時は昼。アルクェイドは志貴のスーツ類を洗濯するため、近場のクリーニング屋に来ていた。「あ、あゆちゃん」「アルクェイドさん。こんにちわっ」偶然にもアルクェイドは、主婦仲間である相沢あゆと遭遇する。「アルクェイドさんもスーツですか?」「ええ。あゆちゃんのところも、ダンナさんサラリーマンだから大変よね」「うん。まあね」そういうと、あゆは衣類の入った袋を3袋ほどを出しカウンターの上に乗せる。「え!?」はたして3袋分もスーツがあるのであろうか…?アルクェイドは我が目を疑い、思わずその袋を二度見してしまう。「す、すごい量ね……」「まったく!ヒドイんだよ祐一くん!!ボクの洗濯は信用できないっていって、自分のお気に入りの私服は全部クリーニングなんていうんだから!!」どうやら相沢家のクリーニングの8割は祐一の私服らしかった。その袋の中には、ちらちらと女物の服も混じっている。「うーん……たしかにそれはあんまりかも……」とりあえずアルクェイドはあゆのフォローをする。しかし、あゆがどれだけ家事が下手なのかをアルクェイドは知らない。相沢あゆ……家事は料理をすれば炭を作り、新品の服を買っては三秒でシミを作り、おまけにドジで『うぐぅ』といった、お世辞にも良妻とは言いがたい妻である。ダンナの祐一は一応しっかり者のサラリーマンであるが、多少すっとこどっこいな面もあり、なんというか似たもの夫婦であった。「まあ、でも、割と服にお金をかけてるって感じね」「うーん……祐一くん、普段はテキトーなのに変なところに拘るからね。この間なんかも、前髪1センチ短く切られただけで帽子で頭かくしてすんごく機嫌悪かったし……」「はぁ……」男心は良く分からないものである。まあ、志貴の場合は割と細かいことは言うものの、服装や趣味に関してあまり頓着のない人間である。かといって、アルクェイドもそこまで拘る人でもないため、こちらもある意味似たものカップルであるとは言える。「でも、あゆちゃん、それでもダンナさんの事好きなんでしょ?」とはいえ、このままグチで終わらせるのもなんだかなぁと思うので、とりあえずアルクェイドは夫婦仲のフォローをしておく。「え、違うよ」しかし、そのアルクェイドの言葉を即座に否定するあゆ。もしかしたら、相沢夫婦の仲は冷え切っているのではないか……!?そう勘ぐってしまい、余計なことを言ってしまったのではないかと後悔の念に苛まれるアルクェイドであったが……「すんごく大好きなんだよっ!!!」「………」……後悔した時間を返せ……と思い直したのは言うまでもなかった。*「ふーん…まあ、なんというか、健気というかアグレッシブというか…」時は夜、ボロアパートの志貴の住んでいる部屋。仕事を終え帰宅してきた志貴は、アルクェイドとちゃぶ台をはさみ雑談していた。「でも、高校のときからずっと一緒に生活してて、それでも『好き』って堂々と言える。すごいと思わない?」「ああ、そうだな…」アルクェイドの日本人のデータとして、『好き』という愛情表現は夫婦間ではめったに用いないものだというステレオタイプの知識があったわけなのだが、それが当てはまらない日本人がいることを新たに学んだ。むしろ、そういう愛情表現が豊かなあゆを、素晴らしいとさえ感じていた。それはいいのだが……「でも、一つ気になる点があったんだけど……」「え?」言っていいのか悪いのか、あいまいな口ぶりで話すアルクェイドであったが、あえてここで言う。「……あゆちゃんのクリーニングの中に、なんで『女子学生の制服』っぽいのがあったんだろう……?」「……あえてそれを聞かないのが、日本人のルールだと思うよ……」アルクェイドの問いに対する志貴の答えは『ほぼ完璧』であった。『ロア』を追ってから結構な年月を人間界で過ごしてきたアルクェイドであったが、まだまだ人間の知らないことは沢山あるわけで……