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No.25915の一覧
[0]  †ネトゲの姫が開幕爆死した件† 【SAO二次】(旧題:†ネトゲの姫にはよくあること†)[かずと](2015/10/04 09:41)
[1] 第一話 「始まった二つのデスゲーム」[数門](2011/08/07 19:42)
[2] 第二話 「好奇心は”猫”を殺す」[数門](2011/08/07 19:43)
[3] 第三話 「吾友は病気である」[数門](2011/08/07 19:43)
[4] 第四話 「職人の朝は遅い」[数門](2011/08/07 19:44)
[5] 第五話 「ちーとはじめました」[数門](2011/08/07 19:45)
[6] 第六話 「○○充は爆発しろ」[数門](2011/02/16 13:43)
[7] 第七話 「たまによくあるこんな一日」[数門](2011/08/07 19:46)
[8] 第八話 「危うく死ぬところだった」[数門](2011/08/02 05:50)
[9] 第九話 「目と目が合う瞬間」 [数門](2011/08/02 05:50)
[10] 第十話 「ゲームはクリアされました」[数門](2012/02/27 14:39)
[11] あとがきというか、なかがきというか[数門](2011/08/03 05:00)
[12] 第十一話 「そういえばデスゲームだった」[数門](2012/02/19 22:50)
[13] 第十二話 「虐殺の日」[数門](2011/03/04 11:49)
[14] 第十三話 「信頼は裏切られるためにある」[数門](2011/03/08 10:05)
[15] 第十四話 「ハッピーエンドを君に」[数門](2011/03/09 15:16)
[16] 第十五話 「しかし石碑は事実を告げる」[数門](2011/03/11 06:59)
[17] 第十六話 「そして彼も罠にかかった」[数門](2011/08/07 19:49)
[18] 第十七話 「開かれるは漆黒への道」[数門](2011/08/07 19:49)
[19] 第十八話 「好奇心を”猫”は殺す」[数門](2013/11/20 12:16)
[20] 第十九話「それは見てはいけないもの」[数門](2012/02/19 23:54)
[21] 第二十話「その日、幽霊(ゴースト)が生まれた」[数門](2012/03/05 12:25)
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[25915] 第十七話 「開かれるは漆黒への道」
Name: 数門◆50eab45e ID:1fe6a54f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/07 19:49
「えっ?お、おい!なにやってる!た、助けてくれ!!」

俺はそう叫び、振り返る。

今は狩りの最中。
行きずりのPT。やや多めの敵の群れとの戦闘。

とはいえ、普通に交代交代で戦っていけば、難なく倒せるはずだった。
だが、どうにも交代の一手が入ってこない。
焦りに押され、俺は半ば悲鳴をあげつつ戦闘のさなか後ろを振り向いた。

「おいッ!交代はどうし……ッ!」

だが、俺がみたのは、まさかのさらなる大量の敵と……。
それを連れてきた「チャレンジャー」ギルド達の、表情だった。

そして、奴ら「チャレンジャー」の表情をみた瞬間……
俺は、全てを理解した、理解、できてしまった。


「て、てめえら……ぐはッ!」

モンスターに横殴りに飛ばされる。

MPK……モンスタープレイヤーキラーの罠が、完成していた。
囲いという漢字のまさにそのまま。俺の四方はモンスターだらけ。
行くことも、戻ることも、回復アイテムを使う暇すら無い。

体力が、尽きていく。

そのHPゲージを見ながら、様々な考えが走馬灯のように頭をよぎる。

――何故?
――俺が、何をしたんだ?
――こんな、こんなことで死ぬのか。

モンスターの手ではなく、開発者の手によるものでもなく、トラップでもなく。
同じ、同じ脱出を目指すはずの、人の手で……。

体がもう一度吹き飛ばされる。体が、別のモンスターに当たってノックバックが止まる。
そのモンスターからの追撃。
HPが、さらに減少する。体力が半分をきり、イエローゾーンに踏み込んだ。完全なるBOX状態。


「ん~聞こえなかったぞ。もう一度言ってくれよ」
「ハハッ!しゃべれる状態じゃねえの見えてるだろリーダーよぉ!」
「悲鳴ぐらいなら聞こえるだろ」

この狂騒の遠くで、ギルドリーダーが笑い飛ばす。
続くように、他の奴らも笑っている。
声を抑えきれなくなったものもいたようだ。グリフィスとかいったか。

何故笑える。何がおかしい。
俺が死ぬことが、そんなにも面白いのか。
許せねえ……ッ。俺達は、同じこのゲームの被害者、仲間じゃないのか!

「てめえらあああああああああああ!!!!!!!!!!!」

俺は破れかぶれに、奴らに飛びかかろうとする突進した。
だが。

「おっと、こええこええ。こっちみてていいのかい?」

「グアッ」

彼らの発言どおり、横からのモンスターの攻撃に、引き戻される。

ちきしょうめが……ッ!

さらなる他のモンスターの攻撃。もうダメだ。HPが尽きる。

HPバーがさらに刻まれる。レッドゾーンに突入した。


死ぬ――もう、避けられない……


ここで死ぬのか、ここで、終わるのか。
まさか、人の手で……ッ!
なんで俺が死んで、こいつらが生き残るんだ。なんでだ、なんでだ。なんでだ。
あっていいのか、こんなことが!
この非常時に……仲間を食い物にするだと!それも恐らく……「遊び」で!

――許せねえ、何があっても、許せねえ!

