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No.25786の一覧
[0] 普通の先生が頑張ります (更新再開…かな?[ソーイ](2011/06/08 19:02)
[1] 普通の先生が頑張ります 0話[ソーイ](2011/04/10 19:06)
[2] 普通の先生が頑張ります 1話[ソーイ](2011/04/10 16:49)
[3] 普通の先生が頑張ります 2話[ソーイ](2011/04/08 22:17)
[4] 普通の先生が頑張ります 3話[ソーイ](2011/04/08 22:52)
[5] 普通の先生が頑張ります 4話[ソーイ](2011/04/08 23:22)
[6] 普通の先生が頑張ります 5話[ソーイ](2011/04/08 23:43)
[7] 普通の先生が頑張ります 6話[ソーイ](2011/04/09 10:03)
[8] 普通の先生が頑張ります 7話[ソーイ](2011/04/09 10:16)
[9] 普通の先生が頑張ります 8話[ソーイ](2011/04/09 10:36)
[10] 普通の先生が頑張ります 9話[ソーイ](2011/04/09 13:58)
[11] 普通の先生が頑張ります 10話[ソーイ](2011/04/09 14:38)
[12] 普通の先生が頑張ります 11話[ソーイ](2011/04/09 15:24)
[13] 普通の先生が頑張ります 12話[ソーイ](2011/04/09 18:20)
[14] 普通の先生が頑張ります 13話[ソーイ](2011/04/09 22:23)
[15] 普通の先生が頑張ります 14話[ソーイ](2011/04/09 23:12)
[16] 普通の先生が頑張ります 15話[ソーイ](2011/04/09 23:47)
[17] 普通の先生が頑張ります 16話[ソーイ](2011/04/10 16:45)
[18] 普通の先生が頑張ります 17話[ソーイ](2011/04/10 19:05)
[19] 普通の先生が頑張ります 18話[ソーイ](2011/04/11 21:15)
[20] 普通の先生が頑張ります 19話[ソーイ](2011/04/11 21:53)
[21] 普通の先生が頑張ります 20話[ソーイ](2011/02/27 23:23)
[22] 普通の先生が頑張ります 21話[ソーイ](2011/02/27 23:21)
[23] 普通の先生が頑張ります 22話[ソーイ](2011/02/27 23:19)
[24] 普通の先生が頑張ります 23話[ソーイ](2011/02/27 23:18)
[25] 普通の先生が頑張ります 24話[ソーイ](2011/02/26 22:34)
[26] 普通の先生が頑張ります 25話[ソーイ](2011/02/27 23:14)
[27] 普通の先生が頑張ります 26話[ソーイ](2011/02/28 23:34)
[28] 普通の先生が頑張ります 27話[ソーイ](2011/03/01 23:20)
[29] 普通の先生が頑張ります 28話[ソーイ](2011/03/02 22:39)
[30] 普通の先生が頑張ります 29話[ソーイ](2011/03/04 22:42)
[31] 普通の先生が頑張ります 30話[ソーイ](2011/03/08 00:19)
[32] 普通の先生が頑張ります 31話[ソーイ](2011/03/07 23:33)
[33] 普通の先生が頑張ります 32話[ソーイ](2011/03/10 00:37)
[34] 普通の先生が頑張ります 33話[ソーイ](2011/03/09 23:47)
[35] 普通の先生が頑張ります 34話[ソーイ](2011/03/10 23:15)
[36] 普通の先生が頑張ります 35話[ソーイ](2011/03/13 23:11)
[37] 普通の先生が頑張ります 36話[ソーイ](2011/03/14 22:47)
[38] 普通の先生が頑張ります 37話[ソーイ](2011/03/15 23:56)
[39] 普通の先生が頑張ります 38話[ソーイ](2011/03/16 23:15)
[40] 普通の先生が頑張ります 39話[ソーイ](2011/03/17 23:03)
[41] 普通の先生が頑張ります 40話[ソーイ](2011/03/18 22:46)
