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No.25752の一覧
[0] 犬夜叉(憑依) 【完結】 【桔梗編 第六話投稿】[闘牙王](2012/02/27 00:45)
[1] 第一話 「CHANGE THE WORLD」[闘牙王](2011/04/20 21:03)
[2] 第二話 「予定調和」[闘牙王](2011/04/20 21:08)
[3] 第三話 「すれ違い」[闘牙王](2011/04/20 21:18)
[4] 第四話 「涙」[闘牙王](2011/04/20 21:28)
[5] 第五話 「二人の日常」[闘牙王](2011/04/20 21:36)
[6] 第六話 「異変」[闘牙王](2011/04/20 21:47)
[7] 第七話 「約束」[闘牙王](2011/04/20 21:53)
[8] 第八話 「予想外」[闘牙王](2011/04/20 21:57)
[9] 第九話 「真の使い手」[闘牙王](2011/04/20 22:02)
[10] 第十話 「守るもの」[闘牙王](2011/04/20 22:07)
[11] 第十一話 「再会」[闘牙王](2011/04/20 22:15)
[12] 第十二話 「出発」[闘牙王](2011/04/20 22:25)
[13] 第十三話 「想い」[闘牙王](2011/04/28 13:04)
[14] 第十四話 「半妖」[闘牙王](2011/04/20 22:48)
[15] 第十五話 「桔梗」[闘牙王](2011/04/20 22:56)
[16] 第十六話 「My will」[闘牙王](2011/04/20 23:08)
[17] 第十七話 「戸惑い」[闘牙王](2011/04/20 23:17)
[18] 第十八話 「珊瑚」[闘牙王](2011/04/20 23:22)
[19] 第十九話 「奈落」[闘牙王](2011/03/21 18:13)
[20] 第二十話 「焦り」[闘牙王](2011/03/25 22:45)
[21] 第二十一話 「心」[闘牙王](2011/03/29 22:46)
[22] 第二十二話 「魂」[闘牙王](2011/04/05 20:09)
[23] 第二十三話 「弥勒」[闘牙王](2011/04/13 00:11)
[24] 第二十四話 「人と妖怪」[闘牙王](2011/04/18 14:36)
[25] 第二十五話 「悪夢」[闘牙王](2011/04/20 03:18)
[26] 第二十六話 「仲間」[闘牙王](2011/04/28 05:21)
[27] 第二十七話 「師弟」[闘牙王](2011/04/30 11:32)
[28] 第二十八話 「Dearest」[闘牙王](2011/05/01 01:35)
[29] 第二十九話 「告白」[闘牙王](2011/05/04 06:22)
[30] 第三十話 「冥道」[闘牙王](2011/05/08 02:33)
[31] 第三十一話 「光」[闘牙王](2011/05/21 23:14)
[32] 第三十二話 「竜骨精」[闘牙王](2011/05/24 18:18)
[33] 第三十三話 「りん」[闘牙王](2011/05/31 01:33)
[34] 第三十四話 「決戦」[闘牙王](2011/06/01 00:52)
[35] 第三十五話 「殺生丸」[闘牙王](2011/06/02 12:13)
[36] 第三十六話 「かごめ」[闘牙王](2011/06/10 19:21)
[37] 第三十七話 「犬夜叉」[闘牙王](2011/06/15 18:22)
[38] 第三十八話 「君がいる未来」[闘牙王](2011/06/15 11:42)
[39] 最終話 「闘牙」[闘牙王](2011/06/15 05:46)
[40] あとがき[闘牙王](2011/06/15 05:10)
[41] 後日談 「遠い道の先で」 前編[闘牙王](2011/11/20 11:33)
[42] 後日談 「遠い道の先で」 後編[闘牙王](2011/11/22 02:24)
[43] 珊瑚編 第一話 「退治屋」[闘牙王](2011/11/28 09:28)
[44] 珊瑚編 第二話 「半妖」[闘牙王](2011/11/28 22:29)
[45] 珊瑚編 第三話 「兆し」[闘牙王](2011/11/29 01:13)
[46] 珊瑚編 第四話 「改変」[闘牙王](2011/12/02 21:48)
[47] 珊瑚編 第五話 「運命」[闘牙王](2011/12/05 01:41)
[48] 珊瑚編 第六話 「理由」[闘牙王](2011/12/07 02:04)
[49] 珊瑚編 第七話 「安堵」[闘牙王](2011/12/13 23:44)
[50] 珊瑚編 第八話 「仲間」[闘牙王](2011/12/16 02:41)
[51] 珊瑚編 第九話 「日常」[闘牙王](2011/12/16 19:20)
[52] 珊瑚編 第十話 「失念」[闘牙王](2011/12/21 02:12)
[53] 珊瑚編 第十一話 「背中」[闘牙王](2011/12/21 23:12)
[54] 珊瑚編 第十二話 「予感」[闘牙王](2011/12/23 00:51)
[55] 珊瑚編 第十三話 「苦悶」[闘牙王](2012/01/11 13:08)
[56] 珊瑚編 第十四話 「鉄砕牙」[闘牙王](2012/01/13 23:14)
[57] 珊瑚編 第十五話 「望み」[闘牙王](2012/01/13 16:22)
[58] 珊瑚編 第十六話 「再会」[闘牙王](2012/01/14 03:32)
[59] 珊瑚編 第十七話 「追憶」[闘牙王](2012/01/16 02:39)
[60] 珊瑚編 第十八話 「強さ」[闘牙王](2012/01/16 22:47)
[61] 桔梗編 第一話 「鬼」[闘牙王](2012/02/20 20:50)
[62] 桔梗編 第二話 「契約」[闘牙王](2012/02/20 23:29)
[63] 桔梗編 第三話 「堕落」[闘牙王](2012/02/22 22:33)
[64] 桔梗編 第四話 「死闘」[闘牙王](2012/02/24 13:19)
[65] 桔梗編 第五話 「鎮魂」[闘牙王](2012/02/25 00:02)
[66] 桔梗編 第六話 「愛憎」[闘牙王](2012/02/27 09:42)
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[25752] 珊瑚編 第九話 「日常」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/16 19:20
「ただいま。」
「今戻ったぞ!」