こいつらは、ここで処理しなきゃダメだ。

「殺す……殺してやる……ッ!」

再度、身の危険を省みず、モンスターをかき分けるように突進を試みる。

「のけッ!」

だが

バキィ!
ドカァッ!

「ぐっ!」

横っ面に、攻撃を叩き込まれる。さらに、追撃も。


そして、無情にも0になった、HPバーが砕け散る様が、俺の視界に入った。

「ハッハッハ、残念だったなあおい」
「おいおい、モンスター集めて死ぬなよ。トレインはノーマナーだぜ?」
「足手まといがいると、PTが迷惑するな。全く、俺達はいい『被害者』だ」
「化けて出てきそうないい面だな。バッチリ記録しておいたから安心していけよ」
「怖いこというなよ。おー怖い怖い」


(ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう……ッ!!!)


ふざけやがって。ふざけやがって……!
殺してやる……殺してやりたい……。
なのに!

体が欠けていくのが分かる。視界が、闇に染まっていく。

動け……動け!



……。






駄目だ……ちきしょう…………ここ、まで、か…………。



クソ……が……こんな……奴らのせいで……。

ちきしょう、こんなの、許していいわけが、ねえ……。


ちきしょう、みてろ。








絶対――やる


絶対――してやる


絶対――なってでも――してやる――


絶対――幽霊になってでも――してやる








絶対――幽霊になってでも、こいつらを――







――殺してやる


















――――――――――――――――――――――――――――――
     第十七話 「開かれるは漆黒への道」
――――――――――――――――――――――――――――――







(さあて……あの女に、どうアクセスすっかね……)

……”彼女”と取引をおえ、別れた次の日のことだ。

さて、どうやって”彼女”に連絡しようかと考えていたが、意外にもあっちから連絡が来た。

『こんにちは、グリフィスさん。
 †愛舞天使猫姫†です~。
 前のフレンドの件ですが、姉2人に相談したところ、一度お会いしてからならと言う事になりました。
 それで、よろしければですが、みんなで一緒に狩りを行いませんか?
 私たちのLVは30付近ですので、23層の洞穴フロアあたりでご一緒出来ればと思います><
 グリフィスさんのほうも、たくさんのメンバーで来てくれればと思います。
 時間の方はお任せしますね。すぐでも大丈夫です。
 
 PS:私も前回同様、メッセージにて会話させてもらいたいと思いますので、
    事前にお仲間さんに伝えてもらえればと思います。
    色々とすいません>< お返事お待ちしています』


これは……美味しいが、ちっとどーすっかな。

俺はしばらく、一人で”独占”するメリットと、それのデメリットを考える。
LV30か。一人でいってもいいんだが……3人。負けはしないが、逃げられると面倒だな。
この洞窟は確かいったことがある。罠があったような。かかるようなマヌケじゃねーがね。

うーん……チッ、しゃーねえ。たくさん来いって言ってるし、素直に連れてくか。

そしてそうだな……ついでに、ギルドを実質的に俺のもんにしちまうのもいいな。
そうだ、それがいい。こいつあ、またとないチャンスじゃねえか?

そうと決まれば、あっちの気が変わらねえうちにさっさと決行にうつした方がいい。
善は急げってな、ククク。




俺は、そのメッセージを何気なくしまうと、いつものたまり場でたむろってるメンバーに声をかける。

「おい、前のオレンジの話だがな。ちっと獲物をみつくろってこようと思うんだがよ。誰かこいよ」

だが、仲間はだるそうな顔を隠しもしない。獲物を見繕う段階が、一番面倒くせーからな。

「あー俺はいいや」
「俺は……ちょっと休むか」

真っ先にリーダーとアギトがパス。こいつらリーダーと新入のくせに……
だがこいつらがこう逃げるのは想定済みだ。
今まではイライラしてたが、今だけは逆にありがてえ。

「あー俺はグリフィスがいくなら行くけど……」
「俺はどっちでもいいが……ついてくか」

ついてくるのはタゴンとガルシェだけか。休むのはリーダーとアギト。
まあ大体想定通りだな。

2人を連れて外に出る。そして、メッセージを打つ。
すると、しばらくして、アギトが追いかけてきた。
これで部屋に残るはリーダー1人だな……。

「あれ?お前、休むんじゃなかったのかよ」

「グリフィスに呼び出されてな。なんだ一体」
「さっき呼んでこなかったばっかだろうがお前」

「あー俺が呼んだんだよ。メッセージでな」

「どういうこと?」

「アギトにはメッセで軽く説明したが……。
 いいか、お前らだけに教えてやるぜ。女の”当て”があんだよ~」

「「「ま、マジか?」」」

アギト、タゴン、ガルシェの3人がハモる。

「嘘いわねえよ。おらよ、ちょいと見せてやる」

手元でメニューウィンドウを呼び出し、周りの奴らにも見えるモードに変更。
さっきの†愛舞天使猫姫†からのメッセージを呼び出し、仲間3人に見せる。

さらに、見せながら昨日であったときのいきさつを(1割の報酬上乗せ部分は省いて)説明。

「どうだ?ちょうどいいだろ?”次の獲物”によ」

「女で間違いないのか?」

「男っていうにはどうみても怪しいだろ。それに、一人ならともかく残り2人いるってある。流石に3人は偽装きついだろ」

「なるほどな。でもなんで昨日いわなかった?独り占めするつもりだったとかじゃねえよな」

アギトがつっかかってくる。チッ一々鬱陶しいな。

「あー、昨日の段階では確信も持てなかったからだよ。連絡もとれるかわかんなかったからな。
 今日はあっちから連絡きたぐらいだし、他に女2人いる感じだし、状況変わったんだよ」

