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No.25752の一覧
[0] 犬夜叉(憑依) 【完結】 【桔梗編 第六話投稿】[闘牙王](2012/02/27 00:45)
[1] 第一話 「CHANGE THE WORLD」[闘牙王](2011/04/20 21:03)
[2] 第二話 「予定調和」[闘牙王](2011/04/20 21:08)
[3] 第三話 「すれ違い」[闘牙王](2011/04/20 21:18)
[4] 第四話 「涙」[闘牙王](2011/04/20 21:28)
[5] 第五話 「二人の日常」[闘牙王](2011/04/20 21:36)
[6] 第六話 「異変」[闘牙王](2011/04/20 21:47)
[7] 第七話 「約束」[闘牙王](2011/04/20 21:53)
[8] 第八話 「予想外」[闘牙王](2011/04/20 21:57)
[9] 第九話 「真の使い手」[闘牙王](2011/04/20 22:02)
[10] 第十話 「守るもの」[闘牙王](2011/04/20 22:07)
[11] 第十一話 「再会」[闘牙王](2011/04/20 22:15)
[12] 第十二話 「出発」[闘牙王](2011/04/20 22:25)
[13] 第十三話 「想い」[闘牙王](2011/04/28 13:04)
[14] 第十四話 「半妖」[闘牙王](2011/04/20 22:48)
[15] 第十五話 「桔梗」[闘牙王](2011/04/20 22:56)
[16] 第十六話 「My will」[闘牙王](2011/04/20 23:08)
[17] 第十七話 「戸惑い」[闘牙王](2011/04/20 23:17)
[18] 第十八話 「珊瑚」[闘牙王](2011/04/20 23:22)
[19] 第十九話 「奈落」[闘牙王](2011/03/21 18:13)
[20] 第二十話 「焦り」[闘牙王](2011/03/25 22:45)
[21] 第二十一話 「心」[闘牙王](2011/03/29 22:46)
[22] 第二十二話 「魂」[闘牙王](2011/04/05 20:09)
[23] 第二十三話 「弥勒」[闘牙王](2011/04/13 00:11)
[24] 第二十四話 「人と妖怪」[闘牙王](2011/04/18 14:36)
[25] 第二十五話 「悪夢」[闘牙王](2011/04/20 03:18)
[26] 第二十六話 「仲間」[闘牙王](2011/04/28 05:21)
[27] 第二十七話 「師弟」[闘牙王](2011/04/30 11:32)
[28] 第二十八話 「Dearest」[闘牙王](2011/05/01 01:35)
[29] 第二十九話 「告白」[闘牙王](2011/05/04 06:22)
[30] 第三十話 「冥道」[闘牙王](2011/05/08 02:33)
[31] 第三十一話 「光」[闘牙王](2011/05/21 23:14)
[32] 第三十二話 「竜骨精」[闘牙王](2011/05/24 18:18)
[33] 第三十三話 「りん」[闘牙王](2011/05/31 01:33)
[34] 第三十四話 「決戦」[闘牙王](2011/06/01 00:52)
[35] 第三十五話 「殺生丸」[闘牙王](2011/06/02 12:13)
[36] 第三十六話 「かごめ」[闘牙王](2011/06/10 19:21)
[37] 第三十七話 「犬夜叉」[闘牙王](2011/06/15 18:22)
[38] 第三十八話 「君がいる未来」[闘牙王](2011/06/15 11:42)
[39] 最終話 「闘牙」[闘牙王](2011/06/15 05:46)
[40] あとがき[闘牙王](2011/06/15 05:10)
[41] 後日談 「遠い道の先で」 前編[闘牙王](2011/11/20 11:33)
[42] 後日談 「遠い道の先で」 後編[闘牙王](2011/11/22 02:24)
[43] 珊瑚編 第一話 「退治屋」[闘牙王](2011/11/28 09:28)
[44] 珊瑚編 第二話 「半妖」[闘牙王](2011/11/28 22:29)
[45] 珊瑚編 第三話 「兆し」[闘牙王](2011/11/29 01:13)
[46] 珊瑚編 第四話 「改変」[闘牙王](2011/12/02 21:48)
[47] 珊瑚編 第五話 「運命」[闘牙王](2011/12/05 01:41)
[48] 珊瑚編 第六話 「理由」[闘牙王](2011/12/07 02:04)
[49] 珊瑚編 第七話 「安堵」[闘牙王](2011/12/13 23:44)
[50] 珊瑚編 第八話 「仲間」[闘牙王](2011/12/16 02:41)
[51] 珊瑚編 第九話 「日常」[闘牙王](2011/12/16 19:20)
[52] 珊瑚編 第十話 「失念」[闘牙王](2011/12/21 02:12)
[53] 珊瑚編 第十一話 「背中」[闘牙王](2011/12/21 23:12)
[54] 珊瑚編 第十二話 「予感」[闘牙王](2011/12/23 00:51)
[55] 珊瑚編 第十三話 「苦悶」[闘牙王](2012/01/11 13:08)
[56] 珊瑚編 第十四話 「鉄砕牙」[闘牙王](2012/01/13 23:14)
[57] 珊瑚編 第十五話 「望み」[闘牙王](2012/01/13 16:22)
[58] 珊瑚編 第十六話 「再会」[闘牙王](2012/01/14 03:32)
[59] 珊瑚編 第十七話 「追憶」[闘牙王](2012/01/16 02:39)
[60] 珊瑚編 第十八話 「強さ」[闘牙王](2012/01/16 22:47)
[61] 桔梗編 第一話 「鬼」[闘牙王](2012/02/20 20:50)
[62] 桔梗編 第二話 「契約」[闘牙王](2012/02/20 23:29)
[63] 桔梗編 第三話 「堕落」[闘牙王](2012/02/22 22:33)
[64] 桔梗編 第四話 「死闘」[闘牙王](2012/02/24 13:19)
[65] 桔梗編 第五話 「鎮魂」[闘牙王](2012/02/25 00:02)
[66] 桔梗編 第六話 「愛憎」[闘牙王](2012/02/27 09:42)
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[25752] 珊瑚編 第五話 「運命」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/05 01:41
今、城内は静けさに包まれていた。それはまるで時間が止まってしまったかのよう。だがそれは決して比喩などではない。その場にいる全ての人間が動きを止め、ある一点を見つめている。そこにはこの場にはいなかったはずの存在がいた。その出で立ちからその少年が普通の人間ではないことは明らか。いや、その頭にある犬の耳から妖怪なのだろう。だが一体何故そんな妖怪がこの場に突然現れたのか、そして何故退治屋の少年の攻撃から他の退治屋を庇うような真似をしたのか。城の住人達は自分たちの理解を超えた事態にただ呆然とするしかない。そしてそれは珊瑚たちも同様だった。


