――――――エヴァンジェリン
“別荘”から出、深呼吸を一つ。
まだ日は高いはずだが、設置している場所が地下なので、陽の光は届かない。
しかも少し埃っぽいし……。
「茶々丸、今度掃除しておけ」
「判りました」
私と一緒に出てきたチャチャゼロを抱え上げながら、茶々丸にそう言う。
「それでぼーや、いつまで床に寝ている気だ?」
「は、はぃぃ」
情けない声を出しおって……まったく。
「そんな声を出すな。父親と比べられるぞ」
「お父さん――?」
「英雄は、人前で情けない姿を晒さない……ってな」
「う……」
特に、この麻帆良の連中はな。
ネギ=スプリングフィールドに英雄の姿を重ねている節がある連中だ。
……それが、どれだけ愚かな事だか、考えもせずに。
「馬鹿にされたくなかったら、カラ元気でも元気でいる事だな」
「は、はいっ」
ふぅ。
「上に行くぞ。ぼーやも、茶でも飲んだら帰れ」
「御用意いたします」
折角の休日に朝から訪ねて来たと思ったら、修行してくれだの。
まったく――熱心なのは良いが、もう少しこっちの事も考えてほしいものだ。
……なんで、吸血鬼がこんな昼間から起きないといけないんだ。
本当なら、本来の吸血鬼なら、今はまだ寝ている時間だと言うのに。
「すみません」
「イイ、イイ。ドーセ、起キテモスル事無クテ暇シテタカラナ」
「お前が答えるな」
はぁ。
リビングのソファに座り、茶々丸の用意する茶を待つ。
ぼーやも私の対面になる位置に腰掛ける。
「でも、エヴァンジェリンさんって魔法が得意なんですね」
「ふん。600年も生きていれば、ある程度は何だってこなせるさ」
多分、ぼーやの頭の中にはさっき見せたナギが得意としていた魔法――『雷の斧』が浮かんでいるのだろう。
まぁ使えるかどうか、と考えたなら……まだ無理だろうが。
従者も居ないぼーやには荷が重いか、とも思ったが、見せてみた。
モノに出来るなら、一端の戦力になれるだろう。
「600年……ですか」
「吸血鬼として長生きかどうかは知らんが、人間には生きられない時間だな」
「ソウ言ッテヤルナヨ。人間ニャ無理ナンダカラヨー」
「600年、学べと言ってる訳じゃない。それに匹敵する程の――」
その殆どを、魔法の研鑽に当ててきた。
知識を満たす為じゃない、欲望を満たす為じゃない。
ただただ、生き残る為だけに。
その為だけに、私は魔法を極めたのだ。
「ぼーやとは、覚悟も意思も違うんだよ」
「う……」
「強くなりたいと言ったが――まだまだ甘いと言う事だ」
覚悟も、意思も。
言うほど甘いとは思わない。
それは“正しい魔法使い”としては、そう悪くはないものだと思う。
だが、それを認めても……今の時点ではマイナスでしかないだろう。
特に私は、褒めて伸ばすのは得意じゃないしな。
「マスター、お茶の準備が出来ました」
「ああ。ぼーやにも淹れてやれ」
「かしこまりました」
そして、茶々丸が淹れたお茶を一口飲む。
うむ、相変わらずの良い仕事だ。
「マスター」
「うん?」
「明日菜さん達が来られています」
……明日菜達が?
まぁ、ぼーやを迎えに来たんだろうが。
「入れてやれ」
「わかりました」
「ぼーや、それを飲んだらさっさと帰れよ」
「はい」
それじゃ私は、一眠りするかな……。
そう思って立ち上がり、二階に向かう。
「明日菜さん達に会わないんですか?」
「……ぼーや。私は吸血鬼なんだ。本当なら、まだ寝てる時間なんだよ」
まったく、と。
二階に上がろうと階段を上り……階下から騒がしい声。
「エヴァー?」
「エヴァンジェリンさんなら、二階に……寝るそうですけど」
「ありがとうございます、ネギ先生」
う。この声は刹那か……だとすると、木乃香も一緒か。
さっさと部屋に戻り、ドアを閉める。
そのままベッドに腰掛け――ドアが叩かれた。
「マスター、起床の時間です」
「……まだ寝てもいないんだが?」
「申し訳ありませんが、先生からあまり遅くまで寝ないように、と言付かっていますので」
「ちっ」
だからここずっと、早くに起こしていたのか。
くそ……また要らん知恵を付けおって。
そんな事を考えていたら、再度ドアがノックされる。
「エヴァー? 遊びに行くよー?」
「ぼーやを迎えに来たんじゃなかったのか?」
「へ?」
違うのか……と言うかなにか? 私を誘いに来たのか?
