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No.2605の一覧
[0] 運命の使い魔と大人達(「ゼロの使い魔」×「リリカルなのは」ほぼオリキャラ化) 完結[らっちぇぶむ](2008/12/21 12:58)
[1] 運命の使い魔と大人達 第一話[らっちぇぶむ](2008/02/08 00:32)
[2] 運命の使い魔と大人達 第二話前編[らっちぇぶむ](2008/02/08 00:27)
[3] 運命の使い魔と大人達 第二話後編[らっちぇぶむ](2008/02/10 00:31)
[4] 運命の使い魔と大人達 第三話前編[らっちぇぶむ](2008/02/13 23:07)
[5] 運命の使い魔と大人達 第三話後編[らっちぇぶむ](2008/02/17 17:14)
[6] 運命の使い魔と大人達 幕間その1[らっちぇぶむ](2008/02/20 02:31)
[7] 運命の使い魔と大人達 第四話前編[らっちぇぶむ](2008/02/24 14:21)
[8] 運命の使い魔と大人達 第四話後編[らっちぇぶむ](2008/02/27 22:29)
[9] 運命の使い魔と大人達 第五話[らっちぇぶむ](2008/03/02 20:58)
[10] 運命の使い魔と大人達 第六話[らっちぇぶむ](2008/03/05 20:10)
[11] 運命の使い魔と大人達 第七話前編[らっちぇぶむ](2008/03/12 23:57)
[12] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その一[らっちぇぶむ](2008/03/16 22:03)
[13] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その二[らっちぇぶむ](2008/03/19 23:20)
[14] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その三[らっちぇぶむ](2008/03/23 21:17)
[15] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その四[らっちぇぶむ](2008/03/27 19:28)
[16] 運命の使い魔と大人達 第七話後編[らっちぇぶむ](2008/03/30 20:14)
[17] 運命の使い魔と大人達 第八話[らっちぇぶむ](2008/04/02 23:24)
[18] 運命の使い魔と大人達 第九話前編[らっちぇぶむ](2008/04/05 22:29)
[19] 運命の使い魔と大人達 第九話中篇[らっちぇぶむ](2008/04/09 15:33)
[20] 運命の使い魔と大人達 第九話後編[らっちぇぶむ](2008/04/15 00:00)
[21] 運命の使い魔と大人達 最終話[らっちぇぶむ](2008/04/15 09:18)
[22] 運命の使い魔と大人達 後書き[らっちぇぶむ](2008/04/15 20:34)
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[2605] 運命の使い魔と大人達 第三話前編
Name: らっちぇぶむ◆c857d2f4 ID:49f6089b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/02/13 23:07

 三

 今、トリステイン中の貴族を恐怖に陥れているメイジの盗賊がいる。「土くれ」の二つ名を持つ盗賊、フーケという。
 フーケは、時に繊細に跡も残さず獲物を盗んだかと思えば、別荘を粉々に破壊して大胆に盗み出したり、白昼堂々王立銀行を襲ってみたり、夜陰に乗じて邸宅に侵入する。あまりに大胆不敵、千差万別のやり口に、トリステインの治安を預かる王室衛士隊の魔法衛士達も、一方的に振り回されるがままになっていた。
 そんなフーケであったが、その名がトリステインに知れ渡ったのには二つの理由があった。
 ひとつには、フーケは狙った獲物が隠されたところに忍び込むときには、主に「錬金」の魔法を使う。「錬金」の呪文で扉や壁を粘土や砂に変え、穴を開けてもぐりこむのである。もしくは、巨大な土ゴーレムを使う事もある。その身の丈はおよそ三十メイル。城でも壊せそうな巨大な土ゴーレムである。いかな王室衛士隊の魔法衛士であっても、そう簡単にはどうにかできるやわな相手ではない。「土くれ」とは、そんな盗みの技からつけられた二つ名なのである。
 そして、犯行現場の壁に「秘蔵の○○、確かに領収いたしました。土くれのフーケ」と、ふざけたサインを残していくこと。
 かくのごとき仕儀により、何か盗まれかねない秘蔵の名品を保有する貴族達は、夜も安心して眠ることができない有様なのであった。


 朝日が眼に差し、フェイトは眼を覚ました。いつもこの瞬間襲ってくる二日酔いの頭痛に身構えるが、いつまでたっても痛みはこない。不思議に思い目を開いてみれば、そこは記憶にある部屋であった。確かルイズと呼んでいる自分の主人の部屋である。そして自分はご主人様のベッドに横たわり、ご主人様は椅子に座り机に突っ伏して寝ていた。
 口の中がからからに乾き、全身が水分を欲している。フェイトは上体を起こし、ゆっくりとベッドから降りた。机の上の水差しを取りコップはないかと見渡すが、ルイズの愛用のグラスしか置いていない。さてこれを無断で借りてよいものか、少しためらったところでノックがある。

