「おはよう、みんな。」
「おはよう、姉ちゃん。」
「おはよう。」
「おはよう、かごめ。」
かごめは家族にあいさつしながら朝食を取るために席に着く。みんなもうすでに食べ始めている。どうやら少し遅くなってしまったようだ。かごめも急いで朝食を食べ始める。今日は高校の入学式、遅れるわけにはいかなかった。
手早く朝食を済ませたかごめはそのまま急いで玄関に向かっていく。そんなかごめに向かってかごめの母が声をかける。
「かごめ、お弁当忘れてるわよ。」
そう言いながら母が弁当をかごめに手渡してくる。中学と違い今日からは弁当になることをかごめはすっかり忘れてしまっていた。
「ごめん、ありがとうママ!」
元気にそう答えながらかごめはそのまま玄関に向かって走って行く。母はそんなかごめの様子を少し心配そうに見つめながら見送るのだった……。
奈落との最後の闘い、そして犬夜叉との別れから二週間が経とうとしていた。犬夜叉と別れた後、かごめは仲間たちとの最後の別れを惜しんでいた。明確な理由があったわけではないがもう一度現世に帰ればもう戦国時代には戻ってこれない。そんな確信がかごめにはあったからだ。
仲間たちは皆大きなけがもなく無事だった。弥勒の風穴は限界寸前だったがその前に犬夜叉が奈落を倒すことができたため呪いが解け、大事には至らなかった。助けに来てくれた殺生丸は犬夜叉に何か一言呟いてからすぐに立ち去って行った。りんと邪見は犬夜叉の状態に涙しながらも別れを告げ殺生丸と共に去って行った。そして私もみんなと別れのあいさつを済ませた後、井戸に向かっていく。そしてみんな私に向かって同じことを言ってきてくれた。
犬夜叉はきっと元の体に戻ったのだと。
だからあっちの世界で会ったらよろしく伝えてほしいと。
それは仲間たちの確信に近い想いだった。
その言葉だけで犬夜叉と別れたばかりの私の心は少し救われた気がした。
そして井戸を通り現代に戻った時、神社にあった井戸はもう二度とつながらなくなってしまった。驚きはなかった。きっとこうなるだろうと……そう思っていたから。
それから私は卒業した中学に何度も訪れ犬夜叉を探し続けた。犬夜叉の元の体がどんな姿か私には分からない。それでも私の姿に気づいてくれればきっと声をかけてくれる。思い出してくれる。そう信じて毎日犬夜叉を探し続けた。自分の学校だけではない。自分の神社にこれる距離にある学校全てを探し続けた。
でも………私は犬夜叉を見つけることができなかった。
もしかしたら学校にはこれないような状態になっているのかもしれない。もしそうなら自分にはどうしようもない。
でも……どうして神社の場所は分かっているはずなのに……どうして会いに来てくれないんだろう……?
連絡をしてくれないんだろう……?
もしかしたら犬夜叉は記憶を失くして私のことを忘れてしまったのかも……
もしかしたら……犬夜叉は……もう………
『お前たちはもう二度と出会うことはできない』
四魂の玉の言葉が頭をよぎる。
私はあの時、四魂の玉に何も願わず玉を消滅させた。そのことに後悔はない。後悔なんてしない………
でも………もしあの時………犬夜叉と一緒にいたいと願っていたら………
かごめはそのまま鞄の中にある首飾りに手を伸ばす。それは歪な形をした物だった。お世辞にも出来がいい物とは言えない。だがこれは犬夜叉が自分に買ってくれた初めてのプレゼント。そして犬夜叉との出会い、旅の日々の証でもあった。
ママがいてじいちゃんがいて草太がいる。友人たちがいて共に遊び学校に行く。それが私の日常。それはこれまでもそしてこれからも続いていく。それはとても大切でかけがいのないもの。
なのに………私の心にはまるで………大きな穴が開いてしまっているようだった………。
かごめは一人神社の境内に向かう階段を上り続ける。結局かごめは高校の入学式には参加しなかった。そして無意識のうちにかごめは訪れる。全ての始まりの場所へ。
そこには五百年前から変わらず在り続ける御神木の姿があった。かごめはゆっくりその手で御神木に触れる。
御神木――――
この木に犬夜叉は封印されていた――――
五百年前に―――私はここで初めて犬夜叉に逢ったんだ――――
例え会えなくなっても―――犬夜叉との思い出はなくならない――――
例え会えなくなっても―――私と犬夜叉はずっと一緒にある――――
でも――――どうして――――どうしてこんなに辛いんだろう――――
こんなに辛いなら――――逢わないほうがよかったのに――――
でも――――会いたい。
もう一度――――
犬夜叉に会いたい。
かごめの目に涙が溢れる。
ひときわ強い風が辺りに吹き荒れる。その強さにかごめは思わず目を閉じる。
そして振り返った先には一人の少年が階段を登ってきていた。
少年はかごめと同じ高校の制服を着ていた。その名札の色から高校一年であることが分かる。
かごめは少年が中学三年の時の同級生であることを今、思い出す。
この少年とは何度も顔を合わせたことがあるはず。なのにどうして……どうして今まで忘れていたんだろう……
どうして少年に………犬夜叉の面影が見えるんだろう………
そして少年の手には……一つの首飾りが握られていた……。
それは……かごめが持っているものの元の形をしている物だった。
その瞬間、かごめは全てを理解する。
どうして自分がこの少年のことを覚えていなかったのか。
どうして自分は犬夜叉を見つけることができなかったのか。
どうして犬夜叉は井戸を通ることができなかったのか。
そして
犬夜叉が自分をずっと見守り、ずっと……ずっと自分を待っていてくれたことを……。
かごめと少年はそのまま互いを見つめ合う。そして
「おかえり、かごめ。」
少年はそういつもの笑顔でかごめに告げる。
「ただいま、犬夜叉。」
かごめも涙を流しながら微笑む。
二人は抱き合いながら口付けをかわす。
これからもきっと少しずついろんなことが変わっていく。
私はここで生きていく。
犬夜叉と一緒に。
毎日を積み重ねていく。
私と犬夜叉は、明日につながっていく。