珊瑚と七宝の声が里の入り口から村人たちに向かって響き渡る。村人たちは驚きながらその声の方向に向かって目を向ける。そこには四人と一匹の一団の姿があった。珊瑚と七宝はそのまま村人に向かって近づきながら依頼の達成と帰還の報告をしていく。特に七宝は久しぶりの帰郷にはしゃいでしまっているようだ。珊瑚も村人たちもそんな七宝の様子を微笑ましく見つめている。だが


「おい、七宝いつまでも騒いでんじゃねえ。里に入れねえじゃねえか。」


そんな七宝に向かって犬夜叉はどこか気だるそうに愚痴をこぼす。やっと依頼も終わり久しぶりにゆっくりできると考えていたにも関わらずいつまでも寄り道をしている七宝に思うところがあったらしい。


「いいではないか。おらたちはちゃんと依頼をこなしてきたんじゃからちゃんと報告しなければな!」


だがそんな犬夜叉の言葉など耳に入っていないかように七宝はいつもの調子で騒ぎたてている。その光景に犬夜叉は溜息を漏らすしかない。そんな中


「兄上、七宝の面倒は僕が見てるから姉上と一緒にお頭のところに行っててください。」


琥珀が苦笑いしながらも犬夜叉にそう提案する。それはある意味でいつも通りの琥珀の役目。依頼の道中もだが七宝の面倒を見ることに関しては琥珀が最も手慣れていると言っていいだろう。ただ一緒に振り回されているところがあるのも否めないが。


「分かった、後は任せるぜ。珊瑚、さっさと行こうぜ。」

「ああ。」


犬夜叉はそのまま珊瑚と共にお頭がいる屋敷に向かって歩き始める。それに続くように子猫姿の雲母が珊瑚の肩に乗ってくる。



それが犬夜叉たちのいつもの日常の光景だった―――――





「御苦労だったな、犬夜叉。依頼の方は問題なかったのか?」

「ああ、なんてことない依頼だったぜ。」


里の中で一番大きな屋敷の中、お頭の部屋で犬夜叉とお頭は対面しながらそんなやり取りをしている。そこには珊瑚の姿はない。先程依頼の報告を終えた後、犬夜叉も珊瑚と共に部屋を出ていこうとしたのだがお頭に呼び止められ、今の状況に至っていた。