「要するに3人相手だからビビったってか?」

アギトがまたも続ける。本気で鬱陶しい奴だ。

「嫌なら、帰ってもらうぜ。俺たちがお楽しみしてる間、そこらで見てろ。
 お前らもいかねえのか?」

「いやいや、俺らは行くって。リーダーと一緒にすんなよ」
「右に同じ」
「おい!いかねーとはいってねえだろ!まあLV30なら4人いりゃいけるしな」

チッ。お調子ものが……。

「でも狩っても大丈夫なんだろうな。どっかとつながりあったりとか……」

「ギルド名はだしてねえからな。これから本格オレンジになるんだ。
 どうせ潜むんだし、どってこたねえだろ」

「それもそうか」
                 ・ ・ ・ ・ ・ ・
アギトが返してくる。ふん、こいつにだけは本当の理由は言わねえ。
その時に知るがいいさ。

「そういやよ、グリフィス。なんでリーダーは呼ばねえんだ?」

いいタイミングで聞いてくれたぜ。
ここは見せどころだな。

「ああそれか……いい加減面倒になったからな。
 いつも思わねえか?あの面倒くさがりは、指示だけはいっちょ前だが、全く動かねえ。
 いつも動くのは俺達だ。しかもギルド資金を地味に使い込んでやがる。だよな?」

「あ、ああ……」

「だからよう、俺をリーダーにするのにお前ら協力しろ。
 もし嫌だっていったら、今回のとこには連れていかねえし、俺もいかねえ。
 俺がいかない限り、女は絶対こっちのギルドに会わないだろうしな」

「ふーん……」
「へえ……」

「そのかわり、協力してくれるっつうなら、いい目を見せてやる。
 分け前も今より増やしてやる。ギルド資金の分な。
 さらに、今回の女、お前らが先に喰ってもいいんだぜ」

「おいおい、いいのかよ」

「何度もいうが、協力しないっていうなら、ナシだけどな……。
 あくまで協力してくれるなら……だ」

「お、俺はグリフィスに乗るぜ!」
「右に同じ。大体グリフィスが一番強いしな」
「まー……俺もいいだろ」

よしよし。これでアギト・タゴン・ガルシェの3人の同意が得られた。
今回の旅はかなり実りあるものになりそうだぜ、ククク。







――――――
――――
――



……ふん、グリフィスの奴も、何を企んでるんだかな。
タゴンこと俺はグリフィスの案に同意はしたものの、
まだ何か裏があるんじゃないかと勘ぐりながらついていった。


「ああ、そうだ。お前ら、さっきも説明したけど、女はメッセージ会話かもしれねえからな。
 そんときは俺が間にたつから、気をつけておけよ」

「でもよ、グリフィス」

俺は気になることがあり、グリフィスに声をかける。

「あんだよタゴン」

「肝心の、取り押さえるのはどうなんだ?大丈夫なのか?」

「相変わらず気がよえーなお前は……。
 あいつらのLV聞いただろ。30だぞ。俺のLV知ってるだろ。敵じゃねえよ」

慎重といえよ。まあ、確かにグリフィスがいりゃなんともなるか……。

「でも、逃げられたりしねーのか?」

「ククク。これが都合がよくてよ。狩り場所に指定されたダンジョンな。
 あれ、別名一方通行の洞穴ってよばれててよ。
 進むたびに退路が閉じられてな、一番奥のスイッチを押さない限り退路が開かねえんだよ。
 で、さらに一番奥は結晶無効化空間ってわけよ」

なるほど、そこまでいえば分かる。
一番奥においつめて狩る気か。

「なるほど、じゃあスイッチさえ触らせなきゃあ逃げる手段もねえか」

「そーいうこった。あーあと、途中に罠も多いからかかるなよ、面倒だからな」

「んな間抜けなことはしねーよ」

俺は慎重なんだよ。

「まータゴンならそうかもな。アギトらも気を付けとけよ」

他2人が、問題ねーよと返す。罠にかかるなんざ、馬鹿だけさ。

そんな会話をしながら、待ち合わせの場所にたどりついた。









「よう、愛舞天使猫姫ちゃんか?……他二人はどうしたんだ?」

待ち合わせ場所にいた、全身フードコートの女にグリフィスが声をかける。
……確かに、一人しか見当たらない。
女の顔は目元のマスクもあり、うかがい知れない。
装備はコートに隠されているが、細身の鎧のようだ。

女は、こちらに向かって一礼すると、ホログラムキーボードを呼び出し、
凄い勢いでメッセージを打ち始めた。

「ちょっと他の用事ができて、姉2人は遅れる……と。
 先にいっててくれて構わないって言われてるってか。
 ふむ……」

グリフィスが考え込む。

「どうする?お前ら。彼女は、まず一人でも行く気らしいが?」

俺達に目配せをしてきた。一人ずつやるか?ということか。
それでいいだろ。
待つのも面倒だ。楽しみは速いほうがいいし、
固まってるよりバラでやったほうが抵抗がない。
助けを求めたりするメッセージも、ダンジョン内からじゃ外に飛ばせないしな。

