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No.25752の一覧
[0] 犬夜叉(憑依) 【完結】 【桔梗編 第六話投稿】[闘牙王](2012/02/27 00:45)
[1] 第一話 「CHANGE THE WORLD」[闘牙王](2011/04/20 21:03)
[2] 第二話 「予定調和」[闘牙王](2011/04/20 21:08)
[3] 第三話 「すれ違い」[闘牙王](2011/04/20 21:18)
[4] 第四話 「涙」[闘牙王](2011/04/20 21:28)
[5] 第五話 「二人の日常」[闘牙王](2011/04/20 21:36)
[6] 第六話 「異変」[闘牙王](2011/04/20 21:47)
[7] 第七話 「約束」[闘牙王](2011/04/20 21:53)
[8] 第八話 「予想外」[闘牙王](2011/04/20 21:57)
[9] 第九話 「真の使い手」[闘牙王](2011/04/20 22:02)
[10] 第十話 「守るもの」[闘牙王](2011/04/20 22:07)
[11] 第十一話 「再会」[闘牙王](2011/04/20 22:15)
[12] 第十二話 「出発」[闘牙王](2011/04/20 22:25)
[13] 第十三話 「想い」[闘牙王](2011/04/28 13:04)
[14] 第十四話 「半妖」[闘牙王](2011/04/20 22:48)
[15] 第十五話 「桔梗」[闘牙王](2011/04/20 22:56)
[16] 第十六話 「My will」[闘牙王](2011/04/20 23:08)
[17] 第十七話 「戸惑い」[闘牙王](2011/04/20 23:17)
[18] 第十八話 「珊瑚」[闘牙王](2011/04/20 23:22)
[19] 第十九話 「奈落」[闘牙王](2011/03/21 18:13)
[20] 第二十話 「焦り」[闘牙王](2011/03/25 22:45)
[21] 第二十一話 「心」[闘牙王](2011/03/29 22:46)
[22] 第二十二話 「魂」[闘牙王](2011/04/05 20:09)
[23] 第二十三話 「弥勒」[闘牙王](2011/04/13 00:11)
[24] 第二十四話 「人と妖怪」[闘牙王](2011/04/18 14:36)
[25] 第二十五話 「悪夢」[闘牙王](2011/04/20 03:18)
[26] 第二十六話 「仲間」[闘牙王](2011/04/28 05:21)
[27] 第二十七話 「師弟」[闘牙王](2011/04/30 11:32)
[28] 第二十八話 「Dearest」[闘牙王](2011/05/01 01:35)
[29] 第二十九話 「告白」[闘牙王](2011/05/04 06:22)
[30] 第三十話 「冥道」[闘牙王](2011/05/08 02:33)
[31] 第三十一話 「光」[闘牙王](2011/05/21 23:14)
[32] 第三十二話 「竜骨精」[闘牙王](2011/05/24 18:18)
[33] 第三十三話 「りん」[闘牙王](2011/05/31 01:33)
[34] 第三十四話 「決戦」[闘牙王](2011/06/01 00:52)
[35] 第三十五話 「殺生丸」[闘牙王](2011/06/02 12:13)
[36] 第三十六話 「かごめ」[闘牙王](2011/06/10 19:21)
[37] 第三十七話 「犬夜叉」[闘牙王](2011/06/15 18:22)
