<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.25786の一覧
[0] 普通の先生が頑張ります (更新再開…かな?[ソーイ](2011/06/08 19:02)
[1] 普通の先生が頑張ります 0話[ソーイ](2011/04/10 19:06)
[2] 普通の先生が頑張ります 1話[ソーイ](2011/04/10 16:49)
[3] 普通の先生が頑張ります 2話[ソーイ](2011/04/08 22:17)
[4] 普通の先生が頑張ります 3話[ソーイ](2011/04/08 22:52)
[5] 普通の先生が頑張ります 4話[ソーイ](2011/04/08 23:22)
[6] 普通の先生が頑張ります 5話[ソーイ](2011/04/08 23:43)
[7] 普通の先生が頑張ります 6話[ソーイ](2011/04/09 10:03)
[8] 普通の先生が頑張ります 7話[ソーイ](2011/04/09 10:16)
[9] 普通の先生が頑張ります 8話[ソーイ](2011/04/09 10:36)
[10] 普通の先生が頑張ります 9話[ソーイ](2011/04/09 13:58)
[11] 普通の先生が頑張ります 10話[ソーイ](2011/04/09 14:38)
[12] 普通の先生が頑張ります 11話[ソーイ](2011/04/09 15:24)
[13] 普通の先生が頑張ります 12話[ソーイ](2011/04/09 18:20)
[14] 普通の先生が頑張ります 13話[ソーイ](2011/04/09 22:23)
[15] 普通の先生が頑張ります 14話[ソーイ](2011/04/09 23:12)
[16] 普通の先生が頑張ります 15話[ソーイ](2011/04/09 23:47)
[17] 普通の先生が頑張ります 16話[ソーイ](2011/04/10 16:45)
[18] 普通の先生が頑張ります 17話[ソーイ](2011/04/10 19:05)
[19] 普通の先生が頑張ります 18話[ソーイ](2011/04/11 21:15)
[20] 普通の先生が頑張ります 19話[ソーイ](2011/04/11 21:53)
[21] 普通の先生が頑張ります 20話[ソーイ](2011/02/27 23:23)
[22] 普通の先生が頑張ります 21話[ソーイ](2011/02/27 23:21)
[23] 普通の先生が頑張ります 22話[ソーイ](2011/02/27 23:19)
[24] 普通の先生が頑張ります 23話[ソーイ](2011/02/27 23:18)
[25] 普通の先生が頑張ります 24話[ソーイ](2011/02/26 22:34)
[26] 普通の先生が頑張ります 25話[ソーイ](2011/02/27 23:14)
[27] 普通の先生が頑張ります 26話[ソーイ](2011/02/28 23:34)
[28] 普通の先生が頑張ります 27話[ソーイ](2011/03/01 23:20)
[29] 普通の先生が頑張ります 28話[ソーイ](2011/03/02 22:39)
[30] 普通の先生が頑張ります 29話[ソーイ](2011/03/04 22:42)
[31] 普通の先生が頑張ります 30話[ソーイ](2011/03/08 00:19)
[32] 普通の先生が頑張ります 31話[ソーイ](2011/03/07 23:33)
[33] 普通の先生が頑張ります 32話[ソーイ](2011/03/10 00:37)
[34] 普通の先生が頑張ります 33話[ソーイ](2011/03/09 23:47)
[35] 普通の先生が頑張ります 34話[ソーイ](2011/03/10 23:15)
[36] 普通の先生が頑張ります 35話[ソーイ](2011/03/13 23:11)
[37] 普通の先生が頑張ります 36話[ソーイ](2011/03/14 22:47)
[38] 普通の先生が頑張ります 37話[ソーイ](2011/03/15 23:56)
[39] 普通の先生が頑張ります 38話[ソーイ](2011/03/16 23:15)
[40] 普通の先生が頑張ります 39話[ソーイ](2011/03/17 23:03)
[41] 普通の先生が頑張ります 40話[ソーイ](2011/03/18 22:46)
[42] 普通の先生が頑張ります 41話[ソーイ](2011/03/19 23:49)
[43] 普通の先生が頑張ります 42話[ソーイ](2011/03/20 23:12)
[44] 普通の先生が頑張ります 43話[ソーイ](2011/03/21 22:44)
[45] 普通の先生が頑張ります 間幕[ソーイ](2011/03/23 07:49)
[46] 普通の先生が頑張ります 44話[ソーイ](2011/03/23 23:24)
[47] 普通の先生が頑張ります 45話[ソーイ](2011/03/25 23:20)
[48] 普通の先生が頑張ります 46話[ソーイ](2011/03/26 23:23)
[49] 普通の先生が頑張ります 47話[ソーイ](2011/03/28 00:29)
[50] 普通の先生が頑張ります 48話[ソーイ](2011/03/28 23:24)
[51] 普通の先生が頑張ります 49話[ソーイ](2011/03/30 00:25)
[52] 普通の先生が頑張ります 50話[ソーイ](2011/03/31 00:03)
[53] 普通の先生が頑張ります 閑話[ソーイ](2011/04/01 00:36)
[54] 普通の先生が頑張ります 51話[ソーイ](2011/04/01 23:50)
[55] 普通の先生が頑張ります 52話[ソーイ](2011/04/03 00:22)
[56] 普通の先生が頑張ります 53話[ソーイ](2011/04/04 23:45)
[57] 普通の先生が頑張ります 54話[ソーイ](2011/04/05 23:24)
[58] 普通の先生が頑張ります 55話[ソーイ](2011/04/06 22:31)
[59] 普通の先生が頑張ります 56話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:46)
[60] 普通の先生が頑張ります 57話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[61] 普通の先生が頑張ります 58話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[62] 普通の先生が頑張ります 59話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[63] 普通の先生が頑張ります 60話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[64] 普通の先生が頑張ります 61話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:48)
[65] 普通の先生が頑張ります 62話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:48)
[70] 普通の先生が頑張ります 56話(修正版[ソーイ](2011/04/28 23:46)
[71] 普通の先生が頑張ります 57話(修正版[ソーイ](2011/04/28 23:27)
[72] 普通の先生が頑張ります 58話(修正版[ソーイ](2011/04/30 22:52)
[73] 普通の先生が頑張ります 59話(修正版[ソーイ](2011/05/18 23:24)
[74] 普通の先生が頑張ります 短編 【茶々丸】 [ソーイ](2011/05/23 23:47)
[75] 普通の先生が頑張ります 短編 【エヴァンジェリン】 [ソーイ](2011/05/23 23:42)
[76] 普通の先生が頑張ります 短編 【エヴァンジェリン】 2[ソーイ](2011/05/25 23:21)
[77] 普通の先生が頑張ります 短編 【月詠】 [ソーイ](2011/06/08 23:06)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[25786] 普通の先生が頑張ります 53話
Name: ソーイ◆10de5e54 ID:052e1609 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/04 23:45
「いらっしゃいませー!」

