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No.25786の一覧
[0] 普通の先生が頑張ります (更新再開…かな?[ソーイ](2011/06/08 19:02)
[1] 普通の先生が頑張ります 0話[ソーイ](2011/04/10 19:06)
[2] 普通の先生が頑張ります 1話[ソーイ](2011/04/10 16:49)
[3] 普通の先生が頑張ります 2話[ソーイ](2011/04/08 22:17)
[4] 普通の先生が頑張ります 3話[ソーイ](2011/04/08 22:52)
[5] 普通の先生が頑張ります 4話[ソーイ](2011/04/08 23:22)
[6] 普通の先生が頑張ります 5話[ソーイ](2011/04/08 23:43)
[7] 普通の先生が頑張ります 6話[ソーイ](2011/04/09 10:03)
[8] 普通の先生が頑張ります 7話[ソーイ](2011/04/09 10:16)
[9] 普通の先生が頑張ります 8話[ソーイ](2011/04/09 10:36)
[10] 普通の先生が頑張ります 9話[ソーイ](2011/04/09 13:58)
[11] 普通の先生が頑張ります 10話[ソーイ](2011/04/09 14:38)
[12] 普通の先生が頑張ります 11話[ソーイ](2011/04/09 15:24)
[13] 普通の先生が頑張ります 12話[ソーイ](2011/04/09 18:20)
[14] 普通の先生が頑張ります 13話[ソーイ](2011/04/09 22:23)
[15] 普通の先生が頑張ります 14話[ソーイ](2011/04/09 23:12)
[16] 普通の先生が頑張ります 15話[ソーイ](2011/04/09 23:47)
[17] 普通の先生が頑張ります 16話[ソーイ](2011/04/10 16:45)
[18] 普通の先生が頑張ります 17話[ソーイ](2011/04/10 19:05)
[19] 普通の先生が頑張ります 18話[ソーイ](2011/04/11 21:15)
[20] 普通の先生が頑張ります 19話[ソーイ](2011/04/11 21:53)
[21] 普通の先生が頑張ります 20話[ソーイ](2011/02/27 23:23)
[22] 普通の先生が頑張ります 21話[ソーイ](2011/02/27 23:21)
[23] 普通の先生が頑張ります 22話[ソーイ](2011/02/27 23:19)
[24] 普通の先生が頑張ります 23話[ソーイ](2011/02/27 23:18)
[25] 普通の先生が頑張ります 24話[ソーイ](2011/02/26 22:34)
[26] 普通の先生が頑張ります 25話[ソーイ](2011/02/27 23:14)
[27] 普通の先生が頑張ります 26話[ソーイ](2011/02/28 23:34)
[28] 普通の先生が頑張ります 27話[ソーイ](2011/03/01 23:20)
[29] 普通の先生が頑張ります 28話[ソーイ](2011/03/02 22:39)
[30] 普通の先生が頑張ります 29話[ソーイ](2011/03/04 22:42)
[31] 普通の先生が頑張ります 30話[ソーイ](2011/03/08 00:19)
[32] 普通の先生が頑張ります 31話[ソーイ](2011/03/07 23:33)
[33] 普通の先生が頑張ります 32話[ソーイ](2011/03/10 00:37)
[34] 普通の先生が頑張ります 33話[ソーイ](2011/03/09 23:47)
[35] 普通の先生が頑張ります 34話[ソーイ](2011/03/10 23:15)
[36] 普通の先生が頑張ります 35話[ソーイ](2011/03/13 23:11)
[37] 普通の先生が頑張ります 36話[ソーイ](2011/03/14 22:47)
[38] 普通の先生が頑張ります 37話[ソーイ](2011/03/15 23:56)
[39] 普通の先生が頑張ります 38話[ソーイ](2011/03/16 23:15)
[40] 普通の先生が頑張ります 39話[ソーイ](2011/03/17 23:03)
[41] 普通の先生が頑張ります 40話[ソーイ](2011/03/18 22:46)
[42] 普通の先生が頑張ります 41話[ソーイ](2011/03/19 23:49)
[43] 普通の先生が頑張ります 42話[ソーイ](2011/03/20 23:12)
[44] 普通の先生が頑張ります 43話[ソーイ](2011/03/21 22:44)
[45] 普通の先生が頑張ります 間幕[ソーイ](2011/03/23 07:49)
[46] 普通の先生が頑張ります 44話[ソーイ](2011/03/23 23:24)
[47] 普通の先生が頑張ります 45話[ソーイ](2011/03/25 23:20)
[48] 普通の先生が頑張ります 46話[ソーイ](2011/03/26 23:23)
[49] 普通の先生が頑張ります 47話[ソーイ](2011/03/28 00:29)
[50] 普通の先生が頑張ります 48話[ソーイ](2011/03/28 23:24)
[51] 普通の先生が頑張ります 49話[ソーイ](2011/03/30 00:25)
[52] 普通の先生が頑張ります 50話[ソーイ](2011/03/31 00:03)
[53] 普通の先生が頑張ります 閑話[ソーイ](2011/04/01 00:36)
[54] 普通の先生が頑張ります 51話[ソーイ](2011/04/01 23:50)
[55] 普通の先生が頑張ります 52話[ソーイ](2011/04/03 00:22)
[56] 普通の先生が頑張ります 53話[ソーイ](2011/04/04 23:45)
[57] 普通の先生が頑張ります 54話[ソーイ](2011/04/05 23:24)
[58] 普通の先生が頑張ります 55話[ソーイ](2011/04/06 22:31)
[59] 普通の先生が頑張ります 56話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:46)
[60] 普通の先生が頑張ります 57話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[61] 普通の先生が頑張ります 58話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[62] 普通の先生が頑張ります 59話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[63] 普通の先生が頑張ります 60話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[64] 普通の先生が頑張ります 61話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:48)
[65] 普通の先生が頑張ります 62話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:48)
[70] 普通の先生が頑張ります 56話(修正版[ソーイ](2011/04/28 23:46)
[71] 普通の先生が頑張ります 57話(修正版[ソーイ](2011/04/28 23:27)
[72] 普通の先生が頑張ります 58話(修正版[ソーイ](2011/04/30 22:52)
[73] 普通の先生が頑張ります 59話(修正版[ソーイ](2011/05/18 23:24)
[74] 普通の先生が頑張ります 短編 【茶々丸】 [ソーイ](2011/05/23 23:47)
[75] 普通の先生が頑張ります 短編 【エヴァンジェリン】 [ソーイ](2011/05/23 23:42)
[76] 普通の先生が頑張ります 短編 【エヴァンジェリン】 2[ソーイ](2011/05/25 23:21)
[77] 普通の先生が頑張ります 短編 【月詠】 [ソーイ](2011/06/08 23:06)
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[25786] 普通の先生が頑張ります 41話
Name: ソーイ◆9368f55d ID:052e1609 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/19 23:49

