「だんごっだんごっ大家族っ♪」「…随分とその歌にハマってるな、アルクェイド」「なんか、汐ちゃんが歌ってるの聞いててクセになっちゃってね」ここはボロアパートの志貴の部屋。歌を口ずさみながら夕食の支度をするアルクェイドと、ちゃぶ台を前に新聞を読みながらそれをまつ志貴。だが、いずれ志貴は選択しなければならない。この平凡かつ幸せな生活を守る道か……それとも……*ところ変わり、ここは警察庁官房室。大きな防弾ガラスの窓を背景に、一人の60代(?)くらいの男が30代くらいの女性議員となにやら話をしているようであった。「そう……、やはり杉下は動いたか……」「……ええ。このまま野放しにすれば、『総帥』の計画はもとより、『官房長』の計画さえ危ういかと思われます」なんと、この場にいたのは『小野田公顕』官房室長と、片山雛子議員であった。その部屋の戸の前には、蟻一匹とて通さぬよう厳重な警備がしかれており、その警備員の放つ尋常でない殺気からも、この話し合いが如何に重要なものかであるかを雄弁に物語っている。「…彼なら僕たちは勿論、『総帥』にも『法務省』にも…もちろん『聖堂教会』にも付かないでしょう」「…『杉下の正義は暴走する』…以前官房長はそうおっしゃられてましたが……なんとも厄介なものですこと……」「…とにかく、杉下が『ある人物』と接触することだけはなんとしても避けないといけないね」「…『遠野志貴』ですか…。…とにかく『死と隣合わせ』の人生というべきでしょうか……」「そこが総帥が『目的』を達成するために必要な要素なのかしら」「総帥の『奇跡』(研究結果)は、官房長の計画には必要不可欠…。ある意味、これから開発される『FRSシステム』(顔認識システム)以上のモノになることは間違いありませんわね」「その『総帥』の研究成果を得るためにも、ぜひとも『遠野志貴』は味方につけておかなきゃ。そして、杉下が全部台無しにしないようにしないとね」どうやら彼らの話し合いの焦点は、杉下右京と遠野志貴の動向らしかった。彼らの行動如何が、ある意味この国の根幹さえ動かしかねない……少なくとも、小野田、片山はそう感じていた。そして、彼らはこの計画を『法務省』に奪われること及び、『教会』に阻まれることを恐れているのだ。「『片山さん』なら、この場合どう対処するのかしら?」「ええ。それは勿論―――」*ここは法務省のとある部屋。先の警察庁官房室よろしく、ここも厳重な警備がなされており、そこには法務省公安調査管理官『クラタ』の姿があった。その脇には脇差を携えた、長身、ポニーテールの女性SPがついており、その無表情たるや、いかなる暗殺者も瞬時に一刀両断とばかりの隙のなさを表していた。「…そうですか。やっぱり『小野田官房室長』及びその一派はその『研究』を使って、どうしても『警察庁』を『警察省』にしたいみたいですね…。…あはは。大丈夫ですよ。『ワタクシ』の眼が黒いうちは、『法務省』権限を持って好きにはさせませんから」彼女は重役か何かと電話をしているらしかった。…本来の彼女は、そんな『法務省』と『警察庁』の権力争いなど、本当はどうでもいいのであろう。(もっとも、小野田も『正義』の行使の為に『警察省』化を目論んでいるのであろうが)その電話が切れるや否や、若干疲れた顔を見せ……それでも彼女は、すぐに平常の笑顔に戻った。「『サユリ』……」『クラタ』の名を呼ぶSPは、心底彼女が心配のようである。クラタのその笑顔の向こう側にある心労は、いつも近くにいる彼女にだからこそ理解る部分が多いのだろう。しかし、それに介さずクラタは笑顔のままで答える。「大丈夫です。サユリは元気ですよ~。