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No.25752の一覧
[0] 犬夜叉(憑依) 【完結】 【桔梗編 第六話投稿】[闘牙王](2012/02/27 00:45)
[1] 第一話 「CHANGE THE WORLD」[闘牙王](2011/04/20 21:03)
[2] 第二話 「予定調和」[闘牙王](2011/04/20 21:08)
[3] 第三話 「すれ違い」[闘牙王](2011/04/20 21:18)
[4] 第四話 「涙」[闘牙王](2011/04/20 21:28)
[5] 第五話 「二人の日常」[闘牙王](2011/04/20 21:36)
[6] 第六話 「異変」[闘牙王](2011/04/20 21:47)
[7] 第七話 「約束」[闘牙王](2011/04/20 21:53)
[8] 第八話 「予想外」[闘牙王](2011/04/20 21:57)
[9] 第九話 「真の使い手」[闘牙王](2011/04/20 22:02)
[10] 第十話 「守るもの」[闘牙王](2011/04/20 22:07)
[11] 第十一話 「再会」[闘牙王](2011/04/20 22:15)
[12] 第十二話 「出発」[闘牙王](2011/04/20 22:25)
[13] 第十三話 「想い」[闘牙王](2011/04/28 13:04)
[14] 第十四話 「半妖」[闘牙王](2011/04/20 22:48)
[15] 第十五話 「桔梗」[闘牙王](2011/04/20 22:56)
[16] 第十六話 「My will」[闘牙王](2011/04/20 23:08)
[17] 第十七話 「戸惑い」[闘牙王](2011/04/20 23:17)
[18] 第十八話 「珊瑚」[闘牙王](2011/04/20 23:22)
[19] 第十九話 「奈落」[闘牙王](2011/03/21 18:13)
[20] 第二十話 「焦り」[闘牙王](2011/03/25 22:45)
[21] 第二十一話 「心」[闘牙王](2011/03/29 22:46)
[22] 第二十二話 「魂」[闘牙王](2011/04/05 20:09)
[23] 第二十三話 「弥勒」[闘牙王](2011/04/13 00:11)
[24] 第二十四話 「人と妖怪」[闘牙王](2011/04/18 14:36)
[25] 第二十五話 「悪夢」[闘牙王](2011/04/20 03:18)
[26] 第二十六話 「仲間」[闘牙王](2011/04/28 05:21)
[27] 第二十七話 「師弟」[闘牙王](2011/04/30 11:32)
[28] 第二十八話 「Dearest」[闘牙王](2011/05/01 01:35)
[29] 第二十九話 「告白」[闘牙王](2011/05/04 06:22)
[30] 第三十話 「冥道」[闘牙王](2011/05/08 02:33)
[31] 第三十一話 「光」[闘牙王](2011/05/21 23:14)
[32] 第三十二話 「竜骨精」[闘牙王](2011/05/24 18:18)
[33] 第三十三話 「りん」[闘牙王](2011/05/31 01:33)
[34] 第三十四話 「決戦」[闘牙王](2011/06/01 00:52)
[35] 第三十五話 「殺生丸」[闘牙王](2011/06/02 12:13)
[36] 第三十六話 「かごめ」[闘牙王](2011/06/10 19:21)
[37] 第三十七話 「犬夜叉」[闘牙王](2011/06/15 18:22)
[38] 第三十八話 「君がいる未来」[闘牙王](2011/06/15 11:42)
[39] 最終話 「闘牙」[闘牙王](2011/06/15 05:46)
[40] あとがき[闘牙王](2011/06/15 05:10)
[41] 後日談 「遠い道の先で」 前編[闘牙王](2011/11/20 11:33)
[42] 後日談 「遠い道の先で」 後編[闘牙王](2011/11/22 02:24)
[43] 珊瑚編 第一話 「退治屋」[闘牙王](2011/11/28 09:28)
[44] 珊瑚編 第二話 「半妖」[闘牙王](2011/11/28 22:29)
[45] 珊瑚編 第三話 「兆し」[闘牙王](2011/11/29 01:13)
[46] 珊瑚編 第四話 「改変」[闘牙王](2011/12/02 21:48)
[47] 珊瑚編 第五話 「運命」[闘牙王](2011/12/05 01:41)
[48] 珊瑚編 第六話 「理由」[闘牙王](2011/12/07 02:04)
[49] 珊瑚編 第七話 「安堵」[闘牙王](2011/12/13 23:44)
[50] 珊瑚編 第八話 「仲間」[闘牙王](2011/12/16 02:41)
[51] 珊瑚編 第九話 「日常」[闘牙王](2011/12/16 19:20)
[52] 珊瑚編 第十話 「失念」[闘牙王](2011/12/21 02:12)
[53] 珊瑚編 第十一話 「背中」[闘牙王](2011/12/21 23:12)
[54] 珊瑚編 第十二話 「予感」[闘牙王](2011/12/23 00:51)
[55] 珊瑚編 第十三話 「苦悶」[闘牙王](2012/01/11 13:08)
[56] 珊瑚編 第十四話 「鉄砕牙」[闘牙王](2012/01/13 23:14)
[57] 珊瑚編 第十五話 「望み」[闘牙王](2012/01/13 16:22)
[58] 珊瑚編 第十六話 「再会」[闘牙王](2012/01/14 03:32)
[59] 珊瑚編 第十七話 「追憶」[闘牙王](2012/01/16 02:39)
[60] 珊瑚編 第十八話 「強さ」[闘牙王](2012/01/16 22:47)
[61] 桔梗編 第一話 「鬼」[闘牙王](2012/02/20 20:50)
[62] 桔梗編 第二話 「契約」[闘牙王](2012/02/20 23:29)
[63] 桔梗編 第三話 「堕落」[闘牙王](2012/02/22 22:33)
[64] 桔梗編 第四話 「死闘」[闘牙王](2012/02/24 13:19)
[65] 桔梗編 第五話 「鎮魂」[闘牙王](2012/02/25 00:02)
[66] 桔梗編 第六話 「愛憎」[闘牙王](2012/02/27 09:42)
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[25752] 珊瑚編 第十一話 「背中」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/21 23:12
「だから悪かったって言ってるだろ、犬夜叉。」