――――――エヴァンジェリン

 夢を見た。
 どんな夢かは覚えていないし、きっと良い夢とは言えない夢だったのだろう。
 ベッドの上で目が覚めた時、ひどく悲しい気持ちだった。
 いや、悲しいと言うよりも――どう表現すれば良いか。
 寝汗で気持ちの悪いパジャマに内心顔を歪め、視線を窓に向ける。
 カーテン越しにも判る、曇天の空。
 恐らく曇り……いや、この窓を叩く音から雨が降っているのだろう。
 ――――雨。
 そう言えば、昨夜はびしょ濡れになってしまったんだったか。
 だからこんなにも気持ちの悪い朝なのか。
 それとも、単純に朝が苦手だからか……吸血鬼だし。
 ……いや、こんな朝早くに目が覚めた時点で、吸血鬼としてどうかと思う。
 苦笑してしまう。
 だってどうだ?
 昨日、私は茶々丸に何と言って寝た?
 今日は学園を休む、と。
 そう言って、眠りについたのではなかったか?
 なのにどうだ。

「はぁ……」

 実際は何時も通り……いや、もしかしたらいつもより早く起きたのかもしれない。
 茶々丸も起こしに来てないし。
 時計を見ないと判らないけど。
 どうしてこんな――どうして、と。
 ベッドの中で、小さく溜息。
 明日は休みだし、週が明けたら少しは現状も動くだろう。
 現状。
 ……先生の、処遇。
 どうなるんだろうか?
 記憶を消されるか……最悪、安全の為に麻帆良から遠ざけられるか。
 きっとどちらかだろう。

「せんせい……」

 それとも、もしかしたら――と。
 一番確率の低い事に思考が行き……無いな、と、小さく身動ぎ。
 今日は学園を休むし……一日、寝てるかな。
 ……何でか、眠気はもうほとんど無いけど。
 朝は苦手なはずなんだが、何で今日はこんなに眼が冴えているのか――。
 このまましばらくはゴロゴロするか、と。
 そう思い寝返りをうち視線をカーテンの無い窓に……。
 やっぱり雨か。
 雨が窓を叩き、曇らせている。
 暗い空は、まるで私の気持ちのようだ、と。
 学園を休む。
 今日は一日時間がある。
 なのにこんなにも気持ちは重い。
 まるでこの曇天の空のようだ。
 曇ってる。
 ――私が何に気を重くしているのか隠れてしまうくらいに、曇っている――。
 そう思うと、余計に気持ちが重くなる。
 ……ああ、と。
 そうだな。
 別に隠せないよなぁ、と。

「あのじじいめ……」

 やっぱり、自分の手で捻り潰すべきだった。
 今になって、再度怒りが湧く。
 私が悪いって判ってる。
 あんなのが侵入した事に気付かなかった。
 あんなのが居ると判っていたのに、全然警戒してなかった。
 現状に甘えて――失う事になると、思いもしてなかった。
 いや、思ってはいた……でも、それが昨日だなんて、思ってなかった。
 甘いと言われればそれまで。
 言い訳のしようも無い。
 魔法使いがなんだ。吸血鬼がなんだ。
 闇の福音と言われても、所詮は何も守れない……。
 ……もう少しで、失う所だった。
 永遠に、亡くす所だったのだ。
 ――あの人を。

