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No.25915の一覧
[0]  †ネトゲの姫が開幕爆死した件† 【SAO二次】(旧題:†ネトゲの姫にはよくあること†)[かずと](2015/10/04 09:41)
[1] 第一話 「始まった二つのデスゲーム」[数門](2011/08/07 19:42)
[2] 第二話 「好奇心は”猫”を殺す」[数門](2011/08/07 19:43)
[3] 第三話 「吾友は病気である」[数門](2011/08/07 19:43)
[4] 第四話 「職人の朝は遅い」[数門](2011/08/07 19:44)
[5] 第五話 「ちーとはじめました」[数門](2011/08/07 19:45)
[6] 第六話 「○○充は爆発しろ」[数門](2011/02/16 13:43)
[7] 第七話 「たまによくあるこんな一日」[数門](2011/08/07 19:46)
[8] 第八話 「危うく死ぬところだった」[数門](2011/08/02 05:50)
[9] 第九話 「目と目が合う瞬間」 [数門](2011/08/02 05:50)
[10] 第十話 「ゲームはクリアされました」[数門](2012/02/27 14:39)
[11] あとがきというか、なかがきというか[数門](2011/08/03 05:00)
[12] 第十一話 「そういえばデスゲームだった」[数門](2012/02/19 22:50)
[13] 第十二話 「虐殺の日」[数門](2011/03/04 11:49)
[14] 第十三話 「信頼は裏切られるためにある」[数門](2011/03/08 10:05)
[15] 第十四話 「ハッピーエンドを君に」[数門](2011/03/09 15:16)
[16] 第十五話 「しかし石碑は事実を告げる」[数門](2011/03/11 06:59)
[17] 第十六話 「そして彼も罠にかかった」[数門](2011/08/07 19:49)
[18] 第十七話 「開かれるは漆黒への道」[数門](2011/08/07 19:49)
[19] 第十八話 「好奇心を”猫”は殺す」[数門](2013/11/20 12:16)
[20] 第十九話「それは見てはいけないもの」[数門](2012/02/19 23:54)
[21] 第二十話「その日、幽霊(ゴースト)が生まれた」[数門](2012/03/05 12:25)
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[25915] 第十一話 「そういえばデスゲームだった」
Name: 数門◆50eab45e ID:3f0dd04b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/19 22:50
「お願いします!助けてください!お礼は……お礼は十分にします!」


そういってきたのはNPCの女性。

何でも、あるモンスタ-が、この村を恐怖に陥れているらしい。

(よくある討伐クエストか……)

狩場をあさりつつ、中層にきたら見かけないNPCに捕まった。
最初はそういう風に、よくある討伐クエだと思ってたけど……。
だが、よく聞くとさらに興味深い事実が。

なんと、このイベント。

「まだ誰ひとりとして」クリアしてない、らしいのだ。

(マジか……?)

疑問に思ったが、先に漆黒が口を開いた。

「デモ、レアもらえるデショ?
 誰もクリアしてナイってことは、オンリーワンね。
 そんなんだと、連日大人気じゃないかヨ?
 ホモの洗い場状態は猫サンが行けないヨー」

「そうだよ、凄く混んでないのか?
 あと、芋の洗い場だからね」 

そんなの、俺でなくても行きたくないだろう。
というか、お前は行けるのかよ。


「いえ、それが……かなり前は、ある程度いらっしゃったんですが。
 今では全く、誰一人として姿を見せませぬ」

どういうことだ……?

