<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.25786の一覧
[0] 普通の先生が頑張ります (更新再開…かな?[ソーイ](2011/06/08 19:02)
[1] 普通の先生が頑張ります 0話[ソーイ](2011/04/10 19:06)
[2] 普通の先生が頑張ります 1話[ソーイ](2011/04/10 16:49)
[3] 普通の先生が頑張ります 2話[ソーイ](2011/04/08 22:17)
[4] 普通の先生が頑張ります 3話[ソーイ](2011/04/08 22:52)
[5] 普通の先生が頑張ります 4話[ソーイ](2011/04/08 23:22)
[6] 普通の先生が頑張ります 5話[ソーイ](2011/04/08 23:43)
[7] 普通の先生が頑張ります 6話[ソーイ](2011/04/09 10:03)
[8] 普通の先生が頑張ります 7話[ソーイ](2011/04/09 10:16)
[9] 普通の先生が頑張ります 8話[ソーイ](2011/04/09 10:36)
[10] 普通の先生が頑張ります 9話[ソーイ](2011/04/09 13:58)
[11] 普通の先生が頑張ります 10話[ソーイ](2011/04/09 14:38)
[12] 普通の先生が頑張ります 11話[ソーイ](2011/04/09 15:24)
[13] 普通の先生が頑張ります 12話[ソーイ](2011/04/09 18:20)
[14] 普通の先生が頑張ります 13話[ソーイ](2011/04/09 22:23)
[15] 普通の先生が頑張ります 14話[ソーイ](2011/04/09 23:12)
[16] 普通の先生が頑張ります 15話[ソーイ](2011/04/09 23:47)
[17] 普通の先生が頑張ります 16話[ソーイ](2011/04/10 16:45)
[18] 普通の先生が頑張ります 17話[ソーイ](2011/04/10 19:05)
[19] 普通の先生が頑張ります 18話[ソーイ](2011/04/11 21:15)
[20] 普通の先生が頑張ります 19話[ソーイ](2011/04/11 21:53)
[21] 普通の先生が頑張ります 20話[ソーイ](2011/02/27 23:23)
[22] 普通の先生が頑張ります 21話[ソーイ](2011/02/27 23:21)
[23] 普通の先生が頑張ります 22話[ソーイ](2011/02/27 23:19)
[24] 普通の先生が頑張ります 23話[ソーイ](2011/02/27 23:18)
[25] 普通の先生が頑張ります 24話[ソーイ](2011/02/26 22:34)
[26] 普通の先生が頑張ります 25話[ソーイ](2011/02/27 23:14)
[27] 普通の先生が頑張ります 26話[ソーイ](2011/02/28 23:34)
[28] 普通の先生が頑張ります 27話[ソーイ](2011/03/01 23:20)
[29] 普通の先生が頑張ります 28話[ソーイ](2011/03/02 22:39)
[30] 普通の先生が頑張ります 29話[ソーイ](2011/03/04 22:42)
[31] 普通の先生が頑張ります 30話[ソーイ](2011/03/08 00:19)
[32] 普通の先生が頑張ります 31話[ソーイ](2011/03/07 23:33)
[33] 普通の先生が頑張ります 32話[ソーイ](2011/03/10 00:37)
[34] 普通の先生が頑張ります 33話[ソーイ](2011/03/09 23:47)
[35] 普通の先生が頑張ります 34話[ソーイ](2011/03/10 23:15)
[36] 普通の先生が頑張ります 35話[ソーイ](2011/03/13 23:11)
[37] 普通の先生が頑張ります 36話[ソーイ](2011/03/14 22:47)
[38] 普通の先生が頑張ります 37話[ソーイ](2011/03/15 23:56)
[39] 普通の先生が頑張ります 38話[ソーイ](2011/03/16 23:15)
[40] 普通の先生が頑張ります 39話[ソーイ](2011/03/17 23:03)
[41] 普通の先生が頑張ります 40話[ソーイ](2011/03/18 22:46)
[42] 普通の先生が頑張ります 41話[ソーイ](2011/03/19 23:49)
[43] 普通の先生が頑張ります 42話[ソーイ](2011/03/20 23:12)
[44] 普通の先生が頑張ります 43話[ソーイ](2011/03/21 22:44)
[45] 普通の先生が頑張ります 間幕[ソーイ](2011/03/23 07:49)
[46] 普通の先生が頑張ります 44話[ソーイ](2011/03/23 23:24)
[47] 普通の先生が頑張ります 45話[ソーイ](2011/03/25 23:20)
[48] 普通の先生が頑張ります 46話[ソーイ](2011/03/26 23:23)
[49] 普通の先生が頑張ります 47話[ソーイ](2011/03/28 00:29)
[50] 普通の先生が頑張ります 48話[ソーイ](2011/03/28 23:24)
[51] 普通の先生が頑張ります 49話[ソーイ](2011/03/30 00:25)
[52] 普通の先生が頑張ります 50話[ソーイ](2011/03/31 00:03)
[53] 普通の先生が頑張ります 閑話[ソーイ](2011/04/01 00:36)
[54] 普通の先生が頑張ります 51話[ソーイ](2011/04/01 23:50)
[55] 普通の先生が頑張ります 52話[ソーイ](2011/04/03 00:22)
[56] 普通の先生が頑張ります 53話[ソーイ](2011/04/04 23:45)
[57] 普通の先生が頑張ります 54話[ソーイ](2011/04/05 23:24)
[58] 普通の先生が頑張ります 55話[ソーイ](2011/04/06 22:31)
[59] 普通の先生が頑張ります 56話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:46)
[60] 普通の先生が頑張ります 57話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[61] 普通の先生が頑張ります 58話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[62] 普通の先生が頑張ります 59話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[63] 普通の先生が頑張ります 60話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:47)
[64] 普通の先生が頑張ります 61話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:48)
[65] 普通の先生が頑張ります 62話(修正前[ソーイ](2011/04/27 22:48)
[70] 普通の先生が頑張ります 56話(修正版[ソーイ](2011/04/28 23:46)
[71] 普通の先生が頑張ります 57話(修正版[ソーイ](2011/04/28 23:27)
[72] 普通の先生が頑張ります 58話(修正版[ソーイ](2011/04/30 22:52)
[73] 普通の先生が頑張ります 59話(修正版[ソーイ](2011/05/18 23:24)
[74] 普通の先生が頑張ります 短編 【茶々丸】 [ソーイ](2011/05/23 23:47)
[75] 普通の先生が頑張ります 短編 【エヴァンジェリン】 [ソーイ](2011/05/23 23:42)
[76] 普通の先生が頑張ります 短編 【エヴァンジェリン】 2[ソーイ](2011/05/25 23:21)
[77] 普通の先生が頑張ります 短編 【月詠】 [ソーイ](2011/06/08 23:06)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[25786] 普通の先生が頑張ります 40話
Name: ソーイ◆9368f55d ID:052e1609 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/18 22:46