「犬夜叉………?」


珊瑚はそうどこか心非ずと言った風に呟く。まるでここが現実なのかどうかわからないと言った様子だ。先程の琥珀の突然の凶行。それを前に自分は動くことができなかった。それは間違いなく父の、仲間たちの命を奪うはずだった。だがそれは防がれた。目の前の半妖、犬夜叉によって。


だがどうしてこんなところに犬夜叉がいるのか。それも何故自分たちを救うようなことを。何よりもそのタイミング。まるでそれが分かっていたかのような乱入。まるで何かの物語の様にできすぎている状況に珊瑚はただ呆然とするしかない。それは珊瑚の父たちも同様だ。珊瑚の反応で目の前にいる少年が犬夜叉であることは間違いないらしい。だが何故初対面であるはずの自分たちを救ってくれたのか。その目的も、考えも全く分からない。


しかしそんな皆の視線を受けながらも犬夜叉は全くそれを無視したままただ真っ直ぐに目の前の少年、琥珀を見つめ続けている。その姿は真剣そのもの。その雰囲気から犬夜叉が本気、いや何かに緊張しているのが珊瑚たちにも伝わってくる。そしてすぐに珊瑚たちは我に返り、その目を琥珀に向ける。

先程の行動はとても琥珀の物とは思えない。一体何が起きているのか。珊瑚たちは臨戦態勢を取りながらも琥珀の姿をその目に捉える。そして気づく。それは眼。その眼には全く生気が感じられない。うつろなまるで人形の様なその姿。何かが琥珀に起こっていることを悟った珊瑚が慌てながら琥珀に近づこうとしたその時、犬夜叉がまるで獣のようにその場を弾けるように飛び出していく。その速度はまさに獣のそれ。そしてその矛先は鎖鎌を構えている琥珀に向けられていた。