このクエストの受ける条件が特殊なのと関係あるんだろうか。

このクエストに挑める条件は4つ
・2人以上のPTであること
・PT内LV差が10以内
・オレンジネームなどでないこと
・PTの誰かが死んだ時点でクエスト失敗するということ

オレンジネームだと受けられないという条件は初めて見たが……。
しかし、そこまで変な条件にも見えない。基本ソロの奴のほうが少ないし、
普通にやってりゃグリーンネームだし、PTは普通、そもそもがLVは近いからだ。
誰かが死んだ時点でクエ失敗も、別に縛りでもなんでもない。
わざわざ条件になくても、デス・ゲームとなってる今じゃ死亡は皆回避する。

一体何があるんだろうか。

うーん、こういう時に、ソロは不便だな。クエ情報に疎くなる。


「うーん、どうすっかな」

「猫サンは考えすぎダヨー。それに低層ダヨ?
 危なかったらでればいいんだしヨ。単なるバグかもヨ?危険なんてないと思うヨー。
 この場で、帰ったら幼なじみと結婚する想い出を語りだしてもいいネ」

「おいやめろ馬鹿」

んーでもコイツの言うとおりか。
この層は18層。言っちゃ悪いが、下層すぎる。危険度は低いだろう。
報酬といってもたかがしれてるが……。

「よし、うけてみるか、漆黒」

「ハッテン承知のスケだね!」

だからホモネタはやめろ。





――――――――――――――――――――――――――――――
     第十一話 「そういえばデスゲームだった」
――――――――――――――――――――――――――――――



ギィィィィ


いかにも何かある洋館です。みたいな重厚な屋敷に足を踏み入れる。

一体何があるのか……。

俺と漆黒は、辺りを警戒しつつゆっくりと屋敷を探索する。

俺が前衛、漆黒が後衛だ。武器のリーチ的には普通逆だが。
俺のほうが耐久高くて奇襲を処理するのが上手いので。

中はやたらと細長い通路と、曲がり角が多い。
コウモリだのゾンビっぽいのだのが襲ってくるが、雑魚すぎるので瞬殺連続。

確かに迷路っぽくて面倒だが、何が難しいイベントなのか分からん……。

そこまで考えた時だった。

      ・ ・ ・ ・ ・ ・
正面に、漆黒が現れた。


「えッ!?」

い、いつのまに前に?

そして後ろを振り向く。
すると。

       ・ ・ ・ ・ ・
そこにも、漆黒がいた。

「うおお!!セッシャがいるヨー!」


なんだと。
前を見る。漆黒がいる。後ろを見る。アホがいる。

これは一体……。

そんな風に悩んでいると、前の漆黒が襲いかかってくる。

「うおッ!え、こいつ、もしかしなくても敵か!」

くっ、驚いてて一撃もらっちまった。
結構いてえ。普通に漆黒から一撃もらうのと同じぐらい減ったぞ……。

「猫サン!こいつ敵だヨー!倒すヨ!」

漆黒が叫び、その敵に斬りかかる。
た、倒していいのか本当に……。なんか気がひけるんだが。

だが、そう考えてる間に、前の漆黒はろくな抵抗もなく、HPを空にし消え去った。
パリン、というポリゴン破砕ではなく、まるで影が地に溶けるように。

「えーと……お前は、本物だよな……?」

「当然だヨー。本物はいつも一つネ!」

ちょっと使い方が違う気がするが、まあいい。

どういうクエストなんだこれ……まさか……。



『そのまさかだな』


……!