はぁ――何度、何度、私に関わるなと言えば良いのか……。
溜息を吐き、ドアを開ける。
「帰れ」
「やーよ」
ちっ。
「うわ、いきなり舌打ちされた!?」
「大丈夫です明日菜さん。マスターは機嫌が良いようです」
「お前が判断するなっ!」
別に機嫌なんか良くないわっ。
眠いと言うのに……まったく。
「どうせ暇でしょ?」
「忙しいんだよ……まぁ、色々と」
「うわ。定番の断り文句来たわね」
定番とか言うな。
今度、なんか良い断り方を考えないとな……。
「判った判った。とりあえず、下に行くぞ」
はぁ……なんだと言うんだ。
明日菜と茶々丸に連れられて一階に戻ると、木乃香と刹那もぼーやと一緒に座っていた。
しかも、茶を飲んでくつろいでるし……馴染んでるよな、こいつらも。
……ん?
「お前、まさか……」
「違うわよ。魔法には関わらない。うん」
「よし」
まぁ、この二人の服装もいつもの修行の時みたいなラフなのじゃないしな。
「買い物に行きましょう」
「行ってこい」
なんなら、小遣いもやるぞ、と言ったら頭を手で押さえられた。
こ、このっ。
「アンタ、携帯持ってないから、遊びに誘う時に不便なのよ」
「いや、まず前提として誘うなよ」
「と言う訳で、携帯を買いに行くわよ」
聞けよ、このバカ。
バカは無視して木乃香と刹那に視線を向けると、どうやらこっちも乗り気らしい。
……面倒臭いなぁ。
「おい、聞けバカ」
「なに? あと、あんましバカバカ言わないでよ」
「携帯と言うのは金が掛るんだろう? あんまり手持ちが無い」
「貯金はちゃんとされています」
「だって」
このボケロボ。今度絶対に葉加瀬に診せてやるからな。
何でお前が答えるんだ、お前が。
「ちっ」
「機械オンチのエヴァだって、電話くらい使えるでしょ?」
「お、お前っ。べ、別に機械オンチじゃない……苦手なだけだ」
「何刹那さんと一緒の事言ってるのよ……」
そう言われ刹那の方を向くと、目を逸らされた。
「アレと一緒にするな」
「わ、私だってそう苦手な訳じゃ……」
「はいはい。せっちゃんにはうちが教えて上げるからね?」
「こ、このちゃん……ち、違うから」
あー……なんか、疲れた。
いきなり休日に来たと思えば……はぁ。
「イイジャネーカ。ドーセ暇ナンダシ」
連レテケ、連レテケ、と。
「俺ガ許可スルヨ」
「おいっ、チャチャゼロっ」
「ありがとー、チャチャゼロさんっ」
「土産ハ要ラネーカラナ、御主人」
「誰が買ってくるかっ」
と言うか、だ。
「何でお前、私よりチャチャゼロの方を上に見てるんだ?」
「え?」
何でそこで、何言ってるの、と言う顔をする?
いや、私はチャチャゼロの主人なんだぞ? 判ってるのか?
「だって、チャチャゼロさんって長生きしてるんでしょ?」
「……私の方が長生きしてるんだが?」
「そうだっけ?」
……お前のほっぺたは柔らかいなー。
「いひゃいいはいっ!! ごめふなはいー!!」
まったく。
離してやると、抓った左頬を手で擦りながら
「エヴァって小さいじゃん」
お前のほぺったは、どこまで伸びるかなー?
