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No.26014の一覧
[0] 竜皇騎士伝 ~勇者と同等に面倒な役割~ (異世界強制召喚ファンタジー)環部1話更新[かみうみ十夜](2016/11/20 22:14)
[1] 第1話 唐突感。プロローグは意味不明に 起部1話[かみうみ十夜](2011/06/13 00:03)
[2] 第2話 状況把握は不十分。それでも事態は進展す 起部2話[かみうみ十夜](2011/04/01 21:41)
[3] 第3話 無謀と果敢。履き違えると惨事 起部3話[かみうみ十夜](2011/04/01 21:41)
[4] 第4話 フルボッコの後は 起部4話[かみうみ十夜](2011/04/01 21:42)
[5] 第5話 食後に座学は寝落ちフラグ? 起部5話[かみうみ十夜](2011/04/01 21:42)
[6] 第6話 座学前編、基礎知識と因縁 起部6話[かみうみ十夜](2012/05/01 22:50)
[7] 第7話 座学後編。※最後は手抜きではありません 起部7話[かみうみ十夜](2011/04/08 22:06)
[8] 第8話 休憩? いいえ、昏睡です 起部8話[かみうみ十夜](2011/04/01 21:44)
[9] 第9話 楽しい昏睡学習 起部9話[かみうみ十夜](2011/04/01 21:45)
[10] 第10話 竜なのに鬼教官 起部10話[かみうみ十夜](2011/04/01 21:45)
[11] 第11話 信頼と実績。纏め役の実力(の、一部) 起部11話[かみうみ十夜](2011/04/01 22:08)
[12] 第12話 閑話休題1 起部12話[かみうみ十夜](2011/04/03 22:30)
[13] 第13話 華月の努力、テレジアの本気(五分の一) 起部13話[かみうみ十夜](2011/04/08 22:11)
[14] 第14話 殺された理由、散歩の誘い 起部14話[かみうみ十夜](2011/04/10 15:04)
[15] 第15話 華月の乱入、この世の絶景 起部15話[かみうみ十夜](2011/04/10 22:14)
[16] 第16話 穴倉の鍛冶小人、尊大に付き注意 起部16話[かみうみ十夜](2011/04/15 23:20)
[17] 第17話 美貌のエルフ、性別不明 起部17話[かみうみ十夜](2011/04/17 23:55)
[18] 第18話 フィーリアスの解説、新手登場 起部18話[かみうみ十夜](2011/04/24 22:36)
[19] 第19話 華月を測量、明かされる性別 起部19話[かみうみ十夜](2011/05/03 00:33)
[20] 第20話 闇黒竜国、最後の異種族 起部20話[かみうみ十夜](2011/05/04 21:54)
[21] 第21話 闇黒竜の先達たち 起部21話[かみうみ十夜](2011/05/05 20:10)
[22] 第22話 女皇陛下の憂鬱、纏め役の素顔 起部22話[かみうみ十夜](2011/05/08 22:06)
[23] 第23話 物臭魔法講師 承部1話[かみうみ十夜](2011/05/13 22:29)
[24] 第24話 正統派武器術講師 承部2話[かみうみ十夜](2011/05/15 21:32)
[25] 第25話 次世代を担う娘たち、参上・1 承部3話[かみうみ十夜](2011/05/22 22:00)
[26] 第26話 次世代を担う娘たち・2 承部4話 [かみうみ十夜](2011/06/05 22:15)
[27] 第27話 次世代を担う娘たち・3 承部5話[かみうみ十夜](2011/06/05 22:19)
[28] 第28話 不具合発生 承部6話[かみうみ十夜](2011/06/13 00:08)
[29] 第29話 精神(ココロ)重ねて 承部7話[かみうみ十夜](2011/06/18 22:41)
[30] 第30話 目覚めと休息。フェリシアの誘い 承部8話[かみうみ十夜](2011/06/26 23:54)
[31] 第31話 襲い掛かる影 承部9話[かみうみ十夜](2011/07/02 02:58)
[32] 第32話 速度勝負、実感は大切 承部10話[かみうみ十夜](2011/07/14 20:33)
[33] 第33話 巨木のエルフ 承部11話[かみうみ十夜](2011/07/21 20:13)
[34] 第34話 洞窟のドワーフ 承部12話[かみうみ十夜](2011/07/22 21:33)
[35] 第35話 上級水精霊 承部13話[かみうみ十夜](2011/08/15 01:29)
[36] 第36話 火と土の上級精霊 承部14話[かみうみ十夜](2011/09/02 00:32)
[37] 第37話 樹の上級精霊 承部15話[かみうみ十夜](2011/09/16 07:26)
[38] 第38話 襲撃者の末路、理不尽に 承部16話[かみうみ十夜](2011/09/23 19:39)
[39] 第39話 また混浴、図られた華月 承部17話[かみうみ十夜](2011/12/04 23:55)
[40] 第40話 お酒は程々に。飛行速度は何m/s? 承部18話[かみうみ十夜](2011/12/04 23:54)