「どうぞ」

 シエスタであった。フェイトを厨房に案内し、食事を供してくれた平民の少女である。相変わらずのメイド姿で、カチューシャで髪をまとめている。
 彼女はフェイトを見ると微笑んだ。銀のトレイの上に、パンと水がのっている。

「もうお身体の具合はよろしいのですか? フェイトさん」
「ええ。……ところで、何があったのでしょうか?」
「あれから、ミス・ヴァリエールがここまであなたを運んで寝かせたんですよ。先生を呼んで「治癒」の呪文をかけてもらいました。大変だったんですよ」

 何故? 自分がそんな大怪我を負った記憶が無い。
 フェイトは、自分がこのハルケギニアという異世界に召喚され、そこで寝ているルイズという少女の使い魔兼使用人になった事までは覚えている。この少女の二つ名は「ゼロ」。あらゆる魔法が爆発という結果に至る特異な存在の少女である。そして、目の前にいるシエスタという名前の少女。この魔法学院で働いている使用人で、彼女によくしてもらった事も覚えている。
 だが、そこから先の事が、何故か明確な記憶として認識できない。
 突如として無表情になり黙り込んでしまったフェイトの顔を、シエスタは心配そうな表情で覗き込んだ。

「あの、まだどこかお身体の具合でも?」
「いえ、実は何故そんな怪我を負ったのかが思い出せないのです。一体全体何が起きたのでしょうか?」

 呆然としたままフェイトの顔を見つめているシエスタ。
 そんな少女の姿を見て、取り繕うようにフェイトは暖かく優しげな微笑みを顔面に貼り付けた。

「多分、怪我による一時的な記憶の混濁でしょう。しばらくすれば思い出してくるはずです。大丈夫、身体は本当に大丈夫です。むしろ、こんな目覚めの良い朝は久しぶりなくらいです」
「本当に? あの、頭を強く打ったらしいですから。もう一度先生に見ていただいた方がよいのでは?」
「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」

 フェイトは、シエスタから銀盆を受け取ると、ルイズの寝ている机に音を立てずにそれを置き、かわりにルイズを抱きかかえてベッドに寝かせた。そのままカーテンを引いて、朝日が彼女に当たらないようにする。

「わざわざ食事を持ってきて下さったのですね。ありがとうございます」
「いえ、フェイトさんを看病なさっていたのは、ミス・ヴァリエールですし。三日三晩ずっと眠り続けていて、目が覚めないんじゃないかって、皆で心配していたんです」

 ああ、いつの間にそんな大怪我をしたのやら。
 多少の事ならば、時空管理局にいた頃に受けた訓練で怪我に至らせないようにさばけるはずであるし、そこまでの敵ならば、それなりの戦い方で無力化できているはずである。まして、クロノ・ハラオウン統括執務官の汚れ役専門の部下として「ハラオウンの猟犬」とまで呼ばれた自分である。あらゆる戦技において洗練と効率化で勝っているはずの訓練を受けたはずの自分が、不覚をとるなどどうしても想像ができない。

「皆といいますと?」
「厨房の皆です……」

 シエスタは、それからはにかんだように顔を伏せた。

「あの、すいません。あのとき、逃げ出してしまって」
「?」

 本当に何があったのだろう。もどかしさばかりが心を揺さぶる。

「ほんとに、貴族は怖いんです。私みたいな、魔法を使えないただの平民にとっては……」

 シエスタはぐっと顔をあげた。その目がキラキラと輝いている。
 フェイトは、そんな尊敬と憧憬の交じり合った視線が辛くて、そっと目をそらす。この子は、私の眼が怖くはないのだろうか。この濁って腐り、輝きを失った眼が。そんな思いに心が痛む。

「でも、もう、そんなに怖くないです! 私、フェイトさんを見て感激したんです。平民でも、貴族に勝てるんだって!」
「そう、ですか」

 私は貴女達のいう平民でもなければ、魔法が使えないわけでもないんです。この身は、ただ敵をあらゆる方法で無力化する訓練を受けた「猟犬」なんです。「猟犬」にとっては「人」は獲物でしかないんです。だから、勝ったのは当然の結果のはずなんです。
 そう心の中で呟きつつ、実際に口に出したのは一言であった。