「………」


どこか罰が悪そうに珊瑚は目の前にいる犬夜叉に謝罪する。だがそれでも収まりがつかないのか犬夜叉は不貞腐れた様子でそっぽを向いてしまっている。言うまでもなくそれは先程の珊瑚の攻撃のせい。不可抗力とはいえ珊瑚の裸を見てしまった犬夜叉は恥ずかしさによって混乱した珊瑚による一撃によって気を失う羽目になってしまった。その威力は凄まじく、もしかしたら桃果人の一撃を上回っているのではないかと本気で思ってしまう程のもの。せっかくここまで来たというのに何故そんな目に会わなければならないのか。犬夜叉でなくとも文句の一つも言いたくなるだろう。珊瑚もそれが分かっているからこそ謝罪しているのだが犬夜叉はまだ恨めしそうな目でこちらを睨みつけていた。


今、珊瑚と犬夜叉はひとまず桃果人の厨房から離れ、違う部屋に身を潜めている状況だった。それは犬夜叉の折れた左腕の応急処置をするため。本当ならもっと本格的な治療をしたいところなのだが贅沢は言っていられない。応急処置自体は珊瑚に心得があったため何の問題もない。退治屋をしていればこういった事態はある意味日常茶飯事だったからだ。


そしてそれを行っている珊瑚の姿はいつもと異なっている。いつもの戦装束でも着物でもない赤い着物。それは犬夜叉がいつも着ている火鼠の衣。流石にあのまま何も着ていないのはまずいということで犬夜叉が珊瑚に貸しているのだった。


「大丈夫なの、犬夜叉?」

「……ああ、どうってことねえ。」


応急処置が終わり、その場を立ち上がり動き始めようとしている犬夜叉に向け珊瑚はそう問いかける。確かに骨折自体はそれほどひどいものではなかったがそれでも大怪我であることは変わらない。痛みも当然あるはずだ。だがそれを全く感じさせない姿を見せながら犬夜叉は周囲を警戒している。それは自分たちを探しているであろう桃果人を警戒してのもの。何とかこの場を離脱しなければならない。珊瑚は犬夜叉が持ってきた飛来骨を取り戻したため戦闘を行うことはできるがこれ以上相手を侮るわけにはいかない。とにかく時間を稼ぎ、半妖に戻らなければいけない。そうなれば十分な勝機が見い出せる。それが犬夜叉の考えだった。


