犬夜叉たちが墨絵師がいる村に向かっている頃と時同じくして森の中を元気よく走っている少女の姿があった。
「邪見様、早く早くー!」
りんが振り向きながら後を追ってくる邪見に向かって叫ぶ。
「こら、待たんか!りん!」
邪見はそんなりんを叱り、走りながら後を追っていく。そしてその後を殺生丸がゆっくりと歩いていた。
今、殺生丸たちはたまたま犬夜叉がいるの村の近くを通りかかったため犬夜叉に会いに村を訪れようとしているところだった。もちろん殺生丸が自らそうしたのではなくそれはりんの提案によるものだった。
(全く…なんでわしと殺生丸様がわざわざ人里に行かねばならんのだ……。)
そう思い溜息をついた後、邪見は殺生丸の様子をうかがう。
(わしが言った時はダメなのに…りんが言った時には聞いてくれるんだもんなー。)
初めは犬夜叉に会いたいと駄々をこねるりんを見かねて邪見がその旨を殺生丸に進言したのだが全く相手にされなかった。しかしりんがそのことを話すと殺生丸は何も言わずに犬夜叉の村に進路を変えたのだった…。
(このままではわしの立場が……。)
そんなことを考えていると
「わあ!邪見様、あれ見て!」
一人先に進んでいたりんが急に立ち止まり邪見に話しかける。
「なんじゃ、騒々しい……。」
そう言いながら邪見はりんに追いつきりんが指さす方向に目をやる。
そこには山が何かに吹き飛ばされたような跡が残っていた。
「お山がなくなっちゃったみたい…。」
りんは見たことのない景色に目を奪われる。それはまるで巨大な爪痕のようにも見えた。
「ふん、どうせ土砂崩れか何かじゃろう。」
邪見はそう言い残し先に進もうとする。しかし今まで後ろにいたはずの殺生丸が突然自分の前に現れ邪見は思わず尻もちをついてしまう。
「せ…殺生丸様!?」
突然のことに驚きながら邪見が殺生丸に話しかける。しかし殺生丸は崩れた山に視線を合わせたまま動こうとはしなかった。
(やっぱりわし…嫌われとるのかな……。)
そんな風に邪見が考えた時
「それは犬夜叉めがやったことでございます……。」
そう言いながら突然森の中から狒々の毛皮を被った男が現れる。
「な…何者じゃ!?」
慌ててりんを庇うように人頭杖を構えながら邪見が問いただす。しかし男はそれを無視しながらさらに続ける。
「犬夜叉めの兄…殺生丸様でございましょう?」
「……なんだ貴様?」
犬夜叉の名前を出され、今まで言葉を発しようとしなかった殺生丸が男を問いただす。
「犬夜叉に恨みがある者……といったところです。なんでもあなた様は父君の形見である鉄砕牙を探しておられるとか……。」
「………」
殺生丸は表情一つ変えず男の話を聞き続ける。
「その鉄砕牙は今、犬夜叉が所有しております…。本来、鉄砕牙はあなた様の様な完璧な妖怪にこそふさわしい刀…。ぜひこの四魂のカケラをお使いください。」
男はそう言いながら殺生丸に向かって四魂のカケラを差し出す。
「この四魂のカケラを使えば妖怪には持てぬ鉄砕牙を持つことができるようになるはず……。」
殺生丸はしばらく四魂のカケラを見つめた後
「……貴様、犬夜叉を殺すためにこの私を使おうというのか。」
そう言いながら殺生丸の鋭い視線が男を貫く。しかし
「御意。」
男はそれをどこ吹く風といったふうに答える。
「きっ、貴様…何と恐れ多い……!」
「殺生丸様……。」
りんが殺生丸に縋りつきながら不安そうな声を漏らす。
「ふっ…いいだろう…。貴様の名を聞いておこうか…。」
薄く笑いながら殺生丸が男に尋ねる。
「奈落……と申します。」
そう奈落が口にした瞬間、殺生丸は天生牙を振り下ろした。
その瞬間奈落の体は漆黒の球体に飲み込まれる。そしてそれはだんだんと小さくなり消滅した。そして後には奈落の手と四魂のカケラしか残っていなかった。