「では、いただきます」


 トリステイン魔法学院の教師は、通常はアルヴィーズの食堂の中二階にあるロフトで食事をとる。一応は食事中の生徒の挙動を監督するため、という名目であるが、実際には絢爛たる食堂の眺めを楽しみつつ食事をとるためであった。そんなロフトの片隅で、コルベールは、学院長の秘書であるロングビルとともに昼食をとっていた。

「なるほど、それはとても興味深いお話ですわね」
「いやいや、なにしろこの学院も設立以来随分と長いですからな。それはもうガラクタ同然のものから、各国の王室すら保有していない魔法の品々まで、色々とあります」

 楽しそうに微笑むロングビルに、何気に女っ気の無いコルベールは嬉しくて仕方が無い、という様子で宝物庫に収められている秘蔵の品について語っていた。なにしろこんなに楽しそうに自分の話を聞いてもらえるのは中々無い事である上、相手はうら若く知的な美しさをもって学院中に知られるロングビルである。これで舞い上がらなければ、むしろ男性として何か問題があると言われてもおかしくはあるまい。

「そういえば、今お話下さった「破壊の杖」ですが、ミスタ・コルベールはご覧になられた事はおありでしょうか?」
「ああ、あれですか。まあ名前こそ「破壊の杖」などと大層なものですが、なんと申しますかぼろぼろの金属製の杖に、宝玉が埋め込まれただけの代物でしたな」
「まあ。でもそうしますと、とても古い魔法の品なのかもしれませんね。金属がぼろぼろになるということは、もしかしますと始祖の時代から伝わるものかも」

 ヒラメの香草包みに舌鼓をうちつつ、ロングビルは色々なコルベールの話にちょっとした意見をさしはさむ事で、さらにコルベールの舌をなめらかにしていく。

「それにしても、宝物庫についてよくご存知でいらっしゃいますこと。目録作りは、私などよりミスタ・コルベールの方が適任かもしれませんね」
「ははは、いや、僕ももうこの学院で教鞭をとって二十年になりますから。これくらいは」
「いえ、ミスタ・コルベールは優秀な火系統のメイジと噂をお聞きしますし、例えば「土くれのフーケ」が襲ってきても大丈夫でしょう」

 いかにも頼りになる殿方、という視線を送られて、コルベールはもう有頂天になっていた。

「まあ、なんですな。メイジである限りあの塔に侵入するのは不可能ですな。なにしろ、スクエア級の魔法使いが数人がかりで固定化の魔法をかけておりますからな。ただ」
「ただ?」
「まあ、これは僕の仮説に過ぎないのですが、物理的な力でもって無理やり破壊してしまえば、と」
「なるほど。でもそれは無理でしょうね。それこそ、城砦すら壊しかねないゴーレムでないと」

 本当に楽しそうに、ロングビルはにっこりと微笑んだ。

「ミスタ・コルベールのそばにいらっしゃる女性は、幸せでしょうね。だって、誰も知らないような事をたくさん教えて下さるのですから」


 食事時の厨房は、それこそ戦場の様な忙しさである。用意しなければならない食事の量が半端ではない上、相手が貴族の子弟とあっては、その肥えた舌にあった食事を用意しなくてはならないからである。
 そんな皆が一糸乱れぬ動きで働いているのをぼんやりと眺めつつ、フェイトは出された賄い食をゆっくりと咀嚼しつつ飲み込んでいた。味は多分とても良いのだろう。ただ、ここ何年か強いアルコールに耽溺しているせいか、今ひとつ物の味というものが判らなくなってしまっている。

「どうですか? 今日のシチューは」

 そんな厨房の中で、シエスタがそばでかいがいしく給仕を務めてくれている。

「美味しいです。とても。それに出来立ての暖かい食事は良いですね」

 管理局にいた頃は、現場で指揮をとる事も多く、ゆっくりと暖かい食事をとる事は中々できなかった。自宅に戻っても、義理の娘のヴィヴィオと一緒に食事をする機会もほとんど無く、自分で料理するとしても精々が酒のつまみ程度であったのだ。

「でも、良いのですか? 私に付き合って下さって。本当はこんなお忙しい時に、お邪魔するのは心苦しいのですが」
「かまいやしないぞ。ここを任されている俺が許すと言ったんだ。あんたはいつでも来たい時に来て、たんと食っていってくれ」

