今、犬夜叉一行は四魂のカケラの気配を追って山道を進んでいた。しかしその様子はいつもと違っていた。かごめ一人が先を進んでその後に少し距離があり犬夜叉たちがそれに続いて歩いていた。
「犬夜叉、かごめちゃんと何かあったの?最近ずっとあの調子だけど……。」
珊瑚がそんなかごめの様子を気にしながら犬夜叉に尋ねる。かごめはいつもなら肌身離さず付けている首飾りも着けていなかった。
「おら……今のかごめには怖くて近づけんぞ……。」
「確かに。あの様子は尋常ではありませんね……」
七宝と弥勒も珊瑚の言葉に続く。
「………ふんっ!」
犬夜叉はそんな三人の言葉によって不機嫌さを増す。
犬夜叉は桔梗とキスしているところを見られてからかごめと一言も話していなかった。すぐに事情を話しに行ったのだがかごめは話を全く聞こうとしてくれなかった。
(俺は悪くねえのに……かごめの奴……)
犬夜叉は罪悪感を感じながらも理不尽なかごめに心の中で悪態をつく。その瞬間、何かを感じ取ったのかかごめが急に振り返り犬夜叉を睨みつけた。犬夜叉はそれに怯え弥勒と珊瑚の後ろに隠れる。その姿はまるで飼い主に怒られている犬のようだった。
「これはしばらく続きそうだね……。」
「そうですね……。」
「やはりおらがしっかりせねば……。」
三人はそんな犬夜叉とかごめの様子に溜息をつくのだった……。
それからしばらく一行が道を進んでいると急にかごめが立ち止った。
「どうしたの、かごめちゃん?」
珊瑚がそんなかごめに気づき話しかける。
「四魂のカケラの気配が近づいてくる……それも凄い速さで!」
かごめが驚きながら皆にそう伝える。そしてその言葉に犬夜叉たちが身構えた瞬間、犬夜叉たちの前に狼の群れが姿を現した。
「てめえら、四魂のカケラを持ってやがるな。」
その中の人の姿をした狼が犬夜叉たちに話しかけてくる。犬夜叉はその姿を見て記憶を思い出す。
(あれは……鋼牙!!)
犬夜叉がそのことに気づき驚いている間にも鋼牙は続ける。
「おめえら、命が惜しかったらさっさと四魂のカケラをよこしな!」
戦闘態勢を取りながらそう恫喝する鋼牙。そして犬夜叉はかごめを庇うように前に出ながら鋼牙に対峙する。
「なんだてめえは?」
「そんなことはどうだっていい、お前こそ持ってる四魂のカケラをおとなしく渡しやがれ!」
犬夜叉は鋼牙が持っているであろう両足と右腕の四魂のカケラに目をやりながらそう告げる。
「どっちもガラが悪いの……。」
「確かにそうですな……。」
七宝と弥勒はそんな二人を見ながら冷静に分析する。
「やかましい、この犬っころが!力の違いを分からせてやる!」
そう口にした瞬間、鋼牙は凄まじい速さで犬夜叉に肉薄する。
「覚えときな、俺は妖狼族の若頭鋼牙だ!!」
そしてそのまま強力な蹴りが犬夜叉の顔面に向かって繰り出される。しかし
「ぐっ……!」
犬夜叉はそれを何とか右腕で防御する。
(こいつっ……!)
自分の攻撃が防がれるとは思っていなかった鋼牙は驚きながら犬夜叉から距離を取る。
「犬夜叉、気をつけて!その鋼牙ってやつ、四魂のカケラを右腕と両足に使ってる!」
かごめがそのことに気づき犬夜叉に伝える。
(あの女、四魂のカケラが見えるのか……!)
鋼牙がそのことに気づきかごめに目を向ける。
「どこを見てやがる、てめえ!」
その隙に犬夜叉は鉄砕牙を鞘から抜き鋼牙に斬りかかる。しかしそれはあっさりとかわされてしまった。
(くそっ!)