「で、一体何の用があるんだ、親父?」


犬夜叉はどこか真剣な雰囲気を纏いながらそう単刀直入に切り出す。珊瑚を出払わせてまで自分とする話。恐らくは何か重要な話があると悟り犬夜叉は緊張した面持ちを見せている。だがそんな犬夜叉の姿をどこか感慨深げにお頭はじっと見つめ続けていた。その姿に犬夜叉は戸惑うことしかできない。そんな中


「いや、やはりその呼ばれ方は何か心に来るものがあると思ってな。」


お頭はどこか楽しそうな笑みを浮かべながらそんなこと口にする。同時に犬夜叉はまるで空気が抜けてしまったかのように肩を落としてしまう。まるで肩すかしを食らってしまったかのような犬夜叉の姿をお頭は満足気に見ながらも上機嫌になってしまっていた。



「で……それだけのために俺を引きとめたのか?」

「ははっ、そんな顔をするな。ちょっとした冗談だ。」


どこか冷めたジト目で自分を睨めつけている犬夜叉をからかいながらお頭は笑い続けている。そんなある意味いつも通りのお頭の姿に犬夜叉は溜息をつくことしかできない。


犬夜叉と七宝が妖怪退治屋の仲間になってから既にひと月以上が過ぎようとしていた。初めはそのことに戸惑い、やりづらさを感じることも多かったのだが流石に慣れてきたこともあり、犬夜叉は何とか里に馴染み始めているところだった。そんな中でも特に驚いたのが目の前の存在、お頭の姿だった。


初め、犬夜叉はお頭は厳格な人物なのだとばかり思っていた。特に戦国時代であるということ、それに対する少年の先入観からもそうなのだろうと考えていたのだがそれが大きな勘違いであったことを少年は思い知る。お頭は良く言えば豪快な人物、悪く言えば冗談好きな唯の親父だった。もちろんいつもそうなわけではない。戦闘の時や退治屋の頭としての場ではそれに相応しい風格と態度を見せている。どうやら公私を切り替えているらしい。そのギャップに最初は戸惑うことしかできなかったが流石に慣れてきたこともあり、今では気楽に話すことができる間柄になっている。本当なら敬語を使わなければならない目上の存在なのだが今更自分の態度を変えることもできず、仕方なく普段の態度で接している。『親父』という呼び方はお頭の提案によるもの。


初めは珊瑚たち同様『お頭』と呼ぼうとしていたのだがお頭の提案によってそれを変えられてしまった。何でもそう呼ばれてみたかったらしい。お頭は娘と息子である珊瑚と琥珀からは『お頭』もしくは『父上』と呼ばれている。その呼ばれ方も決して嫌なわけではないのだがやはり堅苦しいところがあったらしい。珊瑚はともかく息子である琥珀にそう呼んでほしかったらしいのだがその性格からそんな呼び方はしてもらえないであろうことは分かり切っていたためあきらめるしかなかった。だがそこに犬夜叉と言う存在が現れる。その結果が今の犬夜叉の言葉だった。そして琥珀の『兄上』という呼び方もお頭の仕業であるのは言うまでもなかった………



「それにしてもお前達が里から来てからもうひと月か。珊瑚とは上手くやっているのか?」

「………ああ、よくどつき回されてるよ。」


お頭の言葉にどこかげんなりした姿を見せながら犬夜叉は目の前に置かれたお茶を口に運ぶ。その脳裏にはこのひと月の珊瑚との付き合いが蘇っていた。仲間になった当初は里の復興と奈落への対策のために二週間ほどはほぼ里に缶詰の生活となっていた。それが何とか形になったところから犬夜叉の退治屋としての生活が始まった。もっとも退治屋に関しては犬夜叉は全くの素人。そのためその補助と言う名の見張りとして珊瑚が依頼に関しては同行する形になった。それ自体は構わない。退治屋はもちろん、少年はこの時代の常識に関しては何も知らないと言っても過言ではなかったからだ。


