「一つ、大きな問題があるなぁ」
「せやな」
「ですね~」
うむ、まったく気にしてなかった。
と言うより、そこまで考えてなかった、とも言える。
「晩飯、どうするか?」
「しょうがありまへんし、今日は外で食べます~?」
ダイニング兼俺の部屋にて、小さなテーブルを囲んでの第一回同居人会議である。
議題は晩飯をどうするか。
うーむ、まさかこんな所で同居生活が躓くとは。というか、一歩目ですらない気がする。
ダイニングとキッチンが一体のようになってる部屋なので、ここからだとキッチンが良く見える。
新品同然のキッチンには、冷蔵庫も置いてあり……その中は、俺の部屋にあったもの。
つまり、今は酒とそのツマミくらいしか入ってない。
…………料理しない人間の冷蔵庫なんて、こんなもんだ。
ちなみに俺を含めた三人、料理が出来ない。
それを知ったのは、仕事から帰ってきて、すでに自分の部屋を決めていた2人と話した時だった。
――別に、個室が欲しい訳じゃないけどさ。
まぁ、友達が遊びに来たら、自分の部屋で遊んでもらえばいいか。
「だなぁ」
「でも、あのキッチンは勿体無いなぁ」
「ああ。ちなみに小太郎、料理したことは?」
「した事無いなぁ」
「ウチも右に同じく~」
「だよなぁ」
さっき出来ないって言ってたもんな。
ちなみに俺も、簡単なのしか出来ないし……なにより、今までする気が無かった。
問題である。ある意味、大問題である。
ダイニングのフローリングの床にテーブルを挟んで三人で座りながら、2人で小さく溜息。
月詠はどうでも良いようで、ニコニコ笑ってる。
……出来そうな雰囲気はあるんだがなぁ。
流石に、今日からはコンビニ弁当とはサヨウナラしないといけないだろう。
長年世話になったが……明日からはバイバイだ。
だって、この年頃の子達に、それはあんまりだろう、と。
「折角道具もありますしな~。小太郎はん、作ってみたら~?」
「こういうのは女の仕事やろがっ」
「それは女性差別ですえ~」
うーむ。
とりあえず、そこは月詠に同意だ。
ちなみに、小太郎も月詠も私服である。
お金は学園長から貰ったとか……明日、頭下げないと。
一通りの服と、家具をもう部屋に運び込んでいた。
2人とも布団派らしいので、この部屋では俺だけベッドだ。
小太郎は、今時の子供が着るような、ラフな格好で、月詠は、なんかマクダウェルが着てそうな可愛らしい服装である。
マクダウェルは黒ばっかり着てたけど、こっちは白である。
きっと並んだら絵になるんだろうなぁ、と軽く現実逃避。
いやいや、そうじゃなくて。
「そうだぞ、小太郎。大体、今の時代男も料理出来ないと色々厳しい」
主に、財政的な意味で。
……はいそこの2人、そんな目で俺を見ないでくれ。
どうせ俺も料理出来ないよ。
「開き直りよった」
「開き直りましたな~」
「出来ない事を出来るって言うより、いくらかマシだ」
「……ま、そこは同意しますわ~」
うむ。判ってくれて嬉しい限りだ。
で、だ。
「どうする? 今から材料買ってきて、作ってみるか?」
「それも悪かないかもなぁ」
「ウチは、外で食べる方がええですわ~」
まぁ、失敗の事考えるなら、月詠が正しいだろう。
というか、多分月詠が正しい。
うむ。
「確実に失敗しそうですから~」
「身も蓋も無いヤツやな……」
「小太郎はん、お米洗った事あります?」
「ない」
胸を張るな、そこは。
まぁ、自炊した事無いなら、そうだろうな、とは思うけど。
「お兄さんは~?」
「それくらいはある」
「なんか料理は~?」
「……目玉焼き?」
「はい、外で食べましょ~」
そうだな。
それに、まず米もパンも無いし。
料理以前の問題である。
「兄ちゃん、この辺りでお勧めって知ってる?」
「んー……この辺りだと、超包子かな?」
安いし、美味いし。
「超包子、ですか~?」
「おお。月詠の同級生になる子たちがしてるんだ」
「……お~」
驚い……てるんだよな?