犬夜叉は内心で舌打ちする。記憶によって鋼牙が素早いことは分かっていたが今の自分でも捉えきれないとは思っていなかった。
(この犬っころ……思ったより面倒だ……!)
鋼牙はそう判断し自分の懐に手に入れそこから出した鉤爪の様なものを手にはめる。
「お前ら、ここから離れろっ!!」
その正体に気づいた犬夜叉はかごめたちにそう叫ぶ。そして次の瞬間
「喰らいな、五雷指!!」
鋼牙の右腕から強力な雷が犬夜叉に向かって放たれた。
「がっ……!!」
犬夜叉は鉄砕牙とその鞘によってそれを何とか受け流す。しかしその衝撃で辺りは砂埃に覆われてしまった。
(野郎……どこに行きやがった……!?)
体勢を整えて犬夜叉が鋼牙の攻撃に備える。しかしいつまでたっても攻撃はやってこなかった。犬夜叉は訝しみながら鋼牙の臭いを探る。そして
鋼牙がかごめのすぐ側にいることに気がついた。
「逃げろっかごめ!!」
「え?」
犬夜叉がそう叫んだ瞬間、かごめは鋼牙に抱きかかえられたまま連れ去られてしまう。
「へっ、この女はもらっていくぜ犬っころ!」
鋼牙はそう言い残し凄まじい速さでその場から離れて行く。
「た…助けてくれー!」
七宝もほかの狼に捕まってしまい連れ去られてしまう。
「かごめっ七宝っ!!」
犬夜叉がその後を急いで追いかける。しかしその速度に追いつくことができない。風の傷を使えば何とかなるかもしれないがそれでは二人を巻き込んでしまう。
「ちょっと……下ろしなさいよ!」
そう言いながらかごめが鋼牙の腕の中で暴れる。神通力を使えば脱出することは容易かったがそれでは七宝一人が連れ去られてしまうためかごめは神通力を使うことができなった。
「じっとしてな、悪いようにはしねえ。」
鋼牙はそんなかごめに全く動じずそう答える。このままでは自分が持っている四魂のカケラが奪われてしまうかもしれないと考えたかごめは
「犬夜叉っ!!」
後を追ってきている犬夜叉に向かって四魂のカケラが入った小瓶を投げた。
「なっ……!?」
「かごめっ!?」
二人がそんなかごめの行動に驚きの声を上げる。犬夜叉はそれを何とか受け止める。しかしその隙に鋼牙たちは姿を消してしまっていた。
「ちくしょう……!!」
犬夜叉は悔しさのあまり鉄砕牙を地面に突き立てるのだった……。
かごめと七宝はそのまま滝の奥にある妖狼族の巣に連れてこられていた。
「無事だったか、鋼牙。」
「心配してたんだぜ。」
銀太と白角がそう言いながら鋼牙に近づいてくる。そして鋼牙が連れているかごめと七宝に気づいた。
「その人間の女どうしたんだ?」
「喰うつもりなのか?」
興味深々な様子で二人はかごめに近づく。
「この女は餌じゃねえ、盗み食いした奴はぶっ殺すぞ!」
鋼牙はそう仲間たちにくぎを刺す。しかし
「じゃあこいつは喰ってもいいんだな?」
そう言いながら狼の一匹が七宝に近づこうとする。そしてその瞬間、その狼はかごめの神通力によって吹き飛ばされてしまった。
「七宝ちゃんから離れて!」
「かごめっ!」
かごめは七宝を庇うように弓を構えながら狼たちに対峙する。狼たちもかごめの力に驚いたのか思わず後ずさりしてしまう。
「こ……鋼牙……。」
銀太が不安そうな様子で鋼牙に目を向ける。鋼牙はそんなかごめの様子を黙って見続けていた。
(犬夜叉が来てくれるまで何とか時間を稼がないと……!)