 おお、繁盛してるなぁ。
 見た感じ、席も全部埋まってるし。
 入り口の写真一枚300円の張り紙は需要があるのかは気にしないでおくけど。
 学祭の生徒と写真なんて、誰か撮るんだろうか?
 ……撮るんだろうなぁ。
 きっと、俺の学生時代もこんなもんだったんだろう。
 そう思うと、余計に恥ずかしくなってくるな。

「あ、センセー」

「よー、繁盛してるみたいだな、月詠」

「はい~。客入り良くて、てんてこ舞いですわ~」

「なるほどなぁ」

 そりゃ良かったな。
 学園祭の出し物の売り上げって、プラスになったら生徒の小遣いになるしな。
 まぁ、どこまでプラスになるかはこの子達次第だろう。

「うわ、これはまた凄いね」

「あ、瀬流彦先生~」

「2人だけど、大丈夫か?」

「え~……合い席で良いでしょうか~?」

 だよなぁ。
 だって、席全部埋まってるもんな。

「瀬流彦先生、大丈夫ですか?」

 そう言うのは少し苦手だが、出来るなら売り上げに貢献しておきたいし。

「僕は構わないよ」

「そうですか? それじゃ月詠、案内してもらえるか?」

「はい~。2名様入りますえ~」

 そこはいつものお前と変わらないんだなぁ。
 と言うか、服装だけ違って、あんまり変わらないのか。
 メイドって言うから、言葉遣いから変わるんだと思ってた。
 それに、練習してたし。
 というか、

「あれ? 月詠、なんか服装違わないか?」

 以前来てたのは、皆と同じ服だったのに……今日のは、なんか違う。
 何が違うのか、と聞かれたら少し困るが。
 細部が違う……のか?
 うん、何か言葉で説明しにくい。
 大体、メイド服の善し悪しなんて判らないし。

「あ~、あやかさんが用意してくれはったんですよ~」

「雪広が?」

「はい~」

 へぇ……って、アイツはメイド服を何種類持ってるんだ?
 普通、一家に一種類だろ。
 ……まぁ、普通の家庭には無いけどさ。

「よく似合ってるね」

「ありがとですえ、瀬流彦先生~」

 あ、先に言われた。

「良かったな、月詠。良く似合ってるぞ」

「はい~。ありがとうございます、お兄さん~」

 ……俺はその呼び方なのか。
 なんだかなぁ。
 やっぱり、こういう場所でも、月詠は相変わらずだなぁ。
 折角練習したんだろうに。
 まぁ、自分から御主人様と呼んでほしい訳でもないけど。

「コレ、和風に造ってあるんで着やすいんですよ~」

「へぇ、良く出来てるねぇ」

 ああ、そうか。
 何が違うって、首元が開いてると言うか、着物みたいになってるのか。
 はー……凝ってるなぁ、雪広家。
 ……こう言うのが好きなんだろうか?
 考えないでおこう。うん。

「エヴァンジェリンさ~ん、センセーが来ましたえ~」

「一々呼ぶなっ」

 うーむ。マクダウェルも随分クラスに馴染んでるなぁ。
 声は聞こえるが姿は教室内には見えない。
 多分、厨房の方に引いてるんだろう。

「……エヴァンジェリンも居るの?」

「? ええ、そうみたいですね」

 隣から、少し強張った声。
 隣を見ると、笑顔が引き攣った瀬流彦先生が居た。
 どうしてそこで、そうまで……ああ、そうか。
 瀬流彦先生はマクダウェルが吸血鬼だって知ってるのか。
 そりゃ、吸血鬼がメイドだなんて……驚くよなぁ。

「それではセンセー方、こっちですえ~」

「おー」

「はは、どんなのが出てくるか……楽しみだなぁ」

 だから、笑顔が引き攣ってますって。
 そう言って月詠に案内された席に居たのは……。

「おや」

「ほほ、先生達も昼かの?」

 高畑先生と、学園長だった。
 ……何と言うタイミングだ。
 うーむ。

「御主人様方~。申し訳ありませんが、相席よろしいでしょうか~?」

「うむ、かまわんよ」

「申し訳ございません」

 というか、ちゃんと学園長と高畑先生にはそう言うのな。
 むぅ……何と言うか、むぅ。
 先生はちょっと寂しい。
 そう思いながら、月詠に引かれた席に腰を下ろす。
 そして、瀬流彦先生も。

「すみません、学園長、高畑先生」

「構わん構わん。食事は大勢と食べるに限るからの」

 そう言ってもらえると助かります。
 そう頭を下げ、どうするかな、と。
 とりあえずメニューを開く。
 内容は喫茶店としてはオーソドックスなスパゲティが数種とサンドイッチ、紅茶とコーヒーに……最後に何故かおにぎりがあった。
 ……なんで?
 浮いてるなぁ。
 とりあえず、食べる物を決め、瀬流彦先生にも確認をとる。

「注文、決まりましたか?」

「うん」

「それじゃ、呼びますね」

 注文を言おうと、傍を通った那波に声を掛ける。

「注文良いか?」

「勿論でございます、御主人様」

 ……似合ってるなぁ。
 なんというか……うん。

「なんでございましょうか?」

 目が怖いぞ、那波。
 いや、年齢的な事は考えてないからな?