だがそんな中、どこか真剣そうな表情を見せながら自分を見つめている珊瑚の姿があった。その姿にどこか気圧されながらも犬夜叉も真剣な表情を見せながら珊瑚に向き合う。そしてしばらくの時間の後、珊瑚はその両手で犬夜叉の頭を撫でまわし始める。


「………おい。」

「いや……本当に人間になってるんだなと思ってさ。」


額に青筋を浮かべている犬夜叉をよそに珊瑚は犬夜叉の体中を触り続けている。それは犬夜叉が本当に人間になってしまっていることを確かめるため。だがそこには全く遠慮がない。まるで見世物になってしまっているかのようだった。そして一通り触り満足したのか珊瑚は改めて犬夜叉に向かい合う。そこには何の変哲もない黒髪の少年の姿があった。


半妖は定期的に妖力を失う時がある。


それを珊瑚は知識としては知っていた。だがこうして目の前にするとやはり違って見える。本当に前にいるのは人間の犬夜叉。それは妖怪と人間の間に生まれた半妖だからこその姿。


そして半妖はそのことを決して他人に話すことはない。それは妖力を失うということは半妖にとって命にかかわることだから。それを知られてしまえば自らの身を守ることすらできなくなってしまう。半妖だからこその弱点。


珊瑚は気づく。犬夜叉は何故自分の行動を止めようとし、里に帰ろうとしていたのか。その時、何か無理をしているかのような態度を見せていた理由。それが全てそのせいであったことに。だがそれでも思わずにはいられない。ならどうして


「ならどうして、そうだって言ってくれなかったんだ?」


そのことを自分に話してくれなかったのか。そうしてくれていれば自分もそれを聞き入れたはず。だが犬夜叉はそれを自分に話してはくれなかった。その理由も分かり切っている。それは


「やっぱり、まだあたしのことを信じてくれてないの?」


犬夜叉は自分のことを信頼してくれていない。ただそれだけ。その事実に珊瑚はどこか寂しげな表情を見せる。だがそれは当たり前だ。仲間になったとは言ってもそれはまだ二月とたっていない。そんな自分に己の弱点を話してくれるほど犬夜叉は甘くはない。


それは命にかかわることであり、これまでずっと一人で生きてきた犬夜叉にとってはそれを他人に話すことなどあり得ないのかもしれない。だがそれでも仲間だと思っていた犬夜叉が自分を信頼してくれていないという事実に珊瑚の表情に陰りが見え始める。しかし



「…………違う。」


そんな珊瑚の姿を見ながらも犬夜叉はそうぼつりと呟く。それはまるで犬夜叉の心の内が漏れてしまったかのような呟きだった。珊瑚はいつもとは違う犬夜叉の姿に驚きながらも目を向ける。


「なら……どうして……」


珊瑚はそう犬夜叉に問いかける。犬夜叉の言葉。それが真実なら犬夜叉は自分のことを信頼してくれているということになる。だがそんなことを犬夜叉が口にすることなど考えられなかった。それはこれまでの犬夜叉との付き合いでも明らか。犬夜叉はそんなことを口に出す性格ではない。


そのことに驚きながら珊瑚は言葉をつなぐ。犬夜叉はそんな珊瑚の問いに顔を俯かせたまま黙りこんでしまう。二人の間に静かな時間が流れる。だがそこには不思議と気まずさはなかった。そしてしばらくの間の後



「……………情けなくて言えなかっただけだ。」


犬夜叉は絞り出すように視線を床に向けながらそう自らの本心を吐露する。それは普段なら決して少年は口にしないこと。だがそれを少年は口にしてしまった。それは人間になってしまったことでどこか緊張の糸が切れてしまったためのもの。



自分の弱いところを珊瑚に見られたくなかった。



それが少年が朔の日のことを珊瑚に話せなかった理由。それはまるで子供の様な幼稚な理由だった。


犬夜叉の体。


少年はそれが嫌いだった。いや恨んでいると言っても過言ではない。人間でも妖怪でもない。どっちにもなれない半端者。そのせいで自分はずっと差別と迫害を受けてきた。それが生まれ持ってのものならまだあきらめもついただろう。だがこの体は自分のものではない。確かに自分は犬夜叉の生まれ変わりであり、この体は前世の体。だがそれでも自分は人間であり半妖ではない。にも関わらずに何故自分ばかりがこんな目に会わなければならないのか。戦国時代へのタイムスリップ。それだけならまだ良かっただろう。まだ身の振り方も考えられる。だが半妖の体ではそれすらできなかった。人里で暮らすことも、妖怪たちの様に生きることも。


