ついにあの組織が動き出した!!聖堂教会!!!教義に反した者を熱狂的に排斥する者たちによって設立された、大規模な宗教団体である。世界においても最大級の宗教団体であり、代行者、騎士団、そして教会本部所属の埋葬機関と、一国に匹敵する戦力を保有し、吸血鬼をはじめ、人の範疇から外れてしまった者達にとっての天敵として君臨している。無論、魔術協会との折り合いは最悪であり、近年新たに創立されたとある財閥とも敵対関係にある。原因は言うまでもなく、財閥の行っている『吸血鬼(路地裏同盟)の保護』及び『研究』であり、特にその『研究』の内容が『比類なき神の冒涜』とのことで、教会は財閥を狙っていたのである。しかし、この財閥の総帥の影響力は思いの他大きいものがあり、迂闊に手を出すことは例え埋葬機関といえども禁止されているが、いつかは隙を見て研究の中止、財閥の解体、総帥の暗殺を目論んでいるとのことであった。そして今ッッ!!!「続いてのニュースです。先日明らかになりました、元特命全権大使『北条晴臣』容疑者の『スフィア王国日本大使館』での公金横領について、国交正常化に向け――財閥総帥がスフィア王国に到着しました―――」「ククク……待ちに待ったときが来ました!!」ショートの髪と眼鏡が特徴の知的な女性が、イヤホン越しにラジオを聴きながら、僅かに笑みを浮かべる。そう、彼女は待っていたのだ!!総帥が『閣下』の尻拭いのため(第21話参照)地球を離れて『月』に赴いたこの時を!!!「多くの代行者が犬死でなかったことの証のために!再び『教会』の協議を掲げるために!遠野君との成就のために!光坂市よ!私は帰ってきました!!!」某ソロモンの悪夢の名言の完全なパロディではあるが、実は彼女は光坂市に来たのは今日がはじめてである。「…たしか、研究所所属の事務所がこの街にあったはずですが……」時期はずれのキャソックを身に纏い、地図を見ながら街を徘徊する彼女の様は、まさに不審者以外の何者でもなかった。「……このボロアパートの一室が、本当にあの財閥の研究所の事務室だなんて……」女は怪訝な表情で、大財閥の研究所所属の事務所のあるボロアパートを見る。しかし、ある意味これは、敵に対するカモフラージュなのかもしれない。そう思った彼女は、意を決して呼び鈴を……「あれ?『シエル先輩』?」「と、遠野君!!?」背後から志貴に話しかけられ、この『シエル』と呼ばれた女は驚きながらも振り返り、志貴の存在に気づく。「こんなところで何してるんですか?」「え、ええ、ちょっと仕事で……」志貴に何をしているのかを問われ、とりあえず自身の仕事内容については伏せておくことにした。「そ、そういう遠野君はどうしてここに?」ひとまずは自身への話題そらしのためと、志貴がこの研究所の事務所とどのようなつながりが在るのかを探るため、シエルは志貴に何故ここにいるのかをたずねる。「ああ、ここは俺の職場なんですよ。しがない探偵事務所ですけどね」「た、探偵ですか。遠野君らしくていいと思いますよ」「それ、どういう意味ですか?」一見ほのぼのとした会話にも思えるが、その実、シエルの頭の中はこんがらがっていた。ここって事務所は事務所でも『探偵事務所』じゃない!?そして、なんで自分らの敵といえるべき財閥の研究所に、愛すべき人がいるのか!?これってまるでロミオとジュリエットじゃない!!!総帥のいないときを狙い、いまこそ圧倒的…ッ武力を背景に、財閥を恫喝、『吸血鬼の引渡し』と『神を冒涜する』研究の中止を求め(最悪、重要幹部の暗殺)に来たのではあるが、これではまるで白痴である。後半の妄想については、あえて白痴とは言うまい。「ち、ちなみに、いま遠野君は何の調査をしているのかな…?」まさか自分と志貴は、構図的には敵対関係です。ともいえず、ひとまずは志貴の仕事内容を探ろうとするも…「まあ、一応守秘義務ですから…勘弁してください」…当然といえば当然の解答が返ってきた。その後、さすがは埋葬機関第七位というべきか。完全に遅刻して出社してきた国崎の気配を感じたシエルは、研究所関係者に何度も目撃されるのはまずいと、テキトーな理由付けで志貴の前から去っていったのであった。「…でも、なんでシエル先輩、こんなとこまで来たんだろ?」まあ、志貴は財閥の研究については一切関知していないため、ある意味シエルが来た理由など見当もつかないであろう。*無論、このまま組織に戻ったのではただのガキのお使いである。そう思ったシエルは、このまま志貴をばれない様に監視し、研究所のデータを少しでも得ようとしていた。しかし、その仕事内容たるや、ただのレポートだの、ファイルまとめだの、おおよそ『吸血鬼』、『研究』とは程遠い仕事をしていた。むしろ、閑職に追いやられたんじゃないのかというべき仕事内容であった。その後も……「あ、アルクェイド!!?」「ヤッホー。迎えに来たよ~♪」時は夕暮れの商店街。こういう日に限り、志貴を迎えに行き、あまつさえラブラブっぷりを見せ付けてしまう、空気の読めないアルクェイドがいたわけで。「ねぇ志貴。お帰りのチューしてみない?」「莫迦っ、街中で出来るわけないだろっ」無論、日柄監視を続けていた(決してストーカーではない)シエルのはらわたは煮えくり返っていた。「あんのあーぱー吸血鬼がああああああ!!!」本当なら、今すぐにでもアルクェイドに奇襲を仕掛け、その抹殺の後に志貴を掻っ攫いたいシエル。もはや完全に仕事のことを忘れ、私怨に奔っていた。「あ…あの……さっきから何やってんですか?」「!!?」そのシエルの行動があまりに怪しいものであり、言うまでもなくここで『110』番通報されてしまった。まあ、今更警察が怖いわけではないシエルではあったが、変に『特命係』あたりが出てきて教会のことを散策されてしまっては厄介と思い、ここは素直に退くこととなった。唯一つ、彼女に悔いが残るとすれば、結局志貴の家までは突き止めることが出来なかったことであろう。無論、そんなものは私事以外の何者でもないことは言うまでもない。さあ、志貴とアルクェイドのラブラブ生活についに邪魔者が介入!!二人の生活は一体どうなるのか!!?シエルの半分仕事、半分私怨の財閥潰しはまだ始まったばかりである。