どうにも、この独特の喋り方というか、起伏の無い喋り方は、感情の動きが判り辛い。
小太郎みたいに感情豊かに、とも言わないが。
この辺りが、学園長が言ってた事なのかもな。
まぁ、それは今は良いか。
「なんや、子供が店やっとるんか?」
「でも出店許可証も取ってるし、何より美味い」
「マジか!?」
まったく。
「お前はもう少し言葉遣いを直せ」
「う」
「そんなんじゃ、学校で教師に目を付けられるぞ?」
「それは、あんまし良くないなぁ」
「昼休みと放課後が生徒指導室で潰れるだろうな」
「うへ」
そう舌を出して、嫌そうな顔。
それに、そうなったら俺や、後見人の学園長にも話が来るだろうし。
……その場合、どうなるんだろう?
俺の教育不足になるんだろうか?
なるんだろうなぁ……。
「月詠は、その辺りはしっかりしてるのに」
「おおきに~」
こっちは、心配無いだろうな、と。
まぁ、まだ良く知らないから油断できないけど。
「んじゃ、今日はそこで食べるんか?」
「だな。明日の朝は、なんか作るよ」
帰りに、米買って帰るか。
それとなんか適当な食材。
…………。
「明日の明後日、何か食いたいのあるか?」
「ん~、ウチは食べれればなんでも~」
「ワイも何でもいいわ」
そうか。
「あ、でもお米がええですわ~」
「なら、帰りにスーパーにでも寄って帰るか」
そこで一緒に考えよう、と。
……何とかなるだろ、多分。
まさかこんな所で、今まで料理して来なかった事が響いてくるとは。
人生、どうなるか判らんもんだ。
「そやな」
「ですね~」
うーむ、幸先不安である。
どうにも、同居、というのを軽く考えていたかなぁ。
どうするかなぁ。
上着を取りに部屋に戻る小太郎の背を目で追いながら、小さく溜息。
うむぅ。
「どないしました~?」
「いやぁ、初日からあんまり役に立ててないなぁ、と」
「役に、ですか~?」
「君らに世話になってる立場だからなぁ。少しは何かしてやりたいんだが……」
どうにもなぁ、と。
俺に出来る事って無いなぁ。
「そんなんは、あんまり気にしてまへんから」
「でもなぁ」
「……多分、その辺りが、ウチらとお兄さんの“違い”なんでしょうな~」
「“違い”……かぁ」
難しいなぁ、と。
「ですね~」
2人で、小さく溜息。
何が違うのか、と聞かれたら答えられない。
そんな“違い”が、確かにあるんだろう。
一般人の俺と、魔法使いの2人とじゃ。
でもまぁ、今はしょうがないか。
まだ初日だし。
「前途多難ですわ~」
「だなぁ」
今度は溜息をつかず、2人して苦笑い。
これからどうなるんだか、と。
「? 2人とも、どないかしたんか?」
「お犬は、悩みが無さそうで羨ましいわ~」
「いきなりかっ!?」
しかし、
「仲良いなぁ、お前ら。付き合い長いのか?」
「仲良ぅないっ」
間髪いれず否定された。
それに苦笑し、立ち上がる。
月詠も俺に続いて立ち上がり、3人で玄関に向かう。
「一月くらい前に知り合いましたっけ~?」
「やなぁ」
「ふぅん、案外最近なんだな」
意外だった。
歳も近いし、もっと長い付き合いなのかな、って思ってた。
それに、仲良いし。
本人達は否定するけど。
「そですね。ネギのぼん達と初めて会ぅた時に会いましたしね~」
「おー、そんくらいやな」
「ネギ先生な?」
「……は~い」
しかし、ネギ先生って……修学旅行の時か?