そんな自分が生きていくためには『強さ』が必要だった。それを教え、救ってくれた人がいた。その人がいなければ今の自分はなかっただろう。


そしてそれを手に入れるためにはこの半妖の力が必要だった。皮肉な話だ。消えてしまえばいいと思うほど嫌っている半妖の体に頼って生きていくしかなかったのだから。まさに今この時も自分は半妖の体に戻りたくて仕方がない。そんな矛盾した感情。


だがそんな自分に新しい生き方を、居場所を与えてくれる女性がいた。言葉には出せないがそれにどれだけ感謝しているか分からない。きっかけは偶然、なし崩し的なものだった。でもそれは自分にとっては本当に奇跡だったのかもしれない。そしてそれ故に朔の日のことを話すことができなかった。


もしそのことで自分を見限られてしまったら。弱い自分を受け入れてもらえなかったら。


珊瑚たちが半妖である自分を仲間に誘ってくれたのは分かっている。それは当たり前。珊瑚たちは妖怪退治屋なのだから。その足手まといにはなりたくない。


そんな小さな子供の様な理由。だがどうしても振り払うことができない不安。それが今の少年の心境だった。


少年はそのまま何を言うでもなく黙りこんでしまう。どうやら自分は体に加えて心まで不安定になってしまっているらしい。


いつもこうだ。朔の日にはどうしても本来の自分が表に出てしまう。それは弱さ。何の力も持たない無力な十四歳の自分の姿。少年がそのまま深い自己嫌悪に陥りかけたその時




「……何だ、そんなこと気にしてたの?」


それは珊瑚のあっけらかんとした言葉によって振り払われてしまった。



「そ、そんなことってお前………」


少年は珊瑚の言葉に呆気にとられながらもそんな言葉を発することしかできない。だがそれは当然だ。自分がこれまでずっと悩んでいた、苦しんでいたことを『そんなこと』と一蹴されてしまったのだから。もしかしたら自分の言葉の意味を理解していないのではないか。そう思わずにはいられない程。


だが珊瑚は理解していた。犬夜叉が何故自分にそのことを話せなかったのか。もちろんその背景にある苦悩まで理解できたわけではない。それをすぐに理解できるほど自分は思いあがってはいない。だがそれでも



「前にも言っただろう。あんたが妖怪だろうと半妖だろうと構わないって。今は人間だけど……それでもあんたが犬夜叉だってことは変わらないよ。」


目の前の少年、犬夜叉が自分の仲間であることには変わらない。それは嘘偽りない珊瑚の犬夜叉への想いだった。


その言葉に少年は目を見開くことしかできない。そんな少年の様子に気づくことなく珊瑚はさらに言葉を続ける。


「その証拠にあんたは人間の姿でもあたしを助けに来てくれたじゃないか………ありがとね、犬夜叉。」


珊瑚は恥ずかしいのか顔を赤くしながらそう少年に礼を言う。それは気恥ずかしさからなかなか言い出せなかった言葉。裸を見られてしまったのは予想外だったがそれでも危険を顧みず自分を助けに来てくれたことに対する珊瑚の感謝の言葉だった。しかし面と向かって言うのは流石に恥ずかしいため顔をそむけながらその言葉を告げ、犬夜叉の反応を待つことにする。


だがいつまでたっても反応が返ってこない。いつもなら不満げな、天の邪鬼の様な態度で言い返してくるはず。一体どうしたのか。不思議に思いながら珊瑚はその視線を犬夜叉へと向ける。そこには




呆然と自分を見つめ、両目から涙を流している犬夜叉の姿があった。



「…………犬夜叉?」


そんな信じられない、あり得ない光景に珊瑚は驚愕の声を上げることしかできない。


あの犬夜叉が、今まで一度も自分たちに弱みを見せたことがない犬夜叉が涙を流している。それも自分の何気ない言葉によって。犬夜叉自身も自分が涙を流していることに気づいていない。