かごめはそう考えながら鋼牙を睨みつける。鋼牙はそのままかごめを何度か見直した後
「かごめとか言ったけ……お前俺の女になれ。」
そう切り出してきた。
「は?」
かごめはそんな鋼牙の言葉にあっけにとられてしまう。
「鋼牙、でもそいつ人間の女だぜ?」
白角がそんな鋼牙に確かめるように話しかける。
「ばーか、この女は四魂のカケラが見えるんだぜ。それにかわいいし何より強え。これ以上にいい女はいねえぜ。」
そう言いながら鋼牙はかごめに近づき
「そういうこった、分かったな。」
その肩に手をやろうとする。その瞬間、
「触んないでよバカ!!」
かごめは鋼牙の顔を平手打ちした。狼たちはかごめの行動に驚き騒ぎ始める。
「私には……い……犬夜叉がいるんだから……!!」
かごめは勢いでそう言ってしまう。しかし鋼牙は叩かれたことは全く気にせずに
「犬夜叉……あの犬っころのことか……。」
そう言いながら何かを考え始める。
(本当は付き合ってもいないし……キスしたこともないけど………)
かごめは犬夜叉と桔梗がキスしている光景を思い出し俯いてしまう。鋼牙はそんなかごめに向かって
「じゃあその犬夜叉とやらがいなくなりゃあいいわけだ。」
そう自信満々に告げる。
「なっ……!?」
鋼牙の無茶苦茶な論理にかごめが驚きの声を上げる。
「なんにしたってあの野郎、今度会ったらぶっ殺してやるつもりだったからな。」
鋼牙がそのまま犬夜叉を殺そうと洞窟を出て行こうとした時
「極楽鳥だ……!極楽鳥が攻めてきたぞ―――!!」
外から狼の叫びが聞こえてきた。
「ちっ……あいつらもうここを嗅ぎつけやがったか……!」
五雷指を着けながら鋼牙は顔を歪ませる。
「極楽鳥……?」
「俺たち妖狼族の天敵みたいなもんだ……。最近そいつらの親玉が四魂のカケラを手に入れたらしくてな。そいつを見つけるのをお前に手伝ってもらおうと思ってたんだが……まあいい。手間が省けたってことだ!」
鋼牙は仲間たちに向かって振り返り
「行くぞお前ら!今日で決着をつける!!」
そう叫ぶ。狼たちはそんな鋼牙に続いて次々に外に戦いに向かっていった。
(どうしよう………)
かごめと七宝はそのまま洞窟に置き去りにされたのだった……。
「どけってめえら!!」
鋼牙の五雷指から放たれた雷が次々に極楽鳥を薙ぎ払っていく。しかし極楽鳥の数は多く、次々に狼たちに襲いかかって行く。戦場は乱戦状態になってしまっていた。
(くそっ……きりがねえ……!)
鋼牙がそんなことを考えていると上空から他の極楽鳥とは比べ物にならない程の妖気を感じる。
「何っ!?」
鋼牙が慌ててそのまま空を見上げる。そこには巨大な極楽鳥が狼たちを見下ろしていた。
「くくく……妖狼族ども……今度こそ皆殺しにしてくれる……。」
極楽鳥の親玉はそのままその巨大な口を開けそこから強力な妖力波を放ってきた。
「ぎゃああああ!!」
「ひいいいいい!!」
その威力によって狼たちが次々に薙ぎ払われていく。
「てめえっ!よくも!」
鋼牙が激高しながら親玉に向かって斬りかかる。しかし親玉はそれを難なくかわす。
「ふっ……妖狼族の子倅か……貴様を殺しその四魂のカケラも奪ってくれる!」
親玉はそのまま鋼牙に向かって口を開き、妖力波を放ってくる。
「五雷指っ!!」
鋼牙もそれに合わせて全力の雷を親玉に向かって放つ。二つの技がぶつかり合い辺りはその衝撃で吹き飛んでいく。しかし両者の力は拮抗しそのまま大きな爆発を起こす。
(くそ……力は互角か……!)
