「め…。かごめったら!」
「え?何?」
考え事をしていたかごめは物憂げに返事をした。
「かごめ最近なんか元気がないよ。何かあったの?」
同級生のあゆみがかごめを心配そうに見つめる。。
「大丈夫よ。なんでもないから。」
そう言いながらもやはり元気がないかごめ。
「彼氏と喧嘩でもした?」
由加が冗談交じりにかごめに尋ねる。
「ううん。そんなんじゃない。ただちょっと会えないだけで…。」
そう答えたあとまた一人考え事を始めるかごめ。
(いつもなら彼氏なんかじゃないって否定するところなのに…。)
(よっぽど思いつめてるのね…。)
(恋ね! 恋なのね!)
三人はそれぞれ勝手に想像を膨らませていった。
かごめが戦国時代に行かなくなってから二週間が経とうとしていた。
いつも通り学校に通っているかごめだったがどこか上の空でいることが多かった。
(犬夜叉、ちゃんとごはん食べてるかな…、きちんと寝れてるといいけど…。)
かごめはいつかの犬夜叉の姿を思い出す。
(犬夜叉泣き虫だからまた一人で泣いてるかも…。)
心配が絶えないかごめだった。
学校から家に帰った後かごめは井戸の前で佇んでいた。
そして井戸に入ろうと身を乗り出し
既の所で思いとどまった。
(ダメよ私、犬夜叉と約束したじゃない! 一ヶ月後だって!)
まだあれから二週間しか経っていない。まだ半分だと思うとやり切れないかごめ。
(犬夜叉だって頑張ってるんだから。私も何かしないと…。)
そう考えながらかごめは家に戻って行った。
かごめは次の日から弓道部に仮入部し弓の練習に明け暮れるようになった。
そしてその腕前のためしつこく勧誘されるようになるとは思いもしないかごめだった。
「はぁっ!」
犬夜叉が殺生丸に飛びかかる。
何度も爪を振るうが全て紙一重で躱されていた。
殺生丸の爪が犬夜叉を引き裂く。
「ぐっ!」
吹き飛ばされ地面に這い蹲る犬夜叉。そして
「うっ…がっ…!」
妖怪化が始まる。
「りん、早く鉄砕牙を持っていくんじゃ!」
「うん!」
邪見の言葉に従いりんは犬夜叉に近づいていく。
「はい。犬夜叉様。」
りんが犬夜叉に鉄砕牙を握らせる。
すると妖怪化は収まり、犬夜叉はそのまま気絶してしまった。
これがここ二週間の犬夜叉の生活だった。
修行を始める前に殺生丸が言ったのはたった一言
「手取り足取り教えるつもりはない。かかってこい。」
それだけだった。
それから犬夜叉の地獄のような修行が始まった。
といっても内容は単純。犬夜叉が殺生丸に挑み殺生丸がそれに反撃する。ただそれだけだった。
殺生丸も一応手加減してくれているのか毒の爪を使うことはなかった。
しかしそれでも瀕死になると妖怪化してしまう事もあり、その際は先ほどのようにりんが鉄砕牙を持ってきてくれるのだった。
そして犬夜叉は鉄砕牙を使わず爪のみで挑んでいた。まだ鉄砕牙を使う段階ではないと考えたからだ。
「全く進歩のない奴ですな。」
邪見が悪態をつく。
邪見としては適わないと分かっている相手に挑み続ける犬夜叉が理解できなかった。
「貴様の目は節穴か、邪見。」
「は?」
そう言いながら殺生丸はその場を離れていく。
今の犬夜叉は並の妖怪では相手にならないほどの強さになりつつあった。
相手が殺生丸なので何も変わっていないと邪見は勘違いしていた。
戦い方を思い出している。そうとしか言えないほどの成長速度だった。
「うっ…。」
犬夜叉が目を覚ます。
「あ、犬夜叉様大丈夫?」
りんが心配そうに犬夜叉をのぞき込む。身体には手当をしてくれた跡があった。
本当にりんには頭が上がらない犬夜叉だった。
「やっぱり師匠は強いな…。」
そう呟く犬夜叉。
犬夜叉は殺生丸のことを師匠と呼ぶようになっていた。
呼び捨てになどできないし様付けをするのにも違和感があったからだ。
もっとも初めてそう呼んだときは殺生丸に睨まれてしまったが。
「ねぇ犬夜叉様。聞いてもいい?」
突然りんが犬夜叉に尋ねる。
「犬夜叉様はどうしてそんなに強くなりたいの?」
犬夜叉はそんな質問をされるとは思っておらず目を丸くする。
誤魔化そうかとも思ったが真剣な様子で答えを待っているりんを見て正直に話すことにした。
「…守りたい人がいるんだ。」
犬夜叉は呟くように答える。
「その人は俺なんかのために泣いてくれて、一緒に居てくれた。…でも俺が弱かったからその人を傷つけてしまった。だから」
真っ直ぐりんを見据えて
「俺はその人を守れるくらい強くなりたい。」
そう答えた。
「ふん…。」
影から聞いていた邪見がその場を離れていく。
(ちょとだけ認めてやるわい…。)
邪見はそう思った。
次の日の朝。
りんが殺生丸の元を訪れていた。
犬夜叉はまだ眠っているので今は殺生丸とりんの二人きりだった。
「殺生丸様、聞いてもいい?」
りんが殺生丸に話しかける。
殺生丸はりんに目を向ける。
肯定と受け取ったりんは
「殺生丸様はどうして強くなりたいの?」
そう尋ねた。
「何?」
予想外の質問だった為か殺生丸が聞き返す。
「昨日犬夜叉様に聞いたの。犬夜叉様は守りたい人がいるんだって。だから強くなりたいんだって。」
黙って聞き続ける殺生丸。
「殺生丸様は?」
その言葉に殺生丸の脳裏にある光景が蘇る。
雪が舞う海辺に二人の人影がある。
まだ幼さが残る殺生丸とその父親だった。
父親は満身創痍だった。
それは竜骨精との戦いで受けた傷だった。
そしてそんな身体のまま犬夜叉の母である十六夜を救うため最後の戦いに赴こうとしていた。
「行かれるのか…父上…。」
そんな父を見ながら殺生丸が背中越しに尋ねる。
「止めるか?殺生丸…。」
振り向くことなく父が応える。
「止めはしません。だがその前に牙を…叢雲牙と鉄砕牙をこの殺生丸に譲って頂きたい。」
そう殺生丸が頼む。
「渡さん…と言ったら…この父を殺すか?」
二人の間に緊張が走る。
「ふっ…それほどに力が欲しいか…。なぜお前は力を求める?」
父が殺生丸に問う。
「我、進むべき道は覇道。力こそその道を開く術なり。」
迷いなく殺生丸が答える。
「覇道…か…。」
しばらくの間のあと
「殺生丸よ…お前に守るものはあるか?」
そう父は問う。
「守るもの…?」
言葉の意味が分らない殺生丸は
「そのようなもの…この殺生丸に必要ない。」
そう切って捨てた。
殺生丸はりんの問いに答えることができなかった。
「よろしくお願いします。師匠。」
そう言いながら犬夜叉が向かってくる。
殺生丸はそんな犬夜叉を見ながら父の問いの意味を考えるのだった。