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No.26044の一覧
[0] ストライクウィッチーズ バルクホルンの降る夜に(スト魔女→現実)[アルテン](2011/08/01 00:15)
[1] ようこそ バルクホルン!?[アルテン](2011/02/15 23:42)
[2] ようこそ バルクホルン!? 2[アルテン](2011/02/21 15:45)
[3] ようこそ バルクホルン!? 3[アルテン](2011/02/27 22:38)
[4] ようこそ バルクホルン!? 4[アルテン](2011/03/06 17:07)
[5] 初めての同棲!? 初めてのときめき!?[アルテン](2011/03/21 00:37)
[6] 初めての同棲!? 初めてのときめき!? 2[アルテン](2011/03/27 14:42)
[7] 初めての同棲!? 初めてのときめき!? 3[アルテン](2011/04/03 11:43)
[8] 初めての同棲!? 初めてのときめき!? 4[アルテン](2011/04/10 11:15)
[9] 初めての同棲!? 初めてのときめき!? 5[アルテン](2011/04/17 22:23)
[10] トゥルーデ 怒りの馬走[アルテン](2011/05/04 01:06)
[11] トゥルーデ 怒りの馬走 2[アルテン](2011/05/15 22:56)
[12] トゥルーデ 怒りの馬走 3[アルテン](2011/05/22 23:19)
[13] 爆誕!? ナースウィッチげるとちゃん!?[アルテン](2011/06/12 22:43)
[14] 爆誕!? ナースウィッチげるとちゃん!? 2[アルテン](2011/06/19 22:11)
[15] 爆誕!? ナースウィッチげるとちゃん!? 3[アルテン](2011/06/26 23:11)
[16] はたらく お姉ちゃん!?[アルテン](2011/08/01 00:13)
[17] はたらく お姉ちゃん!? 2[アルテン](2011/09/11 23:39)
[18] はたらく お姉ちゃん!? 3[アルテン](2011/09/11 23:37)
[19] はたらく お姉ちゃん!? 4[アルテン](2011/10/04 23:04)
[20] 夢で会いましょう!? 【R15】(自粛版)[アルテン](2011/10/30 22:35)
[21] 夢で会いましょう!? 2 【R15】[アルテン](2011/11/13 22:55)
[22] 夢で会いましょう!? 3 【R15】[アルテン](2011/12/04 23:06)
[23] 夢で会いましょう!? 4 【R15】[アルテン](2012/01/09 00:23)
[24] バルクホルンに花束を[アルテン](2012/02/11 22:27)
[25] バルクホルンに花束を 2[アルテン](2012/02/19 22:57)
[26] バルクホルンに花束を 3[アルテン](2012/03/20 23:25)
[27] バルクホルンに花束を 4[アルテン](2012/06/06 14:47)
[28] バルクホルンに花束を 5[アルテン](2012/08/03 18:11)
[29] バルクホルンに花束を 6[アルテン](2012/11/14 18:59)
[30] お願い恋にも時間を!?[アルテン](2013/02/20 11:37)
[31] お願い!恋にも時間を!? 2[アルテン](2014/08/31 21:53)
[32] お願い!恋にも時間を!? 3[アルテン](2017/02/26 18:32)
[33] お願い!恋にも時間を!? 4[アルテン](2019/07/24 19:45)
[34] お願い!恋にも時間を!? 5[アルテン](2020/11/23 11:43)
[35] お願い!恋にも時間を!? 6[アルテン](2024/03/20 22:52)
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[26044] はたらく お姉ちゃん!?
Name: アルテン◆9a73cf91 ID:e15ac0d0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/01 00:13
1448時 馬走信用金庫
「あれ?」

 金を下ろしにATMコーナーに来ていた東雲。
 いつも通りに紙幣を受け取るだけの、簡単な作業。
 しかし、この日は違った。
 タッチパネルに表示されるのは

『残高をお確かめください』

 の、無機質な文字列。

(おかしいなぁ? あと一万は残ってるはずなんだけど……)

 首をひねりながら、ATMの指示に従って残高照会。
 おおかた公共料金の引き落としで、一万を少し割ってしまったのだろう。
 そんな軽い気持ちだった。
 だが、東雲に突き付けられる現実は容赦がない。

『2193円』

 画面に表示される現実。
 預金の全額。

「あ、あれ?」

 見間違いかとも思ったが、何度見直しても表示金額は変わらない。

(金が……ない?)