[42] 普通の先生が頑張ります 41話[ソーイ](2011/03/19 23:49)
[43] 普通の先生が頑張ります 42話[ソーイ](2011/03/20 23:12)
[44] 普通の先生が頑張ります 43話[ソーイ](2011/03/21 22:44)
[45] 普通の先生が頑張ります 間幕[ソーイ](2011/03/23 07:49)
[46] 普通の先生が頑張ります 44話[ソーイ](2011/03/23 23:24)
[47] 普通の先生が頑張ります 45話[ソーイ](2011/03/25 23:20)
[48] 普通の先生が頑張ります 46話[ソーイ](2011/03/26 23:23)
[49] 普通の先生が頑張ります 47話[ソーイ](2011/03/28 00:29)
[50] 普通の先生が頑張ります 48話[ソーイ](2011/03/28 23:24)
[51] 普通の先生が頑張ります 49話[ソーイ](2011/03/30 00:25)
[52] 普通の先生が頑張ります 50話[ソーイ](2011/03/31 00:03)
[53] 普通の先生が頑張ります 閑話[ソーイ](2011/04/01 00:36)
[54] 普通の先生が頑張ります 51話[ソーイ](2011/04/01 23:50)
[55] 普通の先生が頑張ります 52話[ソーイ](2011/04/03 00:22)
[56] 普通の先生が頑張ります 53話[ソーイ](2011/04/04 23:45)
[57] 普通の先生が頑張ります 54話[ソーイ](2011/04/05 23:24)
[58] 普通の先生が頑張ります 55話[ソーイ](2011/04/06 22:31)
[59] 普通の先生が頑張ります 56話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:46)
[60] 普通の先生が頑張ります 57話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[61] 普通の先生が頑張ります 58話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[62] 普通の先生が頑張ります 59話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[63] 普通の先生が頑張ります 60話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[64] 普通の先生が頑張ります 61話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:48)
[65] 普通の先生が頑張ります 62話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:48)
[70] 普通の先生が頑張ります 56話(修正版[ソーイ](2011/04/28 23:46)
[71] 普通の先生が頑張ります 57話(修正版[ソーイ](2011/04/28 23:27)
[72] 普通の先生が頑張ります 58話(修正版[ソーイ](2011/04/30 22:52)
[73] 普通の先生が頑張ります 59話(修正版[ソーイ](2011/05/18 23:24)
[74] 普通の先生が頑張ります 短編 【茶々丸】 [ソーイ](2011/05/23 23:47)
[75] 普通の先生が頑張ります 短編 【エヴァンジェリン】 [ソーイ](2011/05/23 23:42)
[76] 普通の先生が頑張ります 短編 【エヴァンジェリン】 2[ソーイ](2011/05/25 23:21)
[77] 普通の先生が頑張ります 短編 【月詠】 [ソーイ](2011/06/08 23:06)
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[25786] 普通の先生が頑張ります 閑話
Name: ソーイ◆10de5e54 ID:052e1609 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/01 00:36
――――――エヴァンジェリン