「それじゃ――」

 自分の分と瀬流彦先生の分の注文を伝え、ふぅ、と一息。
 どうして那波は、あんなに気にするかなぁ。
 しかも、妙に鋭いし。
 本当に中学生か?
 ……やめとこう。後が怖い。

「ほほ、このクラスは皆楽しそうじゃな、先生」

「そうですか?」

 そう言ってもらえると嬉しいです、と。
 やっぱり、折角の学園祭だし、楽しそうだと言われると、嬉しいもんだ。

「皆、頑張った様じゃの」

「はい。準備にも気合が入ってましたし」

「それは楽しみだね」

 とは高畑先生。
 あ、そう言えばまだ料理が来て無かったのか。
 丁度同じ時間に来たみたいだな。

「先生、最近は調子はどうだい?」

「……はは、なんとか頑張ってます」

 本当に、何とか、ではあるけれど。
 そんな事を話していたら――厨房の方が、少し騒がしくなった。
 どうしたんだろう?

「何か問題があったのかな?」

「どうでしょう?」

 そう瀬流彦先生に言われ、見にいった方が良いかな、と少し腰を浮かし、再度下ろす。
 こう言うのは生徒で、と思った事もある。
 確かに、少しだけそう思った。
 けど――うん。

「明日菜君は、相変わらず元気みたいだね」

「そうですね……」

 なんだ。
 神楽坂もこの時間帯のシフトだったのか。
 何と言うか、うん。
 何で騒いでるのか良く判った気がする。
 ……クラス全員知ってるもんなぁ。
 はぁ。

「なるほど、賑やかなのは明日菜君か」

「ぅ……スイマセン、学園長」

「よいよい。こう言うのも、祭りの醍醐味じゃ」

 うぅ。
 どうやら、料理が届くのはもう少し遅くなりそうである。




――――――エヴァンジェリン

「エヴァちゃーん、先生来たよー」

「それどころじゃないっ」

 ああ、まったく。
 さっきから早乙女ハルナが声を掛けてくる。
 内容は、まぁ、なんだ。
 うん。
 絶対勘違いしてるからな、お前?
 まぁ、それは置いておいて。

「さっさと持って行け、明日菜」

「うぅ……」

 何を躊躇ってるんだか。
 誰だって同じ事をやってるんだ、お前だけが特別じゃないんだ。

「だってぇ」

「タカミチをカボチャか人参か、なんか野菜かに例えて見ておけば大丈夫だろ」

「高畑先生を野菜になんて見れる訳無いでしょ!? 罰が当たるわ」

「当たるか、バカ」

 ……さっきからこの調子である。
 はぁ。
 厨房の隅で蹲ってるバカをどうしたものか。
 というか、誰も変わりに持っていかないしな。
 ……私もだが。

「じじいも待ってるんだぞ?」

「うー……誰よ、メイド喫茶なんて言ったの」

「お前も面白がって一票入れてただろうが……」

 何を言ってるんだ、お前は。

「ううー」

「タカミチも腹を空かせてるぞ?」

「ぁぅー」

 鳴き方が変わったし。
 それに、せっかく作ったサツキの料理が冷めるのも面白くない。
 どうしたものか……。
 そんな時、ポニーテルに纏めていた髪を軽く引っ張られた。。
 ……私の髪は、呼び鈴代わりじゃないんだが?
 誰だ? こんな非常識な奴は。

「なんだ? ……どうした、早乙女ハルナ?」

「はい、これ」

 差し出されたのは、別の料理の載ったトレイだった。
 ……う。

「4番テーブルいってらっしゃーい」

「はぁ……って、4番ってタカミチ達じゃなかったか?」

 明日菜の手に在るトレイを見る。
 うん、4番って書いてある紙がちゃんとあるな。
 私の手のトレイを見る……紙には4番と書いてある。

「あ、先生と高畑先生達って合い席だから」

「なるほどなぁ」

 ふむ。

「ほら明日菜、先生のついでに持っていけば、言い訳も立つだろ?」

「違うでしょーがっ」

 うわ、バカっ。
 いきなり肩を組むなっ。
 落とすだろうがっ。

「見本よ、見本」

「なに?」

 後、何で耳元に口を近付ける?
 気持ち悪いぞ。

「こう、エヴァちゃんがお手本を見せてあげれば明日菜だってできるでしょう?」

「うん」

 即答したよ、このバカ。
 後で頭の形が変わるくらい叩いてやろうか?

「それより、先生のついでにタカミチに持っていった方が……」

 楽だろ、と言い終る前に、背を押される。
 むぅ。

「面倒だ」

「仕事なので、多少の面倒は我慢するよーに」

「……くそ」

「ちゃんと練習したでしょー?」

「……楽しそうだな」

「まぁねー」

 あー、ムカツクな、その笑顔。
 これが男なら、その頬を殴り飛ばしてる所だ。

「お前が持っていけば良いだろうが……」

「やぁよ。面白くない」

「……仕事に面白さを求めるなよ」

「面白くない仕事じゃ長続きしないからねー」

 ああ言えばこう言う。
 はぁ……コイツ苦手だ。

「判った判った。ほら明日菜、行くぞ?」

「うん。判った……え?」

 今度はなんだ?