だがその光景に珊瑚は目を奪われる。それはまるで自分が今まで見たことのない犬夜叉の、少年の本当の姿のようだった。



犬夜叉はそんな珊瑚の姿を見つめた後、すぐに自分が涙を流していることに気づき、慌ててそれを拭い始める。だがいくらそれを拭おうとしても涙が止まらない。犬夜叉はそのまま珊瑚から自分の顔が見えないように後ろを向いてしまう。そんな犬夜叉の姿に珊瑚は賭ける言葉を持たない。


「と、とにかく早いとこ、ここから離れねえとな、行くぞ珊瑚。」


どこか上ずった声でそう告げながら犬夜叉はその場から動き始める。珊瑚はその言葉ですぐに我に帰り、犬夜叉の後を追って行こうとする。犬夜叉の言う通りとにかく今はここから脱出することが最優先。今の自分も万全の状態ではない。そう判断してのこと。だが



「残念だったな、お前らをここから逃がすわけねえだろ。」


そんな声が二人に向かって放たれる。同時に二人はすぐさま振り返りながら臨戦態勢を取る。その視線の先には右目を失いながらも健在な桃果人の姿があった。だがその様子は先程までとは大きく異なっている。凄まじい殺気と威圧感。どうやら犬夜叉の攻撃によって怒りを抑えきれていないらしい。



「犬夜叉は下がってな、ここはあたしがやる!」


珊瑚はそう宣言しながら自らの武器である飛来骨を構える。その言葉は決して犬夜叉を侮ってのものではない。だが今の犬夜叉は満身創痍。とても戦える状態ではない。それを見抜いてのものだった。犬夜叉は苦渋の表情を見せながらも珊瑚に言われた通りにその場から距離を取る。それは犬夜叉も自分の状態を理解していたから。どんなに強がっても今の自分は闘うことができる状態ではない。近くにいては珊瑚の邪魔になってしまうだけ。悔しさはあるがそれでもこの場は珊瑚に任せるしかないという戦闘時の犬夜叉の判断だった。


「飛来骨っ!」


そしてそれを見て取った珊瑚はそのまま飛来骨を桃果人に向かって投げ放つ。だがそれは先の闘いの焼き回しのよう。


「馬鹿が、そんなもん俺には通用しねえってまだわかんねえのか。」


桃果人はそう告げながら身じろぎひとつせず飛来骨に向かい合う。この攻撃は先程もう見せてもらっている。その攻撃が自分には通用しないことも。桃果人は先程と同じように自からの体によって飛来骨の攻撃を弾き返そうとする。だがすぐに桃果人は気づく。


それは飛来骨の軌道。それが以前とは大きく異なっている。それはまるで床を這うかのような軌道を描いている。桃果人はその狙いに気づくも時すでに遅し。飛来骨はそのまま桃果人の足元の床を打ち砕く。瞬間、桃果人は足もとが崩れたことで体勢を大きく崩してしまう。そしてそれこそが珊瑚の狙いだった。


「もらった!」


同時に珊瑚がその手に犬夜叉から借り受けた鉄砕牙を手に桃果人へと接近する。その狙いは腹に仕込まれた四魂のカケラ。それを珊瑚は犬夜叉から聞き及んでいた。人間の姿の犬夜叉ではそれを貫くことはできなかったが珊瑚ならそれは十分に可能。そう判断しての作戦。狙いもタイミングも完璧。珊瑚はそのまま走りながら桃果人へとその刃を繰り出そうとする。


だがその瞬間、激痛が珊瑚を襲う。それは珊瑚の足首からのもの。その痛みによって珊瑚の動きに隙が生じてしまう。それは桃果人に捕まった時に受けてしまった怪我。ここまで何とか誤魔化していたがどうやら限界がきてしまったらしい。そしてその隙が致命的だった。


「てめえっ!!」


すぐさま立ち上がった桃果人はそのまま凄まじい張り手を珊瑚に向かって繰り出す。それは直撃を受ければタダではすまないほどの一撃。


「くっ!!」

珊瑚は咄嗟に床に落ちている飛来骨を盾代わりにすることでそれを防ぐ。だがその威力を完全に受け流すことができず、そのまま吹き飛ばされてしまう。だがその先は木でできた窓。珊瑚はその勢いによって窓を突き破ってしまう。その瞬間、得も知れない感覚が珊瑚を襲う。


