってないんだ。
お金がないことほど悲しいことはおまへんで、ってね、これ、本当のことよ。なんなら領収書を切ってもいいぜ。領収書は空で切ったほうがいいかな」
「いいだろう。一千万払ってやる。ただし、使徒を倒せたらな」
指をパチンと弾くと、唇を笛のように尖らさせてヒューっといつもの癖で口笛を吹くコブラ──ポケットから小さな赤いソルダムの果実を取り出すと一口齧った。
「へえ、思ったよりも気前がいいな。石油でも掘り当てたのか。それともサマージャンボで当たったか。へへへ、しかし、俺の代わりがいるってんなら最初にそいつを乗せればロハだったんじゃねえのかね」

突然、キイキイと錆びついた車輪のこすれる甲高い音がコブラの耳殻に篭った。医者と看護婦が患者を乗せたストレッチャーを運んでコブラのほうへと近づいてくる。
「おいおい、なんだ、なんだ。一体どうしたってんだ?」
目の前で止まった担架には酷い怪我を負った少女が静かに横たわっていた。腕に巻かれた包帯には、乾いた血が滲んでいた。痛々しい無表情な横顔は血の気が失せて蒼白く退色している。
「なるほど、親父、この子のお守りを俺に頼みたいんだな。よし、お嬢ちゃん、良い子だから安心してそこで寝ているといい」

コブラはゲンドウの意図が嫌になるくらいわかっていた。ああ、そうだ。この子を俺の代わりに戦わせるとでも言うのだろう。クソッタレッのインポ野郎がッ!
この蛇蝎めッ、この蛆虫ッ、てめえの口から吐き出されるゲロみてえな台詞を聞く気にはなれねえッ!
それ以上何か喋るつもりなら、てめえのその薄汚ねえド頭を腐ったトマトみてえに吹き飛ばしてやるッ!
コブラはゲンドウを見上げた。
「毎月の養育費はちゃんと払ってもらうぜ」

無言でコブラを見つめていた少女がか細い声を喉から絞り出した。弱々しく瞳を伏せ、あなたは誰とコブラに問いかえる。
「季節はずれのサンタクロースさ、君にプレゼントを持ってきたんだ。でも、途中でソリに置き忘れてきちゃってね」
コブラは少女の頬を優しく撫でながら、瞳の奥を覗いた。悲哀に彩られた真紅の瞳──一体誰がお前をこんなに遭わせたんだ。コブラは少女を微笑んだ。両眼に限りなく深い慈悲を称えながら、微笑んだ。
能面のように無表情だった少女の頬が微かに歪む。瞳には薄い生気の光が宿り、少女はコブラの手を握って
「それで俺はどうすればいいんだ」

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「コブラっ、何をしているのっ!」
「まあまあ、見てなって、あんた達はそこで高みの見物とでもしゃれこんでな」
ピラミッドの屋根に上り、コブラは空を仰ぎ見た。黄金色に輝く太陽の陽射し、蒼い空を流れる入道雲、ピクニックには持って来いだ。こっちに向かって使徒がにじり寄ってくる。
黒い半身に白い肩、胸部に張り付いた顔はまるでアホウドリの頭の骨そっくりだった。中々愛嬌がある姿だ。ニヒルな笑みを唇に張り付かせ、コブラが左腕を前方に突き出す。

「俺を恨むんじゃねえぜ」
コブラは肘の付け根から義手を引き抜いた。銀色に輝く紡錘形のフィルムをした銃が太陽の光を反射する。驚いたリツコとミサトが同時に声を上げた。銃口が唸りを上げた。
閃光が視界を遮る。砕けるATフィールド、貫かれたコア。スローモーションで地面に崩れ落ちる使徒の巨体。後から地響きがやってくる。圧巻だった。
「心ってのは張るもんじゃねえ、撃つもんさ」

「な、なんなの……なんなの、それってっ」
銃にキスをしながらパニックを起こすリツコにコブラは答えてやる。
「何って、サイコガンさ」

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
医療ブロックを色々と見て回り、看護婦の尻を追っかけまわして遊びながらようやく、目的の部屋についた。首筋についたキスマークはご愛嬌って奴だ。
百本の薔薇の花束を片手にコブラは病室のドアを左手で乱暴にノックした。右手に掴まれた花束──茎が太くて長く、花弁も鮮やかな薔薇は一輪で三千円は下らない高級品だ。
それでも財布はまだまだ膨らんでいる。一番上等な奴を百本くれと花屋に言ったらこの薔薇をラッピングしてくれた。なるほど、いい薔薇だった。見る目のある店員に当たったようだ。
ドアノブに手をかけて開ける。中に足を踏み入れた。白いコンクリートの壁に包まれた殺風景な病室だ。病院も病室も昔から好きになれなかった。もっとも、病院が好きという奴も滅多にいないだろうが。
病室の白いベッドに座った少女にコブラは挨拶とばかりに軽く右の瞼を閉じてウインクした。
「よう、調子はどうだ」