 水滴が、顔に当たる……。
 ん、と
 頭が痛い、と言うより頭が重い。
 目を開けた時、目の前には――泣き顔があった。
 ……近衛?

「せんせっ」

「近衛か?」

 ズキリ、と頭の芯が痛む。
 どう、したんだっけ……と。
 そう考えた瞬間、地面が震えた。

「な、んだ……?」

 声が出ない。
 体中が重いし、頭は凄く痛い。
 それでも、何とか頭を動かす。
 どうやら、さっき居た場所から少し移動して、少しは雨風から守れる場所のようだ。
 マクダウェル達は、無事なのかな……?
 視線を動かそうとするが、首も痛くてそれどころじゃない。

「せんせ、痛いとこ無い?」

「頭が痛い」

 苦笑しながら、そう答える。
 なるだけ、心配されないように。
 そう言えば、手足縛られてなかったっけ……と。
 あれだけ堅かったソレは、今はもう無い。
 は、あ――と、大きく息を吸う。
 それだけで、生き返ったような気がした。

「先生、無事ですか!?」

「桜咲も――月詠も居たのか」

「酷いですえ~」

 そう言うなよ。
 こっちは何でか知らないけど、変な老人に捕まって死に掛けたんだから、と。
 体調も、さっきより大分良い。
 雨に当たってないからかな?
 それでも、頭痛は酷いし、身体はだるいけど。

「すみません~」

「もう、いいけどさ……あの後、怪我無かったか?」

「お陰さまで~。センセーには感謝しますわ」

 そうか、と。
 なら良かった。
 それなら、俺が殴られた意味もあったってもんだ。
 そんな事を考えていたら、額に暖かな感触。
 近衛の手だ。

「暖かいなぁ」

「せんせが冷たいんですよ」

 ああ、また、近衛が泣く。
 目を閉じると、ひどく心地良い。

「近衛も、吸血鬼?」

「――ぷっ、違いますよー」

 やっと、小さく笑ってくれた。
 声だけだと判らなかったので、目を開ける。
 でも、やっぱり涙は流れてて……俺の所為か、と。
 申し訳無い気持ちが、胸に広がる。
 泣き笑いのような顔。
 それは、きっと俺の所為だ。