[38] 第三十八話 「君がいる未来」[闘牙王](2011/06/15 11:42)
[39] 最終話 「闘牙」[闘牙王](2011/06/15 05:46)
[40] あとがき[闘牙王](2011/06/15 05:10)
[41] 後日談 「遠い道の先で」 前編[闘牙王](2011/11/20 11:33)
[42] 後日談 「遠い道の先で」 後編[闘牙王](2011/11/22 02:24)
[43] 珊瑚編 第一話 「退治屋」[闘牙王](2011/11/28 09:28)
[44] 珊瑚編 第二話 「半妖」[闘牙王](2011/11/28 22:29)
[45] 珊瑚編 第三話 「兆し」[闘牙王](2011/11/29 01:13)
[46] 珊瑚編 第四話 「改変」[闘牙王](2011/12/02 21:48)
[47] 珊瑚編 第五話 「運命」[闘牙王](2011/12/05 01:41)
[48] 珊瑚編 第六話 「理由」[闘牙王](2011/12/07 02:04)
[49] 珊瑚編 第七話 「安堵」[闘牙王](2011/12/13 23:44)
[50] 珊瑚編 第八話 「仲間」[闘牙王](2011/12/16 02:41)
[51] 珊瑚編 第九話 「日常」[闘牙王](2011/12/16 19:20)
[52] 珊瑚編 第十話 「失念」[闘牙王](2011/12/21 02:12)
[53] 珊瑚編 第十一話 「背中」[闘牙王](2011/12/21 23:12)
[54] 珊瑚編 第十二話 「予感」[闘牙王](2011/12/23 00:51)
[55] 珊瑚編 第十三話 「苦悶」[闘牙王](2012/01/11 13:08)
[56] 珊瑚編 第十四話 「鉄砕牙」[闘牙王](2012/01/13 23:14)
[57] 珊瑚編 第十五話 「望み」[闘牙王](2012/01/13 16:22)
[58] 珊瑚編 第十六話 「再会」[闘牙王](2012/01/14 03:32)
[59] 珊瑚編 第十七話 「追憶」[闘牙王](2012/01/16 02:39)
[60] 珊瑚編 第十八話 「強さ」[闘牙王](2012/01/16 22:47)
[61] 桔梗編 第一話 「鬼」[闘牙王](2012/02/20 20:50)
[62] 桔梗編 第二話 「契約」[闘牙王](2012/02/20 23:29)
[63] 桔梗編 第三話 「堕落」[闘牙王](2012/02/22 22:33)
[64] 桔梗編 第四話 「死闘」[闘牙王](2012/02/24 13:19)
[65] 桔梗編 第五話 「鎮魂」[闘牙王](2012/02/25 00:02)
[66] 桔梗編 第六話 「愛憎」[闘牙王](2012/02/27 09:42)
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[25752] 珊瑚編 第六話 「理由」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/07 02:04
薄暗い部屋の中で一人の男が座り込んだままどこかに目を向けている。その姿は長髪の若い男、城主の息子のもの。だがそれは仮の姿。奈落。それがその男の正体。それはこの城と仮の姿、身分を手に入れるための策略だった。奈落はどこか心ここに非ずと言った様子で何かに意識を向けている。その眼にはここではない場所が映し出されていた。そこはこの城の中。そしてそこにはある一つの人影がある。銀の長髪、赤い着物そして犬の耳。それは


