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No.25758の一覧
[0] 大学がファンタジー世界に転移しました(仮)[ホーグランド](2011/04/16 15:09)
[1] 第一話「転移」[ホーグランド](2013/10/04 18:07)
[2] 第二話「決意」[ホーグランド](2011/04/16 12:26)
[3] 第三話「荒地」[ホーグランド](2011/03/08 16:29)
[4] 第四話「魔法」[ホーグランド](2011/03/09 16:40)
[5] 第五話「細部」[ホーグランド](2011/03/26 22:43)
[6] 第六話「結界」[ホーグランド](2011/04/16 13:00)
[7] 第七話「馬車」[ホーグランド](2011/04/16 13:05)
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[25758] 第七話「馬車」
Name: ホーグランド◆8fcc1abd ID:c9815b41 前を表示する
Date: 2011/04/16 13:05

 海江田・久保田の二人を見送る香籐は二人の姿が地平線に隠れるまでジッと見送った。二人は苦もなく《軽量化》の魔法のかかった荷物を押していく。何トンあるのだろうかという大量の食糧を比喩ではなく、言葉そのままの意味で指一本で運んでいける《軽量化》――香籐は改めて魔法の非常識さに呆れる返るのであった。
 
 先まで香籐と同じく見送っていた兵士たちはすでに慌ただしそうに出発の準備に追われているようだ。談笑しているアランと井上の姿を探すのだが、どこにも見つからない。

 小屋にでも戻ったのであろうと思い直し帰る道中、あることに香籐は気がついた。兵士の駐屯地と推測されるここにも意外と大量に女性の姿が見えるのだ。

 この事を帰って井上と談笑していたアランに尋ねてみると、

「ああ、娼婦たちですか」

 と、半ば予想していた返事が返ってきたのだった。
 
 井上はええっ! と顔を赤くさせながら驚きを露わにする。

「何をそんなに驚いているんです?」
「いえ、何と言うかまだ慣れていないというか……」
「……まぁ、こっちじゃ娼婦なんていうもの自体が珍しいんですよ」
「ほぉ、では”魔女の森”ではどうしてるんですか?」

 アランがニヤニヤとしながら尋ねる。

「まさか男色……」
「――ではないですね」

 香籐が素早く否定する。
 ですよね、とアランは軽く笑った。

「でも実際問題、娼婦が居ないと困るでしょう?」
「それはそうなんですが……」

 井上と香籐は顔を見合した。
 
(よく考えれば何故こんな事に反応したんだろうか? 地球でだって過去には売春婦が普通に存在してただろうに)

 香籐は考える。
 大体現代だって売春が完全に無くなった訳じゃないだろう。それは援助交際やらマッサージ店に名前を変えただけで実質同じ存在だ。自分たちは”娼婦”という字面に襲撃を受けただけじゃないのか。
 ここまで考えを進めて、いかに自分たちが名前を変えただけでお茶を濁して過ごしてきたかに気付いて香籐は苦笑した。

「何でもないです」

 半笑いの顔で首を振る香籐にアランは不思議そうな顔をするばかりであった。








「ん? ああ、カトウさん! イノウエさん! 準備が出来たようです」
「もうですか! 早いですね」

 朝の見送りから一時間弱、アランと二人は昨日と同じ部屋でゆっくり談笑し暇を潰していた所に兵士が連絡を伝えに来る。この一時間、二人はこの異世界の事など全く知らない訳で、三人の間に話題がつきることは無かった。
 
 先導するアランについて小屋を出ると、目の前に馬車らしきものが見えた。
 確かに馬車である。昔、シンデレラの絵本などに描かれていた典型的な馬車だ。そこに香籐は異存はない。



(が、何故、馬が緑なんだ……)

 二人の視線はその立派な馬車を引っ張るのだろう、真緑の馬にくぎ付けとなった。
 
 その馬の形は日本で言うサラブレットのような立派な馬であると言えた。たてがみは艶やかなモスグリーンで、香籐に緑のビニール紐を連想させる。そしてその濃い色とは対照的な淡さの皮膚もまた緑である。この時、驚きの余り二人は見落としていたが、よく見ればその蹄までが緑色である事に気付いたであろう。