「――――――」

 いつかは居なくなる。
 あの人は人間で、私は吸血鬼。
 あの人は有限で、私は無限。
 だがそれでも――少しでも長く生きてほしいと思う。
 一つの出逢いを与えてくれたから、もっと沢山の出逢いを与えてほしいと思う。
 ただそこに居てくれるだけで良い。
 ただそれだけで、良いから。
 あの人は、ただそれだけで十分だから。
 なのに――それさえ、出来なくなる所だった。
 いや……もう出来ないのかもしれない。
 知られたから。
 私は、私が――人間ではないと。
 吸血鬼だと。
 血を吸う鬼だと。
 ……そう、気付かれた。
 胸の中が、何と言うか……空虚な気持になる。
 失くした気持ちになる。
 あの人は生きているのに、もう居ない。
 記憶を無くしたら、きっともう“違う”んだと。
 そう考えると、ひどく気持ちが重くなる。
 どうしてこうなってしまったんだろう?
 たったの一年。
 たったそれだけでも。
 私が生きてきた時間に比べれば、砂時計の砂が落ちるほどの時間じゃないか。
 なのに――たったそれだけの時間すらも、私には与えられないのか。

「はぁ」

 吸血鬼が人間と居る。
 それは悪い事なのか……。
 今のこの日常が異常で、今までの非日常こそが正常だったのか。
 きっとそうなんだろう。
 私の“今”が間違っている。
 でもそれでも――私は、この時間が気に入っている。
 明日菜と遊び、木乃香達を鍛え、クラスの連中と喋る――学園の生活が、気に入っている。
 それはひどく眩しくて、そして暖かな時間。
 私が遥か昔に失くした、もう二度と手に入らないと思っていた時間。
 必要無いと思ってた。
 でも、手に入れてしまった。
 要らないと言った。
 でも、掴んでしまった。
 視界に、枕元に置いていた携帯が目に入る。
 明日菜が選んでくれた携帯。
 先生が買ってくれたストラップを付けた、携帯。
 それを手に取る。
 チリン、と。
 乾いた音がする。
 チリン、チリン――チリン。
 乾いた音が、耳に届く。
 可愛らしい飾りのそれが、視界で揺れる。
 チリン、と。

「ふふ……」

 少し、落ち着いた。
 そう悪くないこの鈴は、気に入っている。
 開運のお守り――もし、叶うのなら……。
 そう思い、苦笑。
 吸血鬼が、何に願うのか。
 神か? 世界か?
 残念だが、私にとってはそのどちらも敵だ。
 だがそれでも……もし、願っていも良いのなら……。
 いや、と。
 枕に顔を埋める。
 今のこの時間も奇跡なのだ。
 これ以上を望んだら罰が当たる。
 ……それに、危ないし。
 明日菜との付き合いも……考えた方が良いかもな。
 そう考えると、また気持ちが曇ってしまう。
 ああ――どうやら私は“私”が思っている以上に、今のこの時間が気に入っているらしい。
 そんな事を考えてきたら、足跡。
 茶々丸か……上ってくるのは。

「マスター、朝です」

「……休むと言っただろうが」

 何を律義に起こしに来るのか……これも、先生の影響か。
 茶々丸も随分とあの人の世話になったな。
 感情と言うにはまだ幼いが、それでも随分とソレが豊かになった。
 それに、自分で物事を考えるようになった。

「それが――」

「どうした?」

 誰か来たか?
 まぁ、十中八九学園長のじじいか――それとも、私を良く思っていない魔法使いたちか。
 それともその両方か。
 そう考えベッドから身体を起こし、

「先生がお迎えに来られました」

 それは、聞き慣れた――と言うとアレだが、初めて聞く事ではなかった。
 2年の時期。
 先生と出逢った時期。
 その時を思い起こさせる。
 私が学園をサボり過ぎて……とうとう先生に、目を付けられた時。
 先に来たのは、驚き。
 どうして、と。

「最近はサボって無いぞ?」

 だから、そう言った。
 そして、思う。まるで吸血鬼らしくないな、と。
 そう思った。
 そんな自分に苦笑してしまい――寝起きで乱れた髪を、右手で掻き上げる。

「着替えを置いておきますので」

「……制服か?」

 私は今日、学園を休む、と言ったのに――茶々丸は、着替えに制服を置いていく。
 悪い言い方をすれば、主人である私の言う事を聞いていない。
 ――良い言い方をすれば、自分の意思で行動している。
 それもまた、あの人の影響か。
 茶々丸もまた、先生との時間を過ごしてきたようだし……。

「休む、と言わなかったか?」

「はい。ですが迎えに来られましたし――」

 そう言ったん区切り、

「――学園を休む、とは言われませんでした」

「…………そうだったか?」

「はい」

 ……むぅ。

「言う様になったな」

「そうでしょうか?」

 ……ま、良いか。

「着替えるから、茶でも出しておけ」

「はい」

 そう一礼し一階へ行く茶々丸。
 その背に、

「先生は大丈夫そうだったか?」

「――あまり、顔色が優れないかと」

 そう律義に振り返り、応える。

「そうか」

 ……でも、来たのか、と。
 どう言えば良いか……。

「すぐ行く」

「かしこまりました」

 それじゃ、急いで着替えるか。
 着替える為に携帯を置くと、チリン、と乾いた音。
 ふむ――。

「なかなかどうして」

 御利益があるのかもなぁ。



――――――

 目が覚めたら、気持ち悪かった。
 そう感じてベッドの中で身動ぎすると、体中が痛い。
 ……筋肉痛とは、またちょっと違う。
 関節痛と言うか――何と言うか。
 酷くだるいし……。