「なっ!?」


その光景に珊瑚は思わずそんな声を上げる。珊瑚はいきなりの事態に混乱することしかできない。突然の犬夜叉の襲撃。それはまるで獲物を狙うかのような殺気を纏っている。先日の自分との戦闘とは比べ物にならない程のもの。それほどの鬼気迫るものを珊瑚は感じ取る。そしてそれが自分の弟である琥珀に向けられている。


どうして犬夜叉がそんな姿を見せているのかは分からない。だがこのままでは琥珀が殺されてしまう。それを許すわけにはいかない。珊瑚はすぐさま自らの手にある飛来骨を構え、それを犬夜叉に放とうとする。だが


「大丈夫じゃ、珊瑚!犬夜叉は琥珀を助けに来たんじゃ!」


そんなどこか場違いな子供の声が珊瑚に向かって放たれる。その声に思わず珊瑚は動きを止めながら振り返る。そこには雲母に乗った七宝の姿があった。その光景に珊瑚は混乱の極致にあった。七宝に加えて何故里に残っていたはずの雲母までこの場にいるのか。あり得ない事態の連続に珊瑚は動揺を隠しきれない。だがそんな中、犬夜叉はその凄まじい速度で一気に琥珀に肉薄する。だがそれを見ながらも琥珀はまるで機械の様な動きでその鎖鎌を犬夜叉に向かって放ってくる。

そこには何の感情も見られない。先程、頭たちを殺そうとした時と全く同じだった。だがその攻撃を犬夜叉はその爪を使って難なく防ぐ。いくら退治屋だといっても琥珀はまだ十一の少年、それを捌くことは犬夜叉にとっては造作もないこと。まるで攻撃など無かったかのように犬夜叉は琥珀の間合いに入り込み、


「散魂……鉄爪っ!」


その手の爪を振り下ろした。その強力な斬撃が琥珀を襲う。その圧倒的な力の前には琥珀は為す術を持たない。その衝撃によって辺りは砂埃に覆い尽くされてしまう。


それが収まった先には地面に倒れ伏している琥珀とそれを見下ろしている犬夜叉の姿があった。



「琥珀っ!?」


その光景に悲鳴を上げながら琥珀がすぐさま琥珀の元に駆け寄って行く。それとほぼ同時に頭たちも琥珀の元に集まって行く。珊瑚はそのまま琥珀を抱きかかえる。だがその目には涙が溢れていた。先程の斬撃。それを受けて助かる人間など居るはずがない。それは犬夜叉と闘った自分が誰よりも知っている。一体どうしてこんなことに。珊瑚が激しい怒りと悲しみの眼差しを犬夜叉へと向けようとしたその瞬間、



「姉……上……?」


そんな聞き慣れた声が耳に響いてくる。それは小さく聞き逃してしまうかの知れない程のもの。だがそれは間違いなく自分の弟である琥珀の声だった。珊瑚は驚愕しながらも琥珀を抱き起こす。そして気づく。その体にはかすり傷一つついていない。何よりもその姿。それはいつもの琥珀の姿。先程までの人形の様な雰囲気は何一つ残っていなかった。


「琥珀、大丈夫なのか!?」

「う……うん、でも一体何があったの……?」


珊瑚の剣幕に琥珀は事情が分からないかのように戸惑うことしかできない。どうやら先程までの記憶が無いらしい。その様子はまるで何かに操られていたかのよう。その事実に至った珊瑚の目がある物を捉える。それは蜘蛛の糸。それが琥珀の首の後ろにつながっている。珊瑚は悟る。その蜘蛛の糸によって琥珀が操られていたことに。だがその糸は途中で途切れて、いやそれは断ち切られている。珊瑚はそのまま驚いたように顔を見上げながら自分たちの隣に立っている犬夜叉に目を向ける。それは先程の犬夜叉の行動の意味を珊瑚は理解したから。


だがそんな珊瑚たちの姿に気づきながらも犬夜叉は全く表情を変えることなくどこかに視線を向けている。その先にはこの城の城主の姿があった。だが城主の様子が先程までとは明らかに違う。その表情にはどこか焦りの様な物が浮かんでいる。そしてその視線は犬夜叉へと向けられていた。二人の視線が交錯し、睨みあっている状況の中、珊瑚は感じ取る。