 朝、目が覚める。
 それはいつもと同じ一日で、そしてきっと、明日も同じ一日。
 ふぁ……。

「おはようございます、マスター」

「ああ、おはよう茶々丸」

 ベッドから上半身だけを起こした状態で、欠伸を一つ。
 起こしに来た茶々丸にそう応え、下がる様に言う。
 窓から差し込む光が、今日も快晴だと教えてくれる。
 ……吸血鬼なのに、何をやってるんだか。
 こんな朝早くに目を覚まし、夜もそう遅くない時間に眠りにつく。
 そんな生活。
 そんな生活が、ここ数カ月で当たり前になっていた。
 朝早く起き、朝食をしっかり食べ、学校へ行き、帰って来てからは弟子の面倒を見て、遅くならないうちに寝る。
 その繰り返し。
 当たり前のように過ぎていく時間。
 在り来たりな日々。
 どうしようもないほどに退屈な毎日。
 そして……とても、暖かな日常。
 それが、私はそれなりに気に入っている。
 まるで、窓から差し込む陽光のよう。
 眩しくて、暖かくて……吸血鬼の、対極。
 私には手の届かないものだと思っていた。
 でも、案外簡単に――簡単でもない、か。
 苦笑し、着替える為にベッドから抜け出す。

「着替える。朝食の用意をしておけ」

「かしこまりました」

 茶々丸を下げ、制服に着替える。
 そう言えば――もう随分と長く、授業をサボっていない。
 まぁ、今はサボる必要が無いからだが。
 それでも、これだけでも随分とした変化のようにも思う。
 そう言えば、私は以前は、どうして学園に行くのをああまで嫌がっていたんだったか……。
 思い出せない思考に苦笑してしまう。
 なんだったかなぁ。
 だがきっと、下らない事だろうな。
 じじいが気に入らなかったとか、多分そんな所だろう。
 この学園に来た最初の頃は、そんな事は無かったんだがなぁ。
 ああ、そうだ。
 そろそろ『登校地獄』の呪いが面倒になってきたからだ。
 そうだそうだ。
 そして――。

「……はは」

 ――そして私は、副担任の先生に“目を付けられた”のだ。
 そこは覚えている。
 あの日。
 サボリ魔の私を迎えに来た先生を。
 そして。
 何も知らないくせに、私をちゃんと卒業させると言った事を。
 バカだな、と。
 そう笑ってしまう。
 何も知らなかったくせに、と。
 何も知らないくせに、当たり前の事を当たり前にしようとする。
 その事が、たまらなく――。
 着替えが終わり、最後に鏡の前で身嗜みを軽く整える。
 ……うん。

「茶々丸、用意は出来ているか?」

「はい」

 二階から降りると、鼻孔を擽る暖かな香り。
 それが食欲をそそり、少し足早に席に着く。

「腕を上げたか?」

 その温かな料理を一口食べ、一言。

「そうでしょうか? レシピ通りに作っただけですが」

「ふふ……まだまだだな、お前も」

「申し訳ありません」

「怒っている訳ではないさ」

 苦笑する。
 まだまだだな、と。
 料理は確かに美味くなった。
 よく覚えてはいないが、きっと数か月前より格段に美味しくなっていると思う。
 ……あの頃は、特にそう言うのは気にしていなかったからな。
 用意されていたのものを、食べていただけ。
 きっと、言葉にするなら私の毎日はそんなものだった。
 そこの意味は無く、永遠のうちの一日として、その日を生きていた。
 その積み重ねたものが、どれだけ薄っぺらかも気にせずに。
 また一口、料理を食べる。
 うん……美味い。

「美味いぞ、茶々丸」

「……………………」

 返事は、無い。
 どうしたんだろうか、と振り返ると……その見慣れた無表情の中に、微かな驚き。
 そうと判るのは、きっと私が茶々丸と一番長い時間を過ごしているからだろう。
 そして――最近は感情と言うモノが、確かに育っている事を知っているからか。

「どうした?」

「いえ。そう言っていただけたのは初めてでしたので」

「……そうだったか?」

「はい」

 そうだったかな?
 確かに言った覚えは無い、な。
 ふむ。

「気紛れだ、気にするな」

「はい」

 そう言う事にしておく。
 そう。ただの気紛れだ。
 ……だが、私は茶々丸にそんな事も言っていなかったのか、と。
 簡単な挨拶だけの関係。
 会話と呼ぶには事務的過ぎる話。
 確かに。
 そんな生活では育つものも育つ訳は無いか。
 そう思い、苦笑する。
 ならどうして、茶々丸がここまで成長できたのか。
 判っている。
 茶々丸を育てたのは私ではない。
 だが、それをそう悪くは思わない。

