「うわっ!?」 不意の衝撃波に吹き飛ばされ、悠月が防御担当の者に受け止められる。「あ……」「油断なさいませんよう。ああなった陛下は、普段より些か手荒くなります」「え……?」「久方ぶりの決闘です。もうしばらくは、陛下とお遊びください」 防御担当者はそう言って柔らかく笑うと、とん。と、悠月の背中を押し解放する。 悠月は気合を入れなおすと、纏身系の魔力量を増加、流身系の循環速度を引き上げる。心拍は140、頭の中は脳内麻薬でかなりハイになってくる。「この程度で吹き飛んでくれるな? ようやく身体の鈍りが抜けてきたんだ」 アルヴェルラの方も抑制している中で随分楽しそうだ。二、三回軽くジャンプし、肩を回したりと体をほぐし始めた。「その口、直ぐに閉じさせるわ!」 不規則に軌道を変更しながら悠月が走る。 そして大きく跳び、回し踵落とし。 両腕を交差させそれを受け止め、弾く。ここでようやくアルヴェルラがまともに防御した。「さて、こちらも手法を増やすとしよう」 いきなり距離を詰めたアルヴェルラが無造作に右アッパー。「くっ!」 上半身を後ろへ逃がし、回避。 アルヴェルラは更に前へ身体を出しながら右肘を悠月の胸部中央へ落とす。「~~ッ!」 が、悠月はそれを交差した両腕で防御し、背筋と両足に無理を強いて体勢を維持する。 防御されたと見るや否や、アルヴェルラは覆い被せる様に左拳を悠月の脳天目掛け奔らせる。 悠月は左膝を折り身体を沈めながら両腕を自由にし、右足を滑らせアルヴェルラの足を払う。バランスを崩したアルヴェルラは重心を前に移し過ぎていたために前に倒れてくる。悠月はそのまま右足と両手を地面につけ、腕立ての要領で身体を上下させる勢いも利用して左足の裏でアルヴェルラの鳩尾を全力で蹴り上げる。「……お~……スゲェな。あの嬢ちゃん体術の才能あるんじゃねぇか?」「否定できないな。悠月は昔から運動神経も良かった」「はぁ、成程ねぇ。姉と弟の評価は成功作と失敗作ってわけか。やる瀬ねぇな」「仕方ないだろ。向こうの世界じゃ、向いてない事の方が多かった。それだけだ」 華月はあっさりと流した。トレイアがその物言いに目を丸くする。「随分すっぱり言い切るじゃねぇか?」「もう関係ないことだ。こっちでやってくって決めたから、こっちで結果を出せばいい」「は、割り切り済みってか」「ある程度は、な」「お、嬢ちゃんが追撃に入るな」 悠月が地を蹴り跳び上がる。 蹴り飛ばされたアルヴェルラはそろそろケリをつけようと考え始めた(久しぶりにここまで力を出したし、十分楽しんだ。そろそろ仕留める頃合いだな) あまり楽しみ過ぎるのは良くない。腹八分で止めておくのが正しいと判断した。(向こうも差を見せつけられれば諦めるか? まぁ、何にせよ私の役目はこの辺で――)「一撃で、仕留める所までだ!」 追撃を仕掛けてきた悠月に向かい飛翼を展開して加速しながら突っ込む。「えっ!?」「ユヅキ、健闘を称えて少しばかり本気を見せてやろう!」 アルヴェルラの行動に驚愕している悠月に言い放ち、両腕と両脚に魔力を纏身する。「こなくそッ!」 悠月も自分の限界まで魔力を引き出し、纏身系と流身系を最大限に強化する。 アルヴェルラは両腕を交差し、加速。そのまま悠月に衝突。悠月の上に向かう力のベクトルを完全に相殺。そのまま地面に向け押しこんでいく。「くっ!?」 地面に悠月を叩きつけ、悠々と距離を取る。「人間にしては上出来だった。 さぁ、幕だ! 皆、締めは!?」 アルヴェルラが声を張り、周囲に呼び掛ける。何で決めるかアンケートを取っているらしい。「ここは双手・竜口砲だろ!?」 周囲が何やら色々言っていたが、一際大きい声が響いた。主はトレイアだ。「そうだな、それでいこう」 アルヴェルラは両手に魔力を集中させ、「では」 球状に整え、「幕だ」 地を蹴る。同時に防御担当がテレジアを皮切りに全員悠月の背後に集合した。テレジア以外がスクラムを組む。「好き勝手言ってくれたけど」 対する悠月は着地した両脚の感覚が無くなっていた。両足の足首に変な感触が在る事しか解らない。、「こっちだって取って置きが在るのよッ!!」 感覚の無い両脚は無視して、残る魔力の総てを両手に集中。 間合いに入った所でアルヴェルラが右足で踏み込みながら、両手を合わせ開きながら何かの口の様な形にし、 間合いに入った所で悠月は両手を突き出し、親指以外の全て指を揃えて親指と人差し指だけが触れる形にし、 お互いの手が触れた。「双手・竜口砲!」「魔砲撃!」 どちらも技の系統は同じ、手の先から集中した魔力を放出する大威力攻撃だったようだ。 だが、優劣は一目瞭然の結果となる。 二人の手の間の僅かな隙間で放出された魔力が鬩ぎ合い、均衡が破れた方へ一気に雪崩れ込む。 それは、当然――。 轟音と共に、激しい虹色の光に呑み込まれ、悠月が豪快に吹き飛ばされていた。 悠月自体はテレジアが受け止め、飛翼を展開し自身を包みこみ、防御フィールドを展開。放たれた残りの魔力はスクラムを組んでいた防御担当者たちが展開した防御壁で必死に防いだ。「私の、勝ちだ」 最後の一撃で魔力を使い果たし、更に膨大強力な魔力に曝され吹き飛ばされ、いまだテレジアの腕の中から抜け出す事も出来なくなった悠月に宣言する。「……私の、負けよ……」 悠月は、静かに負けを認めた。