自分の全力でも倒しきれなかったことに焦りを感じる鋼牙。そしてその隙を狙って親玉は鋼牙を食い殺そうと迫ってきた。
(しまった……!!)
空中で身動きが取れない鋼牙がそのまま食い殺されそうとした時、一本の矢が極楽鳥の親玉に突き刺さった。
「ぐわあああっ!!」
その矢によって片方の翼を失った親玉はそのまま地面に墜落していく。
「かごめっ!?」
それはかごめの放った破魔の矢によるものだった。
(よかった……当たった……)
かなり距離があったのでうまく当たるか不安だったかごめだったが何とか当たったことに安堵する。しかし
「おのれ……人間風情が―――!!」
地面に降りた親玉がかごめに向かって妖力波を放ってくる。
(まずいっ!!)
鋼牙がかごめを助けようと走る。しかし距離があり鋼牙の足でも間に合わない。かごめはそのまま妖力波に飲み込まれてしまった。
「かごめっ!!」
鋼牙がそんな光景を見て叫び声を上げる。そして砂ぼこりが収まった後には
かごめを抱きかかえている犬夜叉の姿があった。
「犬夜叉……?」
いきなりのことにかごめが驚きながら犬夜叉に話しかける。
「大丈夫か、かごめ!?」
「う……うん。大丈夫……。」
かごめは犬夜叉の剣幕に思わず言葉が詰まってしまう。犬夜叉はそのままかごめを地面に下ろし
「鋼牙、てめえよくもかごめを危ない目にあわせやがったな!!」
そう鋼牙に食って掛かった。
「うるせえ、てめえこそ弱いくせにしゃしゃり出てくんじゃねえ!!」
鋼牙もそれに負けじと反論する。二人はそのまま言い合いを始めてしまう。そんな二人をどうしたものかとかごめが眺めていると
「大丈夫、かごめちゃん?」
「お怪我はありませんか、かごめ様?」
雲母に乗った珊瑚と弥勒がかごめに近づいてきた。
「珊瑚ちゃん、弥勒様!」
かごめは二人の姿に喜びの声を上げる。
「おらもおるぞ!」
七宝は怒りながら珊瑚と弥勒につっかかる。
「みんな……どうしてこんなに早くに……?」
かごめが二人に尋ねる。まだかごめが攫われてからほとんど時間はたっていなかった。
「犬夜叉が空を飛びながらかごめ様の匂いを追ってきたのです。それで随分早く来ることができました。」
弥勒がそうかごめに説明する。
「え……でも犬夜叉は高いところは飛べないはずじゃ……?」
そうかごめが不思議に思うが
「きっとかごめちゃんが心配で頭に血が上ってたんだよ。」
珊瑚が笑いながらそうかごめに伝える。かごめはそのまま犬夜叉に目をやるのだった。
犬夜叉と鋼牙はまだ口論を続けていたしかし
「貴様ら……我らをなめるな――――!!!」
極楽鳥の親玉が二人に向かって再び妖力波を放つ。
「ちっ!」
鋼牙はそれを避けようとその場を離れる。しかし犬夜叉はその場から動かずに
「うるせえ、てめえはすっこんでろ!!」
爆流波によってその攻撃を跳ね返す。その妖力波が親玉に向かって逆流していく。
「何っ!?」
親玉はそのまま爆流波に飲み込まれ跡かたもなく吹き飛んでしまった。
(こいつ……一体何しやがった!?)