(犬夜叉……だと……?)


間違いない。それは間違いなく五十年前に封印されたはずの半妖犬夜叉。自分がそれを見間違えるはずがない。何故なら犬夜叉を陥れたのは他でもない自分自身なのだから。


五十年前、奈落は四魂の玉を持っていた桔梗と犬夜叉を憎しみ合わせ、四魂の玉を穢れさせようとした。そしてその策略によって犬夜叉は桔梗に封印された。それは解けるはずのない封印。だが自分の目に映っているのは間違いなく犬夜叉だ。だが何故こんなところに。封印が何らかの理由で解けてしまったのだとすれば犬夜叉が復活しているのには説明がつく。だがこの状況は一体何なのか。


自分は再び現世に復活した四魂の玉のカケラを集めるために行動している。そして今回の策略もそのためのもの。風の噂で妖怪退治屋の里に四魂のカケラがあるという情報を奈落は掴んだ。妖怪退治屋の里ならば退治した妖怪から四魂のカケラを手に入れていたとしても不思議はない。そして間違いなく四魂のカケラが里に存在していることを奈落は確認する。だが相手は妖怪退治を生業としている者たち。正攻法で挑むにはリスクが大きい。ならばそれを陥れる罠におびき寄せることを計画する。


それこそが奈落の強さであり恐ろしさ。奈落は嘘の依頼によって退治屋たちを分断、戦力を分散させ、手薄になった里を妖怪たちによって襲う手段に出る。幸いにも依頼の方には里の手練が出てくることになっている。ならば里の方は造作もなく壊滅させることができるだろう。ならば自分はもう一つの方に手を尽くすだけ。自分の手下である蜘蛛妖怪を使い退治屋たちを同士討ちさせる。いくら妖怪退治に優れている退治屋とはいえ、自分の仲間が突如襲いかかってくればひとたまりもなく、全滅させることは容易い。


だがその退治屋たちの実力に奈落は感心する。特にあの大きな武器を使う女。その強さは並はずれている。このまま唯死なせるのは惜しい。奈落はそのまま自らの手にある四魂のカケラに目を向ける。それは奈落の邪気によって黒く染まっている。奈落は既にいくつかの四魂のカケラをその手に納めていた。自分はまだ完全な状態には至っていない。それに至るには更なる四魂のカケラが、完成された四魂の玉が何よりも必要不可欠。ならば更なる手駒が欲しい。四魂のカケラは死者を蘇らせることすら可能なもの。ならばあの女を殺した後、四魂のカケラを使い蘇らせ、操ればいい。奈落はそう判断し、珊瑚たちの様子を眺め続ける。そして退治屋の少年を操ることで蜘蛛妖怪が退治屋たちを同士討ちさせようとする。その光景を奈落は薄く笑いながら見つめ続けていた。


やはり人間同士が、仲間同士が傷つけあい、殺し合う様は見ていて心が躍る。その笑みこそが奈落が奈落である所以。人間の負の心を集めたかのような存在だった。その策略によって退治屋たちが絶望に染まろうとしたその瞬間、ありえない存在が姿を現す。それによって奈落の策略は全て狂わされてしまう。だが分からない。何故犬夜叉がこんなところに、しかもこのタイミングで。だがいくら考えても答えなど出るわけがない。自分が操っていた蜘蛛妖怪も倒されてしまった。このままでは自分の狙いを果たすことができない。


だがここは自分にとっての隠れ家であり、拠点。まだ隠し手の一つや二つは用意してある。確かに犬夜叉の乱入は予想外だったが問題ない。今の自分の力をもってすれば葬ることなど容易い。完全ではないにしろ四魂のカケラによって増した力を試すいい機会だと考えればいい。何よりも犬夜叉をこのまま黙って帰すことなどありえない。奴には地獄の苦しみを与えてやらなければ。自分に騙され、陥れられて桔梗と憎しみ合わされたのだと知れば一体どれほど怒り、絶望するのか。それを考えるだけで体が震える。そして奈落が新たな手を講じようとしたその時、ある光景が眼に写り込んでくる。


それは退治屋たち。犬夜叉の乱入によって生きながらえた者たちがそのまま城から離れ、撤退して行こうとしている。その光景に奈落は驚きを隠せない。この城の城主に化けていた蜘蛛妖怪は犬夜叉の手によって倒されてしまった。にもかかわらず退治屋たちは一切の迷いなくこの場を離脱していこうとしている。自分の存在を気取られてしまったのだろうか。ならば思ったよりも手強い連中であることは間違いない。四魂のカケラは抜きにしてもここで始末しておくにこしたことはない。


奈落はそのまま城の結界を張ろうする。そうすれば奴らは袋の鼠。後はそれを嬲り、料理するだけ。そう考えた時、あることに奈落は気づく。それは犬夜叉。先程までその場にいた筈の犬夜叉の姿は消えてしまっている。それはほんの一瞬の間。だが辺りをいくら見渡してもその姿を見つけることが、捉えることができない。一体どこに。奈落がさらに探索に意識を集中しようとしたその瞬間



「………てめえが奈落だな。」


その背後から突如そんな声が掛けられる。それはまるで何かを確かめるかのようなどこか静かな雰囲気を感じさせるもの。だがその声とは裏腹にその雰囲気、気配には確かな殺意、殺気が込められていた。