「まだあるか?」

「はい、お注ぎしてきます」

 空になった味噌汁の器を渡し、小さく一息入れる。
 こうまで静かな朝は、初めてのような気がする。
 だからだろうか? こうも色々と考えてしまうのは。
 静かで、ゆっくりな時間。
 最近はこんな時間が多いと思うが……今朝は特別そう感じる。
 茶々丸が居ない部屋で、秒針が時を刻む音が耳に届く。
 そして少し遠くでは、料理を用意する茶々丸の気配。
 チャチャゼロとさよは、昨日は遅くまで起きていたのか、物置に籠っているのだろう。
 まぁ、あのオコジョ妖精が来たら出てくるだろう。
 何だかんだ言って、仲良くやっているみたいだしな。

「おはよーございますー」

「オウ、今日モ早イナ御主人」

 そんな事を考えていたら、件の2人……2体か? が部屋に入ってきた。

「おはようチャチャゼロ、さよ。珍しいな、朝から起きてくるなんて」

「御主人ニダケハ言ワレタクネーヨ」

「くく、そうだな」

 早起きする吸血鬼には言われたくないだろうな。

「さよ、その身体には慣れたか?」

「はいっ。ここずっとカモさんにお相手をしていただいてましたから」

「そうか。それは良かったな」

「えへ。ありがとうございます」

 チャチャゼロに似た、だが細部ではさよ本人に似せた人形が小さく笑う。
 うん。そう笑ってもらえるなら、その身体を用意した甲斐があったというものだ。
 しかし、カモ?
 あのオコジョ妖精、さよにまた変な事を吹き込んでないだろうな……。
 今度一度、問い詰めておくか。

「エヴァさん?」

「ん? ああ、なんでもない」

 そんな事を考えていたら、低い位置からさよがこちらを見上げて来ていた。
 いかんいかん。
 さよとあのオコジョ妖精は最近仲が良いみたいだからな。
 気付かれでもしたら、何か気まずくなりそうだ。
 そんなことを考えていたら、茶々丸がおかわりを持ってきた。

「どうかなさいましたか? 姉さん、さよさん、おはようございます」

「オー、今日モ調子ハ良イイミテーダナ」

「はい。私はいつも通りです」

「……ケケケ、ソリャ良カッタゼ」

「?」

 チャチャゼロ、それだときっと、茶々丸はまだ判らんだろ。
 ……まぁ、それも含めて、楽しんでいるんだろうけど。
 茶々丸が持ってきた味噌汁を啜りながら、一人ごちる。
 そう言えば、チャチャゼロってこんなに喋る奴だったかな?
 確かに、退屈しないように造ったんだが……もう、その辺りも思い出せない。
 判っているのは、チャチャゼロもまた、今のこの時を楽しんでいると言う事。
 きっと、私と同じくらいに。
 私と同じように長い時間を生きてきた。
 そんなコイツだからこそ、この時間がどれほどのものか、私と同じくらいに理解しているだろう。

「ドウシタヨ?」

「いや……楽しそうだな、とな」

「オウ。ココ最近ハ、暇ダガナ」

「良い事じゃないか」

「まったくだ」

 2人して小さく笑い、食べ終わった朝食を置く。

「美味かった。今晩も期待している」

「かしこまりました」

 そう言って、一礼。
 ……礼儀正しいヤツだ。
 もう少し砕けても……まぁ、それはまだ難しいか。
 差し出された紅茶を受け取りながら、もう一度苦笑。

「それじゃ、少し早いが行くか」

「はい。用意してまいります」

 ふぅ、と。
 食後のお茶を口に含みながら、内心で小さく溜息。
 こうものんびりとした時間を過ごしていると、まるで人間に慣れたかのように錯覚してしまいそう。
 そう思えるほどに、穏やかで、暖かで、満たされて、少しだけ退屈な時間。
 それが悪いとは思わない。
 手の届かないモノだと思っていた。
 見ている事しか出来ないと思っていた。
 だが、こうして私は、そのただ中で――生きている。
 そのことを実感しながら、紅茶を一口。