それは浮遊感。まるで自分が宙に浮いてしまっているのではないか。そんな感覚。だがそれは間違いではない。


珊瑚は気づく。それは眼下の光景。そこにはどこまでも続くのではないかと思えるような深い底を感じさせる崖の姿。珊瑚は自分が崖に突き飛ばされてしまったことに気づく。だが不思議と焦りはなかった。それは本能。自分はここで死ぬ。それを悟った故の感情。それは時間にすれば一秒にも満たない時間。だがそれがまるで止まってしまっているかのように感じる。だが自分は動くことができない。珊瑚がそのまま重力のまま落下していこうとしたその瞬間、



「珊瑚っ!!」


叫びと共に誰かが自分に飛びついてくる。その突然の光景に珊瑚は目を奪われることしかできない。それは犬夜叉。犬夜叉はあろうことか自分を追って窓から崖に落ちようとしている自分に向かって飛びついて来たのだった。


「なっ!?」


珊瑚はそんな声を上げることしかできない。当たり前だ。犬夜叉は何の命綱も付けていない。それはすなわちこのまま犬夜叉も自分と同じように崖に落ちていくしかない。そうなれば自分だけではなく犬夜叉まで命を落としてしまう。


「何やってんだ、犬夜叉このままじゃあんたも……!!」


落下による風を受けながらも刹那の時間の間に珊瑚はそう犬夜叉に言い放つ。何故こんなことを。こんなことをしても何の意味もない。二人とも死んでしまうだけ。まさに自殺行為だ。だがそんな珊瑚の言葉を聞きながらも犬夜叉はあきらめの顔を見せない。



「ごちゃごちゃうるせえ………」


そう呟きながら犬夜叉はその両手で珊瑚を抱きしめる。その力に珊瑚は驚きを隠せない。犬夜叉は左腕を骨折しているはず。だがそんなことなどどうでもいいとばかりに犬夜叉は自らの全力をもって珊瑚を抱きかかえる。まるでその体を決して離さない。そう誓うかのように。


瞬間、珊瑚は目を奪われる。それは光。それが自分たちを照らしている。いや闇に染まっている崖をその光で照らしていく。


それは朝日。長い夜の終わり。そしてこの戦いの終わりを告げるもの。


珊瑚は気づく。それは鼓動。凄まじい鼓動が自分に伝わってくる。それは自分を抱きかかえている犬夜叉の物。その鼓動が自分に届いてくる。その力強さはまるでどんなことでもできるのではないか、そんな想いを生み出してしまうほどのもの。



「目の前で死なれちゃ目覚めが悪いんだよっ!!」


犬夜叉は咆哮する。その瞬間、犬夜叉の姿が大きく変わっていく。



髪は銀髪、頭には犬の耳、爪は鋭く尖っていく。




今ここに『半妖犬夜叉』が復活した――――――








「ふん、妙な奴らだったな。」


そう愚痴を漏らしながら桃果人はその場を後にしようとする。色々邪魔が入ったがようやく決着がついた。あの小僧が持っていた四魂のカケラは崖の下に落ちてしまったが後で使い魔たちに探させればいいだろう。久しぶりに動いたので腹が減ってしまった。また新しい人間を誘い出そう。そして人面花を作り、不老長寿の薬の元にする。そうと決まればさっさと動くとしよう。そう考えた瞬間、凄まじい物音が辺りに響き渡る。桃果人は俺に驚きながら振り返る。そこには先程の壊れた窓から飛び込んでくる人影がある。


それは珊瑚を背中に背負った犬夜叉。その突然の光景に桃果人は身動きを取ることができない。崖に落ちた奴らが何故こんなところに。それは当然の疑問。だがそれを許さないとばかりに二人はそのまま桃果人へと向かって行く。


「はあっ!!」


珊瑚は犬夜叉の背中に乗ったまま手にある飛来骨を投げ放つ。だがその軌道は桃果人とは見当外れの方向に飛んで行ってしまう。桃果人はそんな無意味な行動に驚き、動きを止めてしまう。そしてその一瞬の隙を犬夜叉は見逃さなかった。


瞬間、凄まじい衝撃が桃果人を襲う。それは犬夜叉の攻撃。その鋭い爪が桃果人の腹に突き立てられている。その威力は軽々とその腹に仕込まれた四魂のカケラに届く程のもの。それが力を取り戻した犬夜叉の実力だった。