・
・
・
「い、いはい……」
「ああ、明日菜ー。ほっぺがリンゴみたいになってるえ……」
「ふん」
自業自得だ、バカ。
……とりあえず、着替えてくるか。
「あれ?」
「ん?」
と、木乃香の声。
その声を聞き階段の真ん中辺りで足を止める。
「どうした?」
「あれ? ……明日菜に、魔法が効かへん」
「……木乃香。一般人に魔法を使うなと、あれほど」
「ま、まーまーエヴァンジェリン。相手は明日菜さんだし」
「そう言う問題か……まったく」
しかし、木乃香ほどの魔法使いからの魔法を受け付けないとはなぁ。
「そう言う体質なんだろ。魔法が効きにくい、と言うのも珍しくはない」
「そーなんかー」
残念やったね、明日菜、と。
……そ、そんなに痛くはしてないと思うんだが……。
むぅ。
「すまなかったな」
「へ?」
「痛かったか?」
「……いやいやいや。うん、大丈夫っ」
そう言って立ち上がり、何故かスクワットをする明日菜。
――痛がってた振りか?
心配して損した。
はぁ。
「もしかしたら」
「ん?」
「……いや。待ってろ、着替えてくる」
もしかしたら、明日菜には魔法の才能があるのかもな。
二階に上がりながら、そう聞こえないように呟く。
運動神経も悪くないし、木乃香の魔法が効き辛いほどの抵抗力。
……だからと言って、巻き込むつもりも無いが。
隠すほどでもないのかもしれないが――念には念を入れておくか。
今度、じじいに相談しておこう。
「茶々丸さんも一緒に行こう」
「いえ、私は少しやりたい事がありますので」
「あ、そうなん? 茶々丸さんが珍しいね」
……ふむ。
「お前がそう言うなんて珍しいな?」
「そうでしょうか?」
と言うか、そんな事を言ったのは初めてじゃないか?
用事があるとかだったら何度か聞いた記憶はあるが……やりたい事、か。
「ま、いい。お前がそう言うなら、そのやりたい事をやってこい」
「申し訳ありません」
「いいのいいの、気にしないで茶々丸さん」
お前も成長してるんだなぁ。
嬉しいと言うか、何と言うか……結構複雑な気持ちだな。
「ケケケ……自分ノ時間ヲ、ネェ」
「どないしたん、チャチャゼロさん?」
「イヤイヤ、楽シクナリソーダナァ、ッテナ」
「ふぅん」
・
・
・
「携帯を買うのも面倒なんだな」
「ああ……私もそう思う」
刹那と二人で、溜息を一つ。
契約とかあんなに種類を多く作って、どうなると言うのか。
6つか7つあったぞ。
それに、付加要素もあったし……まぁ、その辺りは明日菜と木乃香任せだったんだが。
「これで使えるのか?」
「そうそう。お昼食べながら、私の番号登録してよ」
「あ、次うちねー?」
ああ、そう言えば携帯の番号を登録しないといけないのか。
面倒だな……。
「そんな面倒臭そうにしない。簡単だから」
「ふん……べつに、こんなのが無くても連絡のとり方なんていくらでもあるだろ」
「便利よ? ボタン一つだし。私は魔法が使えないから、こうしないとエヴァと連絡取り辛いし」
「ぅ……」
それを言われると、どうにも言い返せない。
結局、私が知っている連絡手段のほとんどは、魔法が関わっているからな。
明日菜を関わらせないなら、そちらを教える事は出来ないし。
「判った判った。昼は何を食うんだ?」
「何食べようか?」
決めてないのか。
私も、外食はしないからどんな店があるのかなんて知らないんだよな……。
刹那の方を見ると、こちらも首を横に振る。
「こん先にな、美味しいお蕎麦屋さんがあるんよー」
「ならそこで食べるか。遠いのか?」
「うーん、少し歩かなあかんね」
しかし、
「木乃香は、外食は良くするのか?」
「うん。美味しいご飯食べて勉強してんの」
勉強?