だが自分が何かミスをしたり、失言する度に飛来骨で殴るのだけは勘弁してほしい。珊瑚本人としてはそれほど気にしてはいないようだがやられる方からすればたまったものではない。いくら半妖だと言っても痛いものは痛い。それを何度も抗議しているのだが現状は全く変わっていなかった。


そんな落ち込んでいる犬夜叉の姿にお頭は笑い続けている。どうやら上手くやっているらしいことにお頭は内心安堵する。初めはその態度から犬夜叉が上手くやっていけるかどうか不安もあったのだが杞憂だったようだ。まだ珊瑚や自分以外の里の者たちとは少し距離があるようだがそれも時間の問題だろう。犬夜叉自身は気づいていないようだがその物腰が丸くなってきている。それは珊瑚たちの影響はあったのだろうがそれ以上にそれが少年の本来の姿なのだろう。お頭は犬夜叉の他人を寄せ付けない態度がどこか無理をしていることには気づいていた。恐らくそれは少年なりの処世術だったのだろう。まだその堅さが残ってはいるがこの調子なら心配はないはず。お頭はそのままお茶を飲んでいる犬夜叉に向かって



「それで……珊瑚とはどこまで進んだのだ?」


そんなことを真剣な様子で問いかけてきた。


「なっ……何だよ、いきなり!?」


突然のお頭の問いに犬夜叉は思わず飲んでいたお茶をむせ込んでしまう。何とか答えようとするも上手く呼吸ができないのかその場にうずくまってしまう。


「何だ、まだ手を出しておらんのか。見た目と違って奥手だな。」


犬夜叉の様子からまだ何も進展していないことを見て取ったお頭はそんな感想を漏らす。それは冗談でも何でもないお頭の本音。珊瑚は今年でもう十六になる。年齢でいえばもう嫁いでいてもおかしくない。だが珊瑚にはまだ男っ気が全くない。それが琥珀のことに次ぐお頭の心配ごとだった。


だがそれはある意味仕方がないこと。それは珊瑚の強さ。里一番の手練である珊瑚には里の男たちもなかなか手が出しにくいらしい。それ以上に珊瑚自身がそれに興味を示していないのが一番の理由だったのだが。そう言った意味では目の前にいる犬夜叉は貴重な存在と言える。半妖とはいえ珊瑚の口から男の話が出てくることなどこれまでなかったこと。恐らく珊瑚本人は気づいていないのかもしれないが脈はあるのではないかとお頭はずっと気にしていたのだった。



「あ、あんたな………」


犬夜叉はそんなお頭の言葉に呆れながらも何とか落ち着きを取り戻す。いくら冗談だとしても言いすぎだ。仮にも自分の娘に対する言葉とは思えない物。もっとも恋愛観も倫理観も現代と戦国時代とでは大きく異なるのかもしれないが。しかしそれがお頭自身の価値観というのが恐らくは真相だろう。加えて少年は珊瑚をそういう対象としては全く見ていなかった。


それは犬夜叉の記憶の影響。それによって少年は珊瑚のことは仲間だと強く意識していた。確かに女性でありそのことを気にすることが全くないと言えば嘘になるが珊瑚には弥勒という相手がいる。そして珊瑚も自分をそういう対象として見ていないのはこれまでの付き合いからも明らか。何よりももし直接手を出そうものなら飛来骨の一撃が襲いかかってくるのは分かり切っている。自分はまだ死ぬ気はないためそんなことは絶対御免だった。



「……まあそれはともかく、頼まれていた奈落の居場所についてはやはり掴むことはできておらん。どこかに身を隠しているのだろう。」


犬夜叉が落ち着いてきたのを確認した後、退治屋としての顔に戻りながらお頭はそう犬夜叉に告げる。それは奈落に関すること。それに対する備えを自分たちは進めている。里の守りについては既に完成している。それができたからこそ犬夜叉たちは里の外で退治屋の依頼をこなせるようになっていた。だが肝心の奈落の居場所については分からずじまい。恐らくは結界を使って身を隠しているのだろう。それは力をつけるため。今度奈落が姿を現すのは自分の強さを上回ったと判断した時のはず。ならばそれを超える強さを自分は身につけるしかない。犬夜叉はどこか決意を満ちた目をしながら自らの拳に力を込める。