今度は、俺の姿をした奴が正面に……。

「うおお、猫サンが二人いるヨー。声も同じヨー」

やはり声もか……。そんな気はしていたが。


『俺の名はドッペルゲンガーだ。一応よろしく。最ももう会わないかもしれないが』


「野郎……ッ」

こいつ……喋り方まで真似てやがる。
俺の姿をしたそいつは、言葉を続ける。

『最深部まで来れるといいな。じゃあな』

そのまま影が消え、その声だけが響いた。


くそ、なんてクエストだ。

なんでクリアされないか、なんとなく分かった気がするぜ。

まさか……




――――――
――――
――







そのまさかだった。

あの後、俺にそっくりな奴(俺が撃破した)。
そして再度、漆黒にそっくりな奴(俺が撃破した)。
その後またまた、漆黒にそっくりな奴×2(俺が撃破した)。

が出てきた。

段々、進むごとに棒立ちからキレのある動きに敵AIが変わってきている。

だが、おそらくここまではマジで前座だろう。

「これヤバいな……。あんなに似た偽物が出てくるってことは……」

「やっぱそういうクエストかヨ?」

おー漆黒もバカでないな。まあ大体想像つくか。


廊下を進み、ドアをあけ、中を確認してドアをくぐりつつ話す。

「おい、漆黒……離れるなよ。思うに、この館では、はぐれたらかなりヤバい」

そういいながら、後ろを見る。


    いねえ。


ていうか、今進んできた道がねえ。

いつのまにか壁しかないぞ。

さっきのドア、ワープポイントか……。



……メッセージ機能も使えないか。予想はしてたけどな。

しかし、強制的にはぐれ状態にされてしまった。
こいつは良くないな……。

さっきのAI、口調すら真似てきた。

開発者が頑張ったのか、SAOの会話アルゴリズムはめちゃくちゃいい。
人と変わらないぐらいの働きをする。
人とAIを会話で区別するのは結構難しいぐらいLVが高い。
戦闘のAIは結構規則的なのに……。

悪意を持って真似されたら、とてもじゃないがかなわんぞ。
最悪の場合、あっちは過去ログや身体データは勿論、
脳内スキャンだってしてるかもしれないんだからな。

だけど、俺は予想する。


これはきっと『そういうクエスト』なのだと。

なんつう性悪な……。

むしろ、だからこそ誰も挑戦しないんだろうが。



おそらく、一人になってからが本番。

多分、そろそろだ……。通路を歩いて、雑魚を処分しながら考える。

そう考える俺の目の前に、足音が響き、何者かが姿をあらわした。


ああ、やっぱりきたな。


目の前の人影をみて、そう思う。


「あ、猫サン!どこいってたヨー!」

「……」

さて、こいつはどうかな……。
ここで素直に、おお、巡り合えたなというのは簡単だが……。


「漆黒。合言葉を言ってもらおうか……。……山!」

「あ、合言葉かヨ?うーん………………川かまぼこ!」


……なんとも、答えとしては非常に漆黒らしいな。
まあいい。


「よし、いくぞ。ここは分かってると思うが、俺達と同じ姿の敵がでる。
 味方の振りして襲いかかってくるだろうからな。はぐれたら用心しろよ」

「OKヨ!でもそれ本当かヨ?」

「そんぐらい凶悪じゃないと、誰もクリアしてないという現状の説明にならんからな。
 多分間違いないだろ。前半の、揃ってる時に襲ってきたのは、
 まあサービスとかルール説明みたいなもんだ」

「なるほドー。じゃあ、別れたらあんま気を許しちゃダメかヨー」

「ああ。相手に確信もてるまではな。じゃないと、背中から切られて昇天するぜ」

「分かったヨー……。こんな風に、かヨ?」

シャキンッ!
スラッ!
ドガッ!!!

その言葉と同時に響く、武器が抜き放たれる音。
そして、続いて武器が急所を貫く音が辺りに木霊する。

「ゲャッ!!」

漆黒の叫び声と共に。

「バレてるんだぜ。偽物」

それは、背中越しに貫通攻撃を放つ俺の槍攻撃が、偽漆黒にヒットした音だった。
続けて連撃を放ち、相手の体力を減少させる。

「さっきの返答までの長い時間はどうだったのかな?過去の会話ログでも漁ってたのか。
 合言葉なんて決めてないから、見つからなかったと思うが、
 それとも、『向こう』で俺の振りして漆黒に尋ねたのか」