「エヴァさん、何か良い事でもありました?」

「ん? どうした、さよ?」

 どうしてそう思う? と聞いてみる。
 良い事?
 どうだろうか。
 確かに、良い事なのかもな。
 こんな静かな時間を、感じられると言うのは。

「んー……どうしてでしょう?」

「朝カラ笑ッテルカラジャネーノ?」

「……失礼だな、お前」

 私だって、朝から笑うさ。
 ……気分が良ければな。
 朝は弱いから、そんな気分には到底なれないが。
 今日は特別だ。

「ソウイウ風ニ造ッタノハ御主人ダケドナ」

「ふん。お前のその生意気な物言いは、聞いていて飽きないからな」

 と言うか、きっとどこかで魔法式を間違えたんだと思うが。
 今となっては、それで良かったとも思う。
 長年一緒に生きてきたからか、愛着もあるしな。
 そう言うと、小さく笑われた。

「仲が良いんですね、2人とも」

「マ、付キ合イ長イカラナ」

「そうだな」

 もうどれくらいか……。

「マスター、登校の準備できました」

「そうか」

 では、今日も退屈な授業を受けに行くとするか。
 そう思い席を立つ。

「行ってくる」

「行ってきます、姐さん」

「オウ。楽シンデ来イ」

「行ってらっしゃい、2人ともー」

 さよ、お前は後から来るだろうが。
 そう苦笑しながら、家を出る。

「そうだ、茶々丸」

「なんでしょうか?」

 ふと、朝食の事を思い出す。

「洋風の朝食に味噌汁はどうかと思うぞ?」

「……そうでしょうか?」

「ま、いいか」

 そして、今日も1日が始まる。
 明日からは、麻帆良祭だ。
 きっと――楽しくなるだろうなぁ。

「茶々丸」

「はい」

「……最近は、楽しいか?」

 チャチャゼロも、さよも、楽しそうだったから。
 だから、そう聞いてしまった。
 その感情を、茶々丸は、キチンと理解しているのか。

「はい。……私は、きっと毎日が楽しいです」

「……そうか」

 それは良かったな、と。
 本心から、そう言えた。







 くぁ。

「ま、じ、め、にっ」

「……判ってるよ」

「やる気の無い声ですわねぇ」

 誰が好き好んでメイドの真似事なんかしたがるか……。
 そうは思うが、これがクラスの出し物なのだからしょうがない。
 くそう……やっぱり抵抗があるぞ、コレは。
 教室で、他の連中は内装やらの準備をしているのに私と明日菜、刹那は居残りで演技練習をしていた。

「そんなに嫌ですか?」

「う……」

 雪広あやか?
 お前、ちょっと笑顔が怖いぞ……。

「ですが、明日までには完全にマスターしていただきます」

 エヴァンジェリンさんだけなんですからね、と。
 うぅ、判ってるよ、そんな事は。
 だがなぁ。

「雪広あやか? ほら、人には得手不得手と言うものがあってだな……」

「はいはい、その言い訳は聞き飽きましたわ」

「…………はぁ」

「いま、溜息吐きました?」

「まさか」

 どうして私は、厨房担当に回してもらえなかったんだろうか?
 そこだけはどうしても納得がいかん。
 そして、雪広あやか? お前、本当に笑顔が怖いぞ?

「別に良いだろうが……私一人くらい」

「いけませんっ」

「むぅ」

 だがなぁ、他人に御主人様など……言えるか。
 この私がだぞ?
 滑稽以外の何物でもないだろうに。
 ……魔法関係者に見られでもしたら、私は首を吊るな。絶対に。
 そう内心で達観しながら、再度……溜息を吐こうとして、止める。
 いかんいかん、溜息なんか吐いたら、何を言われるか判ったものじゃないからな。

「ネギ先生の御迷惑になるじゃないですかっ」

「やっぱりそっちか、このショタコンっ」

「ショタコンではありませんっ」

 じゃあ何だと言うんだ、このショタコン。
 なーにがぼーやの迷惑だ。
 結局そっちじゃないか。
 まったく。
 ……まぁ、何となく判ってはいたがな。
 雪広あやかの後ろに控えていた明日菜と刹那が苦笑していた。
 くそ……良いよな、お前らは。
 あの下らん三文芝居で合格が出て。
 何であの棒読みが合格で、私は不合格なんだ? 理解が出来ない。