「どうです? 立派なミドリウマでしょう!」

 自慢げなアランの紹介に応えて、ミドリウマが鼻息荒く返事を返す。
 
 はぁと頷き返すしかない香籐は自分の中の常識がたった今、ボロボロと崩れていく音を聞いた。

「すげぇ! この馬? が車を引くんですよね!?」
「ははは、当たり前じゃないですか。これは馬車なんですから」

 無邪気にはしゃぐ井上の発する”馬”は、微妙に語尾が上がっていた。その事に気付かず、アランは興奮して馬にぺたぺたと触る井上を、砂場で遊ぶ子供を見守るように眺める。
 
「さ! 乗ってください! 日没までに次の都市に着かないといけないんですから」
「え? 今日は野宿じゃないんですか?」
「はい。それが、ちょうどいい距離の所に都市があるんですよ」
「それは、何と言う都市なんですか?」

 香籐の疑問に、アランは嬉しそうに答えた。

「――観光都市、カバレッジです」





 





「すげぇ、テレビで見た様なまんまだ!」

 驚きの声を上げる井上に、香籐は声に出さないまでも内心同意し感心していた。

 一行は馬車に乗り、整備された道(と言ってもただ茶色い地面が平らにならされているだけであるが)をゆっくりと道なりに進んでいく。現代日本に生まれた香籐にはその速さがゆっくりに感じられたが、長距離の移動手段としてはこの世界では早い方なのだろうと推測する。
 道の両側には緑の草原が、見渡す限り続いていた。空は突き抜けるような青さで、馬車の窓から見える景色は緑と青の二色で上下に塗りつぶされている。井上がテンションを上げるのも納得だ。

「イノウエさん、外の景色のどこがそんなに珍しいんですか?」

 アランは井上が緑の馬に興奮してから生ぬるい笑顔を浮かべっぱなしであった。彼の目には、はしゃぐ井上が都会に出てきたお上りさんか、おもちゃに喜ぶ子供の様に映っているのだろうか。
 馬車と言えば振動で尻が痛くなるだろう……という考えはいい方向に裏切られた。道から石を取り除いただけでその振動は我慢できる程度には抑えられている。

「……井上、恥ずかしいから少し自重してくれ」
「いや、本当すげぇから! 香籐! お前も見てみろよ」

 ひょぉー! と窓から首を出して感嘆の声を上げる井上に溜息をついて、アランと井上は小屋での会話の続きをしはじめた。

「今日泊まるという……」
「カバレッジ、です」
「そうそうカバレッジ。観光都市というとどんな所が名所なのですか?」
「うーん、そうですねぇ」

 考え込んだアランは、しばらくたって困ったように香籐の方を見上げた。

「……観光はした事ありますよね?」

 当たり前だ、との言葉が出かかるも香籐はこれまたこの世界での観光と、日本での観光の対象が一致するのだろうかと疑問に感じた。

「……ええ、遺跡とか、名勝とかですかね」
「……はぁ?」

 アランは訳が分からないといった、出会ってから何度も見た顔を晒していた。やはり危惧していた通り、二人の間には観光の意味の齟齬があるようだと香籐は当たりをつける。
 同じ様なすり合わせを何度もやっている二人は慣れたもので、苦笑いを浮かべながらお互いにその意味を簡易に説明しあう。

「えー、観光というのは、詰まる所国の威光を見せつける、という意味合いがこちらでは強いです」
「国の威光、ですか?」
「ええ。国の国力――それを示すこと、それが観光都市の役割の一つとなります。勿論、その国力を表すといっても色々あります。それこそ何でもいいんですよ、その都市を訪れた人々に凄いと思わせればいい訳です。特にカバレッジはモリ様が最初に訪れた町でもありますからね。宗教的な意味合いでもカバレッジは高く位置づけられているのですよ」
「モリ、というのは確か魔教とかいう宗教の……」
「モリ様、です。”魔女の森”の方々は気にしないかもしれませんが町に着いたらそこらへんは気をつけてくださいね。特にあそこの市民たちは熱狂的な信者として有名ですから」
「はは、気をつけます」