防御することもできず冥道に送り込まれれば二度と戻ってはこられない。これが戦いの天生牙の冥道残月破の威力だった。
「ふんっ、殺生丸様にあんな態度をとるからじゃ。」
邪見がそう言いながら奈落の手に握られている四魂のカケラに手を伸ばそうとした時
一匹の大きな毒虫がカケラを持ったまま空へと逃げていった。
「……傀儡か。」
「は?」
殺生丸の言葉に邪見が疑問の声を上げたのと同時に奈落の手が木でできた傀儡の手に戻っていった。
殺生丸はそれには目もくれず犬夜叉の村に目をやる。そしてしばらくの間の後、踵を返し村から遠ざかって行った。
「せ…殺生丸様?犬夜叉には会って行かれないので…?」
すぐそこまで着たにもかかわらず去って行こうとする殺生丸に思わず邪見が尋ねる。
「……奴はそこにはいない。…ならその村に用はない。」
すでに殺生丸は匂いで犬夜叉が村にはいないことに気付いていた。
「殺生丸様、お待ちくださいっ!」
邪見は走りながら殺生丸に続く。りんもその後を追いながら
「殺生丸様、犬夜叉様を助けてあげないの?」
そう殺生丸に尋ねる。りんは奈落が不気味な気配を持っていることを感じ取りさらに犬夜叉の命が狙われていることに不安を感じていた。しかし
「……あの程度の雑魚に殺されるならその程度だったというだけだ…。」
そう言い残し殺生丸は森を進んでいく。りんは一度足を止め村へ振り返る。
(犬夜叉様とかごめ様に会いたかったな……。)
そんなことを考えていると
「こら、早く来んかりん!置いていくぞ!」
邪見がこちらに振り返りながら叫んでくる。
「はい、今行きます!邪見様!」
りんは走りながら二人の後を追う。そして一行は森の中に姿を消したのだった……。
「今戻ったぞ。」
楓がそう言いながら家に戻ってくる。しかし家には七宝一人しか残っていなかった。
「七宝、家にはお主一人だけか?」
楓は家の中を見渡しながら七宝に尋ねる。
「そうじゃ、犬夜叉は珊瑚と一緒に稽古に行っとる…。」
不貞腐れた様子で七宝は楓に答える。かごめが怒って現代に戻ってからもう一週間が経とうとしていた。
七宝はかごめは長くても二、三日で戻ってくると思っていたのでなかなかかごめが戻ってこないことに焦りを覚えていた。七宝にとってかごめは母であり姉でもある存在。どうしてもいないと心細くなってしまうのだった。
「犬夜叉の奴、どうしてかごめが怒ったのかまだ分かっておらんのじゃ!」
七宝はそう愚痴を漏らす。本当なら早く謝って来いと言いたい七宝だったが犬夜叉はかごめと違い骨喰いの井戸を通ることができない。そしてかごめが怒っている理由を言うとかごめが犬夜叉を好きなことがばれてしまうため犬夜叉にそのことを直接伝えることもできない。自分ではどうにもできない状況に七宝は苛立っていた。
「犬夜叉とかごめが鈍感なのは今に始まったことではなかろう。若い頃にはよくあることじゃ。見守ってやれ七宝。」
楓はそのまま夕食の準備を始める。
(楓にも若い頃があったんじゃな……。)
そんなことを考えながら七宝は楓の姿を眺める。
(何か失礼なことを考えておるな…こやつ…。)
七宝の視線を感じながら楓は夕食の材料を切り始めるのだった。
村の外れでは犬夜叉と珊瑚がいつものように修行を行っていた。犬夜叉は鉄砕牙を珊瑚は飛来骨を使って互いに武器をぶつけ合っている。しかし犬夜叉の動きはこれまでと比べて明らかにキレがなかった。
「くっ…!」
次第に珊瑚に押され始め後退していく犬夜叉。そしてついに追い詰められ足を滑らせてしまう。そしてその隙を珊瑚が見逃すはずがなかった。
「甘いっ!」
珊瑚は飛来骨で鉄砕牙を弾き飛ばす。その衝撃で犬夜叉は尻もちをついてしまった。