この手段をとられると、たとえ合言葉を決めてたとしても万全の信頼は出来ない。
だが俺は確信をもって、追撃を放つ。

「何故ヨ……」

「話す義務はないね」

「らぶりーまいえんじぇるにゃあ」

「よし、死ね」

結局、『正解』だったようで、とどめをさすと、奴はポリゴン破砕ではなく、影となり立ち消えた。
でもCPUに言われると、死ぬほどイラッ☆彡とするのは何故だろうか。


「しかし本気で性質の悪いクエストだな……」


今のが最後の選択ってわけでもないし、これが何回もくるのか……。
万一を考えるとクリアを諦めて帰りたくもなるな。

もっとも、俺には通用しないようだけどね。

問題は漆黒のほうだな。

つーかなんで、CPUがあの名前知ってんだよ。あっちで漆黒がしゃべったのか。

まったく、漆黒のほうは大丈夫なんだろうか。
全部ぶっ殺してくれてると安心なんだが。
偽物に殺されてくれるなよ本当。

でも、あの名前本当にいってたら、俺が殺そう。

――――――――――――――――――――――――――――――


「よう漆黒」

「ああッ、猫サン!急にどこ消えてたヨ!」

「待て……合言葉だ。山」

「川カマボコダヨ!」

「……よし、本物みたいだな。いくぞ」

「本物?……うーん」

「……どうした?」

「まあいいかヨー。いくネ、らぶりーまいえんじぇるにゃあこたん」

「……誰だそれ」

「貴様こそ飛脚を表すヨー!何者だヨ!」

「いや、俺は本物……」

「あれを言われっぱなしにしとくなんて、そんなの猫サンと違うヨ!電柱するネ!」

「グアア!」



――――――
――――
――


とかがあったんではないだろうな。

偽物を倒した俺は、一本道の通路を突き進む。

すると、通路からまた新たな漆黒が現れた。


「あ、漆黒か……ふむ、どうやら本物らしいな」

「ど、どーして断言できるヨ!?にゃあこたんこそ本……」

「『どうやら死にたいらしいな……』」

槍の穂先を漆黒に向ける。
お前マジでそれで判別してたのか。
なんだかとっても、相手を偽物と断定したい気分になってきたぞ。

「ちなみにこの館だとプレイヤーをぶった切ってもオレンジ扱いにならないらしいぞ、漆黒君……。
 あ、いや偽物だっけか」

「ネ、猫サン!猫サンの間違いヨ!拙者はモノホンヨー!
 ちゅーごく4000年の歴史あるいわくつきヨー!パチもん違うヨ! 」

「お前は南米生まれだろ……」

言えば言うほど怪しいんだが……。
まあいい。本物なのは分かってたし。どうせ他に識別も思いつかなかったんだろう。

「ふう……その殺気。間違いなく本物の猫サンみたいヨー」

「お前な……いっとくけどな、次からはその判別方法も恐らく使えんぞ。
 そういう風に一個一個潰してくるだろうからな」

「じゃあ、どーやって判別すんだヨー。たった一つの真実見抜く邪眼にでも目覚めたかヨー」

「まあにたようなもんかな。別に邪眼じゃねーけど。その少年探偵も邪眼じゃねーけど」

行く先行く先で人が死んでるから、あながち間違いでもないかもしれんが。

まあ種明かしをしようか。じゃないと、うわ、ついに邪眼いいだしたヨみたいな目でみつめてくる漆黒が鬱陶しい。

ま、そういっても、別に俺は難しい事をしているわけではない。

パチンと指を鳴らして、呼び寄せる。
そう、ゴーくんを。

「あー……。そういえば、見かけてなかったから忘れてたヨ」

「俺の相方を……まあ普段はずっと消してたり潜ませてたりするからね……」

つまり、種はそういうわけだ。
ゴーくんの眼を通すと、プレイヤーとCPUじゃオーラの色が違う。
プレイヤーは基本的に青系で、敵は赤系だ。
だから今までのダンジョンでも人型の敵とは楽に見分けれたし、ここでもそうだというだけだな。

「だから俺がお前を間違うことは絶対ないし……お前もゴーくんを見れば、俺が分かるはずだ。
 まあ面倒なら、お前は全員切って構わんぞ」

俺はお前よりLV上だしな。多少うけても問題ない。

「おお!久々にちーとっぽい感じだヨ!」

全く同感だ。ゴーくんには大分助けられるな。


「よし、じゃあいくぜ。はぐれるなといっても、強制的にはぐれるだろうがな。
 とにかく絶対戦闘じゃ気をぬくなよ?戦闘AIは低層LVみたいだから、真面目にやりゃ負けないはずだ。
 もしくは無視して逃げれ」