[41] 第41話 疑惑の白光竜族竜皇 承部19話[かみうみ十夜](2011/12/04 23:54)
[42] 第42話 光の上級精霊、白光竜族の飽き性 承部20話[かみうみ十夜](2011/12/04 23:53)
[43] 第43話 救難信号 承部21話[かみうみ十夜](2011/12/05 00:01)
[44] 第44話 侵入者・珍入者? 承部22話[かみうみ十夜](2011/12/30 19:56)
[45] 第45話 お騒がせ小娘 転部1話[かみうみ十夜](2012/01/04 00:38)
[46] 第46話 少女と少女、悠月の黙考 転部2話[かみうみ十夜](2012/01/07 00:27)
[47] 第47話 腑抜ける見習い 転部3話[かみうみ十夜](2012/03/17 22:56)
[48] 第48話 華月と悠月、拗らせる関係 転部4話[かみうみ十夜](2012/03/19 15:53)
[49] 第49話 対決、元姉V.S.今主人 転部5話[かみうみ十夜](2012/03/19 15:57)
[50] 第50話 決闘・上 転部6話[かみうみ十夜](2012/04/02 01:31)
[51] 第51話 決闘・下 転部7話[かみうみ十夜](2012/03/26 00:40)
[52] 第52話 和解 転部8話[かみうみ十夜](2012/04/02 01:35)
[53] 第53話 ドワーフの憂鬱 転部9話[かみうみ十夜](2012/04/23 01:49)
[54] 第54話 試行錯誤・上 転部10話[かみうみ十夜](2012/05/01 22:54)
[55] 第55話 試行錯誤・下 転部11話[かみうみ十夜](2012/05/02 21:54)
[56] 第56話 周囲の進捗 転部12話[かみうみ十夜](2012/06/04 00:08)
[57] 第57話 弓弦葉の用事 転部13話[かみうみ十夜](2012/07/17 01:36)
[58] 第58話 発注完了、依頼完了 転部14話[かみうみ十夜](2012/08/18 22:37)
[59] 第59話 華月V.S弓弦葉 転部15話[かみうみ十夜](2013/01/02 02:42)
[60] 第60話 それぞれの想い 転部16話[かみうみ十夜](2012/11/01 00:22)
[61] 第61話 華月と弓弦葉・上 転部17話[かみうみ十夜](2013/01/02 02:43)
[62] 第62話 華月と弓弦葉・中 転部18話[かみうみ十夜](2013/01/02 03:14)
[63] 第63話 華月と弓弦葉・下 転部19話[かみうみ十夜](2013/01/05 22:27)
[64] 第64話 決着……? 転部20話[かみうみ十夜](2013/03/11 01:00)
[65] 第65話 剣を廻って 転部21話[かみうみ十夜](2013/04/01 22:59)
[66] 第66話 儀礼正装の完成? 転部22話[かみうみ十夜](2013/05/03 23:14)
[67] 第67話 魔族の退城、全ての引き渡し 転部23話[かみうみ十夜](2014/01/14 00:34)
[68] 第68話 魔法講師はお役御免 転部24話[かみうみ十夜](2013/06/19 00:06)
[69] 第69話 剣術講師の苦笑 転部25話[かみうみ十夜](2013/07/08 00:34)
[70] 第70話 お披露目の日 転部26話[かみうみ十夜](2013/08/16 00:26)
[71] 第71話 御前試合 転部27話[かみうみ十夜](2013/09/22 00:01)
[72] 第72話 反省会と小旅行への出発 転部28話[かみうみ十夜](2013/10/23 00:03)
[73] 第73話 今回の主催者 転部29話[かみうみ十夜](2014/01/14 00:29)
[74] 第74話 お茶目な竜皇と、融通の利かない纏め役 転部30話[かみうみ十夜](2014/02/27 22:01)
[75] 第75話 残りの竜皇と竜騎士、険悪な打ち合わせ 転部31話[かみうみ十夜](2014/07/20 23:39)
[76] 第76話 会食の肴 模擬戦開始 転部32話[かみうみ十夜](2014/12/01 00:17)
[77] 第77話 模擬戦の決着 意識への侵食 転部33話[かみうみ十夜](2015/06/18 23:47)
[78] 第78話 後味の悪い結末 転部34話[かみうみ十夜](2015/08/14 00:37)
[79] 第79話 心象世界に潜む影 転部35話[かみうみ十夜](2016/06/09 00:14)
[80] 第80話 総纏め役という事、不穏の国 環部1話[かみうみ十夜](2016/11/20 23:01)
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[26014] 第62話 華月と弓弦葉・中 転部18話
Name: かみうみ十夜◆2310bdc6 ID:894879d2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/02 03:14