俺たち三人は、うなずいて返す。

「おし、じゃあ、行こうか……。殿がいい?そうか、じゃあ前は俺達にまかせな」

グリフィスが促し、俺達は後に続いた。
彼女は一番最後に位置どった。









そして洞穴内を進む。

いきなり、8つの分かれ道だ。

「一応確認しとくか。この8つのうち1つを選んで進むことになるからなー。
 猫姫ちゃんはここの特性は知ってる?」

甘い声でグリフィスが声かける。笑えてくるな。

まあそれとして、さっきの説明どおり、この8つ穴のうち1つを選ぶ。
そして、それぞれ進んだが最後、一度最奥地までいって仕掛けを起動させない限り帰る道は閉ざされてしまう。

モンスターがいなければ、一番短い穴で大体飛ばして片道10~15分ぐらいとのことだった。
長い穴は数時間や半日かかるのもあるそうだ。
勿論敏捷値が高ければもっと早いだろうが……。
中には落とし穴などのトラップが結構あり、気を付けないと落ちるという。

他のメンバーを待つこともあり、そこからまず行こうという話に落ち着く。


グリフィスの顔をチラとみる。ニヤリと笑い返してきた。
間違いない、この最奥で仕掛けるつもりだ。
そんで、拘束なりなんなりしてから次をってことだな。
アラームなんて手を切り飛ばせばいいしな。
3vs1で負けるはずがねえ。楽しくなってきたぜ……。



何も問題ない。

そう思って、洞穴を進んだ最初のエリアのことだった。

まず、先頭を歩く、グリフィスがさらに次のエリアにいくために前に進む。
直後に、アギトともう一人ガルシェが続く。
その後すぐに、この俺タゴン……そして、彼女が続く、と思った瞬間だった。

あいつらがエリアチェンジした瞬間、いきなり後ろに引き寄せられた。


「なっ!」


それが、襟首を掴まれて引き倒されたのだと気づいたのは後の事。

訳もわからないままに、俺は、今避けたばかりの大きな落とし穴……
奈落の底へ、何者かと一緒に落下していった。


「う、うわあああああああああああ!!!!!」


――死ぬ!のか?


こ、こんなところで……馬鹿な……う、嘘だ……!!!!



嘘だ――。










――――――
――――
――







ドサッ






大きな音。そして、体を打ち付けた音がする

しかし、地面にたたきつけられた感触はない。

……?

分けがわからず、あたりを見回す。

すると、そこには、マントフードを脱いだ、一人の男が、佇んでいた。



「よう、状況はつかめたかい?タゴンさん」

「な……一体、ここは……お前は……」

「……まだ混乱してるのか?
 ここは落とし穴だよ。俺が引きずり込んだんだ。
 ああ、心配するな。危害を加えようっていうんじゃねえ。
 それどころか、クッションになってあげたんだから、感謝してほしいな。
 危害加えるつもりなら、そんなことするわけないだろ」

そうしゃべって、男は一息つく。見た目は普通の……男だ。
……誰だ?一体……。そ、それに女はどこいった?

「話がしたくてな。俺が誰だってのは、話す必要はないだろう」

「て、てめえまさか……さっきの……」

女……!

「そのまさかかな。そもそも、俺は男だって言ったけどね。
 最も、誤解を訂正しなかったのも確かだが」

「てめえ……なんのつもりだ」

怪しい、怪しすぎる。こいつの目的が読めない。
なんのために、わざわざ女のふりを?そして隔離する?
俺に危害を加える?いや、それは確かにおかしい。
さっきの落とし穴で助ける道理がない。

「まあまあ落ち着いてくれ……悪い話をしようってんじゃないんだから。
 やっと二人きりになれたことだし。他のお仲間が戻ってくるまで、
 どんだけ急いでも15分か20分はかかるだろ。
 この落とし穴は結晶無効化空間だ。ゆっくりしようぜ」

「無理やり落としておいて……ふざけてんのか?」

相手を睨みつける。だが、それを気にした風もなく、男はしゃべり続ける。

「まあ、話というのは他でもない。ちょっと、あんたらがオークションでだしてるアイテムに関して、話があるんだよ」

「アイテム……リネームカードのことか?
 話すことなんてなんもねえよ。アレは俺達がとったんだ」

そういうと、男は苦笑した。

「まだなんもいってねえだろ。そんなんじゃ、やましいと言ってるようなもんだぜ」

「……何がしたいんだてめえさっから」

「いやいや……率直に言うぜ。漆黒を殺ったのはあんたらだろ?
 あのリネームカードは元々あの漆黒のものだよな?
 あんたらはそれを横取りした」

「な、何を言うんだ!!」

「いやいや。でさ、それはいいんだ」

「だ、だからしてねえって!」

な、何故断定できる……?そして、何がいいたい?い、意味がわからねえ。

「なんで分かるかっていうとさ。俺も狙ってたんだよ、あの漆黒はな。俺もあんたらと同じ……裏オレンジだ」

「な、なんだと……」

……繋がった気がした。あの油断を誘う名前。仕草。グリーン。
こういうタイプのオレンジもいたのか……。
なるほど、それなら色々と行動に納得もいく。
いやまて、もしオレンジだとすると……!まさか。

「ああ、あんたらに手をだそうってんじゃない。
 さっきも言ったとおり、俺のLVは30ぐらいだしな。取引をしたいんだ」

「取引?」

「ああ。で、だ。話の続きだが、俺も奴は狙ってた。
 だから、リネームカードをあの黒いのが手に入れたのも知ってたし……あんたが奪ったのも知ってた。
 あんたらには先をこされたってわけだ。ま、それはいい」