「大丈夫、拙者が今まで帰ってこなかったことがあったかヨ?」

おい、やめろ。その言い方は次こそついに帰ってこないフラグだ。

うーん……任せるしかないんだけどさ……。

はあ、まあ人事でもない。
俺も出来るだけ戦闘は避けていこう。

万一ということもあるしな。

最も、はぐれないのが一番良いんだが……。







――――――
――――
――



「……ってそう上手くもいかねーよな!」



迫り来るカタナの攻撃をかわしつつ、逃走を計る。
結局はぐれた。

逃げるに限ると言いたいんだが……。

「漆黒も結構面倒くせえな……」

ヲタの外見からは想像もできない速さだ。
最もこの世界の速さは見た目ではなく、単なる数値基準だからあたりまえだが。

「猫サン、逃げちゃダメヨー!敵前逃亡はダメヨー!」

「アホが!逃げるに決まってるだろうが!」

迫り来る漆黒の、カタナを弾き落としながら答える。
やはり、背後をみせるのは危険過ぎる。

立ち止まり、敵を……漆黒の姿をしたそいつを振り返る。

俺が逃げないと踏んだのか、そいつも今度は迎撃の構えに移る。


「猫サンのお祈り……頂戴するネ……。
 さあ……部屋の隅でお祈りするヨ……」

「……居合の構えか。
 あと、お前に言ってもいろんな意味で無駄だが、お命だからね。混ざってっぞ」

抜刀術か。

構えをとるとほとんど大きく動けず、ブレスなど範囲攻撃に弱くなる。
また、出し切った直後の硬直も大きい。
そのかわり、おそらく、全剣技の中でも最速の出の速さを誇る技。

その範囲内に入った瞬間、一瞬にして切り裁かれるだろう。

その上、この構え中は見切り性能が抜群に上がる。
いくら射程で上回る槍といえど、下手に突きを放てば
ギリギリで避けられて、その硬直中に被弾する可能性も低くはない。

だが、俺は躊躇なく攻撃した。

……投擲ナイフで。

高い敏捷値とスキルに支えられたそれは、体幹……もっとも避けづらい部分に
一直線に吸い込まれていく。

あたったところで、致命傷には程遠い。

だが、それが刺さるより先に、カタナが閃く。

抜刀術の発動。

一瞬のキラメキの後、空中にナイフが舞う。
投擲ナイフは失敗したのだ。

……だが。

「ここらへんがAIの悲しさだな」

人だったら、多少無理してでもよけて、態勢を立て直しただろう。
もっと豪胆なら、踏み込んでくる。
このゲームの投擲系攻撃は牽制にはともかく、
命のやりとりの決め手になるような火力なんかない。
食らってもカスリ傷ですむ。
そもそも、この状況で居合を選択しないか。
この硬直を俺が見逃すはずもない。

「トライズゲイル!」

漆黒の姿をした偽漆黒にその技を叩き込む。
1HIT,2HIT、3HIT!
全てが特攻。クリティカルになり、敵のヒットポイントは、あっという間に0になり消滅。
破砕音と共に、オブジェクトが崩壊し、消え去った。


……しかし、あいつは俺のドッペル相手にも、今みたいな意味不明セリフをいつもどおり乱発してんのか?
してるんだろうな、多分……。
その際、俺のドッペルがどう返してるか微妙に興味あるな……。










だがそれにしても、本当に性格の悪いイベントだ。


とにかく入れ替わりも多い。

曲がり角を曲がった途端、入れ替わりが起こり前を進んでいたはずの
メンバーに「やあ」と言いながら斬りかかられるなんてのもあったし、
逆に、後ろについてきた仲間が、いつのまにかドッペルさんで、
雑魚モンスターとの戦闘中に、まとめて斬られるなんてことも珍しくない。