 フェイトにその広い背中を見せつつ、この厨房を仕切るコック長のマルトーがそう声を発した。そのついでか、忙しく働いている厨房の全員が、一斉に同意の声をあげる。

「なにしろあんたは、シエスタの名誉のために貴族と戦ってくれたんだ。そのあんたを粗略扱っちゃあ、この俺達の名誉に関わるってもんだ」

 大貴族の子弟の通う魔法学院のコック長ともなれば、そこらの貧乏な貴族よりよほど羽振りはよい。そしてマルトーもまた、羽振りの良い平民の例にもれず、貴族と魔法を毛嫌いしていた。そしてフェイトは、そんな貴族の八つ当たり同然の言いがかりでいじめられていたシエスタをかばい、あげく貴族に向かって「シエスタの名誉のため」と大見得を切って決闘を受けてたったのである。ついでに、生意気な貴族のガキを素手でふるぼっこにぶちのめして、きっついお灸をすえたのだ。
 貴族の横暴に泣かされている平民は少なくない。その貴族を正面から拳でぶちのめしたフェイトは、まあ確かに色々と問題はあるにせよ、この魔法学院で働く全ての平民の希望の星となってしまっていたのであった。
 加えて、精霊もかくやという美貌である。これで人気が出ない方がおかしい。

「いえ、か弱い女の子がいじめられているのを、黙って見過ごすわけにはいきませんし」
「聞いたか!? さすがは本物の達人だ! なあ、あんたどこでそんな戦い方を習ったんだ?」
「いえ、私のいたところでは、心身の鍛錬に武道を習うのはごく当たり前の風習でしたから」

 確か、親友のいた世界は、というか国は、そういう風習だったはずだ。

「お前達! 聞いたか!」
「聞いてますよ! 親方!」

 マルトーの怒鳴り声に、若いコックや見習い達が一斉に怒鳴り返す。

「本当の達人というのは、こういうものだ! 決して己の腕前を誇ったりしないものだ! 見習えよ! 達人は誇らない!」
「達人は誇らない!」

 コック達が嬉しげに唱和する。

「やい、「我らの拳」。俺はそんなお前がますます好きになったぞ。どうしてくれる」

 本当に心からそう思っている表情で、マルトーは料理の手を止めて振り向いた。

「でも、親方もこんなに美味しい食事で、皆さんを感動させられますし。料理も別に魔法とそう変わるものでもないでしょう」
「いいやつだな! あんたはまったくいい奴だ!」

 自分が実はこの世界の魔法使いなど足元にも及ばない強大な魔法を使える上、権力の狗であったし、あげく殺人技術の第一級の専門家である事を黙っているのが、何故かこの気の良い親父相手では嘘をついているようで気が引けて、ついついそんな事を言ってしまう。
 それはもう嬉しそうにマルトーは、フェイトがしまったと思うより早く、彼女の首根っこにぶっとい腕を巻きつけてきた。

「なあ、「我らの拳」! 俺はお前の額に接吻するぞ! こら! いいな!」
「ごめんなさい。その呼び方と接吻は許してください」

 というわけで、フェイトの食事は、本人にとってはどうかは判らないが、とてもにぎやかで楽しい雰囲気の元で進むのであった。 


 フェイトがわざわざ厨房の忙しい時に食事をとりにくるのには理由がある。ご主人様であるルイズが授業に出ている間、そばに付き添っていなくてはならないからだ。なにしろフェイトの対外的な立場は、あくまでルイズの使い魔である。そしてギーシュとの決闘で見せたフェイトの狂態から、ルイズはフェイトを絶対に自分の近くから離そうとはしなくなっていた。
 かといって、ルイズがフェイトを信頼するようになったという事ではない。むしろ逆であり、もし自分が眼を離せば、また何かしらの騒動に巻き込まれるに違いない、と思い込んでの事であった。
 なにしろフェイトは、心底貴族を嫌っているというか、馬鹿にしている。舐めている。嘲笑っている。普段は柔和な表情でごまかしているが、その光の無い、濁って腐った眼に浮かぶ軽蔑の色が全てを語っているようにルイズには思えた。

 そんなフェイトを従えてルイズが教室に入ると、一斉に皆が口を閉じる。わざとらしく視線を外し、あえてそこに誰もいないように振舞う。もっともただ一人の例外がいるが。

 あの決闘以来、フェイトに対する興味を完全に隠そうともしなくなったキュルケ・フォン・ツェルプトーである。
 とにかく、気がつくとどこかしらからフェイトの事を観察しているのだ。彼女が学院内で派手に男遊びに呆けているのはルイズも知っているが、まさかそっちの気があっての事ではないくらいは判る。キュルケのフェイトを見る視線は、あくまで戦士としてのそれに近い。いかにしてフェイトと戦うべきか、その隙を見つけようとする様な。

 もはや誰もルイズの事を正面きって「ゼロ」と馬鹿にする者はいなくなった。生徒の誰もが、ギーシュの様に顔面の骨がぐずぐずに砕けるまで殴られたくはないからだ。平民の名誉のためにそこまでするならば、主人であるルイズの名誉に関わる事ならば、どれほどの暴力にさらされる事か。