 香籐は苦笑いを浮かべた。三人が話合った会話の中にも宗教についてはそれなりに説明もされていたし、重要であると教えられていたにも関わらずこう迂闊な事を口にしてしまったからだ。
 
 魔教――という宗教はこちらでいうキリスト教に近い存在だと香籐は感じていた。香籐自身はキリスト教のキの字も分かっていない典型的日本人であったのだが、中世ヨーロッパでキリスト教という宗教が文化や生活の中心に深く関わっていただろうことは容易に想像できた。彼らの服装やら雰囲気から二人の日本大学生は一般的な中世ファンタジーの匂いを感じ取っていたのである。
 さて、いざアランの話を聞いてみるに魔教の”キリスト”に当たるのがモリという人物らしい。

 彼が現れたのはざっと400年前――最もこの世界と前の世界の時の単位が同じかどうか香籐はまだ分からなかったのだが――だとされているらしい。その頃には既にこの世界には魔法も存在していたし、今の様な都市も出来始めていたという。当時もやはり魔法使いがある程度の尊敬を集めていた、と教会の書物には書いてあるらしい。少なくとも魔法という力を行使できる魔法使いは権力に近い位置にいたに違いない。
 その頃には魔法を教える学院は無かったのか? と香籐が聞くとアランは困り切った顔をするのだった。何やらややこしい事情があるみたいだ。

 モリはこの都市に来た時、色々な事を市民に教え生活を改善していき尊敬を集めた――とこれまた教会の書物に書いてある。その行為は魔法をも超越したまさに奇跡と呼ぶ以外にない事象の連続だ。例えば、洪水で川が氾濫しかければ川の流れを一瞬でまげたり、ため池に水が無くなればそこから水を湧かし、不治の病人を苦もなく治したりと……そんな彼を聖者や大魔法使いだと市民たちが神聖視し始めるの仕方がないことだった。
 そして彼が書いた一冊の書――教書を残してモリは他の都市を救うべく旅立って行った。

 この話を聞いた時、香籐はモリをキリストとパウロを足して二で割ったようだなと思った。もしそれが本当ならまさに聖者、神の降臨と拝んでも仕方がなく感じる。
 そしてその教書と呼ばれる物の内容と言えば、簡単に言うと『生活の指針』といったところだろうか。アランに見せてもらった教書の内容を見て香籐は拍子抜けしてしまった。どんなどぎつい内容が書いてあると思えば、

 ・嘘をつかないようにしましょう
 ・人の物を取ってはいけません
 ・浮気もいけません
 ・人を騙してはいけません
 ・お金に執着しないようにしましょう
 ・勉強も頑張って……etc

 と当たり前の事を大層丁寧にくどく書かれているのであった。井上などは『子供の絵本かよ』と不思議がるほどである。
 しかし、この当たり前の内容に当時の人はえらく感動したようで、教書はキリスト教の”聖書”の様な位置になっていった。

 そしてこの本にこそ、魔法の本質は”真理”である、と書いてあるから学院は真理を追い求めているそうだ。まさしく”勉強も頑張って”いる訳だ。

 他も簡単に魔教についてレクチャーを香籐は受けた。修道院はその教書の生活を忠実に実践するための場所であるということ、教会では誕生の際の洗礼から葬式までまさに人生のほぼすべてをカバーしていること、聖歌隊にはカワイイ子が多い……と、どうでもいい様な情報までアランは教えてくれたのだった。
 魔法使いが偉い、というのも魔教の影響らしい。聖人モリは大魔法使いであったのだから、魔法使いが偉いのは当たり前、それももっともっと魔法が使えるほど”真理”に近ければいい……と、なるほど納得できる話であった。

「というと観光の目玉も魔教関係の?」
「ええ。巡礼の地の一つでもありますからね。教会の本部自体は中央にありますが、カバレッジも凄いですよ」
「えーと、中央にも教会があるんですか?」
「そりゃもちろん! 教会自体はどこにでもあると思いますが、やはり中央のはすごいらしいですよ。といっても私は見たことないんですけどね」
「……なるほど。魔教というのはすごいんですねぇ」
「まぁ、すべての国が魔教で繋がってるといっても過言でないです。だから観光という考え方もでてきたんです」
「あ、そうでした。何故に国力示す、なんて言う観光という話に?」
「……戦争を避ける為の工夫です。ある程度の差が分かっていれば、わざわざ両方の兵士を殺してまで戦争しなくて済むでしょ?」
「ほぉー」