曲がり角だったり、落とし穴だったり、真っ暗になったり、ワープ装置だったり。
とにかく分断したり見失ったりする仕掛けが多すぎる。


あれからも何回別れて、何回切り飛ばしたか分からん。


「敵のHPが低くて殺しやすいのがまだ楽だな……」

AIも戦闘に限っては素直だし。


デスゲームでなければな。本来なら死んでも復活できるし
「ひでーwww見分けつけろよww」とかいいながらじゃれあえるんだろうが……。

この状況下では、最悪の相性だ。

会話に関しては無駄によく出来てるNPCのAIが憎たらしい。

やれやれ。


――――――――――――――――――――――――――――――




そんなことを考えていると、ようやっと、本物の漆黒に出会えた。

あっちも無事のようだな。すげー疲れるこのイベント。

今までの情報を交換する。特にあっちでも見分けは苦労しない……というか全部斬ってきたようだ。
ゴーくん無しは確定で、ある奴は全員ゴーくんごと襲ってきたらしい。
本当に戦闘AIは別種で素直だな。俺は一切ゴーくんを戦闘で使わないんだけど。

「ところで偽物の俺に苦戦しなかった?」

「苦戦したヨ-!猫サンつおいヨー。でも、猫サンに教えてもらったとおり、
 物投げつけて踏み込んでしまえば、こっちのもんだったヨ。お茶の子粉砕ダヨ」


……。
なんだろうこの気持ち。攻略法教えた上でいうのもなんだが、もっと苦戦して欲しかった気もする。
いや、別に死んでほしいとかそういう意味ではなくて。

「……まあ、槍の接近戦は、一番プレイヤースキルが問われるからな。
 AIに真似されちゃ立つ瀬ねーよ。
 あと、お茶の子さいさいね。そのままでも意味は通りそうだけど」

「ところで、ここの報酬なんなんだローね」

スルーですよね。分かってたよ。でもそれでも言わずにいられない。

「さあな。低層アイテムだし、受ける条件もゆるい。ほぼ万人が受けれる。
 本来なら何回もトライすればそのうち絶対入手できるはずだ。
 こんな状況じゃなければな。
 だから実はそこまで良い報酬とは思ってないぜ」

「hm……」

「それより、今度こそなるべく離れるなよ。
 俺たちならまず間違わないとはいえ、何かと面倒臭いからな」

「まかせとけヨ!」


グッと、親指をつきたてつつ、眼鏡を中指で押し上げてポーズを決める漆黒。
それ、カッコいいのか?
無駄に爽やかな笑顔が逆にむかつくな。


とそのポージングと同時に。


カチッ


漆黒が明らかに色違いのパネルを踏む。
光が舞い降りる。
漆黒が光に包まれる。
ポーズした笑顔のままいなくなる。
どうみてもワープトラップです本当に糞野郎。


またさがすのか……。
何時間かかってるんだほんと……。


居なくなった空間に目を向け、しみじみと黄昏る俺だった。











その後も、分離と再開を繰り返し、ついにボスっぽい部屋の前までくる。

長かった……。無駄に。
あれからも切りかかってくる漆黒を何回切り飛ばしたか分からん。

正直いってちょっと気持よかったのは内緒だ。

このクエスト、繰り返し受けれるならストレス解消に……いやいや、貯まるほうが大きそうだ。

首を振り、扉を開けようとする。
その前にゴーくんで視認。
……これは。



「おい、中にかなりたくさんいるぞ。漆黒、準備はいいか?」

「準備簡単だヨ!」

「万端な。よし、いくぜ」




ギィィ……。

音を立てて扉をあける。中に見えるは、たくさんの漆黒……そして、俺。


『よくぞここまで来た……我らが最後の洗礼をうけるがいい』


「……これ全部倒せってか?今度は乱戦での誤爆を狙う気か」

「うおおー!これは……これはヤバイ、ヤバイよ猫サン……ッ!」


む、漆黒がいつになく真剣モードだ。
こんなに真剣な漆黒は初めてみるかもしれん。
確かに下手をすれば死ぬ可能性もある……。
気合いれるか。


「拙者がこんなにもたくさんいるヨー!動いてるヨー!カッコイイヨー!」
「「「「カッコイイヨー」」」」」

そっちか。
しかもマジだったのか。やっぱり。
薄々思ってたけど、気づいてたけど、やっぱり素で思ってたのか。
本当にコイツは一切ブレないな。

俺はあえて自分の容姿に触れないようにしてたのに、一瞬で触れにいきやがった!