「ウチは魔法使いです」

「そっか」

 そう言えば、あの老人もそんな事を言ってたような気がする。
 超能力者とか、魔法使いとか、シャーマンとか。
 マクダウェルが吸血鬼だ、って言うのは――なんか、記憶に残ってるけど。
 ネギ先生の名前も出てたし、もしかしたらネギ先生もそんな能力者なのかもしれないな。

「……桜咲達も?」

「えっと……厳密には、少し違うんですが」

「ウチらは退魔師とか陰陽師とか、そっち系ですね~」

 そうか、と。
 ひどく聞き慣れない単語だな、と思った。
 今までに聞かなかった言葉。
 現実味がない、と言えばこの子達に失礼だろうか?
 だが、それも今はあまり考えきれない。
 頭痛が酷いし、多分血が出たからだろう、頭も重い。
 物事を考えきれない。
 だから、目を閉じた。

「なぁ、せんせ」

「……ん?」

「目、閉じんといて」

 目を閉じた方が楽なんだけど、と。
 そうは思ったけど、言われた通りに目を開ける。

「どうした?」

「なんか……もう、目を開けんくなりそうで、怖いから」

 水滴が、顔に落ちる。
 これは、涙か、それとも雨か。
 ……その、両方か。

「――ああ」

 そして、小さく息を吸う。

「判った」

「ごめんなー」

「いいよ」

 生徒のワガママを聞くのは先生の仕事だ、と。
 そう言ったら、笑ってくれた。
 でも――と。
 教師も楽じゃないなぁ、と。
 心中で苦笑してしまっても……今くらいは良いだろう。
 そしてまた、地面が揺れる。

「それではウチらも、ボチボチ行きましょか~」

「ん?」

 そう言った月詠の周囲には、雨とは違う――粘着質のある水溜りがあった。
 ……なんだろう?
 それに、その手には――綺麗な刀が一本。

「液体何匹切っても、お腹は一杯になりまへんしな~」

「……そうだな。このちゃん、結界を張ったからここを動かないでね?」

「うん。気を付けてな、せっちゃん」

「先生も、すぐ終わらせますから。もう少しだけ我慢して下さい」

「ん」

 終わらせる、と言うのはさっきの老人の事だろうか?
 それをすんなり受け止めてしまったのは――あの“顔”を見てしまったからか。
 悪魔……そう言える、そんな存在。
 俺とは、人間とは違う存在。

「では」

「先輩、油断はあきませんえ~」

「お前こそな」

 仲良いのかな、あの2人。
 そう言い合いながら去っていく声を聞きながら、そう思ってしまう。

「すいません、せんせ」

「ん?」

「巻き込んでしもて」

 ああ、と。

「近衛は、もうずっと魔法使いなのか?」

「え?」

「いや――俺が知らなかっただけで、前からこんな事をしてたのかな、って」

「……いえ、ウチも最近やっと、魔法使いの真似事が出来るように」

 そうか、と。

「頑張ってたんだな」

「――――――」

 俺の知らない所で、皆頑張ってたんだな、と。
 俺には手の届かない所での話だけど、でも、そう言いたかった。
 ……助けてもらったからとか、そんなんじゃなくて。
 何と言うか、何と言えば良いか――。

「偉いなぁ、近衛達は」

 誰にも知られずに、悪魔と戦っているなんて。
 それはきっと、酷く残酷な事なんだと思う。
 物語や漫画みたいな事ばかりじゃないって思う。
 感謝なんてされないんじゃないだろうか?
 俺だって、こうやって知らなかったら……きっと、明日も昨日と同じように近衛達に接していたから。
 そう思った。
 きっと、俺が思ってるような単純な事じゃないだと思う。
 それを中学生の女の子がやってるのだ――。

「せんせ……」

「ん?」

「喋らんといて、傷に障るよ――?」

「でも、喋ってないと寝てしまいそうなんだよ」

 意識が何度も沈みそうになってる。
 まぁ、死ぬ――事はないんだと思うけど。
 頭の痛みも随分と楽になった。
 多分、近衛の“魔法”のお陰……なのかな?