「一緒に行くの?」

「当たり前だろうが……これ以上、タカミチを待たせる気か?」

 この際、もうじじいはどうでも良い。
 どうせ、明日菜が困ってるのはタカミチの事だし。
 ……まったく。
 そんなに好いた男の前に出るのが嫌なんだろうか?
 ……まぁ、こんな姿を見せるのは少し抵抗があるのだろうけど。

「なら、一人で行くんだな」

「わーわーっ、待ってよー」

 結局付いてくるし。
 まったく、世話の焼ける奴だな。
 さて、と。

「ようこそ、先生」

「おー。よく似合ってるなぁ」

「世辞は良い」

 …………まったく。
 チャチャゼロの奴め、要らん事を言うから、まったく。
 ふん。
 あー、まったく。
 朝と同じような褒め方じゃないか。
 そんなんじゃ、全然駄目だ。
 まったく。
 ……本当に、褒め慣れてないんだなぁ

「注文の品を置いて行くぞ」

「……もーすこし、愛想良くは出来んのか?」

「ふん」

 それは無理と言うものだ。うん。
 流石にそれは……何と言うか、うん。
 そして、

「瀬流彦、お前もこう言うのは――」

 好きだったなのか、と聞く前に

「高畑先生っ」

「な、なんだい? アスナ君?」

 やたら気合の入った声でタカミチを呼ぶ明日菜。
 ……何をやってるんだか。

「これっ、どうぞっ」

 あーあー……そんな力一杯突き出さなくても。
 見ているこっちが心配になってくるぞ……。

「そ、そう? ありがとうね?」

「はいっ、一生懸命作りましたっ」

 サツキがな。
 言っておくが、お前は何も作って無いからな?
 ……まぁ、そんな事は言わないが。

「そうなのかい? ありがたくいただくよ」

「はいっ。いただいて下さいっ」

「落ち着け」

 ペシ、と少し背伸びしてその頭を叩く。
 まったく。
 大声で喋り過ぎだ……恥ずかしいヤツだな。

「あ、あわ……」

 今度はなんだ?
 内心で若干面白がりながら、その顔を見ると――。

「し、失礼しましたーーーっ」

 走って厨房に消えていった。
 …………耐えきれなくなって、逃げたか。
 はぁ。

「元気じゃのぅ」

「アレより元気なのはそうは居ないだろ」

「そうだなぁ」

 どうしてもらえて嬉しいよ、先生。
 そう言って2人で笑う。
 はぁ、賑やかなヤツだ。本当に。

「楽しそうじゃのぅ」

「退屈はしないさ。……あーまで賑やかな奴は、他に知らないしな」

「そうかい?」

「ああ」

 ま、賑やか過ぎるのも考え物だがな。
 それもまぁ、一つの楽しみか。

「そうか……アスナ君も楽しんでるみたいだね」

「……そこは、どうだろうな」

 楽しんでるか?
 ……それどころじゃないと思うんだが。
 コイツの目も、相変わらず節穴だなぁ。

「エヴァ、アスナ君と仲良くしてやってくれ」

「ふん」

 別に……まぁ、なんだ。
 言われるような事じゃないさ。
 ……ふん。

「じゃあな。追加で注文があったら、誰かに言ってくれ」

「マクダウェル」

 そう、呼び止められた。
 なんだ、と振り返る。

「相坂は?」

「さよなら、あそこだ」

 窓際、造花で飾られた一角にチャチャゼロと並んで、メイド服に着替えたさよが座っている。
 流石に動き回る事は出来ないが、あそこからなら教室全体が見えるし、この忙しさだ。
 少し動いたくらいじゃそう不信がられないだろう。

「判った」

「少し話でもしてやってくれ」

「おー」

 ふぅ、このままもう戻るか。
 そう思い、今度こそ背を向け。

「あ、そうだ」

 なんだ、まだ何かあるのか?

「もー少し、愛想良くな?」

「…………う」

 出来るか、と言ってやりたかった。
 だって、なぁ?
 私は吸血鬼だぞ?
 悪い悪い魔法使い。
 そして、魔法使いが恐れる魔法使いなのだ。
 そんな私が、だ。
 ……言えるか、と。

「ま、3日あるんだし。最終日に期待してるぞ?」

「……ふん」

 まったく。
 ああ、まったくっ。
 あーもう。
 ……なんだかなぁ。
 足早に厨房に逃げ込み、内心で溜息を吐きながら、平静を装う。
 そんな時、肩を軽く叩かれた。

「なんだ?」

 叩いたのは、やっぱりと言うか、早乙女ハルナ。
 その顔は……うん。
 お前が男なら、私はきっと殴ってるな。

「いやー、さっきのは駄目だわ」

「アレよりマシだろ」

 駄目出しは、まぁ良い。
 だが、そこだけは譲れなかったのでまた厨房の隅で影を背負ってるバカを指差す。

「どっちもどっちでしょうが」

 ふん。そんな訳あるか。

「はん。ろくに喋れなかった奴よりはマシだろ」

「先生にちょっと褒められただけでニヤニヤしてた子供よりマシよっ」

「誰がニヤニヤしてたっ」

 そんな事はないっ。
 くそ、変な事を言うなっ。

「そう? 私が見てた限り、ずーっと先生の方ばっかり気にしてた様だったけどねっ」

「お前なんか、料理突き出しただけで逃げだしただろうがっ」

 それに、別に気にしてないっ。

「どうどう」

「「私は馬かっ」」

「……そんな所は仲良いのね」

 ……ふん。
 まぁいい。
 コレで厄介なのは終わったんだ。
 後は適当に頑張って仕事を終わらせよう。
 うん。
 そんなこんなでシフト交代の時……。

「あら、お疲れですね二人とも」

「げ、あやか」

「女性がそのような物言いはどうかと思いますわ」

 まぁそうだな。
 更衣室代わりの空き教室ですれ違ったのは昼過ぎからのシフトだった雪広あやかと……。

「誰だ?」

「ネギ先生ですわ」

 …………?

「うぅぅ……」

 …………?