「ミス・ヴァリエール。それでは「ウィンド」の魔法を実践してみたまえ」
「申し訳ありません、ミスタ・ギトー。わたしが魔法を行使すると、必ず爆発という結果に至ります。危険ですので他の誰かにお願いいたします」

 そしてルイズは、授業での魔法の行使を徹底的に控えるようになった。
 それもフェイトとコルベールの助言があっての事である。決闘の後、フェイトが復調してから、約束通り「なぜルイズの魔法は爆発という結果に至るのか」という問題を徹底的に調べたのだ。まずコルベールの研究室に二人で赴いて助力を願い、ルイズの肉体をフェイトが徹底的に調べるのを手伝ってもらった。その結果は、ルイズの肉体は全く普通のメイジと変わらない事が明らかになっただけであった。
 次にフェイトは、ルイズにあらゆる呪文を行使させた。それこそごくごく基本的なコモン・マジックから、二年生になってようやく習う高度な呪文まで全て。その過程をコルベールとフェイトは徹底的に観察し、いかなる魔法行使の過程が発生するか、調べたのである。

 結論は、ルイズが四大系統の魔法使いではなく、別の系統の魔法使いであるという事。

 コルベールは、仮説として「虚無」の系統を提唱し、フェイトもまたそれに反対はしなかった。彼女曰く、魔法の体系とはその世界の住人の共同幻想の具現化であり、例え歴史の彼方の伝説であったとしても伝説として現在に伝えられている以上、意識的にではなくても、無意識的に伝承されているはずである、というのだ。
 それが何を意味するのかルイズにはさっぱり判らなかったが、何か血統的な因子によって偶然発現するものであるのでしょう、という彼女の言葉にうなずくしかなかったのであった。
 となると、ルイズとしては授業で魔法の実技を行うわけにはいかなくなる。そもそもが四大系統の魔法使いではないのであるならば、知識としての四大系統を学ぶ事に意味はあっても、実際には行使できないのであるから、やるだけ無駄という事になる。それに、もし偶然衆人環視の中で「虚無」の系統に目覚めてしまったら、とんでもない騒ぎになる。なにしろ伝説の復活である。下手をすると王宮まで動くかもしれない。

 というわけでルイズは、ひたすらフェイトとコルベールの監督下で放課後に魔法行使を繰り返す生活が始まったのであった。

「やはり、広域にかける魔法は、狙った場所にすら発現しませんね」

 盛大に本塔の外壁が爆発するのを見て、フェイトが特に感慨も無さげに手元のノートに色々と書き込んでゆく。

「というより、発現はあくまでミス・ヴァリエールの視界内で発生している。つまり、発動の瞬間に彼女の意識の焦点がどこにあるか、それを調べてみようじゃないか」

 コルベールは、あくまで研究者として結果の再現性の確認にしか興味がない様子である。

「ごめんなさい、今日はここまでみたいです」

 とはいっても、ひたすら魔法を唱え続けていたルイズの身体の方がもたなければどうしようもない。さすがにへとへとになってふらついている彼女を見れば、これ以上は無理と大人二人が判断しても仕方がない。

「うむ、有為な結果には至りませんでしたが、未知の成果ひとつに至るには、千の失敗が背景にあるのです。無駄に思えるかもしれませんが、これからも努力していただきたい」

 いつも通りのコルベールの励ましというか、挨拶とともに解散となる。
 これからルイズは夕飯を食べに食堂に行き、それからフェイトと一緒に体力の練成の訓練に付き合う事になる。
 最初はフェイトが、自身の身体を鍛えなおしたい、と夜間の自由行動の許可をルイズに求めたのであるが、フェイトから一瞬でも目を離したくないルイズによってそれは却下されたのであった。が、これに関してはフェイトは頑として譲らず、結果としてルイズもフェイトに付き合う羽目になる事になったのであった。
 最初の三日間は、それこそフェイトについていくことどころか、途中でへたばって転がったまま、彼女が身体から湯気を立てつつ見たこともない体術を繰り返すのを見ているだけであった。少なくとも、今でもフェイトが走りこむ距離を完走する事すらままならなかったりする。

「あんた、本当に何者?」
「ですから元いた世界では、心身の鍛錬のために武道を修めるのは当然の風習であった、と申し上げました」
「あんたの居た世界は、なんてゆうかとんでもない世界だと思うわ」
「代わりといっては変ですが、魔法はほとんど存在しない世界でしたので」
「ミスタ・コルベールに聞いたわよ。魔法の代わりに技術とやらが発達しているんだって? ほんと、世界は驚きに満ちているわ」