「……勝負ありだね。」
珊瑚は緊張を解き飛来骨を背中に担ぎながら告げる。
「ああ……。」
犬夜叉は座り込んだまま負けを認める。
「修行はしばらくやめにしよう。このままじゃ怪我しちゃうよ。」
かごめが帰ってからというもの犬夜叉は修行に集中できていないのか動きにキレがなくなってしまっていた。
「悪い……。」
うつむきながらそう答える犬夜叉。
「……。」
珊瑚はそんな犬夜叉の様子をしばらく眺めた後、突然犬夜叉の隣に座り込んできた。
「ど…どうした、珊瑚!?」
犬夜叉はいきなり珊瑚が自分の隣に座ってきたことに驚き立ち上がろうとするが珊瑚に衣を掴まれ無理やり座らされてしまった。
珊瑚が真剣な様子で犬夜叉の顔を見つめる。その迫力に何も言うことができない犬夜叉。そしてしばらくの沈黙の後
「犬夜叉……かごめちゃんのこと…どう思ってるの……?」
珊瑚は静かに犬夜叉にそう尋ねた。
「なっ…なんだよ!藪から棒に…!」
いきなりそんな話題を振られるとは思いもしなかった犬夜叉は慌てながらそう答える。そのまま何とかごまかして話題を変えようと考えたが珊瑚はそのまま犬夜叉にさらに問いかける。
「どうなの……?」
「…………。」
犬夜叉はこれ以上ごまかすことはできないと悟る。しかしそれを口に出すこともできない。だがその沈黙はどんな言葉よりも明確な答えだった。
珊瑚もそれきり黙りこんでしまう。二人の間に長い沈黙が続く。そしてそれに耐えかねた犬夜叉が何とか珊瑚に話しかけようとした時、
「犬夜叉…どうしてかごめちゃんが怒って帰っちゃったか分かる……?」
珊瑚は犬夜叉の顔を覗き込むように問いかける。
「いや………。」
その問いかけに答えることができない犬夜叉。それを横目に見ながら珊瑚は立ち上がる。
「珊瑚……?」
そして犬夜叉は急に立ち上がった珊瑚を訝しみながら話しかける。珊瑚はそのまま背中を向けたまま
「それが分かればきっとかごめちゃんと仲直りできるよ。」
そう犬夜叉に告げた。
「…じゃあ先に家に帰ってるね。」
珊瑚はそのまま振り返らずに村に戻って行く。
犬夜叉はその後ろ姿を見ながら珊瑚の問いの意味を考えるのだった。
「はあ……」
かごめが今日何回目になるか分からない溜息をつきながら机に突っ伏す。珊瑚が仲間になってから戦国時代にいることが多くなりかなり勉強が遅れてしまっていたためかごめは家で机に向かい勉強をしていた。しかし集中できないのかなかなか内容が頭に入ってこなかった。
(犬夜叉…今頃どうしてるかな……。)
かごめは犬夜叉のことを考える。ついカッとなって怒ってしまい現代に帰ったまではよかったもののかごめは完全に帰るタイミングを失ってしまっていた。
(犬夜叉ったら珊瑚ちゃんばっかり気にかけるんだから……。)
珊瑚が仲間になってからかごめは犬夜叉と過ごす時間が少なくなってしまったように感じていた。犬夜叉が珊瑚の体のこと、琥珀のことを気にかけて珊瑚に接しているのはかごめも分かっていたがそれでも自分の気持ちを抑えることができなかった。
(犬夜叉……。)
かごめがこれほど長い期間戦国時代に行かないのは犬夜叉が鉄砕牙を手に入れるために修行をしていた時以来だった。
(私…こんなに犬夜叉のことが好きだったんだ……。)
かごめは改めて自分の気持ちを再確認するのだった…。
「姉ちゃん最近なんか元気がないよね。」
居間でくつろいでいる草太が呟く。
「ふむ、そういえばここのところ井戸に行っておるのを見ておらんな…。」
かごめの祖父もそれに続く。
「きっと好きな子と喧嘩でもしたんじゃないかしら。」
そう言いながらかごめの母がお茶菓子を二人も前に運んでくる。
「かごめもそんな年頃になったんじゃな…。わしはうれしいぞ…。」