「がはっ……!!」


その速度と威力に桃果人は反応すらすることができない。それは犬夜叉の力に加え、人間の時の犬夜叉の力しか知らなかった故の油断によるもの。犬夜叉はそのまま腕を引き抜き、四魂のカケラを奪い取りながら桃果人から距離を取る。


「おのれ……!!」


桃果人は残った力を振り絞り、奪われた四魂のカケラを取り戻そうと二人に襲いかかろうとしていく。だがそんな桃果人の姿を目の前にしても犬夜叉と珊瑚はまったく動こうとはしない。一体何故。そう桃果人が疑問を抱いた瞬間、衝撃が桃果人の背後から襲いかかってくる。いきなりの自体の連続に桃果人は混乱することすることしかできない。そして気づく。


自分の背中に先程あさっての方向に飛んで行ったはずの飛来骨が襲いかかっている。それこそが犬夜叉と珊瑚の狙い。戻ってくる軌道を描く第二撃による攻撃。そしてそれに気づいたものの桃果人はその威力によって吹き飛ばされる。その先は先程犬夜叉たちが落ちていった窓。桃果人は為すすべなくそのまま崖の奥底へと落ちていってしまう。


それがこの長い夜の戦いの決着だった―――――





「終わったんだね……」

「ああ……」

戦闘が終わったことを確信した二人はそのままその場に座り込んでしまう。それは一晩中続いた戦闘の疲労によるもの。珊瑚はもちろん、半妖に戻り体も全快したはずの犬夜叉もその精神的疲労から参ってしまっているようだ。だが何はともわれ自体は解決した。記憶通りならこれで人面花にされてしまった人間たちも成仏したはず。犬夜叉がそう安堵していると


「犬夜叉、元に戻るんならそう言ってよ、心中するつもりなのかと思ったじゃないか。」


珊瑚はどこか怒りながら犬夜叉にそう告げる。上手く半妖に戻れたからよかったようなものの、タイミング的にはギリギリだった。事前にそう言ってくれればもっとやりようもあったかもしれないという珊瑚のささやかな愚痴だった。


「う、うるせえな、言う暇がなかったんだよ!」


そんな珊瑚の愚痴を聞きながら犬夜叉はそう言い放つ。だがそれは真っ赤な嘘。犬夜叉自身、朝が来ていることには全く気付いていなかった。あの時動いたのも反射的なもの。半妖に戻れて助かったのも偶然の産物だった。だが今更そんなことを言うわけにもいかず、犬夜叉はそのまま黙りこんでしまう。そんな犬夜叉の姿を不思議に思いながらもその場を立ち上がり、


「とにかく里に帰ろうか。犬夜叉も疲れただろう?」


そのまま里に向かって歩き始めようとする。だがいつまでたっても犬夜叉はその場を動こうとはしなかった。一体どうしたのだろうか。半妖になって怪我は治ったと言っていたがやはりどこか悪いところが残っていたのかと珊瑚が心配しかけたその時、



突然犬夜叉が自分の前で屈みこんでしまう。その背中を向けて。そのことに珊瑚が呆気にとられていると



「……さっさと乗れ。足、怪我してんだろ。」


どこか恥ずかしさを隠しながら犬夜叉はそう珊瑚に告げる。その言葉と行動の意味を悟り、珊瑚は驚きの表情を見せる。


珊瑚を背中に乗せて走ること。


それが少年がこの二日間、珊瑚に言おうとしても言えないでいたこと。これまで珊瑚はずっと雲母に乗り移動をしていたためその機会がなかった。だが今回久しぶりの二人きりの依頼ということもあり、それを切り出そうとしながらも結局、今の今までできずにいたのだった。


珊瑚もそのことに気づき、どこか笑いをこらえながらも



「……ああ、宜しく頼むよ。」


そう言いながら犬夜叉の背中に乗る。その見た目とは裏腹な大きな背中を感じながらも珊瑚はその身を犬夜叉に委ねる。


「行くぞ、飛ばすからな、しっかり捕まってろよ!」


少年は気恥ずかしさを誤魔化すようにそう宣言した後、凄まじい速度で山を下りていく。かつて記憶の中で犬夜叉はかごめを背中に乗せて走りまわっていた。その意味を実感しながら少年は帰って行く。


自分の仲間たちが待つその場所へ――――――


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