「風邪ひいた」

 呟く。
 喉が痛くないのと、鼻水が出ないのは幸いか。
 でも、ひどくだるい。
 ――むぅ。
 どうしよう?
 意識ははっきりしてる。
 何の為に早起きしたのかも覚えてる。
 なら、と。

「……ぅぉ」

 身体を起こすと、何と言うか……変な感覚。
 クラクラすると言うか、頭が重いと言うか。
 風邪とはまた違った感じ。

「あー……」

 そう言えば、傷は近衛に治してもらったけど、結構血が出てたような。
 貧血なんてなった事無いけど……これがそうなのかもしれない。
 雨だなぁ、と。
 そんな事を考えながらベッドから出て、着替える。
 スーツも予備のを出さないといけないんだった。
 ……小太郎に使ったのも、クリーニングに出さないとなぁ。
 良く考えたら、昨日は色々あったんだなぁ。
 魔法とか、悪魔とか。
 どうなるんだろう?
 瀬流彦先生が、昨日は何か言ってたけど……。
 ……何だったか?

「きっつ……」

 そうそう、学園長からなんか話があるって言ってたような。
 少し憂鬱である。
 何を言われるか。
 こう言うのって、やっぱり隠してるんだろうから……何かされるのかな?
 漫画とかである契約書みたいなの書かされたりして。
 そう思うと苦笑してしまう。
 俺の想像の、貧困な事に。
 でも、どうなんだろう?
 まぁそう深く考えないでおこう――頭痛いし、気持ち悪いし。
 逃げる、と言うのも一瞬浮かんだが、それは無し。
 学園長は信じられる人だと思うから。

「っと」

 ネクタイまで絞めて、部屋を出る。
 そう言えば、靴箱壊されたんだっけ……これ、誰かに弁償してもらえないかな?
 自腹、と言うのだけは嫌なんだけど。
 溜息を一つ吐いて寮の出入り口に行くと――瀬流彦先生が居た。
 入口の所の備え付けの椅子に座って雑誌を読んでいて、その顔が上がり、俺に向く。

「おはようございます、瀬流彦先生」

「……おはよう、先生。早いね」

「はは、ちょっと。瀬流彦先生は?」

 流石にマクダウェルを迎えに、とは言えず苦笑いで応える。
 まぁ、あるいに何度目かになるか判らない事ではあるんだけど。

「ん……調子はどう?」

「あんまり。結構キツイです」

 魔法、と言うのがどういうのか判らないので本当の事を伝えておく。
 俺は今まで魔法と無関係に生活してたから、昨日のがどうなるか判らないし。
 病院とかに言っても大丈夫かも、判らないのだ。

「そう。今日は休んだ方が良いかもね」

「いや……それは、ちょっと」

「……昨日は死に掛けたんだから、体調が悪いなら、静養しておくべきだよ」

「う」

 そう言われると、どうにも。
 死に掛けた。
 いや、本当は死んでいておかしくなかったのだ。
 ――思い出し、あの老人に掴まれた首に、自身の手を当てる。
 
「大丈夫かい?」

「え、ええ」

「……新田先生には僕が言っておくから、今日は休みなさい」

 そう言われた。
 う、む……。

「そう言えば、学園長から話が……って」

「それは、先生の体調が第一だから。そっちもちゃんと言っておくよ」

「……良いんですか?」

「巻き込んだのはこっちだよ? 頭を下げるのはこっちの方だ」

 いや、それはそれで困るんですけど。
 巻き込まれたのはこっちなんだし……。
 そう顔に出たのか、

「それで、どうする? 休む?」

「んー……」

 どうしようか、と。
 正直、休みたくはある。
 きついし、だるいし、気持ち悪いし。
 でも

「授業は午前中だけなんで、午後から早退させてもらいます」

「……学園が好きなんだね、先生」

「それに、近衛達の顔を見たいですし」

「ああ」

 昨日、泣かれた。
 しかも、ひどく。
 心配……してくれたのだろう。
 そう。心配させてしまったのだ。
 だから、顔を見せておいた方が良いかな、と。
 きっと安心してもらえるだろうし。
 教師が生徒に心配されるなんて、と思ってしまう。

「大変だね、教師ってのも」

「瀬流彦先生もそうでしょうに」

「……そうだったね」

 そう、苦笑。
 何か変な事言ったかな?