感慨深げに頷きながら祖父はお茶をすする。
「姉ちゃん頑固なところがあるからね。仲直りできるのかな…。」
草太は少し心配そうにしながらそう言う。
「そうね……。」
そう言いながら母は何かを考えるそぶりを見せたのだった。
「ん……。」
いつの間にか机で寝てしまっていたかごめが目を覚ます。結局、勉強は全くはかどっていなかった。これからどうしようか考えた時
「かごめ、少しいい?」
ノックとともにかごめの母の声が聞こえてくる。
「う…うん、いいよママ!」
慌てながらかごめが答える。母はお茶とお菓子を運びながら部屋に入ってきた。
「どう、勉強のほうは?」
「ま…まあまあかな…。」
かごめは誤魔化しながらそう答える。その様子を母は笑いながら眺める。
「な…なによママ…。」
まるで全てが分かっているかのような母の態度に戸惑うかごめ。
「ふふ…ほんとに昔から分かりやすいんだから。かごめ、誰かと喧嘩しちゃたんでしょう?」
「う……。」
いきなり確信を突かれかごめは言葉も出ない。そんなかごめの様子をほほえましく思いながら母はさらに続ける。
「相手は男の子?」
「マ…ママっ!!」
かごめは思わず大きな声を上げてしまう。それはその質問を認めてしまったようなものだった。
「見てれば分かるわ。恥ずかしくてなかなか仲直りできていないのもね。」
「……。」
かごめは顔を真っ赤にしながらうつむく。
「かごめ…自分にも悪いところがあると思うんなら素直に謝ってきなさい。きっと許してくれるわ。その子優しい子なんでしょう?」
かごめは母の言葉を心の中でかみしめる。そして
「うん…ありがとう、ママ!あたし行ってくる!」
かごめは急いでそのまま部屋を出て行ってしまった。
「きっと苦労するわね……。」
そんな様子を見守りながら母はかごめの好きな男の子に少し同情するのだった。
「助かったぞ、犬夜叉。」
「またよろしくな。」
村の男たちが犬夜叉に礼を言う。
「ああ、またなんかあったら呼んでくれ。」
犬夜叉は村の畑仕事を手伝いが終わり家に向かって歩いていく。そして村の中心に人だかりができていることに気付いた。
「何だ……?」
珍しい光景に犬夜叉が興味を示した時
「あ、犬夜叉兄ちゃん!」
そう言いながら小さな兄妹が犬夜叉に近づいてくる。
「倫太郎、まゆりどうしたんだ?」
二人はよく七宝と遊んでいる村の子供たちだった。
「あそこで旅の商人が商売してるって聞いて見に来たんだ!」
元気いっぱいにそう答える倫太郎。そしてそのまま人だかりに中に突っ込んでいく。
「ま…待ってよ、お兄ちゃん!」
その後をまゆりが慌てて追っていく。犬夜叉もその後に続いていく。
覗いてみると様々な売り物が床に広げられていた。その様子に感心する犬夜叉。
(そういえばこっちに来てからほとんど買い物したことなかったな……。)
基本的にこの村は自給自足の生活を営んでんる為お金を使うこともほとんどなかった。
そして商品を眺めていると犬夜叉はその中の一つに目を奪われる。
それは黒の熊の爪の形をした首飾りだった。
(かごめにあげたら…喜んでくれるかな……。)
犬夜叉は首飾りを手に取りながら考える。本当ならもっときれいなネックレスや服を買ってあげたいが現代に戻ることができない自分ではそれは叶わない。迷ったが犬夜叉は結局それを買うことにしたのだった。
そして家に戻る途中に犬夜叉は七宝と出くわした。
「犬夜叉、こんなところで何しとるんじゃ?」
なかなかかごめが帰ってこないことで不機嫌な様子の七宝が尋ねる。
「べ…別に…何でもいいだろ!」
そう言いながら犬夜叉は手に握っていた首飾りをとっさに隠す。しかしそれを七宝は見逃さなかった。
「なんで首飾りなんてもっとるんじゃ?」
「か…買ったんだよ…。」