「何か言って下さいよぅ、明日菜さん、エヴァンジェリンさん」

 …………あー、なんだ。

「……そんな趣味があったの、ネギ?」

「それは流石に……」

 メイド服着る趣味があったのか、ぼーや。

「よくお似合いですわ、ネギ先生」

「嬉しくないですよっ!!」

 だろうなぁ。
 ……あー。

「まぁ、なんだ」

「少しでも皆さんのお手伝いを、と思ったのに……」

 そして女装か。

「鬼だな、雪広あやか」

「何か言いましたか? エヴァンジェリンさん?」

「いや、なにも……」

 とりあえず、見なかった事にして空き教室に入る。
 …………………。

「似合ってたわね」

「そうだな」

 …………災難だな、ぼーや。
 それしか思い浮かばない。
 そんな事を考えながら着替え、

「次のシフト。あやかを止めれるのって誰かいたっけ?」

「……次のシフトの面子が判らん」

「私もだわ」

 …………本当に、災難だな、ぼーや。
 あとで、チャチャゼロとさよを迎えに行く時に様子を見に行ってやるか。




――――――

「あ」

「あ」

 午後からも特に目的地を持たず、のんびりと見回りを行っている途中、丁度、近いうちに会いに行こうと思っていた少女とばったりと出くわした。
 高音=D=グッドマン。
 つい昨日会ったばかりの聖ウルスラ女子高等学校の2年生……らしい。
 直接の授業は受け持った事が無いから、人伝に聞いただけだけど。
 そして、以前そのグッドマンを姉と呼んでいた佐倉も一緒に居た。

「おはよう、グッドマン、佐倉」

「おはようございます先生」

「お、おはようございます」

 えーっと。
 会いに行こう、とは思っていたがこうばったりと会うとは思っていなかったので、まず何から話そうかな、と。
 そう思い、心中で何から話すか考えていた所、先にグッドマンから話を振られた。

「先生。昨日はお見苦しい所をお見せしました」

「ん?」

 なにが?
 と、聞く前に頭を下げられた。
 ……何かしたっけ?
 昨日って言ったら、昨日は……アレか。
 グッドマンの魔法を見た。
 それと、超の事だろう。
 でも、頭を下げられる……事かも知れない。
 昨日のマクダウェルを見ていると。
 それに、やっぱり人前で魔法は、どうかとも思うし。

「えっと……佐倉は?」

「はい。愛衣は私の従者です」

「……従者?」

 佐倉も魔法使いなのか、という意味で聞いたんだけど、また聞き慣れない言葉が。
 従者って言うと……どうにも、メイドなんかを想像してしまうのは、まぁ、クラスの出し物がアレだからだろう。
 そう内心で苦笑しながら首を捻っていると、

「ど、どうも……」

 佐倉から頭を下げられた。
 ?

「どうした?」

 いつもはもっと砕けた調子で話すのに。
 どうしてか、今は堅くなってしまっている。

「い、いえ……先生の事、聞きました」

「俺の事?」

 …………?
 いや、本当に訳が判らないんだが?
 何か、畏まられるような事したかな?

「何の事だ?」

「へ? あ、いえ……」

 しかも、敬語だし。
 いや、生徒が教師に敬語を使うのは正しいんだろうけど……いつもは、本当に砕けた調子で話しかけてくるからな。
 まぁ、それほど話す訳じゃないんだけど。
 どうしたんだろう?

「グッドマン、佐倉はどうしたんだ?」

 判らないので、とりあえず第三者であるグッドマンに聞いてみる。
 そのグッドマンもまた、苦笑している。

「いえ……先生の事を少し話しましたら」

「……俺の事を?」

 だから、どうして俺の事を話したら敬語になるんだ?
 言っちゃなんだが、そんないきなり態度を変えられるような事はしてないんだけど。
 何かしたかな?

「なに話したんだ?」

「いえ、エヴァンジェリンさんの事を」

「マクダウェル?」

 どうしてそこでマクダウェルが?
 マクダウェルって言えば……吸血鬼?
 グッドマンも魔法使いだったし、その関係だろうか?

「それがどうかしたのか?」

「どうかしたのか? じゃないですよっ」

 あ、戻った。

「あ、いえ、そうじゃなくてですね」

「いや、そんないきなり畏まられても困るんだが」

 そう苦笑してしまう。
 佐倉の方も言葉遣いに使い慣れてないみたいだし。
 聞いてる分には微笑ましいんだけど、どうにもむず痒い。

「先生。エヴァンジェリンさんの事って、どう思ってるんですか?」

「マクダウェルの事?」

「はいっ」

 ……マクダウェルの事なー。
 そう改めて聞かれると、どう答えたものかな、と思ってしまう。
 ふむ。

「今から時間あるか?」

「へ?」

 佐倉にそう言い、グッドマンに顔を向ける。

「立ち話するような事じゃないし、どこかで話さないか?」

「それも……そうですわね」

 魔法やら何やらは、あんまり周りには聞かれない方が良いだろうし。
 いくら認識阻害、だっけ? の魔法があっても、気を付けた方が良いんだろう。
 ……まぁ、この人混みだ。どこで話しても、そう変わらないのかもしれないけど。
 それでも、少しは気を付けるべきだろう。

「それでは、どこか話せる場所へ」

 そうだな、と。
 しかし、そうなるとどこで話すかな?
 人があまり居なくて、それでいてゆっくり話せる場所……うん、ちょっと思いつかない。

「それじゃ、何処で話そうか?」

「あの……今更聞くのも失礼ですけど、宜しかったのですか?」

「ん?」

「待ち合わせとかは……」

 ああ。
 人並に攫われないように少し近づいて、そう聞いてくる。
 しかしながら、残念な事にこう言った所で誘ってくれる相手は居ないのだ。
 そう内心で思い、苦笑する。

「いい、いい。今日は一日、見回りするつもりだったから」

 イベントに誘われてはいるが、それは今日じゃないし。

「そうなのですか?」

「おー」

 残念ながら、学園祭を一緒に回る、と誘ってくれる相手に恵まれてる訳でもないし。
 ……彼女欲しいなぁ。
 まぁ、そうは思うけど仕事が忙しいからそれどころじゃないんだけど。
 出来ても、彼女との時間を作れるかちょっと判らないし。
 ちょっと悲しくなってくる。
 こう言うのって、どうなんだろう?
 最近は葛葉先生の彼氏話をよく聞かされるから特にそう思ってしまう。
 ……以前は、彼氏が居ないと言ってたのに、あの変わり様である。
 思い出しただけで、冷や汗と言うか、何と言うか。
 真面目な人ほど一途になるんだって、昔の人は上手い事を言ったもんだ。

「それじゃ、えーっと……何か飲むか?」

 こう言う話って、喫茶店みたいな所で良いのかな?
 よくドラマとかマンガじゃそんな所で話してるけど。
 ああいうのって、結構危ないのかな?