「っ!?」


奈落は弾けるようにしてその場を飛び上がりながらその声の主から距離を取る。それは純粋な逃亡。目の前の存在、犬夜叉に恐れを抱いたからに他ならない。どうやら自分の匂いと邪気を辿ってここまでたどり着いたらしい。その速度に驚きながらも奈落は体勢を整える。しかしその体の震えを抑えることができない。だが奈落はそんな事実を決して認めるわけにはいかなかった。それを認めることは奈落にとって許しがたい屈辱、何よりも犬夜叉にそれを感じることなどあってはならない。



「ほう……よくここが分かったな……」


そんな胸中を悟られまいとするかのように奈落は不敵な笑みを浮かべながら目の前の存在、犬夜叉と対面する。それは実に五十年ぶりの再会。因縁、運命ともいえるかの知れない邂逅。四魂の玉、桔梗と言う存在を巡る因果。それが今、ここで再び交差している。奈落はその事実にどこか楽しそうな姿を見せる。

それは喜び。五十年前、犬夜叉は桔梗という愛する者の手によって封印された。それは自分の策略によるもの。だがそれだけでは満足できない自分がいたことに奈落は後に気づいた。そしてその答えを見つける。自分は自分のその手で目の前の犬夜叉をその手にかけたかったのだと。他の誰でもない自分自身の手で犬夜叉をあの世に送る。それこそが自分の望みであることを奈落は悟る。だが奈落はまだ気づいていない。それは犬夜叉への憎しみではなく、桔梗への執着から生まれる感情であることに。


だがそんな奈落とは対照的に犬夜叉はどこか冷めた目でそんな奈落の姿を見つめているだけ。まるで何かを見定めるかのような、そんな視線を奈落に向けているだけ。奈落は自分の予想とは全く違う態度を見せる犬夜叉に戸惑いを隠せない。何故そんな態度を見せているのか。そして奈落は気づく。犬夜叉はまだ自分の正体に気づいていないと言うことに。自分が桔梗の仇であると言う事実に。奈落は邪悪な笑みを浮かべながら



「久しぶりだな、犬夜叉……桔梗を殺してから……五十年ぶりになるか………」


五十年前の真実を告げる。それは犬夜叉にとって許すことができない、耐えることができない残酷な真実。自分が騙され愛する女性と殺し合わされ、そして奈落によって愛する女性を奪われたという事実。その言葉が犬夜叉に向かって告げられる。だが



「…………」


それを聞きながらも犬夜叉は全く動じる様子を見せず、身じろぎひとつしない。ただ変わらずどこか冷たい視線で自分を見つめ続けている。そんな犬夜叉の姿に奈落は戸惑いを隠すことができない。何故そんな反応を見せているのか、いや何の反応も示さないのか。初めはその感情を悟られまいとしているのかと考えたがそれは違う。その目には、姿には怒りも憎しみも見られない。だがそんなことがあり得るのか。自分を、愛する女性を陥れ、奪っていた自分に対して何の反応も示さないなど。怒り狂い、感情をむき出しながら自分に襲いかかってくるはず。そしてその際には大きな隙が生じる。それを狙い、一撃で犬夜叉を葬る手はずだった。だが目の前のこの状況。奈落はただ同じように犬夜叉と向き合い、対峙するしかない。そしてついに気づく。

犬夜叉の視線。それはまるで自分を見下しているかのようなもの。いやそうではない。そこには違う感情がある。それは憐れみ。奈落に対する同情と憐れみの感情がその視線には込められていた。

その事実に奈落は驚愕し、そして同時に憤怒する。怒りや憎しみ。恐れと恐怖。それこそが自分に向けられるべきもの。それこそが自分の力、原動力。それを犬夜叉に与えるために自分はここにいる。それが何だ。何故、何故自分がそんな視線を向けられなければならない。他でもない半妖などである犬夜叉などに――――