サユリは『みんなが笑顔で暮らせる』ために、絶対に負けませんから~」総帥の『研究』…それが何であるのかはまだ多くを語るべきではないが……『小野田』も『クラタ』も、それを『奇跡』と形容しているように、その概要は理解しているようだ。そしてクラタは、その『奇跡』は総帥の『個人規模』でも小野田の『警察機能』としてでもなく、皆の幸福の為に『国』が運用すべきであると考えていたのだ。*無論……その『奇跡』を保有するのは神にのみ許され、人間個人が操っていいものではないと考えている組織も存在する。「…ローマ教皇…貴方より預かりし『黒鍵』…、これを用いて必ず総帥の研究に終止符を打ちましょう」そう、『聖堂教会』もついに本格的に動き始める。シエルは遠野志貴への想いを胸に秘める一方での、総帥暗殺という任務遂行を掲げ、再び日本へと足を運ぶのであった。*「ご苦労だった一ノ瀬所長。どうやら君の部下(志貴・伊吹・国崎)のレポートは随分と役に立っているようだな。…まあ、それも君の頭脳があってこそ、初めて『奇跡』の研究へと昇華できるわけなのだが…」そして、ここは総帥の部屋。高級そうな椅子に座っている総帥と、大きな机を挟み、総帥に研究成果を報告する一ノ瀬所長。そして、総帥の脇には秘書がしっかりと起立している。一ノ瀬所長は「ありがとうなの」と一礼をし部屋を去っていき、残されたのは総帥と秘書のみであった。「…この研究を始めて数年……になるのだな……」総帥は大きな机の上に飾っている、写真立てを見る。その写真には、総帥と『着物を着た女性』、その間に挟まっている愛娘『まい』の姿が写っている。「この研究は、不可視の力…過去の呪縛など…人知を超えた理不尽な『悲劇』を回避させるための…『奇跡』を呼び起こすための研究であった…」故に、総帥は遠野志貴をはじめ、国崎往人、岡崎朋也、衛宮士郎などといった悲劇を回避した数多の『奇跡の体現者』(主人公)を手元に置くことで、実に地道な『観察』『実証』を繰り返してきた。ある意味、志貴の『探偵』としての仕事もすべて『研究』のためのものだったのであろう。「…『奇跡』は時として『正義の象徴』として扱われがちではあるが……これはあくまで個人の普遍的な幸福なために存在するものであり『何もの』にも属してはならない……」『理不尽な悲劇の回避』総帥の研究成果はその気になれば……警察が使用えば理不尽な悲劇による事件の『捜査・事件解決』が可能となり……国が使えば国民の理不尽な悲劇の回避を『管理』することが出来る。しかし総帥は、あくまで『奇跡』は個人規模のためのものであるとして、それは『何にも』属してはならない…そう考えていた。(その一方で、志貴らを巻き込んでいるという矛盾は存在するが)「……ッ…君の『悲劇』を繰り返さないためにも、この『奇跡』は必ずなしえなければならない……!」その悲しげな顔の総帥の傍ら、忠義篤き秘書は断腸の想いで総帥を見つめている。「……(私は何があろうとも総帥…貴方についていきます…)」*場面は戻り、ボロアパートの志貴の部屋。時は既に夜であり、二人は布団を並べ幸せそうに眠りについている。…その『何にも』属さず、ただ日々の幸せを守るために生きている遠野志貴と、その伴侶アルクェイド。彼らはこれからも、ほのぼのとした生活を営んでいくのであろう。しかし、もし志貴がこの研究の『核』に触れてしまった場合…『奇跡』の研究を知ってしまった場合…志貴は選択しなければならない!!総帥…警察…国家…教会…否!それらさえも拒否するのかを!!!……そして忘れてはいけないのは、その志貴を未だに追っている『秋葉』の存在と、何を企んでいるのか分からない『琥珀』の存在、そして、何だか全てを『無』に帰しそうな杉下右京の存在であることは言うまでもあるまい。