 今月はめぼしいタイトルがなかったので、ゲームもアニメのBDも買っていない。
 特にオタグッズを買った訳でもない。
 大きな買い物は、何一つしていないはずだった。でも、お金だけは減っている。

(何かしったっけ? …………)

 記憶をたどる東雲。
 と、

──タンタン

「?」

 靴底が床を叩く音。
 チラと後ろを見れば、いらたただしげにこちらを見ている中年男性。その後ろには時計を気にする主婦。さらには自動ドアをくぐったばかりの青年が、携帯をいじりながら列に加わる。

(やべ……)

 気付けば列が出来ている。しかも自分が原因で。
 思考を中断すると、東雲は二千円だけを引き出し、ATMの前から離れた。



1903時 コーポ長島
(今月、何そんなに使ったかな……)
「東雲。夕飯が出来たぞ」
「あ、うん」

 考えるのを止め、バルクホルンとちゃぶ台を挟んで向き合う。

本日のメニュー
・鶏肉のソテー
・ジャガイモのポタージュ
・マッシュポテト
・アスパラとトマトのサラダ
・パン 二種

「すまんな。簡単なものばかりで……」
(……これが原因か……)

 合点がいった。
 バルクホルンが来てから、食費は単純に二倍。
 それにバルクホルンが作る食事は、東雲が作る食事に対して、はるかに豪勢。
 そこに服や、日用品等々。一つ一つの金額は大したことはなくとも、塵も積もればなんとやら。
 たかだが学生一人分の仕送りなど、あっという間に尽きてしまう。

「どうした? 食べないのか?」
「え? あ、うん。いただきます……」

 マッシュポテトを口に運ぶ。
 やわらかなジャガイモの香りが、口の中に広がっていく。滑らかで、クリーミーな舌触り。その滑らかさは、まるで雪を舌に乗せたかのよう。ジャガイモをただ潰しただけでは、こうはならない。芋を一度潰し、さらに裏ごしすることで、ジャガイモとは思えない程、クリーミーな仕上がり。イメージと裏腹に、手間がかかっている。
 他の料理にしてにも然り。
 バルクホルンは『簡単な』と言ったが、それなりの手間が掛けられている。

「美味い……」

 単純に、そんな言葉しか出てこなかった。
 東雲の中にあったマッシュポテトのイメージを、大きく塗り替える。
 一人だった時と比べ、食事ははるかに改善された。
 今まではレトルトを中心に、野菜炒めや、カレーなどの簡単に作れるものしか食べてこなかった。それがバルクホルンが調理するようになってからは、品数が増え、野菜も増え、レトルトは駆逐された。
 自分が出していた食事を思い出すと、申し訳ない気分になる。

「そ、そうか。口に合えばいいんだ……」

 安堵の言葉を漏らすと、パンをちぎる。

(い……言えない……)

 バルクホルンの料理が美味しいので、ついつい忘れそうになるが、この食事こそが東雲の財布を圧迫しているのだ。なんとしても節約してもらわなければならない。
 だが、言えない。
 ここで「食費を削って欲しい」などと言えば、せっかくの料理が逃げてしまいそうな気がして、言えない。
 当のバルクホルンは、東雲の葛藤など分かるはずもなく、うれしそうにアスパラなどつついている。