 そして、弓弦葉が『総仕上げ』と称したその日は来た。

 修練場の石材の舞台には華月と弓弦葉の二人と、ヴァーナティスが居た。

 ヴァーナティスは二人の間に立ち、優雅にスカートを両側に広げながら持ち上げ、一礼する。

「両者、準備はよろしいですね? この場は私、侍従四番、ヴァーナティスが取り仕切らせて頂きます。

 この試合に制限は在りません。双方、己が持てる全てを以て、相対者を叩き潰す為に全能を惜し気無く振り絞り――」

 両手を下腹部あたりで重ね、目を瞑り朗々と口上を唱えていく。

「――どうぞ、気の済むまで、死合ってください」

 片目を開き、妖艶に微笑むと、バックステップの跳躍一回。舞台の端ギリギリに着地。両腕を広げ、舞台に施されている魔法を作用させた。舞台の対物理防護と対魔法防護だ。更に重ねて舞台の外と舞台の内側を空間的に遮断し、外部に影響が出ないようにした。

 舞台の準備は整った。それを確認した弓弦葉が口を開く。

「華月、準備は良いか?」

「……はい!」

 華月は取り換えた剣を左腰に、闘気を滾らせ既に臨戦態勢だ。

 一方弓弦葉は両腰に一振りずつ刀を差し、何の高ぶりも感じさせない腕組みという装丁だ。

 両者、纏う気質が真逆。

「それでは昨日の宣言通り、今日で仕上げるぞ。先ずは格闘。

 着いて来い」

 弓弦葉が両膝を少し落とし、重心を落とす。

 華月はその動きを見て、即座に動いた。『最速行動』で弓弦葉の眼前に。

 瞬間移動に等しいその動き。繰り出される左の掬い上げる様な掌底。正確に弓弦葉の下顎を狙っている。

 少し前とは全く違う動き、攻撃精度。華月の基礎能力は弓弦葉によって一気に引き上げられていた。テレジアの仕込んだ基礎があったからこそ応用に発展できたお蔭だが、テレジアの「カヅキ自身が次第に身に着けられるように」と言う思惑は半分ほど砕かれてしまっている。