「先生は凄いねぇ」

 何が、と思った。
 別段そう言われるような事なんて、してないと思うけど……。
 むしろ、生徒に心配かけさせてしまったからなぁ、と思ってしまう。

「それじゃ、行ってきます」

「わかった。でも、無理そうなら僕か葛葉先生か、弐集院先生に言ってよ」

「弐集院先生?」

「うん。あの人も――まぁ、同業者だから」

 ……驚いた。
 魔法使いって、俺の周りに結構居るのかも。

「じゃあ、学園でね?」

「はい」

 そう言って、職員寮を出る。
 外は雨。
 傘をさすと、パタパタという雨音が耳に届く。
 この音は、何となく好きだ。
 何でだろう? とは思うけど、特に理由はない。
 でも、今日は少し嫌だな、と。
 雨のこの湿気が、少し。
 気持ち悪いから。
 ――そんな事を考えながら、もう通い慣れた道を歩く。







「おー。おはよう、絡繰」

 雨の中傘をさしてマクダウェル宅に行くと、その玄関先には絡繰が立っていた。
 どうしたんだろう?
 まぁ、この雨だ、あの時みたいに庭先の掃除、という訳にはいかないんだろうけど。

「…………おはようございます、先生」

 そう言って、静かに頭を下げる絡繰。
 その顔が、少し笑っていると思うのは、俺の気のせいか?
 再度上がった顔は、まぁ、いつものような無表情。
 でもどこか楽しそうに感じてしまう。

「どうした? なんか良い事でもあったか?」

 玄関先の軒先にいき、傘を閉じながら聞く。

「? どうしてでしょうか?」

「ん? いや、楽しそうだから」

「……楽しそう、ですか?」

「あー、うん。すまん、俺の気の所為かも」

 そう言うと、不思議そうに首を傾げ――その指を、その胸に持っていく。
 そうだ。

「マクダウェルは?」

「まだ寝ておられます」

 やっぱりか、と。
 まったく――あのサボり魔め。

「どうぞ、中へ」

「あ、すまん」

 そうドアを開けられ、中に入れてもらう。
 そう言えば、ここに来るのも久しぶりだな。
 傘を玄関先に置く。

「顔色がお悪いようです」

「う……まぁ、少しな」

 やっぱり判るかな。
 あんまり顔には出さないようにはしてるんだけど、体調が悪いのはどうしようもない。
 それに、身体の節々が痛いし。
 どうにも本格的に風邪のようだ。
 少し歩いただけで、軽く眩暈もするし。

「座ってお待ち下さい。今起こしてまいります」

「ん。すまないな」

「いえ……体調は、大丈夫でしょうか?」

「おう。大丈夫大丈夫、生徒が教師の心配なんかするな」

「…………は、はい」

 あの時いつも座っていたソファに腰を下ろし、小さく息を吐く。
 ……疲れてるなぁ。
 まるで自分の身体じゃないみたいだな、と。
 他人事のように思いながら、二階に上っていく絡繰を目で追う。

「?」

 何だろう?
 なんか違和感……ん?
 んー。
 内心で首を傾げるが、答えが出ない。
 なんか違うと言うか――。

「どうかなさいましたか?」

「ん? あ、いや」

 そんな事を考えていたら、二階から絡繰が下りてくる。
 んー……まぁ、今は良いか。

「マクダウェルは起きたか?」

「はい。今お茶を用意いたしますので、お待ち下さい」

「それより、早く着替えないと遅刻するぞ?」

「……それでは、お茶を用意してから着替えさせていただきます」

 まぁ、それなら良いかな、と。
 それに、久し振りに絡繰の淹れたお茶を飲みたいし。
 そう言えば何時振りだかなぁ。
 しかし、久し振りに見たけど相変わらず凄い人形達だな。

「先生」

「ん?」

 良い匂いだな、と思った。

「コーヒーもあったのか」

 前は紅茶とか日本茶ばっかりだったと思ったけど。
 まぁ、俺はコーヒーが好きだから嬉しい限りだ。
 少し胃に響くけど、まぁ良いか。眼も覚める。

「はい」

「すまないな」

 差し出されたソレを、手で受け取りながら礼を言う。

「いえ……朝食は、どうなさいますか?」

 一瞬、きょとんと、してしまい。

「そこまで面倒は掛けられんだろ。それより、早く着替えてこい」

 まったく、いきなり何を言うかと思ったら。
 少し驚いてしまい、それを隠すようにコーヒーを一口飲む。
 ……絡繰には、偶に驚かされるな。
 何というか、言葉に脈絡がないと言うか、いきなり突拍子も無い事を言うと言うか。
 
「それでは、着替えてまいります」

「おー」

 もう一口、飲む。
 マクダウェルの家で、一人コーヒーを飲む。
 ……俺の部屋より広いけど、落ち着いた気持ちになれるのは、慣れているせいか。
 最初の頃はよく落ち着かない気持ちになったもんだ。
 そう思うと、苦笑してしまう。
 俺も結構、この家に馴染んでたのかもなぁ、と。

「――先生」

 その声は、上から。
 その声の方に視線を向けると、制服姿のマクダウェルが、二階からこちらを見下ろしていた。

「おはよう、マクダウェル」

「……どうしてここに居る?」

 苦笑してしまう。
 何というか、マクダウェルらしいな、と。

「挨拶をちゃんとするように」

「ふん――おはよう、先生」

「おー。おはよう、マクダウェル」

 睨まれたけど、やっぱりあんまり怖くない。
 慣れた、とも言える。
 良く知ったマクダウェル。
 そう、最初の頃もこんな感じだったなぁ、と。
 妙に懐かしい気持ちである。