「せんせ……」

「どうした?」

 どうして、また泣くのか。
 泣かないでほしくて、喋っているのに……。

「せんせが生きてて良かったぁ――」

 ぽろぽろと、子供のように泣きじゃくる近衛。
 ああ。

「ごめんな、心配かけて」

 無言で、首を横に振る。
 何度も、何度も。
 そしてまた、地面が揺れる。
 ――頑張れ、マクダウェル。
 




――――――エヴァンジェリン

「悪魔パンチっ」

「――ッ」

 そのふざけた名前の技を大きく後ろに跳んで避け、距離を開ける。
 ふぅ、と小さく息を整える。
 ああ――雨が鬱陶しい。額から滴る水滴を拭う。

「どうしたエヴァンジェリン? まさかその程度かね?」

「ふん」

 さて、どうしたものか、と。
 強い――と。
 流石は単独で行動している悪魔、と言う訳か。

「おい、駄犬」

「は、はぁ――なんや、姉ちゃん」

 何をこれだけで息を乱してる。
 まったく。

「もっと動いてかく乱しろ、速さだけがお前の武器だろうが」

「……お前こそ、さっさと隙作れや」

「まぁ、少し待ってろ」

 すぐに作ってやる、と。
 言うほど簡単じゃないが、無理じゃない。

「ぼーや、『戦いの歌』を掛け直してくれ」

「は、はいっ」

 さて、と。

「随分とのんびりしてるね。もっといきなり来ると思っていたよ」

「それじゃ詰まらんだろ」

「違いないがね――こちらも、そう時間を割けないのだよ吸血鬼」

「判っているよ」

 右手に、魔力を練り込む。
 身体能力はぼーやの魔法に任せ、私が使える魔力は全部攻撃に回す。
 だがそれでも……あの悪魔には届かない。
 少し困ったな。
 だが、思考は冷静に――攻撃を徹す方法を模索する。
 問題は、あの魔力と体術だ。
 防御力自体はおそらく問題無い。
 ……力で押し潰せれば楽なんだがな。

「大体、大技狙い過ぎなんや」

「しょうがないだろ」

 こっちは腸が煮えくり返っているのだ。
 少しはこの怒りを鎮めさせてくれ……とりあえず、あの面を何発がぶん殴る。
 仕留めるのはその後だ。
 握り込んだ右手をグルグル回し、息を吐いて整える。

「さっきと同じだ、お前は腹を狙え」

「りょーかいっ」

 言葉を置き去りに、駄犬が駆ける。
 速い――きっと、身体能力のみの速さなら刹那すら超えるだろう。
 その速さで懐に潜り込み、じじいの腹に拳を叩きこむ。
 それを難なく捌き――その一瞬をついて、私も距離を詰める。

「またかね?」

「ああ」

 左手で駄犬、右手で私を相手にしようとし――私もそれに付き合う。
 右拳からの拳撃を捌かれ、返しに突き出されたソレを首を捻って避ける。
 魔力が十分に乗ったそれを紙一重でかわし、左の蹴撃。
 それも、魔力の防壁で防がれる。
 そこで一旦息を吐き――ここまでは、さっきまでと同じ。