鋼牙が驚きながら犬夜叉を見据える。他の極楽鳥は親玉が殺されてしまったことで戦意を失ってしまったのかそのまま逃げ去って行った。
「てめえを倒してかごめの前に引きずり出してやる!」
そう言いながら犬夜叉は鉄砕牙を構える。しかし
「うるせえ、かごめは俺の女だ!どうしようが俺の勝手だ!」
鋼牙は絶対の自信を持ってそう犬夜叉に告げる。
「なっ……!?」
その言葉に思わず言葉を失う犬夜叉。かごめもその言葉で固まってしまう。そして
「う……嘘よ!勝手に言ってるだけなんだからっ!」
慌ててかごめはそれを否定する。
「あんなこと言ってるけど……。」
「本当のところはどうなんですか七宝。かごめ様と鋼牙の間になにか……?」
「おらからは何とも……。」
面白がっているのか三人は好き勝手なことを言っている。
「この野郎……勝手なことをペラペラと……!」
こめかみに青筋を浮かべながら犬夜叉が鋼牙に詰め寄る。しかし鋼牙はそんな犬夜叉を全く気にせず
「文句あっか、俺はかごめに惚れたんだ。てめえに返す気はねえ!」
迷いなくそう宣言する。かごめは開いた口がふさがらないようだった。
「ぶっ殺す!!」
犬夜叉がそのまま鋼牙に斬りかかる。鋼牙はそれをかわしながら
「俺に勝てたらかごめも四魂のカケラも渡してやるぜ!」
そう犬夜叉を挑発する。
「その言葉、後悔させてやる!!」
二人はそのまま激しい戦闘に身を投じて行く。
「ど……どうしよう、止めなきゃ……。」
かごめが二人を止めようとするが
「どうする、法師様?」
「好きにさしておやりなさい。」
「犬夜叉、応援しとるぞ!」
三人は既に観戦する体勢になっていた。
「はあああっ!!」
「ふんっ!!」
犬夜叉と鋼牙は一進一退の攻防を繰り広げていた。力なら犬夜叉、速さなら鋼牙に分があり二人は互角の戦いを繰り広げていた。二人は戦いながらも口論を続ける。
「おめえみてえな、なよなよした奴より俺と一緒になったほうがかごめも幸せになれるに決まってんだろ!」
「う……うるせえ!!」
戦いは互角だったが舌戦においては犬夜叉は鋼牙に押されてしまっていた。鋼牙はそんな犬夜叉を見てさらに続ける。
「自分の女が取られそうだってのに言い返せねえのか!?そんな奴に俺が負けるわけがねえだろうが!!」
鋼牙はそのまま距離をあけ五雷指に力を込める。そして
「これで終わりだっ!!」
全力の雷を犬夜叉に向かって放ってくる。犬夜叉は鉄砕牙に力を込め
「風の傷っ!!」
全力の風の傷でそれを迎え撃った。二つの力がぶつかり合い風が吹き荒れる。二人の力は完全に互角だった。
「ここでお前を殺せばかごめも心おきなく俺に惚れられるぜ!!」
そう言いながら鋼牙はさらに五雷指に力を込める。その瞬間、鋼牙の雷が風の傷を押す返していく。
「犬夜叉っ!!」
かごめがその様子に叫び声を上げる。犬夜叉は俯いたまま
「うるせえ………。」
そう呟く。そして同時に風の傷が再び雷を押し返していく。
「何っ!?」
そのことに鋼牙は驚く。さらに力を込めるが押し返すことができなかった。犬夜叉は鉄砕牙を握りしめ
「かごめは俺のもんだっ!!だれにも渡さねえ!!!」
そう叫びながら鉄砕牙を振り切った。
その瞬間、犬夜叉の風の傷が雷を押し返しながら鋼牙に迫る。そして鋼牙はそれに飲み込まれてしまった。
「「鋼牙!!」」
銀太と白角が慌てて鋼牙に向かって走り寄って行く。怪我はしているが命に別条はないようだった。
「犬っころ……てめえ手加減しやがったな……!」
鋼牙は体を起こしながら犬夜叉を睨みつける。犬夜叉は爆流波ではなく風の傷のみで鋼牙を退けたのだった。
「ふん……約束通り四魂のカケラは渡してもらうぜ……。」