「あちらは諦めてますから」

「私も諦めろよ……」

「それはそれでショックなんだけど?」

「うぅ……」

 うるさい、外野は黙れ。
 何故だ?
 もはや、最初の頃のように怒る気すら失せるな、コレだと。

「いいえ、エヴァンジェリンさんなら立派なメイドになれると思いますっ」

「誰も立派なメイドになんかなりたくはないっ」

 好き好んで人に仕えようとは思わん。
 まったく……。

「ネギ先生も言っておられましたよ? エヴァンジェリンさんは頑張れば出来ると」

 ヤツか。
 この前の年齢詐称薬に対する嫌がらせか?
 ……今晩の修行は覚悟しとけよ……。
 とりあえず、絶対泣かす。
 そう心に決めながら、溜息を一つ。

「む」

「よし。雪広あやか、一つ取引しないか?」

「……断ります。私は雪広財閥の一人娘として――」

「ぼーやの事なんだが」

「なんですか?」

「変わり身早っ!?」

「エヴァンジェリンさん? その、流石に本人不在で取引とかは……」

 おい、外野うるさいぞ。

「見逃してくれるなら……」

「なら……?」

「何を言ってるんだ」

 そこまで言って、頭を軽く叩かれた。
 くっ。

「まったく。雪広? お前もこんな裏取引に応じるんじゃない」

「ぅ、い、いえっ。一応……聞くだけ聞こうかなぁ、とか」

 ウソだろ。
 お前絶対最後まで聞いて、私を見逃してただろ。
 後ろの2人も同意見だったらしく、疑わしい視線を雪広あやかに向けていた。

「な、何ですかその目はっ」

「はぁ。わかりやすいわねー」

「明日菜さんにだけは言われたくありませんっ」

「はいはい」

「くっ……屈辱ですわ」

「そこまで言わなくても良いでしょ!?」

 仲良いよなぁ、お前ら。

「ま、それより急いで準備終わらせろよ?」

「はぁい」

「判ってますわ」

「はい」

 一応放課後も準備できるらしいが、遅くまでは何かと物騒だしな。
 しないで済むなら、それに越した事はないだろう。

「マクダウェルも、本番ならちゃんとするだろう?」

「ふん……」

 また軽く、頭を叩かれる。
 ……くそ。

「判ってるさ、ちゃんとやる」

「と言う訳だ。とにかく、まずは準備を終わらせてしまおう」

「判りましたわ」

 そう言って、我先に駆けていく雪広あやか。
 生き先は……まぁ、判ってはいるが、何となく目で追う。
 その先には、宮崎のどかの代わりに思いものを持っているぼーやが居た。
 あー……まぁ、なんだ。

「あれは大変ねぇ」

「お前も他人事じゃないだろうが……」

「う」

 はぁ。
 そう溜息を吐く。

「はいはい。喋ってないで手を動かすように」

「……判ったよ」

 まぁ、あの変な練習から解放されただけマシか。
 ……はぁ。
 まさか、こんなにメイドの真似事が面倒だとは思わなかった。
 そう思っていると、先生が教室の外に出ていくのが見えた。
 どこに行くんだろうか?

「どないかしましたか、エヴァンジェリンさん~」

「月詠か」

 ――お前、バランス感覚良いな。
 まぁ気で強化してるんだろうけど。
 器用に右手に食器の山、左手に水の入ったペットボトルを持っている。
 ……私が言うのもなんだが、どうやってバランス取ってるんだ?
 あんまり気にしないでおくか……。

「いや、先生が外に出ていったんだが、何か聞いてるか?」

「あー。なんや、忘れ物あったみたいで、それ取りに行かれるみたいですよ~」

「ふぅん」

「量多いみたいですから、お手伝いにでも行かれます~?」

 どうして私が、とも思い視線を周囲に向ける。
 木乃香は、荷物持ちは得意じゃないだろうな。
 茶々丸はすでにクラスの連中と作業をしている。
 明日菜と刹那は……どっか行った。
 多分どこかで手伝ってるんだろう。
 むぅ。