コツコツと、落とし穴の中、歩く音が響く。
男は歩きながら話しを続ける。

「だが気になるのは、グリーンのまま、カードも装備も手に入れた方法だ。それが分からない。
 で、今後の参考に、ソレの方法を教えて欲しくてな。勿論ただとはいわない」

そこで、区切ると、ドサドサと、男はアイテムを地面に投げ捨てる。
これは……俺らが売りさばいた装備一式……。

「質問に答えてくれる事に、一つずつ譲ってもいいぜ。ただし、あんた一人の胸に収めとくならな」

マジか!そうすると、俺はほぼ倍以上の金を手に入れることになる。

「ほ、本当か!?……で、でも何故俺一人に」

「グループ全体だと費用がかかりすぎるんでな……あんた一人に集中したほうが、情報代として安上がりなのさ。
 勿論、これから先の付き合いも含めて前払いって意味でもある。
 あとあんたの副リーダーはちょっと欲深そうでな。
 あんたはその点、頭が良さそうだ。落とし所ってとこを、分かってそうな気がしたのさ。
 ……とはいえ、あんたが拒否るようなら、ほかの奴に話を持ちかけるけどね」

ほう、まあ、確かにグリフィスの野郎は欲深だし、アギトも同様だ。ガルシェの奴もな。
俺に眼をつけたのは、中々頭がいいと言えるだろう。

ギルメンからは、俺の慎重っぷりをチキンだのなんだの言われることもあったが、
だからこそ今の俺は、こういう話を持ちかけられている。
ざまあみろってんだ。
ちょっと機嫌を良くした俺は、男に逆に問いかける。

「一応、程度によるぞ……。ギルドの情報を全部売ることはできねえからな」

「売るってほどじゃない。あんたらの内実はいいよ。今回の手法だけ知りたいってだけだ。
 別にバラしても問題ないだろう?それに、俺の情報も全部嘘じゃない……。
 女2人が仲間にいるのは事実さ。これをつけてもいい」

「ど、どういうことだよ」

すると、男が近寄って、耳にささやいてきた。

「色々と、夜の世話もできるってことだよ。あんただけにな……」

ゴクリ。自分がつばを飲み込む音が聞こえた。
マジか……?
下の世話は、SAO内のやつならみんな苦労してるところだ。
金をくれるってことに加えて、この提案……。
 
「どうだい、いいパートナーになれると思わないか?勿論、俺の持ってるやり方も教えてもいい。
 別にあんたにデメリットはないし、ギルドに対する裏切りにもならねえはずだ」

そういや、こいつもかなりの金を持ってた。あっちの稼ぎ方も教えてくれるってことか。

「よ、よし……取引成立だ」

これは裏切りじゃねえ。俺個人の、交友関係って奴だからな。

「……OKだ。じゃあ早速だが、殺した方法はなんだ?ポータルPKか?」

ポータルPKとは……。ワープポータル(ワープする穴)を使うのをポータルといったりするんだが。
回廊結晶という、記録した位置にいつでも道を開くことのできる、使い捨てのどこでもドアみたいなアイテムがある。
便利なアイテムだが、この出現場所を、最前線のモンスターのたまり場にしておいたらどうだろう。
送り込んだ奴の強さが足りなきゃ、転送した瞬間に死ぬ、なんてこともあり得る。MPKの一種だ。
勿論、直接キルするわけじゃねーから相手のアイテムは奪えないし、不確実性もややある。
そのうえ、回廊結晶の値段は馬鹿高い。中層プレイヤーの一財産分ぐらいある。
ただし、そのかわり一切手は汚れずグリーンを維持できるし、自分より格上の相手だって始末できる。

これが、通称『ポータルPK』と呼ばれる手法だ。

「なんだ、知ってるのか。そうさ、わざわざ糞高い回廊結晶使ったんだよ。アギトの提案でな。
 今思うと、グリーンにそんなにメリットもねえし、直接キルっときゃよかったと思うけど……おい?大丈夫か?」

何か、奴の表情が何かをこらえてるような表情になった。
……すぐ無表情にもどったが。

「……ああ。気にしないでくれ。なるほどな。まあ、グリーン維持するPKなんて大概MPKだからな。
 奴のLVは高かったから、ポータルPKの可能性もかなりあるだろうと推理したまでだ」

「へっ、そんなもんかね。5vs1なら余裕だろーが」

俺も慎重派を気取ってるが、こいつも中々のチキンかもしんねえな。
そういや、普段女の格好をしてるんだっけか。俺ならいくら慎重気取ってもできねえな。
恥ずかしくてよ。

「……ま、それについて議論するつもりはない。でも、死んでないのはどういうことだ?見誤ったのか?」

「ああそれか。アギトがポータル提案したのは、別にグリーン維持だけが目的じゃねえぜ。
           ・ ・ ・ ・ ・
 奴が言うには、最も楽しいPKだからだそうだ」

「楽しいPK……?」

「おうよ!あんたさあ、このゲームで水食料を食べ続けないとどうなるか知ってっか?」

「……いや、知らん。腹は減るが……。
!!!!まさか餓死か!」

「違うね。もっとえげつないぜぇ。答えはな、【飢え続ける】だ。
 実際に死にはしねえ。反面、ずっとずっと飢えの苦しみが続くんだ。
 食べない限り何日も、何日も……何ヶ月も、何年も続くんだと。気が狂うぜ。
 いっそ死にたいぐらいにな」

「そんな事が……」

絶句してるようだな。気づいたか。この恐ろしさに。

「そこで高LVダンジョンの安全エリアに飛ばすとどうなる?
 いずれ手持ち食料は尽きる。
 後は……ずっと、苦しむか。それとも自分から死ぬかだ。
 苦しんで苦しんで……最後に自殺!
 送った奴の苦しみ悩む気持ちを想像するだけで、飯が美味い!
 さらにしばらくして、石碑に名前が刻まれた日にゃあ、もう最高!!