まぁ、多分あの3日目だろう。
マクダウェル達と一緒になんかしてたらしいし。
思い当たるのはその時くらいか。
「それじゃ、修学旅行の時に、俺とも会ってるかもな」
「かもしれませんね~」
「覚えてへんけど、かもしれへんなぁ」
靴を履きながら、そう言う。
もしかしたら、これが初めて会った、ってわけじゃないのかも、と。
そうか、あの時からすでに、近衛達は頑張ってたのか……。
俺は、全然知らなかったな。
「ここは、あんまし星が見えまへんな~」
「そうか?」
俺はこれでも、多いと思うんだけど……。
「ワイの住んでた所は、もっとよぅ見えとったで?」
「良いなぁ。俺は、これでも良く見える方だと思ってた」
部屋から出、鍵を閉めてから空を見上げる。
……もっと良く見えるのか。
きっと、綺麗なんだろうなぁ。
「兄ちゃん、星好きなんか?」
「どうだろうな? でも、綺麗な景色は見てみたいな」
知ってるのは、PCの画像とか、本の絵とかである。
実際に見たモノって言えば……。
「京都は綺麗だったなぁ」
「そうですか~?」
「自然も多かったし。まぁ、泊ってた所が少し街から離れた所だったしなぁ」
歩きながら、思い出すのは、朝の散歩。
アレは気持ち良かった。
「アレでか?」
「ん?」
「なら今度、もっと凄い景色見せたるわ」
腕を頭の後ろで組んで、そう自慢げに言う。
「お犬は、山は得意そうですしな~」
「犬犬言うなっ」
……仲良いなぁ。
「でも月詠も、あんまりそう言ってやるなよ?」
「は~い」
「あんまりって何で!?」
だって、見てる分にも楽しいし。
・
・
・
今日も、超包子は繁盛していた。
というか、今からの時間が稼ぎ時なんだろう。
丁度部活終わりの連中が、今から来るだろうし。
「おや、先生?」
「あ、新田先生」
こんばんは、と。
超包子のカウンターで飲んでいたのは、新田先生だった。
それと、
「葛葉先生も」
「こんばんは、先生。月詠と小太郎君も、こんばんは」
「こんばんはです、刀子先生~」
「……ども」
小太郎の頭を、軽く小突く。
「ちゃんと挨拶をしないか」
「う……ども、えっと、葛葉先生?」
「そう言えば、名乗って無かったですね」
あ、そうなんだ。
葛葉先生も魔法使いだって言ってたから、面識があるとばっかり思ってた。
「おや、そちらの2人は?」
「先生の遠縁の子達だそうです。月詠の方は明後日からネギ先生のクラスに」
「……聞いてないんだがね?」
「急な事だったようで、学園長も今晩は仕事に追われてるようですよ?」
「ふむ」
そう言って、持っていた酒をあおる新田先生。
「すみません、自分も聞いてなかったもので」
というか、俺の遠縁の子になるのか……。
その辺りも全然話し合ってなかったな。
助け船を出してくれた葛葉先生に頭を下げると、小さく微笑んで手を振ってくる。
どうやらこちらも、結構出来上がってるようだ。
「どうしたのですか?」
「いえ……まぁ、その」
はは、と。
どう言うかなぁ、と考えていたら。
「晩ご飯を食べに来ました~」
あっさり、月詠に言われてしまった。
とっさに、葛葉先生から視線を逸らす。
「……なるほど」
「う」
声が冷たい。
きっと呆れられてるんだろう。
「兄ちゃん、よっわいなぁ」
男ってのはこんなもんだよ、多分。
そう内心で返し、葛葉先生とは反対側、新田先生の隣に座る。
「失礼します」
「どうぞどうぞ。先生も一杯?」
「いえ、今日は遠慮しておきます」
月詠達も座るように言うと、俺の隣に並んで座る。
さて、と。
「メニューはこれだけど、何食う?」
好きに選んでいいぞ、と
俺は何食うかなぁ。
「なぁ、姉ちゃん。オススメってなんかあるか?」
「はい。今日はですね――」
・
・
・
「こんばんは、先生」
「おー。こんばんは、絡繰」
注文した品を持ってきたのは、絡繰だった。
何だ、今日はこっちに居たのか。
「御注文の品です」
「ありがとなー」
それを受け取りながら、礼を言う。
月詠達も、だ。
「ありがとーございます~」
「あんがとな、ねーちゃん」
「いえ……晩ご飯、ですか?」
ん?