 弓弦葉はその掌底に右の手刀を叩きこんで止めた。

「動きの初動とキレは格段に上がったな。そして、ファスト・ドライブをモノにしたか」

「……」

 今の自分の最高速度で動いたというのに、あっさりと止められた事実に、華月は内心動揺していた。

 だが、今そんな動揺を見せれば直ぐに弓弦葉に叩き潰される。華月は前もって組み上げていたロジックを分割意識体に実行させる。

 止められた左を下げながら今度は右の拳で弓弦葉の左頬を狙う。

 しかし、今度も弓弦葉の右手に悠々と掴み止められる。

 更に弓弦葉が右手を捻る。たったそれだけで華月の右腕は肘関節と肩を鈍い音を立てて捻じり抜かれた。それだけで止まる弓弦葉ではなく、そのまま華月を放り投げた。

「鋭いが単調だ。その程度では魔将軍クラス以上には通用しないぞ。せめて――」

 着地した華月が弓弦葉を見ると、既にその場に弓弦葉は居なかった。

「この程度は、やらないとな」

 華月は声のした右側を見ようと顔をそちらに向ける最中、頭を鷲掴みにされ、顔面にクソ重い一撃を喰らった。頭を掴まれているので逃げることもできない。

「ほら、切り返せないと――」

 同じ威力の拳打が続々と襲い掛かってくる。

「顔面の原型どころか、頭が砕けるぞ」

 均等な威力で次々と打ち付けられる拳のダメージは華月の頭部に残留し始め、次第に頭蓋に亀裂を生み始めた。顔面の凹凸はとっくに均され、壊滅状態だ。

「おっ、と」

 華月が無言で左の貫手を無造作に放っていた。弓弦葉は危なげもなく華月の頭を手放して距離を取る。

「開始早々顔面と右腕か。少し情けないな」

 苦笑を浮かべる弓弦葉に対し、華月は修復されつつある歪な顔で、不敵にニヤリと哂う。

「……避けた、つもりですか?」

「何……?」

 突如、弓弦葉の右足が力を失い、姿勢が崩れる。

「……成程。既に抉っていたか」

 見れば、弓弦葉の右膝が大きく抉り取られ、一部分が消失していた。

 華月の貫手は抉っていたのだ。弓弦葉の右膝の一部を。

「だが、竜騎士ほどでは無いにしても、魔族も回復や修復速度には定評がある」

 弓弦葉の視線が一瞬自分の膝に向く。

 見る間に抉られたはずの膝が再生し、復元されていく。

「……それも知ってますよ」

 華月の声は弓弦葉の頭上から降ってきた。さっきの一瞬で弓弦葉の頭上に飛び上がり、空中で体を捻り、回転力と落下速度をつけながら、弓弦葉の頭へ向け強力な踵落としを打ち込んだ。

 視線を外した一瞬で対処が遅れ、弓弦葉はその破砕鎚のような鈍重な一撃を避ける事しかできなかった。

「……。

 左腕を、鎖骨と肋骨ごと持っていかれたか」

 華月の踵落としは左肩に直撃し、その衝撃と破砕力は左腕どころか鎖骨を砕き、肋骨に罅を入れていた。当然左肩の関節部は粉々に粉砕され、左腕は使い物にならない。

 弓弦葉の顔に苦笑が浮かぶ。

(……回復に約三分。それまで全く左腕が使えない他、背筋の一部も使えないか)

 支点として可動を確約する関節が完全に壊された。これではそこから先の機能は喪失したも同然だ。ましてや盾代わりに使うこともできない。千切れているわけではないのだから。

 華月の追撃は止まらない。弓弦葉のダメージを目測して次の行動に入った。

 肘と肩の関節を抜かれている右腕を鞭のように撓らせ、弓弦葉の顔面に右手を叩きこんだ。遠心力のみの平手かと思われたその一撃は、十分な流身系と纏身系で強化された『右拳』だった。同時に、肘と肩の関節が嵌る。

「筋肉と筋も、切っとくべきでしたね」

「それは、お互い様だろう……?」

 顔面に華月の右手をめり込ませたまま、弓弦葉は左手の指を真っ直ぐ揃え、手首を固定した。そして、右手で左手首を掴むと、華月の右腕に左手を突き立てた。左指は橈骨と尺骨の間を縫い、右腕を縦に貫通。そのまま橈骨側を握る。

(俺の流身系と竜楯を抜いた!?)

「右腕は、完全に貰うぞ」

 そのまま弓弦葉が左手を右手で引く。当然華月の右腕から橈骨が捥ぎ取られる。

 弓弦葉は右手を左手から離し、華月の右足を払った。自分の右側に向かって倒れる華月だが、右腕で手をつくわけにはいかない。今、右腕の強度は殆ど無いのだ。自分の体重を支えられる訳がない。

 咄嗟に右足を引き戻し、倒れる事だけは回避。だが、その隙に弓弦葉は華月から大きく距離を取っていた。

 まだ完全に治らない左腕を気にしつつ、弓弦葉は、今まで見せていなかった、愉しそうな貌をする。

「泥臭いやり方だ。お綺麗な騎士道や武士道なんぞの高潔を謳う精神は欠片も無い」

 くっくっく。

 まるでしゃっくりをするかのような、そんな哂い方。

「だが、いい。それがいい。寧ろそれでいい。

 そうだ。どこまでも意地汚く、最後に必ず勝利者として立って居る事。それが大事だ」

 華月はその語りが、時間稼ぎだと理解できた。自分の左腕が使えるようになるのを待っている。だが、それは華月としても同じことだ。右腕が使えるようになるまで、まだ掛かる。