 ……っていうのがアギトの話だ……って、おわっ」

ドガッ!

話し終えた瞬間、奴が急に壁を殴った。
パラパラと、壁から小石が落ちるエフェクト。

「な、なんだよ……」

俺がそういうと、男はしかめ面から、急速に平静な顔に戻る。

「いや……そんな手があったとは思いつかなくてな。
 自分のオレンジとしての発想負けに、イラついてたとこだ」

「なんだよ……驚いたじゃねえか……」

「……まあいい。ありがとうよ。とりあえずは約束の一つ目の報酬だ」

装備品の一つを取り出し、投げ渡してくる。

うほっ、気前のいいこった。有り難く貰っておくか。

「だが……そのダンジョンってなんなんだ?
 【誰もいけない】のが前提だろ?最前線でもそんなの存在するか……?」

「あーそれなんだがな。普通はメンバーで擬似的に封鎖して作るらしいんだが……。
 アギトしか知らないぜ。だが、絶対に死ぬって自信満々だ。
 例え……このSAOのゲームで、今生きてる7000人ぐらいの頂点っていわれる、
 ヒースクリフだろうが、絶対に、100%殺せるってな」

「頂点でも100%……!?そんなダンジョンがあるのか?」

奴は装備をさらに追加してわたしてくれた。ありがてえ。
とはいっても。

「あー受け取っておいて悪いけどよ、これは本当にアギトしか知らねえんだ」

「なんでだ?あんたらはずっと一緒に行動してるPTかとおもったが」

「アギト以外はな。あいつはそもそも新入りなんだよ。元々の所属は『軍』だ」

「『軍』……。あの巨大ギルドか」

「そ。あの自治とかにご熱心な、偉そうなクソギルドだよ。
 だけど、なんか上がミスって、責任を引き受ける……スクープゴートっつーの?
 ああいう形で出てきたみたいだぜ」

「スケープだ。へえ、軍の上層部がミスね……」

「ああ、でもまあ、そのくせ偉そうなのなんなの。
 俺達のところにいれろだの入ってやるだの、うるせえんだこれが。
 何度たたっころしてやろうかと思ったか」

「それで良くギルドにいれたな」

「しょうがねえだろ!入れなきゃ俺たちをオレンジだと言いふらすっていうんだからよ。
 別に入れたくなんてなかったっつの。今でもいらねえと思ってるよ。
 ただ軍は一応は口だけでもねえみてえでな。オレンジっぽいギルドは目星をつけてるらしい。
 そういうリストもあるらしいぜ。そっから、俺たちを見つけてきたんだ。
 一応ダンジョンの回廊結晶も手土産にもってきてたしな」

「なるほどね。そのクソ新入りとやらが入った経緯は分かったよ。
 でも、100%殺せるって理由を聞いてないぞまだ」

「……識別スキルがよー」

「識別スキル……?敵のHPとかが分かるあれか」

「そう……アギトは、それだけはずば抜けてるんだけどよ。それで、いうんだよ。
 MAX近くにあげてる俺でもそのボスはHP見えなかった……と。
 だから、その結晶は、90層以上クラスのボスがいるダンジョンにつながってるって」

「きゅ、90層以上!?……ば、馬鹿な、今は……最前線が51層だぞ」

男の顔が一気に青ざめる。「俺に行けないダンジョン……?」とか呟いてる。
まあ、LV30程度なら、夢の世界だからな。
つか俺にとってもだけど。90層の、しかも雑魚じゃなくて、ボスクラスっていうんだからな。
今は、最前線ですら50層前後なんだから。10層違うだけで格差がとんでもないってのに。

「雑魚ですら、今の最前線より何倍も強いっつってたぜ。ボスは間違いないとさ。
 本当に、自信満々だった。であって死にかけたと。
 そこの安全エリアに送ったと」

「そんなダンジョンがあれば話題にならないのか……?」

「そう思うよな……。でも、そこは絶対に曲げねえんだ。絶対に死ぬと。
 そのダンジョンをマークしたときは、命からがら寸前逃げ帰ったらしいぜ。
 まあ、確かに”黒いの”はあれきりダンジョンから出た様子はねえ。なにしろ……もう3日だぜ。
 それに、フカシで使い捨てるほど回廊結晶は安くねえ」

「…………確かに、最前線のダンジョンなら攻略組がいるし、とっくに救出されてておかしくないな」

かといって、低層なら、自力で帰ってくるはず。だがどっちでもないのが、現状の裏付けだ。
そして、確かに嘘なのに回廊結晶なんて使わないだろう。高すぎる。

「ダンジョンから出てこないのが事実という以上、信じるしか無い……か」

「そーゆーこった」

「………………そうか。何度も聞くが、そのダンジョンは本当に知らないのか?」

「知ってたらアイテム欲しいし言うけどな。本気で知らねえ。
 アギトも、それは一番言えない情報だって、絶対教えねえんだ。言ったら元々の上に殺されるって。
 あるとしたら、バグか何かか……。それとも部分的に90層まで繋がる道……『ショートカット』があるのか……
 それすらもわからねえ」