「……何か分かればすぐに知らせる。犬夜叉、お前もあまり焦り過ぎんようにな。」


そんな犬夜叉の肩を軽く叩いた後、お頭はそのまま屋敷の奥に姿を消していってしまう。その言葉と姿はまるで父親のそれ。そこには半妖である自分に対する差別も忌避も全くない。それを犬夜叉はこのひと月ずっと感じていた。それはお頭に限った話ではない。里の者たちにもそれはいえる。もちろんそれが全くないというわけではない。だがそれはある意味当然のもの。自分も現代で外人と共に過ごすことになれば少なからず意識してしまうはず。それと同じ程度の物。その事実に犬夜叉は驚きを隠せなかった。


それは退治屋の里だからこそ。妖怪と言う存在を誰よりも理解している里の者たちだからこそのもの。もしかしたら自分はここで受け入れてもらえるのではないのか。そんな甘い誘惑が少年を襲う。だが少年はそれに身をゆだねることはできなかった。また。またあの時の様なことが起きるかもしれない。その恐怖が、絶望が頭から焼き付いて離れない。少年はそれを振り払うかのように屋敷から離れていくのだった―――――





日が傾き、辺りが暗くなり始めた頃、お頭の屋敷ではいつものように夕食が開かれていた。そこには珊瑚、琥珀はもちろん犬夜叉と七宝の姿もある。犬夜叉と七宝は形式上は珊瑚たちの家のお世話になっており、そこを拠点している。そのため寝食に関しても同様だった。


「犬夜叉、それ食べないんならおらがもらうぞ!」

「余計な御世話だ。他人のもんまで食おうとするんじゃねえ。」


いつものように騒ぎ立てる七宝を諫めながらも犬夜叉は自分の料理に箸を進めていく。その光景をお頭は満足そうに、そして琥珀は楽しそう見ながらも食事を進めていく。そんな皆の姿を見ながらも珊瑚も夕食を口にしていく。それがここひと月ほどの珊瑚たちの食事の風景だった。だが最初からこうだったわけではない。初めは犬夜叉が自分たちと一緒に食事をすることに関して難色を示していたからだ。だが七宝の強引さに負けたのか食事に関しては一緒に取るようになっていた。珊瑚は黙々と食事を進めている犬夜叉を見つめながら思い返す。それはこれまでの犬夜叉との関わり。


最初の二週間ほどは里の復興が最優先であったため妖怪退治については後回しにせざるを得なかった。それ自体に犬夜叉は不満があったらしい。犬夜叉からすれば強くなるために余計なことをしている暇はないということだったのだろう。だが働いている里の者たちを見ている中で何か感じるものがあったのか犬夜叉はその仕事を手伝うようになる。それは主に家を立て直すために必要な木材を森から取ってくる作業。自分たちにとっては重労働のそれは半妖の犬夜叉にとっては大したものではなかったらしい。そのおかげもあり、村の復興は想像よりもあっという間に成し遂げることができた。その中で里の者たちも犬夜叉がどんな人物であるか、どんな付き合い方をすればいいのか掴めたらしくそう言った意味でもそれは大きな成果があったと言える。


そして準備が整ったことで退治屋としての依頼をこなす日々が始まる。しかしそれも一筋縄ではいかなかった。それは犬夜叉がまるで世間のこと、常識を全く知らなかったことが原因。里にいた頃から薄々感じていたことだったが犬夜叉は一般的な常識や知識を全く持ち合わせていなかったらしい。確かに半妖としてずっと人にかかわらずに生きてきたのだとすれば分からなくもないがそれにしてもその無知さは異常だった。お金の単位、数え方、旅の仕方など数えればきりがないほど。