「ま、いいか」

 どうせ、私が居ても手伝える事なんて他と大差無いだろう。
 それに……あっちの方が楽そうだ。

「それでは、いいんちょさんにはそう伝えときますね~」

「ああ、頼んだ」

 教室から出て、小さく溜息。
 そう言えば、服装がコレだった。
 しまったな……だが、一度出た手前、何か中に戻るのも気が引けると言うか……。
 雪広あやかが用意したメイド服のスカートを軽くつまみ、どうするかな、と。
 コレで職員室に?
 ……無理だ。
 瀬流彦やら葛葉刀子に会ってみろ。
 ……考えるだけでも恐ろしい。
 今まで作ってきた私のイメージが崩れてしまう。

「――まぁ、いいか」

 少し、屋上で時間でも潰してこよう。
 この時間なら、誰も居ないだろうし。
 大体、こんな狭い教室で作業するのがいけないんだ。
 狭いんだよ。
 雪広あやかと宮崎のどかの周りは面倒だし。
 あんなぼーやのどこが良いんだか……。
 まぁ、ナギの息子なんだし、将来はそれなりに期待は出来るが。
 そんな事を考えながら、屋上へ。
 ドアを開けると、夕日が眩しい。
 ……はぁ。
 そう言えば、一人で屋上に来るのは、随分久し振りだな。
 ここ最近は、ずっと誰かが一緒だった。
 だからだろう、一人の屋上と言うのが――酷く、寂しく思えた。
 苦笑する。
 今まではずっと孤独だったのに、今はもう賑やかなのに慣れてしまっている。
 すぐ傍の石畳に腰を下ろし、その夕日をぼんやりと眺める。
 あと1時間ほどで、今日が終わる。
 明日は、学園祭だ。
 ……もう飽きたはずの麻帆良祭が、今はこんなにも待ち遠しい。
 そう思うのは、変だろうか?
 きっと、殆ど変わらない。
 出し物も、イベントも、きっと去年とそう大差無い。
 なのに、今はこんなにも楽しみだ。
 ……そう思うのは、変かな?

「はは」

 きっと、変なんだろうな。
 私は変だ。
 ここ最近、きっと……変なんだ。
 明日菜が居て、木乃香が居て、真名が居て……気の許せる連中が居る。
 茶々丸も、チャチャゼロも楽しそうだ。
 ……そして、私も、楽しい。
 今見ているのが夕日だからだろうか?
 妙に感傷的な思考に、笑ってしまう。
 口元を隠し、肩を振わせ……笑う。
 この私が、随分丸くなったものだ。
 寂しい、のかもしれない。
 あの賑やかさに慣れなくて。

「……本当に居たよ」

「ん?」

 屋上のドアが開く音と一緒に、声。

「……先生か」

「あのなぁ。何を堂々とサボってるんだ……」

「いいだろ。偶には感傷的にもなる」

 一瞬の間。
 しかし、

「誰かから聞いたのか?」

「ん?」

「私がここに居ると」

 さっき、そんな事言ってたみたいだしな。
 大方、月詠か……後は、勘が鋭いのは明日菜か?

「ああ。絡繰からな」

「……そっちか」

 どうしてそんな事を先生に言ったのかは判らんが、ま、いいか。
 隣をポンポン、と小さく叩く。

「何かあったのか?」

 そして、その意図を察してくれて、そこに座る先生。
 膝を立て、そこに顎を乗せるように座っている私の隣に座る先生の顔を、見上げる。
 少し、遠いなぁ。
 慎重さもあるし、座った距離もある。
 ……少し、遠い。

「なぁ、先生?」

「どうした?」

 どうして、私の問いかけに、そう簡単に応えてくれる?
 私は吸血鬼で、先生は人間。
 話を聞いてくれる、今まで通りに接してくれる。
 でも、そこまでする必要はないんじゃないだろうか?
 教師だから、と。
 そこまでしなくても、十分に教師としての職務は全うしていると思うんだが。

