ここは月の地下渓谷。無骨な白い壁面と散りばめられたクリスタルが、ここの冷たい空気とそこはかとなく合っている感がある。この地下渓谷も綺礼の本拠地と化しているのか、ここの洞窟内は大気が存在しており、宇宙服がなくとも活動は可能であった。ただし、さすがはラスボスのダンジョンに相応しく、出てくる敵も量産化された擬似サーヴァントばかりで、その上それらが集団で襲いかかってくるため苦戦も強いられている。「クッ……!!我が分身が幾多に食い尽くそうとも、これでは埒が明かない……」まあ、こういうときには個々撃破よりはネロ・カオスの666の生命体による広範囲の攻撃が有効であり、ジリ貧ではありながらも確実に進軍はしていた。「……よもや、こんなところで殺人衝動を発揮できるとは……!コクトーには絶対見せられないな……」両儀式も、これを機とばかりに直死の魔眼の性能を遺憾なく発揮!一体一体、確実にその死を一刀に切り伏せ続けた。……もっとも、相手にしているのは擬似サーヴァントであるため、結果的には『殺人』には至らない。やはり両義式は『人を殺せない殺人鬼』であることには変わりはなかった。「……正直、雑兵に構っている暇などない」セイバーは、さすがは『正規』のサーヴァントのトップクラスであり、『約束されし勝利の剣』を温存して、尚も1対1では圧倒的強さを誇る。所詮、量産型は量産型である証ともいえる。「……こいつら弱いくせに数だけはいて、ヤになっちゃうわね」「……あ…ああ……」「あ、志貴、危ないわよ」まあ、アルクェイドならいうまでもなく楽勝である。あまつさえ、志貴を襲い掛かる擬似サーヴァントまでも駆逐する始末。まさに、一度に4人の敵を倒せれば、相手は何人いようとも負けはしない状態である。「………」志貴、主役としての面目は丸つぶれであり、仮にこの戦いを生き延びたとしても、『正社員』への道は遠のく一方であろう。がんばれー…まけるなー…力の限り生きて行け~……*まあ、そんなこんなで地下渓谷を攻略し、ついに最深部へとたどり着いた志貴たち。そこはまさにクリスタルで作られた床に柱……その周りを暗黒空間が取り囲んでおり、なんともいえない月の神秘さを感じさせている。士郎たちから見て奥の方に『人工魔術回路』と、なにやら儀式の準備みたいな感じで魔法陣が描かれており、まさにこの世の最たる邪悪さを召喚するのではないかと思わせる……そんな光景であった。そして、クリスタルの空間の中央にいたのはこの事件の黒幕『言峰綺礼』…対峙しているのは、先行していた士郎と凛であった。相も変わらず堂々と、荘厳ささえ醸しだしながら、その重い口を開く綺礼。「これから総帥が行おうとしている『神の冒涜』ともいえる業……。お前たちはそれを知らない」「何!!?」静かなる綺礼の言葉に動揺する士郎。その言葉はまさに、総帥と士郎の正義は一線を隔てると言わんばかりであった。「総帥はこの月世界で、『警察庁』『法務省』…いや、『世界』すべてに対し秘密裏に、『悲劇回避』のための『演算システム』を建造している。衛宮士郎、国崎往人、伊吹風子…そして遠野志貴。お前たちが行ってきた調査、レポートは全て研究所に一旦集められ、そのデータはこのシステムに送信されていたというわけだ」つまり、このシステムが実用化すれば、もし仮に『Aさん』『Bさん』が1000年前の呪いで結ばれなかったとしても、今まで収集したデータから勝手に計算して、その件に関する解決法を導き出す……といったことが可能になるのである。「……衛宮士郎。それは果たして『純粋な歴史』といえるのか?己がエゴで世界の法則を捻じ曲げる……自分を正義と信じて疑わず、認められぬ未来は改竄する……。これはお前の望んだ正義なのか?衛宮士郎」「……ムムム」綺礼の問いかけに言葉が詰まる士郎。…自分が総帥の正規の仕事として行っていた『英雄稼業』が、まさか、世界の運命操作の為に行われていると知ったら、果たして自分は総帥の下で働いていたであろうか……?「なにがムムムよ!」「!!!」考え込む士郎に対し、一喝する凛。「たしかに、アンタの雇い主の総帥が行っていることは、私も好きじゃないわ。でも、だからと言って、目の前の綺礼を倒さなければならないという現実は変わらないのよ!総帥への諮問は、それが終わってからでも遅くないわよ!!!」そりゃあ、もっともである。綺礼がどんな理屈を述べようとも、『連続殺人事件』他、世界各地に改造したサーヴァントを送り込み世界を混乱へと導いたという現実は変わらない。しかも、その目的も特に合ったわけではなく、全ては己の悦楽の為であればなおさら許しがたい。「まあ、魔術師としては『大したことない』エセ神父が『キャスター』になったところで、所詮は『大したことない』んだし、とっとと決めましょ、衛宮クン」「あ…ああ!!!」そういったが奇襲攻撃!!!●ファイガまずは士郎が投射・複製した剣に、凛が炎の魔術をかけ、士郎が綺礼に斬りつけ…○スロウ次に凛の魔術で綺礼の動きを遅くし…●ブリザガ今度は冷気の魔術を士郎の剣にかけ、士郎が魔法剣で斬りつけ…○ホールド凛は麻痺の魔術を唱えるも、さすがにラスボスには効かず…●サンダガ雷の魔術を士郎の剣にかけ、士郎の魔法剣攻撃…○ホーリーそして、凛の聖属性最強の魔術で追撃をかける!!!それにしても、この凛の魔術のバリエーション……さすがは『五大元素使い』と呼ばれる一級魔術師なだけのことはある。「もう一息よ、パワーを『メテオ』に」「『いいですとも!』」なんとも息の合ったコンビネーション。しかし、綺礼からは一切の反撃もなく……「使うがいい、全ての力を」と、余裕そうに構えているのであった。Wメテオ驚くなかれ!凛の『第二魔法』より並行世界から呼び出した伝説の剣『メテオソード』(どっかの厨二病が考えた伝説の武器。斬られると死ぬ)を、士郎が『無限の剣製』により大量複製。あとはギルガメッシュ真っ青の連続投擲である。いくら綺礼でも、凛と士郎のここまでのレベルアップは予測できなかったに違いない。その無数にぶち込まれる剣に霊体が耐え切れず、その力は徐々に崩れ落ちていった。「この体、滅びても…魂は…ふ…め…つ…」と、言い残して……「倒した…」「愚かね…素晴らしい力を持ちながら、邪悪な心に躍らされるなんて……」とりあえず、ラスボス戦を終え一息つく士郎と凛。「…もう倒したのか?俺の出番ないじゃん」その後ろで毒づいた言葉を発したのは、両儀式であった。そう、志貴たちはこのラスボス戦に間に合わなかったのだ。もはや主役の出番は完全になしであり、ほぼ空気と化していた。「ああ、アンタたち」「一足遅かったか!俺が殺すはずだったのによ!」両儀式は、綺礼と殺しあえなかったことを、心のそこから悔しがっていた。この世界の危機になんという不謹慎な女であろう。「遠野さん…」「……」 「志貴……」出番どころか主役の座を完全に奪ってしまったとばかりに、申し訳なさそうな顔で志貴に声をかける士郎。アルクェイドも続いて声をかけるも、志貴の反応は今ひとつである。「(……っていうか、これ、絶対どっかでみたようなパターンだろ)」―――to be continued