「おー。ちょっとなぁ」
「ご飯を作れる人が居ないそうなのよ」
そうあっさり言わないで下さい、葛葉先生。
こっちにも教師の面子というのがですね……まぁ、あんまり無いですけど。
うーむ。
「そうなのですか?」
「う」
「「いただきまーす」」
こんな時は仲良いのな、お前ら。
まぁいいけどさ。
「まぁ、明日からは何とかするさ」
「どうなさるのですか?」
「……まぁ、頑張ってみるよ」
料理、と。
自信無いけど。
「そうですか」
「ま、気にしないでくれ」
さて、ご飯ご飯。
暖かいうちに食べよう、っと。
「それでは、失礼します」
「ありがとなー」
そうして晩御飯を食べていたら、
「なんや、お兄さんはお知り合いが多いですなぁ」
「まぁ、生徒だしなぁ」
知り合い、というのとはまた違う……のかな?
どうだろう?
「あのねーちゃん、料理できんの?」
「おー。凄い美味いぞ」
「マジか!?」
ああ。アレはやばい。食べたらコンビニ弁当はちょっと……。
近衛も上手いし……。
「お嬢様もですか~」
「お嬢様?」
「木乃香お嬢様ですわ~」
そう呼んでるのか?
まぁ、お嬢様って……やっぱり、近衛って良い所のお嬢さんなんだなぁ。
「誰かに頼もう、兄ちゃん」
「あのなぁ。自分で出来るかもしれない事を誰かに頼む訳にもいかないだろ」
「料理できへんやん」
あっさり言うな。
「大体、迷惑だろうが」
「……う」
「料理くらいどうとでもなるさ……多分」
「最後が無かったら、格好ええんですけどね~」
おお、また腕上げたな、四葉。
「ちなみに、ここの料理作ってる人もウチの生徒だぞ?」
「めちゃめちゃ料理得意な人と知り合いやな」
「俺達は料理出来ないけどなぁ」
「そこは言わないお約束ですえ~」
うむ。
……どうしたもんかなぁ。
「悩んでるようだね、先生」
「ええ。どうにも、一つ問題が……」
「料理なんて、覚えようと思えば覚えるモノですよ」
……葛葉先生、格好良いです。
とても女の人には見えない。
「なにか?」
「いえ、なにも」
しかし、料理か……はぁ。
「ごちそうさま」
両手を合わせて、お辞儀を一つ。
うーむ。
四葉は料理が上手だなぁ。
「まぁ、何とかなるか」
「そうですね~」
……はぁ。
「月詠も料理はする事になるんだぞ?」
「え~」
「当たり前だ。こういうのは当番制だろう」
「って、俺も!?」
うむ。
「楽しそうだねぇ」
「そうですね」
楽しくはありますけど、あんまり笑って話せる内容じゃないかもしれないです。
だから、人を酒の肴にしないで下さい。
「よし、明日の朝食を買いに行くぞ」
「……しょうがありませんな~」
「……ま、いいか」
・
・
・
という訳で、近所のスーパーへ。
「タイムサービスって、結構残ってるんですね~」
「せやなぁ」
何で肉ばっかり入れるの、君達?
というか、小太郎。
判り易いなぁ。
「野菜も食うぞ、野菜も」
「は~い」
「えー」
実に対照的な声である。
……もう月詠が姉で良いよな。
きっと誰一人文句は言わないだろう。
「料理も魔法でぱぱっと出来たら楽ですのにね~」
「だなぁ……だが残念ながら、そんな魔法は無い」
「西洋魔術師はん達は、きっと損してますわ~」
「……どんな魔法や」
というか、魔法ってどんなのがあるんだろ?
やっぱり、こー、火の玉とかだろうか?
うーむ。
そんな事を話しながら、とりあえず明日一日分の食材を買い込む。
朝と昼の分……だと思う。
一日にどれくらい食べるかなんて、考えた事無かったし。
一応朝は3人分、昼は2人分なので……かごいっぱいである。米もあるし。
「小太郎は力持ちだなぁ」
「そう? へへ」
普通、小太郎の歳くらいだと10キロの米は結構重いんじゃないだろうか?
軽々と持ってるし。
やっぱり凄いんだなぁ、子供なのに。
ちなみに、結構な出費でした。
……良くこんなに買って、節約とかできるなぁ。
食材の使い方とかだろうか?