「料理のか?」
「そそ」
「あんなに料理上手なのに、熱心だよねぇ」
私もう、木乃香の料理無しじゃ生きていけないかも、と。
いや、それは言い過ぎだろう。たかが料理じゃないか。
……まぁ、美味いに越した事はないが。
「もう十二分に美味しいと思いますけど……」
「あかんあかん。せっちゃん、もっと美味しくせんと、きっとすぐ飽きるえ」
「いえっ、このちゃんの料理を飽きるだなんて」
……往来の真中で何を言ってるんだか。
そんなバカなやり取りをしながら、のんびりと街中を歩く。
――元気だよなぁ、こいつら。
木乃香と刹那は毎日修行もしてるし、明日菜だってバイトとかで早起きしてるらしいし。
「ねー、エヴァってどんな料理が好きなの?」
「まぁ……よほどゲテモノじゃないなら、何でも食べるぞ?」
苦手なのも――まぁ、少しだけあるが。
「げ、ゲテモノって……何か食べた事あるの?」
そうだなぁ。
「カエルとかは中々」
「うっそ。ホントに?」
ちなみに、木乃香と刹那は一歩引いていた。
……言い過ぎたかな?
まぁでも、事実だしな。
「ああ。一口目は勇気がいるが、案外いけたぞ……イナゴとかは食った事無いが」
「む、虫は流石にねぇ」
「ちょっと、無理だな……」
「エヴァちゃん、凄いんやね」
後はまぁ……色々食ったが、あんまり言わない方が良いだろ。
「伊達に長生きはしてないからな」
「うわ、エヴァが尊敬できる」
「……お前に尊敬されても気持ち悪いだけだ」
「酷いっ!?」
ふん。
――――――
いつもの休日、昼食を外で食べるついでに街を散歩していた所……もう見慣れた姿が目に入った。
猫に囲まれた姿。
と言うか、猫に集られてる、と言った風に見えるな、アレは。
「絡繰?」
「先生」
……また増えてるし。
なんだろう、コレ。
どうやったら俺もこんなに囲まれる事が出来るんだろうか?
「大丈夫か?」
「はい。問題ありません」
とてもそうは見えないけど……また、頭にまで上ってるし。
相変わらず動物に好かれやすい事で。
羨ましい限りである。
「もしかして、毎週ここにきてるのか?」
「……はい」
そうだったのか。
いつも通り掛ったら見掛けるとは思ってたけど……。
なるほど、だから猫達にも好かれるのか。
「しかし、何匹いるんだ?」
「14匹です」
……凄いな。
正直、それしか思い浮かばない。
そう思いながら俺もしゃがみ込み、猫に手を伸ばす。
――逃げられた。
「撫でられますか?」
「良いのか?」
「はい」
すまないなぁ、と。
若干太り気味の白ネコを両手で受け取り、眼前に持ってくる。
おー……フカフカじゃないか。
「先生は、どうして猫さんから逃げられるのでしょうか?」
「俺が聞きたいんだが……何で絡繰は、そんなに猫に好かれるんだ?」
「判りません」
それが判れば、俺も好かれるんだろうか?
流石に、毎週ここには来れないしなぁ。
横になった猫の腹を撫で回しながら、小さく溜息。
……気持ち良いな、コイツ。
「先生、楽しそう」
「おー。猫……と言うか、動物は好きだからな」
動物からは嫌われてるけど、と。
うーむ。自分で言っててなんだが、結構ヘコむな……判ってる事なんだけど。
「好き、ですか?」
「ん? ああ。動物は好きだぞー」
うお……やべ、癖になりそうなくらいモフモフだな。
この太り具合が何とも言えないくらい、気持ち良い。
デブネコと言うのも、バカに出来ないな……。
「絡繰が羨ましいよ」
「……そうですか?」
「そんなに猫に好かれてる」
本当に、羨ましい限りである。
俺も少しは好かれたいもんだ。
「そうでしょうか?」
いや、そこで首を傾げられてもなぁ。
絡繰の言い回しに、苦笑してしまう。
好きじゃないなら、きっとこんなにも懐かれないだろうに。
「先生」
「んー?」
やはり、一緒に居る時間が必要なんだろうか、とか考えていたら、声を掛けられた。
猫は気紛れ、って良く言うしな。
……犬からも好かれないけど。
「お昼は、どうなさるのですか?」
「昼?」
んー……。
「いや、どっかに食べに出るつもりだけど」
手軽な所で、ファーストフードか、牛丼屋か。
「お弁当があるのですが、一緒にどうでしょうか?」
そう言って、その脇に置かれたランチバッグを指差す。
……猫が集まってて気付かなかった。
「ん? いや、流石に悪いからな。遠慮しとくよ」
「…………そうですか」
う……そう言われてもだな。
流石に、生徒と一緒に昼飯とか……しかも、弁当は。
いくら休日でも、見られる可能性がゼロってわけじゃないし……。
誘ってくれたのはありがたいが、今回は、ちょっとな。
しかし、
「絡繰は料理が好きなんだな」
「そうですか?」
「いや。だって、休日に弁当作って食べるとか……」
好きなんじゃないのか、と。
「……そうでしょうか?」
「そうなんじゃないのか?」
絡繰の言い回しは、何と言うか、独特だ。
まるで知らない事のように話す。
単純な事を、当たり前の事を――こういうのを天然、と言うんだろうか?