犬夜叉はそんな鋼牙を見ながらそう告げる。
「ちっ……男に二言はねえ……。」
鋼牙は悔しそうにしながらも三つの四魂のカケラを犬夜叉に渡したのだった。
「ふう……。」
戦いが終わり溜息を突きながら犬夜叉が振り返るとそこには
顔を真っ赤にしたかごめとそれを眺めている弥勒たちの姿があった。
「え………?」
犬夜叉は一瞬状況が分からず呆然としてしまう。犬夜叉は戦いに熱中するあまりかごめたちがいることに気づいていなかった。そして犬夜叉は自分が叫んだ台詞を思い出す。
「いや、なかなかいい告白でしたね。」
「男らしかったよ、犬夜叉。」
「感動したぞ、犬夜叉!」
三人がニヤニヤしながら犬夜叉にそう伝える。そして
「あの………」
かごめが犬夜叉に話しかけようとした時
犬夜叉はそのまま逃げ出してしまった。
「やれやれ……少しからかいすぎましたか……。」
頭をかきながら弥勒がそう呟く。そしてそのままかごめに向かって
「かごめ様、行ってあげてください。」
そう話しかける。
「弥勒様……?」
かごめはそのまま三人に目を向ける。
「行ってあげてかごめちゃん。犬夜叉はずっとかごめちゃん一筋だったんだから。」
珊瑚も弥勒に続いてそうかごめに告げる。
「犬夜叉はずっとかごめが好きだったんじゃ!」
七宝は胸を張ってそうかごめに伝える。
「みんな………。」
かごめは改めて三人に目をやるそして
「ありがとう!私行ってくる!!」
そう言い残し犬夜叉の後を走って追いかけていった。
「全く……私も負けていられませんね……。」
誰にも聞こえないように弥勒が呟く。
「どうしたの、法師様?」
「いえ、なんでもありません。」
珊瑚が不思議そうに弥勒を見つめるも弥勒は何食わぬ顔でそれに答えるのだった……。
犬夜叉は森の中で地面に座り込んでいた。その表情は下に俯いており窺うことができない。
(どうしたらいい……かごめに好きだってことがばれちまった……)
犬夜叉はそのままこれからのことを考える。
(もしかごめに嫌われちまったらどうしたらいい……もう一緒に旅ができなくなっちまうかも………どうしたら…………)
犬夜叉は様々な不安で心が押しつぶされそうになっていた。そして顔を上げるとそこには
真剣な表情をしたかごめが立っていた。
「かごめ…………。」
犬夜叉は絞り出すような声でそう呟く。しかしそれ以上なにを言っていいか分からくなってしまった。
そしてしばらくの間の後
「ありがとう……犬夜叉……。」
かごめがそう犬夜叉に話しかける。
「え……?」
かごめの言葉に犬夜叉が思わず声を上げる。
「好きだって言ってくれたこと……本当に嬉しかった……。」
言葉を選ぶようにゆっくりかごめは語りかけてくる。犬夜叉は黙ってそれを聞き続ける。その時間はまるで時間が止まっているのではないかと思うほどだった。
「でも………。」
かごめは一呼吸置いた後
「私が好きなのは犬夜叉じゃないの………。」
そうはっきりと告げる。
「………………。」
犬夜叉はそのまま黙りこんでしまう。犬夜叉の心は壊れてしまう寸前だった。そしてかごめは犬夜叉の顔をまっすぐに見つめ
「私は犬夜叉じゃなくて…………『あなた』を好きになったんだから………。」
そう微笑みながら告げた。
「え……………?」
犬夜叉はその言葉の意味が分からず呆然としてしまう。そしてその言葉を理解した瞬間
犬夜叉の目から大粒の涙が溢れてきた。
その言葉は
少年が
本当に
心から望んでいたものだった。
「もう、泣き虫なんだから………。」
かごめはそのまま優しく少年を抱きしめる。そして二人は口付けをかわす。
それが二人が恋人になった瞬間だった…………。