そう言うのも少し勉強した方が良いんだろうなぁ。
「大丈夫か? 重くないか?」
「あのなぁ、兄ちゃん。そう心配せんでも大丈夫やって」
「そうか?」
「そうですえ~。力しか能無いし」
それは言い過ぎだろう、と。
「お前は何も持ってないやんかっ」
「ウチ、女の子ですから~」
「うわ、ムカツクわ……」
でもまぁ、女の子に荷物持たせる訳にもいかんだろ。
俺が買い物袋二つ、小太郎が10キロのコメを持って、月詠は俺の隣を歩いている。
「これで、後は明日の朝しだいやな……」
「おー」
うむぅ。
ハッキリ言って嫌な予感しかしない。
それは他の2人も一緒なのか、そこだけは笑って無い。
いや、月詠は笑ってるんだけど、あんまり触れてこない。
「まぁ、食べられるのが出来れば御の字ですな~」
「だな」
「そうやな」
そこが妥協点である。
食べられるもの……まぁ、大丈夫だろう。
目玉焼きとかその辺りなら。
卵焼きなら、保証は出来ない。
……同じ卵料理でこの差である。
「お兄さんには期待してますわ~」
「まぁ、朝は良いけどさ。明日の昼と夜くらいは手伝ってくれよ?」
「気が向きましたら~」
ま、それで良いか。
女の子だし、そのうち料理に気が向くかもしれないし。
今時、料理の出来ない女の子ってのも……まぁ、出来た方が良いだろうなぁ。
作る時は誘う様にするか。
レシピだって、パソコンで調べればすぐ見つかるだろうし。
「明日から頑張らないとなぁ」
「そうですな~」
「……そやなぁ」
まぁ、ハムとか肉とかは焼くだけだし。
野菜は適当な大きさに切るだけだし。
何とかなるだろ、うん。
……きっと四葉とか近衛とかに聞かれたら怒られるんだろうなぁ。
すまん、料理の出来ない教師で。
「こういうのは楽しいですね~」
「そうか?」
俺は不安でいっぱいなんだが。
「こんな沢山の人と一緒に生活するの、初めてですし~」
沢山?
「3人じゃないか」
「3人も、ですえ~」
……ふむ。
「そうだな。確かに楽しいな」
「お兄さんもですか~?」
「一人暮らしが長いからなぁ」
えっと……指折り数えて。
「7年くらいか?」
「結構長いんですね~」
「月詠達よりは、長く生きてるからなぁ……小太郎は?」
「……ま、兄ちゃんほどじゃないけどな」
そっか。
「なるだけ楽しくしていきたいな」
「ですね~」
「せやな」
うん。
「という訳で、料理は当番制が良いと思うんだが……」
「ウチは料理はきっと全然ですえ~」
「肉焼くだけなら……」
…………はぁ。
でもまぁ、きっと楽しいさ。
・
・
・
明日のご飯の準備をし、タイマーをセット。
……3合くらいで足りるかな?
まぁ、余ったら今度焼き飯にでもすれば良いか。
コンビニのおにぎりって、どれくらいの量なんだろう?
そう言うのって、全然気にしてなかったなぁ。
「月詠ー、フロ空いたで」
「はい~」
ちなみに、風呂場もかなり綺麗で広かったので、一番風呂はじゃんけんだった。
勝ったのは小太郎。
次に月詠で、最後は俺である。
「それでは、お先にです~」
「おー。温まってこいよー」
「は~い」
テレビを見ていた月詠と交代するように、今度は小太郎がテレビの前に。
……今度、大きなの買うかなぁ。
3人で見るには小さいよなぁ。
というか、この部屋が大きいんだが。
「うわ、難しい本ばっかりやな……」
「マンガとかは、あんまり読まないからなぁ」
すまないな、と。
読んでる週刊誌とかはあるんだが、コミックを買っても読む時間がなぁ。
……一回読み始めたら、最初から最後まで読んでしまう性格なのだ。
学生時代は良かったが、仕事するようになってからは、本は手元に置かないようにしている。
あるのは参考書とか、そんなのばっかりだ。
きっと、そう言うのは読んでも面白くないだろう。
「なんか面白いのやってたかな……」
「なんかやってるか?」
「んー、ちょいタンマ」
そう言いながら、チャンネルを変え、
「なぁ兄ちゃん?」
「んー?」
「俺らの事、怖ないの?」
そうだなぁ、と。
突然聞かれたけど、別に驚きは無かった。
いや、驚くより……それは、言わないといけない事だったから、驚かなかったんだろう。
「ああ。怖くないよ」
「……俺、人間とちゃうで?」
マクダウェルと同じだ、と思った。
人間と違う事を気にしてる。
……そう簡単に言ったら、怒るだろうか?