「……もしだが、助けにいったらどうなるんだ?『ショートカット』は本当にないのか?」

「そのボスに瞬殺されるか、そもそもどうやってもいけねえだろ。アギトしか知らないし、言わないし。
 あいつ自身も、二度と近寄れねえみたいにいってたしな。
 他のギルドでも、情報屋でも、一切きいたことねえしな。
 もしも90層への『ショートカット』なら、バグかもしれんし。だとしたら今は直ってるかもしれねえ。バグは自動で直されるらしいしな。
 そうすっと、90層に自力でいくしかねえ。
 どうやっても間に合わねえよ。気が狂うか自殺するか、どっちかさ」

今、SAOが開始されてからおよそ1年と少し。それで51層というペースだしな。
ほとんどこの倍ぐらいの階層となると……。しかも攻略ペースは落ちているらしいからな。
まあどうでもいいけど。

「………………そう、だな。間に合い、そうにない……。『ショートカット』を、見つけない限り……」

「俺は、特攻自殺に賭けてんだけどよ。ハハハ。
 アギトも良く解らん奴だぜ。PKなんて死に様見てこそだと思わねえか?」

「……俺は自殺しない方に賭けるぜ。
 あとそうだな。死に様はどうでもいいが、無駄に見逃して生きてましたとかは勘弁願いたいね。

 ……殺すと決めたら、しっかり達成まで確認しないとな」


男の声が一段と低くなった。なんか寒気が……殺気?
なんか不気味だな。こいつ、本当は結構場数踏んだオレンジなんじゃ……。

……とおもったら、ふっと殺気が消える。


「いや、参考になったぜ。あとはアギトって奴に聞くか、自分で調べないと無理そうだ」

「あ、ああ……」


「……だが、装備品はどうした?あれを剥ぎ取るのはPKじゃきついだろうよ」

男はさらに装備品を一つ投げ渡してくれながら、俺に問いかけてくる。
さっきまでの殺気が嘘のようだ。まあ儲かってるからいいが……。

「ああ、そりゃ簡単だ。俺が多少の鍛冶師スキル持ってるからな。
 修理代タダでいいから、詫びのためにメンテさせてくれっていって、巻き上げたのさ。
 一度あいつとはPT組んでて、追い出した経緯があるんでな。
 すぐ返す予定……というふうにいったせいか、かなりあっさり信じやがったぜ。
 あいつだけじゃなくて、全員の装備を集めたしな」

「なるほどな。鍛冶スキルか。
 方法も上手い。なるほど。全員だしてるなら、そのムードで拒否するのは難しい……。
 確かに盲点だな。俺も鍛えておこうか」

「あーよせよせ。戦闘と両立は中々きついぜ。専門にコネもったほうがいい」

「……実に上手い手、だな」

「じゃあ、肝心のアイテムを聞くか。リネームカードはどうした?
 あれはあいつも、そう簡単には手放さないんじゃないのか」

「ああ、あれはかなり結構面倒くせーことをした。本気で直接殺るべきだったぜ」

「ほう……実に……興味深いな……。是非聞きたいものだ」

奴の言葉が、非常にゆっくりになる。
また真剣味が増したな。なんかプレッシャーを感じるほどだぜ。
そんなに興味があるのか。

「再開した後に、あの黒いのと会話したんだけどよ。リネームカードが装備品しか使えないって話題で、
 あいつが、『本当はキャラクターネームに使えたら良かったのにヨー』とか言い出したんだよ」

「まあ、確かにイベント前はみんなそういうアイテムだと思ってたからな」

「そうそう、で、だ。そこでうちのリーダーがひらめいた。こういう時だけ仕事するんだが」

「へえ、リーダーが、ね……。こういう時だけ、ね……。主犯はリーダーか……」

「ああ、殺すとかを決定すんのはな。大体リーダーだ。時々副リーダーだ。
 でだ、リネームカードを、パワーアップさせて、キャラネーム変更できるようになるイベントがあるっていいだしたんだな」

「なんだと!?ほ、本当か!?」

おお?食いつくな。まあ、キャラネーム変更はとんでもねえ効果だからな。だが……。

「おい落ち着けよ。勿論、そんなものはねえ。でっちあげさ」

「でっちあげ……?」

「ああ、本当にねえよ。でもありそうだろ?」

「……なるほどな。確かに、俺も今信じそうになった」

「ま、つまりそういうことだ。奴は信じた。いやーあれはすごかったぜ。
 とにかく食いつきっぷりが半端じゃなかった。余程名前変えたかったんだなありゃあ。
 ハハッ知ってるかもしれねえが、あいつの名前はクソ恥ずかしい名前してっからよ」

「…………。……そうか、そんなに、変えたがっていたか」

「ああ。ありゃ傑作だったね。あとはさあ、24層のとこに、祭壇っぽいの置いてある教会あるだろ?
 まああとは、適当に理屈付けて、リネームカードをその祭壇において祈れば、
 パワーアップするだのなんだの吹き込んだわけよ。
 あと、転移結晶ももっちゃいけねえとかなんとかいってな」