かごめのために買ったのがばれるのが恥ずかしい犬夜叉は何とかごまかそうとする。しかし犬夜叉は既に言霊の念珠を首にかけている。七宝はそのことに気付き、
「そうか、きっとかごめは喜ぶぞ!」
そう犬夜叉に告げた。
「そ…そうか?」
犬夜叉は自信満々に言う七宝にたじろぐ。
「じゃあな、犬夜叉!」
七宝はあれがあれば犬夜叉とかごめはきっと仲直りできると思いご機嫌な様子でその場を離れて行った。
(どうやって渡すかな……)
家に戻った犬夜叉は首飾りを見詰めながらそんなことを考えていた。楓と珊瑚は出かけているのか家には姿がなかった。しばらくそのままくつろいでいると
「犬夜叉、おるか!?」
慌てた様子の楓が大きな声を上げながら家に戻ってきた。
「な…なんだよ楓ばあさん…。」
犬夜叉はいきなりのことに驚きながら起き上がる。楓は犬夜叉を見つけ一瞬安堵し、すぐに真剣な表情に戻る。
「倫太郎とまゆりが村からいなくなってしまったんじゃ。もしかすると森に入ってしまったのかもしれん。お主の鼻で二人を探してくれんか?珊瑚にも頼んでおるのだがやはり森の中では…。」
奈落が現れてから村の人間は一人では村の結界の外には出ないよう決められていた。もし子どもの二人が村から出ていてば妖怪に襲われてしまうかもしれない。
「分かった、すぐ行く!!」
状況を理解した犬夜叉は首飾りを懐にしまいすぐに家を飛び出していった。
「お兄ちゃん、やっぱり帰ろうよ。怒られちゃうよ…。」
森の中を進みながらまゆりが倫太郎に話しかける。
「大丈夫だって、妖怪が出ても俺がやっつけてやるよ!」
しかしそんなまゆりの言葉も気にせず倫太郎はさらに森の奥に進んでいく。
「お兄ちゃん…」
まゆりがその後を追おうとした時、二人の前に大きな鬼の様な妖怪が現れた。
(見つけたっ……!!)
二人の匂いを森の方向に感じた犬夜叉は森に向かって走り出す。そして犬夜叉は二人の近くに妖怪の匂いがあることにも気付く。
(頼む、間に合ってくれ…!!)
祈るようにそう考えながら犬夜叉は全速力で走り続けた。
「ま…まゆりから離れろっ!!」
まゆりを守るように前に出ながら倫太郎が鬼に向かって叫ぶ。しかしその足は恐怖で震えていた。
「お兄ちゃん……。」
まゆりは倫太郎の背中に縋りつきながらおびえ続ける。しかし鬼はそんな二人に向かってどんどん近づいてくる。そしてその爪が二人に振り下ろされた瞬間、二人は犬夜叉に抱きかかえながらその場から連れ出された。
「え……?」
いきなりの出来事に倫太郎は何が起こったのか分からなかった。
何とか二人を助けることができた犬夜叉だったが二人を抱えて庇うため鬼の爪をまともに背中に受けてしまう。
「ぐっ…!」
その衝撃で犬夜叉はそのまま地面に転がって行く。そしてその衝撃で懐の中の首飾りが壊れてしまった。しかしなおも鬼は犬夜叉に襲いかかってくる。犬夜叉は二人を地面に下ろし爪に力を込める。
「散魂鉄爪っ!」
犬夜叉の爪によって鬼は簡単に切り裂かれた。どうやら奈落の手のものではなかったようだ。
「あ…ありがとう…犬夜叉兄ちゃん…。」
怯えながらも倫太郎が犬夜叉にお礼を言う。しかし犬夜叉は自分の懐にある首飾りを取り出し見つめている。首飾りは壊れてしまっていた。
「その首飾り……。」
まゆりが罪悪感を感じながらその様子を見つめる。そのことに気付いた犬夜叉は
「気にするな。さあ、さっさと村に帰るぞ!」
そう言いながら二人と一緒に村に戻るのだった。
「ただいま、みんな。」
そう言いながらかごめが楓の家に入ってくる。
「かごめっ!!」
七宝が喜びのあまりかごめに抱きつく。
「心配しておったぞ、かごめ。」
「おかえり、かごめちゃん。」
楓と珊瑚もそんな様子の七宝を見ながらかごめに話しかける。