 全身筋肉痛でぶっ倒れたまま、脚さばきで瞬時に十メイルもの距離をつめる事を繰り返しているフェイトとそんな事を話す。とにかく膝が笑ってまともに立っていられないのだ。
 そんなルイズにフェイトは、三ヶ月も走りこめばそんな事もなくなりますよ、と言ってくれてはいるが、とてもそんな日がくるとは思えない。ただ、ここまでくると半ば自棄みたいなもので、ご主人様としての意地が彼女を支えているのである。

「なんていうか、毎晩毎晩がんばるわねえ」
「走りこみは基本」
「うるさい! キュルケ、あんたボーイフレンド達はどうしたのよ!?」

 そして、彼女が意地を張り続ける理由のひとつが現れる。
 キュルケは、何故かタバサをともなってフェイトとルイズの夜の鍛錬に顔を出すようになったのだ。なんでもキュルケに言わせれば、ルイズがぶっ倒れているのを見るのが楽しいのだとか。タバサは一言「付き合い」とだけ言って、あとは杖の先に明かりを灯して本を読んでいるだけである。

「あら、あたしの二つ名は「微熱」よ? この胸の炎をかき立ててくれる殿方がいなくて、それをあなたがかき立てるのだから、仕方がないじゃない」
「あんた、いつからそっち側に転向したのよ」
「とんでもない。ただ今はあなたの方が興味深いだけよ」
「どーだか」

 とはいっても、荒い息で芝生にぶっ倒れたままにらみつけては迫力も半減である。
 互いに口には出さねども、つまりはフェイトに興味があるというだけの事なのだ。
 あの決闘の時のフェイトは、どうみても発狂したとしか言いようのない有様であった。二人ともあえて口に出さないが、平民が貴族と決闘して素手でぶちのめしたという結末は、学院中の人間に知れ渡ってしまっている。あの決闘を直接見ていない生徒が、フェイトを闇討ちしようとしてもおかしくはない。
 となれば、好機はこの夜の鍛錬の時となる。なにしろ一人で暗闇の中にいるのであるから、集団で襲って半殺しの目に遭わせても、誰が犯人かばれる事はない。
 ただし、フェイトは強い。彼女が本気でギーシュを叩きのめすつもりであったならば、あんな風にゴーレムに一方的に殴られるという無様は見せなかったであろう。今目前で彼女が行っている一瞬で十メイルもの距離を縮める歩法と、瞬時にギーシュの右腕をへし折り地面に転がした体術、そして、室内にいながら室外から見られている事にすら気がつける鋭敏さがあれば、この学院の生徒では瞬時に返り討ちに遭うのが関の山であろう、とも、二人とも判っている。
 そんな二人の思惑を知ってか知らずにか、フェイトは自身も汗だくになったところで鍛錬を終わらせる気になったらしい。全身の柔軟運動を始め、鍛錬でこわばった身体をほぐしていく。

「お二人とも、大変に仲が良くていらっしゃるのですね」
「そんなこと、絶対に無いから!」
「と、ムキになる彼女が面白いから見に来ているだけよ」

 がぁーっ! と吠えるルイズと、余裕綽々なところを見せるキュルケの姿を見ていると、フェイトは何か色々なものが思い出せそうになるのだが、それがどうしても思い出せない。
 先日の決闘騒ぎの事といい、自分がとうとう壊れてしまったのだな、という自覚がある。特に管理局にいた頃の事、特に交流関係を思い出そうとすると、酷い頭痛に襲われるのである。クロノ・ハラオウンとその母親リンディ、自分が一時期保護者であったエリオとキャロ、親友の八神はやてとその守護四騎士達。そこから先がどうしても思い出せない。
 ここ数日は睡眠薬代わりのアルコールも度数の低いワインを一、二本程度におさめ、こうして鈍ってしまった身体を鍛え直す事で、少しでも思い出すのを拒否している記憶を取り戻そうとしているのであるが、今のところ全く効果は出ていない。
 シエスタに頼んで分けてもらった綿布で自作した作務衣の上を脱ぎ、同じく自作したTシャツをめくってタオルで汗をぬぐいつつ、フェイトは、自分がいつまで正気を保っていられるのだろうかと、不安と恐怖に訳のわからぬ衝動にパニックを起こしそうになる。
 全身を痛めつけなければ、自分自身でいられなくなる。フェイトは、自分が何をすればよいのか、途方にくれていた。