「どうした東雲?」
「え? あ、いや……うれしそうにたべるなぁ~って思って……」
「そ、そうか?」
「うん」
「んっ、まぁ……何だ……こんな真冬にアスパラが食べられるとは思わなかったからな。つい……」

 恥ずかしげに、軽く頬を染めたバルクホルンの視線が、宙を泳ぐ。
 確かにアスパラは春の野菜。国産は今の時期獲れないが、輸入品が出回っている。
 トマトは九州の温室で栽培されたもの。
 バルクホルンの時代と比べれば、生産や輸送に関わる技術が、飛躍的に発展したため、一年を通して豊富な野菜を食べられるようになった。
 だから、真冬のアスパラが余程珍しく、うれしかったのだろう。

「そういえば東雲。パンがこれで最後だ」
「え?」
「ジャガイモもなくなりそうだ」
「え??」
「また買ってこないといけない」
「えーっ???」

 ついこの間、買ってきたばかりだったはずなのに、もう食材がないという。

「どうした?」
「え……あ、あ~。うん……」

 改めてちゃぶ台に乗った料理を見る。
 十分な量の食事。
 だがこれは、今までの食生活を考えれば、過ぎたものだ。
 やはり言わなくてはならない。

「バルクホルン……」
「どうした? 先程から変だぞ?」
「あの……実は……」

 東雲は申し訳なさそうに、事情を話始めた。



1942時 コーポ長島
「金がない……だと?」
「うん……」
「私としたことが……すまない」

 バルクホルンが申し訳なさそうに、目を伏せる。

「いや、違うよ! バルクホルンは悪くない!」

 慌てた東雲が取り繕うが、納得しない。
 悪いと言えば二人とも悪いのだ。
 バルクホルンは軍に入ってからというもの、食事は支給されるものだったので、『食費』という概念が希薄になっていた。
 東雲は金の管理を怠り、調達から調理まで、食事に関わる一切をバルクホルンに丸投げしてしまった。
 双方共に確認が足りなかったのだ。
 ともあれ、『金欠』という事態に陥ったのは事実。今、重要なのは反省ではなく、現在の状況確認と、打開策の模索。
 残った食材を確認する。

米──健在
味噌──健在
パン──全滅
卵──全滅
ジャガイモ──僅少
その他野菜──全滅
麺類──パスタ一食分。他全滅

 レトルトのパックも軒並み全滅。米と味噌が残っているのが唯一の救い。

「これだけか……」
「うん……これで次の仕送りまでの、一週間ちょっとを過ごさないと……」

 東雲一人であれば、何とかしのげる。
 しかし、今はバルクホルンと二人。
 厳しい。
 バルクホルンに不自由を強いるのも嫌だったし、何よりも彼女の料理が食べられないのが嫌だった。

「東雲。軍資金はあとどのくらいあるんだ?」
「二千円ちょっと……」
「そうか……ではそれで買えるだけの食材を買って……」
「だ、ダメだよ! これはガソリン代に回さないと! 大学どころか偵察にも行けなくなる!」

 東雲の愛車は、燃費と取り回しの良さが取り柄のリッターカーではあるが、一週間を過ごすとなると二千円では足りない。
 スタッドレスタイヤはただでさえ燃費が悪くなるし、凍りついた車を始動するには、多少なりとも暖機運転をしなければならない。冬の北海道では『燃費の良さ』というメリットを十分に発揮できないのだ。

「だが、そうなると……」
「…………」

 これから一週間、食卓には白米と味噌汁だけの生活。
 わびしい。あまりにもわびしい。
 チャーハンやおじやといったバリエーション展開をするにしても、限度というものがある。一人暮らしの男子学生が作れる料理のレパートリーなど、高が知れている。
 バルクホルンにしても『パン』と『ジャガイモ』が主食の国で育ったので、米を使った料理は不得手。

「すまない東雲……私が居るせいでこんなことになってしまって……」
「ちがっ、違うよ! そんことない! そんなことはないんだ!」
「だが、私が居ることで、お前の生活が圧迫されているのは事実だ……」
「ぅ……」