それは殺気と妖気。それが城主から犬夜叉へと向けられている。瞬時に珊瑚は城主の正体が妖怪であり、恐らくは先程の蜘蛛の糸を使って琥珀を操っていた黒幕であることに見抜く。そのことに自分の隣にいる頭も気づいたようだが身動きを取ることができない。それは今の状況にある。

突然の犬夜叉の乱入。さらに依頼主である城主が妖怪であったという事実。それは今回の依頼自体が自分たちを狙った罠であることを意味していた。加えて城の者たちは人間であり、城主の正体には気づいていないようだ。もしここで城主に襲いかれば間違いなく城の者たちは応戦してくるだろう。それを捌けない自分たちではないがここには弱ってしまっている琥珀がいる。庇いながらの乱戦になれば苦戦は免れない。何よりもここは敵の術中。どんな手を使ってくるかも分からない。多くの不安要素によって頭は容易に動くことができずにいた。そんな中



「……七宝、珊瑚たちを連れてこの城から離れてろ。」


城主に向かって視線を向けたまま犬夜叉はそう呟くように七宝に告げる。それにはどこか無骨な雰囲気がある。だが七宝はこれまでの付き合いからその言葉に自分への犬夜叉の信頼が込めらていることを悟る。


「分かったぞ、任せろ犬夜叉!」


七宝が自信満々にそう力強く答えるのを聞き届けた後、犬夜叉は一瞬その場に屈みそのまま一気に飛び上がる。その跳躍力はここから離れた城主がいる城内までの距離を一気にゼロにしてしまうほどのもの。そんな犬夜叉と七宝のやり取りを聞きながらも珊瑚たちは驚きながらそれを見つめることしかできない。

城の者たちは焦りながらも城主の危機に自らが持っている弓を放つことでそれに応戦していく。その無数の矢がまるで雨の様に犬夜叉へと降り注いでいく。だがそれらは犬夜叉にかすり傷負わせることができない。犬夜叉はその矢の雨を自らの爪を使って全て弾き、捌きながら突き進んでくる。その光景に城の者たちは恐怖する。当然だ。いくら妖怪だと言っても目の前の相手は人型の妖怪。先程の巨大な大蜘蛛ではない。だが目の前の恐らくは犬の妖怪の姿。その強さと殺気。城の者たちは悟る。目の前の妖怪が大蜘蛛を遥かに超える存在であることに。


瞬間、城主に異変が起こる。それはその姿。まるでこちらに向かってくる犬夜叉に反応するかのようにその姿が大きく変わっていく。その光景に城の者たちから悲鳴が上がる。その視線の先にはまるでこの世の物とは思えないような姿に変わり果てた城主の、いや蜘蛛の妖怪の姿があった。それこそが城主の正体。その体を乗っ取っている蜘蛛こそが全ての元凶だった。その狙いは退治屋を操ることによる同士討ち。だがそれは犬夜叉によって防がれ、その正体も見破られてしまった。ならばもはや正体を隠す必要もない。

蜘蛛妖怪はそのまま大きく体をのけぞらせた後、その口を大きく開きながら無数の蜘蛛の糸を犬夜叉に向かって放ってくる。それには強力な毒が含まれている。それに触れてしまえばいかに妖怪といえどもひとたまりもないもの。その糸の束が犬夜叉を捕える。そこには逃げ場所など無い。蜘蛛妖怪は自身の勝利を確信する。


だがその瞬間、その蜘蛛の糸はまるで紙屑のように断ち切られてしまう。それは犬夜叉の爪によるもの。例え毒を含んだ蜘蛛の糸も今の犬夜叉にとっては何の意味もなさなかった。そのことに蜘蛛妖怪が驚きながらも、更なる追撃を加えようとする。だがいくらそれを行おうとしても体が全く動かない。一体何故。突然の事態に蜘蛛妖怪は混乱する。


それは自分の視界。犬夜叉の姿がまるで逆さになってしまっているように見える。いや違う。これは自分が逆さになってしまっている。そして蜘蛛妖怪はついに気づく。


自分の首が胴体と離れてしまっていることに。蜘蛛妖怪は自分が首をはねられてしまったことにようやく気付きながらこの世から姿を消していった……………




その光景に珊瑚は眼を奪われてしまっていた。それは自分の腕の中にいる琥珀や父上も同じらしい。それは一瞬の出来事。瞬きほど間に起きた光景。自分は確かに犬夜叉の強さを知っていた。その実力なら先程の蜘蛛の妖怪など相手にはならないだろう。それ自体には驚きはない。珊瑚が驚愕したのはその戦闘。