「「「「「……」」」」」

俺の方の分身は一切無言のようだ。うん、気持ちはよくわかる。

「……全員倒すぞ。俺は俺に来る奴だけを倒す。
 お前は間違っても俺に斬りかかるなよ!」

まあ、あそこまで自分大好きなのは、それはそれで幸せそうで羨ましいかもしれん……
毒されてるかな?





―――――――――――
――――――
――

30分後……



「ベヒモス・インパクト!」


ズシュッ

ダイヤのごとき硬度を持つ槍が、敵の頭部を貫き、HPを0にする。
粉砕される敵オブジェクト。
何も無い空間から、槍を引きぬくように手元に戻す。

……今ので最後かな?

「ふう。これで終りか。流石にステータスは今までと違って低層クラスだったな。
 見た目だけ似せただけの雑魚敵だ」

「疲れたヨー」

「ともかくこれで、次の……おっと、早速きたな」

「おおっ宝箱が出てきたよ!きっとクリアーダヨ!」

「みたいだな。同時に出口へのワープも出現したし……早速開けようぜ」

「楽しみネ!そう、さながら好きな子が同じクラスにいるときの席替え発表の瞬間のゴトク!」

「そういや漆黒は中学生だったか……」

まああの頃の席替えはロマン度高いよね。
そんなやり取りをしながら、宝箱を開く。
すると出てきたのは……。

”真っ黒に”彩られた、シンプルな腕輪がそれぞれの手におさまった。

「『信頼の腕輪』……?
 効果は……何々。
 『プレイヤーキャラに致死量のダメージを与えたとしても、必ずHP1を残す。
  また、同装備同士が戦った場合、オレンジ判定を受けない』……ね。
 ……ほう、これは最高にジョークが効いてるな」

「どういうことだヨ?」

「つまり、この腕輪を装備している限り、どんだけ人を殺そうと思っても
 絶対にHP1が相手に残るっていうわけだな。
 あと、この腕輪を装備してる奴ら同士では、
 攻撃しあってもオレンジネーム(犯罪者判定)にならんということだ」

「おお!面白い効果ダヨー。
 良いアイテムじゃないかヨ?
 この腕輪付けてれば、こういうダンジョンでも全く怖くないヨー。
 普通のダンジョンの乱戦でも怖くないし、
 他にも、決闘しても万が一も起こらないヨ?
 PK誘発イベントの先に、PKを防ぐアイテムとは凄い配置ダヨ」

楽しそうに黒色に染まった腕輪を眺める漆黒。
だが俺はそれに危機感を抱かずにいられない。
体中を冷や汗が伝っていく感覚。
この恐怖感はデジタルではない。

「これが、PKを防ぐアイテムだって?
 ……冗談だろ漆黒。

  ・ ・ ・ ・ ・ ・
 逆だぜこれは。

 恐ろしいアイテムもあるもんだ。危険きわまりないぞこいつは」


もしかすると、漆黒が普通で、アイテムも普通なのかもしれない。
こんな発想をする俺が危険なのかもしれない。
俺が異端なんだろうか?いや普通の発想……だと思う。


「漆黒。この情報は決して外に流すな。
 このクエストのことも、このアイテムのこともだ。
 お前がソロをやめて、PTになることがあっても、可能なかぎり墓まで持って行くんだ。
 出来る限り見せず、説明は一切しないことだ。
 このクエストのクリア者や挑戦者がいないのは、本当に幸運だぞこれは」

「ど、どうしたんだヨ?猫サン」

「トレード不可アイテムになってるのが、せめてもの親切設計だな……。
 クエに挑み、クリアしない限り手に入らないか。
 この館自体といい、報酬といい、作った奴はとんでもなく性格悪いな。
 いや、作ったのは茅場だったか。
 もしデス・ゲームを見越して置いたなら、悪魔的底意地の悪さだ」