「ごめんね、勝手なことしちゃって……。」
かごめは罰が悪そうに皆に謝る。そしてすぐに犬夜叉が家にいないことに気付いた。
「あれ、犬夜叉は…?」
一番に謝ろうと思っていた犬夜叉がいないので肩すかしをくらったような気分になるかごめ。
「なんだまだ犬夜叉の奴、首飾りを渡しておらんのか。」
かごめの言葉に合わせて七宝はついそう言ってしまった。
「首飾り?」
「あ……。」
思わず口に手を当てる七宝だったが既に後の祭り。観念した七宝はかごめに事情を説明するのだった。
「はあ………。」
犬夜叉は御神木の前で座り込みながら大きなため息をつく。手には壊れてしまった首飾りが握られていた。もう一度同じものを買おうとした犬夜叉だったがすでに商人は村から出て行ってしまっていた。
これ以上悩んでいても仕方ない。気を取り直して家に戻ろうとした時
「犬夜叉?」
背中からかごめの声が聞こえた。
「か…かごめっ!?」
いきなり話しかけられたことで驚く犬夜叉。いつもなら匂いで気付くのだが首飾りに意識を集中しすぎていたのか気付くことができなかった。
「か…帰ってきたのか…。」
「うん……。」
そして二人の間に長い沈黙が続く。そして
「犬夜叉、あのね…」
かごめが話しかけようとした時
「…悪かったよ。」
そう犬夜叉がかごめに謝った。
「犬夜叉…?」
犬夜叉のほうから謝ってくるとは思っていなかったかごめは驚いたような声を上げる。
「珊瑚に言われたんだ…どうしてお前が怒ってたのか考えろって…。一緒に戦いたかったんだよな…それなのに…気付いてやれなくてごめん……。」
「犬夜叉……。」
かごめはそのまま犬夜叉の言葉を黙って聞き続ける。犬夜叉は話すのが恥ずかしいのか顔を赤面させていた。
「でも…かごめはかごめだろ…。お前にはいつも感謝してる……。その……ありがとう…。」
そう言った後、犬夜叉は恥ずかしさのあまり後ろを向いてしまう。
「私もいきなり怒鳴ったりしてごめん……。許してくれる…犬夜叉…?」
恐る恐るかごめが犬夜叉に尋ねる。犬夜叉は
「…当たり前だろ。」
そう答えるのだった。
二人はそれから他愛ない話をいくつかしそろそろ戻ろうということになった時
「犬夜叉、それ……。」
かごめは犬夜叉が何かを手に握ったままなことに気付いた。
「こ…これは……。」
犬夜叉は慌てて咄嗟にそれを後ろに隠す。かごめはそんな犬夜叉の様子を見て笑いながら
「見せて、犬夜叉…。」
そう犬夜叉に話しかける。犬夜叉は最初は渋っていたが観念したように壊れた首飾りをかごめに見せる。かごめはそんな犬夜叉を見て事情を察する。そしてそれを取り壊れた飾りに糸を通していく。
「これでよしと。」
かごめは糸を通し終わった壊れた首飾りをそのまま首にかける。しかしその首飾りはやはり不格好なものだった。
「かごめ……」
それを見ながら犬夜叉は言葉を発しようとするが
「いいの、犬夜叉が私に買ってくれたものなんだから。」
かごめはそう言いながら犬夜叉に微笑む。
犬夜叉はそんなかごめに何も言うことができない。そして二人はお互いを見つめ合う。そのまま段々と二人の距離が近づいていこうとした時
「かごめ、犬夜叉は見つかったか?」
七宝がそう言いながら二人のほうに向かって近づいてきた。
「「!?」」
二人は慌ててお互いに離れて行く。そんな二人に気付く七宝。
「暗くなってきたしそろそろ帰るか…!」
「そ…そうね…!」
そう言いながら二人は村に向かって並んで歩いていく。そんな二人を見ながら
(お…おらはとんでもないことをしてしまったのでは……。)
七宝は一人御神木の前で打ちひしがれる。だから七宝は気づかなかった。
並んで歩いている二人の手が繋がれていたことに……。