「時間稼ぎなら無駄だよ? この一帯に結界を張らせてもらった」

 そんなのは知ってるさ。

「お互いに全力で戦って大騒ぎしても、気付かれる事はないよ」

「そんな事はどうでもいいさ」

 呟き、後ろに跳ぶ。

「ふむ――」

 その右手が、振りかぶられる。
 来る――っ。

「悪魔パンチッ」

 魔力を十二分に乗せた拳撃。
 単純であるがゆえに、対策の無いその一撃――の伸びしろ限界の位置で、拳に乗る。
 魔力放出後の無防備な拳だ。乗ってもなんの害も無い。

「なっ!?」

 安直過ぎだ――私に何度も見せるほどのモノじゃない。
 その一瞬の驚愕の隙に、拳を蹴って一気に距離を詰めるっ。

「そぅらっ!!」

「ぐっ!?」

 まずは一発っ。
 右拳をその頬に叩きこみ、左手でその髪を掴む。
 そう簡単に離れてくれるなよっ。
 更に一発、二発っ。

「このっ!!」

 掴みに来た右手を避け、最後にその鼻に蹴りを叩きこんでから離れる。
 その一瞬に駄犬も腹に拳を数発叩きこんで、離れる。

「『白い雷』っ!!」

 よろけた所に、坊やからの追撃。
 あらかじめ詠唱しておいた魔法を解き放つ。
 その範囲から下がり、駄犬も隣に来る。

「何でさっさと同じ事やらんのやっ」

「アホか……あの手の相手は、余裕な所から一気に蹴落とすのが楽しいんじゃないか」

 だが、まだまだだ。
 まだまだ足りない。
 ――殺してやる。

「くっ……」

 ぼーやの魔法の雷で蒸発した蒸気の中から、帽子を押さえながらじじいが現れる。
 
「そろそろ、私も本気で行かせてもらおうかね」

 ふむ。

「おいおい。鼻血くらい拭けよ、じじい」

「…………」

「……鬼やな、姉ちゃん」

「吸血鬼だからな」

 無言でその鼻血を拭い――こちらを静かに睨んでくるじじい……ヘルマン。

「くっ」

 その圧力に駄犬が一歩下がり……私は、その圧力を受ける。

「怒ったか?」

「どうやら、淑女としての躾が必要なようだな」

「要らん。教育者は間に合ってる」

 クツ、と小さく笑う。
 ――さあ、ここからが本番だ。

「随分とあの人間を気に入ってるようだな、吸血鬼」

「ああ。まったく――何でこうなったのやら」

 自分でも良く判らないよ、と。
 それでも、だ。
 それなりに、私はあの人を気に入っている訳だ。
 本当に――お節介で、お人好しなあの人を。
 弱い弱い人間だけど、誰よりも人間らしいあの人を。

「行くぞ、吸血鬼」

 ただで済ませるものか。
 楽に済ませるもんか。
 右拳を、握り込む。
 魔力を練り上げ、集中。

「退治してやるよ、悪魔――ぼーや、小僧っ、気合を入れろッ」

 瞬間、足元が弾けた。
 そう錯覚するほどの速さで繰り出された拳を跳んで避け、空中の私を狙った2発目を腕を交差させて受ける。
 小僧は置き去り、いや、確実に私だけを潰しに来る。
 その圧倒的な魔力に吹き飛ばされ、広場の観客席にまで追い詰められる。
 椅子を薙ぎ飛ばし、何とか体勢だけは整える。
 リク・ラク・ラ・ラック――

「小僧、殴れっ」

「――おうっ」

 ヘルマンは目前。
 一瞬の間に間を詰められ――

「悪魔パンチッ」

「ライラック!――魔法の射手・氷の四矢ッ」

 その拳を跳ぶ事でかろうじて避け、その胴に魔法の射手を、その頭部に小僧が拳を叩きこむ。
 避けた余波で観客席は2割近くが吹き飛んでしまうが、今は無視。
 だが――

「弱いッ」

 ――止まらないっ。
 返す左拳で、空中に居る私に狙いを定める。
 籠めるれるだけの魔力を右腕に籠め、頭部を守る。

「悪魔パンチッ」

 ただの一撃、たったそれだけで反対側の客席まで吹き飛ばされ、背中から落ちる。
 椅子をいくつか吹き飛ばして止まり、なんとか手を付いて立ち上がる。
 
「ちっ」

 その声に顔を向けると、小僧がこっちに吹き飛ばされてきた。

「くそっ」

 それを半身で避け、向かってくる悪魔を迎え撃つ。

「随分と弱くなったではないか、吸血鬼ッ」

「――――ッ」

 無造作に突き出された右拳を、左手で受け、その反動を殺さず関節を極める。

「ぬ」

「飛べ」

 人体を模しているなら、それがどのような化け物でも、その駆動域もソレに類似する。
 それはこの600年で学んだ事だ。
 右手首を極めたまま、老人の巨体が私を越して、地に伏せる。
 リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――。

「がっ!?」

「氷爆ッ!!」

 その顔に、氷の塊を叩き付ける。
 瞬間、悪寒を感じて飛び退く――と同時に、空に向けて圧縮された魔力が放出された。

「――吸血鬼……」

「来たれ雷精、風の精。雷を纏いて――」

 坊やの呪文の詠唱。
 それを背に受けながら、一瞬の間。

「良かろう、来たまえ」

「小僧、横に跳べっ」

 そう声を上げ、私も横に跳ぶ。

「吹きすさべ南洋の風っ――『雷の暴風』ッ!!」

「―――ッ!!!」

 悪魔としての本当の姿を晒したヘルマンが、その口を開くと同時に、ぼーやの最大魔法と、魔力光がぶつかり合う。
 威力は拮抗……いや、辛うじてぼーやが上か?
 徐々にヘルマンの魔力光を押していき――殆どの魔力を失いはしたが、そこら一帯を吹き飛ばした。

「ふむ……」 

 だが、その破壊跡からは、何事もなかったような声。

「素晴らしい成長だな、ネギ君」

「―――――っ!!」

 それは、嗤った。
 人とは違う顔、だが確かに嗤う――。

「気持ち悪い顔だな」

「そう言ってくれるな、吸血鬼」

 クツ、と嗤い。

「覚えているかい、ネギ君?」

「なに?」

 ぼーや?