 それは紛れもない事実。
 バルクホルンを引き止めたのは東雲。あの時冷静に考えることが出来れば、こういった事態が起きることは、容易に想像できたはずだ。
 しかし、それも仕方の無いことかもしれない。社会経験の足りない一介の学生に、『人一人を養うコスト』を考え、意識しろと言ってもピンっと来る訳がない。

「だ、大丈夫。何とかする……何とかするから……」
「何か当てがあるのか?」
「ぅぅぅ……あまり頼りたくないけど……」

 おもむろに携帯電話を取り出すと、震える手で目当ての人物にコール。
 待つこともなく、相手はすぐに出た。

『何だ、我が愚弟よ?』

 開口一番これである。
 やたらと尊大な態度で、電話に出たのは東雲の兄。今は実家を出て、中堅の商社勤めをしている。

「あ、兄ちゃん? ちょっとお願いがあるんだけど……」

 いつも通りの尊大な態度に、気圧されそうになるが、何とか持ちこたえ端的に用件を伝える。

「金貸して」
『死ね』
「ぐおぉぉぉぉぉぉ、こんなかわいい弟がお願いしているというのに!」
『誰がかわいいんだ? あ?』
「俺」
『死ね。一回死んで来い』
「ぁぁぁぁぁぁ……俺はやっぱり日本一不幸な美青年だ……」

 兄の攻撃に、わざとらしく嘆く東雲。
 執拗に食い下がる東雲。兄も無慈悲に電話を切ったりしない。なんだかんだと付き合っている。

(兄弟……か……)

 東雲兄弟のやり取りを見ながら、遠い目をするバルクホルン。

(クリスは今、どうしているだろうか……)

 思い出すのは最愛の妹『クリス』。
 この世界に来て、もうそれなりの日数が経ってしまった。
 そんなバルクホルンの心中などお構いなしに、東雲兄弟の交渉と言う名のじゃれあいは続く。

「この前のコミケだって店番したじゃん! そのバイト代だと思って……」
『んなもん、チケットでチャラだ』
「な!? 買いに行けたのなんて午後からだし、一時間しか回らせてくれなかったじゃん! あれじゃチケットの意味がないよ!」
『企業ブースも回ったろ!』
「あれ『ファンネル』じゃん! 俺が欲しいとこ回ってないし!」
『回れるだけありがたいと思え!』
「ひでぇ! ね、ちょっとだけでいいんだよ? 金貸してよ~」
『ダメだ! どうしてもと言うなら親父に頼め!』
「父ちゃんに頼める訳ないだろ!」

 父に頼めば、怒られるのは火を見るより明らか。何より母の耳にも入ってしまう。その母に、要らぬ心配をかけてしまうのが嫌だった。だから実家には電話をせず、兄に頼んだというのに。

「東雲、無理なようなら……」
『!? 浩二……今、女の声が聞こえたようだが?』
「え? え……え~、と……気のせい?」
「一週間程度であれば、工夫次第で何とでも……」
『聞こえる! 確かに聞こえるぞ! この兄の耳を誤魔化せると思うなよ!』
(バルクホルン、静かに!)

 忙しない身振り手振りで、黙るように伝えるも後の祭り。

『貴様、仕送りで生活する身でありながら、女を囲っているとは何事かぁっ!』
「ご、誤解だ! これには色々と事情があって……」
『許るさーん! この兄を差し置き、きゃっきゃうふふのレモンエンジェルでわっほーいしてるようなヤツに貸す金などない!!』
「いや、『きゃっきゃ』も『うふふ』もねーから! ってか『レモンエンジェル』って何だよ?!」
『もげろ!』

──プツっ

 切られた。
 もはや取り付く島もない。
 兄の怒声の後に残されたのは、呆然とたたずむ東雲の姿。

「し、東雲……その……すまない……」
「……どうしよう……」


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