「しかし、「虚無」の系統が今この時に復活するとはのう」
「やはり王政府に判断を仰ぐべきなのではないでしょうか?」

 学院長室でオールド・オスマンとコルベールの二人は、壁にかけられている遠見の鏡に映るフェイト達の姿を見つつ、真面目な表情で声を抑えて話をしている。
 放課後のルイズの魔法行使に付き合った後、コルベールは、夜食をオールド・オスマンととりつつルイズとフェイトについて報告するのが、ここ最近の日課となっていた。二人とも、ヴェストリ広場での決闘でフェイトが見せた狂態を見過ごすつもりはなかったのだ。
 確かに彼女の額に現れたルーンは、知恵を司る「ミョズニトニルン」である。これに間違いはない。ならばあの人とは思えぬ体術と、自身がどれほど傷つこうと意に介せず闘い続けた狂気はなんなのか。こちらに召喚される前になんらかの訓練を受けていたとしても、ただ人にあんな事ができるのか。
 数多くの人外の者達と出会い、数々の冒険をこなしてきた大魔法使いであるオールド・オスマンと、この学院に来る前は血臭の只中にいたコルベールだからこそ、フェイトの持つ危険性がひしひしと理解できたのだ。

「前にも言うたが、王政府に二人の事を知られれば、必ず戦争の駒とされるわい」
「確かに仰る通りですが、しかし、私では彼女がそのつもりになった時、とても抑えられません。学院長ならば、なんとかお出来になられるのでしょうが」
「ふん、儂も年じゃ。できる事とできん事があるわい。しかしアルビオンのアホどもがあの通りじゃからの、王政府のボンクラどもとしては藁にもすがりつきたい気分じゃろうて」

 そういうものですか、と呟いて、コルベールは唇をワインで湿らせた。

「しかし、「炎蛇」のコルベールでも手も足も出ぬか。それほどの魔力と技量か」
「はい。あれはトライアングルだのスクエアだのペンタだの、そういうレベルを超えております。あえて言うならば、火トカゲと老韻龍を比べるようなものでしょうか。幸い彼女は、人としての良識と常識の持ち主です。平民の少女をかばったあたり、そこから義理と情でなんとかできるかするしかないのでしょうな」
「うむ、儂としてもそれ以外には無いと思うておる。もしくは、いっそ表舞台に出られないような立場に立ってもらうとかのう」

 そして二人は、そろって大きなため息をついた。

「なんじゃのう。そろいもそろって、王政府のボンクラどもとなんで同じ発想になるのかのう」
「なんと申しますか、その、人として嫌になりますな。こんな事には二度と関わるつもりは無かったのですが」
「そうじゃ! いっそお主の研究室に助手として引き取ってしまうというのはどうじゃ? 彼女の給料分くらいは、儂の方で立て替えてやろう」
「なるほど! さすがは学院長。それは素晴らしいアイデアです! 問題は、ミス・ヴァリエールが承諾してくれるかどうかですが」
「なに、それくらいはこの老いぼれがなんとかしてやろう。さすがにそこまでは耄碌はしておらんからの」

 オールド・オスマンとコルベールが、大喜びでワインのグラスを掲げたその瞬間、本塔を大きな揺れが襲った。


「「ええええええっ!?」」
「大きい」
「ですね」

 フェイト達四人の目前にそびえ立つそれは、身の丈三十メイルはある土ゴーレムであった。その巨大なゴーレムが、本塔の壁をひたすらに殴りつけている。
 ルイズとキュルケは、口をあんぐりとあけて呆然としてそれを見つめ、タバサは一度口笛を吹いてからあとは、黙ってフェイトの方に視線を送っている。そしてフェイトは、一通り汗を拭き終わると、困りましたねえ、といわんばかりの表情を浮かべてゴーレムを観察していた。
 そんなこんなのうちに、本塔の壁に大きな穴があけられ、中に人影が入っていくのが月の光で映しだされる。

「ちょっと、フェイト、あんた何ぼさっと見ているのよ!」

 痛む身体を気力で押さえ込んだのだろう、ルイズが飛び起きる。

「と申されましても、私ではなんともできませんし」
「そーゆー意味じゃなくって! あんた平民なんだからさっさと逃げなさいよ! 踏み潰されるわよ!!」
「あ、そちらの意味でしたか。お気遣い、まことにありがとうございます」

 優雅に一礼するフェイトを見て、ルイズは心底こう思った。
 やはりこいつは、世の中舐めていやがる。
 そして、こうも思った。
 ギーシュみたいな甘ったれたガキじゃない、本当の貴族の姿を見せてやる、と。