「どうした、ぼーや?」

「――あ、貴方は……」

 何をそんなに驚いているんだ?

「覚えていてくれて光栄だよ――あの雪の夜の事をちゃんと覚えていてくれたんだね?」

「何を言ってるんだ、貴様?」

「君は知らない事だよ、エヴァンジェリン」

 私が知らない事?
 いや、それより――。

「ぼーや、落ち付け」

 ヘルマンに注意を払いながら、ぼーやに近寄る。
 明らかにおかしい。
 ……どうしたんだ?

「あの人は――アレは」

「そう。君の仇だ――ネギ君」

 ……仇?
 そう思った瞬間、悪魔が跳んだ。

「ちっ」

「あ~、良いタイミングでしたのに~」

 ヘルマンが先ほどまで立っていた位置には、刃を振り下ろした格好の刹那と月詠が居た。
 ――その喋り方はどうにかならんのか、月詠?

「犬上流・空牙ッ!!」

 跳んだヘルマンを追撃するのは、小僧の気弾。
 だがそれは拳によって潰される。

「良い仲間達だ」

 地に着地しながら、そう言われた。
 誰が仲間だ、誰が。
 まったく。

「苦戦してるようですね、エヴァンジェリンさん」

「そうでもないが……」

 その、だな……。

「先生なら意識を戻しました」

「そ、そうか……」

 良かった――そう思った瞬間、ぼーやが駆けだし、その襟首を掴んで止める。

「おい、どうしたんだ?」

「……あ」

「さっきから様子がおかしいぞ?」

 まったく。

「大砲のお前が居ないと勝負にならないんだからな?」

「あ……すいません」

 はぁ。

「仇と言ったな。お前、以前ここ以外で呼び出されたのか?」

 雨に濡れた髪を右手で掻き上げ、一つ息を吐く。
 仕切り直しだ。

「うむ。6年前の雪が降る夜に――」

 帽子をかぶると、また老人の顔に戻る。
 ……便利だな。

「ふぅん」

 まぁ、そんな事はどうでも良い。
 ぼーやの過去なんかな。
 刹那、月詠、小僧もぼーやの傍に寄ってくる。

「落ち着けぼーや、感情はどうであれ冷静を装わないと相手の思う壺だぞ?」

「は、はい……」

「大丈夫ですか、ネギ先生?」

 手の掛る子供だな、本当に。
 まぁ、子守りは刹那に任せるか。

「ふむ――手厳しいね」

「お前の思い通りに一つでも事が運ぶと、癪なんでな」

 クク、と笑うと溜息を返された。

「どうにも、君とは相性が悪いようだ、エヴァンジェリン」

「それは良かったよ」

 お前との相性なんて考えたくも無いわ。

「刹那、月詠、小僧――さっさと終わらせるぞ」

「……わかりました」

「は~い」

「おうっ」

 ふぅ、と。

「ぼーや、いけるな?」

「はいっ」

 さて――。

「来るかね?」

「終わりだ」

 駆ける。言葉を置き去りにする勢いで、一直線に。

「小僧っ」

「おうっ」

 気で別けた分身を造りだし、先制。
 その全てを拳で撃ち抜くが――その手数は明らかに足りてない。

「ざんがんけ~ん」

「むっ!?」

 一瞬の隙。その一瞬で気を籠めた上段からの一閃。
 ソレを両手を交差させて防ぎ、その小さな体を拳一つで吹き飛ばす。

「長物は苦手ですえ~」

 吹き飛ばされながら、回転。
 おそらく、剣の才能だけなら刹那以上だろう。
 恐ろしいまでのバランス感覚のソレは、回転の勢いを利用して、右目を浅くだが斬り、視界を潰す。
 そして――。