「……先生」

「どうした、マクダウェル?」

 トクン、と。
 小さく、ココロが鳴る。
 マクダウェル。
 そう私を呼ぶのは、この人だけだ。
 私が人とは違うと判っても、それでも変わらない――この人だけの、私の呼び名。
 その声が、耳朶を擽る。

「うん」

「……?」

 変わらない事が、こんなにも嬉しい。
 変わりたいと思う私が、変わらない事を喜ぶのは変だろうか?
 でも、今くらいは良いだろう。
 夕日が眩しい。
 その眩しさに目を細め、小さく笑う。

「どうしたんだ、先生? 準備はまだ終わってないだろう?」

「お前なぁ……」

 そして、呆れたように、その大きな手が私の頭に乗せられる。
 大きな手だ。本当に。
 それとも――私が小さいだけか。

「先生、どうしてここに来たんだ?」

「お前がサボってるからだろうがっ」

 そう言い、その大きな手が、撫でるように、私の頭を揺らす。

「まったく。他の皆は頑張ってるってのに」

「少しくらい良いだろ」

「駄目に決まってるだろうが」

 融通が聞かない先生だなぁ。
 そう苦笑するが、腰は上げない。
 もう少しだけ、このままで。

「先生だって座ってるじゃないか」

「お前が……ま、いいか」

 はぁ、と隣から小さな溜息。

「あと5分な?」

「細かいな」

 ま、それで良いか。
 あと5分だけの、この時間。
 どう使うかな……。
 トクン、トクン、と。
 小さく、淡く、でも確かに高鳴る鼓動が心地良い。
 よく茶々丸と2人で居た屋上に、今は先生と2人。

「なぁ、先生」

「ん?」

「血を吸って良いか?」

「…………は?」

「くく」

 どうしてそんな事を聞いたのか。
 自分でも良く判らないが……その気の抜けた声に、笑ってしまう。
 でも、私からは離れないんだな。

「血だよ。先生の血」

「大丈夫なのか?」

「ん?」

「いや……何と言うか、だな」

 ああ。

「冗談だよ。それに、血を吸うだけじゃ吸血鬼になったりしない」

「あ、そうなのか?」

「血を吸い、私の血を分ければ吸血鬼になる……ま、擬似的なモノだけどな」

「……ふぅん」

 よく判ってないような声。
 それがまた、可笑しい。

「楽しそうだな」

「……ああ。楽しいよ」

 そりゃ良かった、と。
 そう言い、その大きな手が、退けられる。

「んじゃ、5分経ったし戻るか」

「もうか?」

「はぁ……マクダウェル?」

 判った判った。
 そう言い、立ち上がろうとして……その手が、差し出された。

「ほら」

「……はは」

 その手を見ながら、悪いとは思ったが笑ってしまった。

「どうした?」

「いや……」

 その手を握り、立ち上がる。
 ナギの時のような力強さは無い。
 でも、確かな感触が、この手に在る。
 その事が――嬉しい。
 ……ああ……。

「先生」

「ん?」

 一瞬、言い淀み、

「迎えに来てくれて。ありがとう」

「礼を言うくらいなら、まずサボるなよ」

 この私が礼を言ったと言うのに、この人は私を注意する。
 ……今まで通りの在り方。
 それはきっと、これから先も変わらないのだろう。
 私の事を知っても、変わらなかったように。

「先生の血は不味そうだな」

「そりゃ良かった」

 ……そうだな。
 でもな。

「それじゃ、教室に戻るか」

「ああ」

 その背を追いながら、思う。
 ……トクン、と小さく、でも、確かに――ココロの内に、在るソレ。
 渇望とも言えるのかもしれない。

「早く終わらせて帰ろう。明日からは学園祭だしな」

「判ってるよ」

 ――でも、我慢しなければならない。
 知ってるか、先生?
 こうまで誰かの血を吸いたいと思ったのは、貴方が初めてなんだ。





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