特に驚いていたのが若い夫婦たちの姿。それは犬夜叉と歳がほとんど変わらない者達。そんな者たちが結婚し、子を育てている光景に犬夜叉は驚きを隠せずにいた。どうやら犬夜叉は人間はもっと歳を取ってから結婚するものだと思っていたらしい。そのことを珊瑚が説明するも、犬夜叉はそれに関するいらないことを珊瑚に口走ってしまったため地面に倒れ伏すことになってしまったのだが。そんな犬夜叉の面倒を見ながらの依頼をこなすのは一苦労。いや依頼自体は犬夜叉もいるため何の問題もないのだがその道中が一番苦労することになるとは珊瑚も思っていなかった。まるで弟がもう一人増えてしまったかのよう。もっともそれは琥珀に失礼かもしれない。珊瑚はそのまま犬夜叉の隣に座っている琥珀に目を向ける。


恐らく犬夜叉が来たことで一番変わったのは琥珀だろう。琥珀は今、犬夜叉同様、自分の依頼についてくるようになっていた。それはこれまでの琥珀からは考えられない行動。先の城での戦闘。それによって琥珀はもう戦うことができなくなってしまうのではないか、そう珊瑚はもちろん、お頭もそう危惧していた。そうなってもおかしくない程の出来事だった。だがそれは杞憂だった。それどころかそれが琥珀の心境に何か大きな変化をもたらしたらしい。犬夜叉が里に来てからしばらくして琥珀が時々姿を消すことが見られるようになった。それを気にした珊瑚がその跡を追った先である光景を目にする。


それは琥珀が鎖鎌を手に修行を積んでいる光景。だがそれだけではない。その先には犬夜叉の姿もある。どうやら琥珀の修行相手をしているらしい。琥珀がそれを犬夜叉に頼んだであろうこともだがそれ以上に犬夜叉がそれに応じていることの方が驚きだった。そしてその表情は真剣そのものであり、また的確に戦い方を琥珀に教え込んでいる。その姿は普段の犬夜叉からは考えられないようなもの。その変わりようはそう、まるで戦闘中のよう。一切の甘さも油断も感じさせないような過酷なもの。一緒に旅をするようになって実感したが犬夜叉は戦闘中とそうでない自分を切り替えているらしい。だがそれ自体は珍しいことではない。その証拠に自分もお頭も戦闘時には思考を切り替えるようにしている。だが犬夜叉のそれはそれとは明らかに一線を画している。そのことについて何度か聞いたことがあるがはぐらかされてしまっている。唯一聞いたのがそれが闘い方を教えてくれた師の教えらしいということだけ。それ以外にも気になっていることを何度か尋ねてはいるものの全てはぐらかされてしまっているのが珊瑚の今の悩みの種だった。


だが琥珀に関しては犬夜叉には感謝するべきだろう。琥珀もまるで兄の様に犬夜叉を慕っており、『兄上』という呼び方からもそれは明らか。その呼び方のきっかけは父上だったようだが父上が言わなくともきっとそう呼ばれていたであろうことは想像がつく。もっともその呼び方に慣れないのか犬夜叉は複雑な表情を浮かべていたが。そんなことを考えていると



「じゃあな、俺はもう行くぜ。」


そう言い残した後、犬夜叉はその場を後にし、屋敷から出ていってしまう。だがそれを制止する者は誰もいない。それはそれがいつもの光景だったからに他ならない。



「………やっぱり寝込みを見られたくないのかな?」


食事に関しては一緒に取るようになったものの犬夜叉は寝るときだけは屋敷から出ていき、森で過ごしている。それを何度か止めようとしたが犬夜叉はそれを頑として受け入れなかった。恐らく睡眠という一番無防備な姿を自分たちにさらしたくないのがその理由なのだろう。これまで一人で生きてきた犬夜叉にとってはそれは当たり前なのかもしれない。だが


「それは違うぞ、珊瑚!」


そんな珊瑚の胸中をまるで見抜くかのようなタイミングで七宝が声を上げる。それはまるで自分が何か珊瑚の知らないことを知っているかのような優越感を感じさせる姿。


「………?どういうこと、七宝?」


珊瑚は首をかしげながら聞き返す。一体何が違うというのだろうか。七宝はその胸を張り、威張り散らしながら



「犬夜叉は珊瑚と一緒に寝るのが恥ずかしいから森の中で寝とるんじゃ!」


そう大声で宣言する。その言葉に珊瑚はもちろんお頭と琥珀も思わず固まる。まるで時間が止まってしまったかのよう。


だがすぐにその場は笑いに包まれてしまう。特にお頭は笑いのツボにはまったのか笑いが抑えきれないようだ。琥珀も笑ってはいけないと思いながらも堪え切れずにいる。だがまるで自分の言葉を信じてもらえていない七宝は機嫌を悪くしながらそれに反論していく。だが