まるで一部の隙のない動き、何よりも一切の情けも容赦もないその手際。それはまさしく獣のそれ。退治屋の自分でさえそれに恐れを抱いてしまうかもしれない程のもの。それは先日の自分との戦闘とは全くかけ離れた犬夜叉の姿だった。その違いに珊瑚が驚愕し、戸惑っていると


「珊瑚、早くここから離れるんじゃ!」


七宝のそんな声によって珊瑚は我に返る。そこには雲母に乗った七宝が退治屋たちと共にこの場を離脱しようとしている姿があった。


「で、でも犬夜叉は……」


珊瑚はその光景に驚きながらもそう言葉を漏らす。確かに犬夜叉は自分たちにここから離れるよう言っていた。だが既に城主にとりついていた妖怪は倒された。ならば急いでここを離脱する必要もないのではないか。何よりもまだ犬夜叉が戻ってきていない。そう珊瑚は考えていた。だがその眼が捉える。それは犬夜叉の姿。そこには全く臨戦態勢を崩していない、むしろ先程以上に鋭い目つきをした犬夜叉が佇んでいる。それはまるで何かを探しているかのような―――――



「珊瑚、ここは一旦撤退する。琥珀を連れて雲母に乗れ!」


険しい声を響かせながら頭が珊瑚にそう告げる。そこは退治屋の頭としての判断。これ以上この場にいるのは得策ではない。何よりもこの城の邪気。それは先程城主の物だと思っていた。だが城主が犬夜叉によって倒されてしまったにも関わらずそれはなくならない。いや、それどころかさらに強まっていることに頭は気づく。それはすなわちここにはそれを超える存在がいるということ。それを感じ取ったからこそあの少年、犬夜叉は臨戦態勢を崩さずその場を動こうとしないのだろう。

本来ならそれを退治することが自分たちの役目。だが不確定要素が多すぎる。このまま闇雲に挑んでは全滅の可能性もある。悔しいがここは犬夜叉が言う通り撤退するしかない。それは長年の経験と直感によるもの。そしてそれは正しかった。珊瑚はそんな頭の姿にすぐ冷静さを取り戻し、琥珀を抱えながら雲母に乗る。そしてすぐさま頭たち共に城を離脱していく。だが珊瑚はどこか心配そうな顔で一人城に残った犬夜叉の姿を見つめている。しかし


「心配いらん、犬夜叉は強いんじゃからな、誰にも負けん!」


七宝がそんな不安を吹き飛ばすかのように宣言する。その七宝の犬夜叉への絶対の信頼に珊瑚は思わず目を見開く。同時に自分の腕の中で眠ってしまっている琥珀へと目を向ける。


そうだ。今は自分が為すべきことを、できることをするしかない。そう自分に言い聞かせることしかできなかった―――――




(行ったか………)


城を離脱していく七宝たちを見届けた後、犬夜叉は心の中で安堵の声を漏らす。自分を取り囲もうとしていた城の者たちも城主の正体が妖怪であったことに驚き、混乱しながらこの場から去って行ってしまった。恐らくは自分の強さには敵わないと悟ったのもその大きな理由だろう。だが犬夜叉は一度大きな息を吐いた後、意識を切り替える。それはまだ犬夜叉にはやるべきことが残っていたから。


琥珀を救うこと。


それが少年がこの場に訪れた理由。だがそれは本来ならあり得ないこと。だが自分はそれを知っている。何故なら自分は犬夜叉の生まれ変わりだから。

自分は本当は五百年後の未来の人間。だが様々な理由から今、自分は前世の犬夜叉の体に憑依している。そしてその前世の記憶によって珊瑚と琥珀のことを自分は知ることができた、いや思いだすことができたと言った方が正しいかもしれない。珊瑚については森で初めて会った時、琥珀については珊瑚がその名を口にした時。

記憶の中では琥珀は奈落の策略によって命を奪われ、四魂のカケラをよって蘇らせられたあと操られてしまっていた。同時に珊瑚はそれにより父親と里を失い、弟の琥珀を救うために傷つきながらも戦い続けていた。だが珊瑚の話から琥珀がまだ生きていることに少年は気づく。だがすぐに少年は行動を起こそうとはしなかった。