サイドボードの上に置かれた陶器の花瓶に薔薇の束を無理やり突っ込む。勢い良く花瓶の差込口から水が飛び出すとコブラの顔面にばしゃっとかかった。
水を引っかぶったせいで思わずクシュッと何度もくしゃみを漏らす。そんなコブラに少女がいかにもおかしそうに破顔し、そっとハンカチを差し出した。
受け取ったハンカチで顔を拭いながら、ハンカチの隙間からはにかんだような笑顔を浮かべる少女にこちらもスマイルフェイスで返す。
「そういえば、名前を聞いてなかったな。俺はシンジ、君の名前は?」

「私の名前はレイよ……ねえ、あなたの名前はコブラじゃないの?」
「コブラは俺のコードネームさ。なんせ、俺はユイが作った人造人間なもんでね」
キューバ産のモンテクリストを咥え、ジッポーライターで火をつけた。レイはそんなコブラの横顔を一瞥した。彼は私と同じ作られた人間──私と一緒なんだ。
レイの胸裏にある感情が芽生え始めた。その感情が何であるのかを今のレイは知らない。

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ベッドから上半身を起こし、コブラは吸いさしの葉巻をベッド脇にあるサイドボードの上に置かれたクリスタルの灰皿にそっけなく転がした。欠伸をしながら時計を見やると時刻はすでに五時を回っていた。通りで眠いはずだ。
起こさないようにそっと、傍らにいるミサトの解けて頬にかかっていた長い髪を撫でるように払う。抜かず離れずの七ラウンドは流石にミサトも堪えた様子だった。
生まれたままの姿で胎児のように身体を丸めてスヤスヤと寝息を立てているミサト──端整の取れたプロポーションだ。

スラリとした背中からなだらかなカーブを描いた陶磁器のように突き出た白い尻房が艶ましい。だが、乳房の下から垣間見えるケロイド状に引き攣った傷跡だけが似つかわしくなかった。
ガラス細工のようなしなやかな肢体をコブラは仔細に眺めた。きめ細かい肌触りのうなじに指腹を這わせる。ミサトのぬくもりを感じた。幽かに立ち上った汗と情事の香りがコブラの鼻腔に忍び入る。

毛布を身体から剥がすとミサトにかけてやり、全裸で寝室を出て行く。コブラはゴミを踏まないように注意しながら廊下の脇をすり抜けた。まるで豚小屋だ。ダイニングルームは腐敗したビールの饐えた臭気が漂っている。
「男ヤモメならぬ、女ヤモメに蛆が湧くってね。全く、なんとかならないもんかねえ。肺の辺りが気持ち悪くなってきた」

頭をボリボリと人差し指で掻きながら床に無造作に転がった塗装の剥げた缶ビールをコブラが見やる。乾いたウイスキーが底に茶色くこびりついたボトルを爪先でコツンと蹴った。
無造作に置かれた未開封のダンボール、ギュウギュウに詰め込まれたゴミ袋、散乱した空き缶──もはや夢の島だ。
コンビニの弁当はカビが生えて、コロッケだったらしい食い物はカリカリに乾いた草餅へと変化を遂げていた。鼻の奥が埃でムズムズする。心なしか身体がなんだか痒くなってきた。

「なんだか身体がカビっぽくなってきたかな、シャワーでも浴びるとするか」
コブラは風呂場で軽くシャワーを浴びるといつもの服に着替えた。玄関ドアを開けると地平線から昇りかけた太陽の光に眼を奪われる。朝の新鮮な空気を吸い込みながら、コブラはコンクリートの共同通路を歩いていった。
「しかし、昨日は本当に楽しかったなあ、ウイスキー三本と缶ビール二十本をふたりで空けて、それからベッドに直行だったもんな」
ニヤニヤと思い出し笑いを浮かべながらしながらポケットに両手を突っ込んで肩をすくませて歩く。エレベーターに乗り込むと下へとおりていった。無人のエントランスホールを眺める。
地下駐車場にたどり着くとエレベーターを降りた。暗がりの奥にあるバイクカバーを掴むと引っぺがす。カバーから現れたのは真紅のボディーを輝かせたハーレーダビッドソン・スポーツスター・XL/XLH883だ。