「そんな理由なわけないさ。それにあたしはそんなこと気にしてないよ。犬夜叉にそんな根性があるわけないし。」


珊瑚は笑いながらそう告げる。それは嘘偽りない本音。それを前に七宝はそれ以上何も言えなくなってしまう。しかし七宝の言葉。それは間違いない事実だった。それは犬夜叉とずっと一緒にいた七宝だからこそわかること。


少年は半妖の体になってしまったとはいえまだキスすらしたことのない十四歳。いくら仲間とはいえ自分より年上の女性と同じ屋根の下で眠ることには抵抗があったのが本当の理由。ある意味純粋無垢であるが故の行動。だがそうとは知らず珊瑚たちは話に花を咲かせている。故に気づかなかった。


その言葉が犬夜叉の耳に届いていたことを―――――






月明かりだけが光を放っている夜の里の中、うごめいている影の姿がある。それはまるで忍者の様な動きである家に向かって行く。それは珊瑚たちのいる屋敷だった。



(あいつら……勝手なことばかり言いやがって……!)


影の正体、犬夜叉は心の中で悪態をつきながらも静かに屋敷に近づいていく。その目的はもちろん珊瑚が寝ているであろう部屋。犬夜叉はそこを目指して一直線に向かって行く。


それは世間一般で言う夜這いと呼ばれる行為。あそこまで馬鹿にされては黙ってはいられない。そんな少年の小さな意地の様なものによるもの。


もっとも本当に襲う気などさらさらない。散々自分を馬鹿にしてくれた寝ている珊瑚を驚かせてやる。そんな子供のいたずらの様な理由がその根底にはあった。だがその部屋に近づいていくごとに少年は少しずつ我に返って行く。


激情に任せてここまでやってきたものの自分がしようとしていることはもしかして犯罪なのではないか。そんな不安と奇妙な緊張感が少年を包み込んでいく。十六歳とはいえ歳上の女性が寝ている部屋に侵入しようとしているという事実に少年の体はどこか緊張し、汗ばんでいく。


だがここまできた以上何もせずに帰るのはあり得ない。少年はそう自分に言い聞かせたままその部屋の前まで辿り着く。だがその胸中にはすでに自分の目的が抜け落ちてしまっていた。少年は知らず息を飲みながら部屋に入り込んでいく。


そしてそこには小さな寝息を立てながら布団の中で眠っている珊瑚の姿があった。


少年はそんな珊瑚の姿に一瞬、どきりとしながらもそろりそろりと近づいていく。どうやら深く寝入ってしまっているらしい。少年は自分がいけないことをしているという感覚に囚われながらもその顔が見える位置まで近づいていく。そこには



静かな寝息を立てている十六歳の少女の姿があった。


そんないつもとは違う珊瑚の姿に少年は毒気を抜かれてしまう。そうさせてしまうほどの何かがその姿にはあった。先程まであった怒りや浅ましい感情もとっくに霧散してしまった。



(ふん………そうしてれば美人なのによ……)


そんな珊瑚に聞かれていれば間違いなく殴り飛ばされるであろうことを考えながらも少年はそのままその場を後にする。そして気づく。


自分は珊瑚を見返すことしか頭になかったためそれを行った後自分がどうなるかを失念していた。もし自分が予定通りのことをしていればどうなっていたか。そのことに先程までとは違う汗を背中に流しながら少年は森に戻って行った―――――









そしてそのしばらく後、横になっていた珊瑚は静かに目を開く。その視線の先は先程出ていった犬夜叉の跡を追っているかのよう。



「…………やっぱり根性無しじゃないか。」


そんな言葉を溜息と共に漏らした後、珊瑚は再び布団にもぐりこみながら眠りに着く。だがその姿はどこか楽しげでもあった。




それがある日の犬夜叉、珊瑚の日常だった――――――


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