「そうですね……愛衣、何かお勧めのお店はありますか?」

「わ、私ですかっ!?」

 まぁ、確かに俺も女の子にお勧めできる喫茶店とかは詳しくないしな。
 特に何も言われないし、そんな所で大丈夫なんだろう。
 ここはグッドマンに倣って、佐倉に任せるか。

「そ、それじゃ……」

 佐倉のお勧めの店は、割と遠かった。
 というか、聞いた事も無い名前なんだけど?
 場所を聞いてなんとなく、あの辺りか、と判る。
 ケーキと紅茶がとても美味しいらしい。
 どっちともそう縁がある訳じゃないので、そうなのかぁ、と相槌を打っておく。
 そして、目的地も一応決まった所で、歩く事になった訳だが……。

「どうしたんだ? そんなにキョロキョロして?」

 なんというか、佐倉とグッドマンは妙に周囲を気にしていた。
 特に、佐倉は何か変な機械を片手に持って、それもよく見ている。
 ……傍から見ていると、とても危なっかしいぞ。
 何度か人にぶつかってるし。

「ちゃんと前見て歩かないと、危ないぞ?」

 この注意も何度目か。
 それでもこの2人は、あっちを向いたりこっちを向いたり。
 グッドマンは真面目なサイトだって聞いてたけど、こう言う所もあるのかな?

「すみません」

「は、はは……ごめんなさい」

 そんなに何か珍しい出し物なんて、あったかな?
 とくに、そう目を引くようなのって無いと思ったけど……。

「何か面白いのでもあったか?」

「いえ……先生は、世界樹伝説は御存じでしょうか?」

 世界樹伝説?
 そう言えば、昨日マクダウェルが言ってたな。
 その事だろうか?

「最終日に告白したら、100%成功するって言うヤツか?」

「ええ、それです」

 うーむ……やっぱり本当だったのか。
 いや、マクダウェルが魔法関係で嘘吐くとは思って無いけど……やっぱり、そう言う魔法ってあるんだなぁ、と。
 なんというか……うーむ、である。
 良いのか悪いのか。
 凄い、と言えるのかもしれないけど、何だかなぁ、と思う所もある。
 魔法と言うのがどう言うのか判らないが……。

「何と言うか、困った魔法だな」

「まったくです」

 俺と佐倉は苦笑し、グッドマンは深く溜息を吐く。

「まぁ、実際には少し違うのですが」

「そうなのか?」

「はい。実際は世界樹の力で願い事が叶うのです」

「願い事が?」

 ……それはまた、何と言うか。
 
「それが人の手で実現可能なら、ですが」

「へぇ」

 凄いなぁ、と。
 だから、告白……相手に好きになってほしいって願い事がかなうのか。
 なんとも迷惑な魔法だなぁ、と。
 そんな事を話していた時、佐倉の手に会った機械が警告だろうか?
 少し高い音を鳴らした。

「お姉様っ」

「ええ、急ぎましょうっ」

 へ?

「先生、少々お待ち下さいっ」

 え、えっと?
 いきなり走りだしたグッドマンと佐倉を目で追い……。
 置いていかれて、どうするか数瞬悩む。

「どうしたんだ?」

 悩んで、とりあえず追う事にする。
 いや、学生が慌てて走っていった訳だし。
 その後を追い、その背が本屋に入ったので後を追うと

「ね、ネギ先生? 宮崎?」

 なんか、ネギ先生が宮崎に押し倒されていた。
 その2人を茫然と見下ろしていたグッドマンと佐倉の後ろから、声を掛ける。

「せ、せせせ、先生っ!?」

「ええええ!?」

 ……はぁ。

「い、いえ。これは、あのッ」

「いま、ちょっと転んじゃいましてっ」

 グッドマンと佐倉の背を軽く押しのけ、まずは倒れている2人に手を差し出す。

「ほら、立って下さい。お店の人に迷惑ですよ?」

「あ、ああ、はいっ」

「す、すすいませんっ」

「いいですから」

 苦笑してしまう。
 いや、確かにこの2人に時間を、と思ったのは俺だけど。
 まさかこう言う事になっているとは。
 さて、早乙女達は……と。
 周囲を見渡すが、それらしい姿は無い。
 きっと少し離れた位置から見ているのだろう。
 まったく。

「ネギ先生?」

「は、はいっ」

 その名前を呼ぶと、緊張したように身体を強張らせる。
 うーむ。

「別に怒るつもりは無いですから、そう緊張しないで下さい」

 苦笑し、その頭を軽く、叩く様に、小さく撫でる。

「でも、注意はさせてもらいますね?」

「ぅ」

 ふぅ、と小さく息を吐く。

「宮崎達と一緒に回って良い、とは言いましたけど、教師の仕事を蔑にして良い、とは言ってませんよね?」

「……は、はい」

「私服に着替えてどうしたんですか? ちゃんと仕事をするなら、どうしなければならないか、って判るでしょう?」

「はい……」

 別に怒ってる訳じゃないですから、そう縮こまらないで下さい、と。
 はぁ。
 こう言う所は、本当にまだ10歳の子供なんだな、と思わせられる。
 いくら仕事が出来ても、やはり楽しい事の前には……と言う事か。
 それが悪い事――とは、言いたくは無いんだけれど。
 少し悪い気もするが、やはりここは言っておくべきだろう。