「で? どうして来た?」

「そりゃお前、今日サボる気だっただろ?」

「……ふん」

 そう息を吐き、降りてくる。
 まったく、と。
 苦笑してしまう。

「折角今は休み無しなんだから、皆勤賞狙ってくれよ」

「断る。朝は苦手なんだ」

 やっぱり、吸血鬼って朝苦手なんだ。
 そう、何と言うか……感心してしまう。
 漫画とかって、結構本当の事書いてあるんだなぁ、と。

「どうした?」

「いや、本当に朝苦手なんだなぁ、って」

「……ふん」

 そう不機嫌に言い、いつもの位置のソファに腰を下ろすマクダウェル。

「それだけか?」

「ん?」

「……ここに、私の家に来た理由だ」

 理由?

「だって、お前今日絶対サボるって思ったし」

「サボるんじゃない――これが、私の“本当”なんだ」

「ホントウ?」

「そうだ……吸血鬼が人と一緒に学ぶと言うのが、間違いだったんだ」

「なんで?」

 別に間違っちゃいないだろう、と。
 吸血鬼だって勉強しても良いと思うんだがなぁ。
 それに、家に籠ってちゃ友達なんてできないし。

「いままで学園に通ってたじゃないか」

「そのせいで、先生を巻き込んだ」

 あ。

「私が油断なんかしないで気を配っていれば、あの悪魔の侵入に気付けた」

「あー……」

 それは、何というか……。

「でもまぁ、アレは俺の不注意でもあるし」

 今思えば、何で小太郎や月詠に不信感を抱かなかったのか?
 いや、抱いていたのかもしれないが、どうして他の人に相談しなかったのか。
 明らかに異常な二人組なのに、である。

「そのせいで、死に掛けたんだぞ?」

「う……」

 そう言われると、困る。
 死に掛けたのは事実で、マクダウェルが心配している理由が正当だと判る。
 でもまぁ。

「心配してくれて、ありがとな?」

「し、心配なんかっ」

 あ、そこは照れるのか。
 相変わらず変な所で照れるな、コイツ。

「なぁ、マクダウェル?」

「聞きたくない」

 えー……。
 いきなりバッサリ切ったな、コイツ。
 こっちを向いてくれないか? はぁ。

「先生」

「ん?」

「私はな……私が、何者か、知ってるか?」

「吸血鬼?」

「……あっさり言うんだな」

 いやまぁ、そうみたいだし。
 あんまり信じられないけど……昨日のを見たらなぁ。
 あの老人は悪魔だったし。

「私はな、先生。沢山の罪を犯した吸血鬼だ」

「……そうなのか?」

 罪、と聞いて小さく息を呑む。
 それは、マクダウェルの外見から出るには少し重い言葉だと思った。

「沢山の時を生きた……そして、」

 そこで、言葉を切る。
 悩むように――その瞳を、こちらへ向けてくる。

「うん。それで、どうした?」

 だから、待つ。
 マクダウェルから話してくれるのを。
 それはきっと、俺が聞きたかった事。
 なのに聞けなかった事だから。
 きっと、今から語られる事がマクダウェルの“事情”なんだろう。

「……先生は、人殺しをどう思う?」

「人殺し、か」

 ……重いなぁ。
 それは、俺には無縁な言葉だった。
 人を殺した事も無ければ、殺したいと思った事も無い。
 でも、と。

「殺した事、あるのか?」

「ああ……ある」

 そうか、と。
 どう応えるべきか……悩んでしまう。

「そんな存在が、学園で学んでいいと思うか?」

「それは、学んで……いいと、思う」

 まずは、そう答える。
 うん。
 ふぅ、と小さく息を吐く。

「学園で学ぶのだって、勉強だけじゃない訳だし」

「そうか?」

「マクダウェルだって判ってるだろう? 神楽坂とかから学ぶ事だってなかったか?」

「……ふん」

 神楽坂、か。
 神楽坂もこの事は知ってるんだろうか?
 でもきっと、あの子はこの事を知ってもマクダウェルの友達でいてくれそうだなぁ、と。
 何でそう思うんだろう?
 ……まぁ、アイツは友達を大事にするから、という事で。

「そんな私が、許される訳がない」

 そう、一言。

「忘れていたよ。私は――罪人だ」

「そうか」

 それが、お前の“事情”か。
 マクダウェル――。

「学園は嫌いか?」

「好きだよ」

 即答。
 そう、即答してくれた。
 迷いも無く。
 そうか……好きか。
 それだけで嬉しい気持ちになれる。

「明日菜が居て、木乃香達が居て、クラスの連中と喋るのは……存外悪い気分じゃなかった」

「なら、学園に居て良いじゃないか」

「……だが、私は吸血鬼だ。沢山の人を殺したよ? 沢山の人に恨まれたよ?」

「うん。でも、学園に居て良いぞ」

 だってさ。

「楽しいんだろ? 別に吸血鬼だからって、楽しい事をしちゃいけないってわけじゃないだろ?」

「……それでも、私は人を殺した。きっと、許されない……」

 その顔が、こちらを向く。
 いつもの強気な顔なのに、泣き顔だ、と思った。
 ――昨日の近衛といい。よく生徒の泣き顔を見るな、と。
 そう思いながら、小さく息を吐く。