「そろそろ、一段階上げよう」

 弓弦葉はそう言うと、ワザとだろう。解りやすく威圧するように魔力を放出した後、それを身に纏う。

(……今まで流身系のみでやってた、ってことか。まだまだ舐められてるな。

 まだ三指が動かない。が、やれる)

 華月の右腕は修復率七十%程度。骨格の復元が済み、筋肉、血管、神経との再接続と皮膚の再生待ちだ。だが、強度は確保できる。十分使える。

 無言で華月は立ち上がる。

 弓弦葉は頷くと、左腕は治ったと言う証明のように、握っていた華月の骨を投げ捨てると、今度は見える速度で突っ込んできた。だが、見える速度で来ると言う事は即ち――。

(一撃に込める魔力量が増えているってことだ!)

 霞んで消えた弓弦葉の拳打の嵐を、華月はギリギリのタイミングで受け流し続ける。

 このままでは防戦一方。それでは意味がない。

(ここだ!)

 弓弦葉の右拳を左腕で受け流し、左拳が放たれた瞬間に左腕を弓弦葉の引き戻され始める右腕に巻き付け固定。左拳を右手で払うと同時に右足で弓弦葉の左側頭部に蹴り込む。

 普通なら頭蓋が砕け、頸椎が折れて、首から頭が千切れた挙句に脳髄を撒き散らしている事間違い無しの一発。だが、弓弦葉には全くダメージが通っていない。

「纏身系防御を抜くには、こうするんだ」

 弓弦葉の右足だけ、魔力量が増えた。そして、その状態で華月の左脇腹に蹴りこんできた。

 蹴られた箇所の竜楯が中和されたように消失し、弓弦葉の蹴りの威力がそのまま華月の左脇腹に炸裂した。内臓を軒並み損傷し、寧ろ撒き散らしかねない威力だったが、流身系が功を奏し、そうなることだけは回避できた。ただ、それなりのダメージは徹ってしまった。

 華月の口から息が漏れる。

 それでも弓弦葉の右腕は離さない華月。弓弦葉は素早く足を引き戻すと、体を捻り、華月の足を払って投げ飛ばしにかかる。

 半円を描く軌道で地面に叩き付けられる前に、華月は弓弦葉の腕を離し、投げられた勢いを利用して距離を取る。

(竜楯が戻った……。と、言う事は一時的にこっちの竜楯以上の魔力出力で抜かれたってことか)

 非常に単純な話だ。

 そう、単純な話だ。単純な話と言う事は、それは華月にもできると言う事だ。

 両腕、両脚、そして頭部に纏う魔力量を一気に増やす。

(防御はあっさり捨てる。か……。自分の特性をよく理解し、利用することは良いことだ。だが、そう簡単に防御を捨てることは――)

「得策とは、言えないな」

 低姿勢で射られた矢のような速度で弓弦葉が距離を詰めながら体を捻ってさっきの華月のように加速度と回転力を加えた踵蹴りを華月の胸部目掛けて放つ。当然、華月の竜楯を抜くだけの魔力を纏った踵だ。

「四角防御(ダイア・プロテクト)」

 分割意識体が準備していた魔法を発動。華月は弓弦葉の踵を止めた。

 動きが止められた弓弦葉。そこへ、華月の左裏拳が直撃。当然纏身防御を抜いている。

「爆裂拳打(ブロウ・ブロー)」

 接触した瞬間、華月の魔法拳打が初めてのクリーン・ヒット。弓弦葉は煙に巻かれながら吹き飛び、一度地面をバウンドし、その後体勢を立て直し着地。

「一つ一つの技能では、先輩にはまだ、及ばないのは重々承知してます。なら、芸を凝らすことにしました」

「……良い、判断だ」

 弓弦葉はゆらっと起き上がり、両方の刀の鯉口を切り、柄に手を掛け、抜刀する。

「体術は俺の想定していたレベルに達している。魔法のタイミングと選定も、問題ないようだ」

 ひゅぅん、ひゅん。と、鋭い風切音がする。

「最後の確認だ。抜け、華月」

 きゅぅっ。と、弓弦葉の眼が鋭くなる。ヒュッ! と、言う音と共に、華月に右手の刀、紅色の刀身を持つ『琉獅華』(りゅしか)が真っ直ぐに向けられる。





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