「ちゃんと仕事をして、そして学園祭を楽しむ分には誰も、何も言わないんですから」

 まぁ、羽目を外し過ぎるのはどうかと思いますけどね? と。
 最後は少し茶化した風に言っておく。
 最初から最後まで難しく話すと、気まずいし。

「す、すみません。私が――」

「宮崎は生徒だから、楽しむのが当たり前なんだ。で、ネギ先生は?」

「……僕は、教師です」

「はい、そう言う事です」

 本当なら、俺ももっと遊んでほしいとは思う。
 でも、ネギ先生は教師なのだ。
 なら、仕事はちゃんとしてもらわないといけない。
 それが、“仕事”なのだ。

「仕事をして、羽目を外し過ぎないなら、誰も何も言いませんから」

 もう一度、言う。
 ちゃんとして、その上で楽しむのなら、問題は無いですから……と。

「はい」

「それじゃ、着替えて見回りをお願いしますね?」

「判りましたっ」

 うん、良い返事です。
 
「すまないな、グッドマン、佐倉。少し待っててくれ」

 床に散らばった本を拾い上げ、本棚に直していく。
 しかし、どうやってあんな状況になったんだろうか?
 こんな人目がある所で押し倒すとか……しかも宮崎が。
 これからは、少し注意した方が良いんだろうなぁ。
 もしかしたら、神楽坂や雪広よりも積極的なのかもしれない。
 ……神楽坂はともかく、雪広よりはマシか、うん。

「はぁ」

 何と言うか、我がクラスながら……いや、止めとこう、うん。
 きっと雪広もそのうち落ち着くさ、うん。

「先生、どうぞ」

「あ、すまん」

 結局、5人で散らばった本を片付けて本屋を出る。

「それじゃ、ネギ先生」

「……すみませんでした」

「いいですから。楽しんでも良いですけど?」

「はい。仕事もちゃんとします」

 よろしい、と。
 そう笑い、その頭に軽く手を乗せる。

「今日から3日間、頑張りましょうね?」

「はいっ」

 うん、やっぱり元気な方がネギ先生らしい。
 それに、これだけ言ってたら宮崎もそう……大丈夫だろう。

「待たせてすまないな、グッドマン、佐倉」

「いえ」

「それでは、行きましょうお姉様、先生」

 そうだな。







 どう話を切り出したものかな、と。
 頼んだコーヒーを一口啜り、気を落ち着ける。

「えっと、それで……佐倉には俺の事、どう話したんだ?」

 確かそんな話だったよな。
 なんか、いきなり敬語使われて……まぁ、悪い事じゃないんだけど。

「そうでした」

 忘れてたのか。
 ……まぁ、少しインパクトのある事あったからなぁ。
 3人でオープンカフェの丸テーブルを囲みながら、小さく溜息。

「愛衣には、先生の事はエヴァンジェリンさんを……そうですね、先生はエヴァンジェリンさんの事をどこまで知ってられますか?」

「マクダウェルの事?」

「はい」

 そうだなぁ。

「あ、ちゃんと簡略ではありますが結界張ってますから大丈夫です、先生」

「そうなのか?」

 全然気付かなかった。
 そう言うのって、簡単に出来る事なんだろうか?
 佐倉に軽く礼を言い、どう話すかな、と。
 まぁ、俺が知ってる事なんて殆ど無いんだけど。

「あの子が吸血鬼で……それで、結構悪い事をしてる、って事くらいだな」

「悪い事、ですか?」

「ああ、グッドマンは知ってるのか? マクダウェルの事」

 人を殺した、というのは、言い出せなかった。
 それは、きっと俺みたいな第三者が簡単に口にして良い事じゃないと思うから。
 だから言葉を濁し、先にグッドマンに話を振る。

「そうですね――人伝に聞いた話ばかりですが」

「そうなのか?」

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル――魔法使いで知らない人が居ないくらい、悪名高い魔法使いです」

 ……そんなに?
 少し驚いてしまう。

「子供から老人まで、きっと魔法使いで知らない人は居ません」

「そんなにか?」

「魔法使いの大人は、悪い事をした子供に何と言うか判りますか?」

 子供に?
 それは、どう言う意味だろう?
 叱ったりする事、だろうか?

「『闇の福音』が攫いに来るぞ――そう、子供を叱りつけるんです」

「?」

 そう言えば、昨日ガンドルフィーニ先生がなんかそんな風にマクダウェルを呼んでたな。
 ……しかし、攫いに来るって……。

「『闇の福音』って、どう言う意味なんだ?」

「そのままです。エヴァンジェリンさんの魔法界での呼び名。そうやって、子供はエヴァンジェリンさんを怖がって育つのです」

「……なんだ、それ?」

 どう言えば良いか……。
 何と言うか、気持ちが悪い、と。
 そう、思った。
 人を悪く言って子供を叱りつけるのか、魔法使いは?

「私も、愛衣も、そう言われて育ちました……そこまで極端では無かった、と思いますが」

「魔法使いって言うのは、そういう教育なのか?」

「古い魔法使いはそうですね。少なくとも、私やガンドルフィーニ先生は古い魔法使いかと」

 ガンドルフィーニ先生?
 コーヒーを一口飲む。
 それに合わせてグッドマンと佐倉も紅茶を飲み、喉を潤す。

「彼女は恐ろしい存在です」

「………………」

「私と愛衣は……きっと、ガンドルフィーニ先生や、他の魔法使いの方もそう言われて育ったと思います」

「そうなのか?」

「は、はい」

 ふむ……。
 まぁ、その辺りは、また今度――マクダウェルから話してもらおう。
 そう言うのは、きっと本人から聞くべきだろうし。
 ……いや、話を振ったのは俺なんだけどさ。
 こうまで重い話だとは、思って無かったのだ。
 これは俺の失敗だ。

「えっと……それで、どうして佐倉が俺に敬語を話すんだ?」

 多少無理矢理だが、話題を逸らす。
 しかし、マクダウェルってそんなに有名なのか……。
 有名、と言うのが正しいかはどうか、とも思うが。

「いえ。だって、エヴァンジェリンさん……最近丸くなったじゃないですか」

「ん?」

 それがどうしたんだろうか?
 ……いや、確かにそんなに言われてたマクダウェルが丸くなったら、驚く……のかな?
 流石に、そんな存在を知らないので何とも言えないが……いや。
 うん。
 あの雨の日に会った老人が人の良い老人に変わったら、確かに驚くな。