「貴様っ!!」


叫びと共に奈落の体が動く。それは本能からの行動。何よりもそれ以上その犬夜叉の視線を許すわけにはいかない。奈落の意地、誇り。だがその瞬間



奈落の右腕が一瞬で吹き飛ばされた。



「…………なっ!?」


一瞬の間の後、奈落はまるで信じられない物を見たかのような表情で自らの右腕を、いや右腕があった場所を見つめている。分からない。一体何が起こったのか。奈落は混乱しながらも大きく犬夜叉から距離を取る。それは咄嗟の行動。それは悟ったから。自らの右腕が犬夜叉の爪によって斬り落とされたのだという事実に。それは自分の動きを読み切った上での攻撃。何よりも驚愕するのはその速度。その攻撃がまるで見えなかった。自分がその間合いに入り込んだ瞬間にその爪が腕を切り裂いたのであろうことを奈落は見抜く。しかしいくら自分の攻撃を見切ったのだとしてもこのあり得ない状況。


犬夜叉はそんな焦る奈落の姿を見ながらも先程と全く変わらない表情で、態度でいる。追撃を加えてくる気配もない。まるで機械なのではないかと思えるほどの無慈悲な、無駄なものが無い戦う獣の姿がそこにはあった。


(こいつ……一体……!?)


奈落はそんな犬夜叉の姿に思わず後ずさりをしてしまう。何だ。目の前の存在は一体何なのか。自分は犬夜叉と対峙しているはず。それは間違いない。だがその雰囲気も、佇まいも全く記憶と異なる。自分が知っている犬夜叉はこんな存在ではない。なら自分はいったい誰と対峙しているのか。そんなあり得ないことを考えながらもどうするべきか、奈落が思考し始めたその時



「……どうした、四魂の玉が無けりゃ何もできねえのか?」


犬夜叉がどこかつまらなさそうにそう呟く。その言葉に奈落は思わず我を忘れそうなる。それほどの侮蔑がその言葉には込められていた。だが奈落はその動きを止める、いや抑え込む。それはあるものをその眼に捉えたから。

そこには犬夜叉の首に掛けられた四魂のカケラの姿があった。だが驚くのはその大きさ。元の玉の大きさの三分の一ほどもあるそれに奈落は目を奪われる。間違いなくそれは本物。それを犬夜叉は持っている。それは自分が持っているカケラの数を遥かに上回る物。そして犬夜叉はそれを首に掛けたままで使ってはない。それは今の犬夜叉の強さは四魂のカケラによるものではないということ。その事実が奈落に冷静さを取り戻させる。どうやら自分は犬夜叉の力を大きく見誤っていたらしい。何よりも自分の記憶、予想とは違うその姿。四魂のカケラは惜しいがこの場は撤退するかない。



「ふ……半妖如きが四魂のカケラを扱えるとでも思っているのか?」


奈落は犬夜叉を挑発しながらも離脱の機会を伺う。そこには先程まであった油断も慢心もない。奈落はそのまま自らの体の邪気を高めていく。そのことに気づきながらも



「てめえが人のこと言えるのかよ……『半妖奈落』」


犬夜叉はどうでもいいことのようにそう吐き捨てる。その言葉に奈落の顔が憎悪に染まる。それはその殺気だけでも人を呪い殺せるのではないかと思えるほどの物。その瞬間、部屋中を強力な瘴気が包み込んでいく。犬夜叉はそれを見ながらも爪を振るうことでそれを振り払う。それが収まった先には既に奈落の姿はなくなってしまっていた。先程の憎悪を抱きながらも奈落は理性を保ち、撤退する判断を下したらしい。だがそんな状況の中、少年はその跡を追うことも、悔しさに顔を歪ませることもない。


何故ならこの状況は少年自身が作り出したものだったから。


奈落の厄介さはその再生力、生き残る力にあると言っても過言ではない。それを少年は記憶により知っている。自分の実力なら今の奈落に後れを取ることはないだろうがそれでもそれを倒しきるのは難しい。鉄砕牙を使うことができれば跡形もなく消し飛ばすこともできたかもしれないがそれは今の自分には扱うことができない物。それは仕方のないこと。ならば違う方法で力をつけていくしかない。何よりも今の奈落に苦戦しているようでは話にならない。自分が求める強さはさらに先にある。