 その時、香籐は心の底から感心していた。前の世界でも出来ていなかった事が実現されているのだから。

「となると戦争はこの世界では無いんですか」
「残念ながら」

 アランはその眉を寄せながら何処か影のある表情で答えた。

「戦争は無くなった訳ではありません。無ければ私の様な兵士も要らないんですけどね」
「あ、確かに。……まぁ、人間そんなものですよ」
「なんでですかねぇ……モリ様のお言葉にみんなしたがって居れば戦争なんて起きないのに……」

 そんな事をしみじみと呟くアランを香籐は生温かく見守っていたのであった。





 井上も最初は興奮して馬車の外の風景を眺めていたのだが、そのうち疲れてしまったのかすっかり寝入ってしまった。アランと香籐もさすがに話題も尽きてきたので、二人も目をつぶり体力の回復に努める。
 三人を乗せた馬車一行が観光都市カバレッジに着いたのは、西日がさし始めるような夕方の頃であった。

「でっけぇ……」

 これまた午前中と同じ様に馬車から顔を突き出して井上が感嘆の声を上げる。そんな井上にアランは誇らしそうな顔だ。
 観光都市というのだから、井上にこうも気持ち良く感心されてアランは嫌な気分になるはずもない。

 香籐も好奇心を抑えられず、井上と同じ様に思われるのは癪だが反対の窓から顔をだした。

 目の前にあったのは、赤い夕陽に照らされた巨大な石の建造物であった。
 
 その石を積み上げて造られた城壁は真っ白なキャンパスに赤い絵具をこぼしたように一色で染められていて、どこか現実離れした印象を香籐に抱かせる。目の前の情景がはっきりとここは異世界なのだと断言しているようで、

 香籐は自分の目じりが熱くなるのを感じた。




 








 ガタンッと音をたてて止まった馬車からアランが下りてから数分、色々な説明が必要なようで馬車は止まったままである。窓からみた距離とこの馬車の速さを考えるに、ちょうど門の前だろうか? 窓から見た時は確かに解放された、巨大な石造りの都市相応にデカイ扉が見えたのでそこで手続きでもしているのだろうと香籐は思う。

「そう言えばお前、白衣持ってきてたよな?」
「たぶん、持ってきてた思うけど……なんで?」

 同じ様に所在なさげな井上に香籐は声をかける。

「ああ、お前は聞いていなかったっけな。ずーと寝てただろ」
「まあな」
「はぁ……よくこんな異世界みたいなとこでもぐーすか寝れるよなぁ。逆に尊敬するよ」
「どうも」
「褒めてないって。で、アランと話をしてたんだがこの世界じゃ単色がフォーマルな服装らしい。単色な服なんてそうもないだろ? それで白衣を思いだしんたんだよ」
「つまり白衣を着ろってことか?」
「……ああ、そうだよ」

 能天気な顔でそう返す井上に加藤は投げやりな言葉を返す。
 そして二人して足元に置いてあった登山用のリュックサックから白衣を取りだした。寒さをしのげるものなら何でもいいと手元にあるものを彼らは出発前に突っ込んでいたのだった。
 二人は白衣をはおる。ごわごわとしたいつもの感触が心地よい。

「カトウさん、そろそろ……」

 手続きがすんだアランが馬車に乗り込んで……白衣姿の二人に固まった。
 
 これがまた大学のこれからの運命を大きく変えていくことになろうとは、誰も予想だに出来ないことであった。





<作者コメ>
お久しぶりです。ミドリウマって名前でしたっけ? つーか、本当に緑色だったか? 読んだのが大分前だからちょっとあやふや。
新生活ほどうざい物は無いと思う。シュタゲアニメ化万歳。友達がオリ主もののSS書きたいとぬかしおった。ちょっと読みたい気がする。誰か書いて。
ネタばれ ミドリウマは飛ぶ







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