「……。なるほどな。納得いったぜ。4,5人全員で言われれば、そんなのあったかという気にもなるだろう……。
 それに、あいつは人の言う事をすぐ信じるからな……」

「おうよ。まあ失敗したところでダメ元だしな。で、後は祈ってるあいつに、
 直接回廊結晶の出入口を重ねてテレポでドーン!おしまいってわけだ。
 あいつは消えて、祭壇の上のカードは俺達がゲット。これで全部さ」

回廊結晶は、使用者の前方2Mぐらいにワープ用ゲートを作る。
それさえ分かってりゃあ位置調整は簡単。直接人を狙うことができる。動かないなら尚更な。

「なるほど……よく分かった。オークションを見たが……相当金になりそうじゃないか」

「おうよ!ありゃあ上層組でもそうそうもってない財産になるぜえ?
 今まではさあ、やっぱ単なる殺しだったけど、やっぱダメだねそれじゃ。俺たちゃ謙虚だったよ。
 今までも4人ぐらいやったけど、正直もったいなかったな。
 あいつらの死に様はまさにザマァ!って感じだったけど、殺るだけだもの。
 どうせやるなら、実入りもないと。中途半端はよくねえ、あんたもそう思うだろ?」

「……ああ。良くないね。全く……同感だ」

静かに、情報を反芻するように、噛み締める男。
同時に、装備をさし出してくれる。ありがたいね。
よほどいい手だと思ったのかね。
まあ、我ながらいい手だと思うけどよ。

「しかし4人……か。結構殺ってるじゃないか。思った以上だ」

「単なるMPKさ。まー面白くはあるけどよ。やっぱ直接のほうがもっと面白そうだよなあ!
 あんたもグリーンってことは、直接下してはいないんだろ?直接殺りたくねーかい?」

「そうだな……直接殺りたくてうずうずしてる時もあるな。まあ事情があって我慢してるんだが」

「我慢は体に良くないぜ?ハハハ」

「……ありがとうよ」

4人やった、と伝えたとき、奴の体が震えた気がしたが……
あいつはそれ以下で、悔しさにでも身を震わしたか?

しかし我慢してる、ね……。まあ、ソロだと面倒くさそうだな。

……そうだ!

「なあなあ、それならよ。いっそ一緒にPTとか組まねえか?
 俺達も直接やりたいと思ってた頃だし、戦力は多いほうがいいからよ。
 何、いつも一緒にいようっていうんじゃねえ。組めるときだけでいいんだ。
 あんたにとってもメリットあるだろ?」

そう声をかける。

「へえ……いいのか」

男はなんの気もなさそうに返してくる。

俺は気づくべきだった。
ここが最終ラインだと。
いや、もっと前に気づくべきだった。

だが、誰が気づくっていうんだ。

ここまでOKだったんだ。

次もOKだって思うだろ?

少なくとも俺はそう思ったし。

だから、俺はそれを口にしたんだ。


それが、運命を決定的に決定づける決定的瞬間だとも思わずに。


「おう、いいぜいいぜ!何、ちょっといって気晴らしに殺すとかでもいいしよ。
 あ、そうだ!なんなら、アギトにもっと働きかけてよ。
 例の高LVダンジョンになんとかしていってよ。
 あの”黒いの”のやつのとこにいって、助けにきた……


 とみせかけて殺す!!!


 とかどうよ?面白くね?」





そう言った瞬間だった。




俺は、何かの線が、切れる音を聞いた。












そして……声が響いた。









「やっぱ無理だわ」








――――――
――――
――















無理だな。





ああ……やっぱ無理だわ。




こいつらオレンジの同類の振りなんて。



必要だからやってみたが、無理だった。



もう限界だ。



何もかもが。


奴は……いや、奴らは、触れてはいけないものに触れた。


もう限界だ。



――プツン



俺の中の、何かが切れた音を、俺は聞いた。








最初は女の振りをした。

次はオレンジの振りをした。

だが、それももういらない。


情報は集まった。

もう、コイツの役目は終わった。





俺は、発声とともに、こっそり麻痺毒を塗っていた短剣を、おもむろに構えた。

正面の奴は、キョトンとしている。

パニックの中のようだ。

攻撃する時間は充分。






黒き意思が俺を動かす。


この道を進めば、俺はもう戻れない。

                       ・ ・ ・ ・
それは真っ当な人間からは外れる、漆黒の道。

疑念と悪意で塗りたくられた、闇への道筋。

だが、俺は踏み込んだ。





チャレンジャーは思い出すだろう。

俺が、思い出させてやろう。

自分の参加してるゲームの真理を。



いいだろう。


望みどおり、なってやろう。

忠告通り、我慢を解き放ってやろう。



オレンジの「振り」はもういらない。



もうしない。





何故ならここからは――













ここからは――正真正銘の、オレンジとなるのだから。





――――――――――――――――――――――――――――――
第17話 「開かれるは漆黒への道」 終わり
第18話 「好奇心を”猫”は殺す」 へ続く

※漆黒が『どこ』にいるのか。原作読んでる人はピンとくるかもですね。

※飢え永久は外伝より設定。キリトが大食い満腹状態であんなに苦しそうにしてたので、
多分逆の飢え状態も同じぐらい現実感溢れる苦しみだと推察。
本来は強制ログアウトだろうけど。

ええとあと……なんか凄く間があいてすいません。
今も結構忙しいので、これからも間があくとは思いますが、そこらへんは0話のとこで追記していきたいと思います。
せめて週1ぐらいで書いていけたらいいけど。



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