「償えば良いじゃないか」

「簡単に言うな」

「マクダウェルこそ、簡単に諦めるなよ」

 人を殺した。
 命を奪った。
 それはきっととても重い事だ。
 俺は人を殺した事が無いから大層な事を言う資格はないと思う。
 だから――

「吸血鬼って長生きなんだろ?」

「……ああ」

「なら、奪った命以上の命を救えるさ」

「……簡単に言うなよ、人間」

 そう睨まれた。
 ちょっと怖い。
 でも、“ちょっと”だけだ。

「私は吸血鬼だ、悪い魔法使いだ――誰も私を許さないし、誰も私を頼らない」

 そんな私が、何を救えるか、と。
 それは、きっと……マクダウェルの本心。
 まるで今にも泣き出しそうな声でそう言い――その顔を伏せる。

「誰も、私を許してなんかくれない」

 そうか、と。

「なら、マクダウェルが許してもらえるように……頼ってもらえるように、頑張ろうか?」

 そう、何の気負いも無く言う。

「……なんだ、それ」

 伏せた顔から、まるで馬鹿にしたような声。

「だって、悪い魔法使いなら、良い魔法使いになれば良いじゃないか」

 学園でだって変われたんだ、不可能じゃないだろう? と。

「変わってない」

 そう即答された。
 まったく。

「変わったよ。今はまだ麻帆良の中だけだけどさ、小さいけど、変わった」

 先生達の見る目。
 問題のある生徒を見る目から、少しだけだけど、変わったんだ。
 職員室での評価も、クラスでの仲も。
 そんな些細な変化だ。
 数カ月でこれだけ変われたんだ……そう思うのは、甘いんだろう。
 でも――マクダウェルには時間がある。
 きっと、もっと変わっていけば――いつか、世界から許される日が、頼られる日が来るって。

「誰が、変われるか……」

「変われるよ」

 ―――俺は、変われるって信じてる。
 今のマクダウェルが、その証拠だ、と。

「……なんで」

「ん?」

「何で、そんなに簡単に言えるんだ?」

 んー。

「そう簡単でもないんだけどな」

「真面目に聞いてるんだ」

「俺だって真面目だ」

 失礼な。
 そう、気負いなく笑う。
 だって、俺に出来る事はきっと――本当に、小さな事だ。
 頑張るのはマクダウェルで、俺に出来るのは……些細な事だけなんだ。
 ただの人間だから。

「マクダウェルは、ずっと許されないままじゃ嫌だろ?」

「……ああ」

「なら、変わるしかないじゃないか」

 すぐには無理だろうけど、いつかきっと。
 そう思うのは、そう思う事は――悪い事じゃないだろう。

「変わる変わらないじゃなくて……私は、変わるしかないのか」

「おー。大変だぞ」

 だからさ。
 頑張ろう、マクダウェル。

「先生」

「ん?」





――――――エヴァンジェリン

「先生」

「ん?」

 それは、いつもと変わらない声。
 人を殺した、という私にも変わらずに話してくれる声。
 何で、と。
 どうして、と。
 何故――離れていかないのか。
 嫌ってくれないのか。
 憐れみか?
 同情か?
 それとも……。

「先生は、私を許せるのか? この、人殺しの化け物を」

「マクダウェル」

 その声は、真剣に――私に向けた声。
 顔を上げると、笑顔じゃなくて……怒っていた。
 怖い、と。
 手が震えた。
 何が?
 ――この私が、何を恐れるのか。

「化け物なんて言うなよ」

「……ふん」

 目を、逸らす。
 私は人間じゃない。
 なら何だ?
 決まってるじゃないか……。

「なら、私は何だって言うんだ?」

「んー……吸血鬼?」

「……化け物じゃないか」

「違う違う」

 まったく、と。
 呆れたような声。
 何で私が、そんな声を向けられないといけないのか。
 絶対私は間違ってなんかいないのに。

「化け物ってのは、昨日の老人みたいなのを言うんだよ」

「悪魔だろう? 吸血鬼だって、似たようなもんだ」

「いや、そんなんじゃなくて」

 何が違うんだ?
 そう視線を向けると、

「あんな、何考えてるか理解出来ないのを、多分――そう言うんだと思う」

 マクダウェルは、判り易いし、と。

「――――――うるさい」

 判り易くて悪かったな、と。
 ……そうか、そう言う見方もあるのかもな、と。
 妙に感心させられた。
 でもまぁ、私が人間ではないと言うのは変わらないんだけど。
 それでも、幾分心が軽くなるのは――私が単純だからだろうな。