「好き、なのでしょうか?」
「まぁ、俺なら好きじゃないなら休日までしようなんて思わないけど」
「……なるほど」
二人して猫を撫でながら、そんな……他の人が聞いたら訳の判らない事を話してる。
絡繰と話してると、どうにも――何と言うか、
「難しいです」
「そうか?」
単純だと思うけどなぁ、と。
「やってて楽しいなら、好き。楽しくないなら嫌い。そんなもんだと思うけど」
「……難しいです」
そう言い、胸に手を当て思案する絡繰。
そうかな、と。
まぁ、これ以上言ったらまた説教臭くなるからやめとくか。
さて、と。
「それじゃ、そろそろ行くな」
またなー、と撫でさせてくれたデブネコを離してやる。
身体を揺らしながら絡繰の方に歩く姿が、また愛嬌があるなぁ。
「……行かれるのですか?」
「ん? おー。そろそろ昼時だしなぁ」
結構腹も減ったし、と。
最近、食事事情が思った以上に改善されていたせいで、平日のコンビニ生活がなぁ……。
お陰で、休日の今日は外食ですよ。
多分夜も外で食べるんじゃないだろうか……でも、コンビニ弁当の味気無さがなぁ。
何でこうも違うのか……やはり、出来立て感だろうか?
レンジで温めても、なんか違うしな。
「…………そうですか」
「だって、弁当は絡繰の分だけだろ?」
見た感じ、一人みたいだし。
マクダウェルも居ないみたいだし。
「…………あ」
「はは。俺に食べさせたら、絡繰の分が無くなるぞ?」
「あ、いえ……」
「それじゃ、また明日なー」
しかし、生徒の手作り弁当か……惜しい事をしたのかもなぁ。
絡繰は料理も上手いし。
……ここで見栄を張ってしまうのが教師と言うか、男と言うか。
そう考えてしまうと、どうにも未練がましく思ってしまうのも、また男だからか。
うーむ……惜しい事をした。
――――――チャチャゼロさんとオコジョ――――――
「ただいま帰りました」
「オー、オ帰リー」
「よう嬢ちゃん、楽しい休日だったかい?」
「…………はい」
あれ?
「なんか、シケた顔してんなぁ」
「いつもと同じ表情だと思いますが」
……あれ? ご機嫌斜め?
そう言って持っていたフードバッグをテーブルに置き、奥に消えていく茶々丸の嬢ちゃん。
「何かあったんすかね?」
「ウーン……出掛ケノ時ハイツモ通リダッタンダガナァ」
「ふぅん」
そんな事を話していたら
「帰ったぞ」
「ヨオ、オ帰リ御主人」
「お邪魔してるっす、エヴァの姐さん」
「……また来てたのか。まぁ、遅くならないうちに帰れよ」
うっす。
「さて、あの鈴は部屋だったな」
…………。
「あっちは機嫌良いっすね」
「ダナァ……判リ易イ奴ラダ」
「まったくっすね」
今日は晩飯、どうするかなぁ。
ちなみに、晩ご飯代わりにお昼の具沢山サンドイッチをいただきました。
大変美味しかったです、まる
……弁当も手の込んだの作るんだなぁ、嬢ちゃん。