「とにかくあたしが時間を稼ぐから、あんたキュルケとタバサを連れて逃げなさい!」
「了解いたしました。それではミス・ツェルプトー、ミス・タバサ、こちらへ」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、ルイズ! 魔法も使えないあなたがどうやって足止めするっていうのよ! あなたも一緒に逃げなさいよ!!」

 さすがに我に返ったキュルケが、慌ててルイズに走り寄る。しかしルイズは、キュルケが伸ばした手を払いのけると、まっすぐゴーレムをにらみつけつつ、はっきりと言い切った。

「わたしは貴族よ。魔法を使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ」

 そして、袖口から杖を抜き、ゴーレムに向ける。

「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!!」

 一小節の呪文。
 しかしそれは、ゴーレム頭部を盛大に吹き飛ばした。


 突然聞こえてきた爆音と衝撃波に、土くれのフーケは、手にした「破壊の杖」の収められた箱を取り落としそうになった。少なくとも彼女の知識では、炎上させる魔法はあっても、爆発させる魔法は存在しない。
 一瞬、錬金で火薬を組成し、それを爆破させたのかとも思ったが、自分の作ったゴーレムがそう簡単に他のメイジの魔法で錬金されるはずがないし、万が一そうなってもすぐに自分には判るはずである。
 とりあえずゴーレムを修復し、壁の影から周囲の状況を観察する。
 と、ゴーレムの胴体にいくつも爆発が起こる。その爆発の箇所から、魔法をかけている相手のいる方向を把握し、そちらに向けて「魔力探知」の呪文を唱える。
 いた。生徒とおぼしき三人と、平民が一人。その生徒らのうちの一人が、しきりと杖をこちらに向けて呪文を唱えている。さすがに月明かりだけでは、その三人が何者かは判らなかったが、しかし今の自分にとっては脅威である事に違いはない。
 一瞬、ゴーレムで踏み潰させようかとも思ったが、四人は舞い降りてきたウインド・ドラゴンの背に乗ると、空中に舞い上がってしまう。こうなっては仕方が無い。このゴーレムを囮に、ここから逃げ出すほかはない。
 フーケは、空中の四人から自分の姿が見えないようにゴーレムを動かすと、そのまま地面に向けて飛び降りた。


「ああもう! なんて修復速度なのよ!!」
「材料が土」
「ですから、材料はそこら中にありますしね。あとは慣れでしょうか」
「あなた達、何気に息があっていない?」

 タバサが呼んだ使い魔のウインド・ドラゴンの背で、四人はぎゃんぎゃんとかしましく、しかし学院の外へと逃亡するゴーレムの周囲を飛行しつつ追跡を行っていた。
 ゴーレムの歩行速度はそれほどでもなく、飛行速度がうりのウインド・ドラゴンならば追跡するのにさほど苦労はない。ゴーレムの拳の届く範囲の外を周回しつつ、ルイズがひたすら「錬金」だの「浮遊」だの一小節の呪文を唱えて、ゴーレムのあちこちを爆破している。しかし、やはり材質が土のためであろう、あっという間に爆破されえぐれた箇所が修復されてゆく。

「ミス・タバサ、申し訳ありませんが、私をここで下ろしてはいただけないでしょうか?」
「夜の森で追跡は無理」
「まあ、そこはなんとかいたしますので。このままですと、あと少しであれは森にたどりついてしまいますし」
「あんたら、何の話をしているのよ?」

 さすがに魔力が尽きたのか、呪文を唱えるのをやめたルイズが、汗だくの上に荒い息でフェイトとタバサに視線を向けた。

「いえ、多分盗賊は我々に見えないよう、ゴーレムの影に隠れて移動していると思われます。ゴーレムが森に着いたら、後は森の中を隠れ家に向けて逃げていくのではないかと」
「でも、森の闇では足跡は追いきれない」
「ですから、そこはなんとかしますから」
「あんた、絶対に世の中舐めているわね。ねえ、そうでしょ」

 それでもにこにこと微笑んでいるフェイトを、ルイズは杖の先でつつきまわす。
 と、草原を行くゴーレムがぐしゃっとつぶれ、土の山と化した。四人はその土の山の近くに降り立ったが、すでにあたりに人影は見えない。

「逃げられた」
「ですね。多分土の中を移動しているのでしょうが。探知系の魔法で見つけられます?」
「無理」
「そうですか。では本格的な追跡は夜が明けてからですね」

 冷静に淡々と話をしているフェイトとタバサを見て、キュルケとルイズは盛大にため息をついた。

「ねえキュルケ」
「何、ルイズ?」
「もしかして、私、道化?」
「……努力は尊いものよ。あたしは今回なにもできなかったし」

 そして二人は、もう一度大きなため息をついた。 


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