アルクェイドは誰がどう見ても比類なき美人である。その上胸がある。(ここ重要)「ねえねえ、そこのお姉さん。ヒマならご飯でもどう?」その上ここは田舎町であり、引っ越して日の浅い金髪美人が目立たないわけがない。最近は都市化も進んできたことにより若者も増えてきていることから、一見ちゃらい初見さんに声をかけられることがとにかく多い。この日は家の買出しで街に出ていたアルクェイドであったが、案の定、最近出来たショッピングモール内で若いにーちゃん達にナンパされていた。「あら、ゴメンなさーい。私、今忙しいから」しかしながら言うまでもなくアルクェイド。志貴以外の男は歯牙にもかけない…情状酌量の余地なく誘いを断る。男にとっても端から高嶺の花的なものだったのであろうか、男はしつこく声をかけることもなく「チッ…何だよあの女」という感じで心の中で負け犬の遠吠えをしながら去っていった。「(まあ、悪い気はしないんだけど、志貴が待ってるしね♪)」ナンパに失敗した男の心境は如何なるものかは知る由もないが、ひとまずアルクェイドは志貴以外の男性には興味はない模様。「あ、遠野さーんっ」ショッピングモールより場所を変え、ここは近所のスーパーの出入り口である。アルクェイドがスーパーに入ろうとしたところ、今度はレジの方面よりアホ毛がトレードマーク(?)の女性から声をかけられる。「あら、岡崎さんの奥さん」声の主は、アパートの隣の部屋の奥さん『岡崎渚』であった。渚はアルクェイドの返事があるや否や、親しげに近寄ってくる。「ちょうど夕飯の買い物に来てたんですけど、遠野さんもですか」「ええ。偶然ね」とはいえ、特に重要な会話をするわけでもなく、近所の奥様の井戸端会議的なものへと移行していく。こうなると、女性の時間は長い。ちなみに志貴とアルクェイドはまだ籍を入れていないため、厳密に言えば渚のアルクェイドを呼ぶときの呼称…『遠野さん』は間違えである。しかし、それでも『遠野さん』と呼ばれることにアルクェイドは何の抵抗もないようだ。「こんにちわっ」「あら、汐ちゃん?こんにちわっ」主婦の無駄話タイムが始まろうかというときに、お母さんと一緒に買い物に来ていた娘、岡崎汐も礼儀正しくアルクェイドに挨拶をする。割と人見知りをする性格の汐ではあったが、それでも初対面の人にきちんと挨拶が出来る辺りはさすが教育の賜物である。「今日はママと一緒にお買い物?」「うんっ!今日はね、カレーなの」社交辞令とも言うべきアルクェイドの問いに、子供らしく嬉々として答える汐。なるほど、お母さんの買い物袋の中には人参、じゃがいも、玉ねぎなどが詰め込まれていた。「カレー……ねぇ……」カレーといえば宿敵『シエル』のことを思い出すアルクェイドであったが、それでもこの純真な子供の前でそんな宿敵のことなどはあまりに無粋であり、すぐさま笑顔を取り繕い「よかったね」と声をかける。「あとねっ、デザートは『団子』なのっ」「だ、団子……?」子供にしては豪く渋いデザートに、アルクェイドは思わず聞き返してしまう。まあ、団子は確かにデザートとしてはいいかもしれない。しかし、今日日の子供が嬉々として語る『団子』というキーワードにはどことなく違和感も覚える。「す、すみません……私が好きなもので……」「そ、そうなんですか……」やや恥ずかしそうに答える渚に、とりあえずは取り繕うアルクェイド。しかもよくよく買い物袋の中にある、パックに包装された団子を見ていると、ご丁寧にもラップに貼られているシールのイラストの団子の中に『目』が書かれていた。「(そういえば、一昔前に『だんご大家族』が流行ってたっけ……)」志貴とまだ出会う前の知識でのみの情報ではあったが、アルクェイドには『だんご大家族』がしっかりと認識できていた。*その後はアルクェイドも夕食の買出しを終え、アパートも隣同士のため、世間話を交えつつ帰宅する。その間、汐は聊か退屈そうにしていたが、それもまた社会勉強の一つ。彼女も大人になってオバサン化して行けばわかるものであろう。*「だんごっだんごっ大家族っ♪」「懐かしいなその歌。俺が中学生のときにはやったっけ…」ここはボロアパートの志貴の部屋。台所よりアルクェイドが夕食を作りながら口ずさんでいる歌に、居間にて新聞を読んでいる志貴は懐かしがる。「隣の奥さんがこの歌好きなんだって」「へぇ…」このときは、志貴はこれから己が身に降りかかる災厄など微塵も想像していなかった。そして夕食時……「だからって、何で今日の夕食は『団子尽くし』なワケ……?」志貴も驚愕の今日の夕食は、主食は団子、汁物は団子汁、主菜、副菜は紅白まんじゅう、そしてデザートにみたらし団子……これでもかと言うくらいに団子尽くしであった。「しかも腹の立つことに、一つ一つのサイズが莫迦デカイ……」「エヘヘ、お隣の奥さんに感化されてつい……」エヘヘではないこの大惨事ではあったが、小食であるはずの志貴はここで『漢』を見せ、なんとか全部完食した。ちなみに餌を必要としないはずのレンの分もしっかりと団子は用意されており、レンはそれをげんなりとした表情で食べていたとか……尚、この件以来志貴は、しばらく団子を見るのも嫌になったと言うが、それもいた仕方のないことであろう。