バイクのシートに跨るとキーを差し込み、ハンドルに手を伸ばす。クラッチをしっかりと握り締めた。レバーをロウにシフトすると、アクセルを吹かす。地下駐車場を支配していた閑寂さは一瞬でかき消された。
獣のように唸り声を上げるエンジン音が轟く。空気がコブラの鼓膜を振動させた。バイクを発進させる。当てなんてない。好きな場所へと風船のように飛んでいくだけだ。
「お次はどこへいこうかな、俺はさむらいの旅人ってね、へへ、かっこいい」
駐車場を走り抜けるとバイクが風を切り裂いていった。化け物は倒した。もう、自分は用済みだろう。また、気ままな暮らしに戻るだけだ。コブラはまだ知らなかった。使徒が一体だけではないことを。

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

白熱した太陽の光にさらけ出された旧市街地。倒壊したビルの跡地、灰色のコンクリートの破片が散らばって、そこかしこに転がっていた。ここは朽ちた卒塔婆のように並んだ高層ビルの墓場だった。
かつての栄光も今は見る影もない。コブラはビルという名の墓標を仰ぎ見た。何の感慨も湧いてこない。鮮血をぶちまけたような緑地と飴細工のように溶けた鉄筋。アンバランスな光景だ。
電車は奇妙に捻じ曲がり、その巨体を静かに横たえていた。

「ほんと、見事なまでにぶっ壊れてやがんの、でも、新市街地よりゃマシかもな」
葉巻を口に咥えながらコブラは旧市街地を見て回った。見事なまでに何もない。廃墟はやはり廃墟でしかなかった。
「やめた、やめた。気が変わった。帰るとするか」

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ミサトが眼を覚ました時には時刻は十二時を過ぎていた。一緒に寝ていたはずのコブラが居ないことに気づくと慌てて部屋中を探し回る。やはりどこにもいない。
あたふたと急いで着替えると玄関ドアのノブを掴み、開ける。一瞬、ミサトの瞳が点になった。そこには片手に紙袋を抱えたコブラが立っていた。落ち着かない様子のミサトにキョトンとした表情を浮かべると、部屋へと入っていく。
「昼飯でも食おうぜ。コンビニの弁当だけじゃ、身体に悪い」

オレンジを一つ掴むとミサトの胸元に後ろから放り投げてやった。キッチンにいくとサイフォンでコーヒーを沸かし、テーブルのゴミを片付ける。インスタントのコーンスープの粉をカップに入れるとコブラはお湯を注いだ。
熱したフライパンにベーコンと生卵を落とすとジュワっと白身が焼けていく。皿に目玉焼きを盛り付け、フランスパンを包丁で割るとテーブルに並べた。
「よし、できた。それじゃあ、飯にでもするか」
ミサトとふたりでテーブルについた。スープを啜りながら、フランスパンを齧るコブラを頬杖を突きながらミサトが見つめた。頬は桜色に上気し、瞳は潤みを帯びていた。

「シンジ君……ううん、コブラ、私と一緒に暮らさない?」
目玉焼きを頬張りながらコーヒーカップを掴むとミサトの言葉に軽く答える。
「ああ、それは別にかまわないさ。どうせ、俺もあのデカブツを倒してお役目御免だろうしな。当分は暇だからゆっくり骨休めでもするさ、ミサトとふたりでね。ゲンドウの親父から貰った小遣いも有り余ってるしな」

ミサトの頬がほころぶ。テーブル越しにコブラに向かって抱きついていくミサト──コブラの返事が嬉しかった。コーヒーを零しそうになり、大急ぎでコブラがコーヒーを飲み干す。
「そういえば、レイっていったな。あの子も近々退院だろう。今日も見舞いにいってやりたいんだが、一緒に来るか?」
「ええ、一緒にいきましょう」
微笑みながらミサトは返事をした。

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「コブラか。とんでもない化け物もいたものだな。まさか生身で使徒を倒すとは、いくら人造人間とはいえ、あまりにも危険ではないのか。いや、存在自体が異常だ」
薄暗い空間に浮かんだモノリス──十二人の長老はゲンドウに厳しい口調で詰問した。サングラスから覗く眼がモノリスを冷たく仰ぐ。
「奴は確かにイレギュラーであり、恐ろしい兵器です。例えるなら拳銃そのもの、しかし、銃は使い手次第です。私にまかせてもらいたいものですね。あのコブラはユイの最高傑作なのですから」
「君ならアレを扱えるというのかね。我々の計画の邪魔になるのであれば、今すぐにでも排除してしまいたいものだが」
「……それは無理でしょう。コブラを倒せる存在など、居るとは思えません」
「随分と君はコブラを気に入っているようだね。いいだろう。君にまかせよう。そうだな、ついでに今度の予算は多めに出すとしようじゃないか。奴の餌代としてな」
「ありがとうございます」


次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027392864227295