「それとな」

「なんだ?」

「俺は、マクダウェルを許すよ」

 そう、何事も無かったかのように、何の気負いも無く、あっさりとこの人は口にした。
 ――――一瞬、何を言われたのか理解できず、

「え?」

 そんな、間抜けな声が漏れた。

「俺は、マクダウェルが――許されたいって思って、変わりたいって思うなら、許すよ」

「……え?」

 そう言いきると、コーヒーを一口含む。

「なんで?」

 そう言ってくれるのかも、とは思っていた。
 この人は優しいから。
 そこに付け込んだ。
 でも――心の何処かじゃ、言ってくれるとは、思っていなかった。
 だってそうじゃないか。
 ……私は、人間じゃないんだから。
 きっと人間には理解できない存在だ。
 まったく違う存在だ。
 姿形の似た別の存在だ。
 そんな存在に――そう言ってくれた。

「なんで、そう言える……私は、人間じゃないのに。何も理解出来ないくせに……」

 胸が締め付けられる。
 苦しい。
 ……苦しいのだ。

「だって、俺がマクダウェルの立場なら、きっと許されたいと思うから」

 吸血鬼の事はまだ良く判らないけど、それだけはきっと同じだと思うし、と。
 ――涙が出た。
 我慢できなかった。
 苦しさが増す。
 声が出せない。
 悲しい訳じゃないのに、涙が止まらない。
 痛い訳じゃないのに、嗚咽が漏れる。
 ――涙が、止まらない。
 だって……この人は、私を理解しようとしてくれてる――

「ほ、ほら、泣くなよ」

 ポン、と軽く――その大きな手が、頭に乗せられる。
 そして叩く様に、撫でられる。
 その手があまりに優しくて、また涙が零れる。

「な、んで……?」

「ん? なんだ? あー、ほら」

 涙を手で拭っても、後から後から溢れてしまう。
 まるで想いだ。
 胸を締め付ける想いと同じように、後から溢れて零れてしまう。

「なんで、っ……そう、言える?」

 許すなんて。
 きっと、先生が思ってるより難しい――絶対、いつか後悔する。
 また昨日みたいな目に遭う。
 もしかしたら――。
 泣きながら、嗚咽を漏らしながら、でもたどたどしく、そう告げる。
 でも、それはきっと……。

「しょうがないだろ。俺はお前の先生だからな」

 そう、言う。
 いつものように……何の迷いも無く
 ああ――。

「……あり、がと」

「礼は良いから、泣きやんでくれよ……」

 むり。
 だって、止まらない。
 困ったような声を聞きながら、涙を流す。
 止まらないのだ……しょうがないじゃないか。




――――――

「これはギリギリか……?」

 携帯の時計とにらめっこしながら、呟く。
 ちなみに俺は、職員朝礼には完全に遅刻である。
 なんて言い訳しよう。
 うぅ……早歩きすら、今の体調には厳しいか。

「だ、大丈夫か?」

「おー……マクダウェルの方こそ、大丈夫か?」

「ふ、ふん――いつまでも人の心配をしてる余裕があるのか?」

「う」

 まぁ、そうなんだよなぁ、と。
 どうにも……キツイ。
 これは、午後から有給使って病院だな……明日休みで助かった。

「大丈夫ですか、先生?」

「ん。すまないな絡繰、遅くなって」

「いえ」

 学園に向けて三人で歩きながら、どうやって新田先生と葛葉先生のお怒りから逃げるかな、と考える。
 ……体調不良で通そうかな、と思うのはやっぱ駄目だよなぁ。

「お仕事を、お休みになられた方が……」

「午後からは帰れると思うから、病院に行くよ」

「そうですか?」

「ん」

 注射の一本でも打てば大丈夫だろ、と。

「明日は休みだしな……一日寝てるよ」

「……判りました」

「だから、あんまり――まぁ、心配なんてしなくていいからな?」

「……はい」

 ふぅ、と。

「明日は寝てるのか?」

「流石になぁ……」

 来週まで長引かなきゃいいけど、と。
 貧血って長引くのかな?
 なった事無いから、そこが不安だ……風邪は、後で職員室に置いてあるマスク貰おう。

「そ、そうか……」

「ん?」

「……なんでもない」

 そうか?
 まぁ、いいか。
 あまり考えるのも億劫だ……それに、1時間目から授業だからなぁ。
 今日は問題解かせるの中心でするか。

「なぁ、先生?」

「なんだ?」

「――大変だな」

「そうか?」

 別に、そうは思わないけどな、と。
 まぁ体調が悪いのはきついけど。

「……はぁ」

「何で溜息吐かれなきゃならないんだ?」

「……別に」

 呆れられた。
 むぅ。

「なぁ、マクダウェル」

「なんだ?」

「もうサボるなよ?」

「ああ」

 お?

「ん? なんだ?」

「いやー、お前がそう即答してくれるとはなぁ」

 今まで頑張った甲斐があったってもんだ、と。
 そう言ったら、

「――――――」

 足を踏まれた、多分結構本気で。
 でも吸血鬼の本気って凄いんだろうから、結構手加減されたのかな?
 そんな事を考えながら、蹲ってしまう。
 どっちにしろ、痛いのは痛いし。

「大丈夫ですか?」

 うぅ、絡繰は優しいなぁ。

「ふん――」

「マスター?」

「……う」

 でも、怒ると怖いのかもしれない。
 ちょっとそう思ってしまった。



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