きっと怒るだろう。
マクダウェルや小太郎にとっては、きっととても大切な事だろうから。
別に軽く思ってる訳じゃない。
でも、俺は人間で小太郎は人間じゃない。
それはどうしようもない事で――きっと、どうにも出来ない事。
俺が一般人で、小太郎がそうじゃない、というのと同じ事だ。
「そうだな。でも、俺は何となくだけど……お前の事を知ってるからな」
テーブルを挟むように座り、持ってきた水を少し飲む。
小太郎の方にも、コップを差し出す。
「人が怖がるのは何でだと思う?」
「相手が怖いからやろ?」
苦笑する。
うーん、と。
「何で、怖いんだ?」
「……相手が、どんだけ強いか判らないから?」
「そうだな」
小太郎らしいな、と。
このやんちゃな少年らしい物言いだ。
「それが答えだよ」
「……どれ?」
はぁ、と小さく溜息。
テレビからはニュースの声。
「判らないから、怖いんだよ。人は、知らない事は怖いんだ」
「ふぅん」
「でも俺は、小太郎と月詠の事は……少しだけ知ってる。ほんの少しだけだけど、判ってる」
きっと、殆ど、何も知らないと言える程度だろうけど――それでも、知ってる。
この子達が、俺を助けてくれた事を。
だから、怖くない。
……大の大人が、まるで子供の理論だな、と。
でもまぁ、それが俺の答えなのだ。
「だから、怖くないよ」
「その程度で?」
「その程度で、だ。人間なんて、単純なもんだ」
「……そやな。兄ちゃんは単純やな」
どうやら、単純なのは俺一人だけらしい。
ま、良いけどさ。
判ってるし。
「助けてもらったら感謝する。他人を知って仲良くなる。そうやって、人ってのは友達なんかを作るもんだ」
「――そか」
「おー」
そう言えば、明日使う小テスト用意してなかったな。
……作るか。
「それじゃ、今から仕事するから」
「判った」
「テレビ見てていいからな。寝たくなったら、消して欲しいけど」
「おっけー」
それじゃ、少し頑張るかなぁ。
仕事出来ないでクビになったら、この2人に悪いし。
パソコンを立ち上げ、いつも使っているファイルを起こす。
さて、と。
カタカタとキーボードを叩いていたら、月詠が風呂からあがってきた。
ピンクの可愛らしいパジャマ姿で、髪を拭いている。
「お風呂空きましたえ~」
「ちゃんと温まったか?」
「ばっちりですわ~」
そか。
なら、俺も温まって寝るかな。
残った仕事も後少しだし。
後は風呂からあがってからでも1時間もかからない。
「んじゃ、寝るならテレビ消しといてくれなー」
「は~い」
とは、冷蔵庫から牛乳を取り出している月詠。
小太郎は……寝ていた。
まったく。
「しょうがないヤツだな……」
「あら、わんこはお眠ですか」
「月詠はどうする?」
「……もう遅いですし、寝ますわ~」
「ん」
腹も膨れて、風呂に入って疲れが出たんだろう。
京都から着の身着のままって言ってたけど、疲れてるんだろうな。
なんな悪魔とも戦ったし。
そんな事を考えながらテレビを消し、小太郎を抱え上げる。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい~」
あ、と。
自分の部屋に入ろうとした月詠の背に、声を掛ける。
「これからよろしくな、月詠」
「はい~」
そう言い、小太郎の部屋に入ろうとして
「寝る前におやすみなんて、初めて言いましたわ~」
そう、声を掛けられた。
「そうなのか?」
「ええ~」
「……おやすみ、月詠」
「おやすみなさい~」
もう一度言う。
今度は何気なくではなく、笑って。
さて、と。
布団を敷いて小太郎を寝かせ、風呂へ。
明日から大変だなぁ、と。
それでも、笑って――溜息を吐いた。