自分は犬夜叉ではない。それがその理由。


確かに自分は犬夜叉の生まれ変わりだ。だが決して自分は犬夜叉本人ではない。そして記憶の中では仲間ではあったが自分と珊瑚たちは赤の他人。なら何故自分が危険を冒してまでそれを救う必要があるのか。それは少年の犬夜叉への嫌悪。

自分はこれまでずっとこの半妖の体である犬夜叉の運命に翻弄されてきた。謂れのない差別。四魂の玉。かごめとの出会い。逆髪の結羅、殺生丸との戦い。それは犬夜叉の運命、因果。それによって自分はずっと苦しめられてきた。

それは自分の弱さ。もっと自分が強ければ、誰にも負けない強さを持っていればこんな惨めな思いをせずにすんだはず。ならばそれにこれ以上関わる必要もない。そんな義務も責任も自分にはない。そう少年はまるで自分に言い聞かせるようにして思考を断ち切ろうとする。だが胸のざわつきを抑えることができなかった。

それは珊瑚の姿。人間と話したのは本当に久しぶりだった。記憶の中では仲間だったが自分と珊瑚は初対面。どうせ他の人間たちと何も変わらない。そう思い、相手にはしなかった。だが珊瑚はそんな自分を見ながらもあきらめようとはしなかった。いくら依頼だといってもやりすぎではないのかと思えるほど。そしてそこには半妖である自分への差別も恐れもなかった。

それは退治屋である珊瑚だからこそ。妖怪というものを誰よりも知っている退治屋だからこそもの。半妖である犬夜叉を認めてくれた人間が妖怪退治屋であったのは皮肉だとも言えるかもしれない。そんな珊瑚の姿にどこか心がざわつくのを少年は誤魔化すことができなかった。それは少年がいつの間にか失くしてしまったのもの。


今の自分にはあの時にはなかった強さがある。それは師の教えによって得たもの。自分の生き方を、生きる意味を与えてくれた人によるもの。

それがあれば珊瑚と琥珀を、自分の運命を変えることができるかも知れない。少年は自らの感情に戸惑いながらも琥珀を救うことを決意する。それにはある理由もあった。

それは自分のせいでこの世界は本来の歴史とは異なってしまっているから。その最たるものが今、この世界にはかごめがいないということ。それはつまり、本来なら死人として蘇るはずの桔梗もこの世界にはいないということ。記憶の中では琥珀は桔梗の浄化の光によって命を救われた。だが桔梗がいないこの世界ではそれは起こり得ない。それはつまりこの世界で琥珀が死んでしまえば二度と生き返ることはできない。ある意味でそれは自分の責任。ならばできる限りにことをするしかない。少年はその決意を持ってこの場を訪れていた。


だが内心では少年はかなりの緊張状態にあった。それは自分の行動に他人の命がかかっているという状況から。

自分の命であればいくらでも投げ出せれる、賭けられる。しかし今回は違う。一歩間違えれば一つの人間の命が、いや珊瑚の父たちを含めれば多くの命が失われてしまう。その事実が、現実が少年に襲いかかってくる。

もしかしたら琥珀たちが死ぬことは運命で決まっていることなのかもしれない。自分がかごめたちに出会ったことも、四魂の玉が砕け散ったことも全て。結局自分には何一つ変えることができないのかもしれない。

もしかしたら自分が何もしなくても珊瑚たちは助かるかもしれない。琥珀が死ぬこともないかもしれない。だがそんな自分の心の不安を抱えながらも少年は飛び込む。自分の、珊瑚たちの運命を変えるために。


そして今、珊瑚たちはこの城から脱出していった。余裕がなかったためまともに受け答えすることができなかったが七宝に後のことは頼んである。上手くやってくれるだろう。そして少年は一瞬で意識を切り替える。

それは戦闘を行う際の少年の姿。油断と慢心。それこそが戦いにおいて最大の敵であることを少年は知っている、いや教えてもらった。自分の力を過信なく捉え、一切の油断と容赦なく敵を屠る。


それが戦闘、命のやり取り。師の教え。そしてそれはまだ終わっていない。少年は捉える。その臭いを、邪気を。




それは犬夜叉にとって避けることのできない因縁の相手の気配だった―――――


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