「でも、それは俺は何もしてないぞ?」

「……え?」

「俺がした事なんて、ちゃんと登校するように言っただけだぞ?」

 それは、多分以前グッドマンに言った事と同じ……だと思う。
 結構前の事なので、うろ覚えだけど。
 けど、きっと言ってる事はそう変わらない。
 ――俺があの子の為にした事なんて、きっとそのくらいの事だ。
 後は、

「マクダウェルが変わりたいと思ったから……変われたんだと思うけど」

 誰だって、そうだ。
 変わりたいと思わないなら、どんなに行動しても変わらない。
 変わりたいと思ったから、マクダウェルは行動したのだ。
 それがきっと、昨日超を庇った事だったり、神楽坂以外にも友達を作ろうとした事だった。
 そう言い、もう一度コーヒーを啜る。

「俺がした事なんて、殆ど無いと思うぞ?」

「……そうでしょうか?」

「うん?」

 そう言い終り返って来たのは、グッドマンの……どこか嬉しそうな、含み笑いだった。
 うーむ。
 何か勘違いされてる?

「俺は魔法使いでも何でもないんだ。出来る事なんて殆ど無いだろ?」

「そうですね」

 そう、静かに笑われる。
 でも、そうなのだ。
 それこそ、俺が出来るのは教師として接してやる事だけだ。
 それ以上は、きっと俺の身に余る。荷が勝ちすぎる。

「……本当に、それだけの事だったんですよね」

「…………」

 その一言に、どれだけの意味が込められていたのか。
 ただ、ひどく――悲しそうだ、と思った。
 それがどうしてかは、判らないが。

「お姉様?」

「いえ、何でも無いわ、愛衣」

 見なかった事にし、コーヒーを啜る。
 あ、空になった。

「そうだ」

 そうそう、俺もグッドマンに言う事があったんだった。
 忘れる所だった。

「昨日はありがとうな?」

「……昨日、ですか?」

「ああ。マクダウェルの事、信じてくれて」

「――ぅ」

 さっき、マクダウェルが変わったって言ったけど、きっとグッドマンも変わったんだと思う。
 ……そう言うと、今以上に顔を赤くしそうだから言わないけど。
 それでも、礼は言っておきたかった。
 グッドマンが言った事は本当なのだろう。
 マクダウェルと怖い、と。
 だからこそ――マクダウェルの事を、少しだけでも、信じてくれたのが嬉しかった。

「それじゃ、そろそろ見回りに戻るか」

「そ、そうですね」

 フッドマンと佐倉も紅茶を飲み終わり、席から立つ。
 ついでに、伝票を受け取る。

「あ」

「奢るよ」

 流石に、生徒とこう言った所で割り勘、と言うのは格好悪いし。

「申し訳ありません」

「ありがとうございます、先生」

 さて、と。
 そう言えば、小太郎が武術大会の予選に出るとか言ってたなぁ。
 もう少ししたら見に行くか。
 それに、魔法使わないように釘さしとかないと。
 熱くなったら周り見えなくなりそうだし。
 そんな事を考えながら、会計を済ませる。

「先生」

「ん?」

 その声に振り返る。

「どうした?」

「いえ――私の話を聞いても、エヴァンジェリンさんと距離を置いたりはされないんですよね?」

「距離?」

 いや、距離って言うほど親しい……のかな?
 まぁ……秘密、みたいなのを知ってるからそう言えるのかな?
 そう内心で苦笑する。

「今まで通りだと思うぞ?」

 そればっかりは、なぁ。
 そう約束したのだから。
 アイツが変わりたいと、そう思ってる限り――と。

「先生は、本当にエヴァンジェリンさんが変われると……そう思ってるんですか?」

 そう聞いてきたのは佐倉。

「ああ」

 それに、間髪いれず答える。

「マクダウェルって、吸血鬼なんだろ?」

「はい」

「なら、きっと長生きなんだろ?」

「そうですね」

 うん、と。

「佐倉はさ、長く生きるなら楽しく生きたいだろ?」

「楽しく……?」

「ああ。皆に嫌われて一人で生きるより、友達に囲まれて笑って生きたいだろ?」

 そう言う事だよ、と。
 きっと誰だってそうだと思う。
 誰かと一緒に、楽しく生きたいって。
 マクダウェルだって、そうだと思う。
 だからこそ――変わりたいと、そう思ったのだと。
 だからこそ――俺はマクダウェルを信じれるのだ。

「なるほど」

 そう言ったのはグッドマン。
 何か得心がいったように、小さく頷く。

「確かに、私もそう生きたいですね」

「お姉様?」

「判り易いだろ?」

 マクダウェルを怖い、とグッドマンは言った。
 でも、今はとてもそう怖がってるように見えない。

「吸血鬼も案外、判り易いのかもしれませんね」

「そうだなぁ」

 きっと、吸血鬼も魔法使いも人間ももしかしたらそう変わらないのかもしれない。
 そう思えるのは、きっとマクダウェルのお陰だろうな。




――――――チャチャゼロさんとさよちゃんとオコジョ――――――

「えへへー、先生に褒めてもらいましたー」

「おー、良かったじゃねぇか」

 さっきから、本当に嬉しそうにそう言うなぁ。
 そんなにその“先生”ってのは良い男なのかねぇ。

「何拗ネテンダ?」

「別に拗ねてませんよ」

 ふん。
 空き教室の片隅で、木乃香嬢ちゃんの仕事が終わるのを待っている。
 エヴァの姐さんは、明日菜の姉御と一緒に行っちまったし……ま、友達と遊びたいってのも判るしな。
 ここはこっちが折れたって訳だ。
 しょうがねぇ。
 人形や動物が一緒じゃ、色々と気を使っちまうだろうしな。

「おまたせー」

「おー、木乃香の嬢ちゃん」

「待ッタゼ。早ク遊ビニ行コウヤ」

「おっけー。すぐ着替えるから待っててー」

 って。

「カモさん、見ちゃ駄目ですよっ」

 ……さよ嬢ちゃん。
 見えねぇよ……グスン。

「何ヤッテンダカ」





前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.02877402305603