「来れ、虚空の雷、薙ぎ払え――」

「くっ」

 その顔に飛び込むように跳び、右手に魔力を籠める。

「――吹っ飛べッ」

 その横っ面を、全力で殴り抜く。
 
「ぬぅ!?」

「―――――」

 その先には、刹那。
 漆黒の老人を、純白の羽根が待つ――。
 その手には、石剣。

「『建御雷』ッ」

 気と魔力を吸収したソレは、石剣ではなく強大な魔力刃を形成する。
 その一撃で上空へ撃ち上げ――。

「――『雷の斧』ッ」

 ぼーやが、地に撃ち落とす。
 短詠唱の上級古代魔法。
 チャチャゼロの話じゃ、実戦で使える精度じゃないと聞いていたが――十分じゃないか。
 そう苦笑しながら、

「来れ、虚空の雷、薙ぎ払え――」

 その呪文を紡ぐ。
 私が今使える魔力、全てを注ぎ込みながら。

「ぐっ――ッ!?」

「――よくも、あの人を巻き込んだな」

 泡立つ怒りが、ドクン、と鳴る。
 欠片も残さん。覚悟しろ――。

「『雷の斧』」







「……トドメを刺さないのかね?」

「トドメは、刺しません」

 ――ふん。
 さっさとトドメを刺してしまえば良いんだ、そんな奴。
 くそ、私の魔力が十分なら……。
 まぁいい。今はこの無様に倒れ込んだ姿で溜飲を下げるとしよう。

「君が、復讐の為に覚えた呪文――今が、その時ではないのかね?」

 いえ、と首を振るぼーや。
 なんだそれは?
 聞いてないんだが……後で良いか。

「私は、先生の所に行くぞ?」

「あ、ああ――このちゃんを……」

「判っている。ぼーやを見ててくれ」

 じじいは長話、と言うのは人間も悪魔も変わらんのかもな。
 さっさと消滅して、消えれば良いのに。
 そう思いながらステージの上に向かう。
 ……そして、足をとめた。

「――――――」

 そう言えば、そうだった。
 私の正体は、気付かれたんだった……私の所為じゃないけど。
 吸血鬼だと。人間じゃないと。化け物だと。
 私は、先生に知られたんだった……。
 ……それは。

「――――」

 何と、言われるだろうか?
 そう考えてしまった。
 今まで通りに接してくれるのだろうか?
 ちゃんと授業をしてくれるのだろうか?
 怒ったり、笑ったり、してくれるのだろうか?
 ……化け物と、言われないだろうか?
 ………………。
 ドクン、と……心臓が一度、高く鳴った。
 怒りじゃない。
 ――これは。

「エヴァンジェリンさん?」

「いや……」

 かぶりを振る。
 そして、踵を返す。

「帰る」

「え?」

「その悪魔が消滅すれば、結界も解ける――報告はお前達に任せる」

「え、ちょ――エヴァンジェリンさん!?」

 ――これは、恐怖だ。
 遥か昔、今はもうどういった状況だったか覚えていない。
 ただ……仲の良かった人だったと思う。
 その人から……拒絶された時の、感情。
 今も胸の奥底に在る、ソレ。
 もう二度と味わいたくない感情。
 だからこそ、私は誰とも慣れ合わずに生きてきたと言うのに……。

「――は、ぁ」

 深く、息を吐く。
 あの日。
 先生が迎えに来て――私は、明日菜と出逢った。……出逢えた。
 そしてぼーやから血を貰う事になり、京都への修学旅行へも行く事が出来た。
 木乃香達の問題にも関わってしまって、今では師匠のような事もしてる。
 そして、明日菜達を通じて、クラスの連中とも喋るようになった。
 先生に言われるように教師の連中に挨拶をしただけで、少しだけ周囲の見る目は変わった。
 あの魔法使いの連中でさえ、何かあるごとに私を悪く言っていたのに、今ではどうだ?
 ……はぁ、と。
 小さく息を吐く。
 雨が髪を肌に貼り付け、気持ち悪い。
 服もびしょ濡れだ。

「雨は嫌いだ」

 ――どうして雨の日は、嫌な事ばかり起こるのか。




――――――

「は、ぁ」

 ベッドに横になり、息を深く吐く。
 風呂で温まった身体が、冷たいシーツに触れて心地良い。

「どうしよ」

 と言っても、どうしようもないのだが。
 どうしてこうなったのか、と聞かれれば子犬を拾ったから、と答えるしかないんだが。
 ……那波が巻き込まれなくて本当に良かった。
 そう思う事にする。