「さっきから猫サンが何言ってるか分からないんだけどヨー……」

「……分からないなら、それでいい。分からないほうが、人として正しいんだろう。
 だがコレに関しては沈黙を守るということだけ、約束してくれないか」

「おー。なんかわかんないけど、約束するヨ!
 信頼してくれヨー!
 『信頼の腕輪』っていう名前ダケに!!」

「ありがとうよ。漆黒。まあ適当に埋め合わせはするよ。
 しかし『信頼の腕輪』ね……。
 これ以上無いぐらいに、クソ適切な名前だね。
 今までみてきた名前の中でもぶっちぎりだよ」
 
「猫サン……なんか怖いヨー。なんかスルーされた気がするし……」

「ん……そうかもしれんな。すまん。
 まあ、プラスに考えれば俺らしか持ってないんだから、気にしなくてもいいか。
 挑戦者も最近いないみたいだし、基本的にそういうのは減り始めたら減る一方だしな。
 ……じゃあ帰りますか」

「そうだヨー。考えすぎダヨ色々トー」

そして、漆黒と館を後にした。
NPCの女性にも会いに行き、幾許かのお金をまた別の報酬としてもらい、それでこの件は完全に終了した。





表向きは。
だけど、俺の中では、俺の何かに火をつけたクエストになった。

そうだな、1年ぶりぐらいか。もうゲーム開始からはそれぐらい経つか。

それぐらいぶりに、製作者……茅場への直接の怒りを感じたぜ。
ふざけた真似をする……。
そんなに人が無意味に殺し合うところがみたいのか?

クソが。
ふん、でも俺はこれを使う気はない。
人間が皆そこまで腐ってると思ったら大間違いって奴だぜ。
俺は性善説なんだよ。

だけど、それにしても……。
茅場……一体あいつは、今、何をやってるんだろうな。

こんなクエストや報酬を作った上でデス・ゲーム化するぐらい、性格のひねた奴。

そうだな、もし、俺が茅場なら……。

俺が奴の立場だとしたら……今頃、何をするかな。




――――――――――――――――――――――――――――――



ちなみに、後々知ったことだが……


実際に、ここで殺害事件が起きたらしい。
事故じゃない。事件な。意図的ってわけだ。

あるギルドの、リーダーを邪魔に思った副リーダーが、ここに誘ってどさくさ紛れに殺したという話だ。
その副リーダーのほうも、既に今となっては「いない」みたいだが。

とにかく、その事件があって以来、ここに誘う=PK目的、という風潮が出来上がってしまい、
余計に誰もいかなくなったようだ。たとえリーダーと副リーダーのような密な関係でも……だ。
低層というのも拍車をかけた。
俺もそう考えたように、皆大したことのないアイテムのはずだ、と思い込んだわけだ。
酸っぱいブドウって奴だな。
ま、確かに狩りに限れば全く大したアイテムではない、それは事実だけどね……。

世事に全く疎かった俺たちが入ったのは、まさしく世事に疎かったからに他ならない。
もし世間のそういう噂の只中にいたら、とてもじゃないけど漆黒を誘えなかっただろう。
誘うという行為事態が、相当冷たい目でみられるからな。
校舎裏に呼び出す差と、伝説の樹の下に呼び出す差だな。


ガチソロだったことが、あの館への挑戦でも、なんなく受け入れられたんだ。
世の中、何がどう幸運につながるか、分からんもんだね。


そう、幸運だった。
まさしく。
このPK誘発クエストに参加したのは、不幸ではなく、幸運だった。

俺は後々、この幸運に凄まじく感謝をすることになる。
この黒に彩られた腕輪に。
それが本意だったか、不本意だったかは、後々でも判断がつかなかったけれどね。


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第十一話 「そういえばデスゲームだった」 終わり
第十二話 「虐殺の日」          へ続く



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