そして今回の戦闘では一つの大きな狙いがあった。それは奈落に自分が持っている四魂のカケラを見せること。それにより奈落はその標的を自分に向けることになるだろう。そうなるように挑発もした。これで珊瑚たち退治屋がこれ以上狙われる可能性は低くなるだろう。それでもそれがゼロになったわけではないがそれは仕方ない。再び奈落が里を狙う可能性もあるがその全てを防ぐことなどできるわけがない。悪いが後は珊瑚たち自身に任せるしかない。だが彼らも妖怪退治屋。それ相応の対策や準備はあるだろう。これで自分の目的は果たした。

しかしそれによって予想より早く奈落と接触することになってしまった。本当ならもっと力を身に付けた後、初戦で一気に決着をつけたかっただが今となってはどうしようもない。どっちにしろ犬夜叉になってしまった以上、奈落との戦いは避けられない。それが早まっただけだ。それに備えていないわけではない。そのために自分は四魂のカケラを集めている。珊瑚に言ったよう妖怪を引き寄せるために集めているのも嘘ではないが奈落に四魂のカケラを渡さないことがその本当の理由。記憶の中では桔梗が四魂の玉を完成させた瞬間に奈落を滅するため、四魂のカケラをわざと渡していた。だがこの世界には桔梗もかごめもいない。その手段は通用しない。


ならばわざわざカケラを渡す必要もない。それは奈落を強くしてしまうだけ。そう考え少年はカケラを集めている。既に玉の三分の一ほどはこっちの手の中にある。例え残りを全て奈落が手に入れたとしても記憶通りの強さにはならないはず。そして自分もこのまま何もしないでいるつもりは毛頭ない。それを超える強さを手に入れるだけ。


少年はそのまま自分の首に掛けられる四魂のカケラに目を向ける。そこに本来あるはずの言霊の念珠は既にない。それは自分にはもう必要のないもの。ある意味それが自分が犬夜叉ではない証。少年はそのカケラを手に握りながら考えを巡らす


それは先程の奈落の姿。自らの願い、野望のために四魂のカケラを求め、完成させようとするその姿。初め奈落と会えば犬夜叉の記憶にあてられるのではないかという不安もあった。だがそれは杞憂だった。自分は既に師匠との修行によって犬夜叉の体を完全に自分のものにしている。それが功を奏した形だ。怒りと憎しみは確かに力を生むがそれ以上に焦りも生み出してしまう。それは戦闘においては致命的な隙になるためそれを少年は一番警戒していた。そして奈落の姿にどこか憐れみを、いや同族嫌悪を感じてしまった。


それは自分と奈落は同じく、四魂の玉に運命を弄ばれた存在だから。


奈落は自らの意志で四魂のカケラを集め、玉を完成させようとしていると思っているのだろう。だがそれは違う。それは四魂の玉の意志。奈落はそれによって生み出された存在。確かに奈落の元となった人間、鬼蜘蛛の桔梗への執着は間違いなく本物だったのだろう。だが四魂の玉によって生まれた奈落はそれを利用されているだけ。四魂の玉を完成させ、この世から消滅させるための存在。それが奈落。恐らく四魂の玉を完成させるその時まで奈落はそのことには気づかないのだろう。


そしてそれは自分にも言える。自分も四魂の玉の意志によってこの時代に、犬夜叉の体に憑依させられた存在。そして四魂の玉の消滅と共に消えゆく存在。それは恐らく遠くない話。そんな自分が四魂のカケラを集めているのは皮肉としか言えない。いや、これも四魂の玉の意志なのかもしれない。だがそんなことなどどうでもいい。


自分が何者だろうと構わない。


犬夜叉の運命も、四魂の玉の意志も自分にとってはどうでもいい。


俺の目的は、向かう先には何の関係もない。あの日、俺が出会った『強さ』の意味。


それを手に入れること。それだけが俺が生きる意味であり、存在理由。


犬夜叉も、奈落も、四魂の玉も関係ない、俺の、俺だけの戦う理由。




少年は一度目を閉じた後、すぐに踵を返しその場を後にする。その向かう先に何が待ち受けているのか。それはきっとだれにも分からない。だが少年はそれでも進み続ける。自分の求める答えを得るために――――――


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