「どうなるんだろ?」

 魔法、か、と。
 頭に触れると、傷はもう無い。
 近衛が、魔法を使って治してくれた。
 そう、魔法である。
 映画や漫画の中で見るような、火の玉飛ばしたり、手を当てるだけで傷を治したりする。
 正直凄いもんだ、と。
 結構血が出てたから、傷は深かったんだろうけど、跡形も無い。
 ……貧血気味だけど。
 後、結構ダルイ。
 近衛や――後から来た葛葉先生と瀬流彦先生が言うには、魔法に慣れてないから、らしい。
 そう、葛葉先生と瀬流彦先生である。
 ……もう何が何やら。
 今朝までと違う世界に、戸惑うばかりだ。
 あの老人は言った。
 世界は不思議に満ちている、と。
 まさにその通りだ。
 と言うか、世界どころか麻帆良ですら不思議に満ちていた。
 魔法使い、退魔師、悪魔――吸血鬼。

「吸血鬼、か……」

 いまだに信じられない。
 マクダウェルが、吸血鬼だなんて。
 だって、どこにでも居るような少女だ。
 ……まぁ、口は悪いけど。

「――――――」

 今日、死にかけた。
 比喩ではなく、本当に。現実で、だ。
 今でも、あの手の感覚を覚えている。
 その感覚をなぞる様に、首に手を添える。
 きっと、もう少しで俺は死んでいた。
 マクダウェル達が1秒遅かったら、きっと俺は死んでいた。
 それが、酷く現実的で――だからこそ、どうすべきか判らない。
 布団にくるまりながら、悩んでしまう。
 どうすればいいのか、どうしたらいいのか。
 小太郎が言った一般人と言う言葉が、良く判る。
 確かにそうだ。
 魔法。
 それを知った事で、俺に出来る事は何もない。
 なら何故、こうも悩むのか……。

「はぁ」

 ふと、指先が堅い物に触れた。
 ベッドの中からそれを出すと、携帯だった。
 どうやら、服を着替えた時に放り投げたから、ベッドの中に入っていたらしい。
 …………。
 履歴を呼び出す。

「――――」

 呼び出し音が続き、声。

『もしもし?』

「――あ、母さん?」

 何故親に電話を掛けたのか判らない。
 多分、声を聞きたかっただけなんだと思う。
 声を聞いて、安心したかったんだと。
 俺は生きてる。
 ……そう、安心したかった。

『どうしたの、こんな時間に?』

「ん――あー、ちょっと声聞きたくなった」

『なにそれ?』

 呆れられた。
 まったく、実の息子が電話を掛けたと言うのに。
 でも、そんな所に安心してしまう。
 俺の知っている、日常に。

「父さんは?」

『もう寝てるけど。起こす?』

「いや、いいよ」

 そう話していると、瞼が重くなってくる。
 そう言えば、疲れたなぁ……。

『仕事はどう?』

「……仕事?」

『教師してるんでしょ? ちゃんとやれてるの?』

 そう笑われた。

「うん。多分」

『元気無いわねぇ……』

 うん、と。
 そうだった、と。

「大丈夫。寝たら元気出るから」

『疲れてるんでしょ? 早く寝なさいよ』

「うん――もう寝る」

『……何しに電話したの?』

 そう笑いながら、もう少しだけ話して電話を切る。
 目を閉じると、すぐに眠気が来た。
 まぁ、アレだけ疲れたんだし……と。
 でも、その前にもう一度だけ目を開けて、携帯を弄る。

「ふぁ」

 そう言えば、親に電話したのって、何時振りだっけ?
 そんな事を考えながら、眠りに落ちる。
 ――悩むだけ悩んで、何が正しいかは判らないけど。
 一つだけ、判っている事がある。

「絶対、アイツ明日サボるだろうなぁ」

 だから、疲れてるけどまた迎えに行くか。
 それだけは、きっと間違いないだろうし。
 早起きは辛いんだがなぁ。
 でもしょうがない。俺は先生なんだから。
 まるで2年の時に戻ったみたいだな、と。
 そう苦笑してしまうのは……まだ、マクダウェルを、信じたいからか。





――――――チャチャゼロさんとオコジョ――――――

「元気ネェナァ……」

「そうっすね。でも、無事で良かったっす」

「…………」

「…………」

 し、辛気臭ぇ……。
 茶々丸の嬢ちゃんも、エヴァの姐さんも帰って来てから一言も喋らないしっ。
 何? 何があったの!?

「御主人」

「寝る」

「オ、オウ……」

「お休みなさい、姐さん」

 ……やっと喋ったと思ったら、それだけ?

「明日は休むからな」

「かしこまりました」

 ……え? ほんとにそれだけ?
 茶々丸の嬢ちゃんも部屋に行くし……。

「コリャ大変ダ」

「しばらく機嫌直りそうにないっすね」

「ダナァ」

 …………晩飯。